説明

ばり取り工具およびそれのための切削インサート

ばり取り工具はその内部でスライドできる切削インサート(18)を有する。切削インサートは円筒状の主本体(38)とこの主本体から延在するより小さい径の小本体(36)を有する。切削インサートは偏倚ばね(22)を用いて引っ込んだ位置と突き出た位置との間を移動できる。ばねは切削インサートの側方に並んで位置し、ばねが作用する偏倚力は調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばねによって装填された切削インサートを備えて穴のばり取りを行うための工具に関する。
【背景技術】
【0002】
このようなばり取り工具の例が特許文献1に開示されている。このばり取り工具は、半径方向にその中に延在して後部の壁で終端する半径方向の窓を有した工具ホルダと、後部の溝を有した切削インサートとを備えている。切削インサートはばねによってばね装着され、このばねは後部の壁に取り付けられ、後部溝内に配置されてその溝と係合するものである。ここで、ばり取り工具では、後部溝の存在がインサートの強度を低下させることがあることに留意する必要がある。さらに、ばねが切削インサートに作用する付勢力を調整するための調整機構は存在しない。
【0003】
【特許文献1】米国特許5,755,538号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は改善されたばり取り工具を提供することであり、さらなる目的はばり取り用の改善された切削インサートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的はそれぞれの請求項の要旨によって達成することができる。
【0006】
本発明では、好ましくは、
概ね円筒状の主本体と、
前記主本体の前方端における切削部と、
前記主本体の後方端から後方へ延在する概ね円筒状の小本と、
前記主本体の周囲面に形成され、前記主本体の後方端において開口しているばね用凹部と、
前記主本体の前記周囲面に形成された保持用凹部と、
を具えたことを特徴とする切削インサートが提供される。
【0007】
好ましい実施形態では、前記ばね用凹部と前記保持用凹部は、前記主本体の前記周囲面において対向して配置されている。
【0008】
本発明では、好ましくは、
工具直径および前端部に隣接してインサートポケットを有した概ね円筒状の工具ホルダであって、前記インサートポケットが、
長手方向の空洞軸を有した概ね円筒状の主空洞であって、前記工具ホルダの周囲工具面において主開口によって開口する主空洞と、
前記主空洞に通じ、前記工具ホルダの周囲工具面において小開口によって開口する概ね円筒状の小空洞と、
前記主空洞に通じ、前記工具ホルダの周囲工具面において開口するばね用穴と、
前記主空洞に通じ、前記工具ホルダの前方端において開口する保持用穴と、
を具えたことを特徴とする工具ホルダもまた提供される。
【0009】
好ましい実施形態では、前記小空洞は前記主空洞と同一直線上にある。
【0010】
本発明では、好ましくは、
本発明の工具ホルダと、
前記工具ホルダの前記インサートポケットにスライド可能に保持される本発明の切削インサートであって、当該切削インサートを突き出た位置に偏倚させるばねを用いて引っ込んだ位置と突き出た位置との間をスライド可能であり、前記突き出た位置では切削部の少なくとも一部が前記工具ホルダの前記周囲面を越えて前記主開口から突き出る、切削インサートと、
を具えたことを特徴とするばり取り工具もまた提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は次のような好ましい利点を提供する。工具の径を比較的小さくすることができる。切削インサートを、押し込みに対する安定性が増したものとすることができ、また、ばねが切削インサートに作用する付勢力を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明をより良くの理解するために、また、本発明が実際どのように実施されるかを示すために、添付の図面が参照される。
【0013】
先ず、本発明のばり取り工具10を示す図1および図2に注目する。ばり取り工具10は、前方から後方への方向を規定する、長手方向の回転軸12を有するものであり、円筒状の工具ホルダ14を含んでいる。工具ホルダ14は、その前端にインサートポケット16を有し、そのポケット内で切削インサート18がスライド可能に保持され、それによって引っ込んだ位置と突き出た位置との間の側方の動きが可能となる。以下でより詳細に述べられるように、切削インサート18は、保持部材20を用いてインサートポケット16から出ることが阻止され、ばね22を用いてインサートポケット16に装填されている。ここで、ばねはその端部の1方で切削インサート18と係合し、他方の端部で装填部材24と係合している。ばね22はらせんコイルを有した圧縮コイルばねである。装填部材24と保持部材20は同様の形をしており、両方とも、円筒状のねじの切られたヘッド26とねじの切られたヘッド26より小さい直径の円筒状の軸28を有しており、それによって、軸28とねじの切られたヘッド26の間に半径方向に延在する環状の面30を形成している。なお、本願の明細書および請求項に現れる方向を示す用語、例えば、「前方」、「後方」、「前方の」、「後方の」は、種々の面を相互に区別するために便宜上用いられるものである。これらの用語は特定の部品の向きに関連して意味を持つことあるが、それらは説明の目的でのみに使われるものであり、請求項の範囲を限定することを意図したものではない。
【0014】
次に、図3〜図6に注目する。切削インサート18は、前方から後方への方向を規定する長手方向のインサート軸線32を有する。切削インサート18は、切削部34、小本体36、およびそれらの愛だの主本体38を有している。主本体38は、第1の直径D1を有した概ね円筒状の形を有し、インサート軸線32に沿って第1の長さL1だけ延在している。主本体38は、後方端における後方面40、前方端における前方面42、およびそれらの間に延在した周囲面44を有する。インサート軸線32を含む第1の平面P1は、主本体周囲面44の対向した面と第1および第2の交差ラインに沿って交差する。第1の交差ラインを含む第1の想像線46が、後方面40と前方面42との間に延在する。第2の交差しているラインを含む第2の想像線48が、同じく後方面40と前方面42との間に延在する。
【0015】
保持用凹部50が主本体38の周囲面44に第1の想像線46の部分に沿って形成されている。保持用凹部50は、第1の平面P1に関して対向する側で縦方向に延在する2つの側壁52を有している。それぞれの側壁52は、前方端および後方端を有し、周囲面44から凹部底面54まで延在する。凹部50の後部壁56は、周囲面44から凹部底面54まで延在し、両側壁52の後方端の間をつないでいる。凹部50の前部壁58は、周囲面44から凹部底面4まで延在し、両側壁52の前方端の間をつないでいる。
【0016】
ばね用凹部60は、凹部面62と支持面64を有し、主本体38の周囲面44において第2の想像線48の部分に沿って形成され、後方面40において開いている。凹部面62は、第2の想像線48と直交する断面において凹形で弧状の形を有している。支持面64は、ばね用凹部60の前方端に配置され、第2の想像線48と直交し、周囲面44から凹部面62まで延在する。
【0017】
切削部34は、切削インサート18の前方面42からインサートノーズ66まで前方に突き出ており、対向する第1および第2の側面68、70を有している。第1および第2の側面68、70は、第1の平面P1に関しての反対側にそれぞれ配置され、上記面に概ね平行である。第1および第2の側面68、70の間の幅dは、第1の直径D1より小さい。インサート軸線32を含む第2の平面P2はが第1の平面P1と直交する。切削部34は、第2の平面P2に関して鏡映対称である2つの切削部分72を有する。それぞれの切削部分72は、逃げ面74、すくい面76およびそれらの間の切削エッジ78を含む。すくい面76は、第2の側面70に関連付けられている。逃げ面74は、主本体の周囲面44からインサートノーズ66まで第2の平面P2に向かって傾いている。
【0018】
切削インサートの小本体36は、主本体38の後方面40から後方にインサート軸線32に沿って延在している。小本体36はインサート軸線32に沿って第2の長さL2だけ延在し、第1の直径 D1より小さい第2の直径 D2を有した周囲面80を有している。
【0019】
次に、図7および8に注目する。工具ホルダ14は、長手方向の回転軸線12に沿って延在し、工具直径DTと周囲工具面82を有している。インサートポケット16は、円筒状の主空洞84と小空洞86を有し、これらの空洞は工具ホルダ14を通って空洞軸線88と同心でかつこの軸線に沿って連続して延在している。主空洞84は、主空洞面90を有し、主開口92を介して周囲工具面82において開口している。小空洞86は小空洞面94を有し、小開口96を介して周囲工具面82において開口している。空洞軸線88と回転軸線12を含む第3の平面P3は、工具ホルダ14を通る。工具ホルダ14は、その前端に前方面98を有する。保持用穴100が、前方面98に形成され、主空洞84に連絡している。保持用穴100は、第3の平面P3にあり、空洞軸88に直交する保持用軸線102に沿って延在している。保持用穴の100ねじ部104は、工具ホルダ14の前方面98に隣接して配置される。ばね軸108を有したばね用穴106は、主空洞84に通じ、周囲工具面82において小開口96に隣接して開口している。ばね軸線108は、第3の平面P3内にあり、空洞軸線88の後方で空洞軸線88に平行に位置している。ばね用穴106のねじの切られた部分110は、周囲工具面82に隣接した位置にある。
【0020】
次に、図9および図10に注目する。切削インサート18はインサートポケット16内に位置し、このとき、小本体36の周囲面80は少なくとも部分的に小空洞面94に接し、また、主本体38の周囲面44は主空洞面90に接し、さらに、保持用凹部の凹部底面54は工具ホルダ14の前方に面している。保持部材20は保持用穴100内に位置し、そのとき、保持部材のヘッド26は保持用穴100のねじ部104とねじで係合する。保持部材20の軸28は、工具ホルダ14の主空洞84の中に、また、切削インサート18の保持用凹部50の中に突き出る。ばね22と装填部材24はばね穴106内に位置し、その際、装填部材24はその中にばね22を捉えている。従って、装填部材24はばね22がばね用穴106から出ること阻止するための栓の役割を果している。装填部材24のヘッド26はばね用穴106のねじの切られた部分110とねじ係合し、装填部材24の軸28はばね22のらせん形コイルの中に突出る。
【0021】
ばり取り工具10における切削のインサート18の装填は、ばね22が切削インサート18の支持面64と装填部材24の環状面30との間で圧縮されることによって行われる。その結果、ばね22は偏倚されて切削インサート18に所定の力を作用し、このインサートに半径方向において外側に向けて付勢する。ばね22による力は、装填部材24の位置を調節することによって調節することができる。この調節は、装填部材24を内側へまたは外側へ向けて「ねじを回す」ことによって行われる。
【0022】
切削インサート18の、引っ込んだ位置と突き出た位置との間の横方向のスライドする動きは、保持用凹部50の前部壁58および後部壁56のそれぞれに接する、保持部材20の軸28によって制限を受ける。突き出た位置(図10)では、切削インサート18の切削部34が、主開口92から周囲工具面82を越えて突出る。ばり取り工具10において、切削インサート18の空洞軸線88の周りの所定方向の回転は、保持用凹部50のそれぞれの側壁52に当接する、保持部材20の軸28によって制限を受ける。
【0023】
一般的に、第2の物内で軸線に沿ってスライド可能に支持されている第1の物は、上記軸線と直交するその幅が小さいほど、また、上記軸線に沿ったその長さが長いほど、第2の物の中で押し込まれ難くなる。ばり取り工具10においては、切削インサート18の主および小本体の周囲面44、80は、切削インサート18がインサートポケットの中でスライドするとき、インサートポケット16によってスライド可能に支持される面である。より小さい直径D2の小本体の周囲面80の存在や、ばり取り工具10における横方向の最大限の(すなわち、回転軸線12と直交する)範囲をスライドの支持に利用できることは、切削インサート18の押し込みに対する安定性を増すパラメータである。
【0024】
図10に示されるように、ばね22が切削インサート18と側方で並んで位置し、また、切削インサート18の後方端112を越えて後方に延在しないという事実は、有利な点である。これは、切削インサート18とばね22の組合せの横方向の範囲が、切削インサート18の横方向の範囲に過ぎないからであり、この範囲は、切削インサートの後方端を越えてばねが後方に延在する従来の工具よりはるかに小さいものである。従って、本発明のばり取り工具10の工具直径DTを、ばねが切削インサートの後方端を越えて後方に延在する従来のばり取り工具の直径より小さくでき、それによって、より小さい直径の穴のばり取りをすることを可能にすることができる。さらに、上述されるように、ばね22の偏倚力は調整することができる。
【0025】
本発明のばり取り工具10の「ばり取り機構」、すなわち、上述した切削インサート18、ばね22、装填部材24および保持部材20は、工具ホルダ14の小さい領域に集中的に配置されることが、図1、図2、図9および図10から理解できる。保持用穴100が工具ホルダ14の前方面98を通ることに限られないことは当業者には明らかであり、従って、所望の工具ホルダにおいて「ばり取り機構」の位置を定めることは、インサートポケット16および保持用およびばね用の穴100、106を、上述したばり取り工具の場合のように形成することにより、設計上簡単なことである。
【0026】
本発明は一定の程度詳細に記述されたが、請求項に記載の本発明の範囲から逸脱することなく種々の改造と変更がなされる得ることは理解されるべきできである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るばり取り工具の斜視図である。
【図2】図1に示されるばり取り工具の分解斜視図である。
【図3】本発明に係る切削インサートの第1の側面図である。
【図4】図3に示される切削インサートの前方部の斜視図である。
【図5】図3に示される切削インサートの後方部の斜視図である。
【図6】図3に示される切削インサートの第2の側面図である。
【図7】ばり取り工具の工具ホルダの部分的な側面図である。
【図8】図7における線VIII-VIIIに沿った工具ホルダの横断面図である。
【図9】ばり取り工具の部分的な側面図である。
【図10】図9における線X-Xに沿ったばり取り工具の横断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
概ね円筒状の主本体(38)と、
前記主本体(38)の前方端における切削部(34)と、
前記主本体(38)の後方端から後方へ延在する概ね円筒状の小本(36)と、
前記主本体(38)の周囲面(44)に形成され、前記主本体(38)の後方端において開口しているばね用凹部(60)と、
前記主本体(38)の前記周囲面(44)に形成された保持用凹部(50)と、
を具えたことを特徴とする切削インサート(18)。
【請求項2】
前記ばね用凹部(60)と前記保持用凹部(50)は、前記主本体(38)の前記周囲面(44)において対向して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の切削インサート(18)。
【請求項3】
工具直径(DT)および前端部に隣接してインサートポケット(16)を有した概ね円筒状の工具ホルダ(14)であって、前記インサートポケット(16)が、
長手方向の空洞軸(82)を有した概ね円筒状の主空洞(84)であって、前記工具ホルダ(14)の周囲工具面(82)において主開口(92)によって開口する主空洞(84)と、
前記主空洞(84)に通じ、前記工具ホルダ(14)の周囲工具面(82)において小開口(60)によって開口する概ね円筒状の小空洞(86)と、
前記主空洞(84)に通じ、前記工具ホルダ(14)の周囲工具面(82)において開口するばね用穴(106)と、
前記主空洞(84)に通じ、前記工具ホルダ(14)の前方端(82)において開口する保持用穴(100)と、
を具えたことを特徴とする工具ホルダ(14)。
【請求項4】
前記小空洞(86)は前記主空洞(84)と同一直線上にあることを特徴とする請求項3に記載の工具ホルダ(14)。
【請求項5】
請求項3に記載の工具ホルダ(14)と、
前記工具ホルダ(14)の前記インサートポケット(16)にスライド可能に保持される請求項1に記載の切削インサート(18)であって、当該切削インサート(18)を突き出た位置に偏倚させるばね(22)を用いて引っ込んだ位置と突き出た位置との間をスライド可能であり、前記突き出た位置では切削部(34)の少なくとも一部が前記工具ホルダ(14)の前記周囲面(82)を越えて前記主開口(92)から突き出る、切削インサート(18)と、
を具えたことを特徴とするばり取り工具(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−531313(P2008−531313A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−557664(P2007−557664)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000232
【国際公開番号】WO2006/092780
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(306037920)イスカーリミテッド (93)
【Fターム(参考)】