アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージおよびその製造方法
【課題】 アミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージと、メソ多孔性カーボンナノケージの表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類とからなり、アミン類は、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択されるアルキル基を有するアミンである、アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【解決手段】 本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージと、メソ多孔性カーボンナノケージの表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類とからなり、アミン類は、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択されるアルキル基を有するアミンである、アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン官能基がグラフトされたカーボンナノケージおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒材料、電極材料、大きな生体分子のための吸着剤、テンプレート等の応用に向けたナノ多孔性材料の発展が目覚ましい。最近、ナノ多孔性材料の中でも炭素材料の表面に酸性または塩基性等の官能基をグラフトさせ、さらなる機能を付与させる技術が研究されている。
【0003】
例えば、カーボンナノチューブにアミンをグラフトさせ、塩基性触媒を合成することが報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、カーボンナノチューブにカルボン酸基を導入し、次いで、このカルボン酸基を所望の誘導体に変化させることにより、カーボンナノチューブへのアミンのグラフトに成功している。
【0004】
しかしながら、非特許文献1の反応は、厳しい反応条件を用いているので、カーボンナノチューブの構造を壊す場合があり、歩留まりがよくない。また、非特許文献1のアミンがグラフトする反応は段階的に行われるので、操作が煩雑になる。さらに、非特許文献1は、毒性の廃棄物を生成する危険な試薬を用いており、環境にやさしくない。したがって、環境にやさしく、かつ、操作が簡便で歩留まりのよい、ナノ多孔性炭素材料にアミンをグラフトする技術の開発が望まれている。特に、ナノ多孔性炭素材料の中でも大きな比表面積および大きな孔容積を有するナノ多孔性炭素材料の形状を維持しつつ、アミンをグラフトする技術があれば好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、アミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージと、前記メソ多孔性カーボンナノケージの表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類とからなり、
前記アミン類は、
【化1】
で表され、
ここで、Rは、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択され、これにより上記課題を達成する。
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの比表面積、孔径、および、孔容積は、それぞれ、800m2/g〜1300m2/g、3.5nm〜4.5nm、および、1.1cm3/g〜1.6cm3/gであってもよい。
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒であってもよい。
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造する方法は、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、前記メソ多孔性カーボンナノケージを酸化するステップと、前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージを、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合し、前記アミン類をグラフトするステップとを包含し、前記カルボジイミドは、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であり、前記アミン類は、長鎖アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよび芳香族アミンからなる群から選択され、これにより上記課題を達成する。
前記酸化するステップは、前記メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、4℃〜5℃で、6時間〜8時間撹拌してもよい。
前記グラフトするステップは、前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージとカルボジイミドとアミン類とジメチルホルムアミドとの混合物を、超音波処理するステップと、前記混合物を加熱し、撹拌するステップとをさらに包含してもよい。
前記加熱し、撹拌するステップは、前記混合物を60℃〜70℃の温度で加熱し、22時間〜24時間撹拌してもよい。
前記アミン類は、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、所定のアミンがグラフトされているので、極性溶媒を含む種々の溶媒に対する混和性に優れる。本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、アミンがグラフトされていても、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージの形状を反映し、大きな比表面積および大きな孔容積を有する。また、本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、優れた生成物変換能、および、所望の生成物の形成に対する高い選択性を示す塩基性触媒として機能する。
【0008】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージの製造方法は、メソ多孔性カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、メソ多孔性カーボンナノケージを酸化するステップと、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージを、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合し、アミン類をグラフトするステップとを包含する。アミン類をグラフトするステップは1つのポットで操作可能であるので、極めて簡便である。また、本発明の製造方法は、カルボジイミドとして1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)を用いるので、危険な試薬を使用せず、環境にやさしい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの模式図
【図2】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを触媒として用いたClaisen Schmidt反応の模式図
【図3】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造するステップを示す図
【図4】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの製造における反応プロシージャを示す図
【図5】メソ多孔性カーボンナノケージのXRDパターンを示す図
【図6】メソ多孔性カーボンナノケージの窒素吸脱着等温線を示す図
【図7】メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径分布を示す図
【図8】メソ多孔性カーボンナノケージのHRTEM像および電子マッピングを示す図
【図9】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのFTIRスペクトルを示す図
【図10】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの熱重量変化を示す図
【図11】実施例1のCNC−PNのHRTEM像を示す図
【図12】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの窒素吸脱着等温線を示す図
【図13】比較例1のCNC−COPNの窒素吸脱着等温線を示す図
【図14】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの細孔径分布を示す図
【図15】比較例1のCNC−COPNの細孔径分布を示す図
【図16】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのXRDパターンを示す図
【図17】比較例1〜3のCKT−COPN、CKT−COCYCおよびCKT−COOPDのXRDパターンを示す図
【図18】実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図
【図19】実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図
【図20】実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の別の1H NMRスペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの模式図である。
【0012】
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、メソ多孔性カーボンナノケージ110と、メソ多孔性カーボンナノケージ110の表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類120とからなる。本明細書において、「アミン官能化」とはアミン類がグラフトされていることを意図する。
【0013】
メソ多孔性カーボンナノケージ110は、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるカーボンナノケージである。メソ多孔性カーボンナノケージ110は、面心立方格子(空間群Fm6m)の結晶構造を有する。
【0014】
KIT−5は、複数の孔が三次元的に規則的かつ対称に位置しており、比較的小さな比表面積および孔容積を有することが知られている。このようなKIT−5の形状を反映し、多孔性カーボンナノケージ110は、図1に示すように、炭素主部130と炭素主部130のそれぞれを相互に結合する炭素結合部140とを含む。炭素主部130は、三次元的(図1では簡単のため二次元のみを示す)に規則的かつ対称に位置している。炭素主部130が、KIT−5の三次元的に配列した孔に相当する。
【0015】
このように、メソ多孔性カーボンナノケージ110は、炭素主部130と炭素結合部140とによって、広い空間(メソ細孔)がつながれている構造を取る。KIT−5の小さな比表面積および孔容積を反映し、メソ多孔性カーボンナノケージ110は、大きな比表面積および孔容積を有する。メソ多孔性カーボンナノケージ110は、内部にケージ型(鳥かご状)の空間を有しており、その空間は空間の入り口よりも空間の内径の方が大きい構造を有している。
【0016】
アミン類120は、メソ細孔カーボンナノケージ110の表面およびメソ細孔の側壁にグラフトされている。図1では、簡単のため、平面的にアミン類120がグラフトされている様子を示すが、アミン類120のグラフトは、これに限らない。アミン類120は、式(1)で表される。
【化2】
式(1)において、Rは、長鎖アルキル基、シクロアルキル基および芳香族からなる群から選択されるが、好ましくは、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択される。理論的には、上述の一般的なRが採用されるが、Rが嵩高いとメソ細孔カーボンナノケージ110のメソ細孔を壊す場合がある。したがって、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択されるRであれば、メソ細孔を壊すことなくグラフトされ得る。
【0017】
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、アミン類120がグラフトされた後であっても、メソ細孔カーボンナノケージ110の形状を維持するので、高い比表面積、大きな孔径および大きな孔容積を有する。具体的には、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100の比表面積、孔径、および、孔容積は、それぞれ、800m2/g〜1300m2/g、3.5nm〜4.5nm、および、1.1cm3/g〜1.6cm3/gであり、電極材料、触媒材料および吸着剤向けの多孔性材料のそれと同等である。
【0018】
さらに、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、アミン類120がグラフトされているので、水等の極性溶媒に対して高い混和性を有する。したがって、既存のメソ細孔カーボンナノケージの特性を維持しつつ、極性溶媒であっても容易に溶解するので、利便性が高い。
【0019】
また、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、アミン類120がグラフトされているので、塩基性触媒として機能する。
【0020】
図2は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを触媒として用いたClaisen Schmidt反応の模式図である。
【0021】
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100を塩基性触媒として用いれば、Claisen Schmidt縮合を介した、ベンズアルデヒド1および2−ヒドロキシo−アセトフェノン2からカルコン3とフラバノン4とを合成できる。注目すべきは、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100による生成物変換率、および、フラバノン4の形成に対する高い選択性は、既存の市販の塩基性触媒(例えば、MgOH)に匹敵する/凌ぐ。また、生物適合性のある炭素を基本とする不均一系触媒は、環境問題において有利である。
【0022】
図3は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造するステップを示す図である。
図4は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの製造における反応プロシージャを示す図である。
【0023】
ステップS310:メソ細孔カーボンナノケージ110(図4)を酸化する。詳細には、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ細孔カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、酸化する。なお、KIT−5およびメソ細孔カーボンナノケージは、特許第4724877号を参照して合成してもよい。
【0024】
好ましくは、メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、4℃〜5℃で、6時間〜8時間撹拌する。これにより、メソ細孔カーボンナノケージは酸化される(図4の410)。
【0025】
S320:酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410にアミン類をグラフトする。詳細には、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410を、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合する。ここで、カルボジイミドは、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であり、アミン類は、長鎖アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよび芳香族アミンからなる群から選択される。アミン類は、好ましくは、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択される。理論的には、上述の一般的なアミン類が採用されるが、選択したアミン類が嵩高いと酸化されたメソ細孔カーボンナノケージ410のメソ細孔を壊す場合がある。したがって、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択されるアミン類であれば、メソ細孔を壊すことなくグラフトされ得る。
【0026】
グラフトするステップは、具体的には、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410とカルボジイミドとアミン類とジメチルホルムアミドとの混合物を、超音波処理するステップと、混合物を加熱し、撹拌するステップとをさらに包含する。具体的な加熱・撹拌は、混合物を60℃〜70℃の温度で加熱し、22時間〜24時間撹拌すればよい。これにより、アミン類が酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410にグラフトされ、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100が製造される。
【0027】
ステップS320を1つのポットで操作可能であるので、極めて簡便である。また、ステップS310で採用する1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)は有毒ではなく、環境にやさしい。
【0028】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【0029】
[参考例1]
アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの製造に先立って、テンプレートであるメソ細孔シリカKIT−5、および、メソ多孔性カーボンナノケージを製造した。
【0030】
KIT−5は、構造支持剤としてPluronic F127(EO106PO70EO106)、および、シリカ前駆体としてテトラエチルオルソシリケート(TEOS)を用いて製造された。
【0031】
F127(2.5g)を、蒸留水(120g)および濃塩酸(35wt%HCl、2.5g)に溶解させた。この混合物に45℃で撹拌しながらTEOS(12g)を素早く添加した。次いで、この混合物を45℃で24時間撹拌させ、反応させた。反応生成物を静止状態下、100℃で24時間加熱し、水熱処理した。得られた固体生成物をろ過し、洗浄することなく100℃で乾燥させた。ろ過後の固体生成物を550℃で焼成し、F127を除去した。このようにしてKIT−5を製造した。
【0032】
製造したKIT−5を用いてメソ多孔性カーボンナノケージを製造した。メソ多孔性カーボンナノケージは、構造支持剤としてKIT−5、炭素源としてショ糖、および、触媒として硫酸を用いて製造された。
【0033】
KIT−5(1g)を、ショ糖(0.75g)および硫酸(0.08g)が水(2.5g)に溶解した溶液に添加した。この混合物をオーブンで100℃、6時間保持し、次いで、160℃まで昇温し、さらに6時間保持した。
【0034】
ショ糖(0.5g)、硫酸(0.05g)および水(2.5g、ただしシリカと水との重量比は2.5であった)を、加熱・保持した生成物に添加し、再度上述の熱処理を行い、KIT−5のメソ細孔内まで完全に重合し、かつ、炭化したショ糖を得た。
【0035】
このようにしてKIT−5−重合体の複合生成物を窒素フロー中877℃で6時間保持し、熱分解した。この結果、複合生成物の重合体が炭化された。炭化された複合生成物中のKIT−5をフッ酸(5wt%)で溶解した。残渣をろ過した後、エタノールで数回洗浄し、120℃で乾燥させた。このようにして、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージを得た。
【0036】
メソ多孔性カーボンナノケージのX線回折(XRD)パターンを、Rigaku回折計(CuKα線λ=0.154nm)を用いて測定した。結果を図5に示す。
【0037】
メソ多孔性カーボンナノケージの窒素吸脱着等温線を、Quantachrome Autosorb 1吸着アナライザを用いて−196℃で測定した。測定用の試料は、メソ多孔性カーボンナノケージを、80℃で24時間、真空中、吸着アナライザのデガスポートを用いて、脱ガスすることにより調製された。結果を図6に示す。
【0038】
メソ多孔性カーボンナノケージの比表面積をBrunauer−Emmett−Teller(BET)法を用いて吸脱着等温線から算出した。また、メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径分布をBarrett−Joyner−Halenda(BJH)法を用いて吸脱着等温線の吸着ブランチから求めた。結果を図7に示す。
【0039】
メソ多孔性カーボンナノケージの高解像度電子顕微鏡(HRTEM)像および電子マッピングを、走査型電子顕微鏡JEOL JEM−2100Fを用いて観察した。観察用の試料は、メソ多孔性カーボンナノケージを、エタノール中で5分間超音波処理し、銅製グリッドに堆積することにより調製された。観察条件は、加速電圧200kVであった。結果を図8に示す。
【0040】
図5は、メソ多孔性カーボンナノケージのXRDパターンを示す図である。
【0041】
XRDパターンによれば、2θ=0.7〜3の範囲において、面心立方格子(空間群Fm6m)の(111)、(200)および(220)の回折に相当するピークが確認された。回折ピーク(111)から求めた格子定数a0は、20.68nmであった(表2を参照)。
【0042】
図6は、メソ多孔性カーボンナノケージの窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0043】
窒素吸脱着等温線によれば、H2型(IUPAC分類におけるIV型)のヒステリシスを示した。このことは、メソ多孔性カーボンナノケージ中にメソポア(2〜50nmの直径を有する細孔)が存在し、相対圧力0.5〜0.8において毛管凝縮に起因する窒素吸着が生じていることを示唆している。窒素吸脱着等温線よりBETの式を用いて求めたメソ多孔性カーボンナノケージの比表面積および孔容積は、それぞれ、1515m2/gおよび2.0cm3/gであった(表2を参照)。
【0044】
図7は、メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径分布を示す図である。
【0045】
メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径は、5.2nmであった。
【0046】
図8は、メソ多孔性カーボンナノケージのHRTEM像および電子マッピングを示す図である。
【0047】
図8(a)および(b)は、それぞれ、メソ細孔に平行な面、および、メソ細孔の断面のHRTEM像とその電子マッピングとである。図8において、コントラストの明るい縞は、細孔の側壁(例えば、図1の110)を示し、コントラストの暗い縞は、メソ細孔(例えば、図1の空間)を示す。図8(a)および(b)より、得られたメソ多孔性カーボンナノケージが、規則性の高い構造と、細孔分布とを有していることが分かった。なお、これらの像には、明るいスポットが規則正しく並んでおり(図8中の挿入図)、ケージ型の多孔性構造を有していることが確認された。
【0048】
以上より、KIT−5を用いて、KIT−5のレプリカであるメソ多孔性カーボンナノケージが得られたことが確認された。
【実施例1】
【0049】
実施例1では、参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージに、式(1)においてRがn−プロピルであるアミン類がグラフトしたアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造した。
【0050】
参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージ(100mg)を、ペルオキソ硫酸アンモニウム(APS)の溶液(6gms)に添加し、メソ多孔性カーボンナノケージを酸化した(図3のステップS310)。APS溶液は、硫酸(2M)にAPS(1M)を溶解させて調製した。酸化は、メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、5℃で8時間撹拌した。
【0051】
酸化されたメソ細孔カーボンナノケージをろ過し、残渣を蒸留水で洗浄し、残留する硫化物を完全に除去した。このようにして得られた酸化されたメソ細孔カーボンナノケージをオーブンに入れ、真空中、24時間乾燥させた。
【0052】
酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ(100mg)を、カルボジイミドとして1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI、100mg)、アミン類として長鎖アルキルアミンのうち1,2−プロピレンジアミン(500mg)、および、ジメチルホルムアミド(DMF、2mL)と混合し、アミン類をグラフトした(図3のステップS320)。
【0053】
グラフトは、詳細には、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージとEDCIと1,2−プロピレンジアミンとDMFとの混合物を、15分間超音波処理し、この混合物を70℃の油浴で加熱しながら24時間撹拌させることによって行った。
【0054】
このようにして得た生成物を遠心分離機にかけた後、水で洗浄し、未反応のEDCIを除去した。次いで、生成物をエタノールで洗浄し、生成物から未反応の1,2−プロピレンジアミンを除去した。生成物を真空中で乾燥させた。このようにして得られた生成物をCNC−PNと称する。
【0055】
CNC−PNのフーリエ変換赤外分光(FT−IR)スペクトルを、FT−IR分光光度計(Perkin−Elmer Spectrum 100)を用いて測定した。測定には、リファレンスとしてKBrを用いた。結果を図9に示す。
【0056】
CNC−PNの熱重量分析(TGA)を行った。結果を図10に示す。参考例と同様に、CNC−PNのHRTEM像を観察し、窒素吸脱着等温線を測定した。結果を図11および図12にそれぞれ示す。
【0057】
窒素吸脱着等温線からBETの式を用いてCNC−PNの比表面積および孔容積を算出した。結果を表2に示す。CNC−PNの細孔径分布を求めた。結果を図14に示す。参考例と同様に、CNC−PNのXRDパターンを測定した。結果を図16に示す。CNC−PNの元素分析をAnalyst AA300分光計を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0058】
次に、CNC−PNの塩基性触媒としての機能をClaisen−Schmidt反応を用いて調べた。DMF(2mL)と、ベンズアルデヒド(1.0mmol)と、アセトフェノン/o−ヒドロキシアセトフェノン(1.0mmol)とをNAP−MgO(0.100g)およびCNC−PNの存在下で撹拌しながら還流させた。薄膜クロマトグラフィー(TLC)を用いて反応が完全に完了したことを確認した。
【0059】
CNC−PNを遠心分離機により除去し、ろ液を濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/エチルアセテート、8/2、v/v)により精製した。
【0060】
核磁気共鳴装置(NMR)を用いて精製した生成物のNMRスペクトルを測定し、同定した。結果を表3に示す。
【0061】
遠心分離機により分離した上澄み液を排出し、残ったCNC−PNをエタノールで洗浄し、有機抽出物を収集した。CNC−PNを真空中で乾燥させ、4回上記の反応を行い、CNC−PNの塩基性触媒としての安定性を調べた。
【実施例2】
【0062】
実施例2では、参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージに、式(1)においてRがシクロヘキシルであるアミン類がグラフトしたアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造した。
【0063】
アミン類としてシクロヘキシルアミンのうち1,2−シクロヘキシルジアミン(500mg)を用いた以外は、実施例1と同様の手順であった。このようにして得られた生成物をCNC−CYCと称する。
【0064】
CNC−CYCについて、実施例1と同様に、FT−IRスペクトル、熱重量変化、窒素吸脱着等温線、細孔径分布を測定し、比表面積および孔容積を算出した。結果を図9、図10、図12、図14、図16および表2に示す。
【0065】
CNC−CYCの塩基性触媒としての機能を実施例1と同様に調べた。NMRスペクトルを測定し、同定した結果を表3に示す。
【実施例3】
【0066】
実施例3では、参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージに、式(1)においてRがo−フェニルであるアミン類がグラフトしたアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造した。
【0067】
アミン類として芳香族アミンのうち1,2−ジアミンベンゼン(500mg)を用いた以外は、実施例1と同様の手順であった。このようにして得られた生成物をCNC−OPDと称する。
【0068】
CNC−OPDについて、実施例1と同様に、FT−IRスペクトル、熱重量変化、窒素吸脱着等温線、細孔径分布を測定し、比表面積および孔容積を算出した。結果を図9、図10、図12、図14、図16および表2に示す。
【0069】
CNC−OPDの塩基性触媒としての機能を実施例1と同様に調べた。精製した生成物のNMRスペクトルを測定し、同定した結果を表3および図18〜図20に示す。
【比較例1】
【0070】
比較例1は、実施例1において、EDCIに代えて、別のカルボジイミドであるN,N’−ジクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いた以外は同様であった。このようにして得られた生成物をCNC−COPNと称する。CKT−COPNについて、窒素吸脱着等温線、細孔径分布およびXRDパターンを測定した。結果を図13、図15および図17に示す。
【比較例2】
【0071】
比較例2は、実施例2において、EDCIに代えてDCCを用いた以外は同様であった。このようにして得られた生成物をCNC−COCYCと称する。CKT−COCYCについて、XRDパターンを測定した。結果を図17に示す。
【比較例3】
【0072】
比較例3は、実施例3において、EDCIに代えてDCCを用いた以外は同様であった。このようにして得られた生成物をCNC−COOPDと称する。CKT−COOPDについて、XRDパターンを測定した。結果を図17に示す。
【0073】
簡単のため、実施例1〜3および比較例1〜3の製造条件を表1に示す。
【表1】
【0074】
図9は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのFTIRスペクトルを示す図である。
【0075】
いずれのFTIRスペクトルにおいても、3200〜3560cm−1の範囲において、ブロードなバンドが観察された。このバンドは、自由なNH2伸縮振動およびN−H伸縮振動によるバンドである。一方、CNC−PNのFTIRスペクトルにおける約3081cm−1のバンド、CNC−CYCのFTIRスペクトルにおける約2948cm−1のバンド、および、CNC−OPDのFTIRスペクトルにおける約2933cm−1のバンドは、アミンが結合したアルキルまたはアリル基のC−H結合伸縮振動のバンドである。
【0076】
いずれのFTIRスペクトルにおいても見られる約1593cm−1のシャープなバンドおよび1453cm−1のショルダーは、C=O基の伸縮振動およびN−H結合の変角振動のバンドである。また、約1220cm−1のバンドは、C−N伸縮振動に起因する。これらのFTIRスペクトルの結果は、非特許文献1等のアミンがグラフトされたカーボンナノチューブのFTIRスペクトルの結果に類似することが分かった。以上より、本発明の製造方法により、アミン類がメソ細孔カーボンナノケージにグラフトされたことが示唆される。
【0077】
図10は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの熱重量変化を示す図である。
【0078】
図10の曲線(a)〜(c)は、それぞれ、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの熱重量変化を表す。図10において、領域A(約100℃)は、加熱による吸着した水分子の損失を示す。このことは、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDが、水を吸着し得ることを示し、親水性を有することが分かった。以上より、本発明のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、水などの極性溶媒に対して混和性を有することが分かった。
【0079】
一方、領域Bは、加熱による結合したアミンの損失を示す。いずれのCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの分解温度も、アミンの沸点よりもはるかに高い温度であることを示す。以上より、本発明の製造方法により、アミン類が安定にメソ多孔性カーボンナノケージに結合したことが示された。
【0080】
図11は、実施例1のCNC−PNのHRTEM像を示す図である。
【0081】
図11(a)および(b)は、それぞれ、メソ細孔に平行な面、および、メソ細孔の断面のHRTEM像である。図11において、コントラストの明るい縞は、細孔側壁(例えば、図1の110)を示し、コントラストの暗い縞は、メソ細孔(例えば、図1の空間)を示す。図11(a)および(b)は、図8(a)および(b)にほぼ類似することが分かった。このことから、本発明の製造方法によってアミン類をグラフトした後も、用いたメソ多孔性カーボンナノケージにおける規則性の高い構造および細孔分布を維持することが分かった。なお、図示しないが、実施例2および3についても同様のHRTEM像が得られた。
【0082】
図12は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0083】
図12の窒素吸脱着等温線(a)〜(c)は、それぞれ、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの窒素吸脱着等温線を表す。いずれの窒素吸脱着等温線も、メソ多孔性カーボンナノケージと同様に、H2型(IUPAC分類におけるIV型)のヒステリシスを示した。このことから、本発明の製造方法によってアミン類をグラフトした後も、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造を維持することが分かった。窒素吸脱着等温線よりBETの式を用いて求めたCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの比表面積および孔容積を表2に示す。
【0084】
図13は、比較例1のCNC−COPNの窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0085】
図13によれば、窒素吸脱着等温線はヒステリシスを示したが、図12と異なる形状であった。このことから、カルボジイミドとしてDCCを用いることによりアミン類をグラフトした後、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造が維持できないことが分かった。
【0086】
図14は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの細孔径分布を示す図である。
【0087】
図14の分布(a)〜(c)は、それぞれ、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの細孔径分布を表す。いずれの細孔径も、アミン類がグラフトされる前の細孔径(約5nm)よりも小さい約4nm(CNC−PN:4.2nm、CNC−CYC:4.3nmおよびCNC−OPD:3.7nm)であった。このことは、メソ多孔性カーボンナノケージ中の細孔空間(細孔チャネル)内にアミン類が存在することによって、細孔閉塞が生じたことによる。この細孔閉塞は、実施例3のCNC−OPDにおいてもっとも顕著であった。これは、細孔空間(細孔チャネル)内に芳香環を有するアミンが積み重なり、細孔閉塞が生じていると予想される。すなわち、CNC−OPDは、より多くのアミン類を有し得ることが示唆される。
【0088】
【表2】
【0089】
表2によれば、実施例1〜3のいずれの比表面積、細孔径および孔容積も、アミン類がグラフトされる前のメソ多孔性カーボンナノケージのそれぞれの範囲内であった。実施例1〜3の比表面積、細孔径および孔容積のいずれも、メソ多孔性カーボンナノケージのそれぞれよりも減少したことから、アミン類がメソ多孔性カーボンナノケージにグラフトしたことが示唆される。
【0090】
例えば、実施例3のCNC−OPDの比表面積および細孔容積の減少は顕著であった。このことから、実施例1〜3の中でもCNC−OPDにおいてもっとも多くのアミン類がグラフトされ、その結果、比表面積および細孔容積がもっとも減少したと理解できる。また、元素分析の結果からも、いずれもアミン類がグラフトされており、とりわけ、実施例3のCNC−OPDにおいて多くのアミン類がグラフトされていることが示される。
【0091】
図15は、比較例1のCNC−COPNの細孔径分布を示す図である。
【0092】
CNC−COPNの細孔径は、図14と同様に、約4nmであったが、その形状から細孔容積が劇的に低減した。このことからも、カルボジイミドとしてDCCを用いることによりアミン類をグラフトした後、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造が維持できないことが分かった。
【0093】
図16は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのXRDパターンを示す図である。
【0094】
図16には、参考のため、メソ多孔性カーボンナノケージ(CNC)のXRDパターン(図5のXRDパターン)を併せて示す。いずれのXRDパターンも、アミン類がグラフトされる前のメソ多孔性カーボンナノケージのXRDパターンと同様に、(111)、(200)および(220)の回折ピークを示した。(200)および(220)の回折ピークは、ブロードであった。これは、メソ多孔性カーボンナノケージの表面および細孔側壁にアミン類がグラフトしたことによる、多孔性構造の乱れに起因するものの、全体として多孔性構造を維持していることを示唆する。
【0095】
表2に示すように、XRDパターンから算出した格子定数a0は、いずれも、アミン類がグラフトされる前のメソ多孔性カーボンナノケージのそれよりも小さかった。詳細には、実施例2のCNC−CYCの格子定数がもっとも減少した。これは、1,2−ジアミノシクロヘキサン(CYC)分子の大きさが、1,2−ジアミノプロパン(PN)分子のそれよりも大きいため、CYCのグラフトにより格子面間隔dが増大し、格子定数が減少するためである。一方、o−フェニレンジアミン(OPD)の場合、固有の芳香族性により結合長が短くなるため、CYCおよびPNと比較して分子のサイズが小さくなる。そのため、OPDの結合は、CYCのそれほど格子面間隔に影響しない。
【0096】
図17は、比較例1〜3のCKT−COPN、CKT−COCYCおよびCKT−COOPDのXRDパターンを示す図である。
【0097】
いずれのXRDパターンも、図16のそれとは異なり、回折ピークはブロードとなり、回折強度は低減した。このことからも、カルボジイミドとしてDCCを用いることによりアミン類をグラフトした後、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造が維持できないことが分かった。以上より、メソ多孔性カーボンナノケージにアミン類をグラフトさせるに好適なカルボジイミドは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であることが確認された。
【0098】
【表3】
【0099】
表3は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの塩基性触媒としての特性を示す。表3には、参考のため、参考例1としてアミン類がグラフトしていないメソ多孔性カーボンナノケージ、および、比較例4として既存の塩基性触媒であるMgOHの特性も併せて示す。
【0100】
図18は、実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図である。
【0101】
図18によれば、生成物が、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコンであることが分かった。その他の種類の生成物は観察されなかった。
【0102】
実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させると、いずれも、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコンを生成し、フラバノンは生成されなかった。
【0103】
図19は、実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図である。
図20は、実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の別の1H NMRスペクトルを示す図である。
【0104】
図19によれば、生成物の一部は、2−ヒドロキシカルコンであることが分かった。また、図20によれば、生成物の一部は、フラバノンであることが分かった。
【0105】
表3によれば、アミン類がグラフトされていないメソ多孔性カーボンナノケージは、何ら塩基性触媒としての機能を示さなかった。
【0106】
上述したように、実施例1〜3のいずれも、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させても生成物の選択性を示さず、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコンが生成されることが分かった。一方、実施例1〜3のいずれも、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシベンアセトフェノンを反応させると、カルコンおよびフラバノンの2種類の生成物が生成し、生成物の選択性があることが分かった。
【0107】
以上より、本発明のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒として機能し、優れた生成物変換能、および、所望の生成物(ここでは、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコン、カルコンまたはフラバノン)の形成に対する高い選択性を有することが確認された。
【0108】
中でも、実施例3のCNC−OPDの塩基性触媒としての高い選択性は、表2および表1を参照して説明したように、CNC−OPDが、CNC−PNおよびCNC−CYCに比べてより多くのアミン類を有していることに起因する。自由なOPDの塩基性は自由なPNのそれよりも小さいとされるが、メソ多孔性カーボンナノケージにグラフトされたアミン類の量は、CNC−OPDにおいてももっとも多いため、結果的にもっとも高い塩基性を発揮し得る。
【0109】
さらに、実施例3のCNC−OPDの場合、πスタッキングにより、表面および細孔側壁にOPDが立体的に密集し得る。その結果、反応物および生成物の拡散パスが減少し、反応物とグラフトされたOPDとの接触時間が長くなり、o−ヒドロキシカルコンの多くが対応するフラバノンに変換される。このことは、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの塩基性触媒としての反応性は、グラフトされるアミン類によって制御できることを示唆する。
【0110】
また、実施例1〜3のClaisen−Schmidt反応を、溶媒(DMF)の存在下で行ったが、DMFを用いない場合、収率は低減した(図示せず)。これは、溶媒を用いることによって、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの細孔およびチャネルへの物質の拡散が容易になることに起因する。
【0111】
再度表3を参照し、実施例1〜3と比較例4とを比較する。実施例1〜3のいずれも、市販の塩基性触媒であるMgOHに匹敵する変換率を示した。中でも、実施例3のCNC−OPDは、塩基性触媒として高い生成物の選択性を示し、フラバノンを効率的に生成できることが分かった。実施例3のCNC−OPDは、比較例4の既存の塩基性触媒であるMgOHよりもより効率的にフラバノンを製造できる。これは、細孔およびチャネル内にOPDが存在するので、細孔内に反応物が拡散した場合に生成物が形成され得ることによる。したがって、細孔およびチャネル内に反応物が拡散すると、反応物は、OPDに長時間晒され、対応するフラバノンへの反応の選択性を促進させる。
【0112】
さらに、実施例1〜3の塩基性触媒を用いて、上記Claisen−Schmidt反応を4回行ったところ、各反応においてわずかながら収率の減少が見られたものの、実質的な変化はなかった。このことから、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒として再利用が可能であることが分かった。なお、わずかながらの収率の減少は、各反応後の分離中に塩基性触媒の微量な損失が生じるためであり、無視できる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、所定のアミンがグラフトされているので、極性溶媒を含む種々の溶媒に対する混和性に優れる。本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージの形状を反映し、大きな比表面積および大きな孔容積を有する。また、本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、優れた生成物変換能、および、所望の生成物の形成に対する高い選択性を示す塩基性触媒として機能する。
【符号の説明】
【0114】
100 アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ
110 メソ多孔性カーボンナノケージ
120 アミン類
130 炭素主部
140 炭素結合部
410 酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0115】
【非特許文献1】Y.Wangら,Chem.Phys.Lett.2005,402,96
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミン官能基がグラフトされたカーボンナノケージおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒材料、電極材料、大きな生体分子のための吸着剤、テンプレート等の応用に向けたナノ多孔性材料の発展が目覚ましい。最近、ナノ多孔性材料の中でも炭素材料の表面に酸性または塩基性等の官能基をグラフトさせ、さらなる機能を付与させる技術が研究されている。
【0003】
例えば、カーボンナノチューブにアミンをグラフトさせ、塩基性触媒を合成することが報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、カーボンナノチューブにカルボン酸基を導入し、次いで、このカルボン酸基を所望の誘導体に変化させることにより、カーボンナノチューブへのアミンのグラフトに成功している。
【0004】
しかしながら、非特許文献1の反応は、厳しい反応条件を用いているので、カーボンナノチューブの構造を壊す場合があり、歩留まりがよくない。また、非特許文献1のアミンがグラフトする反応は段階的に行われるので、操作が煩雑になる。さらに、非特許文献1は、毒性の廃棄物を生成する危険な試薬を用いており、環境にやさしくない。したがって、環境にやさしく、かつ、操作が簡便で歩留まりのよい、ナノ多孔性炭素材料にアミンをグラフトする技術の開発が望まれている。特に、ナノ多孔性炭素材料の中でも大きな比表面積および大きな孔容積を有するナノ多孔性炭素材料の形状を維持しつつ、アミンをグラフトする技術があれば好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、アミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージと、前記メソ多孔性カーボンナノケージの表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類とからなり、
前記アミン類は、
【化1】
で表され、
ここで、Rは、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択され、これにより上記課題を達成する。
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの比表面積、孔径、および、孔容積は、それぞれ、800m2/g〜1300m2/g、3.5nm〜4.5nm、および、1.1cm3/g〜1.6cm3/gであってもよい。
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒であってもよい。
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造する方法は、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、前記メソ多孔性カーボンナノケージを酸化するステップと、前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージを、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合し、前記アミン類をグラフトするステップとを包含し、前記カルボジイミドは、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であり、前記アミン類は、長鎖アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよび芳香族アミンからなる群から選択され、これにより上記課題を達成する。
前記酸化するステップは、前記メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、4℃〜5℃で、6時間〜8時間撹拌してもよい。
前記グラフトするステップは、前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージとカルボジイミドとアミン類とジメチルホルムアミドとの混合物を、超音波処理するステップと、前記混合物を加熱し、撹拌するステップとをさらに包含してもよい。
前記加熱し、撹拌するステップは、前記混合物を60℃〜70℃の温度で加熱し、22時間〜24時間撹拌してもよい。
前記アミン類は、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、所定のアミンがグラフトされているので、極性溶媒を含む種々の溶媒に対する混和性に優れる。本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、アミンがグラフトされていても、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージの形状を反映し、大きな比表面積および大きな孔容積を有する。また、本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、優れた生成物変換能、および、所望の生成物の形成に対する高い選択性を示す塩基性触媒として機能する。
【0008】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージの製造方法は、メソ多孔性カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、メソ多孔性カーボンナノケージを酸化するステップと、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージを、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合し、アミン類をグラフトするステップとを包含する。アミン類をグラフトするステップは1つのポットで操作可能であるので、極めて簡便である。また、本発明の製造方法は、カルボジイミドとして1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)を用いるので、危険な試薬を使用せず、環境にやさしい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの模式図
【図2】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを触媒として用いたClaisen Schmidt反応の模式図
【図3】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造するステップを示す図
【図4】本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの製造における反応プロシージャを示す図
【図5】メソ多孔性カーボンナノケージのXRDパターンを示す図
【図6】メソ多孔性カーボンナノケージの窒素吸脱着等温線を示す図
【図7】メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径分布を示す図
【図8】メソ多孔性カーボンナノケージのHRTEM像および電子マッピングを示す図
【図9】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのFTIRスペクトルを示す図
【図10】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの熱重量変化を示す図
【図11】実施例1のCNC−PNのHRTEM像を示す図
【図12】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの窒素吸脱着等温線を示す図
【図13】比較例1のCNC−COPNの窒素吸脱着等温線を示す図
【図14】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの細孔径分布を示す図
【図15】比較例1のCNC−COPNの細孔径分布を示す図
【図16】実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのXRDパターンを示す図
【図17】比較例1〜3のCKT−COPN、CKT−COCYCおよびCKT−COOPDのXRDパターンを示す図
【図18】実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図
【図19】実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図
【図20】実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の別の1H NMRスペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0011】
図1は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの模式図である。
【0012】
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、メソ多孔性カーボンナノケージ110と、メソ多孔性カーボンナノケージ110の表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類120とからなる。本明細書において、「アミン官能化」とはアミン類がグラフトされていることを意図する。
【0013】
メソ多孔性カーボンナノケージ110は、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるカーボンナノケージである。メソ多孔性カーボンナノケージ110は、面心立方格子(空間群Fm6m)の結晶構造を有する。
【0014】
KIT−5は、複数の孔が三次元的に規則的かつ対称に位置しており、比較的小さな比表面積および孔容積を有することが知られている。このようなKIT−5の形状を反映し、多孔性カーボンナノケージ110は、図1に示すように、炭素主部130と炭素主部130のそれぞれを相互に結合する炭素結合部140とを含む。炭素主部130は、三次元的(図1では簡単のため二次元のみを示す)に規則的かつ対称に位置している。炭素主部130が、KIT−5の三次元的に配列した孔に相当する。
【0015】
このように、メソ多孔性カーボンナノケージ110は、炭素主部130と炭素結合部140とによって、広い空間(メソ細孔)がつながれている構造を取る。KIT−5の小さな比表面積および孔容積を反映し、メソ多孔性カーボンナノケージ110は、大きな比表面積および孔容積を有する。メソ多孔性カーボンナノケージ110は、内部にケージ型(鳥かご状)の空間を有しており、その空間は空間の入り口よりも空間の内径の方が大きい構造を有している。
【0016】
アミン類120は、メソ細孔カーボンナノケージ110の表面およびメソ細孔の側壁にグラフトされている。図1では、簡単のため、平面的にアミン類120がグラフトされている様子を示すが、アミン類120のグラフトは、これに限らない。アミン類120は、式(1)で表される。
【化2】
式(1)において、Rは、長鎖アルキル基、シクロアルキル基および芳香族からなる群から選択されるが、好ましくは、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択される。理論的には、上述の一般的なRが採用されるが、Rが嵩高いとメソ細孔カーボンナノケージ110のメソ細孔を壊す場合がある。したがって、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択されるRであれば、メソ細孔を壊すことなくグラフトされ得る。
【0017】
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、アミン類120がグラフトされた後であっても、メソ細孔カーボンナノケージ110の形状を維持するので、高い比表面積、大きな孔径および大きな孔容積を有する。具体的には、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100の比表面積、孔径、および、孔容積は、それぞれ、800m2/g〜1300m2/g、3.5nm〜4.5nm、および、1.1cm3/g〜1.6cm3/gであり、電極材料、触媒材料および吸着剤向けの多孔性材料のそれと同等である。
【0018】
さらに、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、アミン類120がグラフトされているので、水等の極性溶媒に対して高い混和性を有する。したがって、既存のメソ細孔カーボンナノケージの特性を維持しつつ、極性溶媒であっても容易に溶解するので、利便性が高い。
【0019】
また、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100は、アミン類120がグラフトされているので、塩基性触媒として機能する。
【0020】
図2は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを触媒として用いたClaisen Schmidt反応の模式図である。
【0021】
本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100を塩基性触媒として用いれば、Claisen Schmidt縮合を介した、ベンズアルデヒド1および2−ヒドロキシo−アセトフェノン2からカルコン3とフラバノン4とを合成できる。注目すべきは、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100による生成物変換率、および、フラバノン4の形成に対する高い選択性は、既存の市販の塩基性触媒(例えば、MgOH)に匹敵する/凌ぐ。また、生物適合性のある炭素を基本とする不均一系触媒は、環境問題において有利である。
【0022】
図3は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造するステップを示す図である。
図4は、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの製造における反応プロシージャを示す図である。
【0023】
ステップS310:メソ細孔カーボンナノケージ110(図4)を酸化する。詳細には、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ細孔カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、酸化する。なお、KIT−5およびメソ細孔カーボンナノケージは、特許第4724877号を参照して合成してもよい。
【0024】
好ましくは、メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、4℃〜5℃で、6時間〜8時間撹拌する。これにより、メソ細孔カーボンナノケージは酸化される(図4の410)。
【0025】
S320:酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410にアミン類をグラフトする。詳細には、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410を、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合する。ここで、カルボジイミドは、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であり、アミン類は、長鎖アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよび芳香族アミンからなる群から選択される。アミン類は、好ましくは、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択される。理論的には、上述の一般的なアミン類が採用されるが、選択したアミン類が嵩高いと酸化されたメソ細孔カーボンナノケージ410のメソ細孔を壊す場合がある。したがって、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択されるアミン類であれば、メソ細孔を壊すことなくグラフトされ得る。
【0026】
グラフトするステップは、具体的には、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410とカルボジイミドとアミン類とジメチルホルムアミドとの混合物を、超音波処理するステップと、混合物を加熱し、撹拌するステップとをさらに包含する。具体的な加熱・撹拌は、混合物を60℃〜70℃の温度で加熱し、22時間〜24時間撹拌すればよい。これにより、アミン類が酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ410にグラフトされ、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ100が製造される。
【0027】
ステップS320を1つのポットで操作可能であるので、極めて簡便である。また、ステップS310で採用する1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)は有毒ではなく、環境にやさしい。
【0028】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【0029】
[参考例1]
アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの製造に先立って、テンプレートであるメソ細孔シリカKIT−5、および、メソ多孔性カーボンナノケージを製造した。
【0030】
KIT−5は、構造支持剤としてPluronic F127(EO106PO70EO106)、および、シリカ前駆体としてテトラエチルオルソシリケート(TEOS)を用いて製造された。
【0031】
F127(2.5g)を、蒸留水(120g)および濃塩酸(35wt%HCl、2.5g)に溶解させた。この混合物に45℃で撹拌しながらTEOS(12g)を素早く添加した。次いで、この混合物を45℃で24時間撹拌させ、反応させた。反応生成物を静止状態下、100℃で24時間加熱し、水熱処理した。得られた固体生成物をろ過し、洗浄することなく100℃で乾燥させた。ろ過後の固体生成物を550℃で焼成し、F127を除去した。このようにしてKIT−5を製造した。
【0032】
製造したKIT−5を用いてメソ多孔性カーボンナノケージを製造した。メソ多孔性カーボンナノケージは、構造支持剤としてKIT−5、炭素源としてショ糖、および、触媒として硫酸を用いて製造された。
【0033】
KIT−5(1g)を、ショ糖(0.75g)および硫酸(0.08g)が水(2.5g)に溶解した溶液に添加した。この混合物をオーブンで100℃、6時間保持し、次いで、160℃まで昇温し、さらに6時間保持した。
【0034】
ショ糖(0.5g)、硫酸(0.05g)および水(2.5g、ただしシリカと水との重量比は2.5であった)を、加熱・保持した生成物に添加し、再度上述の熱処理を行い、KIT−5のメソ細孔内まで完全に重合し、かつ、炭化したショ糖を得た。
【0035】
このようにしてKIT−5−重合体の複合生成物を窒素フロー中877℃で6時間保持し、熱分解した。この結果、複合生成物の重合体が炭化された。炭化された複合生成物中のKIT−5をフッ酸(5wt%)で溶解した。残渣をろ過した後、エタノールで数回洗浄し、120℃で乾燥させた。このようにして、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージを得た。
【0036】
メソ多孔性カーボンナノケージのX線回折(XRD)パターンを、Rigaku回折計(CuKα線λ=0.154nm)を用いて測定した。結果を図5に示す。
【0037】
メソ多孔性カーボンナノケージの窒素吸脱着等温線を、Quantachrome Autosorb 1吸着アナライザを用いて−196℃で測定した。測定用の試料は、メソ多孔性カーボンナノケージを、80℃で24時間、真空中、吸着アナライザのデガスポートを用いて、脱ガスすることにより調製された。結果を図6に示す。
【0038】
メソ多孔性カーボンナノケージの比表面積をBrunauer−Emmett−Teller(BET)法を用いて吸脱着等温線から算出した。また、メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径分布をBarrett−Joyner−Halenda(BJH)法を用いて吸脱着等温線の吸着ブランチから求めた。結果を図7に示す。
【0039】
メソ多孔性カーボンナノケージの高解像度電子顕微鏡(HRTEM)像および電子マッピングを、走査型電子顕微鏡JEOL JEM−2100Fを用いて観察した。観察用の試料は、メソ多孔性カーボンナノケージを、エタノール中で5分間超音波処理し、銅製グリッドに堆積することにより調製された。観察条件は、加速電圧200kVであった。結果を図8に示す。
【0040】
図5は、メソ多孔性カーボンナノケージのXRDパターンを示す図である。
【0041】
XRDパターンによれば、2θ=0.7〜3の範囲において、面心立方格子(空間群Fm6m)の(111)、(200)および(220)の回折に相当するピークが確認された。回折ピーク(111)から求めた格子定数a0は、20.68nmであった(表2を参照)。
【0042】
図6は、メソ多孔性カーボンナノケージの窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0043】
窒素吸脱着等温線によれば、H2型(IUPAC分類におけるIV型)のヒステリシスを示した。このことは、メソ多孔性カーボンナノケージ中にメソポア(2〜50nmの直径を有する細孔)が存在し、相対圧力0.5〜0.8において毛管凝縮に起因する窒素吸着が生じていることを示唆している。窒素吸脱着等温線よりBETの式を用いて求めたメソ多孔性カーボンナノケージの比表面積および孔容積は、それぞれ、1515m2/gおよび2.0cm3/gであった(表2を参照)。
【0044】
図7は、メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径分布を示す図である。
【0045】
メソ多孔性カーボンナノケージの細孔径は、5.2nmであった。
【0046】
図8は、メソ多孔性カーボンナノケージのHRTEM像および電子マッピングを示す図である。
【0047】
図8(a)および(b)は、それぞれ、メソ細孔に平行な面、および、メソ細孔の断面のHRTEM像とその電子マッピングとである。図8において、コントラストの明るい縞は、細孔の側壁(例えば、図1の110)を示し、コントラストの暗い縞は、メソ細孔(例えば、図1の空間)を示す。図8(a)および(b)より、得られたメソ多孔性カーボンナノケージが、規則性の高い構造と、細孔分布とを有していることが分かった。なお、これらの像には、明るいスポットが規則正しく並んでおり(図8中の挿入図)、ケージ型の多孔性構造を有していることが確認された。
【0048】
以上より、KIT−5を用いて、KIT−5のレプリカであるメソ多孔性カーボンナノケージが得られたことが確認された。
【実施例1】
【0049】
実施例1では、参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージに、式(1)においてRがn−プロピルであるアミン類がグラフトしたアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造した。
【0050】
参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージ(100mg)を、ペルオキソ硫酸アンモニウム(APS)の溶液(6gms)に添加し、メソ多孔性カーボンナノケージを酸化した(図3のステップS310)。APS溶液は、硫酸(2M)にAPS(1M)を溶解させて調製した。酸化は、メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、5℃で8時間撹拌した。
【0051】
酸化されたメソ細孔カーボンナノケージをろ過し、残渣を蒸留水で洗浄し、残留する硫化物を完全に除去した。このようにして得られた酸化されたメソ細孔カーボンナノケージをオーブンに入れ、真空中、24時間乾燥させた。
【0052】
酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ(100mg)を、カルボジイミドとして1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI、100mg)、アミン類として長鎖アルキルアミンのうち1,2−プロピレンジアミン(500mg)、および、ジメチルホルムアミド(DMF、2mL)と混合し、アミン類をグラフトした(図3のステップS320)。
【0053】
グラフトは、詳細には、酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージとEDCIと1,2−プロピレンジアミンとDMFとの混合物を、15分間超音波処理し、この混合物を70℃の油浴で加熱しながら24時間撹拌させることによって行った。
【0054】
このようにして得た生成物を遠心分離機にかけた後、水で洗浄し、未反応のEDCIを除去した。次いで、生成物をエタノールで洗浄し、生成物から未反応の1,2−プロピレンジアミンを除去した。生成物を真空中で乾燥させた。このようにして得られた生成物をCNC−PNと称する。
【0055】
CNC−PNのフーリエ変換赤外分光(FT−IR)スペクトルを、FT−IR分光光度計(Perkin−Elmer Spectrum 100)を用いて測定した。測定には、リファレンスとしてKBrを用いた。結果を図9に示す。
【0056】
CNC−PNの熱重量分析(TGA)を行った。結果を図10に示す。参考例と同様に、CNC−PNのHRTEM像を観察し、窒素吸脱着等温線を測定した。結果を図11および図12にそれぞれ示す。
【0057】
窒素吸脱着等温線からBETの式を用いてCNC−PNの比表面積および孔容積を算出した。結果を表2に示す。CNC−PNの細孔径分布を求めた。結果を図14に示す。参考例と同様に、CNC−PNのXRDパターンを測定した。結果を図16に示す。CNC−PNの元素分析をAnalyst AA300分光計を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0058】
次に、CNC−PNの塩基性触媒としての機能をClaisen−Schmidt反応を用いて調べた。DMF(2mL)と、ベンズアルデヒド(1.0mmol)と、アセトフェノン/o−ヒドロキシアセトフェノン(1.0mmol)とをNAP−MgO(0.100g)およびCNC−PNの存在下で撹拌しながら還流させた。薄膜クロマトグラフィー(TLC)を用いて反応が完全に完了したことを確認した。
【0059】
CNC−PNを遠心分離機により除去し、ろ液を濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物を、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/エチルアセテート、8/2、v/v)により精製した。
【0060】
核磁気共鳴装置(NMR)を用いて精製した生成物のNMRスペクトルを測定し、同定した。結果を表3に示す。
【0061】
遠心分離機により分離した上澄み液を排出し、残ったCNC−PNをエタノールで洗浄し、有機抽出物を収集した。CNC−PNを真空中で乾燥させ、4回上記の反応を行い、CNC−PNの塩基性触媒としての安定性を調べた。
【実施例2】
【0062】
実施例2では、参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージに、式(1)においてRがシクロヘキシルであるアミン類がグラフトしたアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造した。
【0063】
アミン類としてシクロヘキシルアミンのうち1,2−シクロヘキシルジアミン(500mg)を用いた以外は、実施例1と同様の手順であった。このようにして得られた生成物をCNC−CYCと称する。
【0064】
CNC−CYCについて、実施例1と同様に、FT−IRスペクトル、熱重量変化、窒素吸脱着等温線、細孔径分布を測定し、比表面積および孔容積を算出した。結果を図9、図10、図12、図14、図16および表2に示す。
【0065】
CNC−CYCの塩基性触媒としての機能を実施例1と同様に調べた。NMRスペクトルを測定し、同定した結果を表3に示す。
【実施例3】
【0066】
実施例3では、参考例1で製造したメソ多孔性カーボンナノケージに、式(1)においてRがo−フェニルであるアミン類がグラフトしたアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造した。
【0067】
アミン類として芳香族アミンのうち1,2−ジアミンベンゼン(500mg)を用いた以外は、実施例1と同様の手順であった。このようにして得られた生成物をCNC−OPDと称する。
【0068】
CNC−OPDについて、実施例1と同様に、FT−IRスペクトル、熱重量変化、窒素吸脱着等温線、細孔径分布を測定し、比表面積および孔容積を算出した。結果を図9、図10、図12、図14、図16および表2に示す。
【0069】
CNC−OPDの塩基性触媒としての機能を実施例1と同様に調べた。精製した生成物のNMRスペクトルを測定し、同定した結果を表3および図18〜図20に示す。
【比較例1】
【0070】
比較例1は、実施例1において、EDCIに代えて、別のカルボジイミドであるN,N’−ジクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いた以外は同様であった。このようにして得られた生成物をCNC−COPNと称する。CKT−COPNについて、窒素吸脱着等温線、細孔径分布およびXRDパターンを測定した。結果を図13、図15および図17に示す。
【比較例2】
【0071】
比較例2は、実施例2において、EDCIに代えてDCCを用いた以外は同様であった。このようにして得られた生成物をCNC−COCYCと称する。CKT−COCYCについて、XRDパターンを測定した。結果を図17に示す。
【比較例3】
【0072】
比較例3は、実施例3において、EDCIに代えてDCCを用いた以外は同様であった。このようにして得られた生成物をCNC−COOPDと称する。CKT−COOPDについて、XRDパターンを測定した。結果を図17に示す。
【0073】
簡単のため、実施例1〜3および比較例1〜3の製造条件を表1に示す。
【表1】
【0074】
図9は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのFTIRスペクトルを示す図である。
【0075】
いずれのFTIRスペクトルにおいても、3200〜3560cm−1の範囲において、ブロードなバンドが観察された。このバンドは、自由なNH2伸縮振動およびN−H伸縮振動によるバンドである。一方、CNC−PNのFTIRスペクトルにおける約3081cm−1のバンド、CNC−CYCのFTIRスペクトルにおける約2948cm−1のバンド、および、CNC−OPDのFTIRスペクトルにおける約2933cm−1のバンドは、アミンが結合したアルキルまたはアリル基のC−H結合伸縮振動のバンドである。
【0076】
いずれのFTIRスペクトルにおいても見られる約1593cm−1のシャープなバンドおよび1453cm−1のショルダーは、C=O基の伸縮振動およびN−H結合の変角振動のバンドである。また、約1220cm−1のバンドは、C−N伸縮振動に起因する。これらのFTIRスペクトルの結果は、非特許文献1等のアミンがグラフトされたカーボンナノチューブのFTIRスペクトルの結果に類似することが分かった。以上より、本発明の製造方法により、アミン類がメソ細孔カーボンナノケージにグラフトされたことが示唆される。
【0077】
図10は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの熱重量変化を示す図である。
【0078】
図10の曲線(a)〜(c)は、それぞれ、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの熱重量変化を表す。図10において、領域A(約100℃)は、加熱による吸着した水分子の損失を示す。このことは、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDが、水を吸着し得ることを示し、親水性を有することが分かった。以上より、本発明のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、水などの極性溶媒に対して混和性を有することが分かった。
【0079】
一方、領域Bは、加熱による結合したアミンの損失を示す。いずれのCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの分解温度も、アミンの沸点よりもはるかに高い温度であることを示す。以上より、本発明の製造方法により、アミン類が安定にメソ多孔性カーボンナノケージに結合したことが示された。
【0080】
図11は、実施例1のCNC−PNのHRTEM像を示す図である。
【0081】
図11(a)および(b)は、それぞれ、メソ細孔に平行な面、および、メソ細孔の断面のHRTEM像である。図11において、コントラストの明るい縞は、細孔側壁(例えば、図1の110)を示し、コントラストの暗い縞は、メソ細孔(例えば、図1の空間)を示す。図11(a)および(b)は、図8(a)および(b)にほぼ類似することが分かった。このことから、本発明の製造方法によってアミン類をグラフトした後も、用いたメソ多孔性カーボンナノケージにおける規則性の高い構造および細孔分布を維持することが分かった。なお、図示しないが、実施例2および3についても同様のHRTEM像が得られた。
【0082】
図12は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0083】
図12の窒素吸脱着等温線(a)〜(c)は、それぞれ、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの窒素吸脱着等温線を表す。いずれの窒素吸脱着等温線も、メソ多孔性カーボンナノケージと同様に、H2型(IUPAC分類におけるIV型)のヒステリシスを示した。このことから、本発明の製造方法によってアミン類をグラフトした後も、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造を維持することが分かった。窒素吸脱着等温線よりBETの式を用いて求めたCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの比表面積および孔容積を表2に示す。
【0084】
図13は、比較例1のCNC−COPNの窒素吸脱着等温線を示す図である。
【0085】
図13によれば、窒素吸脱着等温線はヒステリシスを示したが、図12と異なる形状であった。このことから、カルボジイミドとしてDCCを用いることによりアミン類をグラフトした後、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造が維持できないことが分かった。
【0086】
図14は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの細孔径分布を示す図である。
【0087】
図14の分布(a)〜(c)は、それぞれ、CNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの細孔径分布を表す。いずれの細孔径も、アミン類がグラフトされる前の細孔径(約5nm)よりも小さい約4nm(CNC−PN:4.2nm、CNC−CYC:4.3nmおよびCNC−OPD:3.7nm)であった。このことは、メソ多孔性カーボンナノケージ中の細孔空間(細孔チャネル)内にアミン類が存在することによって、細孔閉塞が生じたことによる。この細孔閉塞は、実施例3のCNC−OPDにおいてもっとも顕著であった。これは、細孔空間(細孔チャネル)内に芳香環を有するアミンが積み重なり、細孔閉塞が生じていると予想される。すなわち、CNC−OPDは、より多くのアミン類を有し得ることが示唆される。
【0088】
【表2】
【0089】
表2によれば、実施例1〜3のいずれの比表面積、細孔径および孔容積も、アミン類がグラフトされる前のメソ多孔性カーボンナノケージのそれぞれの範囲内であった。実施例1〜3の比表面積、細孔径および孔容積のいずれも、メソ多孔性カーボンナノケージのそれぞれよりも減少したことから、アミン類がメソ多孔性カーボンナノケージにグラフトしたことが示唆される。
【0090】
例えば、実施例3のCNC−OPDの比表面積および細孔容積の減少は顕著であった。このことから、実施例1〜3の中でもCNC−OPDにおいてもっとも多くのアミン類がグラフトされ、その結果、比表面積および細孔容積がもっとも減少したと理解できる。また、元素分析の結果からも、いずれもアミン類がグラフトされており、とりわけ、実施例3のCNC−OPDにおいて多くのアミン類がグラフトされていることが示される。
【0091】
図15は、比較例1のCNC−COPNの細孔径分布を示す図である。
【0092】
CNC−COPNの細孔径は、図14と同様に、約4nmであったが、その形状から細孔容積が劇的に低減した。このことからも、カルボジイミドとしてDCCを用いることによりアミン類をグラフトした後、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造が維持できないことが分かった。
【0093】
図16は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDのXRDパターンを示す図である。
【0094】
図16には、参考のため、メソ多孔性カーボンナノケージ(CNC)のXRDパターン(図5のXRDパターン)を併せて示す。いずれのXRDパターンも、アミン類がグラフトされる前のメソ多孔性カーボンナノケージのXRDパターンと同様に、(111)、(200)および(220)の回折ピークを示した。(200)および(220)の回折ピークは、ブロードであった。これは、メソ多孔性カーボンナノケージの表面および細孔側壁にアミン類がグラフトしたことによる、多孔性構造の乱れに起因するものの、全体として多孔性構造を維持していることを示唆する。
【0095】
表2に示すように、XRDパターンから算出した格子定数a0は、いずれも、アミン類がグラフトされる前のメソ多孔性カーボンナノケージのそれよりも小さかった。詳細には、実施例2のCNC−CYCの格子定数がもっとも減少した。これは、1,2−ジアミノシクロヘキサン(CYC)分子の大きさが、1,2−ジアミノプロパン(PN)分子のそれよりも大きいため、CYCのグラフトにより格子面間隔dが増大し、格子定数が減少するためである。一方、o−フェニレンジアミン(OPD)の場合、固有の芳香族性により結合長が短くなるため、CYCおよびPNと比較して分子のサイズが小さくなる。そのため、OPDの結合は、CYCのそれほど格子面間隔に影響しない。
【0096】
図17は、比較例1〜3のCKT−COPN、CKT−COCYCおよびCKT−COOPDのXRDパターンを示す図である。
【0097】
いずれのXRDパターンも、図16のそれとは異なり、回折ピークはブロードとなり、回折強度は低減した。このことからも、カルボジイミドとしてDCCを用いることによりアミン類をグラフトした後、用いたメソ多孔性カーボンナノケージの構造が維持できないことが分かった。以上より、メソ多孔性カーボンナノケージにアミン類をグラフトさせるに好適なカルボジイミドは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であることが確認された。
【0098】
【表3】
【0099】
表3は、実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDの塩基性触媒としての特性を示す。表3には、参考のため、参考例1としてアミン類がグラフトしていないメソ多孔性カーボンナノケージ、および、比較例4として既存の塩基性触媒であるMgOHの特性も併せて示す。
【0100】
図18は、実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図である。
【0101】
図18によれば、生成物が、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコンであることが分かった。その他の種類の生成物は観察されなかった。
【0102】
実施例1〜3のCNC−PN、CNC−CYCおよびCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させると、いずれも、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコンを生成し、フラバノンは生成されなかった。
【0103】
図19は、実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の1H NMRスペクトルを示す図である。
図20は、実施例3のCNC−OPDを用いて、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシアセトフェノンを反応させた生成物の別の1H NMRスペクトルを示す図である。
【0104】
図19によれば、生成物の一部は、2−ヒドロキシカルコンであることが分かった。また、図20によれば、生成物の一部は、フラバノンであることが分かった。
【0105】
表3によれば、アミン類がグラフトされていないメソ多孔性カーボンナノケージは、何ら塩基性触媒としての機能を示さなかった。
【0106】
上述したように、実施例1〜3のいずれも、ベンズアルデヒドおよびアセトフェノンを反応させても生成物の選択性を示さず、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコンが生成されることが分かった。一方、実施例1〜3のいずれも、ベンズアルデヒドおよびo−ヒドロキシベンアセトフェノンを反応させると、カルコンおよびフラバノンの2種類の生成物が生成し、生成物の選択性があることが分かった。
【0107】
以上より、本発明のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒として機能し、優れた生成物変換能、および、所望の生成物(ここでは、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシカルコン、カルコンまたはフラバノン)の形成に対する高い選択性を有することが確認された。
【0108】
中でも、実施例3のCNC−OPDの塩基性触媒としての高い選択性は、表2および表1を参照して説明したように、CNC−OPDが、CNC−PNおよびCNC−CYCに比べてより多くのアミン類を有していることに起因する。自由なOPDの塩基性は自由なPNのそれよりも小さいとされるが、メソ多孔性カーボンナノケージにグラフトされたアミン類の量は、CNC−OPDにおいてももっとも多いため、結果的にもっとも高い塩基性を発揮し得る。
【0109】
さらに、実施例3のCNC−OPDの場合、πスタッキングにより、表面および細孔側壁にOPDが立体的に密集し得る。その結果、反応物および生成物の拡散パスが減少し、反応物とグラフトされたOPDとの接触時間が長くなり、o−ヒドロキシカルコンの多くが対応するフラバノンに変換される。このことは、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの塩基性触媒としての反応性は、グラフトされるアミン類によって制御できることを示唆する。
【0110】
また、実施例1〜3のClaisen−Schmidt反応を、溶媒(DMF)の存在下で行ったが、DMFを用いない場合、収率は低減した(図示せず)。これは、溶媒を用いることによって、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの細孔およびチャネルへの物質の拡散が容易になることに起因する。
【0111】
再度表3を参照し、実施例1〜3と比較例4とを比較する。実施例1〜3のいずれも、市販の塩基性触媒であるMgOHに匹敵する変換率を示した。中でも、実施例3のCNC−OPDは、塩基性触媒として高い生成物の選択性を示し、フラバノンを効率的に生成できることが分かった。実施例3のCNC−OPDは、比較例4の既存の塩基性触媒であるMgOHよりもより効率的にフラバノンを製造できる。これは、細孔およびチャネル内にOPDが存在するので、細孔内に反応物が拡散した場合に生成物が形成され得ることによる。したがって、細孔およびチャネル内に反応物が拡散すると、反応物は、OPDに長時間晒され、対応するフラバノンへの反応の選択性を促進させる。
【0112】
さらに、実施例1〜3の塩基性触媒を用いて、上記Claisen−Schmidt反応を4回行ったところ、各反応においてわずかながら収率の減少が見られたものの、実質的な変化はなかった。このことから、本発明によるアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒として再利用が可能であることが分かった。なお、わずかながらの収率の減少は、各反応後の分離中に塩基性触媒の微量な損失が生じるためであり、無視できる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、所定のアミンがグラフトされているので、極性溶媒を含む種々の溶媒に対する混和性に優れる。本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージの形状を反映し、大きな比表面積および大きな孔容積を有する。また、本発明によるアミン官能化メソ多孔性カーボンナノケージは、優れた生成物変換能、および、所望の生成物の形成に対する高い選択性を示す塩基性触媒として機能する。
【符号の説明】
【0114】
100 アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ
110 メソ多孔性カーボンナノケージ
120 アミン類
130 炭素主部
140 炭素結合部
410 酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージ
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0115】
【非特許文献1】Y.Wangら,Chem.Phys.Lett.2005,402,96
【特許請求の範囲】
【請求項1】
KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージと、
前記メソ多孔性カーボンナノケージの表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類と
からなり、
前記アミン類は、
【化1】
で表され、
ここで、Rは、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択される、アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【請求項2】
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの比表面積、孔径、および、孔容積は、それぞれ、800m2/g〜1300m2/g、3.5nm〜4.5nm、および、1.1cm3/g〜1.6cm3/gである、請求項1に記載のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【請求項3】
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒である、請求項1に記載のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造する方法であって、
KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、前記メソ多孔性カーボンナノケージを酸化するステップと、
前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージを、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合し、前記アミン類をグラフトするステップと
を包含し、
前記カルボジイミドは、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であり、
前記アミン類は、長鎖アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよび芳香族アミンからなる群から選択される、方法。
【請求項5】
前記酸化するステップは、前記メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、4℃〜5℃で、6時間〜8時間撹拌する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフトするステップは、
前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージとカルボジイミドとアミン類とジメチルホルムアミドとの混合物を、超音波処理するステップと、
前記混合物を加熱し、撹拌するステップと
をさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱し、撹拌するステップは、前記混合物を60℃〜70℃の温度で加熱し、22時間〜24時間撹拌する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アミン類は、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項1】
KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージと、
前記メソ多孔性カーボンナノケージの表面およびメソ細孔の側壁にグラフトしたアミン類と
からなり、
前記アミン類は、
【化1】
で表され、
ここで、Rは、n−プロピル、シクロヘキシル、o−フェニル、n−ブチルおよびp−ペンチルからなる群から選択される、アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【請求項2】
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージの比表面積、孔径、および、孔容積は、それぞれ、800m2/g〜1300m2/g、3.5nm〜4.5nm、および、1.1cm3/g〜1.6cm3/gである、請求項1に記載のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【請求項3】
前記アミン官能化メソ細孔カーボンナノケージは、塩基性触媒である、請求項1に記載のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアミン官能化メソ細孔カーボンナノケージを製造する方法であって、
KIT−5であるメソ多孔性シリカをテンプレートとして得られるメソ多孔性カーボンナノケージを、ペルオキソ硫酸アンモニウムおよび/またはペルオキソ硫酸ナトリウムの塩を含有する溶液に添加し、前記メソ多孔性カーボンナノケージを酸化するステップと、
前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージを、カルボジイミド、アミン類およびジメチルホルムアミドと混合し、前記アミン類をグラフトするステップと
を包含し、
前記カルボジイミドは、1−エチル−3(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCI)であり、
前記アミン類は、長鎖アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよび芳香族アミンからなる群から選択される、方法。
【請求項5】
前記酸化するステップは、前記メソ細孔カーボンナノケージが添加された溶液を、4℃〜5℃で、6時間〜8時間撹拌する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフトするステップは、
前記酸化されたメソ多孔性カーボンナノケージとカルボジイミドとアミン類とジメチルホルムアミドとの混合物を、超音波処理するステップと、
前記混合物を加熱し、撹拌するステップと
をさらに包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱し、撹拌するステップは、前記混合物を60℃〜70℃の温度で加熱し、22時間〜24時間撹拌する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アミン類は、n−プロピルアミン、シクロヘキシルアミン、o−フェニルアミン、n−ブチルアミンおよびp−ペンチルアミンからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−23392(P2013−23392A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156513(P2011−156513)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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