アドレナリン受容体遺伝子解析による薬物感受性および疾患脆弱性の評価方法
【課題】薬物感受性または疾患脆弱性の個体差(個体ごとの傾向)を、アドレナリン受容体遺伝子多型等を用いて評価する(予測等する)方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る薬物感受性の評価方法または疾患脆弱性の評価方法は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の薬物感受性または疾患脆弱性とを関連づけることを特徴とする方法である。
【解決手段】本発明に係る薬物感受性の評価方法または疾患脆弱性の評価方法は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の薬物感受性または疾患脆弱性とを関連づけることを特徴とする方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドレナリン受容体(ADR)遺伝子解析により薬物感受性および疾患脆弱性を評価する方法等に関する。具体的には、ADR遺伝子の遺伝子多型または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと個体の薬物感受性および疾患脆弱性とを関連づける、薬物感受性および疾患脆弱性の評価方法等、より具体的には、上記遺伝子多型またはハプロタイプの解析結果に基づいて、個体における薬物感受性および疾患脆弱性の有無の傾向を評価する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、医療現場で最も頻繁に見られる病態であり、疾患そのものよりもむしろ、疾患に伴う疼痛の方が患者にとって深刻である場合が多い。痛覚は、生体の警告システムであるという点で重要な役割を有するが、過度の痛みは適切に制御しないとQOL(Quality of Life)を著しく低下させることになる。近年、ペインコントロールの重要性が認識され、疼痛治療を含む緩和医療が飛躍的に進歩しつつあり、各種鎮痛薬の使用機会および使用量は増加傾向にある。
【0003】
これまでに、ヒトの脊髄くも膜下腔にα2アドレナリン受容体作動薬を投与すると鎮痛が得られるなど、アドレナリン受容体を介した鎮痛効果が確認されている(非特許文献1)。また、超短時間作用性β1アドレナリン受容体遮断薬エスモロールは、動物実験においてホルマリンによって引き起こされる疼痛反応を抑制することが報告されている(非特許文献2)。さらに、下行性抑制系の機能的破綻によって起こることが示唆されている糖尿病性ニューロパチーによって起こる神経因性疾痛の症状の治療薬として、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)デュロキセチンが米国で初めて認可された(非特許文献3)。加えて、ラットにα2受容体作動薬またはβ受容体遮断薬を扁桃体分界条床核に投与すると、オピオイドの退薬症状により引き起こされる条件付け場所嫌悪反応(CPA)を緩和し、またホルマリンにより惹起される場所嫌悪反応は、ホルマリン皮下投与の5 分前にモルヒネを扁桃体両側基底外側核に投与することによりほぼ完全に抑制されることなどが報告され、疼痛などに伴う不快情動の惹起・調節にもアドレナリン受容体およびオピオイドがともに関与することが示唆されている(非特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gordh T Jr. et al., Effect of epidural clonidine on spinal cord blood flow and regional and central hemodynamics in pigs, Anesth. Analg., (1986) 65: 1312-1318.
【非特許文献2】Davidson EM. et al., Antinociceptive and cardiovascular properties of esmolol following formalin injection in rats, Can. J. Anaesth., (2001) 48: 59-64.
【非特許文献3】Ikeda, K. et al., Review of duloxetine in the management of diabetic peripheral neuropathic pain, Vasc. Health Risk Manag., (2007) 3:833-844.
【非特許文献4】Delfs JM, et al., Noradrenaline in the ventral forebrain is critical for opiate withdrawal-induced aversion., Nature, (2000) 403:430-434.
【非特許文献5】Deyama, S. et al., Inhibition of glutamatergic transmission by morphine in the basolateral amygdaloid nucleus reduces pain-induced aversion., Neurosci. Res., (2007) 59:199-204.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、薬物感受性または疾患脆弱性、具体的には鎮痛薬投与必要回数、総鎮痛薬量、疼痛感受性、薬物依存脆弱性、および覚せい剤精神病遷延化等に関する薬物感受性または疾患脆弱性の個体差(個体ごとの傾向)を、アドレナリン受容体遺伝子多型等を用いて評価する(予測等する)方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アドレナリン受容体遺伝子に注目し、従来知見および臨床データに基づいて、鋭意研究を行った。その結果、各種アドレナリン受容体遺伝子多型と、鎮痛薬等の薬物感受性または疼痛感受性を含めた疾患脆弱性との相関関係を解析することにより、いくつかの有用な遺伝子多型を同定した。そして、同定したこれら遺伝子多型間の連鎖不平衡を見出し、さらに薬物感受性または疾患脆弱性との有意な相関を明らかにした。
【0007】
詳しくは、特定のアドレナリン受容体遺伝子多型が異なることによって、鎮痛薬の投与必要量が変化すること及び疼痛感受性の閾値が変化することを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1. アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の薬物感受性とを関連づけることを特徴とする、薬物感受性の評価方法。
当該評価方法としては、例えば、前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価することを特徴とする方法が挙げられる。
2.以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子型と薬物感受性との間の関連を解析する工程、および
(3)被験者において薬物感受性と有意に関連した遺伝子多型を薬物感受性の評価に用いる工程
を含む、前項1に記載の方法。
3.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の疾患脆弱性とを関連づけることを特徴とする、疾患脆弱性の評価方法。
当該評価方法としては、例えば、前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価することを特徴とする方法が挙げられる。
4.以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子型と疼痛感受性との間の関連を解析する工程、および
(3)被験者において疼痛感受性と有意に関連した遺伝子多型を疾患脆弱性の評価に用いる工程
を含む、前項3に記載の方法。
5.疾患脆弱性が、薬物感受性・疼痛感受性または薬物依存への脆弱性である、前項3または4に記載の方法。
6.遺伝子多型が、一塩基多型、挿入型多型、欠失型多型および塩基繰り返し多型からなる群から選択される少なくとも1つである、前項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
7.遺伝子多型が、ADRB2遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB2遺伝子(以下同様))のrs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135、ADRB1サブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB1遺伝子(以下同様))のrs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887、並びにADRA2Aサブタイプ遺伝子多型のrs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973から選ばれる少なくとも1つである、前項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
8.ハプロタイプが以下の表に示されるものから選ばれる少なくとも1つである、前項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【0009】
【表1】
【0010】
【表2A】
【0011】
【表2B】
【0012】
9.前項1〜8のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の種類、量および/または投与回数を決定する方法。
10.前項1〜9のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の副作用を予測する方法。
11.薬物が、オピオイド受容体機能修飾薬および/またはアドレナリン受容体機能修飾薬である、前項1、2、5、9および10のいずれか1項に記載の方法。
12.オピオイド受容体機能修飾薬が、メタンフェタミン、メチレンジオキシメタンフェタミン、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、ドパミン、モルヒネ、DAMGO、コデイン、メサドン、カルフェンタニール、フェンタニル、ヘロイン、コカイン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナロルフィン、レバロルファン、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、オキシコドン、ヒドロコドン、レボルファノール、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、トラマドール、ジクロフェナク、インドメタシン、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、プロパノール、ブタノール、フルピルチン、笑気、F3(1-クロロ-1,2,2トリフルオロサイクロブタン)、ハロセン、エストラジオール、ジチオトレイトール、チオリダジン、ピモザイド、フルオキセチン、パロキセチン、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、テトラミド、イソフルレン、ギンセノシド、イフェンプロディール、ブピバカイン、テルチアピン、クロザピン、ハロペリドール、SCH23390およびコカインからなる群から選択される少なくとも1つであり、アドレナリン受容体機能修飾薬が、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、フェニレフリン、ナファゾリン、α‐メチルノルアドレナリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノキサベンズ、グアネチジン、キシラジン、メチルドーパ、ファドルミジン、アミデフリン、アミトラズ、アニソダミン、アプラクロニジン、ブリモニジン、シラゾリン、デトミジン、デクスメデトミジン、エピネフィリン、エチレフリン、インダニジン、ロフェキシジン、メデトミジン、メフェンテルミン、メタラミノール、メトキサミン、ミドドリン、ミバゼロール、ノルフェネフリン、オクトパミン、オキシメタゾリン、フェニルプロパノールアミン、リルメニジン、ロミフィジン、シネフリン、タリペキソール、チザニジン、ダイベナミン、エルゴタミン、エルゴメトリン、フェントラミン、トラゾリン、ブナゾシン、ナフトピジル、プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、タムスロシン、シロドシン、アルフゾシン、トリマゾシン、フェノキシベンザミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、トリミプラミン、α-メチルドパ、ヨヒンビン、エファロキサン、イダゾキサン、ラウオルシン、アチパメゾール、ドブタミン、イソプロテレノール、キサモテロール、エピネフリン、イソプレナリン、サルブタモール(アルブテロール)、レボサルブタモール(レバルブテロール) 、テルブタリン、メタプロテレノール、フェノテロール、ビトルテロール、ピルブテロール、プロカテロール、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、クレンブテロール、イソエタリン、リトドリン、メシル酸ビトルテロール、L-796568、アミベグロン、ソラベグロン、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、ドペキサミン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、プレナルテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、トレトキノール、ツロブテロール、ジルパテロール、ジンテロール、アルプレノロール、ブシンドロール、ソタロール、ボピンドロール、ピンドロール、チモロール、ジクロロイソプレナリン、アルプレノロール、カルテオロール、インデノロール、ブニトロロール、ペンブトロール、プロプラノロール、ナドロール、ニプラジロール、チリソロール、アセブトロール、セリプロロール、メトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、プラクトロール、ベバントロール、エスモロール、ネビボロール、ブトキサミン、ICI-118,551、SR 59230A、メピンドロール、オクスプレノロール、ランジオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ラベタロール、カルベジロール、アロチノロール、アモスラロール、アンフェタミン、ドロキシドパ、チラミン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、アトモキセチン(トモキシチン)、マジンドール、レボキセチン、ビロキサジン、アミネプチン、ブプロピオン、デキサメチルフェニデート、フェンカンファミン、フェンカミン、レフェタミン、メチルフェニデート、ピプラドロール、プロリンタン、ピロバレロン、ジフェメトレックス、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン、ブトリプチリン、デシプラミン、ドスレピン、イミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、ミアンセリン、シクロベンザプリン、メソカルブ、ネファドゾン、ネホパム、シブトラミン、タペンタドール、トラマドール、ジプラシドン、アドヒペリフォリン、ハイパフォリン、コカイン、デスオキシピプラドロール、ジフェニルプロリノール、チレンジオキシピロバレロン、シクラジンドール、エスレボキセチン、マニファキシン、ニソキセチン、ラダファキシン、タンダミン、WYE-103231、1-(Indolin-1-yl)-1-phenyl-3-propan-2-olamines、1- or 3-(3-Amino-2-hydroxy-1-phenyl propyl)-1,3-dihydro-2H-benzimidazol-2-ones、(+)-S-21, thienyl-based、ビシファジン、ブラソフェンシン、ジクロフェンシン、DOV-21,947、DOV-102,677、DOV-216,303、インダトラリン、NS-2359、オキサプロチリン、SEP-225,289、SEP-227,162、テソフェンシンおよびオランダビユからなる群から選択される少なくとも1つである、前項11記載の方法。
13.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうる、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列のうち第51番目の塩基を含む少なくとも10塩基長の塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする、前項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
14.前記オリゴヌクレオチドの長さが10〜150塩基長である、前項13に記載の方法。
15.前記オリゴヌクレオチドが配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択されるオリゴヌクレオチドである、前項13または14に記載の方法。
20.前項1〜15のいずれか1項に記載の方法におけるアドレナリン受容体遺伝子多型の検出に用いる配列番号39〜46のいずれか1つに示される塩基配列からなるプライマー。
21.前項20に記載のプライマーを含む、薬物感受性評価用キット。
22.前項20に記載のプライマーを含む、疾患脆弱性評価用キット。
23.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
24.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、薬物感受性もしくは疾患脆弱性に関する個人差を評価することができるアドレナリン受容体遺伝子多型または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプ、および当該遺伝子多型もしくはハプロタイプを用いた薬物感受性または疾患脆弱性の評価方法等を提供することができる。この評価方法により、モルヒネ等の麻薬性薬物に関する処方適正量および処方適正スケジュールなどを容易に知ることまたは予測することが可能となり、テーラーメイド疼痛治療および薬物依存治療などに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ADRB2サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs30312とrs246503との間のD´の計算値は0.98である。
【図2】ADRB2サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるr2の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs30312とrs246503との間のr2の計算値は0.80である。
【図3】ADRB1サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs180914とrs6585256との間のD´の計算値は0.81である。
【図4】ADRB1サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるr2の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs180914とrs6585256との間のr2の計算値は0.56である。
【図5】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術後24時間の投与必要量(μg/kg)に対するADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図6】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術前の疼痛感受性の測定結果(秒)に対するADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図7】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術前の疼痛感受性の測定結果(秒)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図8】外科手術において鎮痛薬を投与された女性患者における、術前の疼痛感受性閾値差の測定結果(秒)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)の効果(女性の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図9】外科手術において鎮痛薬を投与された男性患者における、術前の疼痛感受性の測定結果(秒)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)の効果(男性の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図10】外科手術において鎮痛薬を投与された男性患者における、術後24時間後のVAS(疼痛の強さ)の測定結果(mm)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)の効果(男性の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図11】ADRA2Aサブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs990429とrs491589との間のD´の計算値は0.93である。
【図12】ADRA2Aサブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるr2の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs990429とrs491589との間のr2の計算値は0.86である。
【図13】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術中・術後24時間の総鎮薬投与必要量(μg/kg)に対するADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2010-198319号明細書の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0016】
1.本発明の概要
(1)アドレナリン受容体
アドレナリン受容体(Adrenergic receptor;ADR)とは、アドレナリン、ノルアドレナリンを始めとするカテコールアミン類によって活性化されるGタンパク共役型の受容体である。心筋、各種平滑筋、脂肪細胞、骨格筋等の他、脳にも存在し、心収縮、各種平滑筋の弛緩、基礎代謝、血管収縮等の他、オピオイド等による鎮痛および疼痛(知覚・情動的側面)にも関与する。
【0017】
オピオイド受容体は、脳幹部の中脳水道周囲灰白質、大縫線核、巨大細胞網様核、傍巨大細胞網様核や脊髄後角、末梢神経などに存在するが、特に中脳水道周囲灰白質のオピオイド作用は、大縫線核からのセロトニン作動性繊維、傍巨大細胞網様核からのノルアドレナリン作動性繊維を介して脊髄後角に至る下行性疼痛抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮する。ノルアドレナリン作動性繊維にはアドレナリン受容体の発現が認められている。
【0018】
ここで、アドレナリン受容体について説明する。アドレナリン受容体は、脳および心臓に多く存在し、神経細胞の興奮性や心拍数の制御において重要な働きをする受容体である。アドレナリン受容体は、細胞膜を7回貫通する構造をとっている。受容体はGタンパク質と共役する。
【0019】
アドレナリン受容体は、2個のサブユニットが合わさって2量体の状態で機能する。受容体サブタイプの種類としては、α(α1、α2)、β(β1、β2、β3)などに大別され、さらにその亜型も知られている。脳ではαサブタイプが強く発現し、βサブタイプも発現する。なお、心臓ではβサブタイプが強く発現する。
【0020】
(2)遺伝子多型
本発明者は、健常者について、アドレナリン受容体を構成しうるα(α1、α2)、β(β1、β2、β3)のサブタイプのうちβサブタイプ(β1、β2)に関して遺伝子多型(SNP等)を同定した(図1〜図4)。また必要により連鎖不平衡解析を行い、連鎖不平衡の強いブロック(ハプロタイプブロック)を同定した。
【0021】
ここで、連鎖平衡とは2つの遺伝子多型間の染色体上の関係が独立な場合をいい、連鎖不平衡とは遺伝子多型と遺伝子多型が連鎖しているためにメンデルの独立の法則による平衡状態から逸脱している場合をいう。また、ハプロタイプとは、一組の対立遺伝子のうちの一方(片方の親に由来する遺伝子)において、相互に近隣する遺伝子や遺伝子多型などの遺伝的構成を意味する。
【0022】
ゲノム上近接する遺伝子多型等はハプロタイプブロックで遺伝する。言い換えれば、ハプロタイプは、このハプロタイプブロック内の、同一遺伝子の並び方の組み合わせであるとも言える。
【0023】
アドレナリン受容体遺伝子において、いくつかの遺伝子多型が、ある表現型に関連して出現する場合は、個々の遺伝子多型を全てタイピングしなくても、ハプロタイプを構成するいくつかの遺伝子多型を解析することによって、患者の遺伝子型と表現型との関連を明らかにすることができる。
【0024】
本発明者は、アドレナリン受容体β2サブタイプ遺伝子について解析した結果、5´および3´フランキング領域には23個および37個の遺伝子多型(表3参照)を、エクソン1の翻訳領域および5´非翻訳領域にそれぞれ3つおよび1つずつ(計4つ)の遺伝子多型(rs1801704、rs1042713、rs1042717およびrs1042718)を見出した(図1および図2参照)。
【0025】
また、β1サブタイプ遺伝子については、5´および3´フランキング領域には21個および8個の遺伝子多型(表3参照)、エクソン1の翻訳領域に2つの遺伝子多型(rs1801252、rs1801253)を見出した(図3および図4参照)。
【0026】
本発明によれば、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを解析することによって、鎮痛薬投与必要回数、総鎮痛薬量、薬物依存脆弱性、および覚せい剤精神病遷延化等の薬物感受性、または疼痛感受性を含めた疾患脆弱性についての個人差を容易に評価することができる。薬物感受性または疾患脆弱性について評価した結果は、個体に投与する薬物の投与回数、投与量および種類などの決定、並びに副作用の予測において重要な情報となる。よって、本発明は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプの解析結果に基づいて、個体(個人)の薬物感受性または疾患脆弱性の有無(詳しくは、遺伝的要因の有無)の傾向を評価する(具体的には、予め知るまたは予測する)方法を提供するものである。また本発明は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体(個人)の薬物感受性または疾患脆弱性の有無(詳しくは、遺伝的要因の有無)の傾向を評価する(具体的には、予め知るまたは予測する)ための、遺伝子多型マーカーを提供するものである。
【0027】
特に、モルヒネや覚醒剤などは、使用方法によっては社会的に大きな問題を生じるため、各個人に適切な投薬量を投薬前に予め知ることまたは予測できることは重要である。そのため、本発明は、テーラーメイド疼痛治療や薬物依存治療において極めて有用であると言える。
【0028】
2.アドレナリン受容体遺伝子多型
本発明のヒトアドレナリン受容体遺伝子多型としては、主に一塩基多型(single nucleotide polymorphism、以下SNPとも呼称する)を含むが、限定はされず、挿入型多型、欠失型多型、および塩基繰り返し多型をも含みうる。
【0029】
一塩基多型[SNP(SNPs)]とは、遺伝子の特定の1塩基が他の塩基に置換することによる遺伝子多型を意味する。挿入/欠失型多型とは、1以上の塩基が欠失/挿入することによる遺伝子多型を意味する。
【0030】
また、塩基繰り返し多型とは塩基配列の繰り返し数の異なることにより生じる遺伝子多型を意味する。塩基繰り返し多型は繰り返す塩基数の違いにより、マイクロサテライト多型(塩基数:2塩基〜4塩基程度)とVNTR(variable number of tandem repeat)多型(繰り返し塩基:数塩基〜数十塩基)に分けられ、その繰り返し数が個々人によって異なる。
【0031】
本発明によって明らかにされたヒトアドレナリン受容体遺伝子多型の情報(日本人健常者のゲノム上で見られたADRB2サブタイプ遺伝子、ADRB1サブタイプ遺伝子およびADRA2Aサブタイプ遺伝子におけるSNP)を、表3Aおよび表3Bに示す。表3Aおよび表3Bに示す遺伝子多型は、本発明のアドレナリン受容体遺伝子多型に含まれる。
【0032】
【表3A】
【0033】
【表3B】
【0034】
表3Aおよび表3Bにおいて、「ADRB2」(斜体表記)は、ADRB2サブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB2遺伝子)を表し、「ADRB1」(斜体表記)は、ADRB1サブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB1遺伝子)を表し、「ADRA2A」(斜体表記)は、ADRA2Aサブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRA2A遺伝子)を表す。
【0035】
「位置」は、アドレナリン受容体遺伝子のゲノム上の位置を意味し、5´フランキング領域、3´フランキング領域、並びにエクソンを表す。
【0036】
「遺伝子多型名」は、ゲノム上の位置におけるSNPの名称であり、dbSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/ からアクセス可能)に登録されたものである(本明細書において同様)。基本的に、4桁以上の数字の前に「rs」のIDが付与され、どのSNPであるかが識別されている。
【0037】
「メジャーアレル」および「マイナーアレル」は、それぞれ日本人健常者のゲノム上での多数派および少数派となるアレルを表す。
【0038】
本発明において遺伝子多型情報を得る方法は、例えば、以下の通りである。
(1)ヒトから採取した血液検体から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。
(2)次に、得られたゲノムDNAを鋳型として、PCR法によりゲノムDNAをいくつかに分けて増幅し、シークエンス用の鋳型DNAとする。本発明は、遺伝子多型を対象とするため、PCR法に用いる酵素はなるべくFidelity(忠実度)の高いものを用いることが望ましい。
(3)アドレナリン受容体遺伝子の各遺伝子多型周辺の領域を、GenBankに公開されている配列情報に基づいて設計したプライマーを用いて約500〜1000bpずつPCRにより増幅を行う。
(4)これらのPCR断片の全領域の塩基配列を、GenBankに公開されている配列情報に基づいて設計したプライマーを用いて約500〜700bpずつシークエンス法により解読し、目的の遺伝子多型情報を得ることができる。
【0039】
本発明において遺伝子多型情報を得る別の方法は、以下の通りである。
(1)ヒトから採取した血液検体から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。
(2)次に、得られたゲノムDNAをTE buffer(10 mM tris-HCl, 1 mM EDTA, pH 8.0)に溶解し、100 ng/μlに調整する。
(3)イルミナ社製、iScanシステム(Illumina, San Diego, CA)を利用したInfinium assay II法などにより、メーカー側のプロトコルに従い全ゲノムジェノタイピングを行う。
(4)BeadStudio Genotyping module v3.3.7(Illumina)などを用いて全ゲノムジェノタイピングデータ解析を行い、各サンプルの遺伝子多型データの品質評価(Quality control)を行う。
(5)これらの全ゲノムジェノタイピングデータより、目的の遺伝子名のアノテーション情報を手掛かりにしてその遺伝子領域およびフランキング領域に含まれる遺伝子多型を選定し、BeadStudio Genotyping module v3.3.7(Illumina)などの出力機能を用いてそれらの遺伝子多型情報を全て抽出する。
【0040】
本発明は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうる、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135 )、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887)、並びにADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973)のいずれか1つを含むオリゴヌクレオチドを提供する。当該伝子多型部位は、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列の第51番目の塩基である。
【0041】
本発明のオリゴヌクレオチドの塩基は、少なくとも10塩基、好ましくは10〜150塩基、より好ましくは10〜45塩基、さらに好ましくは14〜25塩基を有することが好ましい。
【0042】
本発明のオリゴヌクレオチドとしては、例えば上記のアドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含有する、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列から選択されるオリゴヌクレオチドが挙げられる(表4A、表4B)。
【0043】
本発明のオリゴヌクレオチドは、5.で後述するアドレナリン受容体遺伝子多型の検出において、アドレナリン受容体遺伝子特異的なプローブおよびプライマーとして用いることができる。
【0044】
【表4A】
【0045】
【表4B】
【0046】
表4Aおよび表4B(配列番号1〜38および47〜76)には101塩基が表示されており、その51番目に遺伝子多型部位を表示してある。例えば、「A/G」と表示したものは「A」と「G」の遺伝子多型であることを意味し、「C/T」は「C」と「T」の遺伝子多型であることを意味する。
【0047】
3.ハプロタイプ解析
本発明においては、上記遺伝子多型のうちSNPを用いてハプロタイプを構築することができる。ハプロタイプ解析の対象となるSNPは、その遺伝子多型頻度が0.5%以上のものであればよく、好ましくは1%、より好ましくは5%以上のものを選択することができる。また、ハプロタイプ解析の対象となるSNPは、全部であってもその一部であってもよい。
【0048】
ハプロタイプ解析は、種々のコンピュータープログラムで解析することが可能であり、例えば、Haploview(http://www.broadinstitute.org/haploview/haploviewのウェブサイトから入手可能(以下同様);Barrett JC, Fry B, Maller J, Daly MJ. Haploview: analysis andvisualization of LD and haplotype maps. Bioinformatics. 2005Jan 15 [PubMed ID: 15297300] Whitehead Institute for Biomedical Research Cambridge, MA 02142, USA.)を用いることができる。
【0049】
ハプロタイプ解析の例として、上記2.において見出した日本人健常者のアドレナリン受容体遺伝子多型のうち、ADRB2サブタイプ遺伝子多型である24箇所のSNP、ADRB1サブタイプ遺伝子多型である12箇所のSNP、およびADRA2Aサブタイプ遺伝子多型である30箇所のSNPに関して、Haploviewを用いてハプロタイプを推定した。推定したハプロタイプをそれぞれ表5、表6Aおよび表6Bに示す。
【0050】
【表5】
【0051】
【表6A】
【0052】
【表6B】
【0053】
さらに、集団における各個人のアドレナリン受容体(ADR)遺伝子についての遺伝子型情報から、該集団におけるハプロタイプ頻度を算出し、当該ハプロタイプ頻度をもとにして連鎖不平衡解析を行うことができる。連鎖不平衡の尺度を示す値であるD´値およびr2値は、以下の定義に基づき算出することができる。
【0054】
定義:
SNP AとSNP Bとがあり、それぞれのアレルをA、aとB、bとする。SNP AとSNP Bとが作る4つのハプロタイプをAB、Ab、aB、abとし、それぞれのハプロタイプ頻度をPAB、PAb、PaB、Pabとすると、
D=PAB×Pab-PAb×PaB(D>0のとき)
D´=(PAB×Pab-PAb×PaB)/Minimum(((PAB+PaB)×(PaB+Pab)),((PAB+PAb)×(PAb+Pab)))(D<0のとき)
D´=(PAB×Pab-PAb×PaB)/Minimum(((PAB+PaB)×(PAB+PAb)),((PaB+Pab)×(PAb+Pab)))
r2=(PAB×Pab-PAb×PaB)2/[(PAB+PAb)(PAB+PaB)(PaB+Pab)(PAb+Pab)][但し、Minimum(((PAB+PaB)×(PaB+Pab)),((PAB+PAb)×(PAb+Pab)))は、(PAB+PaB)×(PaB+Pab)と(PAB+PAb)×(PAb+Pab)との内、値の小さい方をとることを意味する。]
【0055】
さらに、連鎖不平衡解析を行った結果からハプロタイプブロックを推定することができる。ハプロタイプブロックは、ハプロタイプ解析の結果から、例えば、Haploviewを用いて連鎖ブロックを推定することができる。
【0056】
推定されたハプロタイプブロック中の特定のSNPを調べると、間接的に同一ブロック内で連鎖しているSNPの情報を知ることができる。つまり、アドレナリン受容体遺伝子(詳しくはADRB2サブタイプ遺伝子、ADRB1サブタイプ遺伝子またはADRA2Aサブタイプ遺伝子)の遺伝子多型を調べる際に、すべてのSNPを解析する必要はなく、特定のいくつかのSNPについてのみタイピングを行えばよい。
【0057】
4.アドレナリン受容体遺伝子多型と薬物感受性または疾患脆弱性との相関
アドレナリン受容体遺伝子に遺伝子多型が生じると、アドレナリン受容体の機能や発現量が変化する場合があると考えられる。従って、アドレナリン受容体遺伝子多型と、アドレナリン受容体に関するさまざまな表現型とは相関関係にある場合がある。
【0058】
ここで、表現型とは、薬物の感受性に関する表現型(薬物感受性)と、疾患の発症に関する表現型(疾患脆弱性)とを挙げることができる。薬物感受性としては、薬物の有効性、薬物の副作用、薬物の有効持続期間等が挙げられる。また、疾患脆弱性としては、疼痛感受性、薬物依存への脆弱性等が挙げられる。
【0059】
前記薬物としては、限定はされないが、オピオイド受容体機能修飾薬およびアドレナリン受容体機能修飾薬等が好ましく挙げられ、例えば、オピオイド受容体またはアドレナリン受容体に直接的または間接的に作用する各種薬物が挙げられる。オピオイド受容体に直接的または間接的に作用する各種薬物としては、具体的には、メタンフェタミン等の覚醒剤、ドパミン受容体作動薬、ドパミン受容体拮抗薬、μ、κ、δオピオイド受容体作動薬、μ、κ、δオピオイド受容体拮抗薬等を挙げることができる。アドレナリン受容体に直接的または間接的に作用する各種薬物としては、具体的には、ノルアドレナリン等のカテコールアミン、三環系および四環系抗うつ薬、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(NRIs)、ノルエピネフリン・ドパミン再取り込み阻害薬(NDRIs)、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRIs)、セロトニン・ノルエピネフリン・ドパミン再取り込み阻害薬(SNDRIs)、アンフェタミン等の覚醒剤、オランダビユなどの天然資源、α1、α2、β1、β2、β3アドレナリン受容体作動薬、α1、α2、β1、β2、β3アドレナリン受容体拮抗薬等を挙げることができる。
【0060】
オピオイド受容体機能修飾薬としては、例えば、モルヒネ、DAMGO、コデイン、メサドン、カルフェンタニール、フェンタニル、ヘロイン、コカイン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナロルフィン、レバロルファン、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、オキシコドン、ヒドロコドン、レボルファノール、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、トラマドール、ジクロフェナク、インドメタシン、フルルビプロフェンアキセチル、マーカイン、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、プロパノール、ブタノール、フルピルチン、笑気、F3(1-クロロ-1,2,2トリフルオロサイクロブタン)、ハロセン、エストラジオール、ジチオトレイトール、チオリダジン、ピモザイド、フルオキセチン、パロキセチン、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、テトラミド、イソフルレン、ギンセノシド、イフェンプロディール、ブピバカイン、テルチアピン、クロザピン、ハロペリドール、SCH23390およびコカイン等が挙げられ、特にモルヒネ、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、ジクロフェナク、インドメタシン、フルルビプロフェンアキセチル、マーカインが好ましく、モルヒネ、フェンタニルおよびペンタゾシンがより好ましい。
【0061】
アドレナリン受容体機能修飾薬としては、例えば、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、フェニレフリン、ナファゾリン、α‐メチルノルアドレナリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノキサベンズ、グアネチジン、キシラジン、メチルドーパ、ファドルミジン、アミデフリン、アミトラズ、アニソダミン、アプラクロニジン、ブリモニジン、シラゾリン、デトミジン、デクスメデトミジン、エピネフィリン、エチレフリン、インダニジン、ロフェキシジン、メデトミジン、メフェンテルミン、メタラミノール、メトキサミン、ミドドリン、ミバゼロール、ノルフェネフリン、オクトパミン、オキシメタゾリン、フェニルプロパノールアミン、リルメニジン、ロミフィジン、シネフリン、タリペキソール、チザニジン、ダイベナミン、エルゴタミン、エルゴメトリン、フェントラミン、トラゾリン、ブナゾシン、ナフトピジル、プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、タムスロシン、シロドシン、アルフゾシン、トリマゾシン、フェノキシベンザミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、トリミプラミン、α-メチルドパ、ヨヒンビン、エファロキサン、イダゾキサン、ラウオルシン、アチパメゾール、ドブタミン、イソプロテレノール、キサモテロール、エピネフリン、イソプレナリン、サルブタモール(アルブテロール)、レボサルブタモール(レバルブテロール) 、テルブタリン、メタプロテレノール、フェノテロール、ビトルテロール、ピルブテロール、プロカテロール、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、クレンブテロール、イソエタリン、リトドリン、メシル酸ビトルテロール、L-796568、アミベグロン、ソラベグロン、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、ドペキサミン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、プレナルテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、トレトキノール、ツロブテロール、ジルパテロール、ジンテロール、アルプレノロール、ブシンドロール、ソタロール、ボピンドロール、ピンドロール、チモロール、ジクロロイソプレナリン、アルプレノロール、カルテオロール、インデノロール、ブニトロロール、ペンブトロール、プロプラノロール、ナドロール、ニプラジロール、チリソロール、アセブトロール、セリプロロール、メトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、プラクトロール、ベバントロール、エスモロール、ネビボロール、ブトキサミン、ICI-118,551、SR 59230A、メピンドロール、オクスプレノロール、ランジオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ラベタロール、カルベジロール、アロチノロール、アモスラロール、アンフェタミン、ドロキシドパ、チラミン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、アトモキセチン(トモキシチン)、マジンドール、レボキセチン、ビロキサジン、アミネプチン、ブプロピオン、デキサメチルフェニデート、フェンカンファミン、フェンカミン、レフェタミン、メチルフェニデート、ピプラドロール、プロリンタン、ピロバレロン、ジフェメトレックス、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン、ブトリプチリン、デシプラミン、ドスレピン、イミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、ミアンセリン、シクロベンザプリン、メソカルブ、ネファドゾン、ネホパム、シブトラミン、タペンタドール、トラマドール、ジプラシドン、アドヒペリフォリン、ハイパフォリン、コカイン、デスオキシピプラドロール、ジフェニルプロリノール、チレンジオキシピロバレロン、シクラジンドール、エスレボキセチン、マニファキシン、ニソキセチン、ラダファキシン、タンダミン、WYE-103231、1-(Indolin-1-yl)-1-phenyl-3-propan-2-olamines、1- or 3-(3-Amino-2-hydroxy-1-phenyl propyl)-1,3-dihydro-2H-benzimidazol-2-ones、(+)-S-21, thienyl-based、ビシファジン、ブラソフェンシン、ジクロフェンシン、DOV-21,947、DOV-102,677、DOV-216,303、インダトラリン、NS-2359、オキサプロチリン、SEP-225,289、SEP-227,162、テソフェンシンおよびオランダビユがより好ましい。
【0062】
アドレナリン受容体遺伝子多型と表現型との相関は、例えば、以下の(1)〜(4)のように調べることができる。
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析の結果、推定された連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する。例えば、代表的な遺伝子多型であるTag SNPを表現型との相関解析用のアドレナリン受容体遺伝子多型として選択する。
(2)次に、被験者(患者)における該遺伝子多型についての遺伝子多型頻度を解析する。遺伝子多型と疾患脆弱性との相関を調べる場合、被験者と健常者の遺伝子多型頻度との比較を行う。比較においてはχ2乗検定などの統計手法を用いることが有効である。
ここで、さらに、表現型の違いにより被験者を分類し、分類毎に健常者と被験者の遺伝子多型頻度や遺伝子型を比較してもよい。疾患の発症に関する表現型が覚醒剤精神病様症状の場合、例えば、覚醒剤の使用開始から妄想・幻覚を発症するまでの期間、使用停止後に妄想・幻覚が持続する期間、再燃性の有無、多剤乱用の有無で分類できる。
(3)被験者において薬物感受性と有意に関連した遺伝子多型があれば、該遺伝子多型を薬物感受性の遺伝的素因の評価に用いることができる。また、健常者と被験者との間で遺伝子多型頻度に有意差のある遺伝子多型があれば、該遺伝子多型を疾患脆弱性の遺伝的素因の評価に用いることができる。
【0063】
ただし、遺伝子多型の傾向は、人種や出身地等に影響されることが示唆されているため、関連する遺伝子多型(例えばSNP)を見出すのに用いた母集団と同様な遺伝子多型を示す集団おいて、当該遺伝子多型を用いる上記評価を行うことが望ましい。
【0064】
アドレナリン受容体遺伝子多型と表現型との相関の具体例を以下の(1)〜(8)に示す。
(1)術後24時間鎮痛薬投与必要量の測定結果との相関において、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)でメジャーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術後鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)を解析することにより、鎮痛薬への感受性をより容易に予測することができる。
【0065】
(2)術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)でのマイナーアレル(G)の保有と、疼痛感知潜時とは、有意な関連を示した。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0066】
(3)術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)でメジャーアレル(A)を持たない外科手術を受けた患者群は、当該アレルAを持つ患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時が統計学的に有意に長かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0067】
(4)術前のフェンタニル投与前後の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時閾値差の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)でマイナーアレル(G)を持たない外科手術を受けた女性の患者群は、当該アレルGを持つ女性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値差が統計学的に有意に大きかった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)を解析することにより、鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0068】
(5)術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値が統計学的に有意に短かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0069】
(6)術後24時間後の疼痛の強さの尺度(VAS: Visual analogue scale)の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、VASの値が統計学的に有意に大きかった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、術後の疼痛または鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0070】
(7)術後24時間総鎮痛薬投与必要量の測定結果との相関において、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)でマイナーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術中・術後総鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)を解析することにより、鎮痛薬への感受性をより容易に予測することができる。
【0071】
(8)その他の遺伝子多型も含め、いくつかのADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)に関して、術中・術後24時間総鎮痛薬投与必要量、術前疼痛感受性、術後24時間後疼痛感受性(VAS)、およびフェンタニルの鎮痛効果のいずれかの表現型と、統計学的に有意な関連を示した。したがって、これらの遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)を解析することにより、鎮痛薬への感受性、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果をより容易に予測することができる。
【0072】
5.解析結果の利用
上記4のように解析されたアドレナリン受容体遺伝子多型と表現型との相関は、オピオイド受容体およびアドレナリン受容体に関する様々な薬物および疼痛の感受性を予測する方法、オピオイド受容体およびアドレナリン受容体に関する疾患の治療または予防法を選択する方法、または治療用の薬物の適正投与量を決定する方法、副作用を予測する方法などの指標として利用することができる。
【0073】
また、本発明の遺伝子多型または方法を用いて、人種の違いによる薬物感受性または疾患脆弱性を評価することが可能である。対象者は特に限定されるものではなく、日本人、欧米人などが挙げられるが、本発明においては日本人または日本人と同様の遺伝子多型傾向を有する者であることが好ましい。
【0074】
6.遺伝子多型の検出
被験対象者からのゲノム試料は、血液、唾液、皮膚等から抽出することができるが、ゲノム試料を採取できるものであれば、これに限定されるものではない。ゲノムDNAの抽出および精製法は周知である。例えば、ヒトから採取した血液、唾液、皮膚等の検体から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。検出するSNPがエクソン中にある場合は、ゲノムDNAの代わりにmRNAやtotal RNAを抽出してもよい。
【0075】
ゲノム試料中のアドレナリン受容体遺伝子多型の検出には、上記した本発明のオリゴヌクレオチドをプローブおよびプライマーとして用いることができる。以下、遺伝子多型検出法の一例を示す。
【0076】
(1)PCR法による遺伝子多型の検出
PCRにより被験サンプルを増幅するには、忠実度の高いDNAポリメラーゼ、例えば、KOD Dashポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用いることが好ましい。用いるプライマーは、被験サンプル中の対象SNPを増幅できるように設計し合成する。上流および下流側のプライマーの間の任意の位置に遺伝子多型またはその相補鎖が含まれるのが好ましい。増幅反応終了後は、増幅産物の検出を行い、シークエンス法などにより遺伝子多型の有無を判定する。
【0077】
本発明の方法に用いることのできるプライマーとして、例えば、下記表7に示すプライマーが好適に挙げられる。
【0078】
【表7】
【0079】
(2)塩基配列決定法による遺伝子多型の検出
ジデオキシ法に基づく塩基配列決定法により本発明の遺伝子多型を検出することもできる。塩基配列決定に用いるシークエンサーには、市販のABIシリーズ(アプライドバイオシステムズ(ライフテクノロジーズ))を用いることができる。
【0080】
(3)DNAマイクロアレイによる遺伝子多型の検出
DNAマイクロアレイは、支持体上にオリゴヌクレオチドプローブが固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。まず、被験サンプルのポリヌクレオチドを単離し、PCRにより増幅し、蛍光レポーター基により標識する。続いて、標識化DNA/mRNA、total RNAをアレイと共にインキュベートする。
【0081】
次に前記アレイをスキャナーに差し込み、ハイブリダイゼーションパターンを検出する。ハイブリダイゼーションのデータは、プローブアレイに結合した(すなわち標的配列に取り込まれた)蛍光レポーター基からの発光として採集する。標的配列と完全に一致したプローブは、標的配列と一致していない部分を有するものよりも強いシグナルを生じる。アレイ上の各プローブの配列および位置は分かっているため、相補性によって、プローブアレイと反応させた標的ポリヌクレオチドの配列を決定することができる。
【0082】
(4)TaqMan PCR法による遺伝子多型の検出
TaqMan PCR法は、蛍光標識したアレル特異的オリゴヌクレオチド(TaqManプローブとも言う(とTaq DNAポリメラーゼによるPCRとを利用する方法である。アレル特異的オリゴヌクレオチドとは、遺伝子多型部位を含むオリゴヌクレオチドである。TaqMan PCR法で用いるアレル特異的オリゴヌクレオチドは、前記遺伝子多型情報に基づいて設計することができる。
【0083】
(5)インベーダー法による遺伝子多型の検出
インベーダー法は、アレル特異的オリゴヌクレオチドと鋳型とをハイブリダイゼーションすることにより遺伝子多型を検出する方法である。インベーダー法を行うためのキットは市販されており(例えばNano Invader(R) Array(ビー・エム・エル社製))、この方法により容易に遺伝子多型を検出することが可能である。
【0084】
7.キット
本発明は、薬物・疼痛感受性または疾患脆弱性を評価するためのキットを提供する。本発明の遺伝子多型検出用キットは、本発明を実施するために必要な1種以上の成分を含む。
【0085】
例えば、本発明のキットは、酵素を保存若しくは供給するためのもの、および/または遺伝子多型検出を実施するために必要な反応成分を含むことが好ましい。当該成分としては、限定されるものではないが、例えば、本発明のオリゴヌクレオチド、酵素緩衝液、dNTP、コントロール用試薬(例えば、組織サンプル、ポジティブおよびネガティブコントロール用標的オリゴヌクレオチドなど)、標識用および/または検出用試薬、固相支持体、説明書などが挙げられる。また本発明のキットは、必要な成分のうちの一部のみを含む部分的キットであってもよく、その場合には、ユーザーが他の成分を用意することができる。
【0086】
本発明のキットは、上記オリゴヌクレオチドを支持体に固定したマイクロアレイとして提供することもできる。マイクロアレイは、支持体上に本発明のオリゴヌクレオチドが固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。
【0087】
本発明のキットは、本発明において見出されたアドレナリン受容体遺伝子多型を含み、当該遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチドを含むことが好ましい。
【0088】
本発明のキットにより遺伝子多型を判定する場合、例えば、薬物を患者等に使用する前(例えば手術前、癌性疼痛時等)に採血してアドレナリン受容体遺伝子を含むDNAを単離し、該遺伝子をキット中のオリゴヌクレオチドと反応させて遺伝子型を判定する。
【0089】
また、本発明のキットはアドレナリン受容体遺伝子多型の検出に用いる配列番号39〜46に示す塩基配列からなるプライマーを含んでいてもよい。当該プライマーを用いたアドレナリン受容体遺伝子多型の検出は、例えばPCRにより行う。
【0090】
判定した遺伝子型および遺伝子多型から薬物の種類または用量などの投与計画を作成することができる。その結果、個人に合った薬物効果を得ることができ、オーダーメイド医療に有用となる。例えばモルヒネを使用する場合は、個人に合った鎮痛効果を得、また副作用を最低限に抑えることができる。
【0091】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0092】
<SNP解析およびハプロタイプ構築>
(SNP解析)
ヒト(日本人健常者:121名)の血液から常法によりゲノムDNAを抽出し、ヒトアドレナリン受容体の多数のサブタイプのうち心臓・脳で発現する2つのサブタイプ(ADRB2、ADRB1)について遺伝子多型を同定した。
【0093】
ADRB2サブタイプ遺伝子に関しては、全エクソン領域、5´および3´フランキング領域およびイントロンの一部を解析範囲とした。ADRB2サブタイプ遺伝子は、1つのエクソンより構成され、エクソン1の翻訳領域および5´非翻訳領域にそれぞれ3および1つ、計4つの遺伝子多型を日本人サンプルにおいて同定した。また、5´および3´フランキング領域には23個および37個の遺伝子多型を見出した(図1、図2および表8参照)。連鎖不平衡解析の結果、5´フランキング領域に3つの連鎖不平衡ブロックを、エクソン1領域に1つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に6つの連鎖不平衡ブロックを見出した。この連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135が適切であることが見出された。
【0094】
また、同様に、ADRB1サブタイプ遺伝子に関しても、全エクソン領域、5´および3´フランキング領域およびイントロンの一部を解析範囲とした。ADRB1サブタイプ遺伝子は、1つのエクソンより構成され、エクソン1の翻訳領域に2つ、5´および3´フランキング領域に21個および8個の遺伝子多型を日本人サンプルにおいて同定した(図3、図4および表8参照)。連鎖不平衡解析の結果、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて3つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に1つの連鎖不平衡ブロックを見出した。この連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887が適切であることが見出された。
【0095】
【表8】
【0096】
表8において、アミノ酸置換を引き起こす多型、すなわち遺伝子多型のアレルに依存して翻訳後のアミノ酸の種類が変化する多型は、ADRB2遺伝子のrs1042713のみであった。
【0097】
また、表8において、「マイナーアレル頻度」は、マイナーアレルの割合を意味する。なお、被験者となった健常者の人数は、ADRB1遺伝子のrs1801252およびrs1801253では合計103人、その他の多型に関しては合計121人であった。
【0098】
(ハプロタイプ構築)
ハプロタイプ解析の例として、日本人健常者のアドレナリン受容体遺伝子多型のうち、表8に示すADRB2サブタイプ遺伝子多型である24箇所のSNP、およびADRB1サブタイプ遺伝子多型である12箇所のSNPに関して、Haploviewを用いてハプロタイプを推定した。推定したハプロタイプを表9および表10に示す。
【0099】
【表9】
【0100】
【表10】
【0101】
表9に示すように、日本人健常者におけるADRB2サブタイプ遺伝子多型のハプロタイプは、少なくとも16ハプロタイプが推定され、そのうち3%以上の高頻度でみられるものは3ハプロタイプあった(ハプロタイプ番号H1〜H3)。なお、1%未満の頻度で起こることが推定されるハプロタイプについては、表9のハプロタイプ番号H17にまとめて表記した。
【0102】
また、表10に示すように、日本人健常者におけるADRB1サブタイプ遺伝子多型のハプロタイプは、少なくとも16ハプロタイプが推定され、そのうち3%以上の高頻度でみられるものは7ハプロタイプあった(ハプロタイプ番号H1〜H7)。なお、1%未満の頻度で起こることが推定されるハプロタイプについては、表10のハプロタイプ番号H17にまとめて表記した。
【0103】
表9および表10に示すハプロタイプ解析のハプロタイプ頻度の解析とともに、連鎖不平衡解析を行った。その結果を図1〜図4に示す。図1および図2に、日本人健常者におけるADRB2サブタイプ遺伝子多型間の連鎖不平衡を示す。また、図3および図4に、日本人健常者におけるADRB1サブタイプ遺伝子多型間の連鎖不平衡を示す。
【0104】
連鎖不平衡解析を行った結果(図1〜図4)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。
【0105】
図1において、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´値を計算し、その値の小数点以下2桁の値を図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形に記している。また、連鎖不平衡のより厳しい指標であるr2値についても同様に計算し、その値を図2の同様の四角形に記している。なお、値の無い四角形はD´またはr2の値が1であることを示す。また、図3および図4に関しても同様に表している。
【0106】
図1のD´に着目すると、5´フランキング領域および3´フランキング領域などで、多くの遺伝子多型の組み合わせにおいて、完全連鎖不平衡(D´=1)が確認された。また、図2のr2値に着目しても、いくつかの遺伝子多型が強い連鎖不平衡(r2=1)であることが分かった。これらの連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135が適切であることが分かった。
【0107】
また、図3のD´に着目すると、多くの遺伝子多型の組み合わせにおいて、完全連鎖不平衡(D´=1)が確認された。また、図4のr2値に着目すると、いくつかの遺伝子多型が強い連鎖不平衡(r2=1)であることが分かった。これらの連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887が適切であることが分かった。
【0108】
また、連鎖不平衡解析を行った結果(図1〜図4)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。その結果、図1および図2に示すADRB2サブタイプ遺伝子のSNPについては、5´フランキング領域に3つの連鎖不平衡ブロックを、エクソン1領域に1つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に6つの連鎖不平衡ブロックを確認した。同様に、図3および図4に示すADRB1サブタイプ遺伝子のSNPについては、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて3つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に1つの連鎖不平衡ブロックを確認した。
【実施例2】
【0109】
<ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)と、鎮痛薬投与必要量との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、鎮痛薬投与必要量との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB2サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs11959113)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術後の鎮痛薬投与必要量との相関を解析した。
【0110】
なお、鎮痛薬としては、主にPCA(Patient-controlled analgesia)ポンプにより静脈内投与されるフェンタニルを用いた。
【0111】
その結果、下記表11および図5に示すように、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)でメジャーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術後鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)を解析することにより、鎮痛薬への感受性を予測することができる。
【0112】
なお、術後24時間のフェンタニル投与必要量の中央値2.893(μg)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と定義し、ADRB2遺伝子のrs11959113多型により層別化したところ、この多型においてA/Aの患者群では、22%および78%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群では、56%および44%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定された。
【0113】
【表11】
【実施例3】
【0114】
<ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB2サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs2116719)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0115】
その結果、下記表12および図6に示すように、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)でメジャーアレル(A)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、疼痛感知潜時の測定結果(対数変換)が統計学的に有意に小さかった。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)を解析することにより、疼痛への感受性を予測することができる。
【0116】
なお、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果の中央値14(秒)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と定義し、ADRB2遺伝子のrs2116719多型により層別化したところ、この多型においてA/Aの患者群では、58%および42%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群では、25%および75%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定された。
【0117】
【表12】
【実施例4】
【0118】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた216名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs1801252)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0119】
その結果、下記表13および図7に示すように、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)でメジャーアレル(A)を持たない外科手術を受けた患者群は、当該アレルAを持つ患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時が統計学的に有意に長かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0120】
なお、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果に関して、ADRB1遺伝子のrs1801252多型により層別化したところ、この多型においてA/AまたはA/Gの患者群では、49%および51%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群にでは、0%および100%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定された。
【0121】
【表13】
【実施例5】
【0122】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)と、鎮痛薬感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、鎮痛薬感受性との相関を調べた。外科手術を受けた216名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs1801253)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0123】
その結果、下記表14および図8に示すように、術前のフェンタニル投与前後の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時閾値差の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)でマイナーアレル(G)を持たない外科手術を受けた女性の患者群は、当該アレルGを持つ女性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値差が統計学的に有意に長かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)を解析することにより、鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0124】
なお、女性において、術前のフェンタニル投与前後の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時域値差の測定結果の中央値9(秒)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ鎮痛薬低感受性群および鎮痛薬高感受性群と定義し、ADRB1遺伝子のrs1801253多型により層別化したところ、この多型においてC/Cの患者群では、39%および61%の患者がそれぞれ鎮痛薬低感受性群および鎮痛薬高感受性群と判定されたのに対し、C/GまたはG/Gの患者群では、62.5%および37.5%の患者がそれぞれ鎮痛薬低感受性群および鎮痛薬高感受性群と判定された。
【0125】
【表14】
【実施例6】
【0126】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs6585258)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0127】
その結果、下記表15および図9に示すように、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値が統計学的に有意に短かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0128】
なお、男性において、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果に関して、ADRB1遺伝子のrs6585258多型により層別化したところ、この多型においてG/Gの患者群では、69%および31%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定されたのに対し、T/TまたはT/Gの患者群では、35%および65%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定された。
【0129】
【表15】
【実施例7】
【0130】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs6585258)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術後24時間後の疼痛の強さの尺度(VAS: Visual analogue scale)の測定との相関を解析した。
【0131】
その結果、下記表16および図10に示すように、術後24時間後の疼痛の強さの尺度(VAS)の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、VASの値が統計学的に有意に大きかった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、術後の疼痛または鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0132】
なお、男性において、術後24時間後のVASの中央値25(mm)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ疼痛低感受性群および疼痛高感受性群と定義し、ADRB1遺伝子のrs6585258多型により層別化したところ、この多型においてG/Gの患者群では、30%および70%の患者がそれぞれ疼痛低感受性群および疼痛高感受性群と判定されたのに対し、T/TまたはT/Gの患者群では、64%および36%の患者がそれぞれ疼痛低感受性群および疼痛高感受性群と判定された。
【0133】
【表16】
【実施例8】
【0134】
<SNP解析およびハプロタイプ構築>
(SNP解析)
ヒト(日本人健常者:127名)の血液から常法によりゲノムDNAを抽出し、ヒトアドレナリン受容体の多数のサブタイプのうち、心臓・脳で発現する2つのサブタイプ(ADRA2A)について遺伝子多型を同定した。
【0135】
ADRA2Aサブタイプ遺伝子に関しては、全エクソン領域、5´および3´フランキング領域を解析範囲とした。ADRA2Aサブタイプ遺伝子は、1つのエクソンより構成され、エクソン1の翻訳領域に1つ、5´および3´非翻訳領域にそれぞれ1および2つ、計4つの遺伝子多型を日本人サンプルにおいて同定した。また、5´および3´フランキング領域には13個および46個の遺伝子多型を見出した(図11、図12および表17参照)。連鎖不平衡解析の結果、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて1つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に7つの連鎖不平衡ブロックを見出した。この連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973が適切であることが見出された。
【0136】
【表17】
【0137】
表17において、アミノ酸置換を引き起こす多型、すなわち遺伝子多型のアレルに依存し
て翻訳後のアミノ酸の種類が変化する多型は、存在しなかった。
【0138】
また、表17において、「マイナーアレル頻度」は、マイナーアレルの割合を意味する。
なお、被験者となった健常者の人数は、合計127人であった。
【0139】
(ハプロタイプ構築)
ハプロタイプ解析の例として、日本人健常者のアドレナリン受容体遺伝子多型のうち、
表17に示すADRA2Aサブタイプ遺伝子多型である63箇所のSNPに関して、Haploviewを用いてハプロタイプを推定した。推定し
たハプロタイプを表18に示す。
【0140】
【表18】
【0141】
表18に示すように、日本人健常者におけるADRA2Aサブタイプ遺伝子多型のハプロタイプは、少なくとも27ハプロタイプが推定され、そのうち3%以上の高頻度でみられるものは7ハプロタイプあった(ハプロタイプ番号H1〜H7)。なお、1%未満の頻度で起こることが推定されるハプロタイプについては、表18のハプロタイプ番号H28にまとめて表記した。
【0142】
表18に示すハプロタイプ解析のハプロタイプ頻度の解析とともに、連鎖不平衡解析を行った。その結果として、日本人健常者におけるADRA2Aサブタイプ遺伝子多型間の連鎖不平衡を、図11および図12に示す。
【0143】
連鎖不平衡解析を行った結果(図11および図12)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。
【0144】
図11において、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´値を計算し、その値の小数点以下2桁の値を図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形に記している。また、連鎖不平衡のより厳しい指標であるr2値についても同様に計算し、その値を図12の同様の四角形に記している。なお、値の無い四角形はD´またはr2の値が1であることを示す。
【0145】
図11のD´に着目すると、5´フランキング領域および3´フランキング領域などで、多くの遺伝子多型の組み合わせにおいて、完全連鎖不平衡(D´=1)が確認された。また、図12のr2値に着目しても、いくつかの遺伝子多型が強い連鎖不平衡(r2=1)であることが分かった。これらの連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs990428、rs11195417rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973が適切であることが分かった。
【0146】
また、連鎖不平衡解析を行った結果(図11および図12)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。その結果、図11および図12に示すADRA2Aサブタイプ遺伝子のSNPについては、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて1つの連鎖不平衡ブックを、3´フランキング領域に7つの連鎖不平衡ブロックを確認した。
【実施例9】
【0147】
<ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)と、総鎮痛薬投与必要量との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、総鎮痛薬投与必要量との相関を調べた。外科手術を受けた247名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRA2Aサブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs7088234)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術中・術後の総鎮痛薬投与必要量との相関を解析した。
【0148】
なお、鎮痛薬としては、主にPCA(Patient-controlled analgesia)ポンプにより静脈内投与されるフェンタニルを用いた。
【0149】
その結果、下記表19および図13に示すように、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)マイナーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術中・術後総鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)を解析することにより、鎮痛薬への感受性を予測することができる。
【0150】
なお、術中・術後24時間の総鎮痛薬投与必要量の中央値8.000(μg)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と定義し、ADRA2A遺伝子のrs7088234多型により層別化したところ、この多型においてA/Aの患者群では、54%および46%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群では、32%および68%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定された。
【0151】
【表19】
【実施例10】
【0152】
<ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型と、総鎮痛薬投与必要量、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果との相関>
実施例9と同様にして、アドレナリン受容体遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)と、術中・術後24時間の総鎮痛薬投与必要量、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果との相関を調べた。外科手術を受けた合計361名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRA2Aサブタイプ遺伝子の遺伝子多型(連鎖不平衡ブロック内のTag SNPおよび連鎖不平衡ブロック外の個別SNP)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術中・術後24時間総鎮痛薬投与必要量、術前疼痛感受性、術後24時間後疼痛感受性(VAS)、およびフェンタニルの鎮痛効果との相関を解析した。
【0153】
なお、鎮痛薬としては、主にPCA(Patient-controlled analgesia)ポンプにより静脈内投与されるフェンタニルを用いた。
【0154】
その結果、下記表20に示すように(実施例9の結果もまとめて示す)、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)に関して、術中・術後24時間総鎮痛薬投与必要量、術前疼痛感受性、術後24時間後疼痛感受性(VAS)、およびフェンタニルの鎮痛効果のいずれかの表現型と統計学的に有意な関連を示した。したがって、これらの遺伝子多型を解析することにより、鎮痛薬への感受性、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果を予測することができる。
【0155】
【表20】
【配列表フリーテキスト】
【0156】
配列番号39:合成DNA
配列番号40:合成DNA
配列番号41:合成DNA
配列番号42:合成DNA
配列番号43:合成DNA
配列番号44:合成DNA
配列番号45:合成DNA
配列番号46:合成DNA
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドレナリン受容体(ADR)遺伝子解析により薬物感受性および疾患脆弱性を評価する方法等に関する。具体的には、ADR遺伝子の遺伝子多型または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと個体の薬物感受性および疾患脆弱性とを関連づける、薬物感受性および疾患脆弱性の評価方法等、より具体的には、上記遺伝子多型またはハプロタイプの解析結果に基づいて、個体における薬物感受性および疾患脆弱性の有無の傾向を評価する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛は、医療現場で最も頻繁に見られる病態であり、疾患そのものよりもむしろ、疾患に伴う疼痛の方が患者にとって深刻である場合が多い。痛覚は、生体の警告システムであるという点で重要な役割を有するが、過度の痛みは適切に制御しないとQOL(Quality of Life)を著しく低下させることになる。近年、ペインコントロールの重要性が認識され、疼痛治療を含む緩和医療が飛躍的に進歩しつつあり、各種鎮痛薬の使用機会および使用量は増加傾向にある。
【0003】
これまでに、ヒトの脊髄くも膜下腔にα2アドレナリン受容体作動薬を投与すると鎮痛が得られるなど、アドレナリン受容体を介した鎮痛効果が確認されている(非特許文献1)。また、超短時間作用性β1アドレナリン受容体遮断薬エスモロールは、動物実験においてホルマリンによって引き起こされる疼痛反応を抑制することが報告されている(非特許文献2)。さらに、下行性抑制系の機能的破綻によって起こることが示唆されている糖尿病性ニューロパチーによって起こる神経因性疾痛の症状の治療薬として、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)デュロキセチンが米国で初めて認可された(非特許文献3)。加えて、ラットにα2受容体作動薬またはβ受容体遮断薬を扁桃体分界条床核に投与すると、オピオイドの退薬症状により引き起こされる条件付け場所嫌悪反応(CPA)を緩和し、またホルマリンにより惹起される場所嫌悪反応は、ホルマリン皮下投与の5 分前にモルヒネを扁桃体両側基底外側核に投与することによりほぼ完全に抑制されることなどが報告され、疼痛などに伴う不快情動の惹起・調節にもアドレナリン受容体およびオピオイドがともに関与することが示唆されている(非特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gordh T Jr. et al., Effect of epidural clonidine on spinal cord blood flow and regional and central hemodynamics in pigs, Anesth. Analg., (1986) 65: 1312-1318.
【非特許文献2】Davidson EM. et al., Antinociceptive and cardiovascular properties of esmolol following formalin injection in rats, Can. J. Anaesth., (2001) 48: 59-64.
【非特許文献3】Ikeda, K. et al., Review of duloxetine in the management of diabetic peripheral neuropathic pain, Vasc. Health Risk Manag., (2007) 3:833-844.
【非特許文献4】Delfs JM, et al., Noradrenaline in the ventral forebrain is critical for opiate withdrawal-induced aversion., Nature, (2000) 403:430-434.
【非特許文献5】Deyama, S. et al., Inhibition of glutamatergic transmission by morphine in the basolateral amygdaloid nucleus reduces pain-induced aversion., Neurosci. Res., (2007) 59:199-204.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、薬物感受性または疾患脆弱性、具体的には鎮痛薬投与必要回数、総鎮痛薬量、疼痛感受性、薬物依存脆弱性、および覚せい剤精神病遷延化等に関する薬物感受性または疾患脆弱性の個体差(個体ごとの傾向)を、アドレナリン受容体遺伝子多型等を用いて評価する(予測等する)方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、アドレナリン受容体遺伝子に注目し、従来知見および臨床データに基づいて、鋭意研究を行った。その結果、各種アドレナリン受容体遺伝子多型と、鎮痛薬等の薬物感受性または疼痛感受性を含めた疾患脆弱性との相関関係を解析することにより、いくつかの有用な遺伝子多型を同定した。そして、同定したこれら遺伝子多型間の連鎖不平衡を見出し、さらに薬物感受性または疾患脆弱性との有意な相関を明らかにした。
【0007】
詳しくは、特定のアドレナリン受容体遺伝子多型が異なることによって、鎮痛薬の投与必要量が変化すること及び疼痛感受性の閾値が変化することを明らかにし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1. アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の薬物感受性とを関連づけることを特徴とする、薬物感受性の評価方法。
当該評価方法としては、例えば、前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価することを特徴とする方法が挙げられる。
2.以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子型と薬物感受性との間の関連を解析する工程、および
(3)被験者において薬物感受性と有意に関連した遺伝子多型を薬物感受性の評価に用いる工程
を含む、前項1に記載の方法。
3.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の疾患脆弱性とを関連づけることを特徴とする、疾患脆弱性の評価方法。
当該評価方法としては、例えば、前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価することを特徴とする方法が挙げられる。
4.以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子型と疼痛感受性との間の関連を解析する工程、および
(3)被験者において疼痛感受性と有意に関連した遺伝子多型を疾患脆弱性の評価に用いる工程
を含む、前項3に記載の方法。
5.疾患脆弱性が、薬物感受性・疼痛感受性または薬物依存への脆弱性である、前項3または4に記載の方法。
6.遺伝子多型が、一塩基多型、挿入型多型、欠失型多型および塩基繰り返し多型からなる群から選択される少なくとも1つである、前項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
7.遺伝子多型が、ADRB2遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB2遺伝子(以下同様))のrs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135、ADRB1サブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB1遺伝子(以下同様))のrs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887、並びにADRA2Aサブタイプ遺伝子多型のrs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973から選ばれる少なくとも1つである、前項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
8.ハプロタイプが以下の表に示されるものから選ばれる少なくとも1つである、前項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【0009】
【表1】
【0010】
【表2A】
【0011】
【表2B】
【0012】
9.前項1〜8のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の種類、量および/または投与回数を決定する方法。
10.前項1〜9のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の副作用を予測する方法。
11.薬物が、オピオイド受容体機能修飾薬および/またはアドレナリン受容体機能修飾薬である、前項1、2、5、9および10のいずれか1項に記載の方法。
12.オピオイド受容体機能修飾薬が、メタンフェタミン、メチレンジオキシメタンフェタミン、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、ドパミン、モルヒネ、DAMGO、コデイン、メサドン、カルフェンタニール、フェンタニル、ヘロイン、コカイン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナロルフィン、レバロルファン、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、オキシコドン、ヒドロコドン、レボルファノール、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、トラマドール、ジクロフェナク、インドメタシン、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、プロパノール、ブタノール、フルピルチン、笑気、F3(1-クロロ-1,2,2トリフルオロサイクロブタン)、ハロセン、エストラジオール、ジチオトレイトール、チオリダジン、ピモザイド、フルオキセチン、パロキセチン、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、テトラミド、イソフルレン、ギンセノシド、イフェンプロディール、ブピバカイン、テルチアピン、クロザピン、ハロペリドール、SCH23390およびコカインからなる群から選択される少なくとも1つであり、アドレナリン受容体機能修飾薬が、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、フェニレフリン、ナファゾリン、α‐メチルノルアドレナリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノキサベンズ、グアネチジン、キシラジン、メチルドーパ、ファドルミジン、アミデフリン、アミトラズ、アニソダミン、アプラクロニジン、ブリモニジン、シラゾリン、デトミジン、デクスメデトミジン、エピネフィリン、エチレフリン、インダニジン、ロフェキシジン、メデトミジン、メフェンテルミン、メタラミノール、メトキサミン、ミドドリン、ミバゼロール、ノルフェネフリン、オクトパミン、オキシメタゾリン、フェニルプロパノールアミン、リルメニジン、ロミフィジン、シネフリン、タリペキソール、チザニジン、ダイベナミン、エルゴタミン、エルゴメトリン、フェントラミン、トラゾリン、ブナゾシン、ナフトピジル、プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、タムスロシン、シロドシン、アルフゾシン、トリマゾシン、フェノキシベンザミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、トリミプラミン、α-メチルドパ、ヨヒンビン、エファロキサン、イダゾキサン、ラウオルシン、アチパメゾール、ドブタミン、イソプロテレノール、キサモテロール、エピネフリン、イソプレナリン、サルブタモール(アルブテロール)、レボサルブタモール(レバルブテロール) 、テルブタリン、メタプロテレノール、フェノテロール、ビトルテロール、ピルブテロール、プロカテロール、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、クレンブテロール、イソエタリン、リトドリン、メシル酸ビトルテロール、L-796568、アミベグロン、ソラベグロン、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、ドペキサミン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、プレナルテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、トレトキノール、ツロブテロール、ジルパテロール、ジンテロール、アルプレノロール、ブシンドロール、ソタロール、ボピンドロール、ピンドロール、チモロール、ジクロロイソプレナリン、アルプレノロール、カルテオロール、インデノロール、ブニトロロール、ペンブトロール、プロプラノロール、ナドロール、ニプラジロール、チリソロール、アセブトロール、セリプロロール、メトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、プラクトロール、ベバントロール、エスモロール、ネビボロール、ブトキサミン、ICI-118,551、SR 59230A、メピンドロール、オクスプレノロール、ランジオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ラベタロール、カルベジロール、アロチノロール、アモスラロール、アンフェタミン、ドロキシドパ、チラミン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、アトモキセチン(トモキシチン)、マジンドール、レボキセチン、ビロキサジン、アミネプチン、ブプロピオン、デキサメチルフェニデート、フェンカンファミン、フェンカミン、レフェタミン、メチルフェニデート、ピプラドロール、プロリンタン、ピロバレロン、ジフェメトレックス、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン、ブトリプチリン、デシプラミン、ドスレピン、イミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、ミアンセリン、シクロベンザプリン、メソカルブ、ネファドゾン、ネホパム、シブトラミン、タペンタドール、トラマドール、ジプラシドン、アドヒペリフォリン、ハイパフォリン、コカイン、デスオキシピプラドロール、ジフェニルプロリノール、チレンジオキシピロバレロン、シクラジンドール、エスレボキセチン、マニファキシン、ニソキセチン、ラダファキシン、タンダミン、WYE-103231、1-(Indolin-1-yl)-1-phenyl-3-propan-2-olamines、1- or 3-(3-Amino-2-hydroxy-1-phenyl propyl)-1,3-dihydro-2H-benzimidazol-2-ones、(+)-S-21, thienyl-based、ビシファジン、ブラソフェンシン、ジクロフェンシン、DOV-21,947、DOV-102,677、DOV-216,303、インダトラリン、NS-2359、オキサプロチリン、SEP-225,289、SEP-227,162、テソフェンシンおよびオランダビユからなる群から選択される少なくとも1つである、前項11記載の方法。
13.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうる、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列のうち第51番目の塩基を含む少なくとも10塩基長の塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする、前項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
14.前記オリゴヌクレオチドの長さが10〜150塩基長である、前項13に記載の方法。
15.前記オリゴヌクレオチドが配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択されるオリゴヌクレオチドである、前項13または14に記載の方法。
20.前項1〜15のいずれか1項に記載の方法におけるアドレナリン受容体遺伝子多型の検出に用いる配列番号39〜46のいずれか1つに示される塩基配列からなるプライマー。
21.前項20に記載のプライマーを含む、薬物感受性評価用キット。
22.前項20に記載のプライマーを含む、疾患脆弱性評価用キット。
23.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
24.アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、薬物感受性もしくは疾患脆弱性に関する個人差を評価することができるアドレナリン受容体遺伝子多型または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプ、および当該遺伝子多型もしくはハプロタイプを用いた薬物感受性または疾患脆弱性の評価方法等を提供することができる。この評価方法により、モルヒネ等の麻薬性薬物に関する処方適正量および処方適正スケジュールなどを容易に知ることまたは予測することが可能となり、テーラーメイド疼痛治療および薬物依存治療などに極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ADRB2サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs30312とrs246503との間のD´の計算値は0.98である。
【図2】ADRB2サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるr2の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs30312とrs246503との間のr2の計算値は0.80である。
【図3】ADRB1サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs180914とrs6585256との間のD´の計算値は0.81である。
【図4】ADRB1サブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるr2の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs180914とrs6585256との間のr2の計算値は0.56である。
【図5】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術後24時間の投与必要量(μg/kg)に対するADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図6】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術前の疼痛感受性の測定結果(秒)に対するADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図7】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術前の疼痛感受性の測定結果(秒)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図8】外科手術において鎮痛薬を投与された女性患者における、術前の疼痛感受性閾値差の測定結果(秒)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)の効果(女性の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図9】外科手術において鎮痛薬を投与された男性患者における、術前の疼痛感受性の測定結果(秒)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)の効果(男性の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図10】外科手術において鎮痛薬を投与された男性患者における、術後24時間後のVAS(疼痛の強さ)の測定結果(mm)に対するADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)の効果(男性の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【図11】ADRA2Aサブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs990429とrs491589との間のD´の計算値は0.93である。
【図12】ADRA2Aサブタイプ遺伝子に関して同定された遺伝子多型およびそれらの間の連鎖不平衡を示す概略図。図中、濃色の四角形は連鎖の強いSNPどうしを表す。また、図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形においては、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるr2の計算値のパーセンテージを記している。例えば、rs990429とrs491589との間のr2の計算値は0.86である。
【図13】外科手術において鎮痛薬を投与された患者全体における、術中・術後24時間の総鎮薬投与必要量(μg/kg)に対するADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)の効果(全体の平均±標準誤差)を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2010-198319号明細書の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0016】
1.本発明の概要
(1)アドレナリン受容体
アドレナリン受容体(Adrenergic receptor;ADR)とは、アドレナリン、ノルアドレナリンを始めとするカテコールアミン類によって活性化されるGタンパク共役型の受容体である。心筋、各種平滑筋、脂肪細胞、骨格筋等の他、脳にも存在し、心収縮、各種平滑筋の弛緩、基礎代謝、血管収縮等の他、オピオイド等による鎮痛および疼痛(知覚・情動的側面)にも関与する。
【0017】
オピオイド受容体は、脳幹部の中脳水道周囲灰白質、大縫線核、巨大細胞網様核、傍巨大細胞網様核や脊髄後角、末梢神経などに存在するが、特に中脳水道周囲灰白質のオピオイド作用は、大縫線核からのセロトニン作動性繊維、傍巨大細胞網様核からのノルアドレナリン作動性繊維を介して脊髄後角に至る下行性疼痛抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮する。ノルアドレナリン作動性繊維にはアドレナリン受容体の発現が認められている。
【0018】
ここで、アドレナリン受容体について説明する。アドレナリン受容体は、脳および心臓に多く存在し、神経細胞の興奮性や心拍数の制御において重要な働きをする受容体である。アドレナリン受容体は、細胞膜を7回貫通する構造をとっている。受容体はGタンパク質と共役する。
【0019】
アドレナリン受容体は、2個のサブユニットが合わさって2量体の状態で機能する。受容体サブタイプの種類としては、α(α1、α2)、β(β1、β2、β3)などに大別され、さらにその亜型も知られている。脳ではαサブタイプが強く発現し、βサブタイプも発現する。なお、心臓ではβサブタイプが強く発現する。
【0020】
(2)遺伝子多型
本発明者は、健常者について、アドレナリン受容体を構成しうるα(α1、α2)、β(β1、β2、β3)のサブタイプのうちβサブタイプ(β1、β2)に関して遺伝子多型(SNP等)を同定した(図1〜図4)。また必要により連鎖不平衡解析を行い、連鎖不平衡の強いブロック(ハプロタイプブロック)を同定した。
【0021】
ここで、連鎖平衡とは2つの遺伝子多型間の染色体上の関係が独立な場合をいい、連鎖不平衡とは遺伝子多型と遺伝子多型が連鎖しているためにメンデルの独立の法則による平衡状態から逸脱している場合をいう。また、ハプロタイプとは、一組の対立遺伝子のうちの一方(片方の親に由来する遺伝子)において、相互に近隣する遺伝子や遺伝子多型などの遺伝的構成を意味する。
【0022】
ゲノム上近接する遺伝子多型等はハプロタイプブロックで遺伝する。言い換えれば、ハプロタイプは、このハプロタイプブロック内の、同一遺伝子の並び方の組み合わせであるとも言える。
【0023】
アドレナリン受容体遺伝子において、いくつかの遺伝子多型が、ある表現型に関連して出現する場合は、個々の遺伝子多型を全てタイピングしなくても、ハプロタイプを構成するいくつかの遺伝子多型を解析することによって、患者の遺伝子型と表現型との関連を明らかにすることができる。
【0024】
本発明者は、アドレナリン受容体β2サブタイプ遺伝子について解析した結果、5´および3´フランキング領域には23個および37個の遺伝子多型(表3参照)を、エクソン1の翻訳領域および5´非翻訳領域にそれぞれ3つおよび1つずつ(計4つ)の遺伝子多型(rs1801704、rs1042713、rs1042717およびrs1042718)を見出した(図1および図2参照)。
【0025】
また、β1サブタイプ遺伝子については、5´および3´フランキング領域には21個および8個の遺伝子多型(表3参照)、エクソン1の翻訳領域に2つの遺伝子多型(rs1801252、rs1801253)を見出した(図3および図4参照)。
【0026】
本発明によれば、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを解析することによって、鎮痛薬投与必要回数、総鎮痛薬量、薬物依存脆弱性、および覚せい剤精神病遷延化等の薬物感受性、または疼痛感受性を含めた疾患脆弱性についての個人差を容易に評価することができる。薬物感受性または疾患脆弱性について評価した結果は、個体に投与する薬物の投与回数、投与量および種類などの決定、並びに副作用の予測において重要な情報となる。よって、本発明は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプの解析結果に基づいて、個体(個人)の薬物感受性または疾患脆弱性の有無(詳しくは、遺伝的要因の有無)の傾向を評価する(具体的には、予め知るまたは予測する)方法を提供するものである。また本発明は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体(個人)の薬物感受性または疾患脆弱性の有無(詳しくは、遺伝的要因の有無)の傾向を評価する(具体的には、予め知るまたは予測する)ための、遺伝子多型マーカーを提供するものである。
【0027】
特に、モルヒネや覚醒剤などは、使用方法によっては社会的に大きな問題を生じるため、各個人に適切な投薬量を投薬前に予め知ることまたは予測できることは重要である。そのため、本発明は、テーラーメイド疼痛治療や薬物依存治療において極めて有用であると言える。
【0028】
2.アドレナリン受容体遺伝子多型
本発明のヒトアドレナリン受容体遺伝子多型としては、主に一塩基多型(single nucleotide polymorphism、以下SNPとも呼称する)を含むが、限定はされず、挿入型多型、欠失型多型、および塩基繰り返し多型をも含みうる。
【0029】
一塩基多型[SNP(SNPs)]とは、遺伝子の特定の1塩基が他の塩基に置換することによる遺伝子多型を意味する。挿入/欠失型多型とは、1以上の塩基が欠失/挿入することによる遺伝子多型を意味する。
【0030】
また、塩基繰り返し多型とは塩基配列の繰り返し数の異なることにより生じる遺伝子多型を意味する。塩基繰り返し多型は繰り返す塩基数の違いにより、マイクロサテライト多型(塩基数:2塩基〜4塩基程度)とVNTR(variable number of tandem repeat)多型(繰り返し塩基:数塩基〜数十塩基)に分けられ、その繰り返し数が個々人によって異なる。
【0031】
本発明によって明らかにされたヒトアドレナリン受容体遺伝子多型の情報(日本人健常者のゲノム上で見られたADRB2サブタイプ遺伝子、ADRB1サブタイプ遺伝子およびADRA2Aサブタイプ遺伝子におけるSNP)を、表3Aおよび表3Bに示す。表3Aおよび表3Bに示す遺伝子多型は、本発明のアドレナリン受容体遺伝子多型に含まれる。
【0032】
【表3A】
【0033】
【表3B】
【0034】
表3Aおよび表3Bにおいて、「ADRB2」(斜体表記)は、ADRB2サブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB2遺伝子)を表し、「ADRB1」(斜体表記)は、ADRB1サブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRB1遺伝子)を表し、「ADRA2A」(斜体表記)は、ADRA2Aサブタイプ遺伝子(アドレナリン受容体遺伝子のサブタイプであるADRA2A遺伝子)を表す。
【0035】
「位置」は、アドレナリン受容体遺伝子のゲノム上の位置を意味し、5´フランキング領域、3´フランキング領域、並びにエクソンを表す。
【0036】
「遺伝子多型名」は、ゲノム上の位置におけるSNPの名称であり、dbSNPデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/ からアクセス可能)に登録されたものである(本明細書において同様)。基本的に、4桁以上の数字の前に「rs」のIDが付与され、どのSNPであるかが識別されている。
【0037】
「メジャーアレル」および「マイナーアレル」は、それぞれ日本人健常者のゲノム上での多数派および少数派となるアレルを表す。
【0038】
本発明において遺伝子多型情報を得る方法は、例えば、以下の通りである。
(1)ヒトから採取した血液検体から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。
(2)次に、得られたゲノムDNAを鋳型として、PCR法によりゲノムDNAをいくつかに分けて増幅し、シークエンス用の鋳型DNAとする。本発明は、遺伝子多型を対象とするため、PCR法に用いる酵素はなるべくFidelity(忠実度)の高いものを用いることが望ましい。
(3)アドレナリン受容体遺伝子の各遺伝子多型周辺の領域を、GenBankに公開されている配列情報に基づいて設計したプライマーを用いて約500〜1000bpずつPCRにより増幅を行う。
(4)これらのPCR断片の全領域の塩基配列を、GenBankに公開されている配列情報に基づいて設計したプライマーを用いて約500〜700bpずつシークエンス法により解読し、目的の遺伝子多型情報を得ることができる。
【0039】
本発明において遺伝子多型情報を得る別の方法は、以下の通りである。
(1)ヒトから採取した血液検体から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。
(2)次に、得られたゲノムDNAをTE buffer(10 mM tris-HCl, 1 mM EDTA, pH 8.0)に溶解し、100 ng/μlに調整する。
(3)イルミナ社製、iScanシステム(Illumina, San Diego, CA)を利用したInfinium assay II法などにより、メーカー側のプロトコルに従い全ゲノムジェノタイピングを行う。
(4)BeadStudio Genotyping module v3.3.7(Illumina)などを用いて全ゲノムジェノタイピングデータ解析を行い、各サンプルの遺伝子多型データの品質評価(Quality control)を行う。
(5)これらの全ゲノムジェノタイピングデータより、目的の遺伝子名のアノテーション情報を手掛かりにしてその遺伝子領域およびフランキング領域に含まれる遺伝子多型を選定し、BeadStudio Genotyping module v3.3.7(Illumina)などの出力機能を用いてそれらの遺伝子多型情報を全て抽出する。
【0040】
本発明は、アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうる、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135 )、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887)、並びにADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973)のいずれか1つを含むオリゴヌクレオチドを提供する。当該伝子多型部位は、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列の第51番目の塩基である。
【0041】
本発明のオリゴヌクレオチドの塩基は、少なくとも10塩基、好ましくは10〜150塩基、より好ましくは10〜45塩基、さらに好ましくは14〜25塩基を有することが好ましい。
【0042】
本発明のオリゴヌクレオチドとしては、例えば上記のアドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含有する、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列から選択されるオリゴヌクレオチドが挙げられる(表4A、表4B)。
【0043】
本発明のオリゴヌクレオチドは、5.で後述するアドレナリン受容体遺伝子多型の検出において、アドレナリン受容体遺伝子特異的なプローブおよびプライマーとして用いることができる。
【0044】
【表4A】
【0045】
【表4B】
【0046】
表4Aおよび表4B(配列番号1〜38および47〜76)には101塩基が表示されており、その51番目に遺伝子多型部位を表示してある。例えば、「A/G」と表示したものは「A」と「G」の遺伝子多型であることを意味し、「C/T」は「C」と「T」の遺伝子多型であることを意味する。
【0047】
3.ハプロタイプ解析
本発明においては、上記遺伝子多型のうちSNPを用いてハプロタイプを構築することができる。ハプロタイプ解析の対象となるSNPは、その遺伝子多型頻度が0.5%以上のものであればよく、好ましくは1%、より好ましくは5%以上のものを選択することができる。また、ハプロタイプ解析の対象となるSNPは、全部であってもその一部であってもよい。
【0048】
ハプロタイプ解析は、種々のコンピュータープログラムで解析することが可能であり、例えば、Haploview(http://www.broadinstitute.org/haploview/haploviewのウェブサイトから入手可能(以下同様);Barrett JC, Fry B, Maller J, Daly MJ. Haploview: analysis andvisualization of LD and haplotype maps. Bioinformatics. 2005Jan 15 [PubMed ID: 15297300] Whitehead Institute for Biomedical Research Cambridge, MA 02142, USA.)を用いることができる。
【0049】
ハプロタイプ解析の例として、上記2.において見出した日本人健常者のアドレナリン受容体遺伝子多型のうち、ADRB2サブタイプ遺伝子多型である24箇所のSNP、ADRB1サブタイプ遺伝子多型である12箇所のSNP、およびADRA2Aサブタイプ遺伝子多型である30箇所のSNPに関して、Haploviewを用いてハプロタイプを推定した。推定したハプロタイプをそれぞれ表5、表6Aおよび表6Bに示す。
【0050】
【表5】
【0051】
【表6A】
【0052】
【表6B】
【0053】
さらに、集団における各個人のアドレナリン受容体(ADR)遺伝子についての遺伝子型情報から、該集団におけるハプロタイプ頻度を算出し、当該ハプロタイプ頻度をもとにして連鎖不平衡解析を行うことができる。連鎖不平衡の尺度を示す値であるD´値およびr2値は、以下の定義に基づき算出することができる。
【0054】
定義:
SNP AとSNP Bとがあり、それぞれのアレルをA、aとB、bとする。SNP AとSNP Bとが作る4つのハプロタイプをAB、Ab、aB、abとし、それぞれのハプロタイプ頻度をPAB、PAb、PaB、Pabとすると、
D=PAB×Pab-PAb×PaB(D>0のとき)
D´=(PAB×Pab-PAb×PaB)/Minimum(((PAB+PaB)×(PaB+Pab)),((PAB+PAb)×(PAb+Pab)))(D<0のとき)
D´=(PAB×Pab-PAb×PaB)/Minimum(((PAB+PaB)×(PAB+PAb)),((PaB+Pab)×(PAb+Pab)))
r2=(PAB×Pab-PAb×PaB)2/[(PAB+PAb)(PAB+PaB)(PaB+Pab)(PAb+Pab)][但し、Minimum(((PAB+PaB)×(PaB+Pab)),((PAB+PAb)×(PAb+Pab)))は、(PAB+PaB)×(PaB+Pab)と(PAB+PAb)×(PAb+Pab)との内、値の小さい方をとることを意味する。]
【0055】
さらに、連鎖不平衡解析を行った結果からハプロタイプブロックを推定することができる。ハプロタイプブロックは、ハプロタイプ解析の結果から、例えば、Haploviewを用いて連鎖ブロックを推定することができる。
【0056】
推定されたハプロタイプブロック中の特定のSNPを調べると、間接的に同一ブロック内で連鎖しているSNPの情報を知ることができる。つまり、アドレナリン受容体遺伝子(詳しくはADRB2サブタイプ遺伝子、ADRB1サブタイプ遺伝子またはADRA2Aサブタイプ遺伝子)の遺伝子多型を調べる際に、すべてのSNPを解析する必要はなく、特定のいくつかのSNPについてのみタイピングを行えばよい。
【0057】
4.アドレナリン受容体遺伝子多型と薬物感受性または疾患脆弱性との相関
アドレナリン受容体遺伝子に遺伝子多型が生じると、アドレナリン受容体の機能や発現量が変化する場合があると考えられる。従って、アドレナリン受容体遺伝子多型と、アドレナリン受容体に関するさまざまな表現型とは相関関係にある場合がある。
【0058】
ここで、表現型とは、薬物の感受性に関する表現型(薬物感受性)と、疾患の発症に関する表現型(疾患脆弱性)とを挙げることができる。薬物感受性としては、薬物の有効性、薬物の副作用、薬物の有効持続期間等が挙げられる。また、疾患脆弱性としては、疼痛感受性、薬物依存への脆弱性等が挙げられる。
【0059】
前記薬物としては、限定はされないが、オピオイド受容体機能修飾薬およびアドレナリン受容体機能修飾薬等が好ましく挙げられ、例えば、オピオイド受容体またはアドレナリン受容体に直接的または間接的に作用する各種薬物が挙げられる。オピオイド受容体に直接的または間接的に作用する各種薬物としては、具体的には、メタンフェタミン等の覚醒剤、ドパミン受容体作動薬、ドパミン受容体拮抗薬、μ、κ、δオピオイド受容体作動薬、μ、κ、δオピオイド受容体拮抗薬等を挙げることができる。アドレナリン受容体に直接的または間接的に作用する各種薬物としては、具体的には、ノルアドレナリン等のカテコールアミン、三環系および四環系抗うつ薬、選択的ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(NRIs)、ノルエピネフリン・ドパミン再取り込み阻害薬(NDRIs)、セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRIs)、セロトニン・ノルエピネフリン・ドパミン再取り込み阻害薬(SNDRIs)、アンフェタミン等の覚醒剤、オランダビユなどの天然資源、α1、α2、β1、β2、β3アドレナリン受容体作動薬、α1、α2、β1、β2、β3アドレナリン受容体拮抗薬等を挙げることができる。
【0060】
オピオイド受容体機能修飾薬としては、例えば、モルヒネ、DAMGO、コデイン、メサドン、カルフェンタニール、フェンタニル、ヘロイン、コカイン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナロルフィン、レバロルファン、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、オキシコドン、ヒドロコドン、レボルファノール、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、トラマドール、ジクロフェナク、インドメタシン、フルルビプロフェンアキセチル、マーカイン、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、プロパノール、ブタノール、フルピルチン、笑気、F3(1-クロロ-1,2,2トリフルオロサイクロブタン)、ハロセン、エストラジオール、ジチオトレイトール、チオリダジン、ピモザイド、フルオキセチン、パロキセチン、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、テトラミド、イソフルレン、ギンセノシド、イフェンプロディール、ブピバカイン、テルチアピン、クロザピン、ハロペリドール、SCH23390およびコカイン等が挙げられ、特にモルヒネ、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、ジクロフェナク、インドメタシン、フルルビプロフェンアキセチル、マーカインが好ましく、モルヒネ、フェンタニルおよびペンタゾシンがより好ましい。
【0061】
アドレナリン受容体機能修飾薬としては、例えば、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、フェニレフリン、ナファゾリン、α‐メチルノルアドレナリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノキサベンズ、グアネチジン、キシラジン、メチルドーパ、ファドルミジン、アミデフリン、アミトラズ、アニソダミン、アプラクロニジン、ブリモニジン、シラゾリン、デトミジン、デクスメデトミジン、エピネフィリン、エチレフリン、インダニジン、ロフェキシジン、メデトミジン、メフェンテルミン、メタラミノール、メトキサミン、ミドドリン、ミバゼロール、ノルフェネフリン、オクトパミン、オキシメタゾリン、フェニルプロパノールアミン、リルメニジン、ロミフィジン、シネフリン、タリペキソール、チザニジン、ダイベナミン、エルゴタミン、エルゴメトリン、フェントラミン、トラゾリン、ブナゾシン、ナフトピジル、プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、タムスロシン、シロドシン、アルフゾシン、トリマゾシン、フェノキシベンザミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、トリミプラミン、α-メチルドパ、ヨヒンビン、エファロキサン、イダゾキサン、ラウオルシン、アチパメゾール、ドブタミン、イソプロテレノール、キサモテロール、エピネフリン、イソプレナリン、サルブタモール(アルブテロール)、レボサルブタモール(レバルブテロール) 、テルブタリン、メタプロテレノール、フェノテロール、ビトルテロール、ピルブテロール、プロカテロール、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、クレンブテロール、イソエタリン、リトドリン、メシル酸ビトルテロール、L-796568、アミベグロン、ソラベグロン、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、ドペキサミン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、プレナルテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、トレトキノール、ツロブテロール、ジルパテロール、ジンテロール、アルプレノロール、ブシンドロール、ソタロール、ボピンドロール、ピンドロール、チモロール、ジクロロイソプレナリン、アルプレノロール、カルテオロール、インデノロール、ブニトロロール、ペンブトロール、プロプラノロール、ナドロール、ニプラジロール、チリソロール、アセブトロール、セリプロロール、メトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、プラクトロール、ベバントロール、エスモロール、ネビボロール、ブトキサミン、ICI-118,551、SR 59230A、メピンドロール、オクスプレノロール、ランジオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ラベタロール、カルベジロール、アロチノロール、アモスラロール、アンフェタミン、ドロキシドパ、チラミン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、アトモキセチン(トモキシチン)、マジンドール、レボキセチン、ビロキサジン、アミネプチン、ブプロピオン、デキサメチルフェニデート、フェンカンファミン、フェンカミン、レフェタミン、メチルフェニデート、ピプラドロール、プロリンタン、ピロバレロン、ジフェメトレックス、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン、ブトリプチリン、デシプラミン、ドスレピン、イミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、ミアンセリン、シクロベンザプリン、メソカルブ、ネファドゾン、ネホパム、シブトラミン、タペンタドール、トラマドール、ジプラシドン、アドヒペリフォリン、ハイパフォリン、コカイン、デスオキシピプラドロール、ジフェニルプロリノール、チレンジオキシピロバレロン、シクラジンドール、エスレボキセチン、マニファキシン、ニソキセチン、ラダファキシン、タンダミン、WYE-103231、1-(Indolin-1-yl)-1-phenyl-3-propan-2-olamines、1- or 3-(3-Amino-2-hydroxy-1-phenyl propyl)-1,3-dihydro-2H-benzimidazol-2-ones、(+)-S-21, thienyl-based、ビシファジン、ブラソフェンシン、ジクロフェンシン、DOV-21,947、DOV-102,677、DOV-216,303、インダトラリン、NS-2359、オキサプロチリン、SEP-225,289、SEP-227,162、テソフェンシンおよびオランダビユがより好ましい。
【0062】
アドレナリン受容体遺伝子多型と表現型との相関は、例えば、以下の(1)〜(4)のように調べることができる。
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析の結果、推定された連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する。例えば、代表的な遺伝子多型であるTag SNPを表現型との相関解析用のアドレナリン受容体遺伝子多型として選択する。
(2)次に、被験者(患者)における該遺伝子多型についての遺伝子多型頻度を解析する。遺伝子多型と疾患脆弱性との相関を調べる場合、被験者と健常者の遺伝子多型頻度との比較を行う。比較においてはχ2乗検定などの統計手法を用いることが有効である。
ここで、さらに、表現型の違いにより被験者を分類し、分類毎に健常者と被験者の遺伝子多型頻度や遺伝子型を比較してもよい。疾患の発症に関する表現型が覚醒剤精神病様症状の場合、例えば、覚醒剤の使用開始から妄想・幻覚を発症するまでの期間、使用停止後に妄想・幻覚が持続する期間、再燃性の有無、多剤乱用の有無で分類できる。
(3)被験者において薬物感受性と有意に関連した遺伝子多型があれば、該遺伝子多型を薬物感受性の遺伝的素因の評価に用いることができる。また、健常者と被験者との間で遺伝子多型頻度に有意差のある遺伝子多型があれば、該遺伝子多型を疾患脆弱性の遺伝的素因の評価に用いることができる。
【0063】
ただし、遺伝子多型の傾向は、人種や出身地等に影響されることが示唆されているため、関連する遺伝子多型(例えばSNP)を見出すのに用いた母集団と同様な遺伝子多型を示す集団おいて、当該遺伝子多型を用いる上記評価を行うことが望ましい。
【0064】
アドレナリン受容体遺伝子多型と表現型との相関の具体例を以下の(1)〜(8)に示す。
(1)術後24時間鎮痛薬投与必要量の測定結果との相関において、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)でメジャーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術後鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)を解析することにより、鎮痛薬への感受性をより容易に予測することができる。
【0065】
(2)術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)でのマイナーアレル(G)の保有と、疼痛感知潜時とは、有意な関連を示した。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0066】
(3)術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)でメジャーアレル(A)を持たない外科手術を受けた患者群は、当該アレルAを持つ患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時が統計学的に有意に長かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0067】
(4)術前のフェンタニル投与前後の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時閾値差の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)でマイナーアレル(G)を持たない外科手術を受けた女性の患者群は、当該アレルGを持つ女性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値差が統計学的に有意に大きかった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)を解析することにより、鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0068】
(5)術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値が統計学的に有意に短かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0069】
(6)術後24時間後の疼痛の強さの尺度(VAS: Visual analogue scale)の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、VASの値が統計学的に有意に大きかった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、術後の疼痛または鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0070】
(7)術後24時間総鎮痛薬投与必要量の測定結果との相関において、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)でマイナーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術中・術後総鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)を解析することにより、鎮痛薬への感受性をより容易に予測することができる。
【0071】
(8)その他の遺伝子多型も含め、いくつかのADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)に関して、術中・術後24時間総鎮痛薬投与必要量、術前疼痛感受性、術後24時間後疼痛感受性(VAS)、およびフェンタニルの鎮痛効果のいずれかの表現型と、統計学的に有意な関連を示した。したがって、これらの遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)を解析することにより、鎮痛薬への感受性、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果をより容易に予測することができる。
【0072】
5.解析結果の利用
上記4のように解析されたアドレナリン受容体遺伝子多型と表現型との相関は、オピオイド受容体およびアドレナリン受容体に関する様々な薬物および疼痛の感受性を予測する方法、オピオイド受容体およびアドレナリン受容体に関する疾患の治療または予防法を選択する方法、または治療用の薬物の適正投与量を決定する方法、副作用を予測する方法などの指標として利用することができる。
【0073】
また、本発明の遺伝子多型または方法を用いて、人種の違いによる薬物感受性または疾患脆弱性を評価することが可能である。対象者は特に限定されるものではなく、日本人、欧米人などが挙げられるが、本発明においては日本人または日本人と同様の遺伝子多型傾向を有する者であることが好ましい。
【0074】
6.遺伝子多型の検出
被験対象者からのゲノム試料は、血液、唾液、皮膚等から抽出することができるが、ゲノム試料を採取できるものであれば、これに限定されるものではない。ゲノムDNAの抽出および精製法は周知である。例えば、ヒトから採取した血液、唾液、皮膚等の検体から、フェノール法等を用いてゲノムDNAを精製する。その際、GFX Genomic Blood DNA Purification Kit(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社製)等の市販のゲノムDNA抽出キットや装置を用いてもよい。検出するSNPがエクソン中にある場合は、ゲノムDNAの代わりにmRNAやtotal RNAを抽出してもよい。
【0075】
ゲノム試料中のアドレナリン受容体遺伝子多型の検出には、上記した本発明のオリゴヌクレオチドをプローブおよびプライマーとして用いることができる。以下、遺伝子多型検出法の一例を示す。
【0076】
(1)PCR法による遺伝子多型の検出
PCRにより被験サンプルを増幅するには、忠実度の高いDNAポリメラーゼ、例えば、KOD Dashポリメラーゼ(TOYOBO社製)を用いることが好ましい。用いるプライマーは、被験サンプル中の対象SNPを増幅できるように設計し合成する。上流および下流側のプライマーの間の任意の位置に遺伝子多型またはその相補鎖が含まれるのが好ましい。増幅反応終了後は、増幅産物の検出を行い、シークエンス法などにより遺伝子多型の有無を判定する。
【0077】
本発明の方法に用いることのできるプライマーとして、例えば、下記表7に示すプライマーが好適に挙げられる。
【0078】
【表7】
【0079】
(2)塩基配列決定法による遺伝子多型の検出
ジデオキシ法に基づく塩基配列決定法により本発明の遺伝子多型を検出することもできる。塩基配列決定に用いるシークエンサーには、市販のABIシリーズ(アプライドバイオシステムズ(ライフテクノロジーズ))を用いることができる。
【0080】
(3)DNAマイクロアレイによる遺伝子多型の検出
DNAマイクロアレイは、支持体上にオリゴヌクレオチドプローブが固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。まず、被験サンプルのポリヌクレオチドを単離し、PCRにより増幅し、蛍光レポーター基により標識する。続いて、標識化DNA/mRNA、total RNAをアレイと共にインキュベートする。
【0081】
次に前記アレイをスキャナーに差し込み、ハイブリダイゼーションパターンを検出する。ハイブリダイゼーションのデータは、プローブアレイに結合した(すなわち標的配列に取り込まれた)蛍光レポーター基からの発光として採集する。標的配列と完全に一致したプローブは、標的配列と一致していない部分を有するものよりも強いシグナルを生じる。アレイ上の各プローブの配列および位置は分かっているため、相補性によって、プローブアレイと反応させた標的ポリヌクレオチドの配列を決定することができる。
【0082】
(4)TaqMan PCR法による遺伝子多型の検出
TaqMan PCR法は、蛍光標識したアレル特異的オリゴヌクレオチド(TaqManプローブとも言う(とTaq DNAポリメラーゼによるPCRとを利用する方法である。アレル特異的オリゴヌクレオチドとは、遺伝子多型部位を含むオリゴヌクレオチドである。TaqMan PCR法で用いるアレル特異的オリゴヌクレオチドは、前記遺伝子多型情報に基づいて設計することができる。
【0083】
(5)インベーダー法による遺伝子多型の検出
インベーダー法は、アレル特異的オリゴヌクレオチドと鋳型とをハイブリダイゼーションすることにより遺伝子多型を検出する方法である。インベーダー法を行うためのキットは市販されており(例えばNano Invader(R) Array(ビー・エム・エル社製))、この方法により容易に遺伝子多型を検出することが可能である。
【0084】
7.キット
本発明は、薬物・疼痛感受性または疾患脆弱性を評価するためのキットを提供する。本発明の遺伝子多型検出用キットは、本発明を実施するために必要な1種以上の成分を含む。
【0085】
例えば、本発明のキットは、酵素を保存若しくは供給するためのもの、および/または遺伝子多型検出を実施するために必要な反応成分を含むことが好ましい。当該成分としては、限定されるものではないが、例えば、本発明のオリゴヌクレオチド、酵素緩衝液、dNTP、コントロール用試薬(例えば、組織サンプル、ポジティブおよびネガティブコントロール用標的オリゴヌクレオチドなど)、標識用および/または検出用試薬、固相支持体、説明書などが挙げられる。また本発明のキットは、必要な成分のうちの一部のみを含む部分的キットであってもよく、その場合には、ユーザーが他の成分を用意することができる。
【0086】
本発明のキットは、上記オリゴヌクレオチドを支持体に固定したマイクロアレイとして提供することもできる。マイクロアレイは、支持体上に本発明のオリゴヌクレオチドが固定されたものであり、DNAチップ、Geneチップ、マイクロチップ、ビーズアレイなどを含む。
【0087】
本発明のキットは、本発明において見出されたアドレナリン受容体遺伝子多型を含み、当該遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチドを含むことが好ましい。
【0088】
本発明のキットにより遺伝子多型を判定する場合、例えば、薬物を患者等に使用する前(例えば手術前、癌性疼痛時等)に採血してアドレナリン受容体遺伝子を含むDNAを単離し、該遺伝子をキット中のオリゴヌクレオチドと反応させて遺伝子型を判定する。
【0089】
また、本発明のキットはアドレナリン受容体遺伝子多型の検出に用いる配列番号39〜46に示す塩基配列からなるプライマーを含んでいてもよい。当該プライマーを用いたアドレナリン受容体遺伝子多型の検出は、例えばPCRにより行う。
【0090】
判定した遺伝子型および遺伝子多型から薬物の種類または用量などの投与計画を作成することができる。その結果、個人に合った薬物効果を得ることができ、オーダーメイド医療に有用となる。例えばモルヒネを使用する場合は、個人に合った鎮痛効果を得、また副作用を最低限に抑えることができる。
【0091】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0092】
<SNP解析およびハプロタイプ構築>
(SNP解析)
ヒト(日本人健常者:121名)の血液から常法によりゲノムDNAを抽出し、ヒトアドレナリン受容体の多数のサブタイプのうち心臓・脳で発現する2つのサブタイプ(ADRB2、ADRB1)について遺伝子多型を同定した。
【0093】
ADRB2サブタイプ遺伝子に関しては、全エクソン領域、5´および3´フランキング領域およびイントロンの一部を解析範囲とした。ADRB2サブタイプ遺伝子は、1つのエクソンより構成され、エクソン1の翻訳領域および5´非翻訳領域にそれぞれ3および1つ、計4つの遺伝子多型を日本人サンプルにおいて同定した。また、5´および3´フランキング領域には23個および37個の遺伝子多型を見出した(図1、図2および表8参照)。連鎖不平衡解析の結果、5´フランキング領域に3つの連鎖不平衡ブロックを、エクソン1領域に1つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に6つの連鎖不平衡ブロックを見出した。この連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135が適切であることが見出された。
【0094】
また、同様に、ADRB1サブタイプ遺伝子に関しても、全エクソン領域、5´および3´フランキング領域およびイントロンの一部を解析範囲とした。ADRB1サブタイプ遺伝子は、1つのエクソンより構成され、エクソン1の翻訳領域に2つ、5´および3´フランキング領域に21個および8個の遺伝子多型を日本人サンプルにおいて同定した(図3、図4および表8参照)。連鎖不平衡解析の結果、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて3つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に1つの連鎖不平衡ブロックを見出した。この連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887が適切であることが見出された。
【0095】
【表8】
【0096】
表8において、アミノ酸置換を引き起こす多型、すなわち遺伝子多型のアレルに依存して翻訳後のアミノ酸の種類が変化する多型は、ADRB2遺伝子のrs1042713のみであった。
【0097】
また、表8において、「マイナーアレル頻度」は、マイナーアレルの割合を意味する。なお、被験者となった健常者の人数は、ADRB1遺伝子のrs1801252およびrs1801253では合計103人、その他の多型に関しては合計121人であった。
【0098】
(ハプロタイプ構築)
ハプロタイプ解析の例として、日本人健常者のアドレナリン受容体遺伝子多型のうち、表8に示すADRB2サブタイプ遺伝子多型である24箇所のSNP、およびADRB1サブタイプ遺伝子多型である12箇所のSNPに関して、Haploviewを用いてハプロタイプを推定した。推定したハプロタイプを表9および表10に示す。
【0099】
【表9】
【0100】
【表10】
【0101】
表9に示すように、日本人健常者におけるADRB2サブタイプ遺伝子多型のハプロタイプは、少なくとも16ハプロタイプが推定され、そのうち3%以上の高頻度でみられるものは3ハプロタイプあった(ハプロタイプ番号H1〜H3)。なお、1%未満の頻度で起こることが推定されるハプロタイプについては、表9のハプロタイプ番号H17にまとめて表記した。
【0102】
また、表10に示すように、日本人健常者におけるADRB1サブタイプ遺伝子多型のハプロタイプは、少なくとも16ハプロタイプが推定され、そのうち3%以上の高頻度でみられるものは7ハプロタイプあった(ハプロタイプ番号H1〜H7)。なお、1%未満の頻度で起こることが推定されるハプロタイプについては、表10のハプロタイプ番号H17にまとめて表記した。
【0103】
表9および表10に示すハプロタイプ解析のハプロタイプ頻度の解析とともに、連鎖不平衡解析を行った。その結果を図1〜図4に示す。図1および図2に、日本人健常者におけるADRB2サブタイプ遺伝子多型間の連鎖不平衡を示す。また、図3および図4に、日本人健常者におけるADRB1サブタイプ遺伝子多型間の連鎖不平衡を示す。
【0104】
連鎖不平衡解析を行った結果(図1〜図4)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。
【0105】
図1において、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´値を計算し、その値の小数点以下2桁の値を図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形に記している。また、連鎖不平衡のより厳しい指標であるr2値についても同様に計算し、その値を図2の同様の四角形に記している。なお、値の無い四角形はD´またはr2の値が1であることを示す。また、図3および図4に関しても同様に表している。
【0106】
図1のD´に着目すると、5´フランキング領域および3´フランキング領域などで、多くの遺伝子多型の組み合わせにおいて、完全連鎖不平衡(D´=1)が確認された。また、図2のr2値に着目しても、いくつかの遺伝子多型が強い連鎖不平衡(r2=1)であることが分かった。これらの連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135が適切であることが分かった。
【0107】
また、図3のD´に着目すると、多くの遺伝子多型の組み合わせにおいて、完全連鎖不平衡(D´=1)が確認された。また、図4のr2値に着目すると、いくつかの遺伝子多型が強い連鎖不平衡(r2=1)であることが分かった。これらの連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887が適切であることが分かった。
【0108】
また、連鎖不平衡解析を行った結果(図1〜図4)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。その結果、図1および図2に示すADRB2サブタイプ遺伝子のSNPについては、5´フランキング領域に3つの連鎖不平衡ブロックを、エクソン1領域に1つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に6つの連鎖不平衡ブロックを確認した。同様に、図3および図4に示すADRB1サブタイプ遺伝子のSNPについては、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて3つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に1つの連鎖不平衡ブロックを確認した。
【実施例2】
【0109】
<ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)と、鎮痛薬投与必要量との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、鎮痛薬投与必要量との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB2サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs11959113)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術後の鎮痛薬投与必要量との相関を解析した。
【0110】
なお、鎮痛薬としては、主にPCA(Patient-controlled analgesia)ポンプにより静脈内投与されるフェンタニルを用いた。
【0111】
その結果、下記表11および図5に示すように、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)でメジャーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術後鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs11959113)を解析することにより、鎮痛薬への感受性を予測することができる。
【0112】
なお、術後24時間のフェンタニル投与必要量の中央値2.893(μg)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と定義し、ADRB2遺伝子のrs11959113多型により層別化したところ、この多型においてA/Aの患者群では、22%および78%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群では、56%および44%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定された。
【0113】
【表11】
【実施例3】
【0114】
<ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB2サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs2116719)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0115】
その結果、下記表12および図6に示すように、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)でメジャーアレル(A)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、疼痛感知潜時の測定結果(対数変換)が統計学的に有意に小さかった。したがって、ADRB2サブタイプ遺伝子多型(rs2116719)を解析することにより、疼痛への感受性を予測することができる。
【0116】
なお、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果の中央値14(秒)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と定義し、ADRB2遺伝子のrs2116719多型により層別化したところ、この多型においてA/Aの患者群では、58%および42%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群では、25%および75%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定された。
【0117】
【表12】
【実施例4】
【0118】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた216名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs1801252)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0119】
その結果、下記表13および図7に示すように、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)でメジャーアレル(A)を持たない外科手術を受けた患者群は、当該アレルAを持つ患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時が統計学的に有意に長かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801252)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0120】
なお、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果に関して、ADRB1遺伝子のrs1801252多型により層別化したところ、この多型においてA/AまたはA/Gの患者群では、49%および51%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群にでは、0%および100%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定された。
【0121】
【表13】
【実施例5】
【0122】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)と、鎮痛薬感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、鎮痛薬感受性との相関を調べた。外科手術を受けた216名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs1801253)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0123】
その結果、下記表14および図8に示すように、術前のフェンタニル投与前後の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時閾値差の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)でマイナーアレル(G)を持たない外科手術を受けた女性の患者群は、当該アレルGを持つ女性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値差が統計学的に有意に長かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs1801253)を解析することにより、鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0124】
なお、女性において、術前のフェンタニル投与前後の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時域値差の測定結果の中央値9(秒)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ鎮痛薬低感受性群および鎮痛薬高感受性群と定義し、ADRB1遺伝子のrs1801253多型により層別化したところ、この多型においてC/Cの患者群では、39%および61%の患者がそれぞれ鎮痛薬低感受性群および鎮痛薬高感受性群と判定されたのに対し、C/GまたはG/Gの患者群では、62.5%および37.5%の患者がそれぞれ鎮痛薬低感受性群および鎮痛薬高感受性群と判定された。
【0125】
【表14】
【実施例6】
【0126】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs6585258)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定との相関を解析した。
【0127】
その結果、下記表15および図9に示すように、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、手指氷水浸漬における疼痛感知潜時閾値が統計学的に有意に短かった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、疼痛に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0128】
なお、男性において、術前の手指氷水浸漬による疼痛感知潜時の測定結果に関して、ADRB1遺伝子のrs6585258多型により層別化したところ、この多型においてG/Gの患者群では、69%および31%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定されたのに対し、T/TまたはT/Gの患者群では、35%および65%の患者がそれぞれ疼痛高感受性群および疼痛低感受性群と判定された。
【0129】
【表15】
【実施例7】
【0130】
<ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)と、疼痛感受性との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、疼痛感受性との相関を調べた。外科手術を受けた234名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRB1サブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs6585258)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術後24時間後の疼痛の強さの尺度(VAS: Visual analogue scale)の測定との相関を解析した。
【0131】
その結果、下記表16および図10に示すように、術後24時間後の疼痛の強さの尺度(VAS)の測定結果との相関において、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)でマイナーアレル(T)を持たない外科手術を受けた男性の患者群は、当該アレルTを持つ男性の患者群と比較して、VASの値が統計学的に有意に大きかった。したがって、ADRB1サブタイプ遺伝子多型(rs6585258)を解析することにより、術後の疼痛または鎮痛薬に対する感受性をより容易に予測することができる。
【0132】
なお、男性において、術後24時間後のVASの中央値25(mm)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ疼痛低感受性群および疼痛高感受性群と定義し、ADRB1遺伝子のrs6585258多型により層別化したところ、この多型においてG/Gの患者群では、30%および70%の患者がそれぞれ疼痛低感受性群および疼痛高感受性群と判定されたのに対し、T/TまたはT/Gの患者群では、64%および36%の患者がそれぞれ疼痛低感受性群および疼痛高感受性群と判定された。
【0133】
【表16】
【実施例8】
【0134】
<SNP解析およびハプロタイプ構築>
(SNP解析)
ヒト(日本人健常者:127名)の血液から常法によりゲノムDNAを抽出し、ヒトアドレナリン受容体の多数のサブタイプのうち、心臓・脳で発現する2つのサブタイプ(ADRA2A)について遺伝子多型を同定した。
【0135】
ADRA2Aサブタイプ遺伝子に関しては、全エクソン領域、5´および3´フランキング領域を解析範囲とした。ADRA2Aサブタイプ遺伝子は、1つのエクソンより構成され、エクソン1の翻訳領域に1つ、5´および3´非翻訳領域にそれぞれ1および2つ、計4つの遺伝子多型を日本人サンプルにおいて同定した。また、5´および3´フランキング領域には13個および46個の遺伝子多型を見出した(図11、図12および表17参照)。連鎖不平衡解析の結果、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて1つの連鎖不平衡ブロックを、3´フランキング領域に7つの連鎖不平衡ブロックを見出した。この連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973が適切であることが見出された。
【0136】
【表17】
【0137】
表17において、アミノ酸置換を引き起こす多型、すなわち遺伝子多型のアレルに依存し
て翻訳後のアミノ酸の種類が変化する多型は、存在しなかった。
【0138】
また、表17において、「マイナーアレル頻度」は、マイナーアレルの割合を意味する。
なお、被験者となった健常者の人数は、合計127人であった。
【0139】
(ハプロタイプ構築)
ハプロタイプ解析の例として、日本人健常者のアドレナリン受容体遺伝子多型のうち、
表17に示すADRA2Aサブタイプ遺伝子多型である63箇所のSNPに関して、Haploviewを用いてハプロタイプを推定した。推定し
たハプロタイプを表18に示す。
【0140】
【表18】
【0141】
表18に示すように、日本人健常者におけるADRA2Aサブタイプ遺伝子多型のハプロタイプは、少なくとも27ハプロタイプが推定され、そのうち3%以上の高頻度でみられるものは7ハプロタイプあった(ハプロタイプ番号H1〜H7)。なお、1%未満の頻度で起こることが推定されるハプロタイプについては、表18のハプロタイプ番号H28にまとめて表記した。
【0142】
表18に示すハプロタイプ解析のハプロタイプ頻度の解析とともに、連鎖不平衡解析を行った。その結果として、日本人健常者におけるADRA2Aサブタイプ遺伝子多型間の連鎖不平衡を、図11および図12に示す。
【0143】
連鎖不平衡解析を行った結果(図11および図12)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。
【0144】
図11において、SNPとSNPとの連鎖不平衡の指標であるD´値を計算し、その値の小数点以下2桁の値を図の各SNPから左下または右下方向に連なる四角形の交わった四角形に記している。また、連鎖不平衡のより厳しい指標であるr2値についても同様に計算し、その値を図12の同様の四角形に記している。なお、値の無い四角形はD´またはr2の値が1であることを示す。
【0145】
図11のD´に着目すると、5´フランキング領域および3´フランキング領域などで、多くの遺伝子多型の組み合わせにおいて、完全連鎖不平衡(D´=1)が確認された。また、図12のr2値に着目しても、いくつかの遺伝子多型が強い連鎖不平衡(r2=1)であることが分かった。これらの連鎖不平衡ブロックを代表するTag SNPとして、rs990428、rs11195417rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973が適切であることが分かった。
【0146】
また、連鎖不平衡解析を行った結果(図11および図12)からHaploviewを用いて連鎖不平衡ブロックを推定した。その結果、図11および図12に示すADRA2Aサブタイプ遺伝子のSNPについては、5´フランキング領域からエクソン1領域および3´フランキング領域にかけて1つの連鎖不平衡ブックを、3´フランキング領域に7つの連鎖不平衡ブロックを確認した。
【実施例9】
【0147】
<ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)と、総鎮痛薬投与必要量との相関>
アドレナリン受容体遺伝子多型と、総鎮痛薬投与必要量との相関を調べた。外科手術を受けた247名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRA2Aサブタイプ遺伝子の1つの遺伝子多型(rs7088234)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術中・術後の総鎮痛薬投与必要量との相関を解析した。
【0148】
なお、鎮痛薬としては、主にPCA(Patient-controlled analgesia)ポンプにより静脈内投与されるフェンタニルを用いた。
【0149】
その結果、下記表19および図13に示すように、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)マイナーアレル(G)を持つ外科手術を受けた患者は、そのアレル保有数に相関して、術中・術後総鎮痛薬の投与必要量が統計学的に有意に多かった。したがって、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs7088234)を解析することにより、鎮痛薬への感受性を予測することができる。
【0150】
なお、術中・術後24時間の総鎮痛薬投与必要量の中央値8.000(μg)の値を基準としてそれより小さい値および大きい値の患者群をそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と定義し、ADRA2A遺伝子のrs7088234多型により層別化したところ、この多型においてA/Aの患者群では、54%および46%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定されたのに対し、G/Gの患者群では、32%および68%の患者がそれぞれ鎮痛薬高感受性群および鎮痛薬低感受性群と判定された。
【0151】
【表19】
【実施例10】
【0152】
<ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型と、総鎮痛薬投与必要量、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果との相関>
実施例9と同様にして、アドレナリン受容体遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)と、術中・術後24時間の総鎮痛薬投与必要量、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果との相関を調べた。外科手術を受けた合計361名の患者の血液よりゲノムDNAを抽出し、ADRA2Aサブタイプ遺伝子の遺伝子多型(連鎖不平衡ブロック内のTag SNPおよび連鎖不平衡ブロック外の個別SNP)を判定した。そして、これら遺伝子多型の判定結果と、術中・術後24時間総鎮痛薬投与必要量、術前疼痛感受性、術後24時間後疼痛感受性(VAS)、およびフェンタニルの鎮痛効果との相関を解析した。
【0153】
なお、鎮痛薬としては、主にPCA(Patient-controlled analgesia)ポンプにより静脈内投与されるフェンタニルを用いた。
【0154】
その結果、下記表20に示すように(実施例9の結果もまとめて示す)、ADRA2Aサブタイプ遺伝子多型(rs11195417、rs7905613、rs7079291、rs7069564、rs4545476、rs10885102、rs7084236、rs7088234、rs7088234、rs7079973、rs7079973およびrs6585041)に関して、術中・術後24時間総鎮痛薬投与必要量、術前疼痛感受性、術後24時間後疼痛感受性(VAS)、およびフェンタニルの鎮痛効果のいずれかの表現型と統計学的に有意な関連を示した。したがって、これらの遺伝子多型を解析することにより、鎮痛薬への感受性、疼痛感受性、およびフェンタニルの鎮痛効果を予測することができる。
【0155】
【表20】
【配列表フリーテキスト】
【0156】
配列番号39:合成DNA
配列番号40:合成DNA
配列番号41:合成DNA
配列番号42:合成DNA
配列番号43:合成DNA
配列番号44:合成DNA
配列番号45:合成DNA
配列番号46:合成DNA
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の薬物感受性とを関連づけることを特徴とする、薬物感受性の評価方法。
【請求項2】
前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子型と薬物感受性との間の関連を解析する工程、および
(3)被験者において薬物感受性と有意に関連した遺伝子多型を薬物感受性の評価に用いる工程
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の疾患脆弱性とを関連づけることを特徴とする、疾患脆弱性の評価方法。
【請求項5】
前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子多型頻度を、健常者における該遺伝子多型の遺伝子多型頻度と比較する工程、および
(3)被験者と健常者とで遺伝子多型頻度に有意差のある遺伝子多型を疾患脆弱性の評価に用いる工程
を含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
疾患脆弱性が、疼痛感受性または薬物依存への脆弱性である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子多型が、一塩基多型、挿入型多型、欠失型多型および塩基繰り返し多型からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子多型が、ADRB2サブタイプ遺伝子のrs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135、ADRB1サブタイプ遺伝子のrs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887、並びにADRA2Aサブタイプ遺伝子多型のrs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973から選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ハプロタイプが以下の表に示されるものから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【表21】
【表22】
【表23】
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の種類、量および/または投与回数を決定する方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の副作用を予測する方法。
【請求項13】
薬物が、オピオイド受容体機能修飾薬および/またはアドレナリン受容体機能修飾薬である、請求項1〜3、7、11および12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
オピオイド受容体機能修飾薬が、メタンフェタミン、メチレンジオキシメタンフェタミン、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、ドパミン、モルヒネ、DAMGO、コデイン、メサドン、カルフェンタニール、フェンタニル、ヘロイン、コカイン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナロルフィン、レバロルファン、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、オキシコドン、ヒドロコドン、レボルファノール、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、トラマドール、ジクロフェナク、インドメタシン、フルルビプロフェンアキセチル、マーカイン、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、プロパノール、ブタノール、フルピルチン、笑気、F3(1-クロロ-1,2,2トリフルオロサイクロブタン)、ハロセン、エストラジオール、ジチオトレイトール、チオリダジン、ピモザイド、フルオキセチン、パロキセチン、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、テトラミド、イソフルレン、ギンセノシド、イフェンプロディール、ブピバカイン、テルチアピン、クロザピン、ハロペリドール、SCH23390およびコカインからなる群から選択される少なくとも1つであり、アドレナリン受容体機能修飾薬が、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、フェニレフリン、ナファゾリン、α‐メチルノルアドレナリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノキサベンズ、グアネチジン、キシラジン、メチルドーパ、ファドルミジン、アミデフリン、アミトラズ、アニソダミン、アプラクロニジン、ブリモニジン、シラゾリン、デトミジン、デクスメデトミジン、エピネフィリン、エチレフリン、インダニジン、ロフェキシジン、メデトミジン、メフェンテルミン、メタラミノール、メトキサミン、ミドドリン、ミバゼロール、ノルフェネフリン、オクトパミン、オキシメタゾリン、フェニルプロパノールアミン、リルメニジン、ロミフィジン、シネフリン、タリペキソール、チザニジン、ダイベナミン、エルゴタミン、エルゴメトリン、フェントラミン、トラゾリン、ブナゾシン、ナフトピジル、プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、タムスロシン、シロドシン、アルフゾシン、トリマゾシン、フェノキシベンザミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、トリミプラミン、α-メチルドパ、ヨヒンビン、エファロキサン、イダゾキサン、ラウオルシン、アチパメゾール、ドブタミン、イソプロテレノール、キサモテロール、エピネフリン、イソプレナリン、サルブタモール(アルブテロール)、レボサルブタモール(レバルブテロール) 、テルブタリン、メタプロテレノール、フェノテロール、ビトルテロール、ピルブテロール、プロカテロール、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、クレンブテロール、イソエタリン、リトドリン、メシル酸ビトルテロール、L-796568、アミベグロン、ソラベグロン、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、ドペキサミン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、プレナルテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、トレトキノール、ツロブテロール、ジルパテロール、ジンテロール、アルプレノロール、ブシンドロール、ソタロール、ボピンドロール、ピンドロール、チモロール、ジクロロイソプレナリン、アルプレノロール、カルテオロール、インデノロール、ブニトロロール、ペンブトロール、プロプラノロール、ナドロール、ニプラジロール、チリソロール、アセブトロール、セリプロロール、メトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、プラクトロール、ベバントロール、エスモロール、ネビボロール、ブトキサミン、ICI-118,551、SR 59230A、メピンドロール、オクスプレノロール、ランジオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ラベタロール、カルベジロール、アロチノロール、アモスラロール、アンフェタミン、ドロキシドパ、チラミン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、アトモキセチン(トモキシチン)、マジンドール、レボキセチン、ビロキサジン、アミネプチン、ブプロピオン、デキサメチルフェニデート、フェンカンファミン、フェンカミン、レフェタミン、メチルフェニデート、ピプラドロール、プロリンタン、ピロバレロン、ジフェメトレックス、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン、ブトリプチリン、デシプラミン、ドスレピン、イミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、ミアンセリン、シクロベンザプリン、メソカルブ、ネファドゾン、ネホパム、シブトラミン、タペンタドール、トラマドール、ジプラシドン、アドヒペリフォリン、ハイパフォリン、コカイン、デスオキシピプラドロール、ジフェニルプロリノール、チレンジオキシピロバレロン、シクラジンドール、エスレボキセチン、マニファキシン、ニソキセチン、ラダファキシン、タンダミン、WYE-103231、1-(Indolin-1-yl)-1-phenyl-3-propan-2-olamines、1- or 3-(3-Amino-2-hydroxy-1-phenyl propyl)-1,3-dihydro-2H-benzimidazol-2-ones、(+)-S-21, thienyl-based、ビシファジン、ブラソフェンシン、ジクロフェンシン、DOV-21,947、DOV-102,677、DOV-216,303、インダトラリン、NS-2359、オキサプロチリン、SEP-225,289、SEP-227,162、テソフェンシンおよびオランダビユからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうる、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列のうち第51番目の塩基を含む少なくとも10塩基長の塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記オリゴヌクレオチドの長さが10〜150塩基長である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチドが配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択されるオリゴヌクレオチドである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法におけるアドレナリン受容体遺伝子多型の検出に用いる配列番号39〜46のいずれか1つに示される塩基配列からなるプライマー。
【請求項19】
請求項18に記載のプライマーを含む、薬物感受性評価用キット。
【請求項20】
請求項18に記載のプライマーを含む、疾患脆弱性評価用キット。
【請求項21】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
【請求項22】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
【請求項1】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の薬物感受性とを関連づけることを特徴とする、薬物感受性の評価方法。
【請求項2】
前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子型と薬物感受性との間の関連を解析する工程、および
(3)被験者において薬物感受性と有意に関連した遺伝子多型を薬物感受性の評価に用いる工程
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または該遺伝子多型により構成されるハプロタイプと、個体の疾患脆弱性とを関連づけることを特徴とする、疾患脆弱性の評価方法。
【請求項5】
前記遺伝子多型または前記ハプロタイプの解析結果に基づいて、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
以下の工程:
(1)健常者における連鎖不平衡解析およびハプロタイプ解析を行い、連鎖不平衡ブロック内の遺伝子多型を選択する工程、
(2)被験者における該遺伝子多型の遺伝子多型頻度を、健常者における該遺伝子多型の遺伝子多型頻度と比較する工程、および
(3)被験者と健常者とで遺伝子多型頻度に有意差のある遺伝子多型を疾患脆弱性の評価に用いる工程
を含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
疾患脆弱性が、疼痛感受性または薬物依存への脆弱性である、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
遺伝子多型が、一塩基多型、挿入型多型、欠失型多型および塩基繰り返し多型からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
遺伝子多型が、ADRB2サブタイプ遺伝子のrs888956、rs10075525、rs2116719、rs10059242、rs11742884、rs2116713、rs2400707、rs1042713、rs1042717、rs4705271、rs3857420、rs6888011、rs11959113、rs17707884、rs11742519、rs10214302、rs11168071、rs17640705、rs1432631、rs919725、rs1864932、rs11740830、rs4705283およびrs1181135、ADRB1サブタイプ遺伝子のrs1801252、rs1801253、rs1411407、rs6585258、rs2480792、rs11196589、rs623499、rs2782979、rs2782980、rs12771397、rs11196592、rs11196597、rs10787516およびrs4918887、並びにADRA2Aサブタイプ遺伝子多型のrs990428、rs11195417、rs7074629、rs491589、rs34665740、rs745557、rs7905613、rs4918621、rs7908645、rs7084501、rs1343450、rs1556716、rs7897445、rs1537770、rs2032023、rs17128431、rs7069564、rs954385、rs1889745、rs1335706、rs1335704、rs1335703、rs11195442、rs12220858、rs4545476、rs7908674、rs10885102、rs7084236、rs7088234およびrs7079973から選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ハプロタイプが以下の表に示されるものから選ばれる少なくとも1つである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【表21】
【表22】
【表23】
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の種類、量および/または投与回数を決定する方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法により評価された結果を指標として、個体に投与する薬物の副作用を予測する方法。
【請求項13】
薬物が、オピオイド受容体機能修飾薬および/またはアドレナリン受容体機能修飾薬である、請求項1〜3、7、11および12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
オピオイド受容体機能修飾薬が、メタンフェタミン、メチレンジオキシメタンフェタミン、アンフェタミン、デキストロアンフェタミン、ドパミン、モルヒネ、DAMGO、コデイン、メサドン、カルフェンタニール、フェンタニル、ヘロイン、コカイン、ナロキソン、ナルトレキソン、ナロルフィン、レバロルファン、ペンタゾシン、ペチジン、ブプレノルフィン、オキシコドン、ヒドロコドン、レボルファノール、エトルフィン、ジヒドロエトルフィン、ヒドロモルホン、オキシモルホン、トラマドール、ジクロフェナク、インドメタシン、フルルビプロフェンアキセチル、マーカイン、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、プロパノール、ブタノール、フルピルチン、笑気、F3(1-クロロ-1,2,2トリフルオロサイクロブタン)、ハロセン、エストラジオール、ジチオトレイトール、チオリダジン、ピモザイド、フルオキセチン、パロキセチン、デシプラミン、イミプラミン、クロミプラミン、テトラミド、イソフルレン、ギンセノシド、イフェンプロディール、ブピバカイン、テルチアピン、クロザピン、ハロペリドール、SCH23390およびコカインからなる群から選択される少なくとも1つであり、アドレナリン受容体機能修飾薬が、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、フェニレフリン、ナファゾリン、α‐メチルノルアドレナリン、オキシメタゾリン、キシロメタゾリン、クロニジン、グアンファシン、グアナベンズ、グアノキサベンズ、グアネチジン、キシラジン、メチルドーパ、ファドルミジン、アミデフリン、アミトラズ、アニソダミン、アプラクロニジン、ブリモニジン、シラゾリン、デトミジン、デクスメデトミジン、エピネフィリン、エチレフリン、インダニジン、ロフェキシジン、メデトミジン、メフェンテルミン、メタラミノール、メトキサミン、ミドドリン、ミバゼロール、ノルフェネフリン、オクトパミン、オキシメタゾリン、フェニルプロパノールアミン、リルメニジン、ロミフィジン、シネフリン、タリペキソール、チザニジン、ダイベナミン、エルゴタミン、エルゴメトリン、フェントラミン、トラゾリン、ブナゾシン、ナフトピジル、プラゾシン、テラゾシン、ドキサゾシン、タムスロシン、シロドシン、アルフゾシン、トリマゾシン、フェノキシベンザミン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドキセピン、トリミプラミン、α-メチルドパ、ヨヒンビン、エファロキサン、イダゾキサン、ラウオルシン、アチパメゾール、ドブタミン、イソプロテレノール、キサモテロール、エピネフリン、イソプレナリン、サルブタモール(アルブテロール)、レボサルブタモール(レバルブテロール) 、テルブタリン、メタプロテレノール、フェノテロール、ビトルテロール、ピルブテロール、プロカテロール、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、クレンブテロール、イソエタリン、リトドリン、メシル酸ビトルテロール、L-796568、アミベグロン、ソラベグロン、アルブタミン、ベフノロール、ブロモアセチルアルプレノロールメンタン、ブロキサテロール、シマテロール、シラゾリン、デノパミン、ドペキサミン、エチレフリン、ヘキソプレナリン、ヒゲナミン、イソクスプリン、マブテロール、メトキシフェナミン、ニリドリン、オキシフェドリン、プレナルテロール、ラクトパミン、レプロテロール、リミテロール、トレトキノール、ツロブテロール、ジルパテロール、ジンテロール、アルプレノロール、ブシンドロール、ソタロール、ボピンドロール、ピンドロール、チモロール、ジクロロイソプレナリン、アルプレノロール、カルテオロール、インデノロール、ブニトロロール、ペンブトロール、プロプラノロール、ナドロール、ニプラジロール、チリソロール、アセブトロール、セリプロロール、メトプロロール、アテノロール、ビソプロロール、ベタキソロール、プラクトロール、ベバントロール、エスモロール、ネビボロール、ブトキサミン、ICI-118,551、SR 59230A、メピンドロール、オクスプレノロール、ランジオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ラベタロール、カルベジロール、アロチノロール、アモスラロール、アンフェタミン、ドロキシドパ、チラミン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、アトモキセチン(トモキシチン)、マジンドール、レボキセチン、ビロキサジン、アミネプチン、ブプロピオン、デキサメチルフェニデート、フェンカンファミン、フェンカミン、レフェタミン、メチルフェニデート、ピプラドロール、プロリンタン、ピロバレロン、ジフェメトレックス、デスベンラファキシン、デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン、ブトリプチリン、デシプラミン、ドスレピン、イミプラミン、ロフェプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、ミアンセリン、シクロベンザプリン、メソカルブ、ネファドゾン、ネホパム、シブトラミン、タペンタドール、トラマドール、ジプラシドン、アドヒペリフォリン、ハイパフォリン、コカイン、デスオキシピプラドロール、ジフェニルプロリノール、チレンジオキシピロバレロン、シクラジンドール、エスレボキセチン、マニファキシン、ニソキセチン、ラダファキシン、タンダミン、WYE-103231、1-(Indolin-1-yl)-1-phenyl-3-propan-2-olamines、1- or 3-(3-Amino-2-hydroxy-1-phenyl propyl)-1,3-dihydro-2H-benzimidazol-2-ones、(+)-S-21, thienyl-based、ビシファジン、ブラソフェンシン、ジクロフェンシン、DOV-21,947、DOV-102,677、DOV-216,303、インダトラリン、NS-2359、オキサプロチリン、SEP-225,289、SEP-227,162、テソフェンシンおよびオランダビユからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型を含むDNA断片に特異的にハイブリダイズしうる、配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列のうち第51番目の塩基を含む少なくとも10塩基長の塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記オリゴヌクレオチドの長さが10〜150塩基長である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記オリゴヌクレオチドが配列番号1〜38および47〜76のいずれか1つに示される塩基配列または該塩基配列に相補的な塩基配列からなる群から選択されるオリゴヌクレオチドである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法におけるアドレナリン受容体遺伝子多型の検出に用いる配列番号39〜46のいずれか1つに示される塩基配列からなるプライマー。
【請求項19】
請求項18に記載のプライマーを含む、薬物感受性評価用キット。
【請求項20】
請求項18に記載のプライマーを含む、疾患脆弱性評価用キット。
【請求項21】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の薬物感受性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
【請求項22】
アドレナリン受容体遺伝子の遺伝子多型、または当該遺伝子多型により構成されるハプロタイプを含む、個体の疾患脆弱性の有無の傾向を評価するための遺伝子多型マーカー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−70732(P2012−70732A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191861(P2011−191861)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学総合研究所 (69)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(591063394)財団法人 東京都医学総合研究所 (69)
【Fターム(参考)】
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