説明

にがりによる植物の低硝酸化栽培方法

【課題】容易に入手でき、しかも単一の資材で簡単に希釈調節でき、植物特に野菜類の硝酸態イオン有量を低減させることができる葉面散布剤または土壌潅水剤を用いて、硝酸イオン含有量の低い植物を栽培する方法を開発し、健康の増進・維持に役立てる。
【解決手段】海水、塩湖水及び岩塩から選ばれた少なくとも1種より得られるにがりは、それぞれを単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。にがりを葉面散布剤または土壌潅水剤として散布または潅水する場合には、井戸水または水道水で500倍〜10,000倍に、好ましくは1,000倍〜5,000倍に希釈して使用する。にがりとして10アール(100m×10m)当り5〜10L好ましくは7Lである。散布または潅水はホウレンソウの場合、発芽後4〜10日目、好ましくは5〜7日目に1回、さらに約1週間後に1回でよく、緑色が強く、硝酸イオン含有量が外葉部、内葉部ともに低いものを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水あるいは塩湖水を濃縮して得られる天然にがり、あるいは海水をイオン交換膜にて処理して得られるにがり、岩塩を溶解した後、濃縮して得られるにがりの希釈水を栽培植物に葉面散布又は、土壌灌水することによって硝酸イオン含有量の少ない植物、特に硝酸イオン含有量の少ない野菜類を得ることを特徴とする栽培方法に関するものである。
【0002】
ヒトが硝酸イオンを摂取した場合、人体内で還元されて生ずる亜硝酸イオンが2級アミンと反応して発癌性のあるニトロソアミンを生成することが知られている。本発明は硝酸イオン含有量の少ない植物、特に硝酸イオン含有量の少ない野菜類を提供することによって、発癌の危険性を未然に防止し健康に役立てようとするものである。
【背景技術】
【0003】
従来から、発癌性のあるニトロソアミン生成の原因となる硝酸イオン摂取の抑制が必要である事が知られており、このため例えば食肉製品に亜硝酸ナトリウムを使用する場合には、亜硝酸根としての残存量が70mg/Kg以下と規制されている。このほか魚肉ハム、いくらをはじめとする加工食品に対する亜硝酸ナトリウムの使用量、食肉製品および鯨肉ベーコンへの硝酸カリウムおよび硝酸ナトリウムの使用量も規制されている。
【0004】
一方、野菜類における規制は全く行われていないものの、窒素肥料施用量過多に伴って土壌中の硝酸イオン濃度は増大し、このため野菜類の硝酸イオン含有量は高くなってきており、国立医薬品食品衛生研究所のデータベース(渡辺 宏著「食の安全−心配ご無用」p51朝日新聞社(2003)国立医薬品食品衛生研究所データベース)ではサラダ菜5,360mg/Kg、ホウレンソウ3,560mg/Kgとなっている。
【0005】
窒素肥料として施用された窒素化合物は硝化バクテリアの作用によってアンモニア態窒素から硝酸イオンとなって植物に取り込まれる。また、地下水に溶け込んで河川あるいは湖沼に流入した硝酸イオンは藻類の栄養源となり、藻類の大量発生をもたらし、河川あるいは湖沼のBODを増加させて生態系を破壊し、魚類をはじめとする水棲動物の生存を脅かす結果となる。
【0006】
このため、土壌への窒素肥料施用量を適切なものにする必要があり、植物特に野菜類の硝酸イオン含有量を低減させるために、モリブデン、アンモニア態窒素およびキトサンを含む葉面散布剤が特願平10−218713に、またモリブデン酸化合物、アミノ酸および核酸を含む葉面散布剤が特願2003−180165として開示されている。しかし、これらの技術では複数の資材を調合することが必要である。にがりのように単一の資材であって容易に入手でき、しかも希釈するだけで簡易に調製できるものを葉面散布剤又は、土壌潅水剤として用いる低硝酸化植物の栽培方法は開発されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、容易に入手でき、しかも単一の資材で簡単に希釈調製でき、植物特に野菜類の硝酸イオン含有量を低減させることができる葉面散布剤又は、土壌潅水剤を用いて、硝酸イオン含有量の低い植物を栽培する方法を開発することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、豆腐凝固剤として古くから使用されてきたにがりの希釈水を散布又は潅水することによって、植物特に野菜類の硝酸イオン含有量を低減できることを見いだし本発明の完成に至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、植物特に野菜類の硝酸イオン含有量を低減させることができる。硝酸イオン含有量が低い野菜類を供給できるため、硝酸イオンの過剰摂取に由来する発癌を心配する事なく充分に野菜類を摂取する事ができ健康の増進・維持に貢献する事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては海水、塩湖水、岩塩から選ばれた少なくとも1種より得られるにがりを井戸水または水道水で希釈したものを植物特に野菜類に散布または潅水する。たとえば海水からボーメ28〜30度のにがりを製造する場合、海水を天日でボーメ13度まで濃縮した後、煮釜に移してさらに濃縮し、析出してくるカルシウム塩を除去し、次いでボーメ28〜30度で析出してくる食塩を分離することによって得ることができる。他の製造方法として、塩田にてボーメ28〜30度まで濃縮し析出してくる食塩を分離することによってにがりを得る。又は、これを煮釜に移してさらに濃縮し、ボーメ28〜30度で析出してくる食塩を分離することによってにがりを得る方法がある。塩湖水からも同様の方法でにがりを得ることができる。イオン交換膜を使用する場合、海水から塩素イオンとナトリウムイオンを電気的に透析分離した残母液を濃縮することによってにがりを得ることができる。岩塩の場合は、一度、水に溶解させ、これを煮釜に移して濃縮し、ボーメ28〜30度で析出してくる食塩を分離することによってにがりを得ることができる。
【0011】
このようにして得られたにがりは、それぞれを単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。にがりを葉面散布剤又は土壌潅水剤として散布又は潅水する場合には、井戸水または水道水で500倍〜10,000倍に、好ましくは1,000倍〜5,000倍に希釈して使用する。にがりとして10アール(100m×10m)当り5〜10L、好ましくは7Lである。散布又は潅水はホウレンソウの場合、発芽後4〜10日目、好ましくは5〜7日目に1回、さらに約1週間後に1回でよく、緑色が強く、硝酸イオン含有量が外葉部、内葉部ともに低いものを得ることができる。
【実施例1】
【0012】
ホウレンソウ(品種:サンピア)を用いてにがり希釈液の葉面散布による比較試験を行った。播種は1畝2条播きとし、施肥は現地慣行法、散布回数は2回、希釈倍率は1,000倍、散布面積は(0.7m×30m)×2畝とした。播種後7日目に発芽し、発芽後7日目に1回目の葉面散布を行った。散布量は1畝当り希釈液150Lとした。さらに7日後2回目の葉面散布を1回目と同様に行った。2回目の葉面散布の7日後と収穫時にミノルタ葉緑素計を使用し緑色の比較(10株を測定した平均値)を行うとともに収穫されたホーレン草の硝酸イオン含有量を比較した。
【0013】
表1に示す通り、にがり希釈水未散布(コントロール)のホウレンソウは葉面散布後36.3収穫後37.3であったのに対して、葉面散布を行ったホウレンソウはそれぞれ44.4及び45.5となり、にがり希釈水の葉面散布による緑色の向上が確認された。
【表1】

【0014】
表2に示す通り、にがり希釈水未散布(コントロール)のホウレンソウにおける硝酸イオン含有量は外葉の葉身部2.485(mg g−1DW)(DWは乾燥重量の略。以下同じ)、外葉の葉柄部46.694(mg g−1DW)、内葉の葉身部10.174(mg g−1DW)、内葉の葉柄部34.128(mg g−1DW)、これに対して葉面散布を行ったホウレンソウにおける硝酸イオン含有量は外葉の葉身部0.154(mg g−1DW)、外葉の葉柄部0.403(mg g−1DW)、内葉の葉身部0.076(mg g−1DW)、内葉の葉柄部0.676(mg g−1DW)、となり、希釈水葉面散布による硝酸イオン含有量の低減が確認された。
【表2】

【実施例2】
【0015】
ホウレンソウ(品種:サンピア)を用いてにがり希釈水の土壌潅水による比較試験を行った。播種は1畝2条播きとし、施肥は現地慣行法、潅水回数は2回、希釈倍率は1,000倍、潅水面積は(0.7m×30m)×2畝とした。播種後7日目に発芽し、発芽後7日目に1回目の土壌潅水を行った。1畝当りの潅水量は希釈液150Lとした。さらに7日後2回目の土壌潅水を1回目と同様に行った。土壌潅水の7日後と収穫時にミノルタ葉緑素計を使用し緑色の比較(10株を測定した平均値)を行うとともに収穫されたホウレンソウの硝酸イオン含有量を比較した。
【0016】
表1に示す通り、にがり希釈水未潅水(コントロール)のホウレンソウは潅水後36.3、収穫後37.3に対して土壌潅水を行ったホウレンソウはそれぞれ42.6及び43.2となり、にがり希釈水の土壌潅水による緑色の向上が確認された。
【0017】
表2に示す通り、にがり希釈水未潅水(コントロール)のホウレンソウにおける硝酸イオン含有量は外葉の葉身部2.485(mg g−1DW)、外葉の葉柄部46.694(mg g−1DW)、内葉の葉身部10.174(mg g−1DW)、内葉の葉柄部34.128(mg g−1DW)、これに対して土壌潅水を行ったホウレンソウにおける硝酸イオン含有量は外葉の葉身部0.663(mg g−1DW)、外葉の葉柄部19.714(mg g−1DW)、内葉の葉身部2.067(mg g−1DW)、内葉の葉柄部19.627(mg g−1DW)、となり、希釈水葉面散布よりは劣るものの、硝酸イオン含有量の低減が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水、塩湖水及び岩塩から選ばれた少なくとも1種より得られるにがりの希釈水を植物に散布することによって硝酸イオン含有量の少ない植物を得ることを特徴とする栽培方法。
【請求項2】
海水、塩湖水及び岩塩から選ばれた少なくとも1種より得られるにがりの希釈水を植物に土壌灌水することによって硝酸イオン含有量の少ない植物を得ることを特徴とする栽培方法。

【公開番号】特開2006−109719(P2006−109719A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298412(P2004−298412)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(301039930)株式会社富士見物産 (3)
【出願人】(302071081)
【Fターム(参考)】