説明

ころ軸受及びその組立方法

【課題】ころを保持器のポケットにカチ込む際に、ころの表面処理部を傷めないようにする。
【解決手段】軌道輪の周方向に沿って配置される複数のころ3と、そのころ3を保持する一体形揉み抜き保持器4とを備えたころ軸受において、保持器4は周方向に沿って複数のポケット4cを備え、ポケット4cにころ3を収容する際に、ころ3の外面とポケット4cの内面との間にシート状のシム10,20を介在させ、ポケット4cにころ3を収容した後、シム10,20を抜き取る構成を採用する。ころ3は、その外面に滑り特性の向上又は防錆を目的とする表面処理が施され、シム10,20は、その表面処理を施した部分に宛がわれる。シム10,20の厚さt1,t2は0.05mm以上であって、そのシム10,20を介在させるころ3の外面とポケット4cの内面との間の隙間を、シム10,20の厚さt1,t2以上確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転動体に表面処理が施されたころ軸受、及びその組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に使用されている転がり軸受の中には、例えば、滑り特性の向上や防錆を目的として、軌道輪又は転動体に表面処理を施している軸受がある。この表面処理としては、例えば、黒染め処理等が挙げられる。
【0003】
特に、転動体としてころを用いたころ軸受では、高速回転で且つ軽荷重条件で使用される場合には、ころの滑り特性向上のために、ころに表面処理が施されていることが求められている。
【0004】
ところで、ころ軸受は、高速回転で使用される場合、保持器を使用するのが一般的である。この保持器として、通常は、金属からなる素材を削りだして形成される揉み抜き保持器の中で、特に、鋲付き別体形揉み抜き保持器を使用している。
【0005】
鋲付き別体形揉み抜き保持器とは、軸方向一端に位置する円環部と、その円環部の周方向に沿って、軸方向他端側に向かって等間隔に突出する複数の柱部とによって、ポケットが形成されており、そのポケットの軸方向他端側が、別部材の円環部で閉じられたものである。柱部と、軸方向他端側の円環部とはリベット等の鋲により一体化される(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この鋲付き別体形揉み抜き保持器によれば、ころを保持器のポケット内へ挿入した後、軸方向他端側の円環部を鋲にて一体化する手法を採用できる。この手法によれば、軸受の組立時に、ころの表面を傷めることはない。
【0007】
しかし、最近では、高速回転時の保持器の分離防止(信頼性向上)のため、例えば、図4及び図5に示すような、鋲を用いない一体形揉み抜き保持器4を採用する機会が増えている。この一体形揉み抜き保持器4は、対の円環部4aと柱部4bとが一体の部材で形成されたものである。図中の符号1は外輪、符号2は内輪、符号3は転動体であるころ3を、符号4cはポケットを示している(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
この一体形揉み抜き保持器4を採用する場合、図6(b)に示すように、ころ径DWに対して、保持器ポケット入口幅HPWがやや狭い寸法となっている。このため、ころ3のポケット4cへの挿入は、ころ3に力を加えて、図6(a)(b)に示すように、ころ3を保持器4の内径側又は外径側からポケット4cに押し込む手法、いわゆる「カチ込み」により行っている。
【0009】
しかし、ころ3の外周面や端面に表面処理が成されている場合、このカチ込みの際に、その表面処理が剥がれてしまう、あるいは、保持器4の材料がころ3の表面に転写されてしまう等、ころ3の表面処理が施された部分(以下、表面処理部という。)を傷めてしまう恐れがある。
このため、例えば、ころ3を組立後、保持器4の一部を塑性変形させて加締める手法を採用し、ころ3がポケット4cに挿入される際に、そのころ3の表面を傷めないようにする技術もある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−58059号公報
【特許文献2】特開2006−138381号公報
【特許文献3】特開2001−336536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献3に示す手法では、保持器4に加締め部を形成するために、ポケット4cの打ち抜き加工等とは別に、柱部4bに機械加工を施す必要がある。このため、加工コストが高くなるという問題がある。
【0012】
したがって、一体形揉み抜き保持器においては、加締め部を設ける等の特別な加工を要することなく、カチ込みの際に、ころ3の表面処理部を傷めないようにする工夫が求められている。
また、一体形揉み抜き保持器以外の形式からなる保持器や、表面処理部を有さないころ3を用いた場合にも、ころ3をポケット4cに収容する際に、ころ3の表面を傷めないようにしたいという要請がある。
【0013】
そこで、この発明は、ころを保持器のポケットに収容する際に、ころの表面を傷めないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明は、軌道輪の周方向に沿って配置される複数のころと、そのころを保持する保持器とを備えたころ軸受において、前記保持器は周方向に沿って複数のポケットを備え、前記ポケットに前記ころを収容する際に、前記ころの外面と前記ポケットの内面との間にシムを介在させ、前記ポケットに前記ころを収容した後、前記シムを抜き取るようになっており、前記シムの厚さは0.05mm以上であって、そのシムを介在させる前記ころの外面と前記ポケットの内面との間の隙間を、前記シムの厚さ以上としたことを特徴とするころ軸受を採用した。
【0015】
この構成によれば、前記ポケットに前記ころを収容する際に、ころと保持器とが直接接触することがないため、ころの表面を傷めにくい。このため、特に、ころのカチ込みの際において、ころの表面を保護することができる。
【0016】
なお、シムは、ころの圧入時、すなわち、カチ込みの際の面圧及び摩擦に耐えることができるよう、金属製のものが望ましい。また、そのシムの厚さは、シムの耐久性を考慮して、0.05mm以上とするのが最適である。このため、そのシムを介在させる前記ころの外面と前記ポケットの内面との間の隙間は、前記シムの厚さ以上とすることが必要である。
【0017】
このシムは、ころの外面に、滑り特性の向上又は防錆を目的とする表面処理が施されている場合に、その表面処理を施した部分(前記表面処理部)に宛がわれることで、特に有効である。
なお、表面処理部を有さないころを用いた場合にも、ころをポケットに収容する際、特に、カチ込みの際に、ころの表面を傷めないようにしたいという要請があるので、シムの使用が有効である。
【0018】
また、このシムは、カチ込みを伴う一体形揉み抜き保持器を用いている場合に、特に有効であり、このシムの使用により、保持器に加締め部を設ける等の特別な加工を不要とし得る。
なお、一体形揉み抜き保持器以外の形式からなる保持器(例えば、鋲付き別体形揉み抜き保持器、その他種々の構成からなる保持器)を用いた場合にも、ころをポケットに収容する際に、ころの表面を傷めないようにしたいという要請があるので、シムの使用が有効である。
【0019】
このシムは、例えば、ころの外周面に宛がって使用することができる。すなわち、前記保持器は、軸方向に並列する対の円環部とその両円環部間を軸方向に結ぶ複数の柱部とを備え、周方向に隣り合う前記柱部間の空間が前記ポケットとなっており、前記シムは帯状部材であり、前記帯状部材は、前記ころが前記ポケット内に収容される際に、その帯長さ方向が前記ころの周方向に沿うように前記ころの外周面に宛がわれ、且つ、その帯状部材の帯長さ方向端部が前記ポケット外に伸びており、前記ころを前記ポケット内に収容後、前記帯長さ方向端部を引くことにより前記シムを抜き取る構成である。
【0020】
また、このシムは、例えば、ころの端面に宛がって使用することができる。すなわち、前記保持器は、対の円環部とその両円環部間を軸方向に結ぶ複数の柱部とを備え、周方向に隣り合う前記柱部間の空間が前記ポケットとなっており、前記シムは、前記ころが前記ポケット内に収容される際に、前記ころの端面に宛がわれる宛がい部と、その宛がい部からポケット外に伸びる操作部とを備え、前記ころを前記ポケット内に収容後、前記操作部を引くことにより前記シムを抜き取る構成である。
【0021】
このころの端面に宛がわれるシムは、ころの外周面に宛がわれるシムと併用してもよいし、単独で使用してもよい。また、ころの端面に宛がわれるシムは、軸方向片側の端面のみに使用することもできるが、軸方向両側の端面に使用することが望ましい。
【0022】
なお、ころの外周面に宛がわれるシムを用いた場合において、そのシムの厚さを、前記ポケット内における前記ころに許容される径方向動き量の半径値以下、且つ、前記ポケット内における前記ころの周方向ポケットすきまの半径値以下とすることが望ましい。
【0023】
ころに許容される径方向動き量の半径値とは、保持器のポケット内において、そのポケット内に収容されたころが、保持器に対してその径方向に移動可能な距離の1/2の値のことである。ころが移動し得る範囲であるから、シムの挿入に無理がない。また、その抜き取りも容易になる。
さらに、ころの周方向ポケットすきまの半径値とは、保持器のポケット内において、そのポケット内に収容されたころが、保持器に対してその周方向に移動可能な距離の1/2の値のことである。シムが、保持器の周方向に沿ってころ両側に挿入される場合、このように、ころの両側にシムが入り込む隙間があれば、シムの挿入に無理がない。また、その抜き取りも容易になる。
【0024】
また、ころの端面に宛がわれるシムを用いた場合において、そのシムの厚さを、前記保持器の軸方向ポケットすきまの片側値以下とすることが望ましい。
【0025】
保持器の軸方向ポケットすきまの片側値とは、保持器のポケット内において、そのポケット内に収容されたころが、保持器に対してその軸方向に移動可能な距離の1/2の値のことである。シムが、保持器の軸方向両側に挿入される場合、このように、ころの軸方向両側にシムが入り込む隙間があれば、シムの挿入に無理がない。また、その抜き取りも容易になる。
【0026】
さらに、前記ころを前記ポケットに収容する際に、前記ころの表面が触れる前記ポケットの内面の表面粗さは、0.6μmRa以下とすることが望ましい。また、前記保持器の素材のヤング率は、130GPa以下であることが望ましい。
【0027】
また、上記の課題を解決するために、この発明は、ころ軸受の組み立て方法として、以下の構成を採用した。
【0028】
すなわち、軌道輪の周方向に沿って配置される複数のころと、そのころを保持する保持器とを備えたころ軸受の組立方法において、前記保持器は周方向に沿って複数のポケットを備え、前記ポケットに前記ころを収容する際に、前記ころの外面と前記ポケットの内面との間にシムを介在させ、前記ポケットに前記ころを収容した後、前記シムを抜き取ることを特徴とするころ軸受の組立方法を採用した。
【0029】
この構成からなるころ軸受の組み立て方法によれば、前記ポケットに前記ころを収容する際に、ころと保持器とが直接接触することがないため、ころの表面を傷めにくい。このため、特に、ころのカチ込みの際において、ころの表面を保護することができる。
【0030】
また、前述のように、このシムは、ころの外面に、滑り特性の向上又は防錆を目的とする表面処理が施されている場合に、その表面処理を施した部分(前記表面処理部)に宛がわれることで、特に有効である。
なお、表面処理部を有さないころを用いた場合にも、ころをポケットに収容する際、特に、カチ込みの際に、ころの表面を傷めないようにしたいという要請があるので、シムの使用が有効である点も同様である。
【0031】
また、このシムは、カチ込みを伴う一体形揉み抜き保持器を用いている場合に、特に有効であり、このシムの使用により、保持器に加締め部を設ける等の特別な加工を不要とし得る。
なお、一体形揉み抜き保持器以外の形式からなる保持器(例えば、鋲付き別体形揉み抜き保持器、その他種々の構成からなる保持器)を用いた場合にも、ころをポケットに収容する際に、ころの表面を傷めないようにしたいという要請があるので、シムの使用が有効である。
【0032】
このシムは、例えば、ころの外周面に宛がって使用することができる。すなわち、前記保持器は、軸方向に並列する対の円環部とその両円環部間を軸方向に結ぶ複数の柱部とを備え、周方向に隣り合う前記柱部間の空間が前記ポケットとなっており、前記シムは帯状部材であり、前記帯状部材は、前記ころが前記ポケット内に収容される際に、その帯長さ方向が前記ころの周方向に沿うように前記ころの外周面に宛がわれ、且つ、その帯状部材の帯長さ方向端部が前記ポケット外に伸びており、前記ころを前記ポケット内に収容後、前記帯長さ方向端部を引くことにより前記シムを抜き取る構成である。
【0033】
また、このシムは、例えば、ころの端面に宛がって使用することができる。すなわち、前記保持器は、対の円環部とその両円環部間を軸方向に結ぶ複数の柱部とを備え、周方向に隣り合う前記柱部間の空間が前記ポケットとなっており、前記シムは、前記ころが前記ポケット内に収容される際に、前記ころの端面に宛がわれる宛がい部と、その宛がい部からポケット外に伸びる操作部とを備え、前記ころを前記ポケット内に収容後、前記操作部を引くことにより前記シムを抜き取る構成である。
【0034】
このころの端面に宛がわれるシムは、ころの外周面に宛がわれるシムと併用してもよいし、単独で使用してもよい。また、ころの端面に宛がわれるシムは、軸方向片側の端面のみに使用することもできるが、軸方向両側の端面に使用することが望ましい。
【0035】
なお、ころの外周面に宛がわれるシムを用いた場合において、そのシムの厚さを、前記ポケット内における前記ころに許容される径方向動き量の半径値以下、且つ、前記ポケット内における前記ころの周方向ポケットすきまの半径値以下とすることが望ましい。
【0036】
また、ころの端面に宛がわれるシムを用いた場合において、そのシムの厚さを、前記保持器の軸方向ポケットすきまの片側値以下とすることが望ましい。
【0037】
なお、シムは、ころの圧入時、すなわち、カチ込みの際の面圧及び摩擦に耐えることができるよう、金属製のものが望ましい。また、そのシムの厚さは、シムの耐久性を考慮して、0.05mm以上とするのが最適である。
【0038】
さらに、前記ころを前記ポケットに収容する際に、前記ころの表面が触れる前記ポケットの内面の表面粗さは、0.6μmRa以下とすることが望ましい。また、前記保持器の素材のヤング率は、130GPa以下であることが望ましい。
【0039】
これらの各構成からなるころ軸受の組立方法によって、少なくとも軌道輪、ころ、保持器の各部材を組み立てることによってころ軸受を構成することができる。軌道輪は、内輪と外輪とで構成される場合や、組み立て時において外輪のみで構成され、内輪は軸で構成される場合等が考えられる。
【発明の効果】
【0040】
この発明は、ころをポケットに収容する際に、ころと保持器とが直接接触しないので、ころの表面を傷めないようにできる。このため、ころの表面処理部の保護が可能である。また、一体形揉み抜き保持器を使用する場合において、保持器に加締め部等の特別な改良を加えることなく、ころの表面を傷めないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の一実施形態を示し、(a)はころをカチ込む前の状態を示す要部拡大図、(b)はカチ込み後の要部拡大断面図
【図2】この発明の一実施形態を示す要部拡大断面図
【図3】保持器ところとシムの分解斜視図
【図4】ころ軸受の一例を示す要部拡大断面図
【図5】一体形揉み抜き保持器を示し、(a)は正面図、(b)は(a)のB−B断面図
【図6】(a)(b)は、従来例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0042】
この発明の実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。この実施形態は、転動体としてころ(円筒ころ)3を用いたころ軸受(円筒ころ軸受)、及びその組立方法に関するものである。
【0043】
このころ軸受は、従来例の説明で使用した図4及び図5に示すように、外輪1と内輪2と、その外輪1と内輪2との間の軸受空間に周方向に沿って配置された複数の転動体3と、その転動体3を保持する保持器4とを備えている。
【0044】
保持器4は、並列する二つの円環部4aと、その円環部4a同士を結ぶ複数の柱部4bを備え、その周方向に沿って隣り合う柱部4b間の空間を、ころ3が収容されるポケット4cとしている。
【0045】
ころ3は、その外周面と端面に、滑り特性の向上又は防錆を目的とする黒染め処理等の表面処理が施されており、ころ3の外面全体が表面処理部となっている。
【0046】
図1は、保持器4のポケット4cに、ころ3を収容する際の説明図である。ころ3は、図1(a)に示す状態から、図1(b)に示す状態へと、ポケット4cに収容される。保持器4は一体形揉み抜き保持器であり、ころ3はポケット4cに、いわゆるカチ込みによって圧入で収容される。
【0047】
このころ3の収容の際、図3に示すように、二種類のシム10,20を用いる。この各シム10,20を、ころ3の外面とポケット4cの内面との間に介在させ、ポケット4cにころ3を収容した後、それらのシム10,20を抜き取る手順となる。
このように、シム10,20を使用することにより、ポケット4cにころ3を収容する際に、ころ3と保持器4とが直接接触することがないため、ころ3の表面処理部を傷めにくい。また、シム10,20を使用することにより、軸受の組立時間を短縮することが可能である。
【0048】
二種類のシム10,20のうち、まず、ころ3の外周面に宛がって使用するシム10の構成について説明する。
【0049】
このシム10は、図3に示すように金属シートからなる帯状部材である。この帯状部材は、ころ3がポケット4cに収容される際に、その帯長さ方向がころ3の周方向に沿うようにころ3の外周面に宛がわれる。また、その帯状部材の帯長さ方向両端部10a,10aは、ポケット4c外に伸びている状態である。
【0050】
また、ころ3をポケット4cに収容後、シム10を抜き取る際は、その帯状部材のどちらかの帯長さ方向端部10aを引くことにより、その抜き取りを行うことができる。このとき、ころ3をそのころ3の周方向に回転させながら行うと、シム10の抜き取りがスムーズである。
【0051】
つぎに、ころ3の端面に宛がって使用するシム20の構成について説明する。
【0052】
このシム20は、図3に示すように、金属製のシートからなる宛がい部20aと操作部20bとが、直線状の折り目を介して連結されたL字状部材である。このL字状部材を、ころ3の両端面に宛がって使用する。
【0053】
宛がい部20aは、ころ3がポケット4c内に収容される際に、ころ3の端面のうち、少なくともポケット4c内に入り込む部分に宛がわれる。操作部20bは、宛がい部20aの端部から、円環部4aの内面に沿って軸方向外側へ伸びている。
【0054】
ころ3をポケット4cに収容後、シム20を抜き取る際は、操作部20bを引くことにより、その抜き取りを行うことができる。この抜き取りの際には、ころ3をそのころ3の軸方向一方へ寄せながら端面をシム20から引き離した状態で、そのシム20を引っ張ることが望ましい。
【0055】
このシム20は、ころ3の外周面に宛がわれるシム10と併用してもよいし、単独で使用してもよい。また、このシム20は、ころ3の軸方向片側の端面のみに使用することもできるが、軸方向両側の端面に使用することが望ましい。
【0056】
このように、ころ3の端面にシム20を宛がうのは、特に、ころ3の圧入時にころ3がポケット4cに対して傾いてしまった場合に、ころ3の端面と面取り部(端面と外周面との間の稜線部に設けられる面取り部)の境目であるエッジ部が、保持器4のポケット4cの側面4dと擦れることにより、ころ3の端面を傷つけることを防止するためである。
したがって、シム20は、ポケット4cの内面のうちエッジ部が通過し得る部分、すなわち、そのポケット4cの軸方向端壁の面全体を、内径側の端縁から外径側の端縁まで覆うものであることが望ましい。
【0057】
なお、ころ3の外周面に宛がわれるシム10を用いた場合において、そのシム10の厚さt1は、ポケット4c内における前記ころに許容される径方向動き量の半径値以下、且つ、ポケット4c内におけるころ3の周方向ポケットすきまの半径値w1以下とすることが望ましい(図1(b)参照)。
【0058】
ころ3に許容される径方向動き量の半径値とは、保持器4のポケット4c内において、そのポケット4c内に収容されたころ3が、保持器4に対してその径方向に移動可能な距離の1/2の値のことである。
また、ころの周方向ポケットすきまの半径値w1とは、保持器4のポケット4c内において、そのポケット4c内に収容されたころ3が、保持器4に対してその周方向に移動可能な距離の1/2の値のことである。
【0059】
また、ころ3の端面に宛がわれるシム20を用いた場合において、そのシム20の厚さt2を、保持器4の軸方向ポケットすきまの片側値w2以下とすることが望ましい(図2参照)。
【0060】
保持器4の軸方向ポケットすきまの片側値w2とは、保持器4のポケット4c内において、そのポケット4c内に収容されたころ3が、保持器4に対してその軸方向に移動可能な距離の1/2の値のことである。
【0061】
なお、シム10,20は、ころ3の圧入時、すなわち、カチ込みの際の面圧及び摩擦に耐えることができるよう、この実施形態のように、金属製のものが望ましい。また、その金属製のシム10,20の厚さt1,t2は、シム10,20の耐久性を考慮して、0.05mm以上の厚さを使用するのが最適である。表1に、シム10,20の厚さ寸法の最適値を確認した実験結果を示す。
【0062】
【表1】

【0063】
ここでカチ込み量(mm)とは、ころ径DW−保持器ポケット入口幅HPWである。カチ込み量が、0.10〜0.15mmのいずれの場合にも、厚さ0.02mmでは何らかの損傷を生じているが、厚さ0.05mmではシム10,20の損傷を生じていない。
このため、厚さt1,t2が0.05mm以上のシム10,20を採用することが望ましく、さらに、そのシム10,20の厚さt1,t2に対応して、シム10,20を介在させるころ3の外面とポケット4cの内面との間の隙間を、そのシム10,20の厚さt1,t2以上確保した構造とすることが望ましい。
【0064】
なお、表1の右端の欄に示すように、ころ3をポケット4cに収容する際に、ころ3の表面が触れるポケット4cの内面(カチ込み部)の表面粗さを、0.6μmRa以下とすることが望ましい。なお、表面粗さは、JIS B 0601による。
【0065】
また、ころ軸受の組立時に使用するシム10,20の破損を抑制するためには、保持器4の素材として、鉄系材料よりも相対的にヤング率が低いもの、例えば、黄銅や青銅といった材料が好ましい。また、軸受保持器用としての性能も考慮すれば、保持器4の素材のヤング率は、130GPa以下であることが望ましい。
【0066】
この実施形態では、円筒ころ軸受を例に、その円筒ころ軸受の構造、及び、その組立方法について説明したが、この発明は、その他にも、例えば、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受など、ころ軸受全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 外輪
2 内輪
3 転動体
4 保持器
4a 円環部
4b 柱部
4c ポケット
10,20 シム
10a 帯長さ方向端部
20a 宛がい部
20b 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道輪の周方向に沿って配置される複数のころ(3)と、そのころ(3)を保持する保持器(4)とを備えたころ軸受において、
前記保持器(4)は周方向に沿って複数のポケット(4c)を備え、前記ポケット(4c)に前記ころ(3)を収容する際に、前記ころ(3)の外面と前記ポケット(4c)の内面との間にシム(10,20)を介在させ、前記ポケット(4c)に前記ころ(3)を収容した後、前記シム(10,20)を抜き取るようになっており、
前記シム(10,20)の厚さ(t1,t2)は0.05mm以上であって、そのシム(10,20)を介在させる前記ころ(3)の外面と前記ポケット(4c)の内面との間の隙間を、前記シム(10,20)の厚さ(t1,t2)以上としたことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記ころ(3)は、その外面に滑り特性の向上又は防錆を目的とする表面処理が施され、前記シム(10,20)は、その表面処理を施した部分に宛がわれることを特徴とする請求項1に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記保持器(4)は、一体形揉み抜き保持器であることを特徴とする請求項1又は2に記載のころ軸受。
【請求項4】
前記保持器(4)は、軸方向に並列する対の円環部(4a)とその両円環部(4a,4a)間を軸方向に結ぶ複数の柱部(4b)とを備え、周方向に隣り合う前記柱部(4b,4b)間の空間が前記ポケット(4c)となっており、
前記シム(10)は帯状部材であり、前記帯状部材は、前記ころ(3)が前記ポケット(4c)内に収容される際に、その帯長さ方向が前記ころ(3)の周方向に沿うように前記ころ(3)の外周面に宛がわれ、且つ、その帯状部材の帯長さ方向端部(10a)が前記ポケット(4c)外に伸びており、前記ころ(3)を前記ポケット(4c)内に収容後、前記帯長さ方向端部(10a)を引くことにより前記シム(10)を抜き取ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のころ軸受。
【請求項5】
前記保持器(4)は、対の円環部(4a)とその両円環部(4a,4a)間を軸方向に結ぶ複数の柱部(4b)とを備え、周方向に隣り合う前記柱部(4b,4b)間の空間が前記ポケット(4c)となっており、
前記シム(20)は、前記ころ(3)が前記ポケット(4c)内に収容される際に、前記ころ3の端面に宛がわれる宛がい部(20a)と、その宛がい部(20a)からポケット(4c)外に伸びる操作部(20b)とを備え、前記ころ3を前記ポケット(4c)内に収容後、前記操作部(20b)を引くことにより前記シム(20)を抜き取ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載のころ軸受。
【請求項6】
前記ころ(3)の外周面に宛がわれるシム(10)の厚さ(t1)を、前記ポケット(4c)内における前記ころ(3)に許容される径方向動き量の半径値以下、且つ、前記ポケット(4c)内における前記ころ(3)の周方向ポケットすきまの半径値(w1)以下としたことを特徴とする請求項4に記載のころ軸受。
【請求項7】
前記ころ(3)の端面に宛がわれるシム(20)の厚さ(t2)を、前記保持器(4)の軸方向ポケットすきまの片側値(w2)以下としたことを特徴とする請求項5に記載のころ軸受。
【請求項8】
前記ころ(3)を前記ポケット(4c)に収容する際に、前記ころ(3)の表面が触れる前記ポケット(4c)の内面の表面粗さを0.6μmRa以下としたことをことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のころ軸受。
【請求項9】
前記保持器(4)の素材のヤング率を、130GPa以下としたことをことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載のころ軸受。
【請求項10】
軌道輪の周方向に沿って配置される複数のころ(3)と、そのころ(3)を保持する保持器(4)とを備えたころ軸受の組立方法において、
前記保持器(4)は周方向に沿って複数のポケット(4c)を備え、前記ポケット(4c)に前記ころ(3)を収容する際に、前記ころ(3)の外面と前記ポケット(4c)の内面との間にシム(10,20)を介在させ、前記ポケット(4c)に前記ころ(3)を収容した後、前記シム(10,20)を抜き取ることを特徴とするころ軸受の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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