説明

アクリル系ブロック共重合体の製造方法

【課題】 未使用溶媒を用いた場合と同等の性能を有するアクリル系ブロック共重合体が得られる、リサイクル溶媒を使用したアクリルブロック共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】
溶媒(イ)を重合溶媒として使用してアクリル系単量体成分からアクリル系重合体ブロック(a)を重合した後、この重合体溶液にメタアクリル系単量体成分および溶媒(ロ)を添加してメタアクリル系重合体ブロック(b)を重合するアクリル系ブロック共重合体(A)を製造する方法において、重合反応後に回収された、重合溶媒および未反応単量体成分を含有する混合溶液から、溶媒を、(イ)/(ロ)の重量比が0.5以上の溶媒(ハ)および0.5未満の溶媒(ニ)に分離して、溶媒(ハ)をアクリル系重合体ブロック(a)の重合にリサイクル使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遷移金属錯体を重合触媒とする原子移動ラジカル重合によりアクリル系単量体およびメタアクリル系単量体からアクリル系ブロック共重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系化合物を重合させる方法として、リビングアニオン重合やリビングラジカル重合等がある。リビングラジカル重合は、重合可能なビニル系単量体の種類、重合体の分子量および構造を容易に制御できる点や、種々の官能基を有する単量体を共重合できるという点で優れており、近年、積極的に研究が進められている。
【0003】
リビングラジカル重合法には、例えば、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いる方法や、コバルトポリフィリン錯体やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いる方法(非特許文献1、非特許文献2参照)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし、遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical polymerization:ATRP)(非特許文献3、特許文献1〜3参照)などがあり、アクリル系ブロック共重合体も上記の方法により製造することが可能である。
【0004】
【非特許文献1】「Journal of American Chemical Society」,1994年,第116巻,p.7943
【非特許文献2】「Macromolecules」,1994年,第27巻,p.7228
【非特許文献3】「Journal of American Chemical Society」,1995年,第117巻,p.5614
【特許文献1】国際公開第96/30421号パンフレット
【特許文献2】特開2001−200026号公報
【特許文献3】特開2004−075854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子移動ラジカル重合により重合体を製造する場合、通常は重合時には溶媒が使用される。アクリル系熱可塑性エラストマーなどのアクリル系ブロック共重合体の製造においても、通常、溶媒が用いられ、各ブロックの重合の際は、それぞれ、適した異なる溶媒を用いている。
【0006】
近年は、製造コストの低下および環境に対する配慮等から、重合体の製造プロセスにおいて、これら重合溶媒並びに未反応の単量体を回収し、再利用する技術が求められている。
【0007】
重合溶媒及び未反応単量体の回収して再利用する方法として、各ブロック重合工程毎に溶媒等を蒸発回収する方法が考えられる。この方法によれば、各ブロックの重合溶媒並びに未反応単量体を別々に回収することが可能である。しかしながら、この方法では、重合活性を維持したまま重合溶媒並びに未反応単量体を蒸発回収することとなり、重合体間のカップリング反応等の問題が生じるおそれがある。また、各ブロックの重合反応を連続して行う場合と比較して、製造工程が煩雑となり、生産効率が低下することとなる。
【0008】
一方、各ブロックの重合反応を連続して行い、全重合工程が終了した後、重合溶媒及び未反応単量体をそれぞれ蒸留分離して回収する方法では、使用する溶媒、単量体の沸点によってはこれらを完全に分離することは困難な場合がある。このような場合、蒸留塔の段数を増やしたり、第3成分の添加により分離精度を向上させることが可能な場合もあるが、いずれも製造プロセスとしては複雑になる。
【0009】
本発明は、各工程において異なる溶媒を用いて連続的に重合を行うアクリル系ブロック共重合体の製造方法において、通常の未使用溶媒を使用した方法により製造されたアクリル系ブロック共重合体と同等の性能を有するアクリル系ブロック共重合体が得られる、リサイクル溶媒を使用したアクリル系ブロック共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、アクリル系ブロック共重合体の重合溶媒、未反応単量体をリサイクル使用する方法について検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、(1)溶媒(イ)を重合溶媒として使用してアクリル系単量体成分からアクリル系重合体ブロック(a)を重合する工程、(2)工程(1)で得られた重合体溶液にメタアクリル系単量体成分および溶媒(ロ)を添加してメタアクリル系重合体ブロック(b)を重合する工程、(3)工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の重合体溶液を精製する工程、(4)工程(3)で得られたアクリル系ブロック共重合体溶液から重合溶媒、未反応のアクリル系単量体およびメタアクリル系単量体を蒸発分離する工程、(5)工程(4)で得られた回収溶媒を蒸留する工程から構成される、アクリル系ブロック共重合体(A)を製造する方法において、工程(5)で回収溶媒を(イ)/(ロ)の重量比が0.5以上の溶媒(ハ)および0.5未満の溶媒(ニ)に分離して、溶媒(ハ)を工程(1)にリサイクル使用することを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、(1)溶媒(イ)を重合溶媒として使用してアクリル系単量体成分からアクリル系重合体ブロック(a)を重合する工程、(2)工程(1)で得られた重合体溶液にメタアクリル系単量体成分および溶媒(ロ)を添加してメタアクリル系重合体ブロック(b)を重合する工程、(3)工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の重合体溶液を精製する工程、(4)工程(3)で得られたアクリル系ブロック共重合体溶液から重合溶媒、未反応のアクリル系単量体およびメタアクリル系単量体を蒸発分離する工程、(5)工程(4)で得られた回収溶媒を蒸留する工程から構成される、アクリル系ブロック共重合体(A)を製造する方法において、工程(5)で回収溶媒を(イ)/(ロ)の重量比が0.5以上の溶媒(ハ)および0.5未満の溶媒(ニ)に分離して、溶媒(ニ)を工程(2)〜(5)のいずれか又はこれら工程の二以上にリサイクル使用することを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法に関する。溶媒(ニ)は、更に、(イ)/(ロ)の重量比が0.01以上0.5未満の溶媒(ホ)、0.01未満の溶媒(ヘ)に分離して、溶媒(ヘ)を工程(2)にリサイクル使用することが好ましい。
【0013】
好適な実施態様としては、溶媒(ハ)に含まれるメタアクリル系単量体濃度を5重量%以下とすることを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法が挙げられる。
【0014】
好適な実施態様としては、溶媒(イ)がアセトニトリル、溶媒(ロ)がトルエンであることを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明を用いれば、重合体間のカップリング反応等の問題が生じることがなく、アクリル系ブロック共重合体の重合溶媒、未反応単量体を簡便にリサイクル使用できる。これにより、アクリル系ブロック共重合体の製造コストを大幅に低減することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0017】
<アクリル系ブロック共重合体(A)>
本発明に係る方法で製造されるアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体(A)の構造は、特に問うものではなく、線状ブロック共重合体であってもよく、分岐状(星状)ブロック共重合体であってもよく、これらの混合物であってもよい。ブロック共重合体(A)の構造は、必要とされるブロック共重合体(A)の物性に応じて使いわければよい。また、その分子量や、アクリル系重合体ブロック(a)とメタアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、要求されるブロック共重合体(A)を含有する組成物の成型時の形状の保持や溶融性、エラストマーとしての弾性等の物性から適宜決定される。
【0018】
<アクリル系重合体ブロック(a)>
アクリル系重合体ブロック(a)は、アクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、このようなものとして、例えば、アクリル酸エステルおよびこれと共重合可能なビニル系単量体とからなるものが挙げられる。
【0019】
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸−2−アミノエチル、アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどをあげることができる。
【0020】
これらは単独でまたはこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。いずれの単量体を用いるかは、ゴム弾性や低温特性、圧縮永久歪み等の諸物性およびコスト等を勘案して、適宜決定する。
【0021】
アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などをあげることができる。
【0022】
メタアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸−n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸−n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸−n−ペンチル、メタアクリル酸−n−ヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸−n−ヘプチル、メタアクリル酸−n−オクチル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸ドデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸トルイル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸−2−メトキシエチル、メタアクリル酸−3−メトキシブチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸−2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシメチルシラン、メタアクリル酸のエチレンオキサイド付加物、メタアクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、メタアクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチル、メタアクリル酸パーフルオロメチル、メタアクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどをあげることができる。
【0023】
芳香族アルケニル化合物としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどをあげることができる。シアン化ビニル化合物としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどをあげることができる。共役ジエン系化合物としては、たとえば、ブタジエン、イソプレンなどをあげることができる。ハロゲン含有不飽和化合物としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどをあげることができる。ケイ素含有不飽和化合物としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどをあげることができる。不飽和ジカルボン酸化合物としては、たとえば、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステルなどをあげることができる。ビニルエステル化合物としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどをあげることができる。マレイミド系化合物としては、たとえば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどをあげることができる。
【0024】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、アクリル系重合体ブロック(a)に要求されるガラス転移温度および耐油性、メタアクリル系重合体ブロック(b)との相溶性などのバランスの観点から、好ましいものを選択することができる。
【0025】
アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度は、エラストマー組成物のゴム弾性の観点から、好ましくは25℃以下、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。アクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度が、エラストマー組成物の使用される環境の温度より高いとゴム弾性が発現されにくいので不利である。
【0026】
<メタアクリル系重合体ブロック(b)>
メタアクリル系重合体ブロック(b)は、メタアクリル酸エステルを主成分とする単量体を重合してなるブロックであり、このようなものとして、例えば、メタアクリル酸エステルおよびこれと共重合可能なビニル系単量体とからなるものが挙げられる。
【0027】
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体として例示されたメタアクリル酸エステルと同様の単量体が挙げられる。
【0028】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、加工性、コストおよび入手しやすさの点で、メタアクリル酸メチルが好ましい。また、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸シクロヘキシルなどを共重合させることによって、ガラス転移点を高くすることができる。更には、耐熱性を上げる為に、酸無水物を導入する際の前駆体としてメタアクリル酸−t−ブチルが好ましい。
【0029】
メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成するメタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド化合物などをあげることができる。
【0030】
アクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル系重合体ブロック(a)を構成するアクリル酸エステルとして例示されたアクリル酸エステルと同様の単量体が挙げられる。
【0031】
芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物としては、アクリル系重合体ブロック(a)を構成する単量体として例示したものと同様の単量体をあげることができる。
【0032】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、メタアクリル系重合体ブロック(b)に要求されるガラス転移温度の調整、アクリル系重合体ブロック(a)との相溶性などの観点から好ましいものを選択することができる。
【0033】
(b)のガラス転移温度は、エラストマー組成物の熱変形の観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。(b)のガラス転移温度がエラストマー組成物の使用される環境の温度より低いと、凝集力の低下により、熱変形しやすくなる場合がある。
【0034】
<ブロック共重合体(A)の製造方法>
アクリル系ブロック共重合体(A)の製造方法としては、特に限定されないが、制御重合を用いることが好ましい。制御重合としては、リビングアニオン重合、連鎖移動剤を用いるラジカル重合および近年開発されたリビングラジカル重合をあげることができる。リビングラジカル重合がブロック共重合体の分子量および構造制御の点ならびに架橋性官能基を有する単量体を共重合できる点から好ましい。
【0035】
リビング重合とは、狭義においては、末端が常に活性を持ち続ける重合のことを示すが、一般には、末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合も含まれ、本発明におけるリビングラジカル重合は、重合末端が活性化されたものと不活性化されたものが平衡状態で維持されるラジカル重合であり、近年様々なグループで積極的に研究がなされている。
【0036】
その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(Journal of American Chemical Society,1994年,第116巻,7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(Macromolecules,1994年,第27巻,7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちどの方法を使用するかは特に制約はないが、制御の容易さなどから原子移動ラジカル重合が好ましい。
【0037】
原子移動ラジカル重合は、有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒として重合される(例えば、Matyjaszewskiら,Journal of American Chemical Society,1995,117,5614、Macromolecules,1995,28,7901、Science,1996,272,866、またはSawamotoら,Macromolecules,1995,28,1721)。
【0038】
これらの方法によると、一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭いMw/Mn=1.1〜1.5程度の重合体が得られ、分子量はモノマーと開始剤の仕込み時の比率によって自由にコントロールすることができる。
【0039】
原子移動ラジカル重合法において、開始剤として用いられる有機ハロゲン化物またはハロゲン化スルホニル化合物としては、一官能性、二官能性、または、多官能性の化合物を使用できる。これらは目的に応じて使い分けることができる。ジブロック共重合体を製造する場合は、一官能性化合物が好ましい。a−b−a型のトリブロック共重合体、b−a−b型のトリブロック共重合体を製造する場合は二官能性化合物を使用することが好ましい。分岐状ブロック共重合体を製造する場合は多官能性化合物を使用することが好ましい。
【0040】
前記原子移動ラジカル重合の触媒として用いられる遷移金属錯体としてはとくに限定はないが、好ましいものとして、1価および0価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄または2価のニッケルの錯体をあげることができる。これらの中でも、コストや反応制御の点から銅の錯体が好ましい。
【0041】
前記原子移動ラジカル重合は、無溶媒(塊状重合)または各種溶媒中で行なうことができる。溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒などをあげることができ、これらは単独で又は二種以上を混合して用いることができる。反応制御の観点から、これらのうち、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてはアセトニトリル、メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒としてはアセトニトリルとトルエンの混合溶媒が好ましく用いられる。溶媒を使用する場合、その使用量は、系全体の粘度と必要とする攪拌効率の関係から適宜決定することができる。
【0042】
また、原子移動ラジカル重合は、室温〜200℃で行うのが好ましく、50〜150℃の範囲で行なうのがより好ましい。原子移動ラジカル重合温度が室温より低いと、粘度が高くなり過ぎて反応速度が遅くなる場合があり、200℃を超えると安価な重合溶媒を使用できない。
【0043】
原子移動ラジカル重合によりブロック共重合体を重合する方法としては、単量体を逐次添加する方法、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤としてつぎのブロックを重合する方法、別々に重合した重合体を反応により結合する方法などをあげることができる。これらの方法は、目的に応じて使い分けることができる。重合工程の簡便性の点から、あらかじめ合成した重合体を高分子開始剤としてつぎのブロックを重合する方法が好ましい。
【0044】
重合工程について以下に詳細に説明する。
【0045】
<(1)アクリル系重合体ブロック(a)の重合工程>
アクリル系重合体ブロック(a)の重合工程(1)の具体例を以下に示す。本発明におけるアクリル系重合体ブロック(a)の重合工程では、例えば、反応機に撹拌型耐圧反応機を用いて、反応機内を十分に窒素置換し、酸素を取り除いた状態にして、アクリル系単量体、重合触媒である遷移金属触媒、重合溶媒および重合開始剤をそれぞれ所定量順次仕込み、前記の温度範囲(例えば原子移動ラジカル重合であれば、好ましくは室温〜200℃)で所定量の触媒配位子を添加してラジカル重合を開始する方法(前記制御重合)にてアクリル系重合体ブロックが製造される。
【0046】
アクリル系重合体ブロック(a)の重合における反応機の種類は、特に限定されないが、低粘性から高粘性に至る条件における重合体溶液の十分な混合と重合体溶液の迅速な昇温および冷却と重合反応中の重合体溶液からの発熱の除去が必要となることから、撹拌型反応機を使用することが製法上有利である。
【0047】
アクリル系重合体ブロック(a)の重合における原料の仕込み順序は、溶液中に遷移金属触媒を十分に分散させることが重合反応の安定性に著しく寄与することから、触媒を最も良く分散できる順序で仕込むことが肝要である。この場合、触媒は最初に添加するよりも溶液が反応機に仕込まれた状態で添加することが好ましく、より好ましくは溶液を撹拌している状態に添加することが好ましい。また重合溶媒として触媒を凝集させる性質を持つ溶液を使用する場合には、触媒を添加後に触媒を凝集させる溶液を添加することが好ましい。
【0048】
触媒配位子を添加してラジカル重合を開始する際の溶液温度は、重合活性を十分に発現し得る温度となる60℃以上で、かつラジカル重合特有の強い初期発熱を抑えるためには85℃以下とすることが製造上有利となる。従って、本発明においては重合開始時の溶液温度は60℃〜85℃であることが好ましく、重合反応の安定化には70℃〜80℃がより好ましい。
【0049】
アクリル系重合体ブロック(a)の重合を行う工程(1)においては、アクリル系単量体の転化率が99%を超えるとラジカル同士のカップリング、不均化などの副反応により反応のリビング性が損なわれ、設計通りの重合体が得られない場合が見られる。一方、アクリル系単量体の転化率を90%以下として終了すると未反応アクリル系単量体が次の重合工程へのコンタミとなって製品物性を低下させたり、未反応アクリル系単体量の回収を煩雑化させる場合がある。従って、アクリル系単量体の転化率は90%〜99%とすることが好ましく、コンタミ低減や、副反応の低減のためには95〜99%とすることがより好ましい。
【0050】
アクリル系重合体ブロックの重合反応時間は、アクリル系単量体の重合転化率の追跡上および目標の転化率(90〜99%)で終了させるために1時間以上とし、また生産性から8時間以下とすることが好ましく、重合コントロールのし易さから3〜6時間とすることがより好ましい。また重合中の重合体溶液温度は、重合反応速度を安定させることを目的に、目標温度から±10℃以内に制御することが好ましく、精度向上のためには±5℃以内とすることがより好ましい。重合終了後は、アクリル系重合体ブロックの重合進行を抑制するために、可能な限り迅速に工程(2)の実施に移る必要がある。
【0051】
<(2)メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程>
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程(2)の具体例を以下に示す。工程(1)と同様、重合溶媒、重合触媒である遷移金属触媒、およびメタアクリル系単量体をそれぞれ所定量順次反応容器に導入し、所定の温度範囲で所定量の触媒配位子を添加する。これにより、ラジカル重合が開始される。この場合、アクリル系重合体ブロックのカップリング、不均化などの副反応を抑制するために、重合溶媒添加による溶液の希釈を速やかに行うことが好ましい。
【0052】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合における原料の添加順序は、特に限定されないが、遷移金属触媒を添加するにあたり、重合体溶液中に触媒を十分に分散させることが反応の安定化に必要であることから、前記のように重合溶媒を添加して重合体溶液を低粘性とした後に遷移金属触媒を添加することが好ましい。また遷移金属触媒を添加後は、アクリル系重合体ブロックのカップリング反応等の副反応を低減するために、速やかに(10分以内)メタアクリル系単量体を添加することが好ましい。
【0053】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合反応時間は、アクリル系重合体ブロック重合工程と同様に、メタアクリル系単量体の重合転化率の追跡を可能にし、目標の転化率で終了させるために1時間以上とし、また生産性から8時間以下とすることが好ましく、重合コントロールのし易さから3〜6時間とすることがより好ましい。また重合中の重合体溶液温度も、アクリル系重合体ブロック重合工程と同様に重合反応速度を安定させることを目的に、目標温度から±10℃以内に制御することが好ましく、精度向上のためには±5℃以内とすることがより好ましい。
【0054】
メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合を行う工程(2)においては、未反応メタアクリル系単量体が多量に残った状態で重合を終了すると溶媒回収工程の煩雑化や溶媒回収時におけるメタアクリル系単量体の劣化によってリサイクル使用が困難となる場合があるため、90%を超える高転化率とすることが望ましい。一方、転化率が99%を超えると、ラジカル同士のカップリング、不均化などの副反応により反応のリビング性が損なわれ、設計通りの重合体が得られない場合があるため、実用的にはメタアクリル系単量体の転化率は90〜99%であることが好ましく、副反応の抑制のためには95〜99%がより好ましい。
【0055】
また、メタアクリル系単量体の重合を高転化率とするためには、重合溶媒の重量をメタアクリル系重合体ブロック100重量部に対して300重量部以下とするのが望ましく、より重合活性を高めるには重合体溶液中のメタアクリル系単量体の濃度を高くするのがよい。しかしながら、重合溶媒量が10重量部未満となると、60%を超える転化率になった時に、重合体溶液粘度が著しい増加を示し、反応活性を維持するために添加するポリアミン化合物の重合体溶液中への混合・拡散が著しく悪化するために、高転化率を実現できない場合がある。従って、メタアクリル系重合体ブロックの重合工程において、メタクリル系単量体の転化率を90〜99%とするためには、重合溶媒の量を、(b)メタアクリル系重合体ブロック100重量部に対して10〜300重量部とすることが好ましく、混合・拡散および反応活性のアップのためには、(b)メタアクリル系重合体ブロック100重量部に対して150〜250重量部とすることがより好ましい。
【0056】
重合開始剤に対する遷移金属触媒の添加量は、可能な限り削減することが原料費のコストダウンから重要である。開始剤のハロゲン基に対して遷移金属添加量が0.1倍モル未満では、反応活性が低いばかりでなく発現しない場合もある。また、20倍モルを超える触媒添加は、反応活性向上に寄与しないばかりでなく、重合反応終了後の触媒除去工程を煩雑化させる場合がある。従って、遷移金属触媒の添加量は、重合開始剤に対して0.1〜20倍モルにすることが好ましく、十分な反応性と制御性を確保するためには0.5〜10倍モルがより好ましい。
【0057】
触媒活性は、ポリアミン化合物の添加量によっても制御可能である。錯体形成における必要量以上のポリアミン化合物の添加は、分子量分布を増大させるだけでなく、触媒除去工程にも悪影響となるため可能な限り削減することのが望ましい。遷移金属錯体として銅化合物を使用する場合には、通常の原子移動ラジカル重合の条件では、遷移金属の配位座の数と、配位子の配位する基の数から決定され、ほぼ等しくなるように設定される。たとえば、通常、2,2’−ビピリジルおよびその誘導体を銅化合物に対して加える量がモル比で2倍であり、ペンタメチルジエチレントリアミンの場合はモル比で1倍であり、金属原子が配位子に対して過剰になる方が好ましい。本発明の場合は、ポリアミン化合物量が原子移動ラジカル重合反応時に加える重合開始剤に対して、0.1倍モル未満では充分な重合活性が得られず、重合開始剤に対して4倍モルを超えると重合反応が速すぎて制御できない場合がある。また、遷移金属触媒錯体へのポリアミン化合物の過剰な配位により、反応が進行しなくなるなどの問題が生じる場合がある。以上のことから、好ましいポリアミン化合物の添加量は重合開始剤に対して0.1〜4倍モルが好ましく、十分な反応性と制御性を確保するためには0.2〜3倍モルがより好ましい。
<(3)アクリル系ブロック共重合体溶液の精製工程>
重合によって得られた重合体溶液は、重合体および触媒である金属錯体を含んでいるため、重合活性を消失させるとともに、これら金属錯体を分離除去する必要がある。金属錯体の分離除去の方法としては、有機酸を添加して金属錯体を失活させた後にこれを除去する方法がある。本発明で使用することができる有機酸は、特に限定されないが、カルボン酸基、もしくは、スルホン酸基を含有する有機物であることが好ましい。その中でも、有機溶媒への分散しやすさ、酸と金属錯体の反応との生成物の性状、入手しやすさなどから、ベンゼンスルホン酸もしくはその誘導体が好ましく、それらの中ではp−トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0058】
なお、耐熱性を上げる為にブロック共重合体中に酸無水物基、カルボン酸基等の反応性官能基を導入する場合には、アクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸−t−ブチルなどの単量体を導入する。これら単量体を含むブロック共重合体は、有機酸存在下、例えば100〜200℃程度に加熱すると、酸分解反応により酸無水物基、カルボン酸基が導入される。
【0059】
引き続き塩基性物質を添加して、溶液を中和するのが、溶液の取り扱い上望ましい。塩基性物質としては、塩基性活性アルミナ、塩基性吸着剤、固体無機酸、陰イオン交換樹脂、セルロース陰イオン交換体などをあげることができる。塩基性吸着剤としては、キョーワード500SH(協和化学製)などをあげることができる。固体無機酸としては、Na2O、K2O、MgO、CaOなどをあげることができる。陰イオン交換樹脂としては、スチレン系強塩基性陰イオン交換樹脂、スチレン系弱塩基性陰イオン交換樹脂、アクリル系弱塩基型陰イオン交換樹脂などをあげることができる。
【0060】
前記金属錯体および塩基性物質の分離方法としては、濾過、遠心分離、沈降分離、液体サイクロン等の種々の分離方式が適用可能である。分離の際、重合体溶液に溶媒を添加し、液粘度を下げることにより、分離を容易に行うことができる。本発明では、溶媒としては重合体の溶解性の面でトルエンが特に好ましい。
<(4)アクリル系ブロック共重合体溶液から重合溶媒、未反応のアクリル系単量体およびメタアクリル系単量体を蒸発分離する工程>
アクリル系ブロック共重合体溶液から有機溶媒成分を蒸発分離するに際しては、種々の蒸発機が適用可能である。そのような中でも、重合体溶液の液膜を加熱することにより揮発分を除去、すなわち蒸発、脱揮等させる種々の形式の薄膜蒸発機が好ましい。その他、単軸もしくは2軸スクリューと脱揮口を有する押出機による蒸発も可能である。
【0061】
蒸発温度としては脱揮能力の確保と重合体の熱劣化抑制の観点から100〜300℃が好ましい。100℃未満では溶媒の蒸気圧が低く、脱揮能力を確保することが難しくなる。300℃を超えると重合体の熱劣化が進行しやすくなり、物性の低下を招く。
【0062】
重合体中の残存溶媒量としては、10000ppm以下であることが望ましい。残存溶媒量が10000ppmを超えると、溶媒の臭気の問題により作業環境が悪化するとともに環境への負荷がかかるため望ましくない。
<(5)蒸発分離した回収溶媒を蒸留する工程>
蒸発により回収された溶媒には、重合溶媒、精製希釈溶媒だけでなく、未反応のアクリル系単量体、メタアクリル系単量体が含まれる。このため、これを、そのままアクリル系重合体ブロック(a)の重合工程(1)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)の重合工程(2)にリサイクル使用することは、重合反応制御の点で困難である。重合反応には、前述した種々の重合溶媒が利用可能であるが、本系では、反応制御の点から、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてはアセトニトリル、メタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒としてはアセトニトリルとトルエンの混合溶媒が好ましく用いられる。この場合、蒸発回収溶媒はアセトニトリルとトルエンの混合溶媒となっている。この蒸発回収溶媒をアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてそのまま使用した場合、反応制御が困難で分子量分布が広くなる傾向がある。
【0063】
また、蒸発回収溶媒には、更に、アクリル系、メタアクリル系の未反応の単量体が含まれている。従って、蒸発回収溶媒をアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としてそのまま使用した場合、未反応のメタアクリル系単量体も共重合し、重合体ブロックの組成制御が困難となる。
【0064】
蒸発回収溶媒をリサイクル使用するため、本発明では蒸発回収溶媒の蒸留を実施する。例えば、重合溶媒としてアセトニトリルとトルエンを用いた場合、これらは共沸混合物となり、蒸留でも完全に分離することは不可能である。しかし、このような場合であっても、溶媒中のアセトニトリル/トルエンの重量比を0.5以上とすることにより、これをアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒として再使用した場合に、重合反応を容易に制御することが可能になる。アセトニトリル/トルエンの重量比が0.5以上である留分を回収した後は、留出溶媒中のアセトニトリルの含有量が次第に低下し、ついにはアセトニトリルがほぼ消失する。このアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒は、先に述べた理由からアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒としては適さない。
【0065】
本蒸留法では、蒸留前のアセトニトリルの全量がアクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒として回収されず、蒸留を繰り返すたびにアセトニトリルの回収量が減少していく。この問題を解決する手段として、前述したアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒を蒸発回収溶媒に添加して再蒸留するとよい。このような運転をすることによって、アセトニトリルの回収率を一定にしたリサイクルが可能となる。
【0066】
また、これらアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒は蒸発回収溶媒に添加するだけでなく、精製希釈溶媒として使用しても問題はない。その他、重合体溶液を精製する際に添加するp−トルエンスルホン酸などの固体有機酸の溶解用溶媒として好適である。固体成分の使用は製造工程を煩雑にすることが多いが、溶液とすることにより工程の煩雑化を避けることが可能になる。これらアセトニトリル/トルエンの重量比が0.5未満の溶媒は、ある程度の極性を有しているため、p−トルエンスルホン酸に代表される固体有機酸を溶解することが可能である。なお、固体有機酸を溶解するためにアセトニトリル/トルエンの重量比は0.01以上であることが好ましい。このため、蒸留操作では留出液中のアセトニトリル/トルエンの重量比が0.01までの溶媒をまとめて分離回収するのが望ましい。
【0067】
アセトニトリル/トルエンの重量比が0.01未満の溶媒はメタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒および精製時の希釈溶媒としても利用可能である。これらの溶媒は必要に応じて、更に蒸留を継続し、これらを分離した後に使用してもよい。回収溶媒中に高沸点の単量体などが存在する場合、重合体ブロックの単量体組成によっては混入を防止する必要が出てくる。この場合、高沸点の単量体の濃縮された蒸留残液は精製希釈溶媒として使用することが好ましい。精製工程では重合反応は既に停止しているため、単量体が存在しても重合体ブロックの組成に影響することはない。
【0068】
また、蒸留により、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒へのメタアクリル系単量体の混入も低減することができる。メタアクリル系単量体がアクリル系重合体ブロック(a)に共重合した場合、メタアクリル系単量体が多量に含まれるとブロック共重合体としての物性を低下させる。重合体物性へ影響を与えないメタアクリル系単量体濃度としては、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒中の濃度として5重量%以下が好ましい。
【0069】
一方、アクリル系重合体ブロック(a)の重合溶媒以外は、いずれもメタアクリル系重合体ブロック(b)の重合溶媒、及び精製希釈溶媒であるため、ブロック共重合体の組成に大きな変化を与えることなくリサイクル使用が可能である。
【0070】
なお、以上においては、アセトニトリルとトルエンを重合溶媒としてアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)を製造する場合について述べたが、アセトニトリルとトルエン以外の溶媒を用いた場合も、同様に処理することにより、ブロック共重合体の組成に大きな変化を与えることなく、溶媒をリサイクル使用することが可能となる。
【実施例】
【0071】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
<転化率の測定法>
本実施例中の転化率の測定にはガスクロマトグラフィーを用い、重合溶媒を内部標準物質として、重合開始前のモノマーと溶媒の面積比の数値と、任意の時間でサンプリングされたモノマーと溶媒の面積比の数値を比較し、その数値の減少の割合より転化率を算出した。システム:(株)島津製作所製GC−14B、カラム:Agilent Technologies製DB−17。
<分子量の測定法>
重合体溶液を活性アルミナで濾過することにより銅錯体を除去した。本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システム:Waters社製GPCシステム、カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)。
【0072】
<機械物性の評価法>
ブロック共重合体100重量部に対して、イルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)0.3重量部を配合し、240℃に設定したラボプラストミル(東洋精機(株)製、型番:MODEL20C200)を用いて、特定の成形条件(試料量:45g、混練温度:240℃、予熱時間:無し、スクリュー回転数:50rpm、ブレード:ローラ型R60B2軸、チャンバ容量:60CC、ミキサー:チッカ耐磨耗ローラミキサーR60HT)で12分間溶融混練して、塊状のサンプルを得た。得られたサンプルを、設定温度240℃で熱プレス成形し、厚さ2mmのシート状の成形体を得た。これらのシートを島津製作所製島津オートクラフAG−A型シリーズを用いて機械強度を測定した。
【0073】
<圧縮永久歪み>
本実施例に示す圧縮永久歪みは、JIS K6301に従い、円柱型成形体を圧縮率25%の条件で70℃もしくは100℃で22時間保持し、室温で30分放置したのち、成形体の厚みを測定し、歪みの残留度を計算した。すなわち、圧縮永久歪み0%で歪みが全部回復し、圧縮永久歪み100%で歪みが全く回復しないことに相当する。
【0074】
(製造例1)
窒素置換した15L反応機にアクリル酸ブチル264g、アクリル酸エチル259g、アクリル酸−2−メトキシエチル161g、及び臭化第一銅10.4gを仕込み、攪拌を開始した。引き続きジャケットに熱媒油を通液し、内溶液を70℃に昇温して30分間保持した。その後、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル5.21gをアセトニトリル115gに溶解させた溶液を仕込み、75℃に昇温を開始した。内温が75℃に到達した時点でペンタメチルジエチレントリアミン1.51mLを加えて、第一ブロックの重合を開始した。
【0075】
転化率が98%に到達したところで、トルエン1307g、塩化第一銅7.16g、メタアクリル酸メチル227g、メタアクリル酸−t−ブチル322g、及びペンタメチルジエチレントリアミン1.51mLを加えて、第二ブロックの重合を開始した。転化率が60%に到達したところで、トルエン1330gを加えて反応溶液を希釈すると共に反応機を冷却して重合を停止させた。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが94639、分子量分布Mw/Mnが1.26であった。
【0076】
引き続き、重合体溶液中に含まれる銅触媒の精製を実施した。p−トルエンスルホン酸10.3gを重合体溶液に加え、反応機内を窒素置換し25℃で3時間撹拌した。重合体溶液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を20.1g添加した。その後、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.02m2)に重合体溶液を仕込み、窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧して固体分を分離した。
【0077】
濾過後の重合体溶液に対し、キョーワード500SH15.1gを加えた後、反応機内を窒素置換し、25℃で1時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認した後、ラヂオライト#3000を15.1g添加した。その後、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.02m2)に反応液を仕込み、窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧して固体分を分離し、重合体溶液を得た。
【0078】
引き続き、重合体溶液から溶媒成分を蒸発させた。80℃の真空乾燥機内で24時間乾燥し、ブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体の機械物性を表1に示す。また、このとき得られた回収溶媒(回収溶媒[1])についてGC分析した結果を表2に示す。
【0079】
(実施例1)
製造例1で得られた回収溶媒[1]をガラス製の蒸留塔を用いて蒸留した。蒸留塔の理論段数は10段、塔頂抜出バルブの開閉時間を調整し、還流比は1に設定した。溶媒をフラスコに仕込み、オイルバスを140℃に設定して昇温を開始した。塔頂に溶媒成分が上昇してから30分間全還流を実施し、以降、還流比1で低沸点成分から順次抜き出した。塔頂温度80〜100℃までの回収液を留出成分[1]として回収した。留出成分[1]についてGC分析を行った結果を表2に示す。
【0080】
窒素置換した5L反応機にアクリル酸ブチル88.0g、アクリル酸エチル86.3g、アクリル酸−2−メトキシエチル53.7g、及び臭化第一銅3.47gを仕込み、攪拌を開始した。引き続きジャケットに熱媒油を通液し、反応機内の溶液を70℃に昇温して30分間保持した。その後、2、5−ジブロモアジピン酸ジエチル1.74gを留出成分[1]76.7gに溶解させた溶液を仕込み、75℃に昇温を開始した。内温が75℃に到達した時点でペンタメチルジエチレントリアミン0.50mLを加えて、第一ブロックの重合を開始した。
【0081】
転化率が98%に到達したところで、トルエン436g、塩化第一銅2.39g、メタアクリル酸メチル75.7g、メタアクリル酸−t−ブチル107g、及びペンタメチルジエチレントリアミン0.50mLを加えて、第二ブロックの重合を開始した。転化率が60%に到達したところで、トルエン443gを加えて反応溶液を希釈すると共に反応機を冷却して重合を停止させた。得られたブロック共重合体についてGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが92128、分子量分布Mw/Mnが1.30であった。
【0082】
引き続き、重合体溶液中に含まれる銅触媒の精製を実施した。p−トルエンスルホン酸3.43gを重合体溶液に加え、反応機内を窒素置換し25℃で3時間撹拌した。重合体溶液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を6.70g添加した。その後、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.02m2)に重合体溶液を仕込み、窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧して固体分を分離した。
【0083】
濾過後の重合体溶液に対し、キョーワード500SH5.03gを加えた後、反応機内を窒素置換し、25℃で1時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認した後、ラヂオライト#3000を5.03g添加した。その後、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.02m2)に反応液を仕込み、窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧して固体分を分離し、重合体溶液を得た。
【0084】
引き続き、重合体溶液から溶媒成分を蒸発させた。80℃の真空乾燥機内で24時間乾燥し、ブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体の機械物性を表1に示す。
【0085】
(比較例1)
製造例1で得られた回収溶媒[1]をガラス製の蒸留塔を用い蒸留した。蒸留塔の理論段数は10段、塔頂抜出バルブの開閉時間を調整し還流比は1に設定した。溶媒をフラスコに仕込み、オイルバスを140℃に設定して昇温を開始した。塔頂に溶媒成分が上昇してから30分間全還流を実施し、以降、還流比1で低沸点成分から順次抜き出した。塔頂温度80〜113℃までの回収液を留出成分[2]として回収した。留出成分[2]についてGC分析を行った結果を表2に示す。
【0086】
留出成分[1]76.7gの代わりに留出成分[2]260gを使用した以外は実施例1と同様の方法でブロック共重合体を得た。ブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnが93500であり、分子量分布Mw/Mnは1.41と大きくなっていた。このことは、重合の制御性が低下したことをが意味している。また、得られたブロック共重合体の機械物性を表1に示すが、破断強度、伸びともに低下しており、物性が低下していた。
【0087】
以上のことから、本発明にかかる方法によれば、リサイクル溶媒を使用した場合であっても、リサイクル溶媒を使用しない方法により製造されたアクリル系ブロック共重合体と同等の性能を有するアクリル系ブロック共重合体が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】重合反応により得られたアクリルブロック共重合体の機械物性を表した表。
【図2】回収溶媒の組成を表した表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)溶媒(イ)を重合溶媒として使用してアクリル系単量体成分からアクリル系重合体ブロック(a)を重合する工程、(2)工程(1)で得られた重合体溶液にメタアクリル系単量体成分および溶媒(ロ)を添加してメタアクリル系重合体ブロック(b)を重合する工程、(3)工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の重合体溶液を精製する工程、(4)工程(3)で得られたアクリル系ブロック共重合体溶液から重合溶媒、未反応のアクリル系単量体およびメタアクリル系単量体を蒸発分離する工程、(5)工程(4)で得られた回収溶媒を蒸留する工程から構成される、アクリル系ブロック共重合体(A)を製造する方法において、工程(5)で回収溶媒を(イ)/(ロ)の重量比が0.5以上の溶媒(ハ)および0.5未満の溶媒(ニ)に分離して、溶媒(ハ)を工程(1)にリサイクル使用することを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項2】
(1)溶媒(イ)を重合溶媒として使用してアクリル系単量体成分からアクリル系重合体ブロック(a)を重合する工程、(2)工程(1)で得られた重合体溶液にメタアクリル系単量体成分および溶媒(ロ)を添加してメタアクリル系重合体ブロック(b)を重合する工程、(3)工程(2)で得られたアクリル系重合体ブロック(a)およびメタアクリル系重合体ブロック(b)からなるアクリル系ブロック共重合体(A)の重合体溶液を精製する工程、(4)工程(3)で得られたアクリル系ブロック共重合体溶液から重合溶媒、未反応のアクリル系単量体およびメタアクリル系単量体を蒸発分離する工程、(5)工程(4)で得られた回収溶媒を蒸留する工程から構成される、アクリル系ブロック共重合体(A)を製造する方法において、工程(5)で回収溶媒を(イ)/(ロ)の重量比が0.5以上の溶媒(ハ)および0.5未満の溶媒(ニ)に分離して、溶媒(ニ)を工程(2)〜(5)のいずれか又はこれら工程の二以上にリサイクル使用することを特徴とするアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒(ニ)を、更に、(イ)/(ロ)の重量比が0.01以上0.5未満の溶媒(ホ)、0.01未満の溶媒(ヘ)に分離して、溶媒(ヘ)を工程(2)にリサイクル使用することを特徴とする請求項2に記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
溶媒(ハ)に含まれるメタアクリル系単量体濃度を5重量%以下とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
溶媒(イ)がアセトニトリル、溶媒(ロ)がトルエンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系ブロック共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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