説明

ディスクブレーキパッド用バックプレート及び、そのバックプレートを用いたディスクブレーキパッド

【課題】自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、鋼製のバックプレート及びそのバックプレートを用いたディスクブレーキパッドであって、摩擦材とバックプレートの接着強度を向上できるバックプレート、及び、そのバックプレートに摩擦材を接着した、充分な接着強度を有するディスクブレーキパッドを提供する。
【解決手段】ディスクブレーキパッド1用の鋼製のバックプレート2として、摩擦材を接着する面にガス窒化法またはガス軟窒化法により形成した深さ5μm〜20μmの化合物層と、前記化合物層の表層側に前記化合物層の深さの40%以上の厚みのポーラス層を有すると共に、表層に形成される酸化物層の厚さが1μm以下であるバックプレート2を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、鋼製のバックプレート及び、そのバックプレートに摩擦材を接着したディスクブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディスクブレーキに使用されているディスクブレーキパッドは、バックプレートと呼ばれる自動車構造用熱間圧延鋼板などの鋼材からなるベース部材に、繊維基材、結合材、摩擦調整材からなる摩擦材を、接着剤や摩擦材に含まれる結合材により接着したものである。
【0003】
ディスクブレーキは、車輪と共に回転するディスクローターを挟むようにディスクブレーキパッドが配置されており、そのディスクブレーキパッドをディスクローターに押圧して摩擦させることにより制動力を得ている。
【0004】
このときにディスクブレーキパッドの摩擦材とバックプレートの間には大きなせん断力が加わるため、摩擦材とバックプレートとの間には、そのせん断力に耐え得る接着強度が必要とされている。
【0005】
摩擦材とバックプレートの接着強度を向上させるため、バックプレートの表面に微細な凹凸を持つポーラス層を形成させる方法が知られている。
バックプレートの表面に微細な凹凸を持つポーラス層があると、接着剤や、摩擦材に含まれる結合材が凹凸に入り込み、そのアンカー効果により摩擦材とバックプレートの接着強度が向上する。
【0006】
摩擦材を接着する前のバックプレートの表面に施される前処理として窒化処理法または軟窒化処理法が採用されている。
【0007】
窒化処理または軟窒化処理は通常、金属材料表面の耐磨耗性、耐疲労性、耐腐食性、耐熱性を向上させるために実施されるものであり、材料の表面は平滑に仕上げられることが一般的である。
【0008】
しかし、当該技術分野において窒化処理または軟窒化処理は、バックプレートの表面に微細な凹凸を持つポーラス層を有する化合物層を形成する手段として採用されており、その目的、効果ともに一般的な他の技術分野と比べて特異である。
【0009】
特公昭53−47218号公報(特許文献1)には、鉄系材料からなるバックプレートの表面に、表面粗さが5〜50μmのこぶ状ないし網目状の微細な突起をもった表面状態を呈するFe−C−N系を主体とする化合物層が層厚5μm以上形成し、該化合物層表面に接着剤を介して摩擦材を接着することにより、摩擦材とバックプレートの間の接着力を高めたディスクブレーキパッドが記載されている。
【0010】
このようなバックプレートのこぶ状ないし網目状の微細な突起を持った表面を有する化合物層は、アンモニアガスを使用したガス軟窒化法、ガス軟窒化法や、シアン化合物を使用した塩浴窒化法、塩浴軟窒化法により形成することができる。
【0011】
特開2007−64431号公報(特許文献2)には、バックプレートをショットブラストにより粗面にした後、軟窒化皮膜処理を施すディスクブレーキパッドの製造方法が記載されている。
【0012】
しかし、塩浴窒化法、塩浴軟窒化法はシアン化合物を使用するため、環境面の観点から好ましくないという問題があり、また、ガス窒化法やガス軟窒化法では、充分な厚みのポーラス層を形成することができないため、近年の自動車の高出力化により高まってきている接着強度に関する要求性能を満たせなくなってきている。
【0013】
また、ショットブラスト処理は、表面を粗面化すること及び、窒化処理または軟窒化処理による化合物層の形成を阻害する酸化物層を除去することを目的として実施されるが、同時にバックプレートの端部にバリが形成されるという問題がある。このバリは、ブレーキの振動特性に悪影響を与えるため除去する必要があり、その工程を設けなければならないため非効率である。
【0014】
一方で、金属材料の窒化処理法として、特開平3−44457号公報(特許文献3)のような、金属材料の表面に存在する酸化膜をフッ素系ガスによりフッ化膜に置換し、金属材料の表面を活性化させる活性化処理を行った後、アンモニアガスにより、金属材料の表面に化合物層を形成する窒化処理法が知られている。
【0015】
特許文献3に記載の窒化処理法は、ショットブラスト処理などの金属材料の表面を変形させるような方法を使用することなく金属材料の表面に存在する酸化膜を除去することが可能なため、緻密で平滑な化合物層表面を得る必要がある技術分野において広く使用されている。
【0016】
しかし、特許文献3に記載の窒化処理法は、摩擦材とバックプレートのせん断強度を得るためにバックプレートの表面に微細な凹凸を持つポーラス層を有する化合物層を形成させる必要がある当該技術分野においては、これまで着目されることがなく、技術的な検討が一切なされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特公昭53−47218号公報
【特許文献2】特開2007−64431号公報
【特許文献3】特開平3−44457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、鋼製のバックプレート及び、そのバックプレートを用いたディスクブレーキパッドであって、摩擦材とバックプレートの接着強度を向上できるバックプレート及び、そのバックプレートに摩擦材を接着した、充分な接着強度を有するディスクブレーキパッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
摩擦材とバックプレートの接着強度をより向上させるためには、充分な厚みを持つポーラス層を有する化合物層を形成したバックプレートを用いる必要がある。
【0020】
本発明者らは、前述したように、当該技術分野では技術的な検討が一切なされていなかった、金属材料の表面に存在する酸化膜をフッ素系ガスによりフッ化膜に置換し、金属材料の表面を活性化させる活性化処理を行った後、アンモニアガスにより、金属材料の表面に化合物層を形成する窒化処理法に着目し、鋭意検討を行った。
【0021】
バックプレートとして使用されるSAPH400、SAPH440等の自動車構造用熱間圧延鋼板、SPFH590等の自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板において、フッ素ガスによる活性化処理は通常、その表面を平滑に仕上げるため150〜350℃の処理温度で実施されている。
【0022】
しかし、この処理温度を通常の温度よりも高くすると、バックプレート表面の酸化膜だけではなく、酸化膜の下にあるバックプレートの鉄素地もフッ化され、その状態で、ガス窒化処理またはガス軟窒化処理を施すと、驚くべきことに従来の当該技術分野で実施されていたガス窒化法、ガス軟窒化法では得られなかった、充分な厚みを持つポーラス層を有する化合物層を形成したバックプレートを製作することが可能となった。そのバックプレートに摩擦材を接着したディスクブレーキパッドは接着強度が飛躍的に向上することを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0023】
また、バックプレートのガス窒化処理またはガス軟窒化処理の後に実施する冷却工程を、ガス窒化処理工程またはガス軟窒化工程と連続して非酸化性ガス雰囲気下で行うことにより、接着剤の密着性を阻害する原因となる酸化膜の再形成を抑制することができ、接着強度がより向上することをさらに知見した。
【0024】
本発明は、自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、自動車構造用熱間圧延鋼板製等のバックプレート及び、そのバックプレートを用いたディスクブレーキパッドに関し、摩擦材とバックプレートの接着強度を向上できるバックプレート及び、そのバックプレートに摩擦材を貼り付けた、充分な接着強度を有するディスクブレーキパッドであり、以下の技術を基礎とするものである。
【0025】
(1)ディスクブレーキパッド用の鋼製のバックプレートにおいて、摩擦材を接着する面にガス窒化法またはガス軟窒化法により形成された深さ5μm〜20μmの化合物層を有し、かつ、前記化合物層は表層側に前記化合物層の深さの40%以上の厚みのポーラス層を有することを特徴とするバックプレート。
【0026】
(2)摩擦材を接着する面の表層に形成される酸化物層の厚さが1μm以下であることを特徴とする(1)に記載のバックプレート。
【0027】
(3)(1)または(2)に記載のバックプレートに、摩擦材を接着してなるディスクブレーキパッド。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、摩擦材とバックプレートの接着強度を向上できる表面処理を施したバックプレートと、充分な接着強度を有するディスクブレーキパッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明のディスクブレーキパッドの一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明のバックプレートの表面処理工程を示す図である。
【図3】図3は、従来のバックプレートの表面処理工程を示す図である。
【図4】図4は、本発明のディスクブレーキパッドの製造工程の一例を示す図である。
【図5】図5は、実施例4のバックプレート断面の3000倍の観察画像である。
【図6】図6は、実施例4のバックプレート表面の1000倍の観察画像である。
【図7】図7は、実施例4のバックプレート表面の10000倍の観察画像である。
【図8】図8は、比較例3のバックプレート断面の3000倍の観察画像である。
【図9】図9は、比較例3のバックプレート表面の1000倍の観察画像である。
【図10】図10は、比較例3のバックプレート表面の10000倍の観察画像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(1)ディスクブレーキパッド
図1に示すように、ディスクブレーキパッドはバックプレートと摩擦材を接着剤等により接着してなる。
【0031】
(1−1)バックプレート
バックプレートは、SAPH440等の自動車構造用熱間圧延鋼板やSPFH590等の自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板を板金プレス加工で以って成形したものである。
【0032】
バックプレートの摩擦材を接着する面には、ガス窒化法またはガス軟窒化法により深さ5μm〜20μmの化合物層が形成されており、前記化合物層は表層側に前記化合物層の深さの40%以上の厚みのポーラス層を有する。
【0033】
化合物層の深さが5μm〜20μmであり、ポーラス層の厚みが化合物層の深さの40%以上であるバックプレートを使用すれば、摩擦材とバックプレートの接着強度が向上する。接着強度をより向上させるため、ポーラス層の厚みが化合物層の深さの50%以上90%以下であるバックプレートを使用するのが好ましく、ポーラス層の厚みが化合物層の深さの60%以上80%以下であるバックプレートを使用するのがより好ましい。
【0034】
また、バックプレートの摩擦材を接着する面の表層に形成される酸化物層の厚みが大きすぎると、接着強度が低下するため、摩擦材を接着する面の表層に形成される酸化物層の厚さが1μm以下のバックプレートを使用するのが更に好ましい。
【0035】
このようなバックプレートは、以下に説明する表面処理を施すことにより得ることができる。
【0036】
(1−1)バックプレートの表面処理
(1−1−1)活性化処理
活性化処理工程は、フッ素系ガスを含む雰囲気にバックプレートを投入して、バックプレート表面に形成している酸化膜及び酸化膜の下にあるバックプレートの鉄素地をフッ化させ、フッ化膜を形成させる。
【0037】
活性化処理に使用するフッ素系ガスとしては、酸化膜を形成している母材成分であるFeに対して酸素よりも親和性が強いハロゲン系物質であるフッ素系ガス(フッ素化合物ガスまたはフッ素ガスを含有するガス)が用いられる。このフッ素系ガスとしては、フッ素化合物、例えばNF、BF、CF、SFなどを主成分とするガスやF2を主成分とするガスがあげられる。
【0038】
通常は、この主成分ガスを窒素ガスなどの希釈ガスで希釈してフッ素系ガスとして使用する。これらのフッ素系ガスに用いられる主成分ガスのうち、反応性、取り扱い性などの面でNFが最も優れており、実用的である。
【0039】
上記フッ素系ガス雰囲気でバックプレートを、例えばNFを含むフッ素系ガス雰囲気中で保持する。このときの処理温度を350〜450℃の範囲、好ましくは400〜450℃の範囲とすることにより、窒化処理または軟窒化処理後に必要充分な凹凸を持つポーラス層を形成し得るフッ化膜の層を形成させることができる。
【0040】
なお、活性化処理の時間については処理を行なうバックプレートの材質に応じて、表面の酸化膜及び酸化膜下のバックプレートの鉄素地がフッ化する適当な条件を設定するが、通常は10〜180分の範囲である。
【0041】
また、フッ素系ガス雰囲気のフッ素化合物またはフッ素の濃度は、1000〜100000ppmとするのが好ましい。
【0042】
(1−1−2)ガス窒化処理またはガス軟窒化処理
上述した活性化処理工程に引き続き実施されるガス窒化処理については、窒素源ガスとしてアンモニアガスを含む雰囲気中で、処理温度300〜600℃、好ましくは400〜600℃の範囲、処理時間30分〜60分で実施する。
ガス軟窒化処理の場合は、窒素源ガスとしてのアンモニアガスと浸炭性ガスの混合ガスを使用する。
【0043】
(1−1−3)冷却工程
上述したガス窒化処理工程と連続して実施される冷却工程については、非酸化性ガス雰囲気下で行われる。非酸化性ガスとしてはアンモニアガス、窒素ガスなどが使用できる。冷却工程は、ガス窒化処理工程またはガス軟窒化処理工程の処理炉で行えば、別の処理炉に移動させる工程を省くことができ、効率的である。
【0044】
(1−2)摩擦材
摩擦材は、金属繊維、有機繊維と、無機繊維などの繊維基材、熱硬化性樹脂などの結合材と、有機充填材、無機充填材、潤滑剤などの摩擦調整材とを含んでなる。
【0045】
繊維基材としては、スチール繊維、銅繊維等の金属繊維、アラミド繊維、アクリル繊維等の有機繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維、セラミック繊維、ロックウール等の無機繊維が挙げられ、これらを単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
結合材としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、これらの熱硬化性樹脂をカシューオイル、シリコーンオイル、各種エラストマー等で変性した樹脂、これらの熱硬化性樹脂に各種エラストマー、フッ素ポリマー等を分散させた樹脂等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
摩擦調整材としては、カシューダスト、ゴムダスト(タイヤトレッドゴムの粉砕粉)、未加硫の各種ゴム粒子、加硫された各種ゴム粒子等の有機充填材、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ等の無機充填材、グラファイト、二硫化モリブデン、硫化錫、硫化亜鉛、硫化鉄等の潤滑剤が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0048】
(1−3)ディスクブレーキパッドの製造方法
本発明のディスクブレーキパッドは、上記の表面処理方法で表面処理したバックプレートに、摩擦材を接着したものである。
【0049】
本発明のディスクブレーキパッドは、所定量配合した上記繊維基材、結合材、摩擦調整材を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、上記の表面処理方法で表面処理し、必要に応じて接着剤を塗布したバックプレートと、混合工程で得られた摩擦材原料混合物とを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成形する加熱加圧成形工程、得られた成形品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、摩擦面を形成する研磨処理工程を経て製造される。
【0050】
必要に応じて、加熱加圧成形工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物または造粒工程で得られた造粒物を予備成形型に投入し、予備成形物を成形する予備成形工程が実施され、加熱加圧成形工程の後に、塗装、塗装焼き付け工程、スコーチ工程が実施される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき、本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0052】
<実施例1〜5及び比較例1〜3>
表1に示す条件で、バックプレートの表面処理を行った。各実施例、比較例の具体的な表面処理方法は、以下に詳述する。
【0053】
【表1】

【0054】
〈実施例1のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、雰囲気温度350℃に保持された炉内に投入し、NFガスを炉内に導入し30分間保持して活性化処理を行った。
その後、570℃に昇温した後、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。更に、冷却室に移動させ、室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0055】
〈実施例2のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、雰囲気温度400℃に保持された炉内に投入し、NFガスを炉内に導入し30分間保持して活性化処理を行った。
その後、570℃に昇温した後、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。更に、冷却室に移動させ、室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0056】
〈実施例3のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、雰囲気温度450℃に保持された炉内に投入し、NFガスを炉内に導入し30分間保持して活性化処理を行った。
その後、570℃に昇温した後、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。更に、冷却室に移動させ、室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0057】
〈実施例4のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、雰囲気温度400℃に保持された炉内に投入し、NFガスを炉内に導入し30分間保持して活性化処理を行った。
その後、570℃に昇温した後、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。更に、そのままアンモニアガスを充満させた炉内で室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0058】
〈実施例5のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、雰囲気温度350℃に保持された炉内に投入し、NFガスを炉内に導入し30分間保持して活性化処理を行った。
その後、570℃に昇温した後、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。更に、冷却室に移動させ、窒素ガスを導入して室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0059】
〈比較例1のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、雰囲気温度300℃に保持された炉内に投入し、NFガスを炉内に導入し30分間保持して活性化処理を行った。
その後、570℃に昇温した後、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。更に、冷却室に移動させ、室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0060】
〈比較例2のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、雰囲気温度500℃に保持された炉内に投入し、NFガスを炉内に導入し30分間保持して活性化処理を行った。
その後、570℃に昇温した後、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。更に、冷却室に移動させ、室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0061】
〈比較例3のバックプレート〉
洗浄処理したSAPH440からなるバックプレートを、570℃に保持された炉内に投入し、アンモニアガスを炉内に導入し30分間保持して窒化処理を行った。
さらに、冷却室に移動させ、室温まで冷却させ、表面処理されたバックプレートを得た。
【0062】
〈実施例1〜5、比較例1〜3のディスクブレーキパッドの製造方法〉
表2に示す組成の摩擦材原料を混合機で5分間混合し、得られた摩擦材原料混合物を、予備成形金型で10MPaにて1分加圧して予備成形を行った。
この予備成形物と、接着剤を塗布した実施例1〜5、比較例1〜2のバックプレートを重ねて熱成形金型に投入し、成形温度150℃、成形圧力40MPaの条件下で10分間成形した。
その後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、研磨して実施例1〜5、比較例1〜2のディスクブレーキパッドを作製した。
【0063】
【表2】

【0064】
〈接着強度の評価〉
摩擦材とバックプレートの接着強度は、JIS D4422(自動車部品―ブレーキシューアッセンブリ及びディスクブレーキパッド―せん断試験方法)に準拠し、ディスクブレーキパッドを300℃の雰囲気で36時間保持した後、せん断試験を行い、バックプレート上に残存する摩擦材の残存率を用いて評価した。評価基準は表3のとおりである。評価結果は表1に併記してある。
【0065】
【表3】



【0066】
〈バックプレート断面および表面の観察〉
電子顕微鏡を用いて実施例4と比較例3のバックプレートの断面を3000倍の倍率で、バックプレートの表面を1000倍、10000倍の倍率で観察した。それぞれの観察画像を図5〜図10に示す。
【0067】
実施例4のバックプレートの断面の観察画像である図5と、比較例のバックプレートの断面の観察画像である図8を比較すると、比較例3よりも実施例4のポーラス層がより深く形成されていることが分かる。
【0068】
実施例4のバックプレートに形成された化合物層の深さは約13μm、ポーラス層の厚さは約8μmであり、ポーラス層の厚みは化合物層の深さの約61%である。
【0069】
比較例3のバックプレートに形成された化合物層の厚さは約13μm、ポーラス層の厚さは約5μmであり、ポーラス層の厚みは化合物層の深さの約38%である。
【0070】
また、実施例4のバックプレートの表面の観察画像である図6、図7と、比較例3のバックプレートの観察画像である図9、図10を比較すると、比較例3よりも実施例4の凹凸パターンがより緻密で複雑な皺状を呈していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、鋼製のバックプレートにおいて、摩擦材とバックプレートの接着強度を向上させることができ、
充分な接着強度を有するディスクブレーキパッドを得ることができ、自動車工業のさらなる発展に寄与するものである。
【符号の説明】
【0072】
1 ディスクブレーキパッド
2 バックプレート
3 摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッド用の鋼製のバックプレートにおいて、摩擦材を接着する面にガス窒化法またはガス軟窒化法により形成された深さ5μm〜20μmの化合物層を有し、かつ、前記化合物層は表層側に前記化合物層の深さの40%以上の厚みのポーラス層を有することを特徴とするバックプレート。
【請求項2】
摩擦材を接着する面の表層に形成される酸化物層の厚さが1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のバックプレート。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバックプレートに、摩擦材を接着してなるディスクブレーキパッド。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−251216(P2012−251216A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125048(P2011−125048)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(309014573)日清紡ブレーキ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】