説明

α,β−不飽和ニトリルの製造方法

【目的】 活性が高く、アクリロニトリルへの選択性の高いプロパンのアンモ酸化触媒を提供する。
【構成】 プロパン、アンモニアおよび分子状酸素を気相で接触反応させてアクリロニトリルを製造する方法において、一般式XMoa b c d p[式中、XはTaおよびNbの中から選ばれる1種以上の元素、AはW,V,Sn,Sb,Fe,Al,Cr,Co,Ni,Cu,Mg,Ca,SrおよびBaの中から選ばれる1種以上の元素、BはLi,Na,K,RbおよびCsの中から選ばれる1種以上の元素、CはCe,Pr,およびTbの中から選ばれる1種以上の元素を表す。a,b,c,dおよびpはXを基準にしたときの、各元素の原子比を表し、aは0.1 〜24、bは0〜20、cは0〜0.4 、dは0〜0.4 であり、pは各成分元素の原子価を満足するに必要な原子数である。]で示される組成で、且つBiを含有しない触媒を使用するアクリロニトリルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はプロパンをアンモニアと分子状酸素により気相接触アンモ酸化してアクリロニトリルを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】C3 〜C5 パラフィンを気相接触アンモ酸化して、α、β−不飽和ニトリル類を製造する触媒は従来数多く提案されている。中でも、プロパンのアンモ酸化によるアクリロニトリル合成触媒について1970年代から多くの提案が成されている。例えば、USP4879264にはV−Sb−Oからなる一元系の触媒、USP4877764,4883895にはV−P−O触媒(前者触媒)とBi−Fe−Cr−Mn−(Ni−Co/Mg)−Mo−O触媒(後者触媒)の二元系触媒によるパラフィンのオレフィンへの酸化脱水素(前者触媒)とオレフィンのアンモ酸化(後者触媒)の組み合わせが提案されている。また、USP4978764はCs−K−Ni−Co−Fe−Mn−Bi−Cr−Mo−Oからなる一元系の触媒、特開平3−58961にはBi−V−Moのシーライト構造をもつ触媒、また、特開平3−58962にはGa/Ta−Bi−Mo−Oからなる触媒が提案されている。一般にパラフィンはオレフィンに比べ反応性が低いため、従来の触媒では、オレフィンのアンモ酸化条件でのパラフィンの転化率が低い。そのため、従来の触媒では、パラフィンのアンモ酸化に比較的高い反応温度を必要とするため、併発するラジカル反応、目的物である不飽和ニトリルの逐次酸化などにより、不飽和ニトリルへの選択性が低いという問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、活性が高く、アクリロニトリルへの選択性の高いプロパンのアンモ酸化触媒を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、プロパンのアンモ酸化反応およびそれに用いる触媒、特にMoを必須成分として含有する触媒について、活性、アクリロニトリル選択性に優れた触媒を開発すべく、触媒成分、組成、調製法について鋭意検討をすすめた結果、Moの他にTaおよびNbの中から選ばれる1種以上の元素を必須成分として含有し、且つBiを含有しない触媒を用いると、高い活性、アクリロニトリル選択性が得られることを見いだし、本発明の方法に到達した。即ち、本発明は、プロパン、アンモニアおよび分子状酸素を気相で接触反応させてアクリロニトリルを製造する方法において、一般式XMoa b c d p[式中、XはTaおよびNbの中から選ばれる1種以上の元素、AはW,V,Sn,Sb,Fe,Al,Cr,Co,Ni,Cu,Mg,Ca,SrおよびBaの中から選ばれる1種以上の元素、BはLi,Na,K,RbおよびCsの中から選ばれる1種以上の元素、CはCe,Pr,およびTbの中から選ばれる1種以上の元素を表す。a,b,c,dおよびpはXを基準にしたときの、各元素の原子比を表し、aは0.1 〜24、bは0〜20、cは0〜0.4 、dは0〜0.4 であり、pは各成分元素の原子価を満足するに必要な原子数である。]で示される組成物を含有し、且つBiを含有しない触媒を使用することを特徴とするプロパンのアンモ酸化によるアクリロニトリルの製造方法である。
【0005】本発明の効果を得るには、Biを触媒成分として含まないことが重要である。オレフィン類のアンモ酸化触媒としてMo、Biを必須成分とする多成分系複合酸化物触媒が工業的に多用されているので、プロパンのアンモ酸化触媒として、従来、Moを含有する触媒では、多くの場合、Biは必須成分とされていたが、本発明者の知見では、Moの他にTaおよびNbの中から選ばれる1種以上の元素を必須成分として含有する本願触媒では、Biを触媒成分として添加すると、触媒活性がを低下するので好ましくない。
【0006】本発明の方法で使用する触媒は、この分野で通常用いられる公知の方法、例えば、次のような方法で調製することができる。モリブデン酸アンモニウムを純水に加熱溶解し、硝酸水溶液を加えて中和した後、酸化タンタルを加え、これを約100℃で撹拌しながら、還流下加熱し、必要に応じて、W,V,Sn,Sb,Fe,Al,Cr,Co,Ni,Cu,Mg,Ca,SrおよびBaの中から選ばれる1種以上の元素の化合物、例えば、硝酸塩を加え、また、必要に応じて、SiO2 などの担体を加え、得られる泥状懸濁液を乾燥し、仮焼し、焼成して調製される。
【0007】本発明の触媒の原料は、触媒調製過程で酸化物に分解され得る化合物が好ましい。その様な化合物としては、例えば、酸化物、水酸化物、硝酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、塩化物、有機酸塩、金属酸、金属酸アンモニウム塩などである。SiO2 の原料としては、シリカゾル、シリカゲル、珪酸エステル、珪酸塩などが用いられる。触媒は、粒状あるいは成形体として固定床で使用されるが、移動床あるいは流動床としても使用できる。本発明による気相接触酸化反応の原料ガスとして、プロパン、アンモニアおよび分子状酸素が用いられる、これら原料ガスの他に希釈ガスを用いることも出来る。
【0008】分子状酸素現として通常は空気が使用されるが、純酸素を使用しても良い。希釈ガスとしては、窒素、炭酸ガスなどの不活性ガスが使用される。反応ガスに含まれる非凝縮性ガスの一部を循環して希釈ガスとして使用しても良い。希釈ガスとして水蒸気を併せて使用することが、活性、選択性を高める上で好ましい。原料ガスの組成には、特に制限はないが、安全性の点からは、混合ガス組成が燃焼範囲外であることが好ましい。また、希釈ガスとして水蒸気を併せて使用する場合、原料ガス中の水蒸気は通常60容量%まで添加される。本発明による気相接触酸化反応は、前記した原料ガスを、前記した触媒上に350〜550℃の温度範囲、常圧〜10気圧の圧力下、空間速度300〜5000/hrで導入することで実施される。
【0009】
【実施例】実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。反応率、選択率および収率は次のとうり定義される。


【0010】実施例1Ta2 5 とH2 MoO4 をTa/Mo原子比が2/3になるように蒸留水に加え、撹拌下、約100℃で16時間、加熱還流した後、蒸発乾涸した。得られた固体を600℃で4時間、空気雰囲気で焼成し、Ta2 Mo3 14なる組成の触媒を得た。得られた触媒を通常の流通式反応器に充填し、プロパン/酸素/アンモニアのモル比が3/2/2なる組成の原料ガスを、空間速度3600/hrで供給した。反応温度を470℃に保って、触媒の性能を評価した。評価結果を表1に示した。
【0011】実施例2七モリブデン酸アンモニウムとバナジン酸アンモニウムをV/Mo原子比が1/2になるように蒸留水に溶かし、これに硝酸水溶液を加えて中和した後、これにTa/Mo原子比が1/1となるように酸化タンタルを加え、撹拌下、約100℃で16時間、加熱還流した後、蒸発乾涸した。得られた固体を340℃で4時間仮焼し、次いで600℃で4時間、空気雰囲気で焼成し、Ta2 1 Mo2x なる組成の触媒を得た。得られた触媒の性能を実施例1と同様にして、評価した。結果を表1に示した。
【0012】実施例3七モリブデン酸アンモニウムを蒸留水に溶かしA液とした。Fe/Coの原子比が3/7となるように硝酸鉄と硝酸コバルトを蒸留水に溶かしB液とした。Fe/Moの原子比が3/12となるように、B液をA液に加えた。この混合液にアンモニア水溶液を加えて中性に調整したのち、これにTa/Mo原子比が1/12となるように酸化タンタルを加え、撹拌下、約100℃で16時間、加熱還流した後、蒸発乾涸した。得られた固体を340℃で4時間仮焼し、次いで600℃で4時間、空気雰囲気で焼成し、Ta1Fe3Co7Mo12xなる組成の触媒を得た。
【0013】得られた触媒の性能を実施例1と同様にして、評価した。結果を表1に示した。
【0014】実施例4実施例3と同様にしてTa1 Fe3 Mg7 Ce0.05Mo12x なる組成の触媒を得た。得られた触媒の性能を実施例1と同様にして、評価した。結果を表1に示した。
【0015】実施例5Taに代え、Nbを用いた他は、実施例1と同様にしてNb2 Mo3 14なる組成の触媒を得た。得られた触媒の性能を、反応温度を440℃に代えた他は、実施例1と同様にして、評価した。結果を表1に示した。
【0016】比較例1七モリブデン酸アンモニウムを蒸留水に溶かしA液とした。硝酸ビスマスと硝酸を蒸留水に溶かしB液とした。Bi/Moの原子比が2/3となるように、B液をA液に加えた。この混合液にアンモニア水溶液を加えて中性に調整したのち、これにTa/Mo原子比が2/3となるように酸化タンタルを加え、撹拌下、約100℃で16時間、加熱還流した後、蒸発乾涸した。得られた固体を340℃で4時間仮焼し、次いで600℃で4時間、空気雰囲気で焼成し、Ta2 Bi2 Mo3 x なる組成の触媒を得た。得られた触媒の性能を実施例1と同様にして、評価した。結果を表1に示した。
【0017】
【表1】
表1───────────────────────────────────例 プロパン アクリロニトリル 転化率(%) 選択率(%) 収率(%)
────────────────────────────────────実施例 1 7.8 82 6.4 2 9.5 75 7.1 3 11.5 74 8.5 4 11.0 78 8.6 5 8.8 66 5.8────────────────────────────────────比較例 1 3.1 48 1.5────────────────────────────────────
【0018】
【発明の効果】本発明で使用するアンモ酸化触媒は、活性が高く、アクリロニトリルへの選択性の高いので、本発明の方法により、プロパンから、効率よくアクリロニトリルを製造することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Moを必須成分として含有する触媒の存在下、プロパン、アンモニアおよび分子状酸素を気相で接触反応させてアクリロニトリルを製造する方法において、Moの他にTaおよびNbの中から選ばれる1種以上の元素を必須成分として含有し、且つBiを含有しない触媒を用いることを特徴とするアクリロニトリルの製造方法。
【請求項2】 触媒が一般式XMoa b c d p[式中、XはTaおよびNbの中から選ばれる1種以上の元素、AはW,V,Sn,Sb,Fe,Al,Cr,Co,Ni,Cu,Mg,Ca,SrおよびBaの中から選ばれる1種以上の元素、BはLi,Na,K,RbおよびCsの中から選ばれる1種以上の元素、CはCe,Pr,およびTbの中から選ばれる1種以上の元素を表す。a,b,c,dおよびpはXを基準にしたときの、各元素の原子比を表し、aは0.1 〜24、bは0〜20、cは0〜0.4 、dは0〜0.4 であり、pは各成分元素の原子価を満足するに必要な原子数である。]で示される組成物を含有し、且つBiを含有しないことを特徴とする請求項1の方法。