説明

α−1,4−グルカンを物性改善剤として含有する乾燥食品

【課題】
乾燥食品の保形性を向上させ、且つ、褐変促進や、乾燥効率の悪化を引き起こさないことを目的とする。
【解決手段】
グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを物性改善剤として用いるが、乾燥食品の製造工程中において、前処理段階のいかなる段階に用いても効果を発揮することができる。使用濃度は、添加による使用又は溶液による浸漬により適宜選択され得るが、通常0.001%から5%の範囲が適当である。また、食品の特性によりα−1,4−グルカンの分子量、使用濃度は適宜選択され得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥食品の保形性を向上させ、且つ、褐変促進や、乾燥効率の悪化を引き起こさない方法、及びその乾燥食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
元来、食品は未加工にて放置した場合には微生物の働きによって腐敗する。食品を微生物の活動から保護し、保存する術として、冷凍、冷蔵、加熱殺菌、乾燥、塩蔵、アルコール漬けなど多岐にわたる方法が開発されてきた。これらの食品保存法のうち、最も古い歴史を持つものの一つは乾燥による食品の保存であり、自然乾燥法、熱風乾燥法、凍結乾燥法などの方法が知られている。さらに、これらの乾燥法のうち、工業的に用いられ且つ被食品の風味や色彩を長期間保存する技術として、熱風乾燥法及び凍結乾燥法が知られている。これらの技術はいずれも当業者にとっては公知の技術である。熱風乾燥法は例としておよそ60℃〜80℃の熱風によりゆっくりと食品の水分を飛ばして乾燥させる技術である。凍結乾燥法は、例として食品を−20℃以下程度で凍結させ、真空乾燥する技術である。これらの技術はいずれも食品の水分量を減少させて水分活性を低下させることによって微生物の繁殖を防止することで、食品の長期間の保存を可能にしている。これらの技術により作り出された食品は、それぞれ、通常、熱風乾燥食品及び凍結乾燥食品と呼ばれ、総称して乾燥食品と呼ばれる。乾燥食品は、保存性、風味、色彩に優れた特徴を有することから、食品産業の多分野に渡って活用されている。具体的には即席カップめん類のトッピング剤やふりかけの具材として、乾燥野菜や乾燥わかめ、乾燥蛋白質系食品、即席スープの素などが例として挙げられる。しかしながら、乾燥食品は食品を乾燥する段階で水分を除く工程が必須であり、食品細胞の収縮や保形性の低下など不利益に働く変化を伴わざるを得ず、これらを克服した新たな乾燥処理法の発明が待たれていた。
【0003】
これまでに熱風乾燥食品の品質劣化を抑制するために試みられてきた方法としては、食品の前処理工程において、食品にぶどう糖を混合する方法又はぶどう糖溶液に浸漬する方法が広く公知である。また、ぶどう糖、カルシウム塩溶液に浸漬する方法(特開平3−133365)、植物の活物体内水分の一定割合以上をトレハロースで置換する方法(特開平11−269003)が報告されている。これらの方法では食品の水分を糖液で置換することにより乾燥効率の向上が成され、乾燥時間の短縮による品質劣化の抑制が期待出来るが、食品細胞の収縮を充分に抑制することは不可能であった。加えて、糖類の使用によるメイラード反応の促進や、糖類の甘味が食品本来の風味を損なう可能性があった。
【0004】
熱風乾燥野菜の収縮を抑制する方法として、膨張剤と糖類を含浸、加熱、発泡、乾燥させる方法(特開2000−210042)が報告されている。これは、食品内部の水分を糖液に置換することによる乾燥効率の向上に加えて、膨張剤による食品細胞の収縮抑制を狙ったものであるが、膨張剤による収縮抑制法では食品が多孔質になり過ぎて形状安定性が低下し、工業的大量生産には不向きであった。
【0005】
ゲル化剤を用いた乾燥処理法(特開昭57−54581)も報告されているが、これはゲル化剤溶液を食品中に含浸された後、有機溶剤で脱水処理を行い、さらに適宜乾燥処理を行うもので、前処理工程としては煩雑であり利用分野は拡大していない。
【0006】

また、凍結乾燥食品の課題としては、多孔質化による形状安定性低下の改善と、糖類などのメイラード反応を促進する添加剤に起因した褐変の改善が挙げられる。これまでに試みられてきた方法としては、ゼラチン水溶液中に食品を浸漬する方法(特開平9−107926)、トレハロースを含有させる方法(特開平6−319503)、糖液と乳化油脂に食品を浸漬する方法(特開平5−123100)、でん粉とゲル化剤を併用する方法(特開平4−166068)、サイクロデキストリン溶液に食品を浸漬する方法(特開平1−144928)、でん粉とデキストリンを併用する方法(特開昭59−42872)が報告されているが、いずれも上記両課題を解決出来るものではなかった。
【0007】
上記両課題の解決策として、乾燥食品の製造方法(特許第2926691号)が報告されている。これは食品のpHを8.0−9.0に調整し、非還元性でん粉中間加水分解物溶液に浸漬することで、でん粉中間加水分解物が物理的に凍結乾燥時及び凍結乾燥後の保形性を向上し、且つそれらがメイラード反応の原因物質とならない事で上記両課題の解決を図っている。しかしながら、でん粉中間分解物分子内に含まれる分岐鎖を由来とする保水性が災いし、凍結乾燥時間が長時間に渡ってしまうという欠点があった。
【特許文献1】特開平3−133365公報
【特許文献2】特開平11−269003公報
【特許文献3】特開2000−210042公報
【特許文献4】特開昭57−54581公報
【特許文献5】特開平9−107926公報
【特許文献6】特開平6−319503公報
【特許文献7】特開平5−123100公報
【特許文献8】特開平4−166068公報
【特許文献9】特開平1−144928公報
【特許文献10】特開昭59−42872公報
【特許文献11】特許第2926691号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、乾燥食品の前処理剤としたときに異味異臭がなく、無色または淡色透明であり、安全性が高く、保形性低下の改善に働き、且つ褐変の原因物質とならず、さらに乾燥効率を悪化させることのない物性改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは乾燥食品の物性改善剤を鋭意検討してきたが、α−1,4−グルカンが物性改善剤としての優れた効果を持つことを見出し、本発明を完成した。
本発明に用いるα−1,4−グルカンは、グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを有効成分とする。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンの重合度が100以上37000未満であり得る。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンの重合度が100以上600未満であり得る。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンの重合度が600以上1800未満であり得る。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンの重合度が1800以上37000未満であり得る。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンの分散度が1.25以下であり得る。
一つの実施形態では、前記α−1,4−グルカンが修飾物を含有するものであり、その修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾であり得る。
【発明の効果】
【0010】
グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを乾燥食品の前処理に使用することによって食品が従来持っていた色調、食感、形状などを乾燥処理後も維持することが出来る。その結果、食品のもつ栄養面および嗜好性の向上により用途の拡大や国民の栄養学的向上がはかられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(用語の定義)
(分散度Mw/Mn)
高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれかであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分子量分布Mw/Mnが用いられている。分子量分布Mw/Mnは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)で表わされる。分子量分布は、その高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量の分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。なお、この「分子量分布」は「分散度」と言われることもあり、これら「分子量分布」「分散度」は、本明細書においては同義語である。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量を指す。
【0012】
(α−1,4−グルカン)
用語「α−1,4−グルカン」とは、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。ただし、本明細書において、α−1,4−グルカンは、グルカンホスホリラーゼ(EC 2.4.1.1)により酵素的に合成された、α−1,4−グルカンを意味し、植物デンプン中に存在するアミロースやデンプンを酵素的に分解して製造されるα−1,4−グルカンは含まない。α−1,4−グルカンは、直鎖状の分子である。α−1,4−グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α−1,4−グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量をグルコース単位の分子量162で割ることによって算出される。
【0013】
本発明者らは上記の問題点に鑑み、乾燥食品の前処理に使用した時に風味が感じられず、無色または淡色透明であり、安全性が高く、汎用性のある物性改善剤を鋭意検討してきたが、α−1,4−グルカンが物性改善剤としての優れた効果を持つことを見出し、本発明を完成した。
α−1,4−グルカンは、当該分野で公知の方法によって作製することができる。酵素合成法の例としては、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼという)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0014】
ホスホリラーゼを用いた酵素合成法の一例は、ホスホリラーゼを作用させて、基質であるグルコース−1−リン酸(以降、G−1−Pという)のグルコシル基を、プライマーとして用いられる例えばマルトヘプタオースに転移する方法(以降、GP法という)である。GP法は、原料であるG−1−Pが高価であるため、α−1,4−グルカンを工業的に生産するのにはコストがかかるが、糖単位をα−1,4−グルコシド結合のみで逐次結合させることにより100%直鎖のα−1,4−グルカンが得られるという顕著な利点がある。GP法は、当該分野で公知である。
【0015】
ホスホリラーゼを用いた酵素合成法の別の例は、スクロ−スを基質とし、例えば、マルトオリゴ糖をプライマーとして用い、これらに無機リン酸の存在下でスクロースホスホリラーゼ(sucrose phosphorylase、EC 2.4.1.7)とグルカンホスホリラーゼとを同時に作用させることによってα−1,4−グルカンを酵素合成する方法(以降、SP−GP法という)である。SP−GP法は、GP法と同様100%直鎖のα−1,4−グルカンの分子量を自由に制御して製造できることに加え、安価なスクロ−スを原料とすることで、製造コストをより低くできるという利点を有する。SP−GP法は当該分野で公知である。SP−GP法の効率的な生産方法は、例えば、国際公開第WO02/097107号パンフレットに記載される。本発明で用いられる高分子量のα−1,4−グルカンは、このパンフレットに記載される方法に従って製造され得る。
【0016】
なお「プライマー」とは、グルカン合成の出発材料として機能する物質をいう。このようなプライマーとしてオリゴ糖を用いることができる。プライマーとして、マルゴオリゴ糖、例えばマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、またはアミロース(α−1,4−グルカン)などを用いるのが好ましい。プライマーとして、単一化合物を用いてもよく、2種以上の化合物の混合物を用いてもよい。
【0017】
上記GP法および/またはSP−GP法を採用して酵素合成されたα−1,4−グルカンは次のような特徴を有する:
(1)分子量分布が狭い(Mw/Mnが1.1以下);
(2)製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)のものが得られる;
(3)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロ−スに認められるわずかな分岐構造がない;
(4)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α−1,4−グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで生体に対して毒性がない;および
(5)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である。
GP法および/またはSP−GP法により酵素合成された高分子量α−1,4−グルカンは、上記特徴により、本発明において好ましく用いられる。
【0018】
これらのα−1,4−グルカンは、修飾物であってもよく、非修飾物であってもよい。ここで「修飾物」とは、対象物に対して化学的に修飾を施すことによって得られるものをいう。このような修飾の例としては、エステル化、エ−テル化および架橋が挙げられる。
エステル化は、例えば、α−1,4−グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬)と反応させることによって行われ得る。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステルが得られる。
エ−テル化は、例えば、α−1,4−グルカンを、アルカリ存在下でエ−テル化剤(例えば、ハロゲン化アルキル、硫酸ジアルキルなど)と反応させることによって行われ得る。このようなエ−テル化によって、例えば、カルボキシメチルエ−テル、ヒドロキシプロピルエ−テル、ヒドロキシメチルエ−テル、メチルエ−テル、エチルエ−テルが得られる。
架橋は、例えば、α−1,4−グルカンを、架橋剤(ホルマリン、エピクロロヒドリン、グルタルアルデヒド、各種ジグリシジルエ−テル、各種エステルなど)と反応させることによって行われ得る。
このような化学修飾を単独であるいは組み合わせて施すことにより、α−1,4−グルカンの親水性、疎水性、水に対する溶解性、粘度などを変化させることができる。物性改善を行う食品の特性に応じてこれらの化学修飾したα−1,4−グルカンを選択することができる。
【0019】
本発明で用いるα−1,4−グルカン類の平均重合度は、100以上37000未満であることが好ましい。平均重合度が100以下では、通常の澱粉や高アミロース含有澱粉と同程度の物性改善効果しか見られない。また、平均重合度が37000以上のα−1,4−グルカン類は、酵素合成が困難であり、実現の可能性に乏しい。
【0020】
本発明に用いるα−1,4−グルカン類は、とりわけ前記GP法および/またはSP−GP法を採用して酵素合成される、平均重合度100以上で37,000以下、およびMw/Mn1.25以下であることが好ましい。分散度が1.25より大きいと、特徴の異なるα−1,4−グルカン類が混在してしまい、各分子量のα−1,4−グルカン類の有する特徴が打ち消されてしまうので、好ましくない。分散度はより好ましくは1.0〜1.2、さらに好ましくは1.0〜1.15である。
【0021】
本発明に用いる酵素合成アミロースは、分散度が小さいため、分子量の違いによる性質や機能の違いを発揮させることが出来る。平均重合度100以上600未満の比較的低分子量の酵素合成アミロースは、結晶化しやすい性質を有しており、溶液中では速やかに結晶性の沈殿を形成し、食品中では澱粉の老化を促進させる性質を有している。平均重合度600以上1800未満の中分子量以上の酵素合成アミロースは、水への溶解性は改善されており、沈殿は形成しないが、ゲル化しやすい特徴を有している。さらに、平均重合度1800以上37000未満の高分子量以上の酵素合成アミロースは安定した水溶性を示し、乾燥させると強度の高い皮膜を形成する。本発明の物性改善効果は、いずれの重合度の酵素合成アミロースも保持している。
【0022】
本発明においては、乾燥食品に期待される食感や物性を与えるように、任意の重合度・分散度を有する酵素合成アミロースを使用する。さらに、異なる重合度のα−1,4−グルカン類を混合することが望ましい結果となる場合には、2種以上のα−1,4−グルカン類を添加することも可能である。

【0023】
本発明に用いるα−1,4−グルカンは、ほとんど全ての乾燥食品に使用することが可能である。この乾燥食品とは、ヒトの食品、動物あるいは養魚用の飼料、ペットフードを総称するものである。すなわち、熱風乾燥法、及び凍結乾燥法を用いて乾燥された白菜、キャベツ、水菜、青梗菜、ほうれん草、大根葉、三つ葉、ネギ、ピーマン、玉ねぎ、人参、レタスなどの野菜類、しいたけ、エリンギ、平茸、マツタケなどのきのこ類、精白米、玄米、発芽米、小麦、大麦などの穀類及び穀類、かまぼこ、ちくわ、つくね、肉団子、ハンバーグなどの練り製品、鮭、タラ、フグ、鯛、鮪、ウニ、エビ、ホタテ、イタヤ貝、イクラなどの海産物、スパゲッティ、マカロニ等のパスタ類、うどん、そば、ラーメンなどの麺類、コンソメ、チキンブイヨン、ポークブイヨン、昆布だし、かつおだしなどの粉末基礎調味料類、コーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、ジュース、加工乳、牛乳、豆乳、スポーツドリンク、野菜ジュースなどの粉末飲料類、クリーム、チーズ、粉乳、練乳、乳飲料などの粉末乳製品、ゼリー、プリン、ムース、ヨーグルトなどの洋菓子類、饅頭、ういろ、もち、おはぎなどの和菓子類、シチューの素、スープの素、複合調味料、カレーの素、マヨネーズ、ケチャップなどの調味料類、カレー、シチュー、スープ、どんぶり、いわしの煮付け、さばの煮付け、シーチキン、焼き肉などの食品、ご飯、粥、雑炊、おにぎりなどの穀類調理食品、納豆、漬物、味噌などの醗酵食品、生薬、漢方薬にも効果的に利用できる。
【0024】
α−1,4−グルカンによる乾燥食品の物性改善効果について以下に説明する。食品に高分子量のα−1,4−グルカンを添加及び/又はα−1,4−グルカン溶液を浸漬し、物性改善を行う際には、乾燥食品の製造工程中において、前処理段階のいかなる段階に用いても効果を発揮することができる。さらに使用濃度は、添加による使用又は溶液による浸漬により適宜選択され得るが、通常0.001%から5%の範囲が適当である。また、食品の特性によりα−1,4−グルカンの分子量、使用濃度は適宜選択され得る。
【0025】
本発明は以下の理論に基づき成される。乾燥食品の保形性低下は、乾燥処理による水分除去時に細胞を形成する組織が弱体化することによる要因と、乾燥処理後の物理的衝撃による形状破壊に起因するものだが、α−1,4−グルカンを食品の細胞組織内に含浸させることでこれらを物理的に抑制し、保形性低下を改善することが出来る。また、食品の変色は褐変反応によるところが大きく、メイラード反応を不活性化することで変色を抑制することが出来る。メイラード反応はアミノ酸と糖類のカルボニル基の反応により活性化されるが、α−1,4−グルカンは完全な直鎖であり、でん粉やでん粉中間加水分解物に存在する分岐鎖がないためにカルボニル基が圧倒的に少ない。その結果、これまで物性改善剤として使用されてきた、でん粉やでん粉中間加水分解物、2糖類、単糖類、増粘多糖類と比較して有意にメイラード反応が抑制される。さらに分岐鎖がないことにより結合水が少なく、乾燥効率も良い。
【0026】
以下、酵素合成されたα−1,4−グルカンを溶液として用い、乾燥食品の前処理工程に使用した場合についての実施例を示すが、本発明は以下の実施例に限定されない。従って、当業者は、実施例に記載された事項に基づき、特許請求の範囲内において、本発明に任意の改変を施し得る。
【実施例1】
【0027】
(白菜の熱風乾燥品への使用)
市販の白菜を2センチ×2センチにカット後、90℃以上の熱水に溶解した分子量1,000KDa(重合度6170、分散度1.05)のα−1,4−グルカン1%溶液に浸漬し、そのまま1時間放置した。その後、水切りを行い、80℃2時間の熱風乾燥に供して白菜の熱風乾燥品を完成させた。また、以下の方法で比較品を作製した。ビートグラニュー糖、商品名「HA」(日本甜菜製糖(株)製)を白菜重量に対して5%添加して1時間放置後、同様に熱風乾燥品を完成させた。でん粉分解物、商品名「パインデックス♯100」(松谷化学工業(株)製)を用いて1%溶液を作製し、α−1,4−グルカン溶液に置き換えて白菜の熱風乾燥品を完成させた。ばれいしょでん粉、商品名「ビホロばれいしょでんぷん」(美幌地方農産加工農業協同組合連合会)を用いて1%溶液を作製し、α−1,4−グルカン溶液に置き換えて白菜の熱風乾燥品を完成させた。キサンタンガム、商品名「モナートガムOB」(大日本製薬(株)製)を用いて0.1%溶液を作製し、α−1,4−グルカン溶液に置き換えて白菜の熱風乾燥品を完成させた。
【0028】
( 評価例1)
3名のパネルにより、実施例1で得た白菜の熱風乾燥品5品について、保形性、色調、乾燥状態、復元性、味の官能評価を行い、総合評価を行った。結果を以下の表1に記す。評価は、○、△、×、××の4段階で行った。○は極めて良好を示し、△は普通を示し、×は悪いことを示し、××は極めて悪いことを示す。評価出来ないものは−で記した。
【0029】

【表1】

α−1,4−グルカンでは、保形性、色調、乾燥状態、復元性、味いずれも良好であった。
【0030】
ビートグラニュー糖では、乾燥後に白菜が収縮し、色調も黄色がかったものになった。乾燥状態、復元性は比較的良好であったが、甘みが強く、総合評価は悪かった。
【0031】
でん粉分解物では、保形性、色調、乾燥状態、復元性、味いずれも比較的良好であったが、α−1,4−グルカンと比較すると保形性が悪く、色調も黄色がかっており、復元性、味も「極めて良好」とは評価出来なかった。
【0032】
ばれいしょでん粉では、他と同じ条件で乾燥した場合、未乾燥状態であり、乾燥食品としては極めて悪いものであった。完全に乾燥させるために乾燥時間を延ばすことは出来るが、工業的に用いる場合、経費増加の要因となり、ばれいしょでん粉を用いることは適さないと考えられる。
【0033】
キサンタンガムでは、保形性が悪かった。これは、キサンタンガムが水への溶解性が低く、0.1%溶液以上の溶液を作製することが困難であり、その結果、物理的に保形性を高めることが出来なかったためである。乾燥状態、復元性、味は良好で総合評価は普通であった。
【実施例2】
【0034】
(白菜の凍結乾燥品への使用)
市販の白菜を2センチ×2センチにカット後、90℃以上の熱水に溶解した分子量1,000KDa(重合度6170、分散度1.05)のα−1,4−グルカン1%溶液に浸漬し、そのまま1時間放置した。その後、水切りを行い、常法に従って凍結乾燥処理に供して、白菜の凍結乾燥品を完成させた。真空凍結乾燥機として、東洋製作所の真空凍結乾燥機VF−350を用いた。また、比較例として、凍結乾燥処理を行う以外は実施例1と同様の処理を行い、それぞれの凍結乾燥品を得た。
【0035】
( 評価例2)

3名のパネルにより、実施例2で得た白菜の凍結乾燥品5品について、強度、色調、乾燥状態、復元性、味の官能評価を行い、総合評価を行った。結果を以下の表2に記す。
なお、強度については手でつぶしながら官能的に評価し、色調は35℃1ヶ月保管後に評価を行った。評価は、○、△、×、××の4段階で行った。○は極めて良好を示し、△は普通を示し、×は悪いことを示し、××は極めて悪いことを示す。評価出来ないものは−で記した。
【0036】

【表2】

α−1,4−グルカンでは、強度、色調、乾燥状態、復元性、味いずれも良好であった。
【0037】
ビートグラニュー糖では、強度が少し弱く感じられ、色調も黄色がかったものになった。乾燥状態、復元性は比較的良好であったが、甘みが強く、総合評価は普通であった。
【0038】
でん粉分解物では、強度、色調、乾燥状態、復元性、味いずれも比較的良好であったが、α−1,4−グルカンと比較すると強度が少し弱く、色調も黄色がかっており、「極めて良好」とは評価出来なかった。
【0039】
ばれいしょでん粉では、他と同じ条件で乾燥した場合、未乾燥状態であり、乾燥食品としては極めて悪いものであった。完全に乾燥させるために乾燥時間を延ばすことは出来るが、工業的に用いる場合、経費増加の要因となり、ばれいしょでん粉を用いることは適さないと考えられる。
【0040】
キサンタンガムでは、強度、色調、乾燥状態、復元性、味いずれも比較的良好であったが、α−1,4−グルカンと比較すると強度が少し弱く、色調も黄色がかっており、「極めて良好」とは評価出来なかった。

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、乾燥食品の前処理工程において、α−1,4−グルカンを物性改善剤として用いることにより、保形性を向上させる効果を見出した。α−1,4−グルカンは食品に添加/浸漬させたときに風味が感じられず、無色または淡色透明であり、安全性が高いことから、幅広い乾燥食品の物性改善剤として利用されうるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカンホスホリラーゼにより酵素的に合成されたα−1,4−グルカンを物性改善剤として含有する乾燥食品
【請求項2】
前記α−1,4−グルカンの重合度が100以上37000未満である請求項1に記載の乾燥食品
【請求項3】
前記α−1,4−グルカンの重合度が100以上600未満である請求項1に記載の乾燥食品
【請求項4】
前記α−1,4−グルカンの重合度が600以上1800未満である請求項1に記載の乾燥食品
【請求項5】
前記α−1,4−グルカンの重合度が1800以上37000未満である請求項1に記載の乾燥食品
【請求項6】
前記α−1,4−グルカンの分散度が1.25以下である請求項1に記載の乾燥食品
【請求項7】
前記α−1,4−グルカンが修飾物を含有するものであり、その修飾が、エステル化、エーテル化、および架橋からなる群より選択される化学修飾である請求項1に記載の乾燥食品
【請求項8】
物性改善が、保形性の向上である請求項1に記載の乾燥食品

【公開番号】特開2006−211986(P2006−211986A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30190(P2005−30190)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【Fターム(参考)】