説明

α−1,4−グルカンを物性及び食感の改良剤、及びこれを含有する飲食物

【課題】
従来の澱粉から精製したアミロースやアミロース高含有澱粉では解決できなかった工業的利便性を改善し、飲食物の物性又は食感を改良することを目的とする。
【解決手段】
グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを物性又は食感改良剤と用いるが、飲食物製造工程中のいかなる段階に添加しても、その効果を発揮することができる。使用濃度は、飲食物の種類や添加方法によって適宜選択され得るが、通常0.001%から10%の範囲が適当である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素合成α−1,4−グルカンを物性及び食感の改良剤、及びこれを含有する飲食物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品、特に澱粉系食品の物性及び食感を改良する方法が多く検討され、小麦蛋白質のアルコール水溶液抽出残物を添加する方法(特開平7−289187)や、ルチンを添加する方法(特開平8−23892)などが知られている。近年、高アミロース含有澱粉と架橋処理又は湿熱処理した化工澱粉を添加する方法(特開2000−63401)やイネ科植物から抽出されたβグルカンを添加する方法(特開2002−306094)など、アミロースによる食品の物性及び食感改良が注目されるようになっている。
【0003】
天然の澱粉からアミロースを得る方法はいくつか公知である。たとえば、天然澱粉に、α−1,6−グルコシド結合のみを特異的に切断する酵素(例えば、イソアミラーゼまたはプルラナーゼ;これらは、枝切り酵素として既知として既知である)を作用させて分岐部分を分解することにより、アミロースを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。また澱粉糊液からアミロース/ブタノール複合体を沈殿させてアミロースのみを分離する方法がある。
【0004】
しかしこのようにして天然の澱粉から得られたアミロースには、次のような問題点が指摘されている:
(a)天然澱粉に含まれるアミロースは、通常、分散度(Mw/Mn)が1.3以上と広い。これらのアミロースには、(i)結晶化度が高く、水に溶けにくい低分子量アミロース、(ii)結合力の高い高分子量アミロース、および(iii)その中間の分子量の、膨潤しやすいアミロースが混在する。そのため、これらの種々の分子量のアミロースは、互いに阻害しあい、分子量の異なる他のアミロースが有する優れた特性を打ち消してしまう。
(b)天然澱粉に含まれるアミロースの分子量は、通常、数十kDaから数百kDaであり、水溶性が期待できない;ならびに
(c)天然澱粉からのアミロースの分離は、操作が煩雑で、収率も低く、工業的製法になり得ない。
(d)得ることができても、水に溶かすには100℃を超える加熱が必要で、工業的利用にも制限がある。
以上のような理由で、天然澱粉から得られたアミロースの食品への応用は進展しなかったものと思われる。
【0005】
酵素の作用によりグルコース残基を連結してα−1,4−グルカンを合成する方法(酵素合成法)は、いくつか公知である。
【0006】
一例として、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある(以降、AMSU法と略す)。AMSU法で得られるα−1,4−グルカンは低重合度である。高度に精製されたアミロスクラーゼを用いて製造されるα−1,4−グルカンであっても、分子量は8,941Daであると報告されている(Montalkら、FEBS Letters 471、第219〜223頁(2000年);非特許文献1)。このような低重合度のα−1,4−グルカンでは水への溶解性が期待できない。
【0007】
酵素合成の別の方法として、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼという)を用いる方法がある。このような方法には、ホスホリラーゼのみを基質(グルコース−1−リン酸)に作用させてそのグルコシル基をプライマー(例えば、マルトヘプタオース)に転移する方法(GP法と呼ばれる)およびホスホリラーゼに加えてスクロースホスホリラーゼを用いることによってスクロースからG−1−Pを合成してこのG−1−Pのグルコシル基をプライマーに転移する方法(SP−GP法と呼ばれる)がある(例えば、国際公開第WO02/097107号パンフレット(特許文献5)を参照のこと)。
【0008】
しかし、このパンフレットに記載されたアミロースを使用することは当業者に容易ではない。なぜなら、本パンフレットで用いているα−1,4−グルカンは、一般に市販されておらず、評価実験を行うこと自体が容易ではないためである。評価実験を行おうとするものは、自ら酵素を製造し、その酵素を用いてα−1,4−グルカンを製造しなくてはならない。その後ようやく、食品への応用を評価することが可能となる。なお、上述パンフレットの発明の実施の手順は煩雑であるが、上述パンフレットの発明を実施するに充分な記載が上記パンフレットにあることはいうまでもない。
以上のような理由で、酵素合成で得られたα−1,4−グルカンの食品への応用は進展しなかったものと思われる。
【特許文献1】特開平7−289187公報
【特許文献2】特開平8−23892公報
【特許文献3】特開2000−63401公報
【特許文献4】特開2002−306094公報
【特許文献5】国際公開第WO02/097107号パンフレット(第127頁−第134頁)
【非特許文献1】Montalkら、FEBS Letters 471、2000年、第219〜 223頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の澱粉から精製したアミロースやアミロース高含有澱粉、または酵素合成法では解決できなかった次の3点である。すなわち、1)アミロースの純度の低さ、2)水に溶解させるための高温加熱の必要性、3)工業的利便性を改善することであり、これらにより、食品利用性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討し、室温の水に易溶で、工業的に利用可能な酵素合成α−1,4−グルカンを用いることを最も主要な特徴とする本発明に至った。
本発明に用いるα−1,4−グルカンは、グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを有効成分とする。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンの重合度が180以上37000未満であり得る。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンの重合度が180以上37000未満であり、分散度が1.25以下であり得る。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンが修飾物を含有するものであり、その修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾であり得る。
【発明の効果】
【0011】
α−1,4−グルカンを食品に添加することによって、良好な物性や食感を持った飲食物を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(用語の定義)
(分散度Mw/Mn)
高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれかであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分子量分布Mw/Mnが用いられている。分子量分布Mw/Mnは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)で表わされる。分子量分布は、その高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量の分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。なお、この「分子量分布」は「分散度」と言われることもあり、これら「分子量分布」「分散度」は、本明細書においては同義語である。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量を指す。
【0013】
(α−1,4−グルカン)
用語「α−1,4−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。ただし、本明細書において、α−1,4−グルカンは、グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)により酵素的に合成された、α−1,4−グルカンを意味し、植物デンプン中に存在するアミロースやデンプンを酵素的に分解して製造されるα−1,4−グルカンは含まない。α−1,4−グルカンは、直鎖状の分子である。α−1,4−グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α−1,4−グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量をグルコース単位の分子量162で割ることによって算出される。
【0014】
本発明者らは上記の問題点に鑑み、従来の澱粉から精製したアミロースやアミロース高含有澱粉、または酵素合成法では解決できなかった、1)アミロースの純度が低さ、2)水に溶解させるための高温加熱の必要性、3)工業的利便性を改善し、食品利用性を向上させ、本発明を完成した。
α−1,4−グルカンは、当該分野で公知の方法によって作製することができる。酵素合成法の例としては、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼという)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0015】
ホスホリラーゼを用いた酵素合成法の一例は、ホスホリラーゼを作用させて、基質であるグルコース−1−リン酸(以降、G−1−Pという)のグルコシル基を、プライマーとして用いられる例えばマルトヘプタオースに転移する方法(以降、GP法という)である。GP法は、原料であるG−1−Pが高価であるため、α−1,4−グルカンを工業的に生産するのにはコストがかかるが、糖単位をα−1,4−グルコシド結合のみで逐次結合させることにより100%直鎖のα−1,4−グルカンが得られるという顕著な利点がある。GP法は、当該分野で公知である。
【0016】
ホスホリラーゼを用いた酵素合成法の別の例は、スクロ−スを基質とし、例えば、マルトオリゴ糖をプライマーとして用い、これらに無機リン酸の存在下でスクロースホスホリラーゼ(sucrose phosphorylase、EC 2.4.1.7)とグルカンホスホリラーゼとを同時に作用させることによってα−1,4−グルカンを酵素合成する方法(以降、SP−GP法という)である。SP−GP法は、GP法と同様100%直鎖のα−1,4−グルカンの分子量を自由に制御して製造できることに加え、安価なスクロ−スを原料とすることで、製造コストをより低くできるという利点を有する。SP−GP法は当該分野で公知である。SP−GP法の効率的な生産方法は、例えば、国際公開第WO02/097107号パンフレットに記載される。本発明で用いられる高分子量のα−1,4−グルカンは、このパンフレットに記載される方法に従って製造され得る。
【0017】
なお「プライマー」とは、グルカン合成の出発材料として機能する物質をいう。このようなプライマーとしてオリゴ糖を用いることができる。プライマーとして、マルゴオリゴ糖、例えばマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、またはアミロース(α−1,4−グルカン)などを用いるのが好ましい。プライマーとして、単一化合物を用いてもよく、2種以上の化合物の混合物を用いてもよい。
【0018】
上記GP法および/またはSP−GP法を採用して酵素合成されたα−1,4−グルカンは次のような特徴を有する:
(1)分子量分布が狭い(Mw/Mnが1.1以下);
(2)製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)のものが得られる;
(3)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロ−スに認められるわずかな分岐構造がない;
(4)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α−1,4−グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで生体に対して毒性がない;および
(5)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である。
GP法および/またはSP−GP法により酵素合成された高分子量α−1,4−グルカンは、上記特徴により、本発明において好ましく用いられる。
【0019】
これらのα−1,4−グルカンは、修飾物であってもよく、非修飾物であってもよい。ここで「修飾物」とは、対象物に対して化学的に修飾を施すことによって得られるものをいう。このような修飾の例としては、エステル化、エ−テル化および架橋が挙げられる。
エステル化は、例えば、α−1,4−グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステルが得られる。
エ−テル化は、例えば、α−1,4−グルカンを、アルカリ存在下でエ−テル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエ−テル化によって、例えば、カルボキシメチルエ−テル、ヒドロキシプロピルエ−テル、ヒドロキシメチルエ−テル、メチルエ−テル、エチルエ−テルが得られる。
架橋は、例えば、α−1,4−グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエ−テル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
このような化学修飾を単独であるいは組み合わせて施すことにより、α−1,4−グルカンの親水性、疎水性、水に対する溶解性、粘度などを変化させることができる。目的とする食品の特性に応じてこれらの化学修飾したα−1,4−グルカンを選択することができる。
【0020】
本発明で用いるα−1,4−グルカン類の平均重合度は、180以上37000未満であることが好ましい。平均重合度が180以下では、室温の水での溶解性が期待できない。また、平均重合度が37000以上のα−1,4−グルカン類は、酵素合成が困難であり、実現の可能性に乏しい。
α−1,4−グルカン類の分子量分布が広い場合には水に可溶性と不溶性のα−1,4−グルカン類が混在してしまうが、分散度が1.25以下であるα−1,4−グルカン類の場合には、水に可溶性のα−1,4−グルカン類のみを添加することができるため、食品には使用しやすいものになる。さらに、本発明においては、異なる重合度のα−1,4−グルカン類2種以上を混合して用いることも可能である。混合して用いることにより、目的とする食品に適した物性や食感を付与することが出来る。
【0021】
本発明に用いるα−1,4−グルカンは、ほとんど全ての飲食用組成物または食品添加物用組成物に使用することが可能である。この飲食用組成物とは、ヒトの食品、動物あるいは養魚用の飼料、ペットフードを総称するものである。すなわち、コーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、ジュース、加工乳、生乳、牛乳、豆乳、ニアウォーター、スポーツドリンク、野菜ジュース、青汁、栄養ドリンク、薬酒などの液体および粉末の飲料類、パン、クッキー、クラッカー、ビスケット、ケーキ、ピザ、パイ等のベーカリー類、スパゲティー、マカロニ等のパスタ類、うどん、そば、ラーメン等の麺類、キャラメル、ガム、チョコレート等の菓子類、おかき、ポテトチップス、スナック等のスナック菓子類、アイスクリーム、シャーベット等の冷菓類、クリーム、チーズ、粉乳、練乳、乳飲料等の乳製品、ゼリー、プリン、ムース、ヨーグルト等の洋菓子類、饅頭、ういろ、もち、おはぎ等の和菓子類、醤油、たれ、麺類のつゆ、ソース、だしの素、シチューの素、スープの素、複合調味料、カレーの素、マヨネーズ、ケチャップ等の調味料類、カレー、シチュー、スープ、どんぶり等のレトルトもしくはいわしの煮付け、さばの煮付け、シーチキン、焼き肉等の缶詰食品、ハム、ハンバーグ、ミートボール、コロッケ、餃子、ピラフ、おにぎり等の冷凍食品および冷蔵食品、ちくわ、蒲鉾などの水産加工食品、納豆、漬物、味噌等の醗酵食品、弁当のご飯、寿司等の米飯類、生薬、漢方薬にも効果的に利用できる。さらに、カルシウムの吸収の高さを利用して、乳児用ミルク、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、スポーツ食品、栄養補助食品、健康食品、高齢者用食品等に使用し得る。
以下に高分子量のα−1,4−グルカンを添加した飲食用組成物、または食品添加物用組成物としての物性や食感の改善効果についての実施例を示す。
【実施例1】
【0022】
(麺類の調整)
小麦粉(中力粉)95重量部、食塩3重量部、分子量1000kDaのα−1,4−グルカン5重量部に、
水40重量部を加え、20分間混合した。この混合生地を温度30℃、湿度80%のホイロ(戸倉工業:TOKTROL-Parte)で30分ねかした後、折りたたんで4回圧延し、4mm角に切断して試験うどんを得た。
対照として、α−1,4−グルカンの替わりに、小麦粉(中力粉)5重量部とした。両うどんを沸騰水中で10分間茹で、水切りした後、官能評価を実施した。その結果、α−1,4−グルカンを添加したうどんは、無添加うどんよりコシが出て、弾力性も加わり、食感改良効果が認められた。
【実施例2】
【0023】
(餃子皮の調整)
小麦粉(中力粉)95重量部、食塩0.5重量部、分子量1000kDaのα−1,4−グルカン5重量部に、水34重量部を加え、8分間混合し、最終厚み0.7mmまで圧延して、直径85mmに打ち抜いて試験餃子皮を得た。対照として、α−1,4−グルカンの替わりに、小麦粉(中力粉)5重量部とした。得られた両餃子皮を用い、常法で調理して、焼き餃子を得て、官能評価を実施した。その結果、α−1,4−グルカンを添加した皮で調理した餃子は、無添加の餃子より、サクサクした軽い食感となり、硬さもなく、良好な結果が得られた。
【実施例3】
【0024】
(かき揚げ衣の調整)
小麦粉(薄力粉)95重量部、分子量1000kDaのα−1,4−グルカン5重量部に、水150部を加えて
混合し、試験バッター液(衣液)を得た。対照として、α−1,4−グルカンの替わりに、小麦粉(中力粉)5重量部とした。両バッター液(衣液)と、ニンジン及び玉ねぎを厚さ2mm、長さ40mmにスライスした具材を混ぜたものを、円形型枠に流し入れ、途中で1回反転をし、合計2分15秒間フライして、かき揚げを得た。両かき揚げを官能評価した結果、α−1,4−グルカンを添加したかき揚げは、無添加のかき揚げより、サクサクした軽い食感となり、良好な結果が得られた。
【実施例4】
【0025】
(ダンゴの調整)
上新粉95重量部、分子量1000kDaのα−1,4−グルカン5重量部に、水85部を加えて混合し、10g毎に丸めて、試験生ダンゴを得た。対照として、α−1,4−グルカンの替わりに、上新粉5重量部とした。両生ダンゴを、沸騰水中で30分間煮込み、水切りした後、官能評価を実施した。その結果、α−1,4−グルカンを添加した煮込みダンゴは、無添加のダンゴより、弾力性のある良好な食感となった。
【実施例5】
【0026】
(玉子焼きの調整)
全卵110部、上白糖3部、だしの素0.3部、だし醤油2.5部、水15部を混合したものに、分子量1000kDaのα−1,4−グルカンを2%添加した玉子焼きを焼成した。7名の官能評価パネラーにより、風味と食感を評価した結果、α−1,4−グルカンを2%添加した玉子焼きはきめが細やかで弾力性のある食感になり、風味は全体がなじんだ一体感のあるものになったと評価された。薄力粉を2%添加したものも試験したが、蒲鉾の様な人工的な食感になったと評価された。さらに、これらの玉子焼きを急速冷凍した後、冷蔵解凍して、官能評価を行った。α−1,4−グルカンを2%添加した玉子焼きは、保水性を保っており、みずみずしい食感であり、冷凍しなかったものと同等においしいと評価された。薄力粉を添加したものについては、保水性が劣っており、パサパサしていると評価された。
【実施例6】
【0027】
(アイスクリームの調整)
アイスミルク配合(生クリーム20.0%、砂糖15.0%、脱脂濃縮乳10.0%、脱脂粉乳5.0%、加糖卵黄3.0%乳化安定剤0.6%、水46.4%)において、分子量1000kDaのα−1,4−グルカンを0.05%添加したミックスを調整し、常法によりフリージング、硬化させたものを7名の官能評価パネラーにより、官能評価した。その結果、無添加のものと比較して、テクスチャー、味ともに違いがないと評価された。また、このアイスクリームを−25℃に温度調整を行った後、室温30℃、湿度80%の恒温室内で、ワイヤー径0.5mm、目開き8mmのメッシュ上にクリームを静置してクリームの溶解量を継時的に計量して、保型性を評価した。75gのクリームの60分後の溶解量を調べた。α−1,4−グルカンを添加したものは13gであり、無添加のものは22gであったことから、α−1,4−グルカンの添加により、保型性が向上することを確認した。
【実施例7】
【0028】
(カレールーの調整)
予め加熱した開放型の加熱釜に油脂30重量部を投入し、油脂を溶解させた。このとき、溶解した油脂の品温は約60℃であった。次いで、この溶解した油脂に小麦粉30重量部およびアミロース5重量部を投入し、混合しながら、約50分間かけて到達品温が130℃になるように加熱して小麦粉ルウを製造した。
上記の過程で得られた小麦粉ルウに、カレー粉8重量部、砂糖10重量部、食塩9重量部、グルタミン酸ナトリウム2重量部、ミートパウダー3重量部、ソースパウダー2重量部およびカラメル1重量部を順次加え、約50分かけて品温が60℃になるまで冷却混合処理し、カレールウを製造した。冷却は、原料の添加による冷却および冷却釜による強制冷却であった。得られたカレールウを容器に充填し、20℃になるまで冷却することによって、固形ルウが得られた。
得られたカレールウ(固形ルウ)を常法により調理してカレーソースを得た。このカレーソースを喫食したところ、このカレーソースの食感は、アミロースを添加していないカレーソースに比べ、滑らかなとろみが付与されていた。風味・香りの面ではアミロースを添加していないカレーソースと相違はなかった。
【実施例8】
【0029】
(ハードキャンディーの調整)
パラチニット500部に対し、あらかじめ50部の水に湯煎して溶解した分子量1000kDaのα−1,4グルカン5部を加えて180℃まで煮沸し、香料、酸味料などの添加物を常法により添加し、冷却、成型したものを4名の官能パネラーにて官能評価した。その結果、無添加のものと比較して、味に違いが無いと評価された。しかしながらなめた際に、無添加のものに比べてぬるぬるとした食感のハードキャンディーになると評価された。
【実施例9】
【0030】
(キャラメルの調整)
キャラメル配合(砂糖260部、加糖練乳1000部、水飴700部、でん粉10部、バター20部、植物油脂10部)計2000部に、あらかじめ200部の水に湯煎して溶解した分子量1000kDaのα−1,4グルカン20部を加えて118℃まで煮沸し、香料、粉糖などの添加物を常法により添加し、冷却、成型したものを4名の官能パネラーにて官能評価した。その結果、無添加のものと比較して、味に違いが無いと評価された。しかしながらかんだ際に、無添加のものに比べてチューイング性を有した食感のキャラメルになると評価された。
【実施例10】
【0031】
(クッキー)
バター25部、砂糖15部、卵黄10部をよく混ぜ、そこに小麦粉50部を加えてクッキー生地を作製し、それをオーブンにて170℃で15分間焼成したクッキーと、小麦粉の5%を分子量30 kDa(重合度185、分散度1.05)のα−1,4グルカンに置き換えて焼成したクッキーについて、食感の比較を5名のパネラーにて行った。置き換えを行ったクッキーは口解けが良く、サクサクとした良好な食感であった。
【実施例11】
【0032】
(カスタードクリーム)
卵黄60部、砂糖40部と小麦粉15部、コーンスターチ10部を良く混合したものを、加熱した牛乳250部の中へ入れ煮詰めた後、バター25部を加え冷却してカスタードクリームを作製した。コーンスターチの代わりに分子量100 kDa(重合度620、分散度1.05)のα−1,4グルカンを添加したカスタードクリームを同様に作製し、5名のパネラーにて食感の比較を行った。α−1,4グルカンを添加したカスタードクリームは、糊状感がなく軽い食感であった。
【実施例12】
【0033】
(アイスキャンディー)
砂糖15部、果糖ぶどう糖液糖5部、分子量1000kDa(重合度6170、分散度1.05)のα−1,4−グルカン1部、氷菓用安定剤製剤0.3部、クエン酸0.1部、香料0.2部、水78.4部のシラップ液を調製の後、口径15×50mm、長さ100mmの氷缶に注ぎ、−35℃の冷凍庫で5時間硬化させ、アイスキャンデーを作成した(配合A)。比較のため、α−1,4−グルカンをコーンスターチにおきかえたもの(配合B)、配合Aの分子量1000kDa(重合度6170、分散度1.05)のα−1,4−グルカンを除いたもの(配合C)で同様に作成した。試食評価については10名のパネラーで行った。
【0034】
配合Aは風味、食感とも「きわめて良好」、配合Bは風味、食感とも「不良」、配合Cは風味は「きわめて良好」、食感は「不良」であった。
コーンスターチを使用した配合Bはフレーバーリリースが悪く、かつ、硬く締まった食感であった。また、配合Cは、食感が硬く、いずれも好ましいものではなかった。これに対し、配合Aは、硬さが緩和され、シャキシャキした最も優れた食感を有していた。また、フレーバーリリースについては配合Cと同様に良好であった。
この結果、分子量1000kDa(重合度6170、分散度1.05)のα−1,4−グルカンがアイスキャンディーの食感改善に効果を有することがわかる。
【実施例13】
【0035】
(アイスキャンディー)
アイスキャンディー配合(砂糖20%、安定剤0.3%、水79.7%)において、分子量1000kDa(重合度6170、分散度1.05)のα−1,4−グルカンを1.0%添加したシラップを調整し、香料・酸味料などの添加物を常法により添加し、冷却、硬化させたものを4名の官能評価パネラーにより、官能評価した。その結果、無添加のものと比較して、味に違いがないと評価された。しかしながらかんだ際に、無添加のものに比べて硬さが緩和され、シャキシャキとした良好な食感となると評価された。

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明では、α−1,4−グルカンを飲食物に添加することで、本来の風味を損なうことなく、良好な物性や食感を持った飲食物を製造することができるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを有効成分とする飲食物の物性及び食感の改良剤、及びこれを含む飲食物
【請求項2】
前記α−1,4−グルカンの重合度が180以上37000未満である請求項1に記載の物性及び食感の改良剤、及びこれを含む飲食物
【請求項3】
前記α−1,4−グルカンの重合度が180以上37000未満であり、分散度が1.25以下である請求項1に記載の物性及び食感の改良剤、及びこれを含む飲食物
【請求項4】
前記α−1,4−グルカンが修飾物を含有するものであり、その修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾である請求項1に記載の物性及び食感の改良剤、及びこれを含む飲食物


【公開番号】特開2006−238879(P2006−238879A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17279(P2006−17279)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【出願人】(000105095)グリコ栄養食品株式会社 (8)
【Fターム(参考)】