説明

アスファルトの製造方法及び製造装置

【課題】本発明は、Butonアスファルト岩などのアスファルト鉱石から、高濃度の硫酸などを用いることなく、比較的低温の条件で、精製アスファルトを簡便に効率よく製造する方法及び装置を提供することを課題としている。
【解決手段】本発明のアスファルトの製造方法は、アスファルト鉱石から精製アスファルトを製造する方法であって、(I)アスファルト鉱石からなる固体原料、有機溶媒、およ
び水性溶媒からなる攪拌混合物を得る工程、(II)攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させ、有機溶媒層を分取する工程、および、(III)有機溶媒層中のアスファルトを回収する工程を有し、工程(I)において用いる有機溶媒の温度が80℃以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト鉱石から精製アスファルトを製造するアスファルトの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト鉱石は、天然アスファルトを含有するアスファルト含有鉱物であり、アスファルト鉱石からの精製アスファルトの製造では、固形分含有量の少ない高純度のアスファルトを効率的に回収することが求められる。
【0003】
オイルシェールやタールサンドなどからアスファルト分を回収する方法としては、有機溶剤での抽出や、熱水による抽出、高温蒸気噴射による抽出などが知られているが、これらの方法では、たとえばButonアスファルト岩(インドネシアのブトン島で産出する天然アスファルト)やトリニダードアスファルト岩などの、多孔質の孔内にアスファルト分が含まれたアスファルト鉱石を原料とする場合には、十分な抽出ができないという問題があった。
【0004】
Butonアスファルト岩からアスファルトを精製する方法として、特許文献1には、Butonアスファルト岩の基質である炭酸カルシウム分を、硫酸で溶解して、細孔内部に存在するアスファルト分までを抽出することが提案されている。この方法によれば、回収が困難であったButonアスファルト岩の細孔内部のアスファルト分を露出させ、高い収率で回収できることが予測される。しかしながらこの方法では、高濃度の硫酸を多量に使用する必要があること、残留物の処理に中和が必要なこと、高濃度硫酸、油分、および高温条件のいずれにも高度な耐性を有する設備が必要であることなどの問題がある。
【0005】
また、硫酸などを用いずにアスファルト含有鉱物からアスファルトを抽出する方法としては、引火や爆発を防止する特定構成の抽出装置を用いて、アスファルト含有鉱物と灯油などの揮発性有機溶剤とを高温で攪拌接触させることが特許文献2に提案されている。特許文献2によれば、たとえば110℃〜120℃などの高温の揮発性有機溶剤に投入すると容易にスラリー化できることが教示されている。また、得られたスラリーは、密閉式のロータリースクリーンで固液分離し、抽出されない不純物である固形残渣分が取り除かれることが記載されている。
【0006】
しかしながら、この方法では、高温の揮発性有機溶剤を用いるため、引火、爆発などの防止対策に細心の注意を払う必要があるほか、加熱によるエネルギー消費が大きいという問題がある。また固形残渣分は、有機溶剤を含むスラリーからロータリースクリーンによりろ過分離されるものであるため、固形残渣分中の有機溶剤残留が多く引火性が高い場合がある。
【0007】
このため、高濃度の硫酸などを用いることなく、比較的低温の条件で、Butonアスファルト岩などのアスファルト鉱石からアスファルトを製造する技術の出現が求められていた。
【特許文献1】特開平9−169979号公報
【特許文献2】特開2000−210502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、Butonアスファルト岩などのアスファルト鉱石から、高濃度の硫酸など
を用いることなく、比較的低温の条件で、精製アスファルトを簡便に効率よく製造する方法及び装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアスファルトの製造方法は、アスファルト鉱石から精製アスファルトを製造する方法であって、
(I)アスファルト鉱石からなる固体原料、有機溶媒、および水性溶媒からなる攪拌混合
物を得る工程、
(II)攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させ、有機溶媒層を分取する工程、および
(III)有機溶媒層中のアスファルトを回収する工程
を有し、工程(I)において用いる有機溶媒の温度が80℃以下であることを特徴として
いる。
【0010】
このような本発明のアスファルトの製造方法では、前記攪拌混合物を得る工程(I)が
、アスファルト鉱石からなる固体原料と有機溶媒とを攪拌混合し、さらに水性溶媒を添加して攪拌混合する工程であることが好ましい、
本発明のアスファルトの製造方法では、有機溶媒が、炭素数が8〜25の炭化水素を80質量%以上含有する炭化水素溶媒であることが好ましく、また、有機溶媒が、沸点が140℃以上400℃以下の炭化水素を80質量%以上含有する炭化水素溶媒であることも好ましい。
【0011】
本発明のアスファルトの製造方法では、工程(I)において、混合する有機溶媒の温度
が、当該有機溶媒の引火点以下の温度であることが好ましい。
本発明のアスファルトの製造方法では、水性溶媒が水であることが好ましい。
【0012】
本発明のアスファルトの製造方法では、工程(II)において、有機溶媒層、水性溶媒層および固形分層の分離を、静置、ろ過、遠心分離のいずれか1つ以上の方法により行うことが好ましい。
【0013】
本発明のアスファルトの製造方法では、工程(II)で分離した水性溶媒層から得られた水性溶媒の少なくとも一部を、工程(I)に導入することが好ましい。
本発明のアスファルトの製造方法では、工程(II)で分離した固形分層を、80〜260℃に加熱することにより、固形分層中に含まれる有機溶媒を回収することが好ましい。
【0014】
本発明のアスファルトの製造方法では、工程(II)で分離した固形分層から、蒸発により有機溶媒を分離し、得られた有機溶媒の少なくとも一部を工程(I)および/または工
程(III)に導入することが好ましい。
【0015】
本発明のアスファルトの製造方法では、工程(III)におけるアスファルトの回収を、
蒸留により有機溶媒を分離して行うことが好ましく、工程(III)で分離した有機溶媒の
少なくとも一部を、工程(I)に導入することがより好ましい。
【0016】
本発明のアスファルトの製造方法では、アスファルト鉱石が、炭酸カルシウムを30質量%以上含有することが好ましい。
本発明のアスファルトの製造装置は、アスファルト鉱石からアスファルトを製造するための装置であって、
(A)アスファルト鉱石からなる固体原料と、有機溶媒と、水性溶媒とからなる攪拌混合物を得る手段、
(B)攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分
層とに分離させ、有機溶媒層を分取する手段、および
(C)有機溶媒層中のアスファルトを回収する手段
を有することを特徴としている。
【0017】
このような本発明のアスファルトの製造装置では、手段(B)から得られた固形分層中の有機溶媒を回収する手段と、回収された有機溶媒の少なくとも一部を手段(A)および/または(C)に導入する手段とをさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アスファルト鉱石から、固形分含有量の少ない高純度の精製アスファルトを、簡便に効率よく製造できるとともに、安全性にも優れたアスファルトの製造方法及び装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明のアスファルトの製造方法は、(I)アスファルト鉱石からなる固体原料、有機
溶媒、および水性溶媒からなる攪拌混合物を得る工程、(II)攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させ、有機溶媒層を分取する工程、および(III)有機溶媒層中のアスファルトを回収する工程を有する。
【0020】
工程(I)
本発明のアスファルトの製造方法における工程(I)は、アスファルト鉱石からなる固
体原料、有機溶媒、および水性溶媒からなる攪拌混合物を得る工程である。
【0021】
工程(I)に供する固体原料は、アスファルト鉱石から得られる。アスファルト鉱石と
しては、アスファルト分を含有する鉱物を制限なく用いることができ、特に限定されるものではないが、多孔質基質の孔中にアスファルトが含まれるアスファルト鉱石など、従来効率的なアスファルト精製が困難であったアスファルト鉱石も好適に用いることができ、たとえば、炭酸カルシウムを30質量%以上、さらには40〜70質量%程度含有するアスファルト鉱石であっても好適に用いることができる。本発明で用いるアスファルト鉱石の好ましいアスファルト含有量は10重量%以上、好ましくは15〜30質量%程度である。
【0022】
このようなアスファルト鉱石としては、具体的には、たとえば、Butonアスファルト岩、トリニダードアスファルト岩などが挙げられ、Butonアスファルト岩(以下、アスブトンともいう)が好ましく用いられる。
【0023】
工程(I)に供する固体原料は、採掘したアスファルト鉱石そのままであってもよく、
粉砕などの前処理を行ったものであってもよい。前処理としては、粉砕、洗浄などが挙げられ、これらを組み合わせて行ってもよい。
【0024】
本発明では固体原料として、粉砕処理(裁断処理)を行ったアスファルト鉱石を用いるのが好ましい。アスファルト鉱石の粉砕処理は、アスファルト鉱石をそのまま粉砕する処理であってもよく、有機溶媒あるいは水性溶媒の存在下に粉砕する処理であってもよい。粉砕処理の程度は特に限定されるものではないが、たとえば、平均粒径が100mm以下、好ましくは20〜70mm、より好ましくは30〜60mmとなる程度まで粉砕することが望ましい。粉砕処理を行ったアスファルト鉱石を固体原料として用いた場合には、攪拌混合物が効率的に得られるほか、特に炭酸カルシウムを含むアスファルト鉱石などの多孔質基質を含むアスファルト鉱石を原料とした場合には、粉砕により表面積が増加し、多孔質基質の細孔内に存在するアスファルト分までもが抽出されやすくなるため好ましい。
【0025】
工程(I)で用いる有機溶媒としては、アスファルト分を溶解し得る有機溶媒が特に制
限なく用いられるが、操作性、安全性などの見地から、炭化水素溶媒であることが好ましい。炭化水素溶媒としては、炭素数が8〜25の炭化水素を含有する溶媒が好ましく、炭素数が8〜25の炭化水素を70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有する炭化水素溶媒が望ましい。また、炭化水素溶媒としては、沸点が140℃以上400℃以下の炭化水素を70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上含有する炭化水素溶媒が望ましい。
【0026】
本発明で好適に用いられる有機溶媒としては、具体的には、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、灯油、軽油などの石油系溶媒が好適に用いられ、特に、灯油、軽油などの石油系溶媒が好適に用いられる。
【0027】
また、工程(I)では、有機溶媒の一部あるいは全部として、後述する工程(II)ある
いは(III)で分離された有機溶媒分を用いてもよい。工程(II)あるいは(III)で分離された有機溶媒分は、当初工程(I)で添加された有機溶媒分が回収されたものであって
もよく、また、アスファルト鉱石中に含まれる成分であってもよい。
【0028】
工程(I)で用いる水性溶媒としては、水を主成分とする溶媒、すなわち水または水溶
液を特に制限なく用いることができるが、水であることが好ましい。工程(I)では、水
性溶媒の一部あるいは全部として、後述する工程(II)で分離された水性溶媒分を用いてもよい。
【0029】
工程(I)では、上述のようなアスファルト鉱石からなる固体原料に、有機溶媒と、水
性溶媒とを同時に添加して攪拌混合物を得てもよく、また、逐次的に添加して攪拌混合物を得てもよい。溶解・攪拌混合は、1段階で行っても多段階で行ってもよい。また、溶解・攪拌混合装置は、1基のみであってもよく、溶解装置と攪拌混合装置を分けて2基以上直列あるいは並列させてもよい。
【0030】
固体原料に、有機溶媒と水性溶媒とを逐次的に添加する場合、固体原料と有機溶媒とを攪拌混合し、さらに水性溶媒を添加して攪拌混合することが好ましい。この場合、固体原料と有機溶媒とを攪拌混合して固体原料中のアスファルト分を十分に有機溶媒中に溶出させ、スラリー状の攪拌混合物とした後、さらに水性溶媒を添加して攪拌混合し、攪拌混合物とするのが好ましい。また、たとえばアスファルト鉱石を水の存在下で粉砕する前処理により固体原料を調製した場合など、固体原料と水性溶媒との混合物中に有機溶媒を添加して攪拌混合し、攪拌混合物を得ることもできる。
【0031】
攪拌混合物を調製する際に添加する有機溶媒の温度は、80℃以下、好ましくは常温〜60℃程度である。また、添加する有機溶媒の温度は、用いる有機溶媒の引火点以下の温度であることも好ましい。従来アスファルトを有機溶媒に溶解させるには高温の有機溶媒を用いることが常識とされていたが、本発明の方法ではこのような有機溶媒の添加をこのような低温条件で行っても、固体原料中のアスファルト分が有機溶媒中に十分に溶解する。特に、アスファルト鉱石を粉砕してなる固体原料を用い、攪拌混合を十分に行った場合には、高収率でアスファルト分を回収することができ好ましい。本発明では、アスファルト分を溶解させる際の有機溶媒の温度が低いことにより、引火や爆発などの危険を高度に抑制し、有機溶剤の揮発を抑え、熱エネルギー使用量が少なく経済的な方法で、固体原料中のアスファルト分を高い安全性で十分に溶解することができる。
【0032】
攪拌混合物を調製する際に添加する水性溶媒の温度は、特に限定されるものではなく、添加時の有機溶媒の温度より高くても低くてもよいが、80℃以下であることが好ましく
、有機溶媒の温度と同等であることがより好ましい。
【0033】
本発明では、工程(I)で得られる攪拌混合物が、略均質なスラリー状であるのが望ま
しい。工程(I)において用いられる有機溶媒および水性溶媒の量は、特に限定されるも
のではないが、たとえば、固体原料100質量部に対して、有機溶媒が30〜200質量部、好ましくは50〜150質量部程度、水性溶媒が30〜200質量部、好ましくは50〜150質量部程度であると、アスファルト分の溶解がスムーズで、好適(II)における分離操作が容易であるため好ましい。
【0034】
工程(I)は、アスファルト鉱石からなる固体原料と、有機溶媒と、水性溶媒とからな
る攪拌混合物を得る手段(A)において行われることが好ましい。手段(A)としては、固体原料と、有機溶媒と、水性溶媒とを攪拌混合し得る手段であればよく、その構成は特に限定されるものではないが、攪拌あるいは振盪手段を備えた溶解・攪拌混合装置が好適に用いられる。溶解・攪拌混合装置は、1基のみであってもよく、溶解装置と攪拌混合装置を分けて2基以上直列あるいは並列させてもよい。
【0035】
本発明に係るアスファルトの製造装置では、手段(A)の上流に、アスファルト鉱石を粉砕する手段などの前処理手段を有していることも好ましい。
工程(II)
本発明のアスファルトの製造方法における工程(II)は、前記工程(I)で得た攪拌混
合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させ、有機溶媒層を分取する工程である。
【0036】
工程(II)において、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層との分離は、どのような方法で行ってもよいが、たとえば、静置、ろ過、遠心分離の方法を単独で、あるいはこれらの2つ以上の方法を組み合わせて行うことができ、好ましくは、工程(II)におけるアスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層との分離を、静置あるいは遠心分離を含む方法で行うことが望ましい。具体的には、前記工程(I)で得た攪拌混合物をそのまま静置あるいは遠心分離して、アスファルト
分を含有する有機溶媒層、水性溶媒層および固形分層の3層に分離させる方法、前記工程(I)で得た攪拌混合物をろ過して固形分層を除去し、次いでアスファルト分を含有する
有機溶媒層と水性溶媒層とを静置あるいは遠心分離で分離する方法などが挙げられる。
【0037】
静置あるいは遠心分離では、通常、水性溶媒層の上方にアスファルト分を含有する有機溶媒層が形成される。アスファルト鉱石が灯油、軽油などの成分を含有する場合には、通常これらの成分の少なくとも一部も有機溶媒層中に含まれる。
【0038】
本発明の工程(II)では、攪拌混合物が水性溶媒を含有することにより、アスファルト分を含有する有機溶媒と、固形分とを、水性溶媒層を介して明確に分離することができ、有機溶媒層への固形分の混入を高度に抑制することができる。
【0039】
本発明では、分離した有機溶媒層を分取して、工程(III)に供する。有機溶媒層以外
の成分、すなわち水性溶媒層および固形分層は、それぞれ別個に分取してもよく、水性溶媒分と固形分とが混合されたスラリー状で分取し、必要に応じて静置、ろ過、遠心分離などの方法で両者を分離して、それぞれを回収してもよい。
【0040】
このような工程(II)は、攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させ、有機溶媒層を分取する手段(B)により行われるのが好ましい。手段(B)は、前記手段(A)と一体化していてもよく、別個に設けられていてもよい。手段(A)と手段(B)とが一体化している場合とは、たとえば、手段(
A)である攪拌混合槽中で各成分の攪拌混合を行って攪拌混合物を製造した後、攪拌を停止して静置し、攪拌混合物を該混合層中で有機溶媒層、水性溶媒層および固形分層に分離させ、混合槽に設けられた抜き出し口より有機溶媒層を分取するような場合を意味する。
【0041】
しかしながら、アスファルトの製造を連続的に行う場合には、手段(B)と前記手段(A)とは別個に設けられていることが好ましい。手段(B)のうち、攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させる部位は、静置手段、ろ過手段、遠心分離手段のいずれか一つ、またはこれらの2個以上を組み合わせた構成であることが望ましい。これらのうちでは、特に静置手段が好ましい。アスファルト分を含有する有機溶媒層を分取する部位としては、静置手段あるいは遠心分離手段に設けられた抜き出し口などが挙げられる。
【0042】
上述のように、工程(II)では、分離した固形分層および水性溶媒層をそれぞれ回収してもよい。分離・回収した水性溶媒層は、必要に応じてろ過などによる不純物の分離を行った後、工程(I)に導入する水性溶媒として用いることができる。また、水性溶媒層中
に有機溶媒が多く混入している場合には、水性溶媒層中の有機溶媒を静置、ろ過などの方法により分離し、必要に応じて適宜精製して用いることができる。たとえば、図2に任意の工程として記載のように、水性溶媒層中から分離回収した有機溶媒を、工程(III)の
アスファルト回収のための蒸留装置等に導入して、アスファルト分を溶解し
ていた有機溶媒とともに回収し、工程(I)で添加する有機溶媒として用いることもで
きる。
【0043】
分離・回収した固形分層は、水性溶媒層を介して有機溶媒層と分離されるため、有機溶媒の含有量が水性溶媒を用いない場合と比較して著しく低減されている。このため本発明では、回収した固形分層を後処理することなくそのまま廃棄することも可能である。
【0044】
また、固形分層からは、含有される有機溶媒を分離し、回収することも好ましい。固形分層からの有機溶媒の回収は、蒸発により行うことができ、具体的には、固形分層を加熱して、固形分層中に含まれる油分および水分を蒸発させて回収し、適宜分離して行うことができる。
【0045】
本発明では、固形分層中に含まれる有機溶媒を、好ましくは80〜260℃、より好ましくは80〜120℃に加熱することにより、固形分層中の有機溶媒を留出させることができる。アスファルト鉱石がアスブトンである場合、固形分層中には、通常、アスブトン由来の炭酸カルシウム、水分およびアスファルト分を含有する油分と、残留した有機溶媒および水性溶媒が含まれる。このような固形分層を加熱処理して有機溶媒を回収する場合、有機溶媒の沸点以上の温度に加熱して有機溶媒を留出させてもよいが、有機溶媒の沸点未満の温度での加熱でも、有意量の有機溶媒を回収することができる。さらに本発明では、アスブトン鉱石を原料に用いた場合には、たとえば、固形分層を80〜140℃などの、有機溶媒の沸点以下の温度で加熱した場合にも、固形分層中の有機溶媒のうちの50質量%以上の量が留出する場合が多く、少ない熱エネルギーで効率的に有機溶媒を回収することができる。これは、アスブトン鉱石を用いた場合の固形分層中において、炭酸カルシウム表面に水分が付着し、その上に油分が付着した状態を取りやすいことにより、沸点の高い有機溶媒が、水分が沸騰あるいは揮発する程度の加熱で同伴されて留出することによると考えられる。
【0046】
本発明では、水性溶媒層あるいは固形分層からの、有機溶媒あるいは水性溶媒の回収は、常圧で行ってもよく、また、減圧下で行ってもよい。減圧下で加熱処理して、有機溶媒あるいは水性溶媒を回収する場合には、加熱処理の温度条件は、上述した温度範囲よりさらに低いものであってもよい。
【0047】
固形分層に含まれる有機溶媒を回収した場合には、その一部または全部を、工程(I)
で用いる有機溶媒として、工程(I)に直接導入するか、または、工程(III)のアス
ファルト回収装置に導入し、アスファルト分を溶解していた有機溶媒とともに回収した後、工程(I)に導入して使用することができる。
【0048】
上述のように必要に応じて有機溶媒等を回収した固形分層は、そのまま廃棄してもよく、また、必要に応じて焼成、洗浄などの処理を行って、中和剤やセメントの原料などの用途に用いることもできる。
【0049】
工程(III)
本発明のアスファルトの製造方法における工程(III)は、有機溶媒層中のアスファル
トを回収する工程である。
【0050】
有機溶媒層中には、工程(I)で用いた有機溶媒と、固体原料から有機溶媒に溶出した
アスファルト分を含む油分が含まれている。本発明の方法では、工程(III)におけるア
スファルトの工程に先立ち、有機溶媒層のろ過などを行ってもよいが、工程(II)で有機溶媒層と固形分層とが水性溶媒層を介して分離されるため、有機溶媒層中への固形分の混入が極めて少なく、有機溶媒層の各成分をそのまま蒸留分離することによりアスファルトを回収することができる。具体的には、工程(II)で分取した有機溶媒層を蒸留し、有機溶媒を留出させて分離し、非留出分(残油)としてアスファルトを回収する方法が挙げられる。ここで、蒸留は常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。分離した有機溶媒は、その一部または全部を工程(I)に導入して用いることができる。蒸留温度等の蒸留
条件は、アスファルト分を分離できる条件を適宜選択して採用することができる。
【0051】
アスファルト鉱石が、軽油留分などのアスファルト分以外の軽質の油分を含有する場合には、工程(I)で用いた有機溶媒とともに留出させて回収することができる。回収した
アスファルト鉱石由来の軽質の油分は、適宜分離して軽質油製品としてもよく、工程(I
)で用いる有機溶媒として、その一部または全部を工程(I)に導入してもよい。
【0052】
このような工程(III)は、有機溶媒層中のアスファルトを回収する手段(C)により
行われることが好ましい。手段(C)は、有機溶媒層からアスファルトを回収し得る手段であれば特に限定されるものではないが、蒸留装置であることが好ましい。蒸留装置は、常圧蒸留装置であってもよく、減圧蒸留装置であってもよい。蒸留装置は、非留出分であるアスファルト分を抜き出す手段と、留出分である有機溶媒等を抜き出す手段を有していればよいが、留出分の各成分を蒸留段階で分離する多段構造を有していてもよい。また、抜き出した有機溶媒を、工程(I)に導入する手段を有していることも好ましい。
【0053】
このような本発明のアスファルトの製造方法及び装置は、特に限定されるものではないが、たとえば、図1あるいは図2に示すフロー図に表わされる態様とすることができる。なお、これらのフロー図中において、破線で表わされるラインは任意に設けられるものである。
【0054】
アスファルト鉱石からなる固体原料は、ライン(1)通じて、攪拌混合物を得る手段(A)である溶解・攪拌混合装置中に導入され、通常、ライン(2)を通じて手段(A)に導入される有機溶媒と手段(A)中で攪拌混合され、次いで、ライン(3)を通じて手段(A)に導入される水などの水性溶媒とさらに攪拌混合され、攪拌混合物となる。ここで、有機溶媒と水性溶媒とは、逐次導入されてもよく同時に導入されてもよい。
【0055】
手段(A)から得られた攪拌混合物は、ライン(4)を通じて、手段(B)である分離
装置に導入される。分離装置(B)では、静置、ろ過、遠心分離の1つ以上の方法により、有機溶媒層、水性溶媒層、固形分層の3層に分離される。この有機溶媒層は、固体原料中のアスファルト分を含有するものであって、分離装置(B)からライン(5)を通じて分取され、ライン(6)を通じてアスファルトを回収する手段(C)である蒸留装置に導入される。蒸留装置(C)は、常圧蒸留装置であっても減圧蒸留装置であってもよいが、アスファルト分と、有機溶媒を含む軽質分とを分離できる条件で運転され、ライン(8)を通じてアスファルト製品が得られ、またライン(7)を通じて有機溶媒が回収される。ライン(7)を通じて回収された有機溶媒は、必要に応じてその一部または全部を、ライン(9)を通じて溶解・攪拌混合装置(A)中にリサイクル導入してもよく、また、適宜精製して有機溶媒製品としてもよい。
【0056】
分離装置(B)から有機溶媒層を分取した残余である水性溶媒層および固形分層は、分離装置(B)からそれぞれ分取しても一括して抜きだしてもよく、たとえばライン(10)から一括してスラリー状で抜き出すことができる。水性溶媒層と固形分層とを含むスラリーは、ライン(11)を通じて分離装置に導入される。この分離装置は、静置、ろ過、遠心分離のいずれかの手段を備えていることが好ましく、ここでスラリーを固形分と水性溶媒を主に含む液体成分とに分離する。分離された液体成分である水性溶媒は、ライン(13)から抜き出され、必要に応じて成分分離の後、有機溶媒を含んでいる場合にはこれを分取してもよく、また、ライン(14)を通じて溶解・攪拌混合装置(A)中にリサイクル導入してもよい。分離装置で得られた固形分は、ライン(12)を通じて抜き出され、そのままあるいは適宜焼成などの処理を施して廃棄してもよく、また、中和剤やセメントの原料としてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
アスブトン鉱石を裁断して、平均粒径30mmの粉砕アスブトンを得た。分析により確認したアスブトン鉱石中のアスファルト分は20質量%であった。これを固体原料とした。
【0058】
500mlのビーカー中において、100gの固体原料に、45℃の灯油100gを添加し、4枚羽を有する攪拌子を100rpmにて回転させて16分間攪拌して溶解させ、アスブトンの油分を灯油に抽出した。ここで用いた灯油は、引火点45℃であり、沸点が140〜250℃の成分を95質量%含有しており、また、炭素数8〜15の炭化水素を95質量%含有していた。
【0059】
攪拌を継続しながら、ここに45℃の水100gを添加し、約1時間攪拌を継続した後攪拌子を取り外した。これを6分間静置したところ、灯油層(上層)、水層(中間層)および固形分層(下層)に分離した。
【0060】
灯油層を分取したところ、固形分は含有されていなかった。次いで、分取した灯油層を減圧蒸留して、留出分を分離してアスファルトを製造するとともに、留出分である灯油留分を回収した。得られたアスファルトの回収率は、分析で求めた固体原料中のアスファルト分の75%であった。
【0061】
[実施例2]
500mlビーカー中にて、実施例1で用いたのとおなじ固体原料100gに、有機溶媒として所定温度の灯油(実施例で用いたものと同様)または軽油(LGO、引火点68℃、沸点165〜360℃)100gを添加し、4枚羽を有する攪拌子を100rpmに
て回転させて、目視で十分な溶解がなされるまで(16分〜90分間)攪拌して溶解させ、アスブトン鉱石の油分を有機溶媒に抽出した。攪拌を継続しながら、ここに添加した有機溶媒(灯油あるいは軽油)の温度と同温度の水100gを添加し、約1時間攪拌を継続した後攪拌子を取り外した。これを6分間静置したところ、有機溶媒層(上層)、水層(中間層)および固形分層(下層)に分離した。有機溶媒層を分取し、実施例1と同様にしてアスファルトを回収し、アスファルトの回収率を求めた。結果を図3のグラフに示す。
【0062】
[比較例1]
アスブトン100gを粉砕した平均粒径30mmの固体原料に、90℃の灯油100gを添加し、4枚羽を有する攪拌子を100rpmにて回転させて16分間攪拌して、アスブトン中の油分(アスファルト分を含む)を灯油中に抽出した。攪拌終了後、室温にて6分間静置したところ、灯油層(上層)と、固形分層(下層)とに分離した。
【0063】
この灯油層と固形分層とを分割したところ、灯油層中には固形分が存在し、固形分層には灯油分が存在することを確認した。
[実施例3]
実施例1において、静置後、灯油層(上層)、水層(中間層)および固形分層(下層)に分離したうちの固形分層を分取した。
【0064】
得られた固形分層を、常圧にて115℃に加熱して蒸発させ、留出物を回収し、回収量を凝縮させた液体量で求めた。結果を図4の表に示す。これにより、115℃と溶媒沸点よりもはるかに低い温度での蒸発においても、固形分層中に残存した灯油の70%を回収できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、アスブトンなどのアスファルト鉱石より簡便な方法で精製アスファルトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、本発明のアスファルトの製造方法及び装置の一態様を示す概略フロー図である。
【図2】図2は、水性溶媒層および/または固形分層から回収した有機溶媒をリサイクル使用する場合を含む、本発明のアスファルトの製造方法及び装置の一態様を示す概略フロー図である。
【図3】図3は、実施例2の結果を示す表である。
【図4】図4は、実施例3の結果を示す表である。
【符号の説明】
【0067】
(1)〜(14):ライン
(A):手段(A)(溶解・攪拌混合装置)
(B):手段(B)(分離装置)
(C):手段(C)(蒸留装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト鉱石から精製アスファルトを製造する方法であって、
(I)アスファルト鉱石からなる固体原料、有機溶媒、および水性溶媒からなる攪拌混合
物を得る工程、
(II)攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させ、有機溶媒層を分取する工程、および
(III)有機溶媒層中のアスファルトを回収する工程
を有し、工程(I)において用いる有機溶媒の温度が80℃以下であることを特徴とする
アスファルトの製造方法。
【請求項2】
前記攪拌混合物を得る工程(I)が、アスファルト鉱石からなる固体原料と有機溶媒と
を攪拌混合し、さらに水性溶媒を添加して攪拌混合する工程であることを特徴とする請求項1に記載のアスファルトの製造方法。
【請求項3】
有機溶媒が、炭素数が8〜25の炭化水素を80質量%以上含有する炭化水素溶媒であることを特徴とする請求項1または2に記載のアスファルトの製造方法。
【請求項4】
有機溶媒が、沸点が140℃以上400℃以下の炭化水素を80質量%以上含有する炭化水素溶媒であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項5】
工程(I)において、混合する有機溶媒の温度が、当該有機溶媒の引火点以下の温度で
あることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項6】
水性溶媒が水であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項7】
工程(II)において、有機溶媒層、水性溶媒層および固形分層の分離を、静置、ろ過、遠心分離のいずれか1つ以上の方法により行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項8】
工程(II)で分離した水性溶媒層から得られた水性溶媒の少なくとも一部を、工程(I
)に導入することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項9】
工程(II)で分離した固形分層を、80〜260℃に加熱することにより、固形分層中に含まれる有機溶媒を回収することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項10】
工程(II)で分離した固形分層から、蒸発により有機溶媒を分離し、得られた有機溶媒の少なくとも一部を工程(I)および/または工程(III)に導入することを特徴とす
る請求項1〜9のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項11】
工程(III)におけるアスファルトの回収を、蒸留により有機溶媒を分離して行うこと
を特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項12】
工程(III)で分離した有機溶媒の少なくとも一部を、工程(I)に導入することを特徴とする請求項11に記載のアスファルトの製造方法。
【請求項13】
アスファルト鉱石が、炭酸カルシウムを30質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のアスファルトの製造方法。
【請求項14】
アスファルト鉱石からアスファルトを製造するための装置であって、
(A)アスファルト鉱石からなる固体原料と、有機溶媒と、水性溶媒とからなる攪拌混合物を得る手段、
(B)攪拌混合物を、アスファルト分を含有する有機溶媒層と、水性溶媒層および固形分層とに分離させ、有機溶媒層を分取する手段、および
(C)有機溶媒層中のアスファルトを回収する手段
を有することを特徴とするアスファルトの製造装置。
【請求項15】
手段(B)から得られた固形分層中の有機溶媒を回収する手段と、回収された有機溶媒の少なくとも一部を手段(A)および/または(C)に導入する手段とをさらに有することを特徴とする請求項14に記載のアスファルトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−65187(P2010−65187A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234797(P2008−234797)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【Fターム(参考)】