説明

アクリルゴム組成物およびゴム架橋物

【課題】耐熱性が高く、特に、長時間高温条件下にさらされても、伸びなどの物性の低下を抑制可能であり、かつ、耐屈曲疲労性に優れるゴム架橋物を与えることのできるアクリルゴム組成物を提供すること。
【解決手段】カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対し、一般式(1)で表される化合物0.1〜10重量部、カーボンブラック40〜100重量部、および架橋剤0.05〜20重量部を含有するアクリルゴム組成物を提供する。


(上記一般式(1)中、Yは化学的な単結合または−SO−を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム組成物およびゴム架橋物に係り、さらに詳しくは、耐熱性に優れるゴム架橋物を与えるアクリルゴム組成物、および該アクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルゴムは、耐熱性、耐油性などに優れているため、自動車関連の分野などにおいて、ホース、シール、ガスケットなどのゴム部材に広く用いられている。
【0003】
一方、このような自動車用のゴム部材、特にエンジンルーム内のゴム部材については、エンジンの高出力化に伴う過給機(ターボチャージャー)の高性能化、および近年の排ガス規制の強化などにより、更なる耐熱性能の向上が求められている。
【0004】
ゴム部材の耐熱性を向上させるための方法として、従来より、アクリルゴムに老化防止剤を配合することが検討されている。このような老化防止剤としては、ジフェニルアミン系老化防止剤などが用いられており、ジフェニルアミン系老化防止剤の中でも、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンは、耐熱性効果が高いことで知られている。しかしながら、従来から用いられている4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンを単独で配合してなるゴムでは、近年における耐熱性に対する要求を満たすことができず、そのため、耐熱性のさらなる向上を図るために、種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1では、カルボキシル基含有アクリルゴムに、多価1級アミン架橋剤と、老化防止剤としてp−アミノジフェニルアミンとを配合してなる架橋性アクリルゴム組成物が開示されている。特許文献1に記載の技術では、老化防止剤として、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンを単独で用いた場合と比較して、耐熱性試験における伸び変化率が従来よりも改善されている。しかしながら、近年におけるアクリルゴムの耐熱性に対する要求を十分に満たすためには、更なる改善が望まれていた。
【0006】
一方、特許文献2では、耐動的疲労性および耐熱性の向上を目的とした、特定の組成のエチレン−アクリレートゴムに4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンを配合したゴム架橋物が開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の技術でも、近年における耐熱性に対する要求を満たすには不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−084514号公報
【特許文献2】特表2009−500473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性が高く、特に、長時間高温条件下にさらされても、伸びなどの物性の低下を抑制可能であり、かつ、耐屈曲疲労性に優れるゴム架橋物を与えることのできるアクリルゴム組成物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記アクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物、特に押出成形品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、カルボキシル基含有アクリルゴムに、老化防止剤として特定の縮合複素環化合物、カーボンブラック、および架橋剤を、それぞれ特定量配合することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対し、下記一般式(1)で表される化合物0.1〜10重量部、カーボンブラック40〜100重量部、および架橋剤0.05〜20重量部を含有するアクリルゴム組成物が提供される。
【化1】

(上記一般式(1)中、Yは化学的な単結合または−SO−を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を表す。ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−を表す。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、nおよびmの少なくとも一方は1である。)
【0011】
好ましくは、前記一般式(1)で表される化合物中のYは−SO−、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい直鎖状または分岐状の炭素数2〜8のアルキル基、ならびにZおよびZは化学的な単結合であり、nおよびmが1である。
【0012】
また、好ましくは、上記カルボキシル基含有アクリルゴムが、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位0.1〜5重量部を含有する。
【0013】
さらに、本発明によれば、上記いずれかに記載のアクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【0014】
また、本発明のゴム架橋物は、好ましくは、押出成形品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性が高く、特に、長時間高温条件下にさらされても、伸びなどの物性の低下を抑制可能であり、かつ、耐屈曲疲労性に優れるゴム架橋物を与えることのできるアクリルゴム組成物を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記アクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物、特に押出成形品を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<アクリルゴム組成物>
本発明のアクリルゴム組成物は、カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対し、老化防止剤として、後述する一般式(1)で表される化合物0.1〜10重量部、カーボンブラック40〜100重量部、および架橋剤0.05〜20重量部を含有してなるアクリルゴムの組成物である。
【0017】
<カルボキシル基含有アクリルゴム>
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、カルボキシル基を架橋点に持つアクリルゴムであり、分子中に、主成分(本願においては、ゴム全単量体単位中50重量%以上有するものを言う。)としての(メタ)アクリル酸エステル単量体〔アクリル酸エステル単量体および/またはメタクリル酸エステル単量体の意。以下、(メタ)アクリル酸メチルなど同様。〕単位を含有するものであればよく、特に限定されない。本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、(イ)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を架橋性単量体単位として有するアクリルゴム、(ロ)アクリルゴムに対してラジカル開始剤存在下でカルボキシル基を有する炭素−炭素不飽和結合含有化合物を付加反応させてなるアクリルゴム、または、(ハ)アクリルゴム分子中のカルボン酸エステル基、酸アミド基などのカルボン酸誘導基の一部を加水分解によってカルボキシル基へ変換させてなるアクリルゴムのいずれであってもよい。これらの中でも、(イ)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を架橋性単量体単位として有するアクリルゴムであることが好ましく、例えば、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムとしては、分子中に、主成分としての(メタ)アクリル酸エステル単量体単位50〜99.9重量%、および架橋性単量体単位として、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位0.1〜5重量%を含有する重合体などが挙げられる。
【0018】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムの主成分である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体などを挙げることができる。
【0019】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数1〜8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エチル、および(メタ)アクリル酸n−ブチルが好ましく、アクリル酸エチル、およびアクリル酸n−ブチルが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0020】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体としては、特に限定されないが、炭素数2〜8のアルコキシアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましく、具体的には、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシプロピル、および(メタ)アクリル酸4−メトキシブチルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸2−メトキシエチルが好ましく、アクリル酸2−エトキシエチル、およびアクリル酸2−メトキシエチルが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0021】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム中における、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、通常、50〜99.9重量%、好ましくは60〜99.5重量%、より好ましくは70〜99.3重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐候性、耐熱性、および耐油性が低下するおそれがあり、一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性が低下するおそれがある。
【0022】
なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位30〜100重量%、および(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル単量体単位70〜0重量%からなるものとすることが好ましい。
【0023】
架橋性単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、特に限定されないが、例えば、炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸、および炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルなどが挙げられる。
【0024】
炭素数3〜12のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、クロトン酸、およびケイ皮酸などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸などのブテンジオン酸;イタコン酸;シトラコン酸;クロロマレイン酸;などが挙げられる。
炭素数4〜12のα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1〜8のアルカノールとのモノエステルの具体例としては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn−ブチルなどのブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニルなどの脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn−ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシルなどのイタコン酸モノエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、ブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル、または脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステルが好ましく、フマル酸モノn−ブチル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘキシルがより好ましく、フマル酸モノn−ブチルがさらに好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。なお、上記単量体のうち、ジカルボン酸には、無水物として存在しているものも含まれる。
【0025】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を架橋性単量体として用いることにより、アクリルゴムを、カルボキシル基を架橋点として持つカルボキシル基含有アクリルゴムとすることができ、これにより、本発明で用いるアクリルゴムの耐熱老化性を向上させることができる。
【0026】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム中における、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は、好ましくは0.1〜5重量%、より好ましくは0.5〜2重量%、さらに好ましくは0.7〜1.3重量%である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量が多すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性が低下し、耐屈曲疲労性に劣る可能性があり、一方、少なすぎると、架橋が不十分となり、得られるゴム架橋物の機械的特性が不十分となったり、耐熱性が低下するおそれがある。
【0027】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムのカルボキシル基の含有量、すなわち、アクリルゴム100g当たりのカルボキシル基のモル数(ephr)は、好ましくは5.8×10−4〜3×10−2(ephr)、より好ましくは2.9×10−3〜1.2×10−2(ephr)、さらに好ましくは4.1×10−3〜7.6×10−3(ephr)である。カルボキシル基の含有量が少なすぎると、架橋が不十分となり、得られるゴム架橋物の機械的特性が不十分となったり、耐熱性が低下するおそれがある。一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性が低下し、耐屈曲疲労性に劣る可能性がある。
【0028】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位に加えて、必要に応じて、その他の架橋性単量体単位を有していてもよい。その他の架橋性単量体単位を形成する架橋性単量体としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子を有する単量体;エポキシ基を有する単量体;ジエン単量体;などが挙げられる。その他の架橋性単量体単位を形成する架橋性単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。カルボキシル基含有アクリルゴム中における、その他の架橋性単量体単位の含有量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲で、適宜決定することができる。
【0029】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、およびα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含む架橋性単量体単位に加えて、必要に応じて、(メタ)アクリル酸エステル単量体や、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を含む架橋性単量体単位と共重合可能なその他の単量体の単位を有していてもよい。
【0030】
共重合可能なその他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有する単量体(以下、「多官能(メタ)アクリル単量体」と言うことがある。)、オレフィン系単量体、およびビニルエーテル化合物などが挙げられる。
【0031】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、およびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
多官能(メタ)アクリル単量体の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
オレフィン系単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、および1−オクテンなどが挙げられる。
ビニルエーテル化合物の具体例としては、酢酸ビニル、エチルビニルエーテル、およびn−ブチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレンおよび酢酸ビニルが好ましく、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、およびエチレンがより好ましい。
【0033】
共重合可能なその他の単量体は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム中における、その他の単量体の単位の含有量は、通常、49.9重量%以下、好ましくは39.5重量%以下、より好ましくは29.3重量%以下である。
【0034】
本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムは、上記単量体を重合することにより得ることができる。重合反応の形態としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、および溶液重合法のいずれも用いることができるが、重合反応の制御の容易性などの点から、従来公知のアクリルゴムの製造法として一般的に用いられている常圧下での乳化重合法によるのが好ましい。
【0035】
乳化重合は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。重合は、通常、0〜70℃、好ましくは5〜50℃の温度範囲で行われる。
【0036】
このようにして製造される、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴムのムーニー粘度(ML1+4、100℃)(ポリマームーニー)は、好ましくは10〜80、より好ましくは20〜70、さらに好ましくは25〜60である。本発明で用いられるカルボキシル基含有アクリルゴムは、このように製造されるカルボキシル基含有アクリルゴムを、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0037】
<老化防止剤>
本発明で用いる老化防止剤は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化2】

(上記一般式(1)中、Yは化学的な単結合または−SO−を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を表す。ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−を表す。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、nおよびmの少なくとも一方は1である。)
【0038】
上記一般式(1)中、Yは化学的な単結合または−SO−であり、−SO−であることが好ましい。
【0039】
上記一般式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を表す。
およびRを構成する炭素数1〜30の有機基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基などの炭素数1〜30のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの炭素数3〜30のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラニル基などの炭素数6〜30のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基などの炭素数1〜30のアルコキシ基;などが挙げられる。
【0040】
また、上述したRおよびRを構成する有機基は、置換基を有していてもよく、該置換基の位置としては、任意の位置とすることができる。
このような置換基としては、有機基がアルキル基である場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;フェニル基、4−メチルフェニル基、2−クロロフェニル基などの置換基を有していてもよいフェニル基;などが挙げられる。
また、有機基がシクロアルキル基またはアリール基である場合には、置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基などの炭素数1〜10のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチル基、エチル基、t−ブチル基などの炭素数1〜10のアルキル基;などが挙げられる。
さらに、有機基がアルコキシ基の場合には、置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;ニトロ基;シアノ基;などが挙げられる。
【0041】
なお、本発明において、RおよびRを構成する有機基が、置換基を有する場合、有機基の炭素数には、該置換基の炭素数を含まないものとする。すなわち、RおよびRを構成する有機基は、置換基に含有される炭素原子を除いた炭素原子の数が、1〜30の範囲にあればよい。たとえば、RおよびRを構成する有機基が、メトキシエチル基である場合には、該有機基の炭素数は2となる。すなわち、この場合においては、メトキシ基は置換基であるため、該有機基の炭素数は、置換基であるメトキシ基の炭素数を除いたものとなる。
【0042】
本発明では、RおよびRとしては、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6〜30のアリール基であることが好ましく、置換基を有していてもよい直鎖状または分岐状の炭素数2〜20のアルキル基、もしくは置換基を有していてもよいフェニル基、または置換基を有していてもよいナフチル基であることがより好ましく、置換基を有していてもよい直鎖状または分岐状の炭素数2〜8のアルキル基、または置換基を有していてもよいフェニル基であることがさらに好ましく、置換基を有していてもよい直鎖状または分岐状の炭素数2〜8のアルキル基が特に好ましい。
【0043】
このようなRおよびRを構成する有機基の好ましい具体例としては、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、t−ブチル基、フェニル基、または4−メチルフェニル基などが挙げられ、これらの中でも、α,α−ジメチルベンジル基、または4−メチルフェニル基がより好ましく、α,α−ジメチルベンジル基がさらに好ましい。なお、これらは、それぞれ独立したものとすることができる。
【0044】
また、上記一般式(1)中、ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−であり、化学的な単結合であることが好ましい。
【0045】
さらに、上記一般式(1)中、nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、かつ、nおよびmの少なくとも一方は1である。なお、nおよびmは、いずれも1であることが好ましい。
【0046】
本発明においては、上記一般式(1)で表される化合物としては、下記一般式(2)〜(8)で表される化合物のいずれかであることが好ましい。
【化3】

(上記一般式(2)〜(8)中、R、R、ZおよびZは、上記一般式(1)と同様である。)
【0047】
上記一般式(2)〜(8)で表される化合物のなかでも、一般式(2)、(6)、(7)で表される化合物が好ましく、一般式(6)で表される化合物がより好ましい。
【0048】
また、上記一般式(2)〜(8)中、−Z−R、−Z−Rがそれぞれ独立して、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基、t−ブチル基、フェニルスルホニル基、または4−メチルフェニルスルホニル基であることが好ましく、α,α−ジメチルベンジル基、または4−メチルフェニルスルホニル基であることがより好ましく、α,α−ジメチルベンジル基であることがさらに好ましい。
【0049】
つまり、本発明においては、上記一般式(1)中、Yは−SO−、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい直鎖状または分岐状の炭素数2〜8のアルキル基、ならびにZおよびZは化学的な単結合であり、nおよびmが1であることが好ましい。
【0050】
次いで、上記一般式(1)で表される化合物の製造方法について、説明する。
上記一般式(1)で表される化合物が、Yが−SO−である化合物である場合には、公知のフェノチアジン系化合物の製造方法を適用することにより、上記一般式(1)において、YがSである化合物を得て、次いで、得られた化合物を酸化することにより、製造することができる。
【0051】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(9)で表される化合物〔フェノチアジン(Y=S)およびカルバゾール(Y=化学的な単結合)〕を出発原料として、公知の反応方法により、一般式(9)における芳香環の、1位、3位、6位および/または8位に、置換基(−Z−R、−Z−R)を導入すること、およびY=Sの場合には、Yを−SO−にするために酸化すること、により得ることができる。
【化4】

(上記一般式(9)中、Yは、Sまたは化学的な単結合である。)
【0052】
上記一般式(9)における芳香環の、1位、3位、6位および/または8位に、1または2の置換基(−Z−R、−Z−R)を導入する反応方法としては、例えば、一般式(9)における芳香環の、1位、3位、6位および/または8位の炭素原子に、炭素−炭素結合を生成させる反応(この反応方法を、「反応方法α」とする。)、一般式(9)における芳香環の、1位、3位、6位および/または8位の炭素原子に、炭素−SO結合を生成させる反応(この反応方法を、「反応方法β」とする。)、一般式(9)における芳香環の、1位、3位、6位および/または8位の炭素原子に、炭素−硫黄結合を生成させる反応(この反応方法を、「反応方法γ」とする。)などが挙げられる。
【0053】
以下、上記一般式(1)で表される化合物の製造方法について、上記一般式(9)で表される化合物を出発原料として用い、上述した反応方法α、反応方法β、および反応方法γの各方法を用いる場合を例示して、詳細に説明する。
【0054】
〔A.反応方法αを用いる製造方法(1)〕
反応方法αを用いる製造方法(1)の反応式を下記に示す。なお、下記反応式においては、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが化学的な単結合または−SO−であり、nまたはmが0であり、−Z−Rまたは−Z−Rが式:−C(CH)(r)−Ar(式中、rは水素原子またはアルキル基を表し、Arは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)で示される基である場合を例示している。
【化5】

【0055】
そして、上記反応式にしたがい、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが化学的な単結合である化合物は、上記一般式(9)で表される化合物(Y=化学的な単結合であるカルバゾール)を出発原料に用いて、酸触媒の存在下、上記一般式(10)で表されるスチレン化合物を反応させることにより、上記一般式(11a)および/または(11b)に示す化合物として、得ることができる。
【0056】
また、上記反応式にしたがい、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが−SO−である化合物は、上記一般式(9)で表される化合物(Y=Sであるフェノチアジン)を出発原料に用いて、酸触媒の存在下、上記一般式(10)で表されるスチレン化合物を反応させ、反応により得られた化合物(上記一般式(11a)および/または(11b)に示す化合物)を、酸化することにより、上記一般式(12a)および/または(12b)に示す化合物として、得ることができる。
【0057】
なお、上記反応に用いる一般式(10)で表される化合物の具体例としては、スチレン;4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、4,α−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどのアルキル化スチレン;2−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレンなどのハロゲン化スチレン;などが挙げられる。また、上記一般式(10)で表される化合物の使用量は、上記一般式(9)で表される化合物1モルあたり、0.5〜1.5モルである。
【0058】
上記反応に用いる酸触媒の具体例としては、メタンスルホン酸、フェニルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸類;塩酸、硫酸などの無機酸;などが挙げられる。酸触媒は、通常、反応開始時に仕込んでおくが、反応の途中で追加することもできる。酸触媒の使用量は、上記一般式(9)で表される化合物1モルあたり、通常、0.005〜0.5モルであり、好ましくは0.01〜0.3モルであり、さらに好ましくは0.02〜0.1モルである。
【0059】
上記反応は、適当な溶媒中で行うことができる。用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの鎖式飽和炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの飽和脂環式炭化水素系溶媒;1,2−ジクロロエタン、モノクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は、反応規模などにも依存するが、上記一般式(9)で表される化合物1gあたり、1ml〜100mlである。
【0060】
また、上記一般式(9)で表される化合物において、Y=Sである場合における、酸化に用いる酸化剤としては、特に制限されず、酢酸−過酸化水素、m−クロロ過安息香酸などの有機過酸化物が挙げられる。酸化剤の使用量は、上記一般式(11a)または(11b)で表される化合物1モルあたり、2〜5モルである。
【0061】
このような酸化反応は、適当な溶媒中で行うことができる。用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの鎖式飽和炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの飽和脂環式炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、モノクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸;などが挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は、反応規模などにも依存するが、一般式(11a)または(11b)で表される化合物1gあたり、1ml〜100mlである。
【0062】
さらに、このような酸化反応は、一般式(11a)および/または(11b)で表される化合物を含む反応液に、所定量の酢酸および過酸化水素を添加して、連続的に行なうこともできる。
【0063】
〔B.反応方法αを用いる製造方法(2)〕
反応方法αを用いる製造方法(2)の反応式を下記に示す。なお、下記反応式においては、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが化学的な単結合または−SO−であり、nおよびmが1であり、−Z−Rおよび−Z−Rが式:−C(CH)(r)−Ar(式中、rは水素原子またはアルキル基を表し、Arは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)で示される基である場合を例示している。
【化6】

【0064】
そして、上記反応式にしたがい、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが化学的な単結合である化合物は、上記一般式(9)で表される化合物(Y=化学的な単結合であるカルバゾール)を出発原料に用いて、酸触媒の存在下、上記一般式(10)で表されるスチレン化合物を反応させることにより、上記一般式(11c)および/または(11d)に示す化合物として、得ることができる。
【0065】
また、上記反応式にしたがい、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが−SO−である化合物は、上記一般式(9)で表される化合物(Y=Sであるフェノチアジン)を出発原料に用いて、酸触媒の存在下、上記一般式(10)で表されるスチレン化合物を反応させ、反応により得られた化合物(上記一般式(11c)および/または(11d)に示す化合物)を、酸化することにより、上記一般式(12c)および/または(12d)に示す化合物として、得ることができる。
【0066】
なお、上記反応においては、上記一般式(10)で表される化合物、酸触媒、溶媒、および酸化剤としては、上述した反応方法αを用いる製造方法(1)と同様のものを用いることができる。また、これらの使用量については、上記一般式(10)で表される化合物の使用量を、上記一般式(9)で表される化合物1モルに対し、2〜3モルとし、酸化剤の使用量を上記一般式(11c)または(11d)に示す化合物1モルに対して、2〜10モルとする以外は、上述した反応方法αを用いる製造方法(1)と同様とすることができる。
【0067】
〔C.反応方法βを用いる製造方法〕
反応方法βを用いる製造方法の反応式を下記に示す。なお、下記反応式においては、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが化学的な単結合または−SO−であり、nまたはmが0であり、−Z−Rまたは−Z−Rが式:−SO−Ar(式中、Arは置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)で示される基である場合を例示している。
【化7】

【0068】
そして、上記反応式にしたがい、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが化学的な単結合である化合物は、上記一般式(9)で表される化合物(Y=化学的な単結合であるカルバゾール)を出発原料に用いて、塩化第二鉄などのルイス酸および酢酸カリウムなどの酢酸塩の存在下、上記一般式(13)で表されるスルフィン酸塩(Mはナトリウムなどのアルカリ金属を表す。)を反応させることにより、上記一般式(11e)および/または(11f)に示す化合物として、得ることができる。
【0069】
また、上記反応式にしたがい、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが−SO−である化合物は、上記一般式(9)で表される化合物(Y=Sであるフェノチアジン)を出発原料に用いて、塩化第二鉄などのルイス酸および酢酸カリウムなどの酢酸塩の存在下、上記一般式(13)で表されるスルフィン酸塩を反応させ、反応により得られた化合物(上記一般式(11e)および/または(11f)に示す化合物)を、酸化することにより、上記一般式(12e)および/または(12f)に示す化合物として、得ることができる。
【0070】
上記反応に用いる一般式(13)で表されるスルフィン酸塩としては、フェニルスルフィン酸ナトリウム、フェニルスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、およびp−トルエンスルフィン酸カリウムなどが挙げられる。また、上記一般式(13)で表される化合物の使用量は、上記一般式(9)で表される化合物1モルあたり、0.5〜1.5モルである。
【0071】
上記反応において、ルイス酸の使用量は、上記一般式(9)で表される化合物1モルあたり、通常5〜10モルであり、酢酸塩の使用量は、上記一般式(9)で表される化合物1モルあたり、通常1〜3モルである。
【0072】
上記反応は、適当な溶媒中で行うことができる。用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒が挙げられる。用いる溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は、反応規模などにも依存するが、上記一般式(9)で表される化合物1gあたり、1ml〜100mlである。
【0073】
なお、上記一般式(9)で表される化合物において、Y=Sである場合における、酸化反応は、上述した反応方法αを用いる製造方法(1)と同様にして行なうことができる。
【0074】
〔D.反応方法γを用いる製造方法〕
反応方法γを用いる製造方法の反応式を下記に示す。なお、下記反応式においては、上記一般式(1)で表される化合物のうち、Yが化学的な単結合であり、nおよびmが1であり、−Z−Rまたは−Z−Rが式:−SO−R(式中、Rは炭素数1〜30の有機基を表す。)で示される基である場合を例示している。
【化8】

【0075】
そして、上記反応式にしたがい、上記一般式(9a)で表される化合物(カルバゾール)を出発原料に用いて、過ヨウ素酸塩および触媒量の硫酸の存在下に、ヨウ素を反応させることにより、上記一般式(14)で表されるジヨード体を得た後、得られたジヨード体に、塩基および触媒量のパラジウム(II)錯体の存在下、式:R−SH(式中、Rは炭素数1〜30の有機基を表す。)で表されるメルカプタンを反応させることにより、上記一般式(15)で表される化合物を得て、次いで、得られた化合物を酸化することにより、上記一般式(16)で表される化合物として、得ることができる。
【0076】
なお、上記反応のうち、上記一般式(14)に示すジヨード体を得る反応に用いる過ヨウ素酸塩の具体例としては、過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウムなどが挙げられる。過ヨウ素酸塩の使用量は、上記一般式(9a)で表される化合物1モルあたり、0.1モル〜1モルである。また、ヨウ素の使用量は、上記一般式(9a)で表される化合物1モルあたり、1モル〜3モルである。
【0077】
ジヨード体を得る反応は、適当な溶媒中で行うことができる。用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒が挙げられる。用いる溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は、反応規模などにも依存するが、上記一般式(9a)で表される化合物1gあたり、1ml〜100mlである。
【0078】
また、上記反応のうち、上記一般式(15)で表される化合物を得る反応に用いるメルカプタンの具体例としては、チオフェノール、p−トルエンチオール、ベンジルメルカプタン、α−メチルベンジルメルカプタン、α,α−ジメチルメルカプタン、およびt−ブチルメルカプタンなどが挙げられる。メルカプタンの使用量は、上記一般式(14)で表される化合物1モルあたり、1モル〜3モルである。
【0079】
上記一般式(15)で表される化合物を得る反応に用いる塩基としては、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムt−ブトキシドなどの金属アルコキシド;DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)、DABCO(1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン)などの有機塩基;などが挙げられる。塩基の使用量は、上記一般式(14)で表される化合物1モルあたり、通常1モル〜10モルである。
【0080】
上記一般式(15)で表される化合物を得る反応に用いるパラジウム(II)錯体の具体例としては、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン付加物などが挙げられる。
【0081】
上記一般式(15)で表される化合物を得る反応は、適当な溶媒中で行うことができる。用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタンなどの鎖式飽和炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの飽和脂環式炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、モノクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は、反応規模などにも依存するが、上記一般式(14)で表される化合物1gあたり、1ml〜100mlである。
【0082】
上記一般式(16)で表される化合物を得るための酸化反応に用いる酸化剤としては、特に制限されず、酢酸−過酸化水素、m−クロロ過安息香酸などの有機過酸化物が挙げられる。酸化剤の使用量は、上記一般式(15)で表される化合物1モルあたり、2〜10モルである。
【0083】
このような酸化反応を行う適当な溶媒としては、上述した反応方法αを用いる製造方法(1)の酸化反応で使用したものと同様の溶媒を使用することができる。
【0084】
さらに、このような酸化反応は、一般式(15)で表される化合物を含む反応液に、所定量の酢酸および過酸化水素を添加して、連続的に行なうこともできる。
【0085】
上記反応方法α、反応方法β、および反応方法γにおける、いずれの反応も、0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。反応時間は、通常数分から数時間である。また、いずれの反応方法においても、反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作を行い、所望により、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、蒸留法などの公知の分離・精製手段を施すことにより、目的物を単離することができる。目的物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトルなどの測定、および元素分析などにより、同定することができる。
【0086】
本発明のアクリルゴム組成物中における、上記一般式(1)で表される化合物の含有量は、重量基準で、カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対して、通常、0.1〜10重量部であり、好ましくは0.3〜5重量部であり、より好ましくは0.5〜2.5重量部である。上記一般式(1)で表される化合物の含有量が上記範囲内にあると、得られるゴム架橋物は、長時間高温条件下にさらされても、伸びなどの物性の低下を抑制可能であり、かつ、耐屈曲疲労性に優れ、耐熱性が向上する。一方、上記一般式(1)で表される化合物の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性が低下するおそれがあり、多すぎると、上記一般式(1)で表される化合物のブリードアウト、ゴム架橋物の物性低下、成形品の変色が生じる可能性がある。上記一般式(1)で表される化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0087】
<カーボンブラック>
本発明で用いるカーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックおよびグラファイトなどが挙げられる。これらの中でも、ファーネスブラックを用いることが好ましい。ファーネスブラックの具体例としては、SAF、N234、ISAF、ISAF−HS、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF、HAF−HS、HAF−LS、MAF、FEF、およびSRFなどが挙げられるが、これらの中でも、MAFおよびFEFがより好ましい。これらのカーボンブラックは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、15〜150m/gが好ましく、20〜100m/gがより好ましく、30〜60m/gがさらに好ましい。本発明のアクリルゴム組成物に配合するカーボンブラックとして、MAFおよびFEFを用いると、得られるゴム架橋物は、長時間高温条件下にさらされても、伸びなどの物性の低下を抑制可能であり、かつ、耐屈曲疲労性に特に優れ、耐熱性がより向上する。
【0088】
本発明のアクリルゴム組成物中における、カーボンブラックの含有量は、カルボキシル基含有アクリゴム100重量部に対して、通常、40〜100重量部であり、好ましくは45〜75重量部、より好ましくは50〜70重量部である。カーボンブラックの含有量が上記範囲内であると、得られるゴム架橋物は、硬さなどの機械的特性に優れ、また、長時間高温条件下にさらされても、伸びなどの物性の低下を抑制可能であり、かつ、耐屈曲疲労性に優れ、耐熱性が向上する。カーボンブラックの含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の硬さが劣る可能性があり、一方、多すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性が悪化する傾向にある。
【0089】
<架橋剤>
本発明で用いる架橋剤としては、上述したカルボキシル基含有アクリルゴムを架橋可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、多価アミン化合物、および多価アミン化合物の炭酸塩が好ましい。これらの架橋剤は、1種、または2種以上を併せて使用することができる。
【0090】
多価アミン化合物、および多価アミン化合物の炭酸塩としては、特に限定されないが、炭素数4〜30の多価アミン化合物、およびその炭酸塩がより好ましい。このような多価アミン化合物、およびその炭酸塩の例としては、脂肪族多価アミン化合物、およびその炭酸塩、ならびに芳香族多価アミン化合物などが挙げられる。一方、グアニジン化合物のように非共役の窒素−炭素二重結合を有するものは含まれない。
【0091】
脂肪族多価アミン化合物、およびその炭酸塩としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、およびN,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、ヘキサメチレンジアミンカーバメートが好ましい。
【0092】
芳香族多価アミン化合物としては、特に限定されないが、例えば、4,4’−メチレンジアニリン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、および1,3,5−ベンゼントリアミンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2’−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンが好ましい。
【0093】
本発明のアクリルゴム組成物中における、架橋剤の含有量は、アクリルゴム100重量部に対し、0.05〜20重量部であり、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは0.3〜12重量部である。架橋剤の含有量が上記範囲内であると、架橋が十分に行われ、得られるゴム架橋物の機械的特性が優れる。一方、架橋剤の含有量が少なすぎる場合には、架橋が不十分となり、得られるゴム架橋物の形状維持が困難になる場合があり、多すぎると、得られるゴム架橋物が硬くなりすぎる場合がある。
【0094】
<架橋促進剤>
また、本発明のアクリルゴム組成物は、さらに架橋促進剤を含有していることが好ましい。架橋促進剤としては、特に限定されないが、上述したアクリルゴムがカルボキシル基含有アクリルゴムであり、かつ、架橋剤が多価アミン化合物、またはその炭酸塩である場合には、脂肪族1価2級アミン化合物、脂肪族1価3級アミン化合物、グアニジン化合物、イミダゾール化合物、第4級オニウム塩、第3級ホスフィン化合物、弱酸のアルカリ金属塩、およびジアザビシクロアルケン化合物などが好ましく用いられる。これらの架橋促進剤は、1種単独で、または2種以上を併せて使用することができる。
【0095】
脂肪族1価2級アミン化合物は、アンモニアの水素原子の2つを脂肪族炭化水素基で置換した化合物である。水素原子と置換する脂肪族炭化水素基は、特に限定されないが、好ましくは炭素数1〜30のものであり、より好ましくは炭素数8〜20のものである。脂肪族1価2級アミン化合物の具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジアリルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジセチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジ−シス−9−オクタデセニルアミン、およびジノナデシルアミンなどが挙げられる。これらの中でも、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジセチルアミン、ジオクタデシルアミン、ジ−シス−9−オクタデセニルアミン、およびジノナデシルアミンなどが好ましい。
【0096】
脂肪族1価3級アミン化合物は、アンモニアの3つの水素原子全てを脂肪族炭化水素基で置換した化合物である。水素原子と置換する脂肪族炭化水素基は、特に限定されないが、好ましくは炭素数1〜30のものであり、より好ましくは炭素数1〜22のものである。脂肪族1価3級アミン化合物の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリアリルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−t−ブチルアミン、トリ−sec−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、トリトリデシルアミン、トリテトラデシルアミン、トリペンタデシルアミン、トリセチルアミン、トリ−2−エチルヘキシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリ−シス−9−オクタデセニルアミン、トリノナデシルアミン、N,N−ジメチルデシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルテトラデシルアミン、N,N−ジメチルセチルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、N,N−ジメチルベヘニルアミン、N−メチルジデシルアミン、N−メチルジドデシルアミン、N−メチルジテトラデシルアミン、N−メチルジセチルアミン、N−メチルジオクタデシルアミン、N−メチルジベヘニルアミン、およびジメチルシクロヘキシルアミンなどが挙げられる。これらの中でも、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルテトラデシルアミン、N,N−ジメチルセチルアミン、N,N−ジメチルオクタデシルアミン、およびN,N−ジメチルベヘニルアミンなどが好ましい。
【0097】
グアニジン化合物の具体例としては、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、1,3−ジフェニルグアニジンなどが挙げられ、1,3−ジ−o−トリルグアニジンが好ましい。
イミダゾール化合物の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
第4級オニウム塩の具体例としては、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリn−ブチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。
第3級ホスフィン化合物の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィンなどが挙げられる。
弱酸のアルカリ金属塩の具体例としては、ナトリウム、カリウムのリン酸塩、炭酸塩などの無機弱酸塩、およびナトリウム、カリウムのステアリン酸塩、ラウリン酸塩などの有機弱酸塩が挙げられる。
ジアザビシクロアルケン化合物の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデ−7−セン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノ−5−ネンなどが挙げられる。
【0098】
本発明のアクリルゴム組成物中における、架橋促進剤の含有量は、アクリゴム100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.3〜10重量部である。架橋剤促進剤の含有量が上記範囲内であると、架橋が十分に行われ、得られるゴム架橋物の機械的特性が優れる。一方、架橋促進剤が少なすぎると、架橋が十分に進行せずに得られるゴム架橋物の機械的特性が劣る可能性があり、架橋促進剤が多すぎると、架橋時に架橋速度が早くなりすぎたり、得られるゴム架橋物表面ヘの架橋促進剤のブルームが生じたり、ゴム架橋物が硬くなりすぎたりするおそれがある。
【0099】
<その他の配合剤>
本発明のアクリルゴム組成物には、カルボキシル基含有アクリルゴム、上記一般式(1)で表される化合物、カーボンブラック、および架橋剤以外に、ゴム加工分野において通常使用される配合剤を配合することができる。このような配合剤としては、例えば、シリカなどの補強性充填剤(上述したカーボンブラックを除く);炭酸カルシウムやクレーなどの非補強性充填材;老化防止剤(上記一般式(1)で表される化合物を除く);光安定剤;スコーチ防止剤;可塑剤;加工助剤;滑剤;粘着剤;潤滑剤;難燃剤;防黴剤;帯電防止剤;着色剤;シランカップリング剤;架橋遅延剤;などが挙げられる。これらの配合剤の配合量は、本発明の目的や効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、配合目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0100】
さらに、本発明のアクリルゴム組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴム、エラストマー、樹脂などをさらに配合してもよい。例えば、カルボキシル基含有アクリルゴム以外のアクリルゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムなどの、カルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴム;オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリシロキサン系エラストマーなどのエラストマー;ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂などの樹脂;などを配合することができる。なお、カルボキシル基含有アクリルゴム以外のゴム、エラストマー、および樹脂の合計配合量は、本発明で用いるカルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対して、好ましくは50重量部以下、より好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下である。
【0101】
<アクリルゴム組成物の調製方法>
本発明のアクリルゴム組成物は、前記カルボキシル基含有アクリルゴムに、上記一般式(1)で表される化合物、カーボンブラック、架橋剤、および必要に応じて使用されるその他の配合剤などを配合し、バンバリーミキサーやニーダーなどで混合、混練し、次いで、混練ロールを用いて、さらに混練することなどにより調製される。なかでも、カーボンブラックなどの配合量の多いものについては、1回で全量を配合してもよいが、数回以上に分割して配合しながら混練してもよい。
【0102】
各成分の配合順序は、特に限定されないが、熱で反応や分解しにくい成分を充分に混合した後、熱で反応や分解しやすい成分である架橋剤や架橋促進剤などを、反応や分解が起こらない温度で短時間に混合することが好ましい。
【0103】
また、上記各成分のうち、上記一般式(1)で表される化合物については、例えば、ポリマーラテックス中やポリマー溶液中に予め添加して、上記一般式(1)で表される化合物を添加したポリマーラテックスやポリマー溶液を凝固するような構成としてもよい。あるいは、上記一般式(1)で表される化合物は、最終製品を製造する工程までの任意の段階で配合してもよい。具体的には、ポリマーペレット製造の段階、あるいは、混練りの段階、さらには、成形機に投入する段階のいずれの段階で配合してもよく、ポリマー中に十分均一に分散させることができるような配合時期を適宜選択することができる。
【0104】
本発明のアクリルゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4、100℃)(コンパウンドムーニー)は、好ましくは10〜100、より好ましくは20〜90、さらに好ましくは25〜80である。
【0105】
<ゴム架橋物>
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のアクリルゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明のアクリルゴム組成物を用い、所望の形状に対応した成形機、例えば、押出機、射出成形機、圧縮機、およびロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、ゴム架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、130〜220℃、好ましくは150〜190℃であり、架橋時間は、通常、2分〜10時間、好ましくは3分〜5時間である。加熱方法としては、プレス加熱、蒸気加熱、オーブン加熱、および熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる方法を適宜選択すればよい。
【0106】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、本発明のゴム架橋物は、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。二次架橋は、加熱方法、架橋温度、形状などにより異なるが、好ましくは1〜48時間行う。加熱方法、加熱温度は適宜選択すればよい。
【0107】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、上述した本発明のアクリルゴム組成物を用いて得られるものであるため、耐熱性に優れ、長時間高温条件下にさらされても、伸びなどの物性の低下を抑制可能であり、かつ、耐屈曲疲労性に優れるものである。
そのため、本発明のゴム架橋物は、その特性を活かして、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、メカニカルシール、ウェルヘッドシール、電気・電子機器用シール、空気圧機器用シールなどの各種シール;シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジエーターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;などとして好適に用いられ、特に、過酷な高温下で使用されるホースなどの押出成形品用途に、好適に用いられる。
【実施例】
【0108】
以下に、化合物の製造例、カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例、ならびに実施例、および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれら製造例、および実施例に限定されるものではない。なお、各例中の「部」、および「%」は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0109】
(化合物の製造例1)化合物1の合成
以下の方法に従い、下記式(17)に示す化合物1を合成した。
【化9】

【0110】
すなわち、まず、温度計を備えた3つ口反応器に窒素気流中、フェノチアジン50.0g(250.92mmol)を加えて、トルエン200mlに溶解させた。次いで、この溶液に、α−メチルスチレン59.31g(501.83mmol)と、p−トルエンスルホン酸1水和物1.19g(6.27mmol)とを加えて80℃にて1時間反応させた。その後、反応液を室温に戻して、酢酸48ml、および30%過酸化水素水85.34g(752.7mmol)を加えて、さらに80℃にて2時間反応させた。反応液を室温に戻した後、メタノール630mlに投入した。そして、析出した結晶をろ過し、320mlのメタノールでリンスすることで、白色結晶の化合物1を85.7g、収率73%で得た。得られた化合物1の構造はH−NMRで同定した。H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δppm):1.67(s,12H),7.15−7.32(m,12H),7.43(dd,2H,J=9.0, 2.0Hz),7.68(d,2H,J=1.5Hz),10.84(s,1H)。
【0111】
化合物の製造例1で合成した化合物1、および比較例で使用した、従来から老化防止剤として使用されている4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンの化学構造と分子量とを表1に示した。
【0112】
【表1】

【0113】
(カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例1)
温度計、攪拌装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、アクリル酸エチル66.7部、アクリル酸n−ブチル32.3部、およびフマル酸モノn−ブチル1.0部を仕込んだ。その後、減圧脱気および窒素置換を2度行って酸素を十分除去した後、クメンハイドロパーオキシド0.005部、およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.002部を加えて常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率が95%に達するまで反応させた。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固し、水洗、乾燥してカルボキシル基含有アクリルゴムAを得た。得られたカルボキシル基含有アクリルゴムAのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は45であった。なお、上記得られたカルボキシル基含有アクリルゴムAの組成は、アクリル酸エチル単量体単位66.7重量%、アクリル酸n−ブチル単量体単位32.3重量%、およびフマル酸モノn−ブチル単量体単位1.0重量%であった。
【0114】
(カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例2)
温度計、攪拌装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、アクリル酸エチル66.5部、アクリル酸n−ブチル32.25部、およびフマル酸モノn−ブチル1.25部を仕込んだ。その後、減圧脱気および窒素置換を2度行って酸素を十分除去した後、クメンハイドロパーオキシド0.005部、およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.002部を加えて常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率が95%に達するまで反応させた。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固し、水洗、乾燥してカルボキシル基含有アクリルゴムBを得た。得られたカルボキシル基含有アクリルゴムBのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は45であった。なお、上記得られたカルボキシル基含有アクリルゴムBの組成は、アクリル酸エチル単量体単位66.5重量%、アクリル酸n−ブチル単量体単位32.25重量%、およびフマル酸モノn−ブチル単量体単位1.25重量%であった。
【0115】
(カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例3)
温度計、攪拌装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、アクリル酸エチル66.25部、アクリル酸n−ブチル32.25部、およびフマル酸モノn−ブチル1.5部を仕込んだ。その後、減圧脱気および窒素置換を2度行って酸素を十分除去した後、クメンハイドロパーオキシド0.005部、およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.002部を加えて常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率が95%に達するまで反応させた。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固し、水洗、乾燥してカルボキシル基含有アクリルゴムCを得た。得られたカルボキシル基含有アクリルゴムCのムーニー粘度(ML1+4、100℃)は45であった。なお、上記得られたカルボキシル基含有アクリルゴムCの組成は、アクリル酸エチル単量体単位66.25重量%、アクリル酸n−ブチル単量体単位32.25重量%、およびフマル酸モノn−ブチル単量体単位1.5重量%であった。
【0116】
実施例、比較例における各種の物性の試験は、以下の方法に従って行った。
【0117】
(常態物性の試験)
アクリルゴム組成物を170℃、10MPaで、20分間のプレスによって成形、架橋して、15cm×15cm×2mmのシートを作製し、これを170℃にて4時間加熱して二次架橋させ、二次架橋後のシートからダンベル状3号形の試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、常温での機械的特性として、JIS K6251の引張試験に従って、引張強さ(強度)、および破断伸び(伸び)をそれぞれ測定した。また、JIS K6253の硬さ試験に従って、硬度を測定した。
【0118】
(耐熱性試験)
<伸び変化率>
伸び変化率は、上記常態物性の試験と同様にして作製した試験片を190℃の環境下で、500時間の条件で加熱することにより耐熱老化させたものを使用することにより行った。具体的には、まず、JIS K6251に従って、加熱前後における伸びを測定し、下記式に従い、その変化率を計算することにより、伸び変化率を測定した。伸び変化率がゼロに近いほど耐熱性が高いと判断され、好ましい結果となる。
伸び変化率(%)=100×[(加熱後の伸び(%))−(加熱前の伸び(%))]/(加熱前の伸び(%))
【0119】
<屈曲亀裂発生試験>
屈曲亀裂発生試験は、アクリルゴム組成物を170℃、10MPaで、20分間のプレスによって成形、架橋して、JIS K6260に従って試験片を作製し、これを170℃にて4時間加熱して二次架橋させ、さらに、試験片を190℃の環境下で、336時間の条件で加熱することにより耐熱老化させたものを使用することにより行った。具体的には、JIS K6260のデマチャ屈曲亀裂発生試験に従って、耐熱老化させた試験片が1級および3級の亀裂に達するまでの屈曲回数をそれぞれ測定した。数値が大きいほど耐屈曲疲労性に優れることを示し、耐熱性が高いと判断される。
【0120】
(実施例1)
上述したカルボキシル基含有アクリルゴムの製造例1で得られたカルボキシル基含有アクリルゴムA 100重量部、カーボンブラック(東海カーボン社製、シースト116)60重量部、ステアリン酸2重量部、および上述した化合物の製造例1で得られた化合物1(老化防止剤)1.0重量部を、0.8リットルバンバリーを用いて50℃で5分間混練した後、架橋剤として2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(和歌山精化工業社製、BAPP)1重量部、および架橋促進剤としてジアルキル(C8〜18)アミン(ライオン・アクゾ社製 アーミン2C)2重量部を加えて、50℃のオープンロールで混練し、アクリルゴム組成物を調製した。そして、得られたアクリルゴム組成物を用いて、上記方法に従い、常態物性の試験、ならびに耐熱性試験として伸び変化率、および屈曲亀裂発生試験を行った。結果を表2に示す。
【0121】
(実施例2)
カーボンブラック(東海カーボン社製、シースト116)の配合量を65重量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0122】
(実施例3)
カルボキシル基含有アクリルゴムAの代わりに、カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例2で得られたカルボキシル基含有アクリルゴムBを用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0123】
(実施例4)
カルボキシル基含有アクリルゴムAの代わりに、カルボキシル基含有アクリルゴムの製造例3で得られたカルボキシル基含有アクリルゴムCを用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0124】
(比較例1)
化合物1(老化防止剤)の代わりに、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(老化防止剤、ケムチュラ社製、ナウガード445)を用い、その配合量を、2.0部とした以外は、実施例4と同様にして、アクリルゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0125】
【表2】

【0126】
表2に示すように、老化防止剤として本発明所定の化合物1を使用した実施例1〜4は、190℃の環境下で500時間という過酷な条件を経ても、老化防止剤が本発明所定の化合物ではない比較例1に比べ、伸び変化率が0に近く、伸びの変化が小さかった。また、実施例1〜4は、190℃の環境下で336時間という過酷な条件を経た後の屈曲亀裂発生試験において、比較例1に比べ、1級および3級の亀裂に達するまでの屈曲回数の数値が大きく、耐屈曲疲労性に優れていた。よって、本発明のアクリルゴム組成物を用いてなるゴム架橋物は、耐熱性試験において耐熱性が向上することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有アクリルゴム100重量部に対し、下記一般式(1)で表される化合物0.1〜10重量部、カーボンブラック40〜100重量部、および架橋剤0.05〜20重量部を含有するアクリルゴム組成物。
【化1】

(上記一般式(1)中、Yは化学的な単結合または−SO−を表す。RおよびRはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜30の有機基を表す。ZおよびZはそれぞれ独立して、化学的な単結合または−SO−を表す。nおよびmはそれぞれ独立して、0または1であり、nおよびmの少なくとも一方は1である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物中、Yは−SO−、RおよびRは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい直鎖状または分岐状の炭素数2〜8のアルキル基、ならびにZおよびZは化学的な単結合であり、nおよびmが1である、請求項1に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項3】
上記カルボキシル基含有アクリルゴムが、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位0.1〜5重量部を含有する、請求項1または2に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリルゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【請求項5】
押出成形品である請求項4に記載のゴム架橋物。

【公開番号】特開2012−211239(P2012−211239A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77060(P2011−77060)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】