説明

そうか病防除用硫黄懸濁液

【課題】環境や、人体に対する安全性が高く、かつ簡便で安心して使用でき、確実に効果のあるそうか病防除材を提供する。
【解決手段】ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因する、例えば、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼうからなる群から選択される作物におけるそうか病を防除するための硫黄懸濁液は、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そうか病防除材に関し、特に、硫黄の平均粒径が3μm以下であるそうか病防除用硫黄懸濁液、及び該そうか病防除用硫黄懸濁液を土壌混和するそうか病防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そうか病は、複数種のストレプトマイセス属放線菌が、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼう等の作物に感染することにより発病する土壌伝染性の難防除病害として知られている。特に、バレイショそうか病による被害としては、総収量としての収量にはほとんど影響は無いものの、塊茎表面があばた状となり、その見た目の悪さや、機械的に皮をむくことの困難さから経済収入が激減する。
農薬によるバレイショそうか病防除対策としては、種イモからの感染防止にオキシテトラサイクリン、ストレプトマイシン剤、ストレプトマイシン・チオファネートメチル剤、銅剤による種イモ消毒処理、土壌からの伝染防止対策としてクロルピクリン剤、PCNB剤、フルアジナム剤などによる土壌の殺菌消毒が行われてきた。
しかしながら、これらの処理は薬剤の効果が安定しない場合が多い。
また、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼう等においても、バレイショそうか病と同様の被害が見られ、適切なそうか病防除方法が無く問題となっていた。
【0003】
そうか病菌として知られているストレプトマイセス属放線菌のうち、ストレプトマイセス・スカビエス(Streptomyces scabies)又はストレプトマイセス・タージディスカビエス(Streptomyces turgidiscabies)に起因するそうか病は、土壌pHが5.5〜7.5の間で被害がひどく、バレイショの塊茎形成期(だいこん及びにんじん等の場合根部形成期)において、土壌pHが4.8〜5.3、又は8.0以上であると、症状がほとんど発生しなくなることが知られている。土壌pH低下が、そうか病抑制に効果があるのは、土壌に吸着していたアルミニウムが溶出し、そうか病菌にダメージを与えるためと報告されている。このため、土壌汚染防止対策として、資材による土壌pH調整方法が試されてきた。
そのような方法の一つとして、ピートモス等の施用や、有機酸の施用による土壌pH低下技術が知られている。しかしながら、10a当たり数百kg〜1000kgと、多量の施用量が必要であり、広く普及するには至っていない。このような従来技術としては、有機酸を使ったバレイショそうか病の防除剤及び防除方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、土壌のpHを上昇させるための資材として、石灰や、水酸化マグネシウムなどが広く使用されている。土壌のpHを低下させる資材としては、硫酸第一鉄や、硫化鉄、硫黄粉末などがあるが、硫酸第一鉄は、リン酸の不溶化を招き、肥効が劣ること、効果が長期にわたり持続するため、後作栽培に悪影響があること、更には、10a当たり約400kgの施用量が必要であること、また、硫化鉄は、酸と混用すると毒性の強い硫化水素を発生させることからほとんど使用されていないのが現状である。硫黄粉末は、消防法の危険物に相当するため輸送及び保管に消防法の規制を受け、更には、遅効的であり、そうか病に対して効果が見られない。
【0005】
硫黄を有効成分として含有する懸濁製剤としては、硫黄にナフタレンスルホン酸系陰イオン性界面活性剤、不飽和カルボン酸重合物系陰イオン性界面活性剤、コロイド性含水ケイ素アルミニウム、コロイド性酸化ケイ素及び水を配合したことを特徴とする懸濁状農業用殺菌剤組成物が知られている(特許文献2)。
硫黄を含有する懸濁製剤並びに該製剤を用いた植物病害及び害虫の防除方法としては、硫黄、澱粉、界面活性剤及び水を含有する水性懸濁硫黄組成物並びに該組成物を用いた植物病害及び害虫の防除方法が知られている(特許文献3)。
硫黄を含有する懸濁製剤は、現在、りんご、かき等のうどんこ病の防除農薬として広く使用されている。しかしながら、特許文献2及び3には、硫黄を含有する懸濁製剤がそうか病の防除に有効であることは開示も示唆もされておらず、硫黄を含有する懸濁製剤がそうか病防除材として使用できることは知られていない。上述したように、硫黄粉末はそうか病に対して効果が見られないと認識されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−203909号公報
【特許文献2】特許第2932600号
【特許文献3】特開2004−83486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、環境や、人体に対する安全性が高く、かつ簡便で安心して使用でき、土壌病害に対して確実に効果のあるそうか病防除材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これらの条件に適するそうか病防除材について鋭意検討を重ねた結果、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有するように製剤化された硫黄懸濁液製剤が、速効的な土壌pH低下作用を有し、ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因するそうか病に対して著しい防除効果を有することを見出した。本発明は、これらの新規な知見に基づいて完成されたものである。
従って、本発明は、
1.ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因するそうか病を防除するための硫黄懸濁液であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有することを特徴とするそうか病防除用硫黄懸濁液、及び
2.ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因するそうか病を防除するための方法であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有する硫黄懸濁液を土壌に混和することを特徴とするそうか病防除方法、
に関する。
【0009】
ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因するそうか病を発病する作物としては、例えば、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼう等が挙げられる。
従って、本発明は、また、ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因する、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼうからなる群から選択される作物におけるそうか病を防除するための硫黄懸濁液であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有することを特徴とするそうか病防除用硫黄懸濁液、及び
ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因する、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼうからなる群から選択される作物におけるそうか病を防除するための方法であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有する硫黄懸濁液を土壌に混和することを特徴とするそうか病防除方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硫黄懸濁液は、消防法の危険物に含まれず、そのため輸送、貯蔵に消防法危険物の規制を受けることがない。また、水で希釈して施用できるため処理が簡便である。
また、本発明の硫黄懸濁液は、土壌pH低下効果発現が速く、更に後作物及び環境に悪影響を与えない。
また、本発明の硫黄懸濁液は、多量の施用量を要せず、作業性の面でも優れている。
本発明の硫黄懸濁液の土壌病害に対する効果は、ストレプトマイセス・スカビエス(Streptomyces scabies)又はストレプトマイセス・タージディスカビエス(Streptomyces turgidiscabies)に起因するそうか病、例えば、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼうにおけるそうか病、特にはバレイショそうか病の防除に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳述する。
【0012】
本発明者らは、有用なそうか病防除材の探索を行ったところ、平均粒径が3μm以下の硫黄を含む硫黄懸濁液が、硫黄粉末には見られない速やかな土壌pH低下作用を示すことを見出し、更に、そうか病に対する試験を行ったところ、この粒径の硫黄を含む硫黄懸濁液がそうか病防除効果を示すことを確認し、本発明を完成させたものである。
【0013】
本発明の硫黄懸濁液には、硫黄粉末が、例えば、20〜60質量%、好ましくは、45〜55質量%の量で含まれる。
本発明の硫黄懸濁液中に含まれる硫黄粉末は、原料硫黄粉末、例えば、平均粒径が、40〜80μm、好ましくは、約70μm(200メッシュパス品)の硫黄粉末を、その平均粒径が3μm以下になるまで粉砕することによって得られる。硫黄懸濁液中に含まれる硫黄粉末の平均粒径が3μmより大きいと、速やかな土壌pH低下作用及びそうか病防除作用を示さない。一方、平均粒径が小さい程、土壌pH低下作用は良好になり、例えば、0.1μmまでの粉末状態にすることが好適である。ただし、平均粒径を、0.5μm以下にしようとすると、粉砕に要する時間が平均粒径の低下に伴うほど経済的ではなくなるので、平均粒径は、実用上、0.7〜1.2μm程度であることが好適である。
【0014】
本発明の硫黄懸濁液において、硫黄粉末は水中に懸濁した状態で存在する。使用する水の量は、本発明の硫黄懸濁液の質量に基づいて、例えば、10.0〜50.0質量%、好ましくは、20.0〜40.0質量%である。
【0015】
本発明の硫黄懸濁液には、硫黄粉末の沈殿を防ぎ硫黄粉末を水中に懸濁させるために、通常、増粘剤を用いることが必要とされる。
本発明の硫黄懸濁液に使用する増粘剤としては、例えば、キサンタンガムや、アルカシーガム等の微生物産出多糖類、カルボキシメチルセルロース等の有機系増粘剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の合成高分子系増粘剤、ベントナイト、ホワイトカーボン等の鉱物質を含む無機系増粘剤を使用することができる。これらはその1種を単独で、また必要により2種以上を組み合わせて用いることができる。使用する増粘剤の量は、本発明の硫黄懸濁液の質量に基づいて、例えば、0.05〜5.00質量%、好ましくは、0.2〜1.5質量%である。
【0016】
本発明の硫黄懸濁液には、必要に応じて各種の成分を適宜配合することができる。例えば、界面活性剤、凍結防止剤等を添加することができる。
本発明の硫黄懸濁液に使用する界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール高級脂肪酸エステルや、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタンモノアルキレート、アセチレンアルコール若しくはアセチレンジオール又はそれらのアルキレンオキシド付加物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンのノニオン性界面活性剤、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩又はその縮合物、ナフタレンスルホン酸塩又はその縮合物、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル燐酸塩、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリカルボン酸型高分子活性剤等のアニオン性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤を好適に挙げることができる。これらはその1種を単独で、また必要により2種以上を組み合わせて用いることができる。使用する界面活性剤の量は、本発明の硫黄懸濁液の質量に基づいて、例えば、0.5〜10.0質量%、好ましくは、1.0〜5.0質量%である。
【0017】
本発明の硫黄懸濁液に使用する凍結防止剤としては、エチレングリコールや、プロピレングリコール、グリセリン等の水溶性有機溶剤や、尿素、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等の肥料成分を好適に挙げることができる。これらはその1種を単独で、また必要により2種以上を組み合わせて用いることができる。使用する凍結防止剤の量は、本発明の硫黄懸濁液の質量に基づいて、例えば、1.0〜15.0質量%、好ましくは、3.0〜8.0質量%である。
【0018】
その他、本発明の硫黄懸濁液には、肥料製材に一般的に用いられる防腐剤や、着色剤、消泡剤などを適宜添加することもできる。
本発明の硫黄懸濁液に使用する防腐剤としては、2−ブロモ−2−ニトロ1,3−プロパンジオールや、5−クロロ−2−メチル−4−イオチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イオチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ヘキサヒドロトリアジン、ピリチオン誘導体またはその塩類、プロピオン酸またはその塩類、パラオキシ安息香酸誘導体もしくはその塩類等の工業用用途また食品添加物、医農薬用途で使用できる防腐剤を好適に挙げることができる。これらはその1種を単独で、また必要により2種以上を組み合わせて用いることができる。使用する防腐剤の量は、本発明の硫黄懸濁液の質量に基づいて、例えば、0.02〜1.0質量%、好ましくは、0.08〜0.5質量%である。
【0019】
本発明の硫黄懸濁液に使用する着色剤としては、食用青色1号や、食用青色1号アルミニウムレーキなどの染料、紺青などの無機系顔料、フタロシアニン系、アゾ系、ベンズイミダゾリン系の有機系顔料で工業用途また食品添加物、医農薬用途で使用できる着色剤を好適に挙げることができる。これらはその1種を単独で、また必要により2種以上を組み合わせて用いることができる。使用する着色剤の量は、本発明の硫黄懸濁液の質量に基づいて、例えば、0.0005〜1.0質量%、好ましくは、0.001〜0.5質量%である。
【0020】
本発明の硫黄懸濁液に使用する消泡剤としては、シリコーン系界面活性剤やその乳化物、固体分散液の混合剤や脂肪酸及び脂肪酸を含む界面活性剤、ポリオキシエチレンやポリオキシプロピレン誘導体を挙げることが出来る。これらはその1種を単独で、また必要により2種以上を組み合わせて用いることができる。使用する消泡剤の量は、本発明の硫黄懸濁液の質量に基づいて、例えば、0.01〜3.0質量%、好ましくは、0.05〜1.0質量%である。
【0021】
本発明の硫黄懸濁液は、例えば、水、増粘剤、界面活性剤、凍結防止剤、消泡剤等を混合した溶液に、硫黄粉末を添加し、湿式粉砕機を用いて粉砕して製造することができる。
本発明の硫黄懸濁液を製造するための湿式粉砕は、ビーズミル、湿式メディアレス微粒化装置等の湿式粉砕機により行うことができる。
本発明の硫黄懸濁液を製造するための湿式粉砕における粉砕時の回転数は、使用される湿式粉砕機の種類により異なるが、約1000〜2000r.p.m程度である。
本発明の硫黄懸濁液を製造するための湿式粉砕における粉砕時間は、使用される湿式粉砕機の種類および懸濁の液量により異なるが、約1〜12時間程度である。
【0022】
本発明の硫黄懸濁液は、ストレプトマイセス・スカビエス(Streptomyces scabies)又はストレプトマイセス・タージディスカビエス(Streptomyces turgidiscabies)に起因するそうか病が発病する作物に広く使用され得る。本発明の硫黄懸濁液が適用される作物としては、例えば、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼうが挙げられ、好適にはバレイショである。
【0023】
本発明の硫黄懸濁液は、一般的には水を用いて、例えば、3〜100倍、好ましくは、5〜20倍に希釈して、土壌表面に全面散布後土壌混和する。
そうか病軽減を目的として、本発明の硫黄懸濁液を土壌表面に全面散布後土壌混和する時期は、塊茎の植え付け又は播種(以下、単に播種とする)前が好ましく、播種1ヶ月前から播種当日に、本発明の硫黄懸濁液を土壌表面に全面散布後土壌混和することが好適である。
また、播種後に土壌混和する場合には、培土作業直前に、畦間に本発明の硫黄懸濁液を散布し、その後培土作業を行うことにより本発明の硫黄懸濁液を土壌に混和することも可能である。
本発明の硫黄懸濁液の施用時期は、土壌の種類や本発明の硫黄懸濁液が適用される作物の種類によって適宜変更し得る。
【0024】
そうか病を防除するために、本発明の硫黄懸濁液を土壌表面に全面散布後土壌混和する。これは、塊茎周辺の土壌においてpHを低下させる必要があるためである。そのため、本発明の硫黄懸濁液を土壌表面に全面散布するだけでは、散布水量を増やしても十分な防除効果は得られない。
土壌混和は、例えば、本発明の硫黄懸濁液が、土壌中3〜50cm、好ましくは、10〜30cmの深さで混和されるよう行われることが好適である。
【0025】
そうか病軽減を目的とした、本発明の硫黄懸濁液の全面散布後全層混和する場合の施用量は、土壌の種類にもよるが、通常、硫黄として10a当たり2kg〜20kgであり、好適には3kg〜15kg、更に好適には4kg〜10kgである。
本発明の硫黄懸濁液の施用量は、10a当たり数百kgのpH低下資材の使用を必要としていた従来技術に比べて、はるかに低い量である。
【0026】
本発明の硫黄懸濁液の土壌pH低下作用は効果発現が速く、水分量、土壌の種類、特に地温により異なるが、施用約0.5〜2ヶ月後より、明らかなpH低下作用が見られる。この速やかな土壌pH低下作用により、例えば、バレイショ等の作物の播種約1.5〜3ヶ月後の塊茎形成期に土壌のpHを低下させ、格別なそうか病抑制効果がもたらされる。また、播種約4〜4.5ヶ月後の収穫期には、本発明の硫黄懸濁液を散布する前とほぼ同等のpHにもどり、後作への悪影響がないのが特徴である。このように、本発明の硫黄懸濁液は、そうか病を防除するために、作物の塊茎形成期又は根部形成期に土壌のpHを低下させるよう、好適には土壌pHを5.3未満に低下させるよう用いられる。なお、作物の塊茎形成期又は根部形成期に土壌のpHが低く保たれていれば、それらの時期を過ぎた後に土壌のpHが元に戻っても、作物がそうか病を発病することは極めて少ない。
【実施例】
【0027】
以下において、本発明のそうか病防除用硫黄懸濁液について、実施例及び試験例を参照しながら、更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの製造例及び試験例によって何ら限定されるものではない。
なお、以下の記載中、「部」は全て質量部を表す。
【0028】
(実施例1)
本発明の硫黄懸濁液の製造
水37.5部に増粘剤としてキサンタンガム0.15部及びポリビニルピロリドン0.25部、界面活性剤としてアルキルナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物(デモールMS:花王株式会社)1.0部、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル(ニューカルゲンCP−15−200:竹本油脂株式会社)1.5部及びジアルキルスルホサクシネート塩(ニューカルゲンEP−4:竹本油脂株式会社)1.0部、消泡剤としてシリコーン系エマルジョン0.1部(アンチホームE-20:花王株式会社)、防腐剤として1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン0.1部、凍結防止剤としてプロピレングリコール5.5部を加えた。この溶液に、硫黄粉末(硫黄含量99.9%、200メッシュパス、平均粒径70μm)53部を添加し、更にベッセルに直径0.8〜1.2mmのガラスビーズ150mlを充填し湿式粉砕機(アイメックス株式会社製 テスト用6筒式サンドグライダー 6TSG型)を用いてバッチ式粉砕を行った。粉砕時の回転数は1500r.p.mであり、粉砕を2時間行った。その結果、本発明の硫黄懸濁液を得た。
次いで、粒径測定器(株式会社島津製作所 レーザ回析式 粒度分布測定装置 SALD-2200)を用いて、得られた硫黄懸濁液中に含まれる硫黄の粒径を測定した。硫黄の平均粒径は1.1μmであった。
【0029】
(比較例1)
粉砕時間を10分としたことを除いては、実施例1と同様な組成及び方法で、硫黄懸濁液を製造した。粒径測定器(株式会社島津製作所 レーザ回析式 粒度分布測定装置 SALD-2200)を用いて、得られた硫黄懸濁液中に含まれる硫黄の粒径を測定した。硫黄の平均粒径は6.1μmであった。
【0030】
(試験例1)
土壌pH低下作用に関する試験
50000分の10アールの素焼きポットに洪積性火山灰土壌を充填し、硫黄粉末(硫黄含量99.9%、200メッシュパス、平均粒径70μm)、実施例1で製造した本発明の硫黄懸濁液(硫黄含量53%、平均粒径1.1μm)、比較例1で製造した硫黄懸濁液(硫黄含量53%、平均粒径6.1μm)のそれぞれを、硫黄として10a当たり7kgになるよう土壌表面に散布処理後、10cmの深さまで土壌混和した。
また、硫黄製剤を処理しない区を無処理区とした。
これらのポットをガラス温室内に設置し、土壌が乾燥しないよう散水を行った。
15日間間隔で土壌pHを測定した。土壌pHの測定は、0〜10cmの深さの土壌を採取し乾物重を測定し、乾物質量20gの5倍量相当量の水分量になるよう蒸留水を加え5分間振とう後、ろ過した濾液のpHを測定することにより行った。
pH測定には、ホリバー製ガラス電極式水素イオン濃度計D-24を用いて測定した。
その結果を表−1に示す。
【0031】
表−1 硫黄平均粒径と土壌混和後の土壌pHの経変

*()内の値は、それぞれ硫黄の平均粒径を表す。
【0032】
(試験例2)
バレイショそうか病試験
バレイショそうか病試験として、バレイショ(品種トヨシロ)の圃場試験を行った。
試験区は、硫黄懸濁液全層混和区と無処理区とし、1区3反復とした。圃場の土壌中には、ストレプトマイセス・タージディスカビエスが生息していた。
4月30日、前作てんさいの圃場において、硫黄懸濁液全層混和区では、実施例1で製造した本発明の硫黄懸濁液(硫黄含量53%、平均粒径1.1μm)を10倍の水に希釈し、硫黄として10a当たり7kgになるよう、散布機により土壌表面に散布後、耕運機により30cmの深さに土壌混和し、畦たてを行い、種イモを植えた。
各区の株間の深さ15cm〜30cmの土壌のpHを定期的に測定した(表−3)。
9月15日に収穫を行い、収量(上いも重 kg/10a)、そうか病の病いも率及び発病度を調査し、防除価を算出した(表−4)。
また、そうか病の発病調査は、「ジャカイモそうか病の発生基準」北海道馬鈴しょ生産安定基金協会(平成5年)に従った(表−2)。
【0033】
表−2 そうか病発病指数

【0034】
病いも率と発病度は次式にしたがって算出した。
病いも率=(n1+n2+n3+n4)÷全調査いも数×100
発病度=(n1×1+n2×2+n3×3+n4×4)×100 ÷(4×全調査いも数)
式中、n1、n2、n3及びn4は、それぞれ発病指数1、2、3及び4に該当するいも数である。
防除価=100−(処理区の発病度÷無処理区の発病度)×100
【0035】
表−3 pH測定値

【0036】
本発明の硫黄懸濁液処理区においては、そうか病の感染しやすい塊茎形成期に当たる7月の土壌pHを5.3未満に保つことができた。更に、9月以降の収穫期には、本発明の硫黄懸濁液処理区の土壌pHは、無処理区とほぼ同等の土壌pHにもどり、後作への影響が少ないことがわかった。
【0037】
表−4 規格内収量及びそうか病調査結果

【0038】
本発明の硫黄懸濁液処理区における規格内収量と、無処理区における規格内収量には、実質的な差は見られなかった。
本発明の硫黄懸濁液処理区における病いも率は、無処理区における病いも率と比較して、およそ1/6にまで減少した。
本発明の硫黄懸濁液処理区における発病度は、無処理区における発病度と比較して、およそ1/7にまで減少した。
本発明の硫黄懸濁液は、収量に悪影響を及ぼすことなく、バレイショそうか病に高い防除効果を示した。
【0039】
(参考例)
硫黄懸濁液に対するそうか病菌の薬剤感受性検定
「ばれいしょのそうか病総合防除」北海道農業試験会議(成績会議)資料、平成15年度、p−5に従い、以下に組成を示したツァペック培地を使用して、日植病報73:162−165(2007)に準じて以下の通り薬剤感受性検定を行った。
ツァペック培地に、実施例1で製造した本発明の硫黄懸濁液(硫黄含量53%、平均粒径1.1μm)を培地中で表−5に示される各硫黄濃度になるよう希釈した液を添加し、次いでその培地を直径9cmのプラスチックシャーレに流し込み、固化させ、培地表面の余剰水分を乾燥させた。この寒天平板上に、滅菌水1mlで1白金耳分のそうか病菌を懸濁させた懸濁液をそれぞれ50μlづつ滴下し、コーンラージ棒で均一に広げたのち恒温室内で保持した。供試菌株として、Streptomyces scabies(表−5中、S.sと略す)及びStreptomyces turgidiscabies(表−5中、S.tと略す)を使用した。14日間培養後、寒天平板上の集落の数を目視で計測し、増殖を示さない濃度を薬剤感受性値(最小発育阻止濃度minimum inhibitory concentration MIC値)として、菌の増殖を評価した。試験の結果を表−5に示した。
【0040】
ツァペック培地の組成
NaNO3 3g
2HPO4 1g
MgSO4・7H2O 0.5g
KCl 0.5g
FeSO4・7H2O 0.01g
スクロース 30g
アガロース 15g
蒸留水 1リットル
(終末pH7.3)
【0041】
表−5 本発明の硫黄懸濁液に対する供試菌株の薬剤感受性とMIC値

菌の増殖の評価
+ 菌が増殖
± わずかに増殖または1〜数個の集落が認められる
− 菌の増殖がまったく認められない
【0042】
一般に、そうか病の防除に使用されているフルアジナム剤「フロンサイド」(登録商標)のMIC値は菌にもよるが4〜63ppmであり、抗生物質でそうか病の防除に使用されているストレプトマイシン剤のMIC値は菌にもよるが0.39〜25ppmであり、オキシテトラサイクリン剤のMIC値は菌にもよるが3.12〜12.5ppmである。
これに対して、本発明の硫黄懸濁液においては、10,600ppmの濃度であってもそうか病菌の増殖を抑えることはできなかった。以上の参考例の結果より、本発明の硫黄懸濁液にはそうか病菌に対する直接的な抗菌活性は認められないことが示された。従って、本発明の硫黄懸濁液は、直接そうか病菌に殺菌効果を示すものではないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因するそうか病を防除するための硫黄懸濁液であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有することを特徴とするそうか病防除用硫黄懸濁液。
【請求項2】
ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因する、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼうからなる群から選択される作物におけるそうか病を防除するための硫黄懸濁液であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有することを特徴とするそうか病防除用硫黄懸濁液。
【請求項3】
ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因するそうか病を防除するための方法であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有する硫黄懸濁液を土壌に混和することを特徴とするそうか病防除方法。
【請求項4】
ストレプトマイセス・スカビエス又はストレプトマイセス・タージディスカビエスに起因する、バレイショ、だいこん、にんじん、ながいも及びごぼうからなる群から選択される作物におけるそうか病を防除するための方法であって、平均粒径が3μm以下の硫黄を含有する硫黄懸濁液を土壌に混和することを特徴とするそうか病防除方法。
【請求項5】
前記硫黄懸濁液を、塊茎の植え付け又は播種1ヶ月前から塊茎の植え付け又は播種当日までに土壌に混和する、請求項3又は4に記載の方法。

【公開番号】特開2012−6849(P2012−6849A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142519(P2010−142519)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000101123)アグロカネショウ株式会社 (19)
【Fターム(参考)】