説明

アクリロニトリルの製造方法

【課題】プロピレンおよび/またはプロパンのアンモ酸化法によるアクリルニトリルの製造において反応後の合成ガス中の未反応アンモニアを低コストで効率よく分解除去する。
【解決手段】アクリロニトリル合成反応器より出た合成ガスをルテニウムを含む触媒と200〜550℃に於いて接触処理する。
【効果】反応ガス中のアクリロニトリル等の有価物の損失が極めて少なく、また、処理廃棄物の発生も殆ど無く、容易に未反応アンモニアを除くことが出来て、アクリロニトリルの収率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はアクリロニトリルの製造方法に関する、さらに詳しくはプロピレンまたはプロパンのアンモ酸化法によるアクリロニトリルの製造において、アクリロニトリル合成反応により得られた反応ガスを再度触媒と接触させることにより、反応ガス中の未反応アンモニアを低減する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】プロピレン、アンモニア及び空気を触媒の存在下で反応せしめアクリロニトリルを合成する方法はよく知られている(K.Weissermel,H.J.Arpe著、向山光昭監訳“工業有機化学−主要原料と中間体”東京化学同人発行 P-290,291(1978))。反応器の形式は固定床型を採用しているものもあるが、一般的には流動床型反応器を用いて原料ガスで触媒を流動させつつ反応を行っている。
【0003】反応条件は反応器の構造、使用する触媒によって多少異なるが、通常原料プロピレンに対するアンモニアのモル比は1.05〜1.25と若干アンモニア過剰である。これは反応に際し十分なアンモニアが存在しないと副生物のアクロレインの量が増加し、アクリロニトリルの製品品質を低下させるためである。またプロピレンに対する酸素も量論比に対して数十%過剰である。反応温度は400〜500℃の範囲で行われる。かかる条件下で一般的に原料プロピレンの転化率は98%以上に達する。通常反応器出口ガス中の成分は、主反応生成物であるアクリロニトリルや水分、また酸化ガスとして用いられた空気中の窒素やアルゴンの他、副反応生成物である青酸、アセトニトリル、アクリル酸、酢酸、アクロレインや炭酸ガス、一酸化炭素、未反応分のプロピレンまたはアンモニア、酸素その他プロパンなどを含有する。
【0004】また近年、プロピレンの代わりに、より安価なプロパンを使用したアクリロニトリルの製造方法の開発も行われている(特開平5−279313等)。プロピレンを用いる方法およびプロパンを用いる方法のどちらの方法においても、原料のアンモニアはプロピレンまたはプロパンに対して過剰に供給されるため、反応器出口ガス中には酸素の残分と共に未反応アンモニアが若干残存することになり、通常反応器出口ガス1Nm3 あたり1〜10g程度のアンモニアが残存している。
【0005】反応ガスからアクリロニトリル、青酸を回収精製するにあたって、アンモニアを未処理のままで水洗、水吸収、蒸留を行った場合、アクリロニトリル、青酸は重合、加水分解反応によって著しい回収率の低下を招き、且つこれら重合物、加水分解物の混入により製品品質は悪化する。またさらには、重合物が付着、蓄積することにより塔、熱交換器などの閉塞を来たし、安定操業を行うことは困難となる。このため、反応ガスから効率よくアクリロニトリル、青酸を回収し安定操業を行うために、未反応アンモニアを除去する工程が設けられている。
【0006】例えば、特公昭44−15645においては、反応ガスを水洗し、重合物などの高沸点化合物を除去した後、硫酸と接触させることによって未反応アンモニアを反応ガスから分離し、生成する硫安を回収することが提案されている。また、その改良特許がスタンダードオイル社より特開昭52−65219として提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の硫酸によりアンモニアを除去する方法では、反応ガス中のアクリロニトリルが副生した青酸、アセトニトリルおよび炭素数2および3のアルデヒド類等と反応することにより、生成したアクリロニトリルの数%が損失される。これは、洗浄工程において水洗により重合物を除去する際に、未反応アンモニアの一部が洗浄水に吸収され、洗浄水がアルカリ性になることにより反応が促進されると考えられる。
【0008】この他、反応ガス中のアンモニアを中和除去する硫酸のコストがかかり、また、中和反応により生成した大量の硫安を未処理のまま排出することは環境汚染の問題を引き起こす可能性があり、これを防止するための費用はアクリロニトリルの製造コストを大幅に増加させる。
【0009】また、本発明のようなアクリロニトリル合成ガス中の未反応アンモニアを分解する有効な触媒は知られていなく、MnO−TiO2 系、V2 5 −TiO2 系、Rh−Al2 3 系、NiO系等の公知のアンモニア分解触媒を使用した場合にはアンモニアの分解よりもアクリロニトリルの燃焼が優先的に生じるため、実用に耐えられなかった。
【0010】本発明の目的は、従来の技術に対しアクリロニトリルの損失が少なく、アンモニア除去に要する費用が少ないアクリロニトリルの製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アクリロニトリル合成反応器より出た反応ガスを、ルテニウムを含む触媒と接触させることにより、アクリロニトリル合成反応器において生成したアクリロニトリル等の有価物をほとんど損なうことなく、反応ガス中の未反応アンモニアを分解し低減できることを見いだし本発明を完成した。
【0012】すなわち、本発明のアクリロニトリルの製造方法は触媒の存在下プロピレンおよび/またはプロパン、アンモニア及び酸素を反応させアクリロニトリルを製造する方法において、アクリロニトリル合成反応により生成した反応ガスをルテニウムを含む触媒と接触させ、反応ガス中の未反応アンモニアを低減させることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明のアクリロニトリル合成反応は、多元Mo−Bi系、Fe−Sb系等の公知のアクリロニトリル合成用触媒を使用することができる。反応器の形式には特に制限はないが、反応温度が均一化され除熱が容易な流動床反応器を用いることが好ましい。
【0014】アクリロニトリル合成に関する反応条件、すなわち反応温度、空気/プロピレンモル比、アンモニア/プロピレンモル比等には特に制限はなく、アクリロニトリルの収率を最大にする諸条件を選択すればよい。しかしながら、アンモニアの分解には酸素を必要とするので、アクリロニトリル合成反応器出口において、アンモニアを分解するために十分な酸素が存在するように、アクリロニトリル合成反応器に供給する空気の量を調整することが好ましい。この条件がアクリロニトリルの合成に好ましくない場合は、アクリロニトリル合成反応器出口とアンモニア分解反応器入り口との間で、酸素または酸素含有ガスを供給することも可能である。
【0015】本発明の方法でアンモニア低減用のアンモニア分解反応器に用いられる触媒は、ルテニウムを含む触媒であり、ルテニウムを担体に担持して使用することが好ましい。担体成分にはとくに制限はないが、チタニア(TiO2 )、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO2 )、セリア(CeO2 )、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(Al2 3 )等を用いることができる。またこれらの成分を2種類以上組み合わせたものを使用することも可能である。さらに担体の他にアンモニア分解活性を向上させたり、アクリロニトリルの燃焼を抑制するための成分を添加することも可能である。触媒中のルテニウム含量は0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0016】アンモニア分解用のアンモニア分解反応器には流動床及び固定床のどちらを用いても未反応アンモニアを低減することは可能だが、アクリロニトリル合成反応は圧力が高いほどアクリロニトリルの選択率が低くなるため、アンモニア分解反応器には圧力損失が比較的小さい固定床反応器を用いることが好ましい。さらに好ましくは、触媒をハニカム型担体に担持したり、触媒をハニカム型に成形したものを用いて、アンモニア分解反応器での圧力損失を極力小さくする。
【0017】アンモニア分解反応器におけるアンモニア分解のための反応温度は目的とするアンモニア分解率と許容されるアクリロニトリル燃焼率とにより異なるが、200〜550℃、好ましくは220〜500℃、さらに好ましくは230〜450℃である。アクリロニトリル合成ガスの温度が200℃以上であれば、アクリロニトリル合成用のアクリロニトリル合成反応器からアンモニア分解用のアンモニア分解反応器に至る間での高沸物の析出トラブルを防止することが出来る。また、アンモニア分解反応における温度が550℃以下であれば、アクリロニトリル合成反応ガスをアンモニア分解反応器に供給する前の加熱はほとんど必要ないので、経済的に有利である。さらに、550℃以下であればアクリロニトリル等の有価物の分解量も比較的少なくて済む。このような温度に調節するためにアクリロニトリル合成反応器とアンモニア分解反応器との間に熱交換器を設置することも可能である。
【0018】このような条件の下で、アンモニアの分解率は約60%に達し、またアクリロニトリルの分解率は3%以下に抑えることができる。アンモニアの分解により生成する物質は主に窒素と水であり、その量は全ガス量の10分の1以下である。アンモニアを処理する前の反応ガス中には、もともと窒素が約60vol%、水が約10〜30vol%程度含まれているので、アンモニアの酸化により生成する窒素と水は精製工程には全く影響を及ぼさない。以上のように、本発明の方法によれば、アクリロニトリル合成ガス中のアクリロニトリルをほとんど損失せずにアンモニア成分を低減することができ、中和用硫酸よび廃水処理費を削減することができる。
【0019】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0020】実施例1以下の手順によりRu/TiO2 触媒を調製した。ドデカカルボニルトリルテニウム1.9gをテトラヒドロフラン(THF)200gに完全に溶解し、TiO2 粉末30gを添加した。そのまま約4時間撹拌を続けた後、THFを完全に留去した。得られた粉末を圧縮成形した後粉砕し、7〜12メッシュに篩い分けし、真空下400℃まで加熱した。このようにして得た触媒を反応管に充填し、アクリロニトリル5.8vol%、アンモニア1.0vol%、酸素1.1vol%、青酸0.8vol%、プロピレン0.02%、その他窒素、水蒸気等からなるアクリロニトリル合成ガスと反応温度320℃、SV=5000h-1で接触させた。この状態を4時間継続した後、反応管出口のガスを分析した。この時のアンモニア分解率及びアクリロニトリル損失率を表1に示す。なお、アンモニア分解率およびアクリロニトリル損失率は以下の式により求めた。
【0021】


【0022】


【0023】実施例2〜5担体成分としてTiO2 の代わりにそれぞれMgO、SiO2 、ZrO2 、CeO2 を用いたほかは実施例1と同様にして触媒を調製した。これらの触媒について反応温度を表1に示す温度とした他は実施例1と同様にして触媒をテストした。この結果を表1に示す。
【0024】実施例6ルテニウム源としてルテニウム(III) アセチルアセトナートを使用した他は実施例1と同様にしてRu/TiO2 触媒を調製した。この触媒をテストしたところ実施例1のものとほぼ同様の結果だった。
【0025】比較例1〜4表2に示す市販の触媒を用いて実施例1と同様にして触媒をテストした。結果を表2に示す。いずれの触媒もアンモニアはほとんど分解しないのにも関わらず、アクリロニトリルの損失は大きいことがわかる。
【0026】
【表1】


【0027】
【表2】


【0028】
【発明の効果】本発明によれば、従来の方法に比べアクリロニトリル合成反応ガス中のアクリロニトリルの損失を極めて軽微におさえて、未反応アンモニアの分解除去を効率よく行い、廃棄物の少ないアクリロニトリルの製造方法を提供することができ、産業上極めて有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】触媒の存在下プロピレンおよび/またはプロパン、アンモニア及び酸素を反応させアクリロニトリルを製造する方法において、アクリロニトリル合成反応により生成した反応ガスをルテニウムを含む触媒と接触させ、反応ガス中の未反応アンモニアを低減させることを特徴とするアクリロニトリルの製造方法。
【請求項2】ルテニウムを含む触媒がチタニア(TiO2 )、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO2 )、セリア(CeO2 )、ジルコニア(ZrO2 )およびアルミナ(Al2 3 )の中から選ばれる少なくとも一種類の成分を含み、ルテニウム含量が0.01〜20重量%である請求項1記載の方法。
【請求項3】反応ガスをルテニウムを含む触媒と接触させる温度が200〜550℃である請求項1記載の方法。