説明

アイアンゴルフクラブヘッド

【課題】改定後のR&Aのルールに適合させながら、ボールのスピン数を高くできるアイアンゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】フェース面11に連続する第1の側壁部21と、第1の側壁部21に連続する第2の側壁部22と、第2の側壁部22に連続する底部23とを有する溝部20とを備え、30°測定法で測定した溝部20の幅W1は、0.76mm以上0.88mm以下であり、フェース面11と第1の側壁部21との接続部分24に、曲率半径R0.05mm以上0.3mm以下の丸みと、第1の側壁部21と第2の側壁部22との接続部分25に丸みを設け、フェース面11から底部23までの深さD1は、0.38mm以上0.50mm以下であり、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1は、36°以上40°以下であり、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2は、5°以上10°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイアンゴルフクラブヘッドに関し、特に、フェース部にスコアラインが形成されたアイアンゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
アイアンゴルフクラブのフェース部には、スコアラインと呼ばれる溝が複数形成されている。この溝はボールのスピン数に影響する。ボールのスピン数が高くなるように、この溝は形成されていることが好ましい。
【0003】
たとえば、特開2008−114007号公報には、雨天時やラフからのショットの場合にボールのスピン量が大きく低減することを防止し、ボールに傷がつくことを低減するためのゴルフクラブヘッドが開示されている。この公報に記載のゴルフクラブヘッドでは、溝の一対の側面がフェース面から連続する第1の面と第1の面と連続する第2の面を有している。そして、一対の第1の面の各々がなす第1角度が、一対の第2の面の各々がなす第2角度よりも大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−114007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
R&A(Royal and Ancient Golf Club of St Andrews)のルール改定により、2010年1月1日以降、インパクトエリアの溝の形状に制限が加えられる。具体的には、従来から規定されている溝の幅、深さに加えて、縁の丸みの半径、断面積に対する溝の幅および溝の間隔の比率などが規定される。つまり、より具体的には、次の規定を満たさなければ、そのクラブは不適合とされる。
【0006】
溝の幅は、30°測定法で測定された本数の50%以上が0.889mm以下でなければならない。この30°測定法(R&A規則内規)とは、フェース面に対して30°傾けられた直線が溝の縁に接する2点間を溝の幅として測定する方法である。溝の深さは、測定された本数の50%以上が0.508mm以下でなければならない。溝の縁の丸みの半径は、2サークル法で0.254mm以上0.508mm以下の半径を有する同心円上に収まらなければならない。この2サークル法(R&A規則内規)とは、溝の側壁と隣接するフェース面とに接する半径0.010インチのサークルに対して同心円の半径0.011インチのサークルから溝の縁が突き出れば原則不適合とする方法である。断面積に対する溝の幅および溝の間隔の比率は、溝の断面積(A)を溝の幅(W)と溝の間隔(S)とを合わせた値で除した値((A)/((W)+(S)))の50%以上が0.0030インチ(0.0762mm2/mm)を超えてはならない。
【0007】
このルール改定によって、改定前に比べてボールのスピン数が減少してしまう可能性が高い。一方で、この改定後のルールを満たしながら、スピン数を高くしたいという要望がある。
【0008】
上記公報のゴルフクラブヘッドでは、第1の面と第2の面との間に角部が形成されている。この角部が尖っているため、上記公報のゴルフクラブヘッドは、上記R&Aのルールにおける溝の縁の丸みの半径の規定を満たさない。そのため、上記公報のゴルフクラブヘッドは、上記改定後のR&Aのルールに適合しない。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、上記改定後のR&Aのルールに適合させながら、ボールのスピン数を高くできるアイアンゴルフクラブヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のアイアンゴルフクラブヘッドは、フェース面を有するフェース部と、フェース部に形成され、フェース面に連続する第1の側壁部と、第1の側壁部に連続する第2の側壁部と、第2の側壁部に連続する底部とを有する溝部とを備え、30°測定法により測定した溝部の幅は、0.76mm以上0.88mm以下であり、フェース面と第1の側壁部との接続部分に、曲率半径0.05mm以上0.3mm以下の丸みが付与されており、第1の側壁部と第2の側壁部との接続部分に丸みが付与されており、フェース面から底部までの深さは、0.38mm以上0.5mm以下であり、フェース面に垂直な面に対する第1の側壁部の傾斜角は、36°以上40°以下であり、フェース面に垂直な面に対する第2の側壁部の傾斜角は、5°以上10°以下である。
【0011】
発明者が鋭意検討したところ、溝部の幅、フェース面と第1の側壁部との接続部分の丸み、第1の側壁部と第2の側壁部との接続部の丸み、フェース面から底部までの深さ、フェース面に垂直な面に対する第1の側壁部の傾斜角、フェース面に垂直な面に対する第2の側壁部の傾斜角がスピン数に影響することがわかった。そして、上記の溝部の形状を有する本発明のアイアンゴルフクラブヘッドによれば、上記改定後のR&Aのルールに適合させながら、ボールのスピン数を高くできることを見出した。
【0012】
上記のアイアンゴルフクラブヘッドは、好ましくは、JIS規格S25Cを含む素材よりなる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のアイアンゴルフクラブヘッドによれば、上記改定後のR&Aのルールに適合させながら、ボールのスピン数を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態のおけるアイアンゴルフクラブヘッドの概略正面図である。
【図2】本発明の一実施の形態のおけるアイアンゴルフクラブヘッドの溝部の概略断面図である。
【図3】アイアンゴルフクラブヘッドの溝部幅とスピン数との関係を示す図である。
【図4】アイアンゴルフクラブヘッドの溝部の曲率半径とスピン数との関係を示す図である。
【図5】アイアンゴルフクラブヘッドの溝部深さとスピン数との関係を示す図である。
【図6】アイアンゴルフクラブヘッドの第1側壁部傾斜角とスピン数との関係を示す図である。
【図7】アイアンゴルフクラブヘッドの第2側壁部傾斜角とスピン数との関係を示す図である。
【図8】比較例Aの溝部の概略断面図である。
【図9】比較例Bの溝部の概略断面図である。
【図10】本発明例Cの溝部の概略断面図である。
【図11】本発明例C1の溝部の概略断面図である。
【図12】本発明例C2の溝部の概略断面図である。
【図13】本発明例C3の溝部の概略断面図である。
【図14】本発明例および比較例のスピン数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
最初に本発明の一実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッドの全体構成について説明する。
【0016】
図1を参照して、本実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド1は、フェース部10と、複数の溝部20とを主に有している。フェース部10は、打球面であるフェース面11を有している。フェース部10に溝部20が形成されている。溝部20は、フェース面11に連続して形成されている。複数の溝部20は、フェース面11を縦断する方向に略等間隔で形成されている。複数の溝部20は、フェース面11を横断する方向に直線状に形成されている。
【0017】
アイアンゴルフクラブヘッド1は、図示しないシャフトが接続されるホーゼル部も有している。アイアンゴルフクラブヘッド1は、フェース部10の周囲に位置するトップエッジ部、トゥ部、ソール部、ヒール部も有している。トップエッジ部はホーゼル部からトゥ部に至るアイアンゴルフクラブヘッド1本体の上端縁部を構成する部分である。ソール部は、アイアンゴルフクラブヘッド1本体の底部を構成する部分である。トゥ部はホーゼル部から離れた側のトップエッジ部とソール部とを接続する部分である。ヒール部はホーゼル部下端からソール部に至る部分である。また、アイアンゴルフクラブヘッド1は、フェース部10の背面側に図示しないバック部も有している。
【0018】
アイアンゴルフクラブヘッド1は、たとえばJIS規格S25Cを含む素材を用いて作製することができる。なお、アイアンゴルフクラブヘッド1は、たとえば、ステンレス鋼、軟鉄、マルエージング鋼、純チタン、チタン合金、アルミニウム合金などの1種または2種以上の素材を用いて鍛造や鋳造により作製することもできる。
【0019】
また、アイアンゴルフクラブヘッド1にはめっきが施されていてもよい。めっきは、たとえば、Ni(ニッケル)−Cr(クロム)めっきであってもよい。Cr層が5μm、Ni層が20μmであってもよい。
【0020】
アイアンゴルフクラブヘッド1にシャフトおよびグリップを組み合わせることでアイアンゴルフクラブが構成される。なお、シャフトおよびグリップは周知のものを採用可能である。
【0021】
次に本実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッドの溝部の構成について詳細に説明する。
【0022】
図2を参照して、溝部20は、フェース面11に連続する第1の側壁部21と、第1の側壁部21に連続する第2の側壁部22と、第2の側壁部22に連続する底部23とを有している。第1の側壁部21および第2の側壁部22は、底部23を挟んで対向して一対で形成されている。
【0023】
フェース面11に対して30°傾けられた直線がフェース面11と第1の側壁部21との接続部分24に接する2点間の距離を、30°測定法により測定した溝部20の幅W1とする。この30°測定法により測定した溝部20の幅W1は、0.76mm以上0.88mm以下である。
【0024】
フェース面11と第1の側壁部21との接続部分24に、曲率半径Rが0.05mm以上0.3mm以下の丸みが付与されている。第1の側壁部21と第2の側壁部22との接続部分25に丸みが付与されている。第1の側壁部21と第2の側壁部22との間の接続部分25は、断面視において、尖った形状ではなく、なだらかな形状を有している。
【0025】
フェース面11と底部23とのフェース面11に垂直な方向の距離がフェース面11から底部23までの深さD1である。フェース面11から底部23までの深さD1は、0.38mm以上0.5mm以下である。フェース面11と接続部分25とのフェース面11に垂直な方向の距離が第1側壁部深さ(第1の側壁部21の深さ)D2である。接続部分25と底部23とのフェース面11に垂直な方向の距離が第2側壁部深さ(第2の側壁部22の深さ)D3である。
【0026】
フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1は、36°以上40°以下である。フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2は、5°以上10°以下である。断面視における底部23の幅が底部幅W2である。底部23は、フェース面11と略平行に形成されていることが好ましい。溝部20は溝部間隔Sをあけて複数形成されている。
【0027】
次に本実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッドの作用効果について説明する。
発明者が鋭意検討したところ、本実施の形態の溝部20の形状を有するアイアンゴルフクラブヘッド1によれば、上記改定後のR&Aのルールに適合させながら、ボールのスピン数を高くできることを見出した。理由は、以下の通りである。
【0028】
本実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド1において、30°測定法により測定した溝部20の幅W1を0.76mm以上0.88mm以下としたのは、溝部20の幅W1を0.88mm以下にすることで上記改定後のR&Aのルールの溝の幅0.889mm以下に適合させ、溝部20の幅W1を0.76mm以上にすることで溝部断面積Aを大きくして、ボールへの食い込みを良くしようとするものである。また、溝部20の幅を0.76mm以上とすることで、ラフショット時にボールとヘッドとの間に介在した芝が抜けやすくなる。さらに、ウェット時には排水性も向上するので、雨天時のスピン数も高くできる。
【0029】
フェース面11と第1の側壁部22との接続部分24に、曲率半径R0.05mm以上0.3mm以下の丸みを付与したのは、曲率半径Rを0.05mm以上にすることで第1の側壁部21の傾斜角θ1が36°であっても上記改定後のR&Aのルールの溝の丸みの半径に適合させ、曲率半径Rを0.3mm以下にすることでボールにフェース面11と第1の側壁部21との接続部分24をしっかりと接触させて、スピン数を高くしようとするものである。
【0030】
第1の側壁部21と第2の側壁部22との接続部分25に丸みを付与したのは、これにより、上記改定後のR&Aのルールの溝の丸みの半径に適合させることができるからである。
【0031】
フェース面11から底部23までの深さD1を0.38mm以上0.5mm以下としたのは、フェース面11から底部23までの深さD1を0.5mm以下にすることで上記改定後のR&Aのルールの溝の深さ0.508mm以下に適合させ、フェース面11から底部23までの深さD1を0.38mm以上にすることで溝部断面積Aを大きくして、ボールへの食い込みを良くしようとするものである。また、溝部20の深さを0.38mm以上とすることで、ラフショット時にボールとヘッドとの間に介在した芝が抜けやすくなる。さらに、ウェット時には排水性も向上するので、雨天時のスピン数も高くできる。
【0032】
フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1を36°以上40°以下としたのは、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1を36°以上にすることで曲率半径Rが0.05mmであっても上記改定後のR&Aのルールの溝の丸みの半径に適合させ、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1を40°以下にすることで、上記改定後のR&Aのルールの溝部20の幅W1に対応して底部23が小さくなることを抑制して、溝部断面積Aを大きくして、ボールへの食い込みを良くしようとするものである。また、第1の側壁部21の傾斜角θ1を40°以下とすることで、排水性も向上するので、特に雨天時のスピン数を高くできる。
【0033】
フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2を5°以上10°以下としたのは、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2を5°以上にすることで溝部20の加工が容易になって製造管理が容易になり、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2を10°以下にすることで溝部断面積Aを大きくして、ボールへの食い込みを良くしようとするものである。また、第2の側壁部22の傾斜角θ2を10°以下とすることで排水性も向上するので、特に雨天時のスピン数を高くできる。
【0034】
本実施の形態のアイアンゴルフクラブヘッド1は、JIS規格S25Cを含む素材よりなることが好ましい。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の実施例1について説明する。本発明例Cは本発明の実施例である。本発明例D、E、H、M、P、Q、T、U、Vは本発明の変形例である。比較例F、G、I、J、N、O、R、S、W、Xは本発明に対する比較例である。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0036】
図2および表1〜表5を参照して、アイアンゴルフクラブヘッドの溝部20の形状とスピン数Tとの関係について説明する。
【0037】
図2に示されたアイアンゴルフクラブヘッドの溝部20の各符号の値が、表1〜表5に示された本発明例および比較例における同一の符号の値であるアイアンゴルフクラブヘッドをそれぞれ作製した。各アイアンゴルフクラブヘッドのロフト角は56°である。各アイアンゴルフクラブヘッドの素材としては、JIS規格S25Cを使用した。各アイアンゴルフクラブヘッドには、Ni−Crめっきを施した。ここで、Cr層は5μm、Ni層は20μmとした。
【0038】
上記各アイアンゴルフクラブヘッドについて、ロボットテストによりスピン性能を検討した。より詳しくは株式会社ミヤマエ製メカニカルゴルファーを用いて上記各アイアンゴルフクラブヘッドでボールを打ってスピン数Tを計測した。具体的には、100yardのdry状態でのスピン数Tを計測した。上記各アイアンゴルフクラブヘッドで、各5球ずつボールを打った。表1〜表5のスピン数Tの欄には、各5球ずつ打ったボールのスピン数Tの平均値を記載した。ボールは、Titlest Pro V1を使用した。打点の位置は、スコアラインセンター(フェース面11の溝部20の長手方向の中央部)で、トップエッジ部から2本目の溝部とソール部から3本目の溝部との間とした。ボールのスピン数Tは、Interactive Sports Games社製弾道測定器トラックマンで測定した。
【0039】
表1および図3を参照して、溝部幅W1とスピン数Tとの関係を説明する。表1に示すように、本発明例C、D、Eおよび比較例F、Gにおいて、溝部幅W1、溝部間隔S、底部幅W2、溝部断面積A、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が異なっている。
【0040】
【表1】

【0041】
本発明例C、D、Eについては、30°測定法により測定した溝部20の幅(溝部幅)W1は、0.76mm以上0.831mm以下である。一方、比較例F、Gについては、30°測定法により測定した溝部20の幅(溝部幅)W1は、0.74mm以下である。
【0042】
図3に示すように、本発明例C、D、Eのスピン数T(rpm)は、比較例F、Gのスピン数Tに比べて大幅に高くなっている。これにより、30°測定法により測定した溝部20の幅(溝部幅)W1を0.76mm以上0.831mm以下にすることで、スピン数Tを高くできることがわかった。このスピン数Tが高くなる傾向は、溝部幅W1が0.88mmまで同様であると考えられる。
【0043】
よって、30°測定法により測定した溝部20の幅(溝部幅)W1の上限値は、30°測定法での溝部幅が0.889mmを超えてはならないとの上記R&Aのルールから0.88mmと決めた。一方、30°測定法により測定した溝部20の幅(溝部幅)W1の下限値は、表1および図3においてスピン数Tが大幅に高くなった臨界値である0.76mmと決めた。
【0044】
表2および図4を参照して、曲率半径Rとスピン数Tとの関係を説明する。表2に示すように、本発明例C、T、U、Vおよび比較例W、Xにおいて、溝部幅W1、溝部間隔S、曲率半径R、溝部断面積A、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が異なっている。
【0045】
【表2】

【0046】
本発明例C、T、U、Vについては、フェース面11と第1の側壁部21との接続部分24に曲率半径0.05mm以上0.3mm以下の丸みが付与されている。一方、比較例W、Xについては、フェース面11と第1の側壁部21との接続部分24に付与された丸みの曲率半径は0.35mm以上である。
【0047】
図4に示すように、本発明例C、T、U、Vのスピン数T(rpm)は、比較例W、Xに比べて大幅に高くなっている。これにより、フェース面11と第1の側壁部21との接続部分24に曲率半径R0.05mm以上0.3mm以下の丸みが付与されることで、スピン数Tを高くできることがわかった。
【0048】
よって、フェース面11と第1の側壁部21との接続部分24の曲率半径Rの上限値は、表2および図4においてスピン数Tが大幅に高くなった臨界値である0.3mmと決めた。一方、フェース面11と第1の側壁部21との接続部分24の曲率半径Rの下限値は、2サークル法で外側の円から溝の縁が突出してはならないとの上記改定後のR&Aのルールから0.05mmと決めた。
【0049】
表3および図5を参照して、溝部深さD1とスピン数Tとの関係を説明する。表3に示すように、本発明例C、Hおよび比較例I、Jにおいて、底部幅W2、溝部深さD1、第2側壁部深さ(第2の側壁部22の深さ)D3、溝部断面積A、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が異なっている。
【0050】
【表3】

【0051】
本発明例C、Hについては、フェース面11から底部23までの深さD1は、0.38mm以上0.4mm以下である。一方、比較例I、Jについては、フェース面11から底部23までの深さD1は、0.35mm以下である。
【0052】
図5に示すように、本発明例C、Hのスピン数T(rpm)は、比較例I、Jに比べて大幅に高くなっている。これにより、フェース面11から底部23までの深さD1を0.38mm以上0.4mm以下にすることで、スピン数Tを高くできることがわかった。このスピン数Tが高くなる傾向は、フェース面11から底部23までの深さD1が0.5mmまで同様であると考えられる。
【0053】
よって、フェース面11から底部23までの深さD1の上限値は、溝の深さは0.509mmを超えてはならないとの上記R&Aのルールから0.5mmと決めた。一方、フェース面11から底部23までの深さD1の下限値は、表3および図5においてスピン数Tが大幅に高くなった臨界値である0.38mmと決めた。
【0054】
表4および図6を参照して、第1側壁部傾斜角(第1の側壁部21の傾斜角)θ1とスピン数Tとの関係を説明する。表4に示すように、本発明例C、Mおよび比較例N、Oにおいて、溝部幅W1、溝部間隔S、底部幅W2、第1側壁部傾斜角θ1、溝部断面積A、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が異なっている。
【0055】
【表4】

【0056】
本発明例C、Mについては、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1は、36°以上40°以下である。一方、比較例N、Oについては、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1は、45°以上である。
【0057】
図6に示すように、本発明例C、Mのスピン数T(rpm)は、比較例N、Oに比べて大幅に高くなっている。これにより、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1を36°以上40°以下にすることで、スピン数Tを高くできることがわかった。
【0058】
よって、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1の上限値は、表4および図6においてスピン数Tが大幅に高くなった臨界値である40°と決めた。一方、フェース面11に垂直な面に対する第1の側壁部21の傾斜角θ1の下限値は、上記曲率半径Rが下限値である0.05mmにおいても、2サークル法で外側の円から溝の縁が突出してはならないとの上記改定後のR&Aのルールに適合させることから36°と決めた。
【0059】
表5および図7を参照して、第2側壁部傾斜角(第1の側壁部22の傾斜角)θ2とスピン数Tとの関係を説明する。表5に示すように、本発明例C、P、Qおよび比較例R、Sにおいて、底部幅W2、第2側壁部傾斜角θ2、溝部断面積A、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が異なっている。
【0060】
【表5】

【0061】
本発明例C、P、Qについては、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2は、5°以上10°以下である。一方、比較例R、Sについては、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2は、12°以上である。
【0062】
図7に示すように、本発明例C、P、Qのスピン数T(rpm)は、比較例R、Sに比べて大幅に高くなっている。これにより、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2を5°以上10°以下にすることで、スピン数Tを高くできることがわかった。
【0063】
よって、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2の上限値は、表5および図7においてスピン数Tが大幅に高くなった臨界値である10°と決めた。一方、フェース面11に垂直な面に対する第2の側壁部22の傾斜角θ2の下限値は、溝部20の加工が容易になって製造管理が容易になることから5°と決めた。
【0064】
なお、本発明例C、D、E、H、M、P、Q、T、U、Vのすべてにおいて、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が0.0030インチ(0.0762mm2/mm)を超えていない。
【実施例2】
【0065】
以下、本発明の実施例2について説明する。本発明例Cは本発明の実施例である。本発明例C1、C2、C3は本発明の変形例である。比較例A、Bは本発明に対する比較例である。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰り返さない場合がある。
【0066】
【表6】

【0067】
図8〜14および表6を参照して、アイアンゴルフクラブヘッドの溝部20の形状とスピン数Tと関係について説明する。
【0068】
図8〜14に示されたアイアンゴルフクラブヘッドの溝部20の各符号の値が、表6に示された本発明例および比較例における同一の符号の値であるアイアンゴルフクラブヘッドをそれぞれ作製した。
【0069】
各アイアンゴルフクラブヘッドのロフト角は56°である。各アイアンゴルフクラブヘッドの素材としては、JIS規格S25Cを使用した。各アイアンゴルフクラブヘッドには、Ni−Crめっきを施した。ここで、Cr層は5μm、Ni層は20μmとした。アイアンゴルフクラブヘッドには、R&A報告書に基づいてラフショットを再現するため濡れた新聞紙をフェース面11を覆うように貼り付けた。
【0070】
上記各アイアンゴルフクラブヘッドについて、ロボットテストによりスピン性能を検討した。より詳しくは株式会社ミヤマエ製メカニカルゴルファーを用いて上記各アイアンゴルフクラブヘッドでボールを打ってスピン数Tを計測した。具体的には、30yardのwet状態でのスピン数Tを計測した。上記各アイアンゴルフクラブヘッドで、各5球ずつボールを打った。表6のスピン数Tの欄には、各5球ずつ打ったボールのスピン数Tの平均値を記載した。ボールは、Titlest Pro V1を使用した。打点の位置は、スコアラインセンター(フェース面の溝部の長手方向の中央部)で、トップエッジ部から2本目の溝部とソール部から3本目の溝部との間とした。ボールのスピン数Tは、Interactive Sports Games社製弾道測定器トラックマンで測定した。
【0071】
図8および図9に表6の比較例A、Bの溝部20の概略断面図を示す。図10〜13に表6の本発明例C、C1、C2、C3の溝部20の概略断面図を示す。なお、図10〜13中において、接続部分幅W3は、溝部20の接続部分25間の幅である。
【0072】
表6および図14を参照して、溝部20の形状とスピン数Tとの関係を説明する。表6に示すように、本発明例C、C1、C2、C3および比較例A、Bにおいて、溝部幅W1、溝部間隔S、底部幅W2、溝部深さD1、第1側壁部深さD2、第2側壁部深さD3、曲率半径R、第1側壁部傾斜角θ1、第2側壁部傾斜角θ2、溝部断面積A、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が異なっている。
【0073】
本発明例C、C1、C2、C3のスピン数T(rpm)は、比較例A、Bのスピン数Tに比べて大幅に高くなっている。これにより、本発明例C、C1、C2、C3では、スピン数を高くできることがわかった。
【0074】
なお、本発明例C、C1、C2、C3のすべてにおいて、溝部断面積Aに対する溝部幅W1および溝部間隔Sの比率A/(W1+S)が0.0030インチ(0.0762mm2/mm)を超えていない。
【0075】
上記では、アイアンゴルフクラブヘッドにめっき処理が施されているが、めっき処理の後にフェース面にショットブラスト処理が施されていてもよい。具体的には、スコアラインがワックスで埋められる。この状態でフェース面に砂をあてることによりショットブラスト処理が施される。これにより、スコアラインのめっきは残して、フェース面のめっきを除去することができる。この後、スコアラインに充填されていたワックスが溶解されて除去される。この結果、めっきが残存しているスコアラインが露出する。フェース面のめっきがショットブラスト処理により除去され、スコアラインのめっきが残されることにより、フェース面とスコアラインとの色の対比によってスコアラインの視認性を向上することができる。
【0076】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、フェース部にスコアラインが形成されたアイアンゴルフクラブヘッドに特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0078】
1 アイアンゴルフクラブヘッド、10 フェース部、11 フェース面、20 溝部、21 第1の側壁部、22 第2の側壁部、23 底部、24 接続部分、25 接続部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース面を有するフェース部と、
前記フェース部に形成され、前記フェース面に連続する第1の側壁部と、前記第1の側壁部に連続する第2の側壁部と、前記第2の側壁部に連続する底部とを有する溝部とを備え、
30°測定法により測定した前記溝部の幅は、0.76mm以上0.88mm以下であり、
前記フェース面と前記第1の側壁部との接続部分に、曲率半径0.05mm以上0.3mm以下の丸みが付与されており、
前記第1の側壁部と前記第2の側壁部との接続部分に丸みが付与されており、
前記フェース面から前記底部までの深さは、0.38mm以上0.5mm以下であり、
前記フェース面に垂直な面に対する前記第1の側壁部の傾斜角は、36°以上40°以下であり、
前記フェース面に垂直な面に対する前記第2の側壁部の傾斜角は、5°以上10°以下である、アイアンゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記アイアンゴルフクラブヘッドは、JIS規格S25Cを含む素材よりなる、請求項1に記載のアイアンゴルフクラブヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−98039(P2011−98039A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254086(P2009−254086)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】