せん断抵抗を高めたパネル
【課題】せん断抵抗を高めたパネルを提供すること。
【解決手段】波形に屈曲形成された折板1における下フランジ4に版体2を一体化するように組み合わせたパネル3において、前記折板1における各下フランジ4の幅方向両端部において、下フランジ4長手方向に版体2と折板1を接合して、パネル面内方向のせん断抵抗を高めたパネル3としている。また、折板1と版体2とを接合する接合手段として、折板1の下フランジ4の幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ4長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体2側に前記一対の嵌合溝に係止される係止部を有する一対の嵌合部13を設け、前記折板1側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側2の嵌合部13が嵌合されて一体に接合されている。
【解決手段】波形に屈曲形成された折板1における下フランジ4に版体2を一体化するように組み合わせたパネル3において、前記折板1における各下フランジ4の幅方向両端部において、下フランジ4長手方向に版体2と折板1を接合して、パネル面内方向のせん断抵抗を高めたパネル3としている。また、折板1と版体2とを接合する接合手段として、折板1の下フランジ4の幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ4長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体2側に前記一対の嵌合溝に係止される係止部を有する一対の嵌合部13を設け、前記折板1側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側2の嵌合部13が嵌合されて一体に接合されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角波形鋼板等の折板と版体を複合一体化したパネルに関し、特に、折板と版体とのパネル面内方向のせん断抵抗を高めたパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波形パネルの折板に他の版状(または板状)部材を組み合わせて剛性を高めた複合パネルとして、図11(a)に示すように、折板1aの下フランジ4に鋼製平板17を当接し、下フランジ4の幅方向中央において、部材長手方向に間隔をおいてスポット溶接7により固定するようにした複合構造のパネル3aが知られている。(特許文献1、2)
【0003】
また、図12(a)に示すように、下フランジ4の幅方向中央よりの2箇所において、部材長手方向に間隔をおいてスポット溶接7により固定するようにした複合構造のパネル3aも知られている。(非特許文献1)
【特許文献1】特開2000−87487号公報
【特許文献2】特開2000−87488号公報
【非特許文献1】デッキプレート床構造設計・施工基準 1987年7月3日 第1版、技報堂出版株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11(a)および図12(a)の場合は、下フランジ4とウェブ5とのコーナー部8から大きく離れた位置であって、かつ下フランジ4の幅方向中央よりに近接した位置においてスポット溶接7により、平板17と下フランジ4とを固定しているので、(X)各下フランジ4に固定される平板17の支持長(支持部間距離)Lが長いため、平板17および折板1aの面外方向の剛性が低くなり変形が容易になり、面内せん断力Fが作用した場合、前記の図11(b)および図12(b)に示すように、平板17や折板1が容易に面外に変形し、平板17がウェブ5と下フランジ4のコーナー部8から離れ、安定した平板17のせん断抵抗を期待できないという問題がある。
【0005】
一般に、図7に示すように、鋼板に折り曲げ加工を施して、下フランジ4と、ウェブ5と、上フランジ6とが波形に連続するように構成した折板1a単体が、面内せん断力Fを受けた場合には、せん断ひずみによる純粋な板のせん断変形に加え、図8に実線で示すようなゆがみ変形Sが生じ、せん断力方向への変形が大きくなり、十分な剛性や耐力を確保できない欠点を有している。
【0006】
前記ゆがみ変形Sは、断面視図9(b)に示すようにウェブ5が傾斜し、平面視図9(a)に示すように下フランジ4間(またはウェブ5間)の隙間Gが点々と実線で矩形状に囲んで示す領域Aのように、平行四辺形になる変形を伴う。これに対し、折板1aに平板17を一体化し、平行四辺形に変形しようとする隙間Gに版体2を存在させ、版体2に図10に示す張力場(A-A矢視部を示す図10(b)のような座屈波を伴う、板面内に張力が作用した状態)を形成すれば、張力R1およびR2が隙間Gの平行四辺形になる変形を抑え、ゆがみ変形Sを抑制できる。しかしながら、図11および図12に示すように、各下フランジ4に固定される平板17の支持長Lが長いと、平板17および折板1aの面外への剛性が低くなり面外変形が容易になるため、隙間Gの版体2に十分な張力場の抵抗機構が形成されず、安定したせん断抵抗を期待できない。
【0007】
本発明は、このような点に着目し、前記Xの課題を有利に解決するために、折板における下フランジの両端部で版体と接合することで、折板と版体の面外方向への変形を抑制し、より安定したせん断抵抗を高めたパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明のパネルにおいては、波形に屈曲形成された折板における下フランジに版体を一体化するように組み合わせたパネルにおいて、前記折板における各下フランジの幅方向両端部で、下フランジ長手方向に版体と折板を接合し、パネル面内方向のせん断抵抗を高めたことを特徴とする。
【0009】
第2発明では、第1発明のパネルにおいて、折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたスポット溶接、下フランジ長手方向に連続した連続溶接または下フランジ長手方向に部分的に連続した断続溶接のいずれかの溶接による接合としたことを特徴とする。
【0010】
第3発明では、第1発明のパネルにおいて、折板と版体とを接合する接合手段として、折板の下フランジの幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体側に前記一対の嵌合溝に嵌合係止される係止部を有する一対の連続する嵌合部を設け、前記折板側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側の嵌合部が嵌合されて一体に接合されていることを特徴とする。
【0011】
第4発明では、第1発明のパネルにおいて、折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたビス接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたドリルネジ接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたリベット接合のいずれかの接合としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、次のような効果が得られる。
第1発明によると、本発明では、従来の折板の下フランジ幅方向の中央よりの溶接などの接合手段と異なり、折板における各下フランジの幅方向両端部において、下フランジ長手方向に版体と折板を接合するので、下フランジ幅方向の版体の支持長および折板側の下フランジ間の接合間隔が短くなり、版体および折板からなるパネルの面外方向の剛性を高め、ゆがみ変形Sの抑制が図れるので、パネル面内方向のせん断抵抗を格段に高めることができる。すなわち、折板における各下フランジの幅方向両端部において、下フランジ長手方向に版体と折板を接合するだけで、パネルの高剛性化および高耐力化を図ることができる。
第2発明によると、下フランジ長手方向に間隔をおいたスポット溶接とした場合では、折板と版体の一体化を図りながら接合箇所を少なくして効率よく経済的に一体化することができる。また、下フランジ長手方向に連続した連続溶接による場合は、折板と版体の接合を強固に接合することができる。また、下フランジ長手方向に部分的に連続した溶接による接合では、連続した溶接に比べて経済的に接合することができ、スポット溶接による場合に比べて強固に接合することができる。
第3発明によると、折板の下フランジの幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体側に前記一対の嵌合溝に係止される係止部を有する一対の連続する嵌合部を設け、前記折板側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側の嵌合部が嵌合されて一体に接合されているので、接合構造が簡単である。また、折板側の下フランジ幅方向両端部に嵌合溝を設け、また版体側に一対の嵌合部を設けているので、これらを現場等において嵌合させて、折板と版体とを容易に一体化することができる。また、現場接合とすることで、運搬時のパネルの体積を低減することができるため、工場から現場への運搬効率の向上を図れる。
第4発明によると、下フランジ長手方向に間隔をおいたビス接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたドリルネジ接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたリベット接合のいずれかの接合とした場合では、折板と版体の一体化を図りながら接合箇所を少なくして効率よく経済的に一体化することができることに加え、メカニカルな接合方法とすることで、より安定した接合品質を確保することができる。
また、第2〜4の発明は、第1発明と同様に、下フランジ幅方向の版体の支持長および折板側の下フランジ間の接合間隔が短くなり、版体および折板からなるパネルの面外方向の剛性を高め、ゆがみ変形Sの抑制が図れるので、パネル面内方向のせん断抵抗を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1および図3は、本発明の第1実施形態の折板1と版体2との複合一体化されたパネル3を示すものであって、図1は概略斜視図、図3(a)は断面図である。図1および図3(a)に示すように、鋼製板体に折り曲げ加工が施されて、下フランジ4と、これに接続するウェブ5と、前記ウェブ5の端部に接続するように、上フランジ6とが一体に波形に連続するように屈曲形成されて折板1が構成されている。
【0015】
前記折板1の下フランジ4の下面に、矩形状の鋼製平板からなる版体2が当接されて、下フランジ4とウェブ5下端部との交差するコーナー部8に接近した位置における下フランジ4の両端部で、かつ下フランジ4における部材長手方向に小間隔L3をおいて多数のスポット溶接7により、版体2は折板1に固定されている。
【0016】
版体2を折板1に固定する位置は、下フランジ4とウェブ5下端部との交差するコーナー部8、または、下フランジ4とウェブ5下端部との交差するコーナー部8に極力近接した位置とするのがよく、版体2と下フランジ4との固定部間距離、すなわち、折板1におけるウェブ5間方向の版体2の支持長L2(図3(a)参照)を短くし、折板1と版体2の面外方向の剛性を高め、面外方向へ変形しにくいようにしている。
【0017】
前記のように、折板1における下フランジ4両端部と、版体2とをスポット溶接7により固定する場合、下フランジ4の長手方向に間隔をおいて、部材全長に渡って、スポット溶接7により固定するようにしてもよい。
【0018】
前記のスポット溶接7は、前記実施形態のように、下フランジ4の幅方向両端部において、下フランジ4の幅方向(左右方向)に対称位置で、下フランジ4の長手方向に間隔をおいて、部材全体に設けるようにしてもよく、また、図2に第2実施形態として示すように、左右交互に下フランジ4長手方向に位置をずらして千鳥状にスポット溶接7により固定するようにしてもよく、スポット溶接7の箇所は、設計により設定すればよい。
【0019】
前記のように、千鳥状のスポット溶接7によると、溶接箇所が少なくて良いため、パネル3の製作工費を安価にすることができる。
なお、図20に第4実施形態として示すように、折板1における下フランジ4両端部と、版体2とを固定する場合、本発明においては、前記のスポット溶接7に代えて、部材長手方向に連続溶接7aにより、一体化を図るようにしてもよく、また、図21に第5実施形態として示すように、下フランジ4の長手方向に間隔をおいて断続的に連続溶接部7bを設けるような部分連続の断続溶接による固定手段により一体化するようにしてもよい。
また、連続溶接手段として、シーム溶接やレーザー溶接等の連続溶接により折板1の下フランジ4と版体2とを一体に固定するようにしてもよい。連続溶接の場合は、スポット溶接に比べ高価になるが、確実に版体2を、折板1における下フランジ4とウェブ5の交差部付近を確実に固定することができる。
また、部分的に連続した断続溶接手段としては、シーム溶接やレーザー溶接等で部分的に連続した溶接を行い、断続溶接を行うものである。
なお、前記各実施形態において、折板1における下フランジ4長手方向に直角な両端部における下フランジ4端部と、版体2とは、下フランジ4長手方向に、前記と同様なスポット溶接7または連続溶接7a,7bにより一体化が図られている。
【0020】
前記のような本発明のパネル3によると、前記従来と同様に、面内せん断力Fが作用した場合、図3(a)に示すように、版体2が、折板1の面外変形の抵抗部材となって、折板1のゆがみ変形Sが抑制され、また、版体2の面外変形が抑制されて、せん断剛性の高いパネル3とすることができる。
【0021】
図4および図5は、本発明の折板1と版体2との複合化したパネル3の第3実施形態を示すものであって、この形態では、下フランジ4の両端部に、下フランジ4の長手方向に連続した台形状の凸部9が形成され、その凸部9の下面側には、下向きに開口する断面台形の蟻溝10が長手方向に連続して形成された折板1が用いられている。このような折板1は、前記の凸部9および蟻溝10を含めてロールフオーミング等によるロール加工により形成してもよく、プレス加工によっても、あるいはその他の折り曲げ加工によってもよい。
【0022】
さらに説明すると、前記の凸部9および蟻溝10を形成すべく、鋼板に折り曲げ加工が施されて、左右方向両側に上フランジ6に向って相互に離反するように傾斜する傾斜縦部分11と、前記傾斜縦部分11相互の上端部を接続する接続部12とを一体に屈折または屈曲形成した凸部9としている。
【0023】
前記の傾斜縦部分11が平坦下フランジ4に対して起立する傾斜角θ1としては、例えば、下フランジ4に対して、60°〜85°の傾斜角とすれば、接合の確実性および嵌合容易性を図る上で望ましい。また、前記下向き開口の蟻溝10の開口幅寸法L4は、版体2側に設ける嵌合部13の幅寸法L5とも関係するが、版体2を平坦な基盤上に配置して、折板1を上から版体2に載置し、押圧して嵌合できる程度にしておくとよい。
【0024】
前記のような蟻溝10に嵌合させるための部分を有する版体2は、図5に示すように、前記蟻溝10の中心間隔Pと同じ中心間隔Pで設けた嵌合部13を備え、前記嵌合部13は、前後方向に連続して設けられている。また、前記の嵌合部13の高さ寸法は、前記蟻溝10の溝深さ寸法よりも小さく設定されている。このような版体2は、前記の嵌合部13を含めてロールフオーミング等によるロール加工により形成してもよく、プレス加工によっても、あるいはその他の折り曲げ加工によってもよい。
【0025】
前記嵌合部13を構成する左右両側の傾斜側板14は、前記蟻溝10における傾斜縦部分と同様な傾斜角θ1とされ、また、嵌合部13の天板15は、前記蟻溝10の溝底部とほぼ平行にされている。折板1側の蟻溝10と、版体2側の嵌合部13を密着した状態で嵌合させると、折板1と版体2の固定が確実になるため望ましく、例えば、蟻溝10と嵌合部13が相似形状で、蟻溝10と嵌合部13との間に、嵌合隙間のない状態、または嵌合隙間が微小であるのが、一体性を高める上で望ましい。前記傾斜側板14が横方向に張り出すことにより係止部が形成されている。前記の係止部を構成するためには、例えば、少なくとも一方の側面板14の一方を横方向外側に広がるように傾斜配置しておけばよい。
なお、前記の蟻溝10の開口幅寸法L4にもよるが、傾斜側板14の基端部相互の内面相互が当接した状態の嵌合部13、すなわち、版体2における嵌合部13下面側が開口されていない溝とされていてもよい。折板1における蟻溝10と版体2における嵌合部13との嵌合は、スライドさせて嵌合させてもよく、下記の押圧嵌合としてもよい。
【0026】
折板1の蟻溝10と版体2の嵌合部13を押圧させて嵌合させ接合する場合には、前記の嵌合部13の幅寸法L5と、前記開口幅寸法L4との寸法差L6は、前記のように折板1を上から押圧して嵌合できる程度の寸法差にしておけばよい。また、嵌合部13の頂部を山形断面にして蟻溝10にガイドさせながら押圧嵌合させてもよく、この場合に蟻溝10側に前記山形断面部を収容できる山形溝付き蟻溝としておけばよい。このような折板1と版体2の押圧接合手段としては、現場作業員により、折板1における蟻溝10を、版体2の嵌合部13上に位置する状態にした上で、現場作業員により折板1側の凸部9を端部から順に踏みつけて、蟻溝10に嵌合するようにすればよい。この場合、前記の折板1の板厚が、1mm〜3mm程度の比較的薄板部材であると、その弾性変形も生じて嵌合することができる。なお、現場作業員以外にも、適宜押圧工具を使用して嵌合するようにしてもよい。
【0027】
前記のような逆台形状の蟻溝10と、逆台形状の嵌合部13との嵌合による接合であると、離脱しにくく、嵌合強度(接合強度)を高めることができる。
【0028】
(折板および板体の変形形態)
図6は、図5に示す折板1の蟻溝10と版体2の嵌合部13の変形形態を示すものであって、この形態では、前記実施形態の傾斜縦部分11の内、一方の傾斜縦部分11は、版体2の平坦面に対して直角に起立する縦部分16とした形態である。
【0029】
さらに説明すると、折板1の蟻溝10を構成する一方の傾斜縦部分11に代えて、下フランジ4面に直角に立ち上がる縦部分16とされ、また版体2における嵌合部13における一方の側板部を、版体2の平坦部に対して直角に屈折する縦部分16とした形態である。このように、折板1側の蟻溝10(被嵌合部)と版体2側の嵌合部13(嵌合部)に、平坦面に対して、直角に形成しておくと、雄側と雌側とを嵌合する場合に、容易に嵌合することが可能になるため、現場嵌合作業の施工性を向上させることができる。
【0030】
本発明を実施する場合、折板1側の蟻溝10と版体2側の嵌合部13との溝または凸部による雄雌嵌合・係止の接合は、雄雌(溝または凸部)が逆配置となってもよいものであるから、図13に示すように、折板1における各下フランジ4の幅方向両端部の下面に下方に向って突出する一対の連続した嵌合部13を下フランジ4の長手方向に連続して設け、また、版体2の上面側に開口する前記嵌合部13に嵌合させるための一対の蟻溝10を有する凸部9を間隔をおいて平行に下面側に突出するように連続して設け、折板1側の嵌合部13と版体2側の蟻溝10とを嵌合して一体化するようにしてもよい。
【0031】
さらなる実施形態としては、図1と図3に示す第1実施形態、および図2に示す第2実施形態のスポット溶接7を、ビスまたはドリルネジまたはリベットに置換した形態があげられるが、図示および詳細な説明は省略する。
【0032】
前記各実施形態のように構成されたパネル3の使用形態としては、壁パネル、屋根パネル、床パネル等に使用することが可能であるが、屋根パネルとして使用した形態を例に、図14および図15を参照して説明する。
【0033】
図14および図15に示す形態では、間隔をおいて平行に設置された梁材18に渡ってパネル3が、横方向に1パネル分の間隔をおいて千鳥状に配置され、ボルト、ネジ、溶接等により各パネル3は、梁材18のフランジに固定され、横方向に隣り合う各パネル3の間に、版体2と複合一体化されたパネル3ではない断面角波形の折板1のみが配置されて、屋根構造が形成されている。図示のように、千鳥状に配置して、対角方向に隣合う各パネル3およびこれらを接合している梁材18により、屋根構造におけるパネル対角方向にブレースの作用を発揮させることができる。なお、折板1単体の端部は適宜、パネル3に重なるように設置してもよい。以上、屋根構造を例に説明したが、壁や床においても同様の構造を構成することができる。
【0034】
なお、本発明は上記の実施例の内容に限定されるものではない。折板と版体の上下の位置関係など、上記請求項の範囲内で変更のあるものである。また、用いられる折板および版体は、普通鋼やステンレス鋼などの鋼材はもとより、プラスチックなどの樹脂材が用いられたものであっても構わない。
【0035】
本発明のパネル面内方向のせん断抵抗を高めたパネルの効果を確認するために、基本となる第1発明について、図16(b)に示す折板寸法(mm)の断面形状の解析モデルであって、かつ図16(a)に示すように各下フランジ端部の位置の固定端および支持端とする拘束条件で矢印で示す荷重(せん断力)Pを作用させる場合について、図17(b)に示す接合位置で接合された従来のパネルの解析モデルの場合と、図18(b)に示す接合位置で接合された本発明のパネルの解析モデルの場合との剛性の相違について、FEM解析(有限要素解析)により確認した。
各解析モデルは、実寸法の約1/6スケールであり、全体寸法を図16(a)および(b)に示すモデルを5mm単位の要素に区切り解析した。図16(a)に示す境界(下フランジ幅方向中央)の支持条件を適用し、折板の長辺に荷重(せん断力)Pを加えた際のせん断変形量δについて、図17に示す従来の解析モデルの場合と、図18に示す本発明の解析モデルの場合について求めた。従来技術のパネルは、図17(b)に示すように、折板における下フランジ幅方向中央から1mmの位置で、折板と板体を接合することでモデル化した。一方、本発明のパネルは、図18(b)に示すように、折板の下フランジの端部で、折板と版体を接合することでモデル化した。
解析結果を図19に示す。図19から、本発明のパネルが、明らかに従来技術のパネルより、せん断抵抗が向上していることが分かる。せん断変形量δ=0.1mmの変形量で比較すると、本発明のパネルの耐力は、従来技術のパネルよりも、約1.5倍に向上しており、高剛性化および高耐力化が図れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第1実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第2実施形態を示す概略斜視図である。
【図3】(a)は本発明のパネルを示す概略正面図、(b)は(a)に示す本発明のパネルに面内せん断力が作用した場合における変形形態を示す概略正面図である。
【図4】折板と版体とを複合した本発明のパネルの第3実施形態を示す概略斜視図である。
【図5】(a)は、図4の一部を拡大して示す図、(b)は(a)の分解図である。
【図6】(a)は、図4の変形形態の一部を拡大して示す図、(b)は(a)の分解図である。
【図7】折板単独の場合の斜視図である。
【図8】折板単独の場合の抵抗メカニズムを説明するための説明斜視図である。
【図9】折板に面内せん断力が作用した場合における折板におけるウエブがゆがむ場合の変形形態の説明図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図10】折板に面内せん断力が作用した場合の張力場と、版体による抵抗を説明するための説明図、(b)は(a)のA−A線矢視における座屈波を示す説明図である。
【図11】(a)は従来の折板と平板とを折板の下フランジ幅方向の中央のスポット溶接で複合化されたパネルを示す概略正面図、(b)は(a)に示す複合化されたパネルに面内せん断力が作用した場合における変形形態を示す概略正面図である。
【図12】(a)は従来の折板と平板とを折板の下フランジ幅方向の中央よりの2点のスポット溶接で複合化されたパネルを示す概略正面図、(b)は(a)に示す複合化されたパネルに面内せん断力が作用した場合における変形形態を示す概略正面図である。
【図13】本発明の変形形態を示すものであって、折板と版体とを複合した本発明のパネルの一部を拡大して示す正面図、(b)は(a)の分解図である。
【図14】本発明の複合パネルを使用して、壁または屋根等に配置して使用している形態を示すものであって、(a)は正面図、(b)は底面図である。
【図15】図14(a)の側面図である。
【図16】(a)及び(b)は、本発明のパネルの効果を確認するためにFEM解析に用いた折板形状および解析条件を示す説明図である。
【図17】(a)及び(b)は、FEM解析に用いた従来のパネルの解析モデルおよび接合位置を示す説明図である。
【図18】(a)及び(b)は、FEM解析に用いた本発明のパネルの解析モデルおよび接合位置を示す説明図である。
【図19】従来技術のパネルと本発明のパネルのFEM解析結果を示す図である。
【図20】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第4実施形態を示す概略斜視図である。
【図21】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第5実施形態を示す概略斜視図である。
【図22】本発明の第3実施形態または第4実施形態のパネルを示す概略正面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 折板
1a 折板
2 版体
3 パネル
3a パネル
4 下フランジ
5 ウェブ
6 上フランジ
7 スポット溶接
7a 連続溶接
7b 部分的に連続した断続溶接
8 コーナー部
9 凸部
10 蟻溝
11 傾斜縦部分
12 接続部
13 嵌合部
14 傾斜側板
15 天板
16 縦部分
17 平板
18 梁材
19 フランジ
F 面内せん断力
S ゆがみ変形
G 隙間
A 点々と矩形状枠で示す領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、角波形鋼板等の折板と版体を複合一体化したパネルに関し、特に、折板と版体とのパネル面内方向のせん断抵抗を高めたパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波形パネルの折板に他の版状(または板状)部材を組み合わせて剛性を高めた複合パネルとして、図11(a)に示すように、折板1aの下フランジ4に鋼製平板17を当接し、下フランジ4の幅方向中央において、部材長手方向に間隔をおいてスポット溶接7により固定するようにした複合構造のパネル3aが知られている。(特許文献1、2)
【0003】
また、図12(a)に示すように、下フランジ4の幅方向中央よりの2箇所において、部材長手方向に間隔をおいてスポット溶接7により固定するようにした複合構造のパネル3aも知られている。(非特許文献1)
【特許文献1】特開2000−87487号公報
【特許文献2】特開2000−87488号公報
【非特許文献1】デッキプレート床構造設計・施工基準 1987年7月3日 第1版、技報堂出版株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図11(a)および図12(a)の場合は、下フランジ4とウェブ5とのコーナー部8から大きく離れた位置であって、かつ下フランジ4の幅方向中央よりに近接した位置においてスポット溶接7により、平板17と下フランジ4とを固定しているので、(X)各下フランジ4に固定される平板17の支持長(支持部間距離)Lが長いため、平板17および折板1aの面外方向の剛性が低くなり変形が容易になり、面内せん断力Fが作用した場合、前記の図11(b)および図12(b)に示すように、平板17や折板1が容易に面外に変形し、平板17がウェブ5と下フランジ4のコーナー部8から離れ、安定した平板17のせん断抵抗を期待できないという問題がある。
【0005】
一般に、図7に示すように、鋼板に折り曲げ加工を施して、下フランジ4と、ウェブ5と、上フランジ6とが波形に連続するように構成した折板1a単体が、面内せん断力Fを受けた場合には、せん断ひずみによる純粋な板のせん断変形に加え、図8に実線で示すようなゆがみ変形Sが生じ、せん断力方向への変形が大きくなり、十分な剛性や耐力を確保できない欠点を有している。
【0006】
前記ゆがみ変形Sは、断面視図9(b)に示すようにウェブ5が傾斜し、平面視図9(a)に示すように下フランジ4間(またはウェブ5間)の隙間Gが点々と実線で矩形状に囲んで示す領域Aのように、平行四辺形になる変形を伴う。これに対し、折板1aに平板17を一体化し、平行四辺形に変形しようとする隙間Gに版体2を存在させ、版体2に図10に示す張力場(A-A矢視部を示す図10(b)のような座屈波を伴う、板面内に張力が作用した状態)を形成すれば、張力R1およびR2が隙間Gの平行四辺形になる変形を抑え、ゆがみ変形Sを抑制できる。しかしながら、図11および図12に示すように、各下フランジ4に固定される平板17の支持長Lが長いと、平板17および折板1aの面外への剛性が低くなり面外変形が容易になるため、隙間Gの版体2に十分な張力場の抵抗機構が形成されず、安定したせん断抵抗を期待できない。
【0007】
本発明は、このような点に着目し、前記Xの課題を有利に解決するために、折板における下フランジの両端部で版体と接合することで、折板と版体の面外方向への変形を抑制し、より安定したせん断抵抗を高めたパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明のパネルにおいては、波形に屈曲形成された折板における下フランジに版体を一体化するように組み合わせたパネルにおいて、前記折板における各下フランジの幅方向両端部で、下フランジ長手方向に版体と折板を接合し、パネル面内方向のせん断抵抗を高めたことを特徴とする。
【0009】
第2発明では、第1発明のパネルにおいて、折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたスポット溶接、下フランジ長手方向に連続した連続溶接または下フランジ長手方向に部分的に連続した断続溶接のいずれかの溶接による接合としたことを特徴とする。
【0010】
第3発明では、第1発明のパネルにおいて、折板と版体とを接合する接合手段として、折板の下フランジの幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体側に前記一対の嵌合溝に嵌合係止される係止部を有する一対の連続する嵌合部を設け、前記折板側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側の嵌合部が嵌合されて一体に接合されていることを特徴とする。
【0011】
第4発明では、第1発明のパネルにおいて、折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたビス接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたドリルネジ接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたリベット接合のいずれかの接合としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、次のような効果が得られる。
第1発明によると、本発明では、従来の折板の下フランジ幅方向の中央よりの溶接などの接合手段と異なり、折板における各下フランジの幅方向両端部において、下フランジ長手方向に版体と折板を接合するので、下フランジ幅方向の版体の支持長および折板側の下フランジ間の接合間隔が短くなり、版体および折板からなるパネルの面外方向の剛性を高め、ゆがみ変形Sの抑制が図れるので、パネル面内方向のせん断抵抗を格段に高めることができる。すなわち、折板における各下フランジの幅方向両端部において、下フランジ長手方向に版体と折板を接合するだけで、パネルの高剛性化および高耐力化を図ることができる。
第2発明によると、下フランジ長手方向に間隔をおいたスポット溶接とした場合では、折板と版体の一体化を図りながら接合箇所を少なくして効率よく経済的に一体化することができる。また、下フランジ長手方向に連続した連続溶接による場合は、折板と版体の接合を強固に接合することができる。また、下フランジ長手方向に部分的に連続した溶接による接合では、連続した溶接に比べて経済的に接合することができ、スポット溶接による場合に比べて強固に接合することができる。
第3発明によると、折板の下フランジの幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体側に前記一対の嵌合溝に係止される係止部を有する一対の連続する嵌合部を設け、前記折板側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側の嵌合部が嵌合されて一体に接合されているので、接合構造が簡単である。また、折板側の下フランジ幅方向両端部に嵌合溝を設け、また版体側に一対の嵌合部を設けているので、これらを現場等において嵌合させて、折板と版体とを容易に一体化することができる。また、現場接合とすることで、運搬時のパネルの体積を低減することができるため、工場から現場への運搬効率の向上を図れる。
第4発明によると、下フランジ長手方向に間隔をおいたビス接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたドリルネジ接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたリベット接合のいずれかの接合とした場合では、折板と版体の一体化を図りながら接合箇所を少なくして効率よく経済的に一体化することができることに加え、メカニカルな接合方法とすることで、より安定した接合品質を確保することができる。
また、第2〜4の発明は、第1発明と同様に、下フランジ幅方向の版体の支持長および折板側の下フランジ間の接合間隔が短くなり、版体および折板からなるパネルの面外方向の剛性を高め、ゆがみ変形Sの抑制が図れるので、パネル面内方向のせん断抵抗を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1および図3は、本発明の第1実施形態の折板1と版体2との複合一体化されたパネル3を示すものであって、図1は概略斜視図、図3(a)は断面図である。図1および図3(a)に示すように、鋼製板体に折り曲げ加工が施されて、下フランジ4と、これに接続するウェブ5と、前記ウェブ5の端部に接続するように、上フランジ6とが一体に波形に連続するように屈曲形成されて折板1が構成されている。
【0015】
前記折板1の下フランジ4の下面に、矩形状の鋼製平板からなる版体2が当接されて、下フランジ4とウェブ5下端部との交差するコーナー部8に接近した位置における下フランジ4の両端部で、かつ下フランジ4における部材長手方向に小間隔L3をおいて多数のスポット溶接7により、版体2は折板1に固定されている。
【0016】
版体2を折板1に固定する位置は、下フランジ4とウェブ5下端部との交差するコーナー部8、または、下フランジ4とウェブ5下端部との交差するコーナー部8に極力近接した位置とするのがよく、版体2と下フランジ4との固定部間距離、すなわち、折板1におけるウェブ5間方向の版体2の支持長L2(図3(a)参照)を短くし、折板1と版体2の面外方向の剛性を高め、面外方向へ変形しにくいようにしている。
【0017】
前記のように、折板1における下フランジ4両端部と、版体2とをスポット溶接7により固定する場合、下フランジ4の長手方向に間隔をおいて、部材全長に渡って、スポット溶接7により固定するようにしてもよい。
【0018】
前記のスポット溶接7は、前記実施形態のように、下フランジ4の幅方向両端部において、下フランジ4の幅方向(左右方向)に対称位置で、下フランジ4の長手方向に間隔をおいて、部材全体に設けるようにしてもよく、また、図2に第2実施形態として示すように、左右交互に下フランジ4長手方向に位置をずらして千鳥状にスポット溶接7により固定するようにしてもよく、スポット溶接7の箇所は、設計により設定すればよい。
【0019】
前記のように、千鳥状のスポット溶接7によると、溶接箇所が少なくて良いため、パネル3の製作工費を安価にすることができる。
なお、図20に第4実施形態として示すように、折板1における下フランジ4両端部と、版体2とを固定する場合、本発明においては、前記のスポット溶接7に代えて、部材長手方向に連続溶接7aにより、一体化を図るようにしてもよく、また、図21に第5実施形態として示すように、下フランジ4の長手方向に間隔をおいて断続的に連続溶接部7bを設けるような部分連続の断続溶接による固定手段により一体化するようにしてもよい。
また、連続溶接手段として、シーム溶接やレーザー溶接等の連続溶接により折板1の下フランジ4と版体2とを一体に固定するようにしてもよい。連続溶接の場合は、スポット溶接に比べ高価になるが、確実に版体2を、折板1における下フランジ4とウェブ5の交差部付近を確実に固定することができる。
また、部分的に連続した断続溶接手段としては、シーム溶接やレーザー溶接等で部分的に連続した溶接を行い、断続溶接を行うものである。
なお、前記各実施形態において、折板1における下フランジ4長手方向に直角な両端部における下フランジ4端部と、版体2とは、下フランジ4長手方向に、前記と同様なスポット溶接7または連続溶接7a,7bにより一体化が図られている。
【0020】
前記のような本発明のパネル3によると、前記従来と同様に、面内せん断力Fが作用した場合、図3(a)に示すように、版体2が、折板1の面外変形の抵抗部材となって、折板1のゆがみ変形Sが抑制され、また、版体2の面外変形が抑制されて、せん断剛性の高いパネル3とすることができる。
【0021】
図4および図5は、本発明の折板1と版体2との複合化したパネル3の第3実施形態を示すものであって、この形態では、下フランジ4の両端部に、下フランジ4の長手方向に連続した台形状の凸部9が形成され、その凸部9の下面側には、下向きに開口する断面台形の蟻溝10が長手方向に連続して形成された折板1が用いられている。このような折板1は、前記の凸部9および蟻溝10を含めてロールフオーミング等によるロール加工により形成してもよく、プレス加工によっても、あるいはその他の折り曲げ加工によってもよい。
【0022】
さらに説明すると、前記の凸部9および蟻溝10を形成すべく、鋼板に折り曲げ加工が施されて、左右方向両側に上フランジ6に向って相互に離反するように傾斜する傾斜縦部分11と、前記傾斜縦部分11相互の上端部を接続する接続部12とを一体に屈折または屈曲形成した凸部9としている。
【0023】
前記の傾斜縦部分11が平坦下フランジ4に対して起立する傾斜角θ1としては、例えば、下フランジ4に対して、60°〜85°の傾斜角とすれば、接合の確実性および嵌合容易性を図る上で望ましい。また、前記下向き開口の蟻溝10の開口幅寸法L4は、版体2側に設ける嵌合部13の幅寸法L5とも関係するが、版体2を平坦な基盤上に配置して、折板1を上から版体2に載置し、押圧して嵌合できる程度にしておくとよい。
【0024】
前記のような蟻溝10に嵌合させるための部分を有する版体2は、図5に示すように、前記蟻溝10の中心間隔Pと同じ中心間隔Pで設けた嵌合部13を備え、前記嵌合部13は、前後方向に連続して設けられている。また、前記の嵌合部13の高さ寸法は、前記蟻溝10の溝深さ寸法よりも小さく設定されている。このような版体2は、前記の嵌合部13を含めてロールフオーミング等によるロール加工により形成してもよく、プレス加工によっても、あるいはその他の折り曲げ加工によってもよい。
【0025】
前記嵌合部13を構成する左右両側の傾斜側板14は、前記蟻溝10における傾斜縦部分と同様な傾斜角θ1とされ、また、嵌合部13の天板15は、前記蟻溝10の溝底部とほぼ平行にされている。折板1側の蟻溝10と、版体2側の嵌合部13を密着した状態で嵌合させると、折板1と版体2の固定が確実になるため望ましく、例えば、蟻溝10と嵌合部13が相似形状で、蟻溝10と嵌合部13との間に、嵌合隙間のない状態、または嵌合隙間が微小であるのが、一体性を高める上で望ましい。前記傾斜側板14が横方向に張り出すことにより係止部が形成されている。前記の係止部を構成するためには、例えば、少なくとも一方の側面板14の一方を横方向外側に広がるように傾斜配置しておけばよい。
なお、前記の蟻溝10の開口幅寸法L4にもよるが、傾斜側板14の基端部相互の内面相互が当接した状態の嵌合部13、すなわち、版体2における嵌合部13下面側が開口されていない溝とされていてもよい。折板1における蟻溝10と版体2における嵌合部13との嵌合は、スライドさせて嵌合させてもよく、下記の押圧嵌合としてもよい。
【0026】
折板1の蟻溝10と版体2の嵌合部13を押圧させて嵌合させ接合する場合には、前記の嵌合部13の幅寸法L5と、前記開口幅寸法L4との寸法差L6は、前記のように折板1を上から押圧して嵌合できる程度の寸法差にしておけばよい。また、嵌合部13の頂部を山形断面にして蟻溝10にガイドさせながら押圧嵌合させてもよく、この場合に蟻溝10側に前記山形断面部を収容できる山形溝付き蟻溝としておけばよい。このような折板1と版体2の押圧接合手段としては、現場作業員により、折板1における蟻溝10を、版体2の嵌合部13上に位置する状態にした上で、現場作業員により折板1側の凸部9を端部から順に踏みつけて、蟻溝10に嵌合するようにすればよい。この場合、前記の折板1の板厚が、1mm〜3mm程度の比較的薄板部材であると、その弾性変形も生じて嵌合することができる。なお、現場作業員以外にも、適宜押圧工具を使用して嵌合するようにしてもよい。
【0027】
前記のような逆台形状の蟻溝10と、逆台形状の嵌合部13との嵌合による接合であると、離脱しにくく、嵌合強度(接合強度)を高めることができる。
【0028】
(折板および板体の変形形態)
図6は、図5に示す折板1の蟻溝10と版体2の嵌合部13の変形形態を示すものであって、この形態では、前記実施形態の傾斜縦部分11の内、一方の傾斜縦部分11は、版体2の平坦面に対して直角に起立する縦部分16とした形態である。
【0029】
さらに説明すると、折板1の蟻溝10を構成する一方の傾斜縦部分11に代えて、下フランジ4面に直角に立ち上がる縦部分16とされ、また版体2における嵌合部13における一方の側板部を、版体2の平坦部に対して直角に屈折する縦部分16とした形態である。このように、折板1側の蟻溝10(被嵌合部)と版体2側の嵌合部13(嵌合部)に、平坦面に対して、直角に形成しておくと、雄側と雌側とを嵌合する場合に、容易に嵌合することが可能になるため、現場嵌合作業の施工性を向上させることができる。
【0030】
本発明を実施する場合、折板1側の蟻溝10と版体2側の嵌合部13との溝または凸部による雄雌嵌合・係止の接合は、雄雌(溝または凸部)が逆配置となってもよいものであるから、図13に示すように、折板1における各下フランジ4の幅方向両端部の下面に下方に向って突出する一対の連続した嵌合部13を下フランジ4の長手方向に連続して設け、また、版体2の上面側に開口する前記嵌合部13に嵌合させるための一対の蟻溝10を有する凸部9を間隔をおいて平行に下面側に突出するように連続して設け、折板1側の嵌合部13と版体2側の蟻溝10とを嵌合して一体化するようにしてもよい。
【0031】
さらなる実施形態としては、図1と図3に示す第1実施形態、および図2に示す第2実施形態のスポット溶接7を、ビスまたはドリルネジまたはリベットに置換した形態があげられるが、図示および詳細な説明は省略する。
【0032】
前記各実施形態のように構成されたパネル3の使用形態としては、壁パネル、屋根パネル、床パネル等に使用することが可能であるが、屋根パネルとして使用した形態を例に、図14および図15を参照して説明する。
【0033】
図14および図15に示す形態では、間隔をおいて平行に設置された梁材18に渡ってパネル3が、横方向に1パネル分の間隔をおいて千鳥状に配置され、ボルト、ネジ、溶接等により各パネル3は、梁材18のフランジに固定され、横方向に隣り合う各パネル3の間に、版体2と複合一体化されたパネル3ではない断面角波形の折板1のみが配置されて、屋根構造が形成されている。図示のように、千鳥状に配置して、対角方向に隣合う各パネル3およびこれらを接合している梁材18により、屋根構造におけるパネル対角方向にブレースの作用を発揮させることができる。なお、折板1単体の端部は適宜、パネル3に重なるように設置してもよい。以上、屋根構造を例に説明したが、壁や床においても同様の構造を構成することができる。
【0034】
なお、本発明は上記の実施例の内容に限定されるものではない。折板と版体の上下の位置関係など、上記請求項の範囲内で変更のあるものである。また、用いられる折板および版体は、普通鋼やステンレス鋼などの鋼材はもとより、プラスチックなどの樹脂材が用いられたものであっても構わない。
【0035】
本発明のパネル面内方向のせん断抵抗を高めたパネルの効果を確認するために、基本となる第1発明について、図16(b)に示す折板寸法(mm)の断面形状の解析モデルであって、かつ図16(a)に示すように各下フランジ端部の位置の固定端および支持端とする拘束条件で矢印で示す荷重(せん断力)Pを作用させる場合について、図17(b)に示す接合位置で接合された従来のパネルの解析モデルの場合と、図18(b)に示す接合位置で接合された本発明のパネルの解析モデルの場合との剛性の相違について、FEM解析(有限要素解析)により確認した。
各解析モデルは、実寸法の約1/6スケールであり、全体寸法を図16(a)および(b)に示すモデルを5mm単位の要素に区切り解析した。図16(a)に示す境界(下フランジ幅方向中央)の支持条件を適用し、折板の長辺に荷重(せん断力)Pを加えた際のせん断変形量δについて、図17に示す従来の解析モデルの場合と、図18に示す本発明の解析モデルの場合について求めた。従来技術のパネルは、図17(b)に示すように、折板における下フランジ幅方向中央から1mmの位置で、折板と板体を接合することでモデル化した。一方、本発明のパネルは、図18(b)に示すように、折板の下フランジの端部で、折板と版体を接合することでモデル化した。
解析結果を図19に示す。図19から、本発明のパネルが、明らかに従来技術のパネルより、せん断抵抗が向上していることが分かる。せん断変形量δ=0.1mmの変形量で比較すると、本発明のパネルの耐力は、従来技術のパネルよりも、約1.5倍に向上しており、高剛性化および高耐力化が図れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第1実施形態を示す概略斜視図である。
【図2】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第2実施形態を示す概略斜視図である。
【図3】(a)は本発明のパネルを示す概略正面図、(b)は(a)に示す本発明のパネルに面内せん断力が作用した場合における変形形態を示す概略正面図である。
【図4】折板と版体とを複合した本発明のパネルの第3実施形態を示す概略斜視図である。
【図5】(a)は、図4の一部を拡大して示す図、(b)は(a)の分解図である。
【図6】(a)は、図4の変形形態の一部を拡大して示す図、(b)は(a)の分解図である。
【図7】折板単独の場合の斜視図である。
【図8】折板単独の場合の抵抗メカニズムを説明するための説明斜視図である。
【図9】折板に面内せん断力が作用した場合における折板におけるウエブがゆがむ場合の変形形態の説明図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図10】折板に面内せん断力が作用した場合の張力場と、版体による抵抗を説明するための説明図、(b)は(a)のA−A線矢視における座屈波を示す説明図である。
【図11】(a)は従来の折板と平板とを折板の下フランジ幅方向の中央のスポット溶接で複合化されたパネルを示す概略正面図、(b)は(a)に示す複合化されたパネルに面内せん断力が作用した場合における変形形態を示す概略正面図である。
【図12】(a)は従来の折板と平板とを折板の下フランジ幅方向の中央よりの2点のスポット溶接で複合化されたパネルを示す概略正面図、(b)は(a)に示す複合化されたパネルに面内せん断力が作用した場合における変形形態を示す概略正面図である。
【図13】本発明の変形形態を示すものであって、折板と版体とを複合した本発明のパネルの一部を拡大して示す正面図、(b)は(a)の分解図である。
【図14】本発明の複合パネルを使用して、壁または屋根等に配置して使用している形態を示すものであって、(a)は正面図、(b)は底面図である。
【図15】図14(a)の側面図である。
【図16】(a)及び(b)は、本発明のパネルの効果を確認するためにFEM解析に用いた折板形状および解析条件を示す説明図である。
【図17】(a)及び(b)は、FEM解析に用いた従来のパネルの解析モデルおよび接合位置を示す説明図である。
【図18】(a)及び(b)は、FEM解析に用いた本発明のパネルの解析モデルおよび接合位置を示す説明図である。
【図19】従来技術のパネルと本発明のパネルのFEM解析結果を示す図である。
【図20】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第4実施形態を示す概略斜視図である。
【図21】折板と平板からなる板体とを複合した本発明のパネルの第5実施形態を示す概略斜視図である。
【図22】本発明の第3実施形態または第4実施形態のパネルを示す概略正面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 折板
1a 折板
2 版体
3 パネル
3a パネル
4 下フランジ
5 ウェブ
6 上フランジ
7 スポット溶接
7a 連続溶接
7b 部分的に連続した断続溶接
8 コーナー部
9 凸部
10 蟻溝
11 傾斜縦部分
12 接続部
13 嵌合部
14 傾斜側板
15 天板
16 縦部分
17 平板
18 梁材
19 フランジ
F 面内せん断力
S ゆがみ変形
G 隙間
A 点々と矩形状枠で示す領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波形に屈曲形成された折板における下フランジに版体を一体化するように組み合わせたパネルにおいて、前記折板における各下フランジの幅方向両端部で、下フランジ長手方向に版体と折板を接合し、パネル面内方向のせん断抵抗を高めたことを特徴とするパネル。
【請求項2】
折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたスポット溶接、下フランジ長手方向に連続した連続溶接または下フランジ長手方向に部分的に連続した断続溶接のいずれかの溶接による接合としたことを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【請求項3】
折板と版体とを接合する接合手段として、折板の下フランジの幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体側に前記一対の嵌合溝に嵌合係止される係止部を有する一対の連続する嵌合部を設け、前記折板側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側の嵌合部が嵌合されて一体に接合されていることを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【請求項4】
折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたビス接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたドリルネジ接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたリベット接合のいずれかの接合としたことを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【請求項1】
波形に屈曲形成された折板における下フランジに版体を一体化するように組み合わせたパネルにおいて、前記折板における各下フランジの幅方向両端部で、下フランジ長手方向に版体と折板を接合し、パネル面内方向のせん断抵抗を高めたことを特徴とするパネル。
【請求項2】
折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたスポット溶接、下フランジ長手方向に連続した連続溶接または下フランジ長手方向に部分的に連続した断続溶接のいずれかの溶接による接合としたことを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【請求項3】
折板と版体とを接合する接合手段として、折板の下フランジの幅方向両端部における下面に、それぞれ断面蟻溝状で下フランジ長手方向に連続する一対の嵌合溝を設け、かつ版体側に前記一対の嵌合溝に嵌合係止される係止部を有する一対の連続する嵌合部を設け、前記折板側の一対の嵌合溝に、それぞれ版体側の嵌合部が嵌合されて一体に接合されていることを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【請求項4】
折板と版体とを接合する接合手段として、下フランジ長手方向に間隔をおいたビス接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたドリルネジ接合、下フランジ長手方向に間隔をおいたリベット接合のいずれかの接合としたことを特徴とする請求項1に記載のパネル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2007−162430(P2007−162430A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363904(P2005−363904)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】
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