説明

アウタロータ形磁石発電機

【課題】電機子反作用により固定子の電機子鉄心から回転子ヨークの周壁部に透過する磁束の量を少なくして、回転子ヨークで生じる渦電流損を少なくし、回転子の温度上昇を抑制したアウタロータ形磁石発電機を提供する。
【解決手段】回転子ヨーク11の周壁部11aの内周に、複数の凸部11pと凹部11rとを周方向に交互に並べて形成して、各凸部11pの固定子16側の面を磁石取り付け面msとし、各凸部の磁石取付面msに永久磁石12を貼り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタロータ形の磁石発電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アウタロータ形の磁石発電機は、図5に示したように、鉄等の強磁性材料からなるカップ状の回転子ヨーク(フライホイール)1と該回転子ヨークの周壁部1aの周方向に間隔をあけて配置されて、該周壁部1aの内周面に貼り付けられた複数の永久磁石2とを有するアウタロータ形の磁石回転子3と、環状の継鉄部4aから放射方向に突出した複数の突極部4bを有する電機子鉄心4と該電機子鉄心の突極部に巻回された電機子コイル5とを有する固定子6とを備えている。電機子鉄心4の各突極部4bの先端には、磁石回転子3の磁極に対向させられる磁極面4b1が形成されている。
【0003】
磁石回転子3は、カップ状の回転子ヨーク1の底壁部の中央に設けられたボス部1bを、エンジン等の原動機の回転軸(図示せず。)に嵌合させて、ボス部1bを適宜の手段により該回転軸に固定することにより、原動機に取りつけられる。
【0004】
また固定子6は、磁石回転子3の内側に配置されて、電機子鉄心4の継鉄部4aが原動機のケース等に固定され、電機子鉄心4の突極部4bの先端の磁極面4b1が、磁石回転子3の磁極に所定のギャップを介して対向させられる。
【0005】
永久磁石2としては、フェライト磁石が用いられるが、最近では、発電機を大型にすることなく、大きな出力を得るために、起磁力が大きい希土類磁石が多く用いられるようになっている。この種の磁石発電機は、例えば特許文献1に示されている。
【特許文献1】特開2003−9441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5に示されているように、従来の磁石発電機においては、回転子ヨーク1の磁石取付面(周壁部1aの内周面)ms′が一様な曲面(円筒面)を有するように形成されていた。そのため、磁石取付面ms′と電機子鉄心の磁極面4b1との間のクリアランスC′が小さくなるのを避けられなかった。磁石取付面msと電機子鉄心の磁極面4b1との間のクリアランスが小さいと、電機子反作用により電機子鉄心4の磁極面4b1から空隙を通して回転子ヨーク1の周壁部1aに透過する磁束φ′が多くなるため、透過磁束φ′により回転子ヨークの周壁部で生じる渦電流損が大きくなり、発電効率が低下するという問題があった。
【0007】
また上記渦電流損により回転子ヨークの温度が上昇するため、磁石の温度特性上その磁束密度が低下し、磁束密度が高い状態で磁石を使用することができないという問題があった。そのため、発電機の出力を高めるためには、大きい磁石を用いることが必要になり、発電機のコストが高くなるのを避けられなかった。
【0008】
更に、発電機の出力を高めるために大形の磁石を用いた場合には、磁石の表面積が大きくなって、高温減磁が生じやすくなるため、磁石の性能をフルに活用することができず、磁石を大形にした分だけ発電機の出力の向上を図ることができないという問題もあった。
【0009】
また回転子の温度が上昇すると、その内側に配置されている固定子の電機子コイルの温度も上昇するため、電機子電流が制限されて、発電出力が制限されるという問題があった。更に電機子コイルの温度が上昇すると、コイル導体の抵抗値が増大するため、電機子コイルで生じる銅損が多くなり、発電効率が低下するという問題も生じる。
【0010】
以上説明した各問題点は、特に、フェライト磁石に比べて厚み寸法が大幅に小さい希土類磁石を用いる場合に顕著である。
【0011】
本発明の目的は、電機子反作用により固定子側から回転子側に生じる透過磁束により回転子ヨークで渦電流損が生じるのを抑制して発電効率の向上を図るとともに、回転子の温度上昇を抑えて、回転子の温度上昇により生じる諸問題を解消することができるようにしたアウタロータ形磁石発電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、カップ状の回転子ヨークと該回転子ヨークの周壁部の周方向に間隔をあけて配置されて該周壁部の内周面に貼り付けられた複数の永久磁石とを有するアウタロータ形の磁石回転子と、環状の継鉄部から放射方向に突出した複数の突極部を有する電機子鉄心と該電機子鉄心の突極部に巻回された電機子コイルとを有して、磁石回転子の内側で電機子鉄心の突極部の先端の磁極面が磁石回転子の磁極に対向させられる固定子とを備えたアウタロータ形磁石発電機を対象とする。
【0013】
本発明においては、回転子ヨークの周壁部の内周に、複数の凸部と凹部とが周方向に交互に並べて形成され、各永久磁石は、凸部の固定子側の面に貼り付けられている。
【0014】
上記のように、回転子ヨークの周壁部の内周に、複数の凸部と凹部とを周方向に交互に並べて形成して、各永久磁石を凸部の固定子側の面に貼り付けるようにすると、隣り合う永久磁石相互間で電機子鉄心の磁極面と回転子ヨークとの間に形成されるクリアランスが大きい部分を形成することができるため、電機子反作用により電機子鉄心から空隙を通して回転子ヨークの周壁部に透過する磁束のトータル量を少なくして、回転子ヨークの周壁部で生じる渦電流損を少なくすることができる。
【0015】
また回転子で生じる渦電流損を少なくすることができることにより、回転子の温度上昇を抑制することができるため、永久磁石を高い磁束密度の状態で使用することができ、同じ発電出力を得るのであれば、従来よりも小形の永久磁石を用いてコストの低減を図ることができる。また磁石の小形化を図ることにより、その表面積を小さくして高温減磁が生じ難くすることができるため、磁石の性能をフルに活かすことができる。
【0016】
更に回転子の温度を低くすることができることにより、回転子の内側に配置された電機子コイルの温度上昇を抑制することができるため、電機子コイルの温度上昇により電機子電流が制限されるのを防ぐことができる。また電機子コイルの温度上昇によりコイル導体の抵抗値が増大して電機子コイルで生じる銅損が増加するのを防ぐことができる。
【0017】
本発明の好ましい態様では、回転子ヨークの周壁部の内周に、永久磁石と同数の凸部と凹部とが周方向に交互に並べて形成され、各凸部の固定子側の面に永久磁石が取りつけられる。
【0018】
このように構成すると、すべての永久磁石相互間に凹部が存在するため、すべての永久磁石相互間で電機子反作用により電機子鉄心から空隙を通して回転子ヨークの周壁部に透過する磁束の量を減少させて、渦電流損を低減する効果を高めることができる。
【0019】
本発明は、永久磁石として、厚みが薄い希土類磁石を用いる場合に特に有用である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、回転子ヨークの周壁部の内周に、複数の凸部と凹部とを周方向に交互に並べて形成して、永久磁石を凸部の固定子側の面に貼り付けるようにしたので、回転子ヨークの内周に形成された凹部により、隣り合う永久磁石相互間で電機子鉄心の磁極面と回転子ヨークとの間のクリアランスを大きくすることができる。従って、電機子反作用により電機子鉄心から空隙を通して回転子ヨークの周壁部に透過する磁束の量を少なくして、回転子ヨークの周壁部で生じる渦電流損を少なくすることができ、発電機の損失の低減を図って、発電効率を高めることができる。
【0021】
また本発明によれば、渦電流損による回転子の温度上昇を抑制することができるため、永久磁石を高い磁束密度の状態で使用することができ、同じ発電出力を得るのであれば、従来よりも小形の永久磁石を用いてコストの低減を図ることができる。
【0022】
更に本発明によれば、磁石の小形化を図ることにより、その表面積を小さくすることができるため、高温減磁を生じ難くすることができ、磁石の性能をフルに活用することができる。
【0023】
また回転子の温度を低くすることができることにより、回転子の内側に配置された電機子コイルの温度上昇を抑制することができるため、損失が少なくなること、磁石を高い磁束密度の状態で使用できること及び磁石の高温減磁を抑制して磁石の性能をフルに活用できることと相俟って、発電機を従来より小形に構成して、しかも従来と同等以上の発電出力を得ることができ、発電機の経済設計(所望の性能を有する発電機を安価に製造することを可能にする設計)を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図1を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態を示したもので、同図において、11は鉄等の強磁性材料によりカップ状に形成された回転子ヨーク(フライホイール)、12,12,…は、回転子ヨーク11の周壁部11aの周方向に間隔をあけて配置されて、周壁部11aの内周面に貼り付けられた複数(図示の例では12個)の永久磁石である。
【0025】
本発明においては、回転子ヨーク11の周壁部11aの内周に、希土類磁石からなる永久磁石12と同数の凸部11pと凹部11rとが周方向に交互に並べて形成されている。そして各凸部11pの固定子側の面が、貼り付けれる永久磁石12と同じ円弧長(回転子の周方向に測った長さ)を有する磁石取り付け面msとされ、各凸部11pの磁石取付面msに永久磁石12が、接着剤により貼り付けられている。各永久磁石12は、凸部11pからはみ出すことがないように設けられ、隣り合う永久磁石12,12相互間に、凹部11rが開口している。回転子ヨーク11と、永久磁石12,12,…とによりアウタロータ形の磁石回転子13が構成されている。
【0026】
14は、鋼板の積層体からなる電機子鉄心で、この電機子鉄心は、環状の継鉄部14aと、継鉄部14aの外周部から放射方向に突出した複数(図示の例では18個)の突極部14bとからなり、電機子鉄心14の各突極部14bには、電機子コイル15が巻回されている。電機子鉄心14と電機子コイル15とにより固定子16が構成されている。電機子鉄心14の各突極部14bの先端には、磁石回転子13の磁極に空隙を介して対向させられる磁極面14b1が形成されている。
【0027】
磁石回転子13は、カップ状の回転子ヨーク11の底壁部の中央に設けられたボス部11bを、エンジン等の原動機の回転軸(図示せず。)に嵌合させて、ボス部11bを適宜の手段により該回転軸に固定することにより、原動機に取りつけられる。
【0028】
固定子16は、磁石回転子13の内側に、該磁石回転子と中心軸線を共有した状態で配置されて、電機子鉄心4の継鉄部4aが原動機のケース等に固定され、電機子鉄心14の各突極部14bの先端の磁極面14b1が、磁石回転子3の磁極に所定のギャップを介して対向させられる。
【0029】
上記のように、回転子ヨーク11の周壁部の内周に、複数の凸部11pと凹部11rとが周方向に交互に並べて形成されて、各凸部11pの固定子側の面に永久磁石が貼り付けられているため、隣り合う永久磁石12,12相互間には、回転子ヨークの内周に形成された凹部11rが存在する。そのため、隣り合う永久磁石相互間で電機子鉄心の磁極面と回転子ヨークとの間に形成されるクリアランスCを大きくすることができ、これにより、電機子反作用により電機子鉄心14から空隙を通して回転子ヨーク11の周壁部11aに透過する磁束φの量を少なくして、回転子ヨーク11の周壁部11aで生じる渦電流損を少なくすることができ、発電機の損失を少なくすることができる。
【0030】
また回転子13で生じる渦電流損を少なくすることができるため、回転子の温度上昇を抑制して、永久磁石を高い磁束密度の状態で使用することができる。従って、同じ発電出力を得るのであれば、従来よりも小形の永久磁石を用いてコストの低減を図ることができる。
【0031】
更に磁石の小形化を図ることにより、その表面積を小さくして高温減磁が生じ難くすることができるため、磁石を高い磁束密度の状態で使用できることと相俟って、磁石の性能をフルに活かすことができる。
【0032】
更に回転子13の温度を低くすることができることにより、回転子の内側に配置された電機子コイル15の温度上昇を抑制することができるため、電機子コイルの温度上昇により電機子電流が制限されるのを防ぐことができる。また電機子コイル15の温度上昇によりコイル導体の抵抗値が増大して電機子コイルで生じる銅損が増加するのを防ぐことができ、このことによっても発電機の損失の低減を図ることができる。
【0033】
上記の実施形態では、回転子ヨークの内周に設ける凹部11r及び凸部11pの数を永久磁石の数に等しくして、各凸部11pに1つの永久磁石を取りつけるようにしたが、本発明はこのように構成する場合に限定されない。例えば図2に示したように、凸部11pの極弧角を凹部11rの極弧角よりも大きくして、各凸部11pに2つの永久磁石12を取りつけるようにしてもよい。
【0034】
また一部の凸部の極弧角のみを他の凸部の極弧角よりも大きくして、極弧角が大きい凸ぶに複数の永久磁石を取りつける構成としてもよい。例えば、図3に示すように、1つの凸部11p′の極弧角を他の凸部11pの極弧角よりも大きくして、極弧角を大きくした凸部11p′に2つの永久磁石12を取り付け、他の凸部には永久磁石を1つだけ取りつけるようにしてもよい。
【0035】
図2または図3に示すように構成した場合でも、図5に示すように、回転子ヨーク1の周壁部の内周面全体が均一な内径を有するように構成される場合に比べて、電機子反作用により電機子鉄心14から空隙を通して回転子ヨーク11の周壁部11aに透過する磁束のトータル量を少なくすることができるため、回転子ヨーク11の周壁部11aで生じる渦電流損を少なくして発電機の損失を少なくすることができる。
【0036】
また上記の各実施形態では、回転子ヨークの周壁部の内周に形成されたすべての凸部に永久磁石12が取りつけられているが、発電機の出力が過大になるのを防ぐために発電機の出力を制限したり、発電機の出力電圧波形の一部を歪ませて、発電機の出力電圧波形から、回転子の特定の回転角度位置を検出したりするために、本来であれば等角度間隔で配置されるべき複数の永久磁石の一部を省略する場合にも本発明を適用することができる。例えば、図4に示すように、一部の凸部11p″の固定子側の面に永久磁石を取りつけないようにすることもできる。
【0037】
図4に示した例では、永久磁石が取りつけられない凸部11p″と固定子の磁極部との間のギャップを永久磁石12の磁極面と固定子の磁極部との間のギャップに等しくするように、凸部11p″の突出長を設定しているが、凸部11p″の突出長を他の凸部1pの突出長に等しくするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態を示した正面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示した正面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示した正面図である。
【図4】本発明の更に他の実施形態を示した正面図である。
【図5】従来のアウタロータ形磁石発電機の構成を示した正面図である。
【符号の説明】
【0039】
11 回転子ヨーク
11a 回転子ヨークの周壁部
11b 回転子ヨークのボス部
11p,11p′,11p″ 凸部
11r 凹部
ms 磁石取付面
12 永久磁石
13 磁石回転子
14 電機子鉄心
14a 継鉄部
14b 突極部
14b1 磁極面
15 電機子コイル
16 固定子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ状の回転子ヨークと該回転子ヨークの周壁部の周方向に間隔をあけて配置されて該周壁部の内周面に貼り付けられた複数の永久磁石とを有するアウタロータ形の磁石回転子と、環状の継鉄部から放射方向に突出した複数の突極部を有する電機子鉄心と該電機子鉄心の突極部に巻回された電機子コイルとを有して、前記磁石回転子の内側で前記電機子鉄心の突極部の先端の磁極面が前記磁石回転子の磁極に対向させられる固定子とを備えたアウタロータ形磁石発電機において、
前記回転子ヨークの周壁部の内周に、複数の凸部と凹部とが周方向に交互に並べて形成され、
前記永久磁石は、前記凸部の固定子側の面に貼り付けられていること、
を特徴とするアウタロータ形磁石発電機。
【請求項2】
カップ状の回転子ヨークと該回転子ヨークの周壁部の周方向に間隔をあけて配置されて該周壁部の内周面に貼り付けられた複数の永久磁石とを有するアウタロータ形の磁石回転子と、環状の継鉄部から放射方向に突出した複数の突極部を有する電機子鉄心と該電機子鉄心の突極部に巻回された電機子コイルとを有して、前記磁石回転子の内側で前記電機子鉄心の突極部の先端の磁極面が前記磁石回転子の磁極に対向させられる固定子とを備えたアウタロータ形磁石発電機において、
前記回転子ヨークの周壁部の内周に、前記永久磁石と同数の凸部と凹部とが周方向に交互に並べて形成され、
各凸部の固定子側の面に前記永久磁石が取りつけられていること、
を特徴とするアウタロータ形磁石発電機。
【請求項3】
前記永久磁石は、希土類磁石からなっていることを特徴とする請求項1または2に記載のアウタロータ形磁石発電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−295768(P2007−295768A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−123067(P2006−123067)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】