β型リン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックス及びその製造方法
【課題】従来技術としては、二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したリン酸三カルシウムの生体材料セラミックスは存在しなかった。
【解決手段】本発明として、三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを提案する。また、略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに湿式混合した後、得られた混合物から溶媒エタノールを除去する混合工程と、混合工程で得られた混合体を溶媒中で粉砕した後、前記溶媒を除去する粉砕工程と、粉砕工程で得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成する成型工程と、成型工程で得られた成型体を焼成する焼成工程と、を有するリン酸三カルシウム焼結体製造方法を提案する。
【解決手段】本発明として、三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを提案する。また、略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに湿式混合した後、得られた混合物から溶媒エタノールを除去する混合工程と、混合工程で得られた混合体を溶媒中で粉砕した後、前記溶媒を除去する粉砕工程と、粉砕工程で得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成する成型工程と、成型工程で得られた成型体を焼成する焼成工程と、を有するリン酸三カルシウム焼結体製造方法を提案する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はβ型リン酸三カルシウムのリン酸サイトに二価の陰イオンと四価の陰イオンを同時に置換固溶させた生体材料セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療材料、特に人工骨をはじめとする硬組織用代替材料として利用されているリン酸三カルシウム[TCP; Ca3(PO4)2]は、その結晶構造中のカルシウムイオンおよびリン酸イオンと金属イオンが置換固溶する特徴を有している。当該特徴に注目してTCPのカルシウムイオンと金属イオンを置換固溶した人工骨材が知られている。例えば、特許文献1においてカルシウムイオンを亜鉛イオン(Zn2+イオン)で置換した亜鉛含有TCPが報告されている。
【0003】
また、TCP結晶構造中におけるリン酸イオンは、陰イオンが置換固溶する特徴を有する。当該特徴に着目してリン酸イオンと価数の同じである三価陰イオンを置換固溶したTCP硬組織用代替材料が知られている。例えば、骨形成を促進するバナジウムの一種であるバナジン酸(VO43-)イオンがTCP構造中におけるリン酸サイトに固溶したバナジン酸イオン含有(固溶)TCPがこれまでに報告されている。この硬組織用代替材料は、VO43-イオンの固溶によって焼結体の焼結性が向上し、微粒で気孔の少ない緻密な微構造を示し、その機械的性質が向上して生体骨と同等の機械的強度を有する。
【0004】
また、二価の陰イオンを置換固溶した生体材料用リン酸カルシウム化合物としては、炭酸(CO32-)イオンがHAp結晶構造中のリン酸イオンと置換固溶した硬組織用代替材料が報告されている。例えば、非特許文献1においては、CO32-イオンの固溶で、HApに比べて溶解性が促進し、物理学的性質も生体骨に類似し、細胞の分化や増殖や石灰化能も良好であることが報告されている。
【0005】
また、四価の陰イオンを置換固溶した生体材料用リン酸カルシウム化合物としては、上記のケイ酸含有リン酸三カルシウムに加えて、水酸アパタイト(HAp)構造中のリン酸サイトにケイ酸(SiO44-)イオンが置換固溶したケイ酸固溶アパタイトが知られている。当該水酸アパタイトは、TCPと同様に硬組織用代替材料として臨床応用されているものである。ケイ酸イオンの固溶によって材料化学的にはHAp構造の熱安定性は低下するが、HAp焼結体作製時の焼成温度の低下や焼結性の向上が認められている。一方、生物学的観点からも細胞接着性や骨形成の促進および骨成長密度の増加することが報告されている。また、特許文献2においては、ケイ酸イオンがTCPのリン酸イオンと置換固溶したケイ酸含有TCPも報告されている。
【0006】
また、本発明者は、先の出願である特許文献3において、二価または四価陰イオン及び電荷補償・構造安定化のための陽イオンを固溶したβ型リン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスの調製方法とそのセラミック特性について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−175760
【特許文献2】特開2008−214111
【特許文献3】特願2010−105736
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】岩永寛司、渋谷俊昭、土井豊、森脇豊、岩山幸雄、岐阜歯科学誌、28、90 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記亜鉛またはケイ酸含有TCPは、ともに液相法(湿式法)を用いて合成している。しかし、湿式法によるTCPの合成では、TCPがCa/Pモル比=1.50のみで生成するため、TCPのほかに副生成物としてHApやピロリン酸カルシウムが生成しやすく、実験プロセスが多いことに加え、TCP相のみを得るためには実験条件(反応温度や反応溶液のpHなど)の厳密な制御および熟練した実験操作が必要となる。また、上記亜鉛またはケイ酸含有TCPの技術に関しては、生体材料に求められる性質の一つである力学的適合性の評価を行っていない。
【0010】
また、上記ケイ酸含有TCPは、TCPの高温相であるα-リン酸三カルシウム(α-TCP)にケイ酸イオンが含有している。しかし、α-リン酸三カルシウムは低温相であるβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)に比べて溶解性が高く、機械的強度も低いため、生体材料としての使用が制限される。α-リン酸三カルシウムは実際に生体材料としては、水和反応しやすく、それにともない硬化する特長を有するため、主に体内で硬化するリン酸カルシウムセメントの主要成分と使用されているのみであり(特開2001-95913号他多数)、β-TCPのように人工骨としての使用例はない。また、SiO44-イオンは、HApやα-TCPにはそれ単独で置換固溶するが、β-TCPには単独で置換固溶しない。また、上記CO32-イオンのような二価の陰イオンをTCP(α-TCPおよびβ-TCP)結晶構造中のリン酸サイトに置換固溶した人工骨材を含む材料はこれまでに報告されていない。
【0011】
また、上記特許文献3においては、β型リン酸三カルシウムへの二価陰イオン又は四価陰イオンの固溶可能性を示したものであるが、実際には二価陰イオン又は四価陰イオンのそれぞれの単独固溶を示したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)そこで、本発明として、三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを提案する。
【0013】
(2)また、同時に固溶する二価陰イオンと四価陰イオンの固溶量によって溶解性及び焼結性が制御された上記(1)に記載の生体材料セラミックスを提案する。
【0014】
(3)また、二価陰イオンは、硫酸イオンである上記(1)又は(2)に記載の生体材料セラミックスを提案する。
【0015】
(4)また、四価陰イオンは、ケイ酸イオンである上記(1)から(3)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスを提案する。
【0016】
(5)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムの焼結体からなる生体材料セラミックスを提案する。
【0017】
(6)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が粉体である生体材料セラミックスを提案する。
【0018】
(7)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が顆粒体である生体材料セラミックスを提案する。
【0019】
(8)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が膜状である生体材料セラミックスを提案する。
【0020】
(9)また、略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに乾式混合し、得られた混合物を焼成して合成される請求項1から8のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを提案する。
【0021】
(10)また、略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに湿式混合した後、得られた混合物から溶媒エタノールを除去する混合工程と、混合工程で得られた混合体を溶媒中で粉砕した後、前記溶媒を除去する粉砕工程と、粉砕工程で得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成する成型工程と、成型工程で得られた成型体を焼成する焼成工程と、を有するリン酸三カルシウム焼結体製造方法を提案する。
【0022】
(11)また、混合工程における二価陰イオン源となる化合物及び四価陰イオン源となる化合物の混合量によってリン酸三カルシウム焼結体の溶解性及び焼結性を制御する上記(10)に記載のリン酸三カルシウム焼結体製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0023】
β-TCPの三価の陰イオンであるリン酸イオンと価数の異なる二価または四価陰イオンがβ-TCPに固溶することを明らかにした本発明は、β-TCPに固溶させる(金属)イオンの選択範囲を増加させるだけでなく、固溶した陰イオンに起因する骨生成促進作用なども有する新規な硬組織代替用生体材料として応用範囲の拡大につながる。
【0024】
本発明では、一般的なリン酸三カルシウムの製造方法である固相法を用いて、高温相のα-TCPではなく低温相のβ-TCPに二価または四価の陰イオンを固溶させるため、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法および高温処理(焼成)を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインで製造できるため、少ない設備投資やコストで固溶させた陰イオンに起因する骨生成促進効果などを有したβ-TCPの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】β型リン酸三カルシウムの結晶構造を示す概念図
【図2】β型リン酸三カルシウムの結晶構造を構成するカラムを示す概念図
【図3】一価の金属イオンの固溶形態を示す図
【図4】二価の金属イオンの固溶形態を示す図
【図5】二価陰イオン(SO42-イオン)と四価陰イオン(SiO44-イオン)の固溶形態を示す図
【図6】二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムの合成方法を示す処理フロー図
【図7】二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムの合成方法を示す処理フロー図
【図8】一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムからなる焼結体の製造方法を示す処理フロー図(1)
【図9】一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムからなる焼結体の製造方法を示す処理フロー図(2)
【図10】実施例1のβ型リン酸三カルシウムのX線回折図
【図11】実施例1のβ型リン酸三カルシウムのFT-IRスペクトルを示す図
【図12】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのX線回折図(1)
【図13】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのFT-IRスペクトルを示す図(1)
【図14】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのX線回折図(2)
【図15】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのFT-IRスペクトルを示す図(2)
【図16】実施例2のβ型リン酸三カルシウムの格子定数変化を示す図
【図17】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体のX線回折図
【図18】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体のFT-IRスペクトルを示す図
【図19】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の格子定数変化を示す図
【図20】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の体積収縮率変化を示す図
【図21】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の曲げ強度変化を示す図
【図22】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の開気孔率変化とかさ密度変化を示す図
【図23】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の微構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要>
【0027】
三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックス、及びその焼結体について説明する。
<実施形態1:構成>
【0028】
本発明の生体材料セラミックスとは、事故や病気などにより欠損、喪失した歯や骨などの生体硬組織の置換材料として用いられるものであって、二価の陰イオン及び四価の陰イオンが後述する形態でリン酸イオン(PO43-)と置換固溶したβ-TCPからなる生体材料セラミックスであれば、その形状は特に限定しない。粉体、顆粒体、膜状のものや、多孔体、緻密体などの焼結体が該当する。また、固溶とは、2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一の固相になることをいい、焼結体とは融点より低い温度で加熱して固化したものをいう。
【0029】
(1)固溶形態
【0030】
本発明に係るβ-TCPは、結晶中のリン酸イオン(PO43-)を硫酸イオン等の二価の陰イオン及びケイ酸イオン等の四価の陰イオンで置換固溶したものである。β-TCPの機械的強度は、その結晶構造、結晶性(粒子サイズなど)に影響を受けるため、結晶中の所定量のリン酸イオン(PO43-)を二価の陰イオン及び四価の陰イオンで置換固溶することにより、当該β-TCPからなる生体材料セラミックスの機械的強度を制御することが可能である。
【0031】
(リン酸三カルシウムの性質)
リン酸三カルシウム〔Ca3(PO4)2:TCP〕には、低温からβ、α、α'の三つの相が存在する。α'-TCPは1450℃付近から高温で安定であり常温では得られない。α-TCPは1120-1180℃以下でβ-TCPに相転移するが、転移の速度が遅いため常温で準安定相として存在する。天然にはWhitlockite〔(Ca18(Mg,Fe)2H2(PO4)14、β相と類似)として存在する。α-TCPおよびβ-TCPはともに生体活性材料であり、バイオセラミックスとして利用されている。これらの生体内における挙動はHApと似ているが、溶解度はHApより大きく、β-TCPの溶解度はHApの約2倍、α-TCPはHApの約10倍である。
【0032】
β-TCPは HApよりCa/Pモル比が低い(Ca/Pモル比=1.50)ため、β-TCPは他のリン酸カルシウム系セラミックスと比較して生体中での溶解および吸収速度が大きく、新生骨の生成とともに自家骨と置換するため人工歯根や骨充填材として臨床応用されている。また、β-TCPはα-TCPへの転移温度である1150℃以下の温度で焼結体が作製でき、このような焼成プロセスにより分解などを起こさず、吸水性もある。材料の吸収速度が周囲に形成する骨生成速度と適合し、新たに形成した骨が十分な強度をもつことが理想的なバイオセラミックスと考えられるため、β-TCPはこの条件を満たす可能性を有する数少ない材料である。
【0033】
一方、α-TCPは水和してHApとなり、その時に硬化する性質があるため生体用セメントとして応用されている。しかし、水のみによる硬化では硬化時間が生体用セメントの使用条件にくらべて長すぎるため、硬化促進のためクエン酸、ポリアクリル酸などの酸を硬化剤として添加する方法も用いられている。しかし、生体用セメントとして酸を用いた場合、充填部位周辺に炎症性の反応が生じるため、酸を用いないかまたは酸を積極的に中和させるタイプのセメントが開発されている。
【0034】
(β型リン酸三カルシウムの結晶構造)
β-TCPの空間群はR3cで菱面体晶系に属する。格子定数は六方格子設定でa=1.04352(2)nm、c=3.74029(5)nmである。図1、図2にβ-TCPの結晶構造を示す。β-TCPは結晶構造(単位格子)中にCaとPO4四面体からなる結晶学的に独立なA、B 2本のカラムが存在し、これら2本のカラムがc軸に平行に存在している。カラムAはc軸(3回軸)上に存在し、P(1)-Ca(4)-Ca(5)-P(1)-空孔-Ca(5)の繰り返しである。天然鉱物であるWhitlockiteではCa(4)およびCa(5)サイトにはMgやFeといった他の金属イオンが置換する。また、Ca(4)サイトは席占有率が約0.5であるため、カラムAに空孔が存在する特異な結晶構造をもっている。カラムBはP(2)-Ca(3)-Ca(1)-Ca(2)-P(3)の繰り返しであるが、三つのCaは一直線上にのらずに1/3ずつずれるため折れ線を形成する。下記の表1と表2に空孔を考慮したβ-TCP単位格子中の各Ca2+イオンサイトおよびPO43-イオンサイトの割合を示した。
[表1]
[表2]
【0035】
(金属イオン固溶β型リン酸三カルシウム)
【0036】
図3、図4に一価と二価金属イオンの固溶形態を示す。一価金属イオンはCa(4)サイトおよび空孔に2MI=Ca2+イオン+□(□:空孔)の形態で固溶し、その固溶限界は9.09mol%であり、二価金属イオンはまずCa(5)サイトに9.09mol%まで固溶して、Ca(5)サイトが二価金属イオンで埋まるとCa(4)サイトに13.64mol%まで固溶する(MII=Ca2+イオン)ことが分かっている。
【0037】
一方、β-TCPへの金属イオンの固溶がβ-α相転移温度や焼結性、機械的強度、溶解性に影響を与えることも分かっている。ここでは金属イオンの固溶がβ-TCPの溶解性に及ぼす影響について述べる。β-TCPの溶解度はHApの約2倍であるが、Ba2+イオンを固溶したβ-TCP焼結体の溶解度はHApの約1.7倍に減少することが報告されている。Mg2+イオン固溶β-TCPと比較すると、溶解度はβ-TCP>Mg2+イオン固溶β-TCP>Ba2+イオン固溶β-TCP>HApとなる。また、薬理作用があるZn2+イオンを固溶させた骨形成促進作用を有する亜鉛徐放型β-TCPも作製されており、これについても溶解性が減少することが報告されている。
【0038】
また、一価金属イオンを固溶すると、Ca2+イオン溶出率は、β-TCP>K+イオン固溶β-TCP>Na+イオン固溶β-TCP>Li+イオン固溶β-TCPの順となり、とくにLi+イオンを固溶すると溶出率がいちじるしく低下すること、また、Mg2+イオンを固溶してもCa2+イオンの溶出率は低下するが、Na+イオンと同時に固溶することで、それぞれ単独で固溶するよりも溶出率がさらに低下することが明らかになっている。
【0039】
図5に二価陰イオン(SO42-イオン)と四価陰イオン(SiO44-イオン)の固溶形態を示す。本発明では、PO43-イオンと価数が異なるため単独固溶できない二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に異なるPO4サイトに固溶させることを実現した。具体的には、Caサイトに陽イオンを固溶させることによって、β-TCP構造を安定化させ、陰イオンサイト内の置換を起こりやすくさせた。例えば、一価金属イオンはCa(4)サイトに固溶することが明らかになっていることからNa+イオンを用いてCa(4)サイトに固溶させた。また、二価金属イオンはCa(5)サイトに固溶することが明らかになっていることからMg+イオンを用いてCa(5)サイトに固溶させた。これにより、一価又は/及び二価金属イオンとしてこれまでに固溶形態が明らかになっているNa+イオンとMg2+イオン、二価陰イオンとして硫酸イオン(SO42-イオン)、四価陰イオンとしてケイ酸イオン(SiO44-イオン)、を同時に固溶したβ-TCPを作製することが可能になった。なお、Ca(4)サイトに入れる一価の陽イオンとしてはNa+イオンの他に、K+イオンやLi+イオンなども可能である。また、Ca(5)サイトに入れる二価の陽イオンとしてはMg2+イオンの他に、Mn2+イオンなども可能である。これらの陽イオンをCa(4)サイト、Ca(5)サイトに入れることによってCa(4)の空孔がなくなり、結晶構造の安定化がなされているものと考えられる。
【0040】
(3)二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成
【0041】
本発明に係る二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成は既存の方法に従い、固相反応による乾式法と、水溶液反応による湿式法のどちらでもよいが、不純物相の生成を抑制できる点で、乾式法が好ましい。例えば、既存の方法に従い、リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)と、炭酸カルシウム(CaCO3)を出発原料として用い、二価陰イオン源として(NH4)2SO4を用い、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO2)を用いて、(Ca+□)/(P+Si+S)のモル比が1.57(構造中の□(空孔)を考慮した配合、□量は全陽イオンに対して4.55 mol%とする)となるように配合した。各出発原料を乾式混合し、得られた混合物を焼成して生成される。一例を図6に示す。各出発原料を1時間乾式混合(S0601)する。これを昇温速度3℃/min、焼成温度1000℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成する(S0602)。続いて再度1時間の乾式混合を行う(S0603)。そして再度、昇温速度3℃/min、焼成温度1000℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成し(S0604)、得られた焼成体が本発明に係る二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPとなる。
【0042】
なお、後述する実施例1において評価される二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPは、図6に示す方法で合成されたものである。
【0043】
(4)二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成
【0044】
本発明に係る、二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成は既存の方法に従い、固相反応による乾式法と、水溶液反応による湿式法のどちらでもよいが、不純物相の生成を抑制できる点で、乾式法が好ましい。例えば、既存の方法に従い、リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)と、炭酸カルシウム(CaCO3)を出発原料として用い、二価陽イオン源としてMgOを用い、二価陰イオン源として(NH4)2SO4を用い、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO2)を用いて、(Ca+Mg+□)/(P+Si+S)のモル比が1.57(構造中の□(空孔)を考慮した配合、□量は全陽イオンに対して4.55 mol%とする)となるように配合した。各出発原料を乾式混合し、得られた混合物を焼成して生成される。一例を図7に示す。各出発原料を1時間乾式混合(S0701)する。これを昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成する(S0702)。続いて再度1時間の乾式混合を行う(S0703)。そして再度、昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成し(S0704)、得られた焼成体が本発明に係る、二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPとなる。
【0045】
なお、後述する実施例2において評価される二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPは、図7に示す方法で合成されたものである。
【0046】
(5)一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの焼結
【0047】
本発明に係る、一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの焼結は既存の方法に従い行えばよい。一例を図8に示す。リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)と、炭酸カルシウム(CaCO3)を出発原料として用い、一価陽イオン源としてNa2CO3を用い、二価陽イオン源として酸化マグネシウム(MgO)を用い、二価陰イオン源として(NH4)2SO4を用い、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO2)を用いて、(Ca+Mg+Na+□)/(P+Si+S)のモル比が1.57(構造中の□(空孔)を考慮した配合,Na量の添加にともない□量は減少する)となるように配合した。上記出発原料をボールミルで48時間湿式混合する(S0801)。溶媒としてエタノールなどの有機溶媒を用いる。その後、エバポレータなどを用いて溶媒を除去する(S0802)(混合工程)。溶媒除去後の混合体を再度溶媒に入れて粉砕し(S0803)、その後再度溶媒を除去する(S0804)(粉砕工程)。ここで得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成し(成型工程)(S0805)、当該成型体を焼成し(焼成工程)(S0806)、焼結体を得る。ここで、一軸加圧成型(S0805)は、32MPaで1分間加圧する。使用する金型は45mm×20mmである。また、焼成(S0806)は、昇温速度3℃/min、焼成温度1150℃、保持時間24時間、大気雰囲気中の条件下で行う。
【0048】
なお、図9に示すように、ボールミルで湿式混合し(S0901)、溶媒を除去(S0902)した後、仮焼工程(S0903)を行ってもよい。また、一軸加圧成型(S0906)後にCIP成型工程(S0907)を行ってもよい。当該仮焼工程(S0903)は、昇温速度3℃/min、焼成温度1100℃、保持時間24時間、大気雰囲気中の条件下行う。また、CIP成型工程(S0907)は200MPaで1分間加圧成型する。なお、仮焼工程における仮焼温度の違いにより、焼結性及び焼結体の機械的強度に明らかな差異が見られるため、仮焼工程を行うことによりこれらを調整することが可能である。また、CIP成型工程により、より均一な焼結体の製造が可能である。
【0049】
<実施形態1:効果>
【0050】
β-TCPの三価の陰イオンであるリン酸イオンの他に、二価陰イオンと四価陰イオンとがβ-TCPに同時に固溶することを明らかにした本発明は、β-TCPに固溶させるイオンの選択範囲を増加させるだけでなく、固溶した二価陰イオン及び四価陰イオンに起因する材料の溶解性制御、骨生成促進作用なども有する新規な硬組織代替用生体材料として応用範囲の拡大につながる。
【0051】
本発明では、一般的なリン酸三カルシウムの製造方法である固相法を用いて、高温相のα-TCPではなく低温相のβ-TCPに二価陰イオン及び四価陰イオンを固溶させるため、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法および高温処理(焼成)を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインで製造できるため、少ない設備投資やコストで固溶させた陰イオンに起因する骨生成促進効果などを有したβ-TCPの製造が可能となる。
【実施例1】
【0052】
二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの評価
【0053】
図6に示す方法により作成した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP(以下、単に「試料」とする)について、X線回折、FT−IR、の試験を行った。なお、本実施例の資料の乾式混合時の原料のモル配合比を下記表3に示し、重量配合量を下記表4に示す。
[表3]
[表4]
【0054】
(1)X線回折
【0055】
リガク製RAD-2C型X線回折装置を用いて、試料の結晶相の同定を行った。測定条件は、ターゲット:CuKαモノクロメーター、走査範囲(2θ):10-60°、スキャンステップ:0.020°、 スキャンスピード:8°/min、使用管電圧:40kV、使用管電流:30mA、である(以下の実施例でも同様である)。
【0056】
図10に、Si4+イオン(SiO44−:四価陰イオン)と、S6+イオン(SO42−:二価陰イオン)の添加量をそれぞれ0〜50mol%に変化させて作製した試料のX線回折図を示す。図10から,Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料の回折ピークは、すべてβ-TCPの回折ピークと一致せず、β-TCP単相ではなかった。また、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5〜20mol%では、水酸アパタイト(HApHHHHHHHhhhhhdddaaaaaaaaa)の回折ピークを、5〜50mol%ではCaSO4とCa2SiO4の回折ピークを確認した。また、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ40〜50mol%において帰属不明の回折ピークを確認した。この配合では安定的にβ-TCPを調製することはできないことがわかった。
【0057】
(2)FT−IR
【0058】
日本分光製FT/IR-230型フーリエ変換型赤外分光光度計を用いて定性分析を行った。測定範囲は、400-4000cm−1、積算回数は68回である。試料の測定はKBrを用いた拡散反射法により行い、試料とKBrの混合重量比は試料1に対し、KBrが約20の比率である(以下の実施例でも同様である)。
【0059】
図11に、Si4+イオン(SiO44−:四価陰イオン)と、S6+イオン(SO42−:二価陰イオン)の添加量をそれぞれ0〜50mol%に変化させて作製した試料のFT−IRスペクトルを示す。図11から、Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料すべてに,800〜1000cm-1付近でSiO4基に帰属する吸収、1100〜1300cm-1付近ではSO4基に帰属する吸収を確認した。β-TCPは945cm-1(ν1)、432cm-1(ν2)、1010cm-1(ν3)、550cm-1(ν4)付近にPO4基に帰属する4つの基準振動が現れ、ν 1とν 3は伸縮振動、ν 2とν 4は変角振動である。HApは、3570cm-1にO-H伸縮振動と633 cm-1にO-H面外変角振動に帰属する吸収が現れる。Si4+イオンとS6+イオン添加量の増加にしたがい、PO4基に帰属する吸収強度は低下し、OH基に帰属する吸収と帰属不明の吸収を確認した。
【0060】
以上のことから,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5mol%以上の場合では,β-TCPのPサイト(酸素酸塩の陰イオンの中心元素位置)に完全に固溶しないため、副生成物との混合相となったと考えた。
【0061】
(4)まとめ
【0062】
本実施例では、Si4+イオンとS6+イオンを等量添加したβ-TCPを作製した。その結果、X線回折図より、Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料はすべてβ-TCP単相ではないことを確認した。Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5〜20mol%では水酸アパタイト(HApHHHHHHHhhhhhdddaaaaaaaaa)、5〜50mol%ではCaSO4とCa2SiO4の混合相となった。FT-IRではSi4+イオンとS6+イオン添加量の増加にしたがい、PO4基に帰属する吸収強度の低下と、OH基に帰属する吸収を確認した。以上のことから,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5mol%以上は,β-TCPのPサイトに完全に固溶しなかったため、副生成物との混合相となったと考えた。
【実施例2】
【0063】
二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの評価
【0064】
図7に示す方法により作成した、二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP(以下、単に「試料」とする)について、X線回折、FT−IR、格子定数の試験を行った。なお、本実施例の資料の乾式混合時の原料のモル配合比を下記表5に示し、重量配合量を下記表6に示す。
[表5]
[表6]
【0065】
(1)X線回折
【0066】
図12に、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオン(SiO44−:四価陰イオン)とS6+イオン(SO42−:二価陰イオン)の添加量をそれぞれ5〜50mol%に変化させて作製した試料のX線回析図を示す。図12から、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5〜20mol%の試料では、β-TCPの回折ピークを確認した。しかし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5〜40mol%では HAp、40mol%ではCaSO4とCa2SiO4、50mol%ではCa5(SiO4)2SO4 の回折ピークを確認した。
【0067】
(2)FT−IR
【0068】
図13に、上記作製した試料のFT-IRスペクトルを示す。図13から、Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料すべてで、800〜1000cm-1付近でSiO4基に帰属する吸収、1100-1300cm-1付近ではSO4基に帰属する吸収を確認した。Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ10〜20mol%では500〜600cm-1および900〜1200cm-1にPO4基に帰属する吸収を確認した。しかし,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ10mol%以上ではOH基に帰属する吸収が認められた。
【0069】
以上の結果から、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンを等量添加して作製した試料は、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ20mol%までβ-TCP組成を確認できたが、HApとの混合相になった。この結果は、Mg2+イオンがCa(5)サイトに置換固溶することによってTCP構造が安定化し、Si4+イオンとS6+イオンがβ-TCPのPサイト(酸素酸塩の陰イオンの中心元素位置)に置換固溶したのでβ-TCP相が現れたが、完全には置換していないため、Ca/Pモル比が変わり、副生成物が生成したと考えられた。
【0070】
上記のように、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ5〜50mol%と変化させて作製した試料は、β-TCPとHApとの混合相になった。しかし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%以下に固溶限界があることが考えられたため、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ0〜6mol%と変化させて試料を作製した。作製した試料のX線回析図とFT-IRスペクトルをそれぞれ図14、図15に示す.
【0071】
図14から、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%までの試料は、β-TCPの回折ピークと一致したため、β-TCP単相であることを確認した。一方、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%を超えるとβ-TCPに加え、副生成物としてHApの回折ピークを確認した。
【0072】
図15から、上記作製したすべての試料において500〜600cm-1および900〜1200cm-1にPO4基に帰属する吸収を、800〜1000cm-1付近にはSiO4基に帰属する吸収、1100〜1300cm-1付近にSO4基に帰属する吸収を確認した。また、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%を越えるとOH基に帰属する吸収を3700 cm-1付近に確認した。
【0073】
(3)格子定数
【0074】
格子定数の測定には、リガク製回転対陰極型X線回折装置RINT-1500を使用し、内部標準試料としてSi(99.99%、三津和化学薬品株式会社)を用い、β-TCPの回折線 (2 0 10)、(2 1 8)、(2 2 0)、(3 2 8)、(2 0 20)の5本とSiの回折線(1 1 1)、(2 2 0)、(3 1 1)、(4 0 0)の4本について最適な条件下で予備測定した。測定は、使用管電圧:40kV、使用管電流:200mA、にて行った。また、測定したX線回折図についてピークトップ法を用いた内部標準法で角度補正を行い、次式を用いて最小二乗法で格子定数の精密化を行った(以下の実施例でも同様である)。
[数1]
【0075】
上記作製した試料の格子定数の値を表7に、その変化を図16に示す。作製した試料の格子定数は、a軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量に関わらず一定であった。c軸は添加量がそれぞれ4mol%までは増加したが、それ以上では一定の傾向性が見られなくなった。したがって、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%以上はβ-TCPとは別の副生成物が生成したと考えた。
[表7]
【0076】
以上の結果より,β-TCP単相となった範囲と一定の格子定数変化が現れた範囲とが一致したことから,Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量を変化させた場合、Si4+イオンとS6+イオンはそれぞれ4mol%まで置換固溶したと考えられる。これは、Mg2+イオンを9.09mol%加えたことによって、β-TCPの結晶構造が安定化し、Si4+イオンとS6+イオンの同時固溶が可能となったと考えられる。
【0077】
(4)まとめ
【0078】
本実施例では、Mg2+イオンを9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ5〜50mol%で変化させた試料を作製した。X線回折図より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%(全量としては全陰イオン位置の8mol%)までの試料は、β-TCP単相であることを確認した。また、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5〜20mol%までは、β-TCPの回折ピークを確認したが、5〜40mol%では HAp、40mol%ではCaSO4とCa2SiO4、50mol%ではCa5(SiO4)2SO4 の混合相となった。作製した試料の格子定数は、a軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量に関わらず一定で、c軸は添加量がそれぞれ4mol%までは増加した。しかし、それ以上の添加量では一定の傾向性が見られなくなった。したがって,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5mol%以上ではβ-TCPとは別の副生成物が生成したと考えた。β-TCP単相となった範囲と一定の格子定数変化が現れた範囲とが一致したことから、Mg2+イオンの添加量9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量を変化させた場合、Si4+イオンとS6+イオンはそれぞれ4mol%まで置換固溶したと考えられる。これは、Mg2+イオンを9.09mol%加えたことによってβ-TCPの結晶構造を安定化させ、Si4+イオンとS6+イオンとが同時固溶したと考えられる。
【実施例3】
【0079】
一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP焼結体の評価
【0080】
図9に示す方法により作成した一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP焼結体(以下、単に「焼結体試料」とする)について、X線回折、FT−IR、格子定数変化、機械的性質の試験を行った。なお、本実施例の一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP焼結体作成における原料のモル配合比を下記表8に示し、重量配合量を下記表9に示す。
[表8]
[表9]
【0081】
(1)X線回折
【0082】
図17に、Mg2+イオンとNa+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ0〜7mol%と変化させて作製したβ-TCP焼結体の試料のX線回折図を示す。図17から、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ5mol%(全量としては全陰イオン位置の10mol%)までとした試料は、β-TCPの回折ピークと一致したため、β-TCP単相であることを確認し、それ以上では、β-TCPに加え副生成物としてHApの回折ピークを確認した。
【0083】
(2)FT−IR
【0084】
図18に、上記作製したβ-TCP焼結体のFT-IRスペクトルを示す。図18より、作製したすべての試料で500〜600cm-1および900〜1200cm-1にPO4基に帰属する吸収を、800〜1000cm-1付近にはSiO4基に帰属する吸収、1100〜1300cm-1付近にSO4基に帰属する吸収を確認した。一方、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%を越えるとOH基に帰属する吸収が3700 cm-1付近に確認された。
【0085】
(3)格子定数
【0086】
上記作製したβ-TCP焼結体の格子定数の値を表10に、その変化を図19に示す。作製した試料の格子定数は、a軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量に関わらず一定となった。c軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%までは増加したが、5mol%以上では一定の傾向性は見られなくなった。したがって、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ6mol%以上ではβ-TCPとは別の副生成物が生成したと考えられる。
[表10]
【0087】
以上の結果より、β-TCP単相となった範囲と一定の傾向をもつ格子定数変化が現れた範囲とが一致したことから、Mg2+イオンとNa+イオンの添加量9.09mol%で一定とし、Mg2+イオンをCa(5)サイトに,Na+イオンをCa(4)サイトと空孔とに固溶させ,Si4+イオンとS6+イオンの添加量を変化させた場合は、Si4+イオンとS6+イオンはそれぞれ5mol%(全量としては全陰イオン位置の10 mol%)まで置換固溶したと考えられる。
【0088】
(4)機械的性質
【0089】
a) 体積収縮率変化
【0090】
図20に、上記作製したβ-TCP焼結体の体積収縮率を示す。体積収縮率は、Si4+イオンとS6+イオン添加量の増加に従い減少した。このことから、Si4+イオンとS6+イオンとの固溶により焼成における焼結体の収縮が進行しないことがわかった。
【0091】
b) 焼結体の曲げ強度測定
【0092】
曲げ強度はJIS R 1601に基づき、オートグラフ(AG-1、島津製作所製)を使用し、以下の条件で三点曲げ試験を行い測定した。
【0093】
支点間距離:30mm
クロスヘッド速度:0.5 mm・min-1
試料片本数:2〜6 本
試料片サイズ:3.0×4.0×36mm
試験温度:室温
試験雰囲気:大気中
試料の加工:焼結切断には低速切断機(ISOMETtm、BUEHLER製)を、表面研磨には研磨機(ダイアラップML-150、マルトー製)を使用し、耐水研磨紙♯200、♯400で研磨と面取りを行った。
【0094】
測定した焼結体の最大荷重から曲げ強度をJIS-R-1601に基づき、次式より求めた。
[数2]
ここで、σは三点曲げ強さ(MPa)、Pは試験片が破壊したときの最大荷重(N)、Lは支点間距離(mm)、wは試験片の幅(mm)、tは試験片の厚さ(mm)である。
【0095】
上記作製した焼結体の曲げ強度変化を図21に示す。曲げ強度についても、体積収縮率と同様の傾向を示し、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加に従い減少し、Si4+イオンとS6+イオンの添加量0mol%の時に最大曲げ強度(約30MPa)を示した。
【0096】
c) アルキメデス法による開気孔率およびかさ密度の測定
【0097】
開気孔率およびかさ密度は、アルキメデス法(JIS R 1634)で溶媒には純水を用いて行った。開気孔率およびかさ密度は下記の式より求めた。
[数3]
ここで、W1は試料の乾燥重量(g)、W2は飽水試料の水中重量(g)、W3は飽水試料の空中質量(g)、Sは純水の密度(1.0g・cm-3)である。
【0098】
上記作製した焼結体の開気孔率およびかさ密度の測定結果を図22に示す。開気孔率およびかさ密度については、Si4+イオンとS6+イオン添加量の増加にしたがい開気孔率は増加し、かさ密度は減少した。これらの結果から、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加にともない気孔が増加したことから、焼結性が低下していることが明らかになった。
【0099】
d) 焼結体の微構造の観察
【0100】
焼結体の微構造観察にはKEYENCE製走査型電子顕微鏡(SEM)VE-7800を用いて以下の測定条件により観察した。三点曲げ試験後の焼結体を研磨機(ダイアラップML-150、マルトー製)を使用し、耐水研磨紙#200、#400、#800、#1500、ラッピングダイヤ液MM-130、ポリシングダイヤMM-140を用いて鏡面研磨を行った後、昇温速度5℃・min-1、保持時間3時間、大気雰囲気、1000℃でサーマルエッチングを行い、観察試料とした。観察試料はあらかじめイオンスパッタ装置(FINE CORT FC-1100、日本電子製 0.75 kV、75 mA)を使用して、金を蒸着させた。また、必要な場合にはドータイトによる前処理も行った。
【0101】
フィラメント:W(タングステン)
加速電圧:1〜3kV
【0102】
上記作製した焼結体の微構造を図23に示す。微構造観察結果より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加にともない気孔が増加したことから、焼結性が低下していることが明らかになった。
【0103】
これらの結果より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量が増加すると、気孔の増加およびかさ密度の減少し、それにしたがって曲げ強度が低下したと考えられる。
【0104】
(5)まとめ
【0105】
本実施例では、Mg2+イオンとNa+イオンを9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ0〜7mol%と変化させて焼結体を作製した。X線回折図より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%までの試料は、β-TCP単相であることを確認し、5mol%以上では、β-TCPとHApの混合相となった。格子定数の値は、a軸は添加量に関わらず一定となり、c軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%(全量としては全陰イオン位置の10 mol%)まで増加した。しかし、それ以上の添加量では一定の傾向性は見られなくなり、β-TCPとは別の副生成物が生成したと考えられる。体積収縮率、曲げ強度は、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加にしたがって減少し、開気孔率は増加し、かさ密度は減少した。微構造からも気孔が増加していることがわかった。以上のことから,Si4+イオンとS6+イオンの同時添加によって体積収縮,焼結抑制,気孔の増大などの焼結体の微構造制御が可能であることを明らかにした。
【技術分野】
【0001】
本発明はβ型リン酸三カルシウムのリン酸サイトに二価の陰イオンと四価の陰イオンを同時に置換固溶させた生体材料セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
医療材料、特に人工骨をはじめとする硬組織用代替材料として利用されているリン酸三カルシウム[TCP; Ca3(PO4)2]は、その結晶構造中のカルシウムイオンおよびリン酸イオンと金属イオンが置換固溶する特徴を有している。当該特徴に注目してTCPのカルシウムイオンと金属イオンを置換固溶した人工骨材が知られている。例えば、特許文献1においてカルシウムイオンを亜鉛イオン(Zn2+イオン)で置換した亜鉛含有TCPが報告されている。
【0003】
また、TCP結晶構造中におけるリン酸イオンは、陰イオンが置換固溶する特徴を有する。当該特徴に着目してリン酸イオンと価数の同じである三価陰イオンを置換固溶したTCP硬組織用代替材料が知られている。例えば、骨形成を促進するバナジウムの一種であるバナジン酸(VO43-)イオンがTCP構造中におけるリン酸サイトに固溶したバナジン酸イオン含有(固溶)TCPがこれまでに報告されている。この硬組織用代替材料は、VO43-イオンの固溶によって焼結体の焼結性が向上し、微粒で気孔の少ない緻密な微構造を示し、その機械的性質が向上して生体骨と同等の機械的強度を有する。
【0004】
また、二価の陰イオンを置換固溶した生体材料用リン酸カルシウム化合物としては、炭酸(CO32-)イオンがHAp結晶構造中のリン酸イオンと置換固溶した硬組織用代替材料が報告されている。例えば、非特許文献1においては、CO32-イオンの固溶で、HApに比べて溶解性が促進し、物理学的性質も生体骨に類似し、細胞の分化や増殖や石灰化能も良好であることが報告されている。
【0005】
また、四価の陰イオンを置換固溶した生体材料用リン酸カルシウム化合物としては、上記のケイ酸含有リン酸三カルシウムに加えて、水酸アパタイト(HAp)構造中のリン酸サイトにケイ酸(SiO44-)イオンが置換固溶したケイ酸固溶アパタイトが知られている。当該水酸アパタイトは、TCPと同様に硬組織用代替材料として臨床応用されているものである。ケイ酸イオンの固溶によって材料化学的にはHAp構造の熱安定性は低下するが、HAp焼結体作製時の焼成温度の低下や焼結性の向上が認められている。一方、生物学的観点からも細胞接着性や骨形成の促進および骨成長密度の増加することが報告されている。また、特許文献2においては、ケイ酸イオンがTCPのリン酸イオンと置換固溶したケイ酸含有TCPも報告されている。
【0006】
また、本発明者は、先の出願である特許文献3において、二価または四価陰イオン及び電荷補償・構造安定化のための陽イオンを固溶したβ型リン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスの調製方法とそのセラミック特性について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−175760
【特許文献2】特開2008−214111
【特許文献3】特願2010−105736
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】岩永寛司、渋谷俊昭、土井豊、森脇豊、岩山幸雄、岐阜歯科学誌、28、90 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記亜鉛またはケイ酸含有TCPは、ともに液相法(湿式法)を用いて合成している。しかし、湿式法によるTCPの合成では、TCPがCa/Pモル比=1.50のみで生成するため、TCPのほかに副生成物としてHApやピロリン酸カルシウムが生成しやすく、実験プロセスが多いことに加え、TCP相のみを得るためには実験条件(反応温度や反応溶液のpHなど)の厳密な制御および熟練した実験操作が必要となる。また、上記亜鉛またはケイ酸含有TCPの技術に関しては、生体材料に求められる性質の一つである力学的適合性の評価を行っていない。
【0010】
また、上記ケイ酸含有TCPは、TCPの高温相であるα-リン酸三カルシウム(α-TCP)にケイ酸イオンが含有している。しかし、α-リン酸三カルシウムは低温相であるβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)に比べて溶解性が高く、機械的強度も低いため、生体材料としての使用が制限される。α-リン酸三カルシウムは実際に生体材料としては、水和反応しやすく、それにともない硬化する特長を有するため、主に体内で硬化するリン酸カルシウムセメントの主要成分と使用されているのみであり(特開2001-95913号他多数)、β-TCPのように人工骨としての使用例はない。また、SiO44-イオンは、HApやα-TCPにはそれ単独で置換固溶するが、β-TCPには単独で置換固溶しない。また、上記CO32-イオンのような二価の陰イオンをTCP(α-TCPおよびβ-TCP)結晶構造中のリン酸サイトに置換固溶した人工骨材を含む材料はこれまでに報告されていない。
【0011】
また、上記特許文献3においては、β型リン酸三カルシウムへの二価陰イオン又は四価陰イオンの固溶可能性を示したものであるが、実際には二価陰イオン又は四価陰イオンのそれぞれの単独固溶を示したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)そこで、本発明として、三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを提案する。
【0013】
(2)また、同時に固溶する二価陰イオンと四価陰イオンの固溶量によって溶解性及び焼結性が制御された上記(1)に記載の生体材料セラミックスを提案する。
【0014】
(3)また、二価陰イオンは、硫酸イオンである上記(1)又は(2)に記載の生体材料セラミックスを提案する。
【0015】
(4)また、四価陰イオンは、ケイ酸イオンである上記(1)から(3)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスを提案する。
【0016】
(5)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムの焼結体からなる生体材料セラミックスを提案する。
【0017】
(6)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が粉体である生体材料セラミックスを提案する。
【0018】
(7)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が顆粒体である生体材料セラミックスを提案する。
【0019】
(8)また、上記(1)から(4)のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が膜状である生体材料セラミックスを提案する。
【0020】
(9)また、略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに乾式混合し、得られた混合物を焼成して合成される請求項1から8のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックスを提案する。
【0021】
(10)また、略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに湿式混合した後、得られた混合物から溶媒エタノールを除去する混合工程と、混合工程で得られた混合体を溶媒中で粉砕した後、前記溶媒を除去する粉砕工程と、粉砕工程で得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成する成型工程と、成型工程で得られた成型体を焼成する焼成工程と、を有するリン酸三カルシウム焼結体製造方法を提案する。
【0022】
(11)また、混合工程における二価陰イオン源となる化合物及び四価陰イオン源となる化合物の混合量によってリン酸三カルシウム焼結体の溶解性及び焼結性を制御する上記(10)に記載のリン酸三カルシウム焼結体製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0023】
β-TCPの三価の陰イオンであるリン酸イオンと価数の異なる二価または四価陰イオンがβ-TCPに固溶することを明らかにした本発明は、β-TCPに固溶させる(金属)イオンの選択範囲を増加させるだけでなく、固溶した陰イオンに起因する骨生成促進作用なども有する新規な硬組織代替用生体材料として応用範囲の拡大につながる。
【0024】
本発明では、一般的なリン酸三カルシウムの製造方法である固相法を用いて、高温相のα-TCPではなく低温相のβ-TCPに二価または四価の陰イオンを固溶させるため、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法および高温処理(焼成)を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインで製造できるため、少ない設備投資やコストで固溶させた陰イオンに起因する骨生成促進効果などを有したβ-TCPの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】β型リン酸三カルシウムの結晶構造を示す概念図
【図2】β型リン酸三カルシウムの結晶構造を構成するカラムを示す概念図
【図3】一価の金属イオンの固溶形態を示す図
【図4】二価の金属イオンの固溶形態を示す図
【図5】二価陰イオン(SO42-イオン)と四価陰イオン(SiO44-イオン)の固溶形態を示す図
【図6】二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムの合成方法を示す処理フロー図
【図7】二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムの合成方法を示す処理フロー図
【図8】一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムからなる焼結体の製造方法を示す処理フロー図(1)
【図9】一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に固溶したβ型リン酸三カルシウムからなる焼結体の製造方法を示す処理フロー図(2)
【図10】実施例1のβ型リン酸三カルシウムのX線回折図
【図11】実施例1のβ型リン酸三カルシウムのFT-IRスペクトルを示す図
【図12】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのX線回折図(1)
【図13】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのFT-IRスペクトルを示す図(1)
【図14】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのX線回折図(2)
【図15】実施例2のβ型リン酸三カルシウムのFT-IRスペクトルを示す図(2)
【図16】実施例2のβ型リン酸三カルシウムの格子定数変化を示す図
【図17】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体のX線回折図
【図18】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体のFT-IRスペクトルを示す図
【図19】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の格子定数変化を示す図
【図20】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の体積収縮率変化を示す図
【図21】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の曲げ強度変化を示す図
【図22】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の開気孔率変化とかさ密度変化を示す図
【図23】実施例3のβ型リン酸三カルシウム焼結体の微構造を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要>
【0027】
三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックス、及びその焼結体について説明する。
<実施形態1:構成>
【0028】
本発明の生体材料セラミックスとは、事故や病気などにより欠損、喪失した歯や骨などの生体硬組織の置換材料として用いられるものであって、二価の陰イオン及び四価の陰イオンが後述する形態でリン酸イオン(PO43-)と置換固溶したβ-TCPからなる生体材料セラミックスであれば、その形状は特に限定しない。粉体、顆粒体、膜状のものや、多孔体、緻密体などの焼結体が該当する。また、固溶とは、2種類以上の元素が互いに溶け合い、全体が均一の固相になることをいい、焼結体とは融点より低い温度で加熱して固化したものをいう。
【0029】
(1)固溶形態
【0030】
本発明に係るβ-TCPは、結晶中のリン酸イオン(PO43-)を硫酸イオン等の二価の陰イオン及びケイ酸イオン等の四価の陰イオンで置換固溶したものである。β-TCPの機械的強度は、その結晶構造、結晶性(粒子サイズなど)に影響を受けるため、結晶中の所定量のリン酸イオン(PO43-)を二価の陰イオン及び四価の陰イオンで置換固溶することにより、当該β-TCPからなる生体材料セラミックスの機械的強度を制御することが可能である。
【0031】
(リン酸三カルシウムの性質)
リン酸三カルシウム〔Ca3(PO4)2:TCP〕には、低温からβ、α、α'の三つの相が存在する。α'-TCPは1450℃付近から高温で安定であり常温では得られない。α-TCPは1120-1180℃以下でβ-TCPに相転移するが、転移の速度が遅いため常温で準安定相として存在する。天然にはWhitlockite〔(Ca18(Mg,Fe)2H2(PO4)14、β相と類似)として存在する。α-TCPおよびβ-TCPはともに生体活性材料であり、バイオセラミックスとして利用されている。これらの生体内における挙動はHApと似ているが、溶解度はHApより大きく、β-TCPの溶解度はHApの約2倍、α-TCPはHApの約10倍である。
【0032】
β-TCPは HApよりCa/Pモル比が低い(Ca/Pモル比=1.50)ため、β-TCPは他のリン酸カルシウム系セラミックスと比較して生体中での溶解および吸収速度が大きく、新生骨の生成とともに自家骨と置換するため人工歯根や骨充填材として臨床応用されている。また、β-TCPはα-TCPへの転移温度である1150℃以下の温度で焼結体が作製でき、このような焼成プロセスにより分解などを起こさず、吸水性もある。材料の吸収速度が周囲に形成する骨生成速度と適合し、新たに形成した骨が十分な強度をもつことが理想的なバイオセラミックスと考えられるため、β-TCPはこの条件を満たす可能性を有する数少ない材料である。
【0033】
一方、α-TCPは水和してHApとなり、その時に硬化する性質があるため生体用セメントとして応用されている。しかし、水のみによる硬化では硬化時間が生体用セメントの使用条件にくらべて長すぎるため、硬化促進のためクエン酸、ポリアクリル酸などの酸を硬化剤として添加する方法も用いられている。しかし、生体用セメントとして酸を用いた場合、充填部位周辺に炎症性の反応が生じるため、酸を用いないかまたは酸を積極的に中和させるタイプのセメントが開発されている。
【0034】
(β型リン酸三カルシウムの結晶構造)
β-TCPの空間群はR3cで菱面体晶系に属する。格子定数は六方格子設定でa=1.04352(2)nm、c=3.74029(5)nmである。図1、図2にβ-TCPの結晶構造を示す。β-TCPは結晶構造(単位格子)中にCaとPO4四面体からなる結晶学的に独立なA、B 2本のカラムが存在し、これら2本のカラムがc軸に平行に存在している。カラムAはc軸(3回軸)上に存在し、P(1)-Ca(4)-Ca(5)-P(1)-空孔-Ca(5)の繰り返しである。天然鉱物であるWhitlockiteではCa(4)およびCa(5)サイトにはMgやFeといった他の金属イオンが置換する。また、Ca(4)サイトは席占有率が約0.5であるため、カラムAに空孔が存在する特異な結晶構造をもっている。カラムBはP(2)-Ca(3)-Ca(1)-Ca(2)-P(3)の繰り返しであるが、三つのCaは一直線上にのらずに1/3ずつずれるため折れ線を形成する。下記の表1と表2に空孔を考慮したβ-TCP単位格子中の各Ca2+イオンサイトおよびPO43-イオンサイトの割合を示した。
[表1]
[表2]
【0035】
(金属イオン固溶β型リン酸三カルシウム)
【0036】
図3、図4に一価と二価金属イオンの固溶形態を示す。一価金属イオンはCa(4)サイトおよび空孔に2MI=Ca2+イオン+□(□:空孔)の形態で固溶し、その固溶限界は9.09mol%であり、二価金属イオンはまずCa(5)サイトに9.09mol%まで固溶して、Ca(5)サイトが二価金属イオンで埋まるとCa(4)サイトに13.64mol%まで固溶する(MII=Ca2+イオン)ことが分かっている。
【0037】
一方、β-TCPへの金属イオンの固溶がβ-α相転移温度や焼結性、機械的強度、溶解性に影響を与えることも分かっている。ここでは金属イオンの固溶がβ-TCPの溶解性に及ぼす影響について述べる。β-TCPの溶解度はHApの約2倍であるが、Ba2+イオンを固溶したβ-TCP焼結体の溶解度はHApの約1.7倍に減少することが報告されている。Mg2+イオン固溶β-TCPと比較すると、溶解度はβ-TCP>Mg2+イオン固溶β-TCP>Ba2+イオン固溶β-TCP>HApとなる。また、薬理作用があるZn2+イオンを固溶させた骨形成促進作用を有する亜鉛徐放型β-TCPも作製されており、これについても溶解性が減少することが報告されている。
【0038】
また、一価金属イオンを固溶すると、Ca2+イオン溶出率は、β-TCP>K+イオン固溶β-TCP>Na+イオン固溶β-TCP>Li+イオン固溶β-TCPの順となり、とくにLi+イオンを固溶すると溶出率がいちじるしく低下すること、また、Mg2+イオンを固溶してもCa2+イオンの溶出率は低下するが、Na+イオンと同時に固溶することで、それぞれ単独で固溶するよりも溶出率がさらに低下することが明らかになっている。
【0039】
図5に二価陰イオン(SO42-イオン)と四価陰イオン(SiO44-イオン)の固溶形態を示す。本発明では、PO43-イオンと価数が異なるため単独固溶できない二価陰イオン及び四価陰イオンを同時に異なるPO4サイトに固溶させることを実現した。具体的には、Caサイトに陽イオンを固溶させることによって、β-TCP構造を安定化させ、陰イオンサイト内の置換を起こりやすくさせた。例えば、一価金属イオンはCa(4)サイトに固溶することが明らかになっていることからNa+イオンを用いてCa(4)サイトに固溶させた。また、二価金属イオンはCa(5)サイトに固溶することが明らかになっていることからMg+イオンを用いてCa(5)サイトに固溶させた。これにより、一価又は/及び二価金属イオンとしてこれまでに固溶形態が明らかになっているNa+イオンとMg2+イオン、二価陰イオンとして硫酸イオン(SO42-イオン)、四価陰イオンとしてケイ酸イオン(SiO44-イオン)、を同時に固溶したβ-TCPを作製することが可能になった。なお、Ca(4)サイトに入れる一価の陽イオンとしてはNa+イオンの他に、K+イオンやLi+イオンなども可能である。また、Ca(5)サイトに入れる二価の陽イオンとしてはMg2+イオンの他に、Mn2+イオンなども可能である。これらの陽イオンをCa(4)サイト、Ca(5)サイトに入れることによってCa(4)の空孔がなくなり、結晶構造の安定化がなされているものと考えられる。
【0040】
(3)二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成
【0041】
本発明に係る二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成は既存の方法に従い、固相反応による乾式法と、水溶液反応による湿式法のどちらでもよいが、不純物相の生成を抑制できる点で、乾式法が好ましい。例えば、既存の方法に従い、リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)と、炭酸カルシウム(CaCO3)を出発原料として用い、二価陰イオン源として(NH4)2SO4を用い、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO2)を用いて、(Ca+□)/(P+Si+S)のモル比が1.57(構造中の□(空孔)を考慮した配合、□量は全陽イオンに対して4.55 mol%とする)となるように配合した。各出発原料を乾式混合し、得られた混合物を焼成して生成される。一例を図6に示す。各出発原料を1時間乾式混合(S0601)する。これを昇温速度3℃/min、焼成温度1000℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成する(S0602)。続いて再度1時間の乾式混合を行う(S0603)。そして再度、昇温速度3℃/min、焼成温度1000℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成し(S0604)、得られた焼成体が本発明に係る二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPとなる。
【0042】
なお、後述する実施例1において評価される二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPは、図6に示す方法で合成されたものである。
【0043】
(4)二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成
【0044】
本発明に係る、二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの合成は既存の方法に従い、固相反応による乾式法と、水溶液反応による湿式法のどちらでもよいが、不純物相の生成を抑制できる点で、乾式法が好ましい。例えば、既存の方法に従い、リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)と、炭酸カルシウム(CaCO3)を出発原料として用い、二価陽イオン源としてMgOを用い、二価陰イオン源として(NH4)2SO4を用い、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO2)を用いて、(Ca+Mg+□)/(P+Si+S)のモル比が1.57(構造中の□(空孔)を考慮した配合、□量は全陽イオンに対して4.55 mol%とする)となるように配合した。各出発原料を乾式混合し、得られた混合物を焼成して生成される。一例を図7に示す。各出発原料を1時間乾式混合(S0701)する。これを昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成する(S0702)。続いて再度1時間の乾式混合を行う(S0703)。そして再度、昇温速度3℃/min、焼成温度1200℃、保持時間12時間、大気雰囲気中の条件下で焼成し(S0704)、得られた焼成体が本発明に係る、二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPとなる。
【0045】
なお、後述する実施例2において評価される二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPは、図7に示す方法で合成されたものである。
【0046】
(5)一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの焼結
【0047】
本発明に係る、一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの焼結は既存の方法に従い行えばよい。一例を図8に示す。リン酸源及びカルシウム源としてリン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4)と、炭酸カルシウム(CaCO3)を出発原料として用い、一価陽イオン源としてNa2CO3を用い、二価陽イオン源として酸化マグネシウム(MgO)を用い、二価陰イオン源として(NH4)2SO4を用い、四価陰イオン源として二酸化ケイ素(SiO2)を用いて、(Ca+Mg+Na+□)/(P+Si+S)のモル比が1.57(構造中の□(空孔)を考慮した配合,Na量の添加にともない□量は減少する)となるように配合した。上記出発原料をボールミルで48時間湿式混合する(S0801)。溶媒としてエタノールなどの有機溶媒を用いる。その後、エバポレータなどを用いて溶媒を除去する(S0802)(混合工程)。溶媒除去後の混合体を再度溶媒に入れて粉砕し(S0803)、その後再度溶媒を除去する(S0804)(粉砕工程)。ここで得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成し(成型工程)(S0805)、当該成型体を焼成し(焼成工程)(S0806)、焼結体を得る。ここで、一軸加圧成型(S0805)は、32MPaで1分間加圧する。使用する金型は45mm×20mmである。また、焼成(S0806)は、昇温速度3℃/min、焼成温度1150℃、保持時間24時間、大気雰囲気中の条件下で行う。
【0048】
なお、図9に示すように、ボールミルで湿式混合し(S0901)、溶媒を除去(S0902)した後、仮焼工程(S0903)を行ってもよい。また、一軸加圧成型(S0906)後にCIP成型工程(S0907)を行ってもよい。当該仮焼工程(S0903)は、昇温速度3℃/min、焼成温度1100℃、保持時間24時間、大気雰囲気中の条件下行う。また、CIP成型工程(S0907)は200MPaで1分間加圧成型する。なお、仮焼工程における仮焼温度の違いにより、焼結性及び焼結体の機械的強度に明らかな差異が見られるため、仮焼工程を行うことによりこれらを調整することが可能である。また、CIP成型工程により、より均一な焼結体の製造が可能である。
【0049】
<実施形態1:効果>
【0050】
β-TCPの三価の陰イオンであるリン酸イオンの他に、二価陰イオンと四価陰イオンとがβ-TCPに同時に固溶することを明らかにした本発明は、β-TCPに固溶させるイオンの選択範囲を増加させるだけでなく、固溶した二価陰イオン及び四価陰イオンに起因する材料の溶解性制御、骨生成促進作用なども有する新規な硬組織代替用生体材料として応用範囲の拡大につながる。
【0051】
本発明では、一般的なリン酸三カルシウムの製造方法である固相法を用いて、高温相のα-TCPではなく低温相のβ-TCPに二価陰イオン及び四価陰イオンを固溶させるため、厳密な製造条件の制御、熟練した製造方法および高温処理(焼成)を必要とせず、現在のリン酸三カルシウムの製造ラインで製造できるため、少ない設備投資やコストで固溶させた陰イオンに起因する骨生成促進効果などを有したβ-TCPの製造が可能となる。
【実施例1】
【0052】
二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの評価
【0053】
図6に示す方法により作成した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP(以下、単に「試料」とする)について、X線回折、FT−IR、の試験を行った。なお、本実施例の資料の乾式混合時の原料のモル配合比を下記表3に示し、重量配合量を下記表4に示す。
[表3]
[表4]
【0054】
(1)X線回折
【0055】
リガク製RAD-2C型X線回折装置を用いて、試料の結晶相の同定を行った。測定条件は、ターゲット:CuKαモノクロメーター、走査範囲(2θ):10-60°、スキャンステップ:0.020°、 スキャンスピード:8°/min、使用管電圧:40kV、使用管電流:30mA、である(以下の実施例でも同様である)。
【0056】
図10に、Si4+イオン(SiO44−:四価陰イオン)と、S6+イオン(SO42−:二価陰イオン)の添加量をそれぞれ0〜50mol%に変化させて作製した試料のX線回折図を示す。図10から,Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料の回折ピークは、すべてβ-TCPの回折ピークと一致せず、β-TCP単相ではなかった。また、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5〜20mol%では、水酸アパタイト(HApHHHHHHHhhhhhdddaaaaaaaaa)の回折ピークを、5〜50mol%ではCaSO4とCa2SiO4の回折ピークを確認した。また、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ40〜50mol%において帰属不明の回折ピークを確認した。この配合では安定的にβ-TCPを調製することはできないことがわかった。
【0057】
(2)FT−IR
【0058】
日本分光製FT/IR-230型フーリエ変換型赤外分光光度計を用いて定性分析を行った。測定範囲は、400-4000cm−1、積算回数は68回である。試料の測定はKBrを用いた拡散反射法により行い、試料とKBrの混合重量比は試料1に対し、KBrが約20の比率である(以下の実施例でも同様である)。
【0059】
図11に、Si4+イオン(SiO44−:四価陰イオン)と、S6+イオン(SO42−:二価陰イオン)の添加量をそれぞれ0〜50mol%に変化させて作製した試料のFT−IRスペクトルを示す。図11から、Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料すべてに,800〜1000cm-1付近でSiO4基に帰属する吸収、1100〜1300cm-1付近ではSO4基に帰属する吸収を確認した。β-TCPは945cm-1(ν1)、432cm-1(ν2)、1010cm-1(ν3)、550cm-1(ν4)付近にPO4基に帰属する4つの基準振動が現れ、ν 1とν 3は伸縮振動、ν 2とν 4は変角振動である。HApは、3570cm-1にO-H伸縮振動と633 cm-1にO-H面外変角振動に帰属する吸収が現れる。Si4+イオンとS6+イオン添加量の増加にしたがい、PO4基に帰属する吸収強度は低下し、OH基に帰属する吸収と帰属不明の吸収を確認した。
【0060】
以上のことから,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5mol%以上の場合では,β-TCPのPサイト(酸素酸塩の陰イオンの中心元素位置)に完全に固溶しないため、副生成物との混合相となったと考えた。
【0061】
(4)まとめ
【0062】
本実施例では、Si4+イオンとS6+イオンを等量添加したβ-TCPを作製した。その結果、X線回折図より、Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料はすべてβ-TCP単相ではないことを確認した。Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5〜20mol%では水酸アパタイト(HApHHHHHHHhhhhhdddaaaaaaaaa)、5〜50mol%ではCaSO4とCa2SiO4の混合相となった。FT-IRではSi4+イオンとS6+イオン添加量の増加にしたがい、PO4基に帰属する吸収強度の低下と、OH基に帰属する吸収を確認した。以上のことから,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5mol%以上は,β-TCPのPサイトに完全に固溶しなかったため、副生成物との混合相となったと考えた。
【実施例2】
【0063】
二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCPの評価
【0064】
図7に示す方法により作成した、二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP(以下、単に「試料」とする)について、X線回折、FT−IR、格子定数の試験を行った。なお、本実施例の資料の乾式混合時の原料のモル配合比を下記表5に示し、重量配合量を下記表6に示す。
[表5]
[表6]
【0065】
(1)X線回折
【0066】
図12に、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオン(SiO44−:四価陰イオン)とS6+イオン(SO42−:二価陰イオン)の添加量をそれぞれ5〜50mol%に変化させて作製した試料のX線回析図を示す。図12から、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5〜20mol%の試料では、β-TCPの回折ピークを確認した。しかし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5〜40mol%では HAp、40mol%ではCaSO4とCa2SiO4、50mol%ではCa5(SiO4)2SO4 の回折ピークを確認した。
【0067】
(2)FT−IR
【0068】
図13に、上記作製した試料のFT-IRスペクトルを示す。図13から、Si4+イオンとS6+イオンを添加した試料すべてで、800〜1000cm-1付近でSiO4基に帰属する吸収、1100-1300cm-1付近ではSO4基に帰属する吸収を確認した。Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ10〜20mol%では500〜600cm-1および900〜1200cm-1にPO4基に帰属する吸収を確認した。しかし,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ10mol%以上ではOH基に帰属する吸収が認められた。
【0069】
以上の結果から、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンを等量添加して作製した試料は、Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ20mol%までβ-TCP組成を確認できたが、HApとの混合相になった。この結果は、Mg2+イオンがCa(5)サイトに置換固溶することによってTCP構造が安定化し、Si4+イオンとS6+イオンがβ-TCPのPサイト(酸素酸塩の陰イオンの中心元素位置)に置換固溶したのでβ-TCP相が現れたが、完全には置換していないため、Ca/Pモル比が変わり、副生成物が生成したと考えられた。
【0070】
上記のように、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ5〜50mol%と変化させて作製した試料は、β-TCPとHApとの混合相になった。しかし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%以下に固溶限界があることが考えられたため、Mg2+イオンの添加量を9.09mol%とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ0〜6mol%と変化させて試料を作製した。作製した試料のX線回析図とFT-IRスペクトルをそれぞれ図14、図15に示す.
【0071】
図14から、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%までの試料は、β-TCPの回折ピークと一致したため、β-TCP単相であることを確認した。一方、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%を超えるとβ-TCPに加え、副生成物としてHApの回折ピークを確認した。
【0072】
図15から、上記作製したすべての試料において500〜600cm-1および900〜1200cm-1にPO4基に帰属する吸収を、800〜1000cm-1付近にはSiO4基に帰属する吸収、1100〜1300cm-1付近にSO4基に帰属する吸収を確認した。また、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%を越えるとOH基に帰属する吸収を3700 cm-1付近に確認した。
【0073】
(3)格子定数
【0074】
格子定数の測定には、リガク製回転対陰極型X線回折装置RINT-1500を使用し、内部標準試料としてSi(99.99%、三津和化学薬品株式会社)を用い、β-TCPの回折線 (2 0 10)、(2 1 8)、(2 2 0)、(3 2 8)、(2 0 20)の5本とSiの回折線(1 1 1)、(2 2 0)、(3 1 1)、(4 0 0)の4本について最適な条件下で予備測定した。測定は、使用管電圧:40kV、使用管電流:200mA、にて行った。また、測定したX線回折図についてピークトップ法を用いた内部標準法で角度補正を行い、次式を用いて最小二乗法で格子定数の精密化を行った(以下の実施例でも同様である)。
[数1]
【0075】
上記作製した試料の格子定数の値を表7に、その変化を図16に示す。作製した試料の格子定数は、a軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量に関わらず一定であった。c軸は添加量がそれぞれ4mol%までは増加したが、それ以上では一定の傾向性が見られなくなった。したがって、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%以上はβ-TCPとは別の副生成物が生成したと考えた。
[表7]
【0076】
以上の結果より,β-TCP単相となった範囲と一定の格子定数変化が現れた範囲とが一致したことから,Mg2+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量を変化させた場合、Si4+イオンとS6+イオンはそれぞれ4mol%まで置換固溶したと考えられる。これは、Mg2+イオンを9.09mol%加えたことによって、β-TCPの結晶構造が安定化し、Si4+イオンとS6+イオンの同時固溶が可能となったと考えられる。
【0077】
(4)まとめ
【0078】
本実施例では、Mg2+イオンを9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ5〜50mol%で変化させた試料を作製した。X線回折図より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ4mol%(全量としては全陰イオン位置の8mol%)までの試料は、β-TCP単相であることを確認した。また、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5〜20mol%までは、β-TCPの回折ピークを確認したが、5〜40mol%では HAp、40mol%ではCaSO4とCa2SiO4、50mol%ではCa5(SiO4)2SO4 の混合相となった。作製した試料の格子定数は、a軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量に関わらず一定で、c軸は添加量がそれぞれ4mol%までは増加した。しかし、それ以上の添加量では一定の傾向性が見られなくなった。したがって,Si4+イオンとS6+イオン添加量がそれぞれ5mol%以上ではβ-TCPとは別の副生成物が生成したと考えた。β-TCP単相となった範囲と一定の格子定数変化が現れた範囲とが一致したことから、Mg2+イオンの添加量9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量を変化させた場合、Si4+イオンとS6+イオンはそれぞれ4mol%まで置換固溶したと考えられる。これは、Mg2+イオンを9.09mol%加えたことによってβ-TCPの結晶構造を安定化させ、Si4+イオンとS6+イオンとが同時固溶したと考えられる。
【実施例3】
【0079】
一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP焼結体の評価
【0080】
図9に示す方法により作成した一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP焼結体(以下、単に「焼結体試料」とする)について、X線回折、FT−IR、格子定数変化、機械的性質の試験を行った。なお、本実施例の一価陽イオン及び二価陽イオンを添加した二価陰イオン及び四価陰イオン固溶β-TCP焼結体作成における原料のモル配合比を下記表8に示し、重量配合量を下記表9に示す。
[表8]
[表9]
【0081】
(1)X線回折
【0082】
図17に、Mg2+イオンとNa+イオンの添加量を9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ0〜7mol%と変化させて作製したβ-TCP焼結体の試料のX線回折図を示す。図17から、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ5mol%(全量としては全陰イオン位置の10mol%)までとした試料は、β-TCPの回折ピークと一致したため、β-TCP単相であることを確認し、それ以上では、β-TCPに加え副生成物としてHApの回折ピークを確認した。
【0083】
(2)FT−IR
【0084】
図18に、上記作製したβ-TCP焼結体のFT-IRスペクトルを示す。図18より、作製したすべての試料で500〜600cm-1および900〜1200cm-1にPO4基に帰属する吸収を、800〜1000cm-1付近にはSiO4基に帰属する吸収、1100〜1300cm-1付近にSO4基に帰属する吸収を確認した。一方、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%を越えるとOH基に帰属する吸収が3700 cm-1付近に確認された。
【0085】
(3)格子定数
【0086】
上記作製したβ-TCP焼結体の格子定数の値を表10に、その変化を図19に示す。作製した試料の格子定数は、a軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量に関わらず一定となった。c軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%までは増加したが、5mol%以上では一定の傾向性は見られなくなった。したがって、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ6mol%以上ではβ-TCPとは別の副生成物が生成したと考えられる。
[表10]
【0087】
以上の結果より、β-TCP単相となった範囲と一定の傾向をもつ格子定数変化が現れた範囲とが一致したことから、Mg2+イオンとNa+イオンの添加量9.09mol%で一定とし、Mg2+イオンをCa(5)サイトに,Na+イオンをCa(4)サイトと空孔とに固溶させ,Si4+イオンとS6+イオンの添加量を変化させた場合は、Si4+イオンとS6+イオンはそれぞれ5mol%(全量としては全陰イオン位置の10 mol%)まで置換固溶したと考えられる。
【0088】
(4)機械的性質
【0089】
a) 体積収縮率変化
【0090】
図20に、上記作製したβ-TCP焼結体の体積収縮率を示す。体積収縮率は、Si4+イオンとS6+イオン添加量の増加に従い減少した。このことから、Si4+イオンとS6+イオンとの固溶により焼成における焼結体の収縮が進行しないことがわかった。
【0091】
b) 焼結体の曲げ強度測定
【0092】
曲げ強度はJIS R 1601に基づき、オートグラフ(AG-1、島津製作所製)を使用し、以下の条件で三点曲げ試験を行い測定した。
【0093】
支点間距離:30mm
クロスヘッド速度:0.5 mm・min-1
試料片本数:2〜6 本
試料片サイズ:3.0×4.0×36mm
試験温度:室温
試験雰囲気:大気中
試料の加工:焼結切断には低速切断機(ISOMETtm、BUEHLER製)を、表面研磨には研磨機(ダイアラップML-150、マルトー製)を使用し、耐水研磨紙♯200、♯400で研磨と面取りを行った。
【0094】
測定した焼結体の最大荷重から曲げ強度をJIS-R-1601に基づき、次式より求めた。
[数2]
ここで、σは三点曲げ強さ(MPa)、Pは試験片が破壊したときの最大荷重(N)、Lは支点間距離(mm)、wは試験片の幅(mm)、tは試験片の厚さ(mm)である。
【0095】
上記作製した焼結体の曲げ強度変化を図21に示す。曲げ強度についても、体積収縮率と同様の傾向を示し、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加に従い減少し、Si4+イオンとS6+イオンの添加量0mol%の時に最大曲げ強度(約30MPa)を示した。
【0096】
c) アルキメデス法による開気孔率およびかさ密度の測定
【0097】
開気孔率およびかさ密度は、アルキメデス法(JIS R 1634)で溶媒には純水を用いて行った。開気孔率およびかさ密度は下記の式より求めた。
[数3]
ここで、W1は試料の乾燥重量(g)、W2は飽水試料の水中重量(g)、W3は飽水試料の空中質量(g)、Sは純水の密度(1.0g・cm-3)である。
【0098】
上記作製した焼結体の開気孔率およびかさ密度の測定結果を図22に示す。開気孔率およびかさ密度については、Si4+イオンとS6+イオン添加量の増加にしたがい開気孔率は増加し、かさ密度は減少した。これらの結果から、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加にともない気孔が増加したことから、焼結性が低下していることが明らかになった。
【0099】
d) 焼結体の微構造の観察
【0100】
焼結体の微構造観察にはKEYENCE製走査型電子顕微鏡(SEM)VE-7800を用いて以下の測定条件により観察した。三点曲げ試験後の焼結体を研磨機(ダイアラップML-150、マルトー製)を使用し、耐水研磨紙#200、#400、#800、#1500、ラッピングダイヤ液MM-130、ポリシングダイヤMM-140を用いて鏡面研磨を行った後、昇温速度5℃・min-1、保持時間3時間、大気雰囲気、1000℃でサーマルエッチングを行い、観察試料とした。観察試料はあらかじめイオンスパッタ装置(FINE CORT FC-1100、日本電子製 0.75 kV、75 mA)を使用して、金を蒸着させた。また、必要な場合にはドータイトによる前処理も行った。
【0101】
フィラメント:W(タングステン)
加速電圧:1〜3kV
【0102】
上記作製した焼結体の微構造を図23に示す。微構造観察結果より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加にともない気孔が増加したことから、焼結性が低下していることが明らかになった。
【0103】
これらの結果より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量が増加すると、気孔の増加およびかさ密度の減少し、それにしたがって曲げ強度が低下したと考えられる。
【0104】
(5)まとめ
【0105】
本実施例では、Mg2+イオンとNa+イオンを9.09mol%で一定とし、Si4+イオンとS6+イオンの添加量をそれぞれ0〜7mol%と変化させて焼結体を作製した。X線回折図より、Si4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%までの試料は、β-TCP単相であることを確認し、5mol%以上では、β-TCPとHApの混合相となった。格子定数の値は、a軸は添加量に関わらず一定となり、c軸はSi4+イオンとS6+イオンの添加量がそれぞれ5mol%(全量としては全陰イオン位置の10 mol%)まで増加した。しかし、それ以上の添加量では一定の傾向性は見られなくなり、β-TCPとは別の副生成物が生成したと考えられる。体積収縮率、曲げ強度は、Si4+イオンとS6+イオンの添加量の増加にしたがって減少し、開気孔率は増加し、かさ密度は減少した。微構造からも気孔が増加していることがわかった。以上のことから,Si4+イオンとS6+イオンの同時添加によって体積収縮,焼結抑制,気孔の増大などの焼結体の微構造制御が可能であることを明らかにした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンとを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックス。
【請求項2】
同時に固溶する二価陰イオンと四価陰イオンの固溶量によって溶解性及び焼結性が制御された請求項1に記載の生体材料セラミックス。
【請求項3】
二価陰イオンは、硫酸イオンである請求項1又は2に記載の生体材料セラミックス。
【請求項4】
四価陰イオンは、ケイ酸イオンである請求項1から3のいずれか一に記載の生体材料セラミックス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムの焼結体からなる生体材料セラミックス。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が粉体である生体材料セラミックス。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が顆粒体である生体材料セラミックス。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が膜状である生体材料セラミックス。
【請求項9】
略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに乾式混合し、得られた混合物を焼成して合成される請求項1から8のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックス。
【請求項10】
略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに湿式混合した後、得られた混合物から溶媒エタノールを除去する混合工程と、
混合工程で得られた混合体を溶媒中で粉砕した後、前記溶媒を除去する粉砕工程と、
粉砕工程で得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成する成型工程と、
成型工程で得られた成型体を焼成する焼成工程と、
を有するリン酸三カルシウム焼結体製造方法。
【請求項11】
混合工程における二価陰イオン源となる化合物及び四価陰イオン源となる化合物の混合量によってリン酸三カルシウム焼結体の溶解性及び焼結性を制御する請求項10に記載のリン酸三カルシウム焼結体製造方法。
【請求項1】
三価陰イオンであるリン酸イオンのほかに、二価陰イオンと四価陰イオンとを同時に固溶したリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックス。
【請求項2】
同時に固溶する二価陰イオンと四価陰イオンの固溶量によって溶解性及び焼結性が制御された請求項1に記載の生体材料セラミックス。
【請求項3】
二価陰イオンは、硫酸イオンである請求項1又は2に記載の生体材料セラミックス。
【請求項4】
四価陰イオンは、ケイ酸イオンである請求項1から3のいずれか一に記載の生体材料セラミックス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムの焼結体からなる生体材料セラミックス。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が粉体である生体材料セラミックス。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が顆粒体である生体材料セラミックス。
【請求項8】
請求項1から4のいずれか一に記載の生体材料セラミックスであって、その性状が膜状である生体材料セラミックス。
【請求項9】
略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに乾式混合し、得られた混合物を焼成して合成される請求項1から8のいずれか一に記載のリン酸三カルシウムからなる生体材料セラミックス。
【請求項10】
略同モル量の二価陰イオン源となる化合物と四価陰イオン源となる化合物を、二価陽イオンとリン酸水素二アンモニウムに湿式混合した後、得られた混合物から溶媒エタノールを除去する混合工程と、
混合工程で得られた混合体を溶媒中で粉砕した後、前記溶媒を除去する粉砕工程と、
粉砕工程で得られた粉体を一軸加圧成型して成型体を作成する成型工程と、
成型工程で得られた成型体を焼成する焼成工程と、
を有するリン酸三カルシウム焼結体製造方法。
【請求項11】
混合工程における二価陰イオン源となる化合物及び四価陰イオン源となる化合物の混合量によってリン酸三カルシウム焼結体の溶解性及び焼結性を制御する請求項10に記載のリン酸三カルシウム焼結体製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公開番号】特開2013−27419(P2013−27419A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163533(P2011−163533)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 : 無機マテリアル学会 刊行物名 : 無機マテリアル学会第122回学術講演会 講演要旨集 発行年月日 : 2011年6月2日
【出願人】(598163064)学校法人千葉工業大学 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 : 無機マテリアル学会 刊行物名 : 無機マテリアル学会第122回学術講演会 講演要旨集 発行年月日 : 2011年6月2日
【出願人】(598163064)学校法人千葉工業大学 (101)
【Fターム(参考)】
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