説明

アクリル系収縮繊維

低温で染色可能であり、染色後においても高収縮率を有するアクリル系収縮繊維を得る。アクリロニトリル80〜97重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜2重量%およびこれらと共重合可能なモノマー3〜20重量%からなる重合体(A)50〜99重量部、ならびにアクリロニトリル0〜89重量%、スルホン酸基含有モノマー1〜40重量%およびこれらと共重合可能なモノマー10〜99重量%からなる重合体(B)1〜50重量部からなり、該重合体(A)と該重合体(B)の合計量が100重量部である染色可能なアクリル系収縮繊維を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は低温で染色可能なアクリル系収縮繊維に関する。
【背景技術】
従来、アクリル系繊維は、獣毛様風合いを有し、その特徴から玩具、衣料等の立毛商品に用いられている。なかでも、立毛感、天然調の外観を持たせるために、外観上ダウンヘアー部を収縮繊維、ガードヘアー部を非収縮繊維で構成する例が多い。
パイル布帛には、外観特性が要求されるため、収縮繊維にも様々な色相が求められるが、収縮繊維は紡糸工程で着色して製造される限られた色相のものしか存在しない。
これまでに、アクリロニトリル80重量%以上とスルホン酸基含有モノマー0.5〜5重量%およびビニル系モノマー5〜15重量%の重合体からなり、湿式紡糸の際、紡糸延伸4〜10倍の後乾煥時に30%以上収縮させ、さらに1.2〜2.0倍乾熱延伸することや(特開平4−119114号公報)、また、アクリロニトリル90〜95重量%、スルホン酸含有ビニルモノマー0〜0.5重量%および他のビニルモノマー10〜4.5重量%の重合体からなり、2〜6倍紡糸延伸し乾燥した後、加圧水蒸気中で30%以上緩和させ、さらに1.6〜2.2倍乾熱延伸すること(特開2003−268623号公報)等により高収縮のアクリル系合成繊維が得られることが開示されている。本発明者らの知見では、これらの収縮繊維は80℃以上の染色では染色時に収縮してしまい、パイル加工時のパイル裏面に塗布した接着剤を乾燥させると共に収縮率差による段差を発現させるテンター工程の熱では収縮不充分となり、段差が発現しない。また、80℃未満の染色では充分な染色性が得られず、したがって、染色性と染色後の収縮を両立できる条件が存在しないものであった。
また、さらに、繊度が0.01〜0.5dtexの極細アクリル繊維において、p−スチレンスルホン酸(Na)や2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(Na)およびメタリルオキシベンゼンスルホン酸(Na)等のスルホン酸基含有モノマーを0.4〜1.4モル%共重合することにより低温での染色性が改良されることが開示されている(特開平8−325833号公報、特開平8−325834号公報、および特開平8−325835号公報)。しかしながら、これらの方法では繊度が太い場合には充分な低温染色性を得るのは困難であった。
これらの問題は依然として解決されておらず、染色後においても高収縮率を有する染色可能なアクリル系縮繊維は未だ得られていない。
【発明の開示】
本発明は、上記の従来技術の問題を解消し、低温で染色可能であり、染色後においても高収縮率を有するアクリル系収縮繊維を得ることにある。
前記課題を解決するために検討した結果、2種のアクリル系重合体を混合してなる原液を紡糸することで低温で染色ができ、高い染色後収縮率を有するアクリル系収縮繊維を見出した。
すなわち、本発明は、アクリロニトリル80〜97重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜2重量%およびこれらと共重合可能なモノマー3〜20重量%からなる重合体(A)50〜99重量部、ならびにアクリロニトリル0〜89重量%、スルホン酸基含有モノマー1〜40重量%およびこれらと共重合可能なモノマー10〜99重量%からなる重合体(B)1〜50重量部からなり、該重合体(A)と該重合体(B)の合計量が100重量部である染色可能なアクリル系収縮繊維に関する。
重合体(A)および重合体(B)におけるスルホン酸基含有モノマーの合計含有量が、重合体(A)および重合体(B)のモノマー合計量の0.1〜10重量%であることが好ましい。
また、本発明は、アクリロニトリル80〜97重量%を含む重合体からなり、80℃未満の染色における相対飽和値が0.2以上であるアクリル系収縮繊維に関する。
前記アクリル系収縮繊維は、80℃未満で染色後、130℃、5分間の乾熱処理による収縮率が20%以上であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、アクリロニトリル80〜97重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜2重量%およびこれらと共重合可能なモノマー3〜20重量%からなる重合体(A)50〜99重量部、ならびにアクリロニトリル0〜89重量%、スルホン酸基含有モノマー1〜40重量%およびこれらと共重合可能なモノマー10〜99重量%からなる重合体(B)1〜50重量部からなり、該重合体(A)と該重合体(B)の合計量が100重量部である染色可能なアクリル系収縮繊維である。
重合体(A)において、アクリロニトリルの含有量は80〜97重量%であり、85〜95重量%がより好ましい。アクリロニトリルの含有量が80重量%未満では、得られる繊維の耐熱性が低くなり、97重量%を超えると、耐熱性が高くなり過ぎ、充分な染色性、収縮率が得られない。
重合体(A)におけるスルホン酸基含有モノマーとしては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはこれらの金属塩類およびアミン塩類等が好ましく、単独もしくは2種以上混合して用いることができる。重合体(A)におけるスルホン酸含有モノマーの含有量は、得られた繊維にボイドが生じやすいといった観点より、0〜2重量%が好ましく、0.5〜1.5重量%がより好ましい。
重合体(A)におけるその他共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸やメタクリル酸およびそれらの低級アルキルエステル、N−またはN,N−アルキル置換したアミノアルキルエステルやグリシジルエステル、アクリルアミドやメタクリルアミドおよびそれらのN−またはN,N−アルキル置換体、アクリル酸、メタクリル酸やイタコン酸等に代表されるカルボキシル基含有ビニル単量体およびそれらのナトリウム、カリウムまたはアンモニウム塩等のアニオン性ビニル単量体、アクリル酸やメタクリル酸の4級化アミノアルキルエステルをはじめとするカチオン性ビニル単量体、あるいはビニル基含有低級アルキルエーテル、酢酸ビニルに代表されるビニル基含有低級カルボン酸エステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン等に代表されるハロゲン化ビニルおよびハロゲン化ビニリデン類、さらにはスチレン等が好ましく、これらのモノマーを単独もしくは2種以上混合して用いることができる。重合体(A)におけるその他の共重合可能なモノマーの含有量は3〜20重量%であり、5〜15重量%がより好ましい。20重量%を超えると得られる繊維の耐熱性が低くなり、3重量%未満では収縮率が得られない。
重合体(B)におけるアクリロニトリルの含有量は0〜89重量%であり、5〜70重量%がより好ましい。89重量%を超えると、耐熱性が高くなり充分な染色性、収縮率が得られない。
重合体(B)におけるスルホン酸基含有モノマーとしては、重合体(A)におけるスルホン酸基含有モノマーとして前記した化合物が用いられる。重合体(B)におけるスルホン酸含有モノマーの含有量は1〜40重量%であり、2〜30重量%がより好ましい。40重量%を超えると繊維にボイドや膠着が生じ、強度の低下や染色時の溶出がおこり好ましくない。また、1重量%未満では充分な染色性能が得られない。
重合体(B)におけるその他共重合可能なモノマーとしては、重合体(A)におけるその他共重合可能なモノマーとして前記した化合物が用いられる。重合体(B)におけるその他の共重合可能なモノマーの含有量は10〜99重量%であり、20〜80重量%がより好ましい。10重量%未満では耐熱性が高くなり過ぎ充分な染色性が得られない。
本発明のアクリル系収縮繊維は、重合体(A)50〜99重量部および重合体(B)1〜50重量部からなり、重合体(A)70〜95重量部および重合体(B)5〜30重量部であることがより好ましい。ただし、重合体(A)および重合体(B)は合計100重量部となるように配合する。重合体(B)が1重量部未満では、充分な染色性が得られず、50重量部を超えると、繊維にボイドや膠着が生じ、強度が低下するので好ましくない。
本発明のアクリル系収縮繊維においては、重合体(A)および重合体(B)におけるスルホン酸基含有モノマーの合計含有量が、重合体(A)および重合体(B)のモノマー合計量の0.1〜10重量%であることが好ましく、0.2〜5重量%であることがより好ましい。0.1重量%未満であると、充分な染色性が得られず、10重量%をこえると、繊維にボイドや膠着が生じ、強度が低下するので好ましくない。
本発明における重合体(A)および重合体(B)は、重合開始剤として既知の化合物、例えばパーオキシド系化合物、アゾ系化合物、または各種のレドックス系化合物を用い、乳化重合、懸濁重合、溶液重合等一般的なビニル重合方法により得ることができる。
また、重合体(A)および重合体(B)は、有機溶剤、例えばアセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドあるいは無機溶剤、例えば塩化亜鉛、硝酸、ロダン塩等に溶解させて紡糸原液とすることができる。この紡糸原液に、酸化チタンまたは着色用顔料のような無機および/または有機の顔料、防鎮、着色紡糸、耐候性等に効果のある安定剤等を紡糸に支障をきたさない限り使用することも可能である。
このようにして得られた本発明のアクリル系収縮繊維は低温で染色可能である。染色温度は50〜90℃であることが好ましく、60〜80℃がより好ましい。染色温度が50℃未満であると、充分に染色することができず、90℃を超えると、染色時に繊維の収縮が起こり、染色後、乾熱処理による充分な収縮率が得られない。
本発明でいう相対飽和値とは、繊維の染色能力の指標であり、繊維を任意の温度で60分間、任意の過飽和濃度のMalachite Greenを用いて浴比1:200(=繊維重量:染液重量)で染色し、飽和染着量を求め、飽和染着量より相対飽和値が求められる。飽和染着量、相対飽和値は下記の式(1)および(2)より求めた。
(飽和染着量)=((Ao−A)/Ao)×X) (1)
A :染色後の残染浴の吸光度(波長:618nm)
Ao:染色前の染浴の吸光度(波長:618nm)
X :Malachite Greenの過飽和濃度(%omf)
(相対飽和値)=(飽和染着量)×400/463 (2)
本発明のアクリル系収縮繊維は、相対飽和値が0.2以上で淡色の染色が可能となるため、80℃未満の染色における相対飽和値が0.2以上であることが好ましい。さらには、相対飽和値が0.8以上で淡色から濃色、さらには黒色まで染色可能となるため、相対飽和は0.8以上がより好ましい。
なお、染色堅牢性、発色性および経済性の点からカチオン染料を用いて染色を行なうことが好ましい。カチオン染料としては従来公知のものが使用でき、とくに限定されるものではない。たとえば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のMaxilonシリーズや保土ヶ谷(株)製のCathilonシリーズ等があげられる。また、カチオン染料の使用量はとくに限定されるものではないが、前記染色温度範囲においては、アクリル系収縮繊維100重量部に対して0.1〜3.0重量部が現実性も含め好ましい。染色促染剤はとくに必要ないが、従来公知の染色促染剤を公知技術例に沿って使用しても良い。染色機についても、従来のものを使用することができる。
本発明のアクリル系収縮繊維は、染色工程を経たのち、パイル加工におけるテンター工程で乾熱処理され収縮する。このときの繊維の収縮率は下記式(3)により求められる。
染色後収縮率(%)=((Ldo−Ld)/Ldo)×100 (3)
Ld :乾熱処理後の繊維の長さ
Ldo:染色後(乾熱処理前)の繊維の長さ
なお、テンター工程は乾熱130℃前後であるため、収縮率は均熱オーブンを用い130℃で5分間乾熱処理して測定する。
本発明のアクリル系収縮繊維の130℃、5分間の乾熱処理による収縮率は20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。収縮率が20%未満になると、パイル布帛に加工した時、非収縮原綿との段差が小さくなるため、段差が強調されず、天然調または、意匠性のある外観特性をもつパイル布帛が得られない。
本発明のアクリル系収縮繊維は、常法の湿式あるいは乾式の紡糸法でノズルより紡出し、延伸、乾燥を行う。また必要に応じさらに延伸、熱処理を行ってもよい。さらに、得られた繊維を70〜140℃で1.3〜4.0倍に延伸して収縮繊維を得ることができる。
本発明のアクリル系収縮繊維は、低温で染色可能であり、染色後においても高収縮率を有する。したがって、衣料、玩具(ぬいぐるみ等)およびインテリア用等の広範囲に色相のバリエーションに富んだ新たな商品企画を可能とするものである。
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は何等これらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」および「%」は特記しない限りそれぞれ重量部および重量%を意味する。
製造例1
内容積20Lの耐圧重合反応装置に、ジメチルホルムアミド(DMF)233部、アクリロニトリル(AN)90部、アクリル酸メチル(MA)9.5部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム(以下SAMと記す)0.5部を投入し、窒素置換した。重合機内温度を65℃に調整し、開始剤として2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(AIVN)0.5部を投入し重合を開始した。途中、AIVN1.0部を追加しながら2時間重合し、その後70℃に昇温して10時間重合させ、重合体(A)(AN/MA/SAM=90/9.5/0.5(重量比))の30%溶液を得た。
次に、内容積5Lの耐圧重合反応装置にDMF233部、AN40部、MA50部、SAM10部を投入し、窒素置換した。重合機内温度を65℃に調整し、開始剤としてAIVN0.5部を投入し重合を開始した。途中、AIVN1.0部を追加しながら2時間重合し、その後70℃に昇温して2時間重合させ重合体(B)(AN/MA/SAM=40/50/10)の濃度30%溶液を得た。
重合体の重量比が重合体(A):重合体(B)=90:10の比率になるように混合した溶液を紡糸原液とし、紡糸原液を0.08mmφ、8500孔の口金を通して20℃、50%のDMF水溶液中に吐出し、溶剤濃度の順次低下する5つの洗浄延伸浴を通して2.1倍に延伸した後70℃で水洗した。その後、得られた繊維に油剤を付与した後120℃の雰囲気下で乾燥させ、熱ローラーを用いて120℃の乾熱雰囲気下で1.7倍の延伸処理を行ない4.4dtexの延伸糸(収縮繊維)を得た。
製造例2〜18
表1に示す重合体(A)の組成、重合体(B)の組成、および両者の混合比の紡糸原液を製造例1と同様の方法により製造して紡糸を行ない、延伸糸を得た。
【表1】

[実施例1〜12および比較例1〜14]
2.5%omfのMalachite Green染浴200ccに対して、酢酸と酢酸ナトリウムをそれぞれ0.05g/L、0.02g/Lとなるように加え、pHを3〜4に調整した。製造例1〜18で得られた収縮繊維1gを、この染浴によりそれぞれ表2に記載の温度で60分間染色し、そのときの相対飽和値、染色後収縮率を測定した。結果を表2に示す。
【表2】

実施例1〜12では、いずれの繊維も充分な染色性能と染色後収縮率を示した。一方、比較例1〜14では、染色性と染色後収縮性の両方を満足するのは困難であった。なお、比較例7〜14では、重合体(A)におけるSAMまたはANの比率が変化しても傾向はほとんど変わらなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明のアクリル系収縮繊維は、低温で染色可能であり、染色後においても高収縮率を有する。したがって、衣料、玩具(ぬいぐるみ等)およびインテリア用等の広範囲に新たな商品企画を可能とするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル80〜97重量%、スルホン酸基含有モノマー0〜2重量%およびこれらと共重合可能なモノマー3〜20重量%からなる重合体(A)50〜99重量部、ならびにアクリロニトリル0〜89重量%、スルホン酸基含有モノマー1〜40重量%およびこれらと共重合可能なモノマー10〜99重量%からなる重合体(B)1〜50重量部からなり、該重合体(A)と該重合体(B)の合計量が100重量部である染色可能なアクリル系収縮繊維。
【請求項2】
重合体(A)および重合体(B)におけるスルホン酸基含有モノマーの合計含有量が、重合体(A)および重合体(B)のモノマー合計量の0.1〜10重量%である請求項1記載のアクリル系収縮繊維。
【請求項3】
アクリロニトリル80〜97重量%を含む重合体からなり、80℃未満の染色における相対飽和値が0.2以上であるアクリル系収縮繊維。
【請求項4】
80℃未満で染色後、130℃、5分間の乾熱処理による収縮率が20%以上である請求項1、2または3記載のアクリル系収縮繊維。

【国際公開番号】WO2005/064051
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516730(P2005−516730)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019769
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】