説明

アモルファスカーボン粒子の製造方法

【課題】 石油コークスの燃焼灰から金属成分を除去し、カーボン純度が高く、金属溶出がない、剛性、強度に優れ、比表面積および細孔容積が極めて小さいアモルファスカーボン粒子を経済的に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 (1)石油コークスの燃焼灰を加湿する工程、(2)酸性水を添加し、加温・攪拌により燃焼灰中の金属分を抽出する工程、(3)前記(2)工程において酸性水に溶解した金属分と、不溶のカーボン分とを分離する工程、および、(4)前記(3)工程において分離されたカーボン分を乾燥・粉砕する工程を有することを特徴とする非円形断面を有し、空気存在下で保持温度500℃で60分の質量減量率が30%未満であり、平均粒子径1〜50μmであることを特徴とするアモルファスカーボン粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファスカーボン粒子の製造方法に関するものである。詳しく述べると本発明は、材質強度、耐食性、導電性、耐熱性、寸法安定性などの特性に優れ、かつ経済性にも優れたアモルファスカーボン粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アモルファスカーボンは、均質なガラス質の組織構造を備える異質な炭素材料であり、優れた機械的強度、耐アルカリ性、耐酸性、導電性などの特性から、近年、各種分野への応用が期待されている。従来、このような、アモルファスカーボンの製造方法としては、例えば特許文献1〜3に開示されるように、フェノール樹脂またはフルフリルアルコール樹脂等の熱硬化性樹脂の成形体を焼成炭化する方法が知られているが、このように熱硬化性樹脂を焼成炭化する方法により得られたアモルファスカーボンは、コスト高となるのみならず、焼成時の残炭率が充分なものとはならず、材質強度等が所期の値よりも劣ったものとなるものであった。
【0003】
ところで、石油コークスは、石炭よりも発熱量が高く、安価な炭素系燃料であり、現在、産業用ボイラ等における燃料として広く用いられている。このような石油コークスを用いた燃焼炉より排出される燃焼灰には、一般的に70質量%以上の割合で未燃の炭素分が含まれており、乾燥熱量が石炭同等であるため、再度燃料としてセメント焼成キルンで使用されたり、精錬所の熔融炉等の還元用炭素材として使用されたりしている。しかしながら、石油コークス燃焼灰に含まれる未燃の炭素分は活性や反応性が極めて低い上に、燃焼灰には炭素分以外の不純物が多く含まれているため、石油コークス燃焼灰の燃料や炭素材としての評価は低く、近い将来は産業廃棄物として埋め立て等に処理される可能性が高いと予想されている。
【0004】
燃料灰中の未燃の炭素分を有効利用しようとする技術が各種提唱されているが、その技術は石油コークス燃焼灰中の未燃の炭素分には適用できない場合が多い。例えば、特許文献4においては、微粉炭ボイラ灰を、比重が1よりも小さくかつ水と非混和性である有機溶剤と混合し、この混合物を水中に投じ、該微粉炭ボイラ灰中の炭素分を該有機溶剤と共に浮上させて、この浮上物を炭素分と共に燃料として用いる技術が開示されているが、石油コークス燃焼灰中の未燃の炭素分は、当該有機溶剤と分離し水底に沈み浮上しない。
【0005】
また、特許文献5においては、燃焼炉において燃料、酸化剤をノズルから噴出して形成した燃焼ガス中に、炭素を含むフライアッシュを酸化剤と共にノズルから噴出して、フライアッシュ中の炭素を燃焼させると共に、フライアッシュを溶融させ、この溶融したフライアッシュを冷却炉で急冷して、炭素が少なくガラス化率の高いフライアッシュを製造する技術が開示されているが、石油コークス燃焼灰にはシリカ分が極めて少ないためにフライアッシュを製造することができない。
【0006】
これらの技術は、主に重油や石炭を燃料とする産業用ボイラの燃焼灰に対応したものであり石油コークスを燃料とする産業用ボイラの燃焼灰には適用できない。また、これらの技術は、重油や石炭を燃料とした燃焼灰中に含まれる炭素分を燃料として利用するか、あるいは炭素分を除去してフライアッシュの品質を高める技術であり、石油コークスを燃料とした産業用ボイラからの燃焼灰中に含まれる炭素分の特異性に着目し、より付加価値の高いものとして利用しようとする技術ではなかった。
【0007】
このように、従来、石油コークスの燃焼灰の炭素分を有価物として利用する方法は試みていられなかった。
【特許文献1】特公昭39−20061号公報
【特許文献2】特公昭63−59963号公報
【特許文献3】特開平3−164416号公報
【特許文献4】特開平7−213949号公報
【特許文献5】特開平10−281438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は石油コークスの燃焼灰から金属成分を除去し、カーボン純度が高く、金属溶出がない、剛性、強度に優れ、比表面積および細孔容積が極めて小さいアモルファスカーボン粒子の製造法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、(1)石油コークスの燃焼灰を加湿する工程、(2)酸性水を添加し、加温・攪拌により燃焼灰中の金属分を抽出する工程、(3)前記(2)工程において酸性水に溶解した金属分と、不溶のカーボン分とを分離する工程、および、(4)前記(3)工程において分離されたカーボン分を乾燥・粉砕する工程を有することを特徴とする、非円形断面を有し、空気存在下で保持温度500℃で60分の質量減量率が30%未満であり、平均粒子径1〜50μmであることを特徴とするアモルファスカーボン粒子の製造方法である。
【0010】
本発明はまた、金属抽出工程(2)において、酸性水と共に還元剤を添加することを特徴とするアモルファスカーボン粒子の製造方法を示すものである。
【0011】
本発明はさらに、前記金属抽出工程(2)において、還元剤が亜硫酸水またはヒドラジンであることを特徴とするアモルファスカーボン粒子の製造方法を示すものである。
【0012】
本発明はさらに、前記金属抽出工程(2)において、pH0.1〜3.0の酸性水を燃焼灰に対し質量比2〜10倍添加し、液温度40℃以上、攪拌時間90分以内として処理することを特徴とするアモルファスカーボン粒子の製造方法を示すものである。
【0013】
本発明はまた、得られるアモルファスカーボン粒子は、BET法にて測定した比表面積が20〜1m/g、窒素吸着法により測定した細孔容積が0.020〜0.001ml/gとなるものであるアモルファスカーボン粒子の製造方法を示すものである。
【0014】
本発明はさらに、得られるアモルファスカーボン粒子は、X線回折により測定した面間隔が3.43A以上となるものであるアモルファスカーボン粒子の製造方法を示すものである。
【発明の効果】
【0015】
以上述べたように、本発明によれば、石油コークスの燃焼灰から金属成分を除去し、カーボン純度が高く、金属溶出がない、剛性、強度に優れ、比表面積および細孔容積が極めて小さいアモルファスカーボン粒子を経済的に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
本発明者らは、石油コークス燃焼灰中の未燃の炭素分の有効利用を検討する過程において、燃焼灰から灰分(金属酸化物)を酸洗浄し、炭素分を固液分離し、乾燥、粉砕、整粒して得られる炭素は、非晶質、すなわち、アモルファスなものであり、剛性、強度、耐熱性に優れ、比表面積および細孔容積が極めて小さく、粒子はフレーク状や球状ではなく鋭角なエッジを有した非円形断面であり、粒子表面に鋭角な突起や平滑曲面を有する複雑な形状を示すものであって、単体にて、あるいは樹脂ないしはゴム等の有機物、あるいはセメント、金属、ガラス等の無機物のマトリックス中に配合することによって、優れた性能を発揮させ得ることを見出し、本発明に至ったものである。
【0018】
図1は、本発明に係るアモルファスカーボン粒子の製造方法の一実施形態において用いられる製造装置の一実施形態を模式的に示す図面である。
【0019】
図1に示す製造装置においては、例えば、石油コークスを燃料として使用するボイラにおいて集塵機で捕集され回収された燃焼灰1を原料として使用する。
【0020】
石油コークスは、周知のように原油精製の過程において主に減圧蒸留装置から出てくる重質残渣油(アスファルト分)を500℃〜600℃に加熱することでコーキング反応を起こし、熱分解し、揮発するガソリン、灯油、軽油留分等の分離させた後に、固形物として副生される炭素製品である。
【0021】
原油の産地および製造工程により性状に差違はあり、特に限定されるわけではないが、石油コークスの性状としては、例えば、全水分4〜8%、灰分0.3〜0.6%、揮発分10〜14%、発熱量8000〜9000kcal/kg、硫黄分0.5〜6%、バナジウム分300〜2500ppm程度というものが例示できる。石油コークスとしては、比較的バナジウム分、ニッケル分の含有量の多いものが適当である。
【0022】
原料となる燃焼灰は、このような石油コークスを燃料とする燃焼炉、例えば、微粉炭ボイラ、ガス化炉などから回収されたものであり、このような燃焼炉における燃焼条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化雰囲気下で800〜1300℃において1〜24時間といったものを例示できる。
【0023】
原料となる燃焼灰の組成としては、特に限定されるわけではないが、例えば、HO 0.1〜1質量%、C 72〜90質量%、H 0.1〜1.5質量%、O 1〜10質量%、Cl 0.01〜0.1質量%、NH 1〜3質量%、SO 3〜20質量%、V 0.50〜2.50質量%、Fe 0.10〜1.00質量%、Mg 0.02〜0.10質量%、P 0.01〜0.10質量%、Ca 0.05〜0.25質量%、Na 0.05〜0.25質量%、K 0.01〜0.05質量%、Al 0.05〜0.30質量%、Si 0.02〜0.80%、Ni 3500〜6500mg/Kg、Mo 50〜100mg/Kgといった組成を例示することができる。なお、参考のために、代表的な一組成を示せば、HO 0.5質量%、C 78.9質量%、H 0.8質量%、O 7.14質量%、Cl 0.04質量%、NH 2.45質量%、SO 16.10質量%、V 1.00質量%、Fe 0.23質量%、Mg 0.07質量%、P 0.04質量%、Ca 0.21質量%、Na 0.10質量%、K 0.03質量%、Al 0.24質量%、Si 0.78%、Ni 4600mg/Kg、Mo 90mg/Kgというものがある。
【0024】
図1に示すように、このような燃焼炉より回収された燃焼灰1を、まず、ベルトコンベア等の搬送装置2を用いて、攪拌処理槽4へと搬送する。搬送装置2上には、水噴霧装置3が設置し、搬送されてくる燃焼灰1に対し、水を噴霧して加湿処理を施す。
【0025】
本発明においては、このように、加湿処理を行うことで後述するような金属抽出処理工程における金属分の溶出を容易なものとし、短時間で高い収率を得ることができる。
【0026】
なお、加湿処理の方法としては、例えば、図1に示すような水噴霧方式、あるいは散水、その他の一般的な加湿方法を用いることができるが、好ましくは水噴霧方式である。水噴霧方式によれば、燃焼灰に対し、水を霧状に噴霧するだけで均一に加湿可能であり、非常に簡単に処理できるためである。
【0027】
また、加湿処理としては、特に限定されるものではないが、処理しようとする燃焼灰に対し質量比で、10〜30質量%の割合となる水を添加することで行うことが望ましい。このような割合の水を用いて加湿処理を行うと、燃焼灰の移送ないし装填時の粉塵が実質的に発生せず、また、燃焼灰のハンドリングが容易となるためである。なお、前記範囲を超えて極端に水の添加量を増やしてゆくと、加湿された燃焼灰が液状化してしまう虞れがあり、一方、極端に水の添加量が少ないと前記したような加湿による所期の効果が低くなってしまう虞れがある。また、加湿処理を行った燃焼灰は、後述する金属抽出処理工程における金属分の抽出率を向上させるために、1日程度加湿状態にて保持させてもよい。
【0028】
次いで、攪拌処理槽4に燃焼灰1を装填し、そこに燃焼灰に対し、硫酸5および水6によって調製された酸性水、並びに、必要に応じ還元剤7を添加し、加温・攪拌により燃焼灰中の金属分を抽出する。
【0029】
本発明において使用する酸性水の酸としては、図1に示す硫酸のほか、塩酸、硝酸等あるいはこれらの混合物を用いることができるが、好ましくは金属の溶解性に優れる、硫酸または塩酸であり、最も好ましくは硫酸である。ここで、酸性水を添加しないと金属抽出処理工程における金属分の抽出率が低下するため好ましくない。
【0030】
また、酸性水のpHとしては、特に限定されるものではないが、例えば、pH0.1〜3.0、より好ましくはpH0.5〜1.0が望ましい。pH0.1未満であると、処理に大量の酸性水を使用してしまう虞れがあり、一方pHが3.0を越えるものであると、バナジウムに対する抽出効率が低下する虞があるためである。
【0031】
酸性水の添加量としては、特に限定されるものではないが、例えば、処理しようとする燃焼灰(乾燥質量)に対し、2〜10倍となる量である。酸性水の添加量が2倍未満では、可溶分の十分な溶解処理が行えない虞れがある。一方添加量が10倍を越えるものであると経済的でないのみならず、後述するような固液分離処理後の廃液処理にかかる労力が大となる虞れがある。
【0032】
また、酸性水と共に、必要に応じ、添加される還元剤7としては、特に限定されるものではないが、例えば、亜硫酸、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン等を用いることができ、好ましくは、還元作用に優れる、亜硫酸またはヒドラジンであり、より好ましくは亜硫酸である。
【0033】
このような還元剤7は、上記した酸性水とほぼ同時期に加温前に、燃焼灰に対して添加される。なお、還元剤の添加量としては、特に限定されるものではないが、燃焼灰(乾燥質量)100質量部に対して還元剤を例えば、0.02〜1.0質量部、好ましくは0.1〜0.6質量部を添加することが望ましい。還元剤の添加量が0.02質量部未満であると還元反応が十分に行われない虞れがあり、一方、1.0質量部を越えるものであると残存した還元剤の処理を行う必要が生じ、プロセスの操作が煩雑となる虞れがあるためである。
【0034】
攪拌処理槽4においては、燃焼灰と酸性水および還元剤の混合スラリーとを、例えば、40℃以上、より好ましくは50〜80℃の温度となるように、加温し、所定の回転数にて攪拌して、燃焼灰中の酸に可溶な金属分を十分に溶解させる。ここで、加温温度を40℃以上とするのは、それ未満の温度では抽出率が低下するためである。
【0035】
また、攪拌方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、インペラー傾斜4枚羽根を使った攪拌などの一般的な方法を用いることが可能である。また、攪拌条件は、抽出液中の酸性水の濃度、溶液温度等に依存して適宜変更される。例えば、pH0.6の硫酸水溶液を燃焼灰に対し質量比2倍量添加し、溶液温度60℃の場合には、90分程度の攪拌処理が適当である。
【0036】
以上のような酸性水および還元剤を添加した金属抽出処理によって、燃焼灰中に含まれる、例えば、V、Al、Fe、Mg、Mo、Ni等の金属成分は、水中へと溶解し、一方、カーボン分は不溶のまま固形物として残留することとなる。
【0037】
所定時間経過後、攪拌処理槽4から取り出された混合スラリーは、固液分離装置にて固液分離にかけられる。
【0038】
本発明において使用される固液分離装置として、特に限定されるわけではなく、例えば、プレッシャフィルター、遠心分離機、デカンタ、ベルトフィルター、トレイフィルター、プリコートフィルター、セラミックフィルター、クリケットフィルター、プレスロールフィルター等の公知の各種のものを用いることができる。図1には、固液分離装置としてベルトフィルター8の使用を例示する。
【0039】
図1において、ベルトフィルター8によって固液分離されると、フィルター上には、酸性水に対して不溶であったカーボン分のみが実質的に残り、一方、酸性水に溶解したバナジウム等の金属分を含む濾液は、固液分離装置8の底部より回収タンク12へと回収される。
【0040】
固液分離によってベルトフィルター8上に残った湿潤カーボン分は、そのままコンベアによって搬送され、シャワー洗浄装置9において例えば20〜80℃、好ましくは約60℃程度の温水にて十分に洗浄される。洗浄方法としても、付着する酸性水が十分に除去できるものであれば特に限定されるものではなく、各種の装置を用いることができる。なお、洗浄に使用された水は、洗浄濾液として回収され、回収された洗浄水は、必要に応じ、抽出酸性水として再利用されてもよい。
【0041】
洗浄された湿潤カーボン分は、その後、乾燥装置10へと搬送され、乾燥工程にかけられる。乾燥工程としては、特に限定されるものではないが、例えば100〜200℃の温度での風乾、オーブン乾燥、自然乾燥などの処理で良い。本発明に係るアモルファスカーボンが導電性を有することを利用し、通電による乾燥方式なども考えられる。乾燥方法として好ましくは、粉塵防止、燃焼防止といった観点から、伝熱加熱型乾燥法を用いることが望ましい。いずれの場合にも、本発明に係るアモルファスカーボンは比表面積と細孔容積が極めて小さく、伝熱性に優れているため、非常に効率的に乾燥させることが可能である。このような乾燥工程によって、例えば、含水量30〜40質量%程度の湿潤カーボン分を、含水量1.0質量%未満の乾燥カーボン分とする。
【0042】
次いで、乾燥装置10より取り出された乾燥カーボン分は、次いで、粉砕装置11へと搬送され、ここにおいて所定粒径、例えば平均粒子径10μm未満へと粉砕される。粉砕工程としては、特に限定されるものではないが、物理的粉砕機、例えばターボミル、ボールミル、ジェットミル、ローラーミル等を用いて粉砕処理することにより行なわれる。なお、粉砕処理しようとするカーボン分が高硬度で既に微粉状であるため、粉砕装置としてはジェットミルを用いることが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法においては、粉砕処理後に必要に応じて、分級処理を行うことができる。
【0044】
また、図1に示す製造装置においては、前記固液分離処理において回収タンク12へと回収された濾液は、その後、濾液処理槽13へと圧送される。この濾液処理槽13において、濾液には、例えば、アンモニア、苛性ソーダ等のpH調整剤が添加されて、濾液のpHを4〜7に調整する。これによって、バナジウム等の酸化金属成分を析出させる。その後、この析出物を含む濾液を濾過装置14にかけて固液分離することによって、バナジウム回収ケーキと、ニッケル含有濾液とに分離することができる。なお、分離された金属の用途としては、レドックスフロー電池用電解液、ステンレス鋼用材料等が挙げられる。
【0045】
このようにして本発明に係る製造方法は、石油コークスの燃焼灰よりカーボン粒子を非常に簡単な手法により、例えば、収率70〜95%といった高い収率をもって、効率良くカーボン粒子を得ることができる。
【0046】
そして、本発明に係る製造方法により得られるカーボン粒子は、図2に示すように、黒鉛のようなフレーク状やカーボンブラックのような球状ではなく、鋭角なエッジを有した非円形断面であり、粒子表面に鋭角な突起や平滑曲面を有する複雑な形状を有するものである。そして、X線回折法により結晶構造を測定すると面間隔が3.43A以上であることからも明らかなように、アモルファス構造(乱層構造)を呈するアモルファスカーボン粒子である。また、空気存在下で保持温度500℃で60分の質量減量率が30%未満であり、空気に対する反応性が非常に乏しいものである。また、その平均粒径は、1〜50μm、より好ましくは1〜10μmである。なお、このような鋭角なエッジを有した非円形断面の形状は、例えば、樹脂、ゴム、セメント、金属などのマトリックス材への複合時にマトリックス材とのアンカリング効果や、複合材表面でのスパイク効果が期待できる。
【0047】
また、本発明に係る製造方法により得られたアモルファスカーボン粒子は、BET法にて測定した比表面積が1〜20m/g、窒素吸着法により測定した細孔容積が0.020〜0.001ml/g程度であり、比較的緻密な表面性状を有するものである。さらに、特に限定されるものではないが、代表的なその他の特性としては、手動充填法により測定した嵩比重が0.5〜0.7g/ml、JISK21515.3に準拠して測定された真比重が1.9〜2.1である。
【0048】
本発明に係る製造方法により得られるアモルファスカーボン粒子は、そのまま、例えば、各種の触媒担体、流動層媒体等として使用することができる。また本発明に係るアモルファスカーボン粒子は、油性基材および水性基材のいずれに対しても親和性を有すことから、導電性付与、剛性および機械的強度向上、寸法安定性向上、耐熱性向上等を目的として、各種樹脂およびゴム等の有機物あるいはセメント、金属等の無機物からなるマトリックス材に配合することができる。具体的には、例えば、樹脂ないしゴム成形材料、遮光性繊維等の着色剤、樹脂ないしゴムの改質剤ないし充填剤、樹脂ないしゴムの導電性付与剤、例えば、帯電防止材料、複写機内の抵抗材料やPTC特性を利用した面状発熱体などにおける電気抵抗調整材、人工大理石などの各種の用途に好ましく用いることができる。
【0049】
また、その他に、各種液状組成物、例えば、潤滑剤、トラクションドライブ流体、電気粘性流体や非線形光学材料、各種インキ、塗料等の着色性組成物などの用途への応用も考えられる。
【0050】
さらに、着色剤、充填材、骨材などといった各種用途において、セメント組成物、金属、ガラス等の無機物からなるマトリックス材へも好ましく配合され得る。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。
【0052】
実施例1
石油コークスを微粉炭ボイラ(燃焼条件:酸化雰囲気下で800〜1300℃燃焼)で燃焼させた後、集塵機で捕集された燃焼灰を回収した。
【0053】
この燃焼灰の組成を分析したところ、水分0.4質量%、炭素分86.3質量%、水素0.21質量%、酸素1.23質量%、NH 1.63%、SO 4.10質量%、V 1.25質量%、Ni 0.58質量%、Fe 0.56質量%、Mg 0.06質量%、Ca 0.25質量%、Na 0.16質量%、Al 0.24質量%、Si 0.69%という成分結果が得られた。
【0054】
この燃焼灰100質量部に対し、図1に示すような製造装置を用いて、加湿処理した後、攪拌処理槽において、酸性水(5%硫酸水溶液)200質量部を加え、さらに還元剤(亜硫酸水溶液)0.6質量部を加え、pHを0.6に保ち、60℃に加温しながら、1時間攪拌し、次いで、酸に溶解する酸化金属分と不溶のカーボン分とをベルトフィルターにて固液分離し、水洗を行なった後、150℃にてオーブン乾燥し、その後、ジェットミルを用いて粉砕し、分級することによって、収率75%にてカーボン粒子を得た。
【0055】
このようにして得られたカーボン粒子につきその粒径をレーザ回折法により調べたところ、その平均粒径は、4.2μm、標準偏差が0.183であり、0.75μm未満および20.0μm超の粒子は検出されなかった。
【0056】
また、得られたカーボン粒子につき、諸物性を調べたところ、BET法にて測定した比表面積が10.8m/g、窒素吸着法により測定した細孔容積が0.013ml/g、手動充填法により測定した嵩密度が0.559g/ml、JISK21515.3に準拠して測定された真比重が2.05であった。
【0057】
次に、このカーボン粒子の結晶構造をX線回折法により測定したところ、面間隔d(隣接する二つの格子面の距離)は3.4587Aで、結晶子サイズLcは3.12Aであり、アモルファス構造(乱層構造)を呈していることが示された。
【0058】
さらに、このカーボン粒子の空気との反応性を調べるため、空気存在下で保持温度500℃で60分における質量減量率を示差熱天秤(真空理工製 TGD3000)にて調べた(測定条件:試料量20mg、空気流量20ml/分、昇温速度20℃/分)ところ、13.9%であり、非常に反応性の低いものであることがわかった。また得られたカーボン粒子に含まれる不純物量をプラズマイオン源分析装置(ICP分析装置)にて測定したところ、V(バナジウム)が0.19質量%、Ni(ニッケル)が0.04質量%であり、高い抽出効果により不純物の少ないカーボン粒子が得られたことがわかった。
【0059】
この得られたカーボン粒子の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0060】
比較例1
比較として石炭コークスの500℃で60分における質量減量率を実施例1と同様の条件にて調べたところ60.0%であり、明らかに特性の異なるものであることが判った。
【0061】
比較例2
実施例1で用いたものと同じ石油コークス燃焼灰に対し、オーブン乾燥処理後において粉砕工程を行なわない以外は実施例1と同様の操作を行なって、カーボン粒子を得た。得られたカーボンの粒子径は61.2μmとなり、粒子径の大きなものとなった。
【0062】
比較例3,4
下表の操作以外は実施例1と同様の操作を行い、石油コークス燃焼灰からカーボン粒子を得た。得られたカーボン粒子は下表に示す通り、不純物である金属分が実施例1と比較すると多いことがわかった。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る製造方法において用いられる製造装置の構成を模式的に示す図面である。
【図2】本発明に係る製造方法により得られたアモルファスカーボンの粒子形状を示す倍率20000倍の電子顕微鏡写真(図面代用写真)である。
【符号の説明】
【0065】
1 燃焼灰
2 搬送装置
3 水噴霧装置
4 攪拌処理槽
5 硫酸
6 水
7 還元剤
8 ベルトフィルター
9 シャワー洗浄装置
10 乾燥装置
11 粉砕装置
12 回収タンク
13 濾液処理槽
14 濾過装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)石油コークスの燃焼灰を加湿する工程、
(2)酸性水を添加し、加温・攪拌により燃焼灰中の金属分を抽出する工程、
(3)前記(2)工程において酸性水に溶解した金属分と、不溶のカーボン分とを分離する工程、および
(4)前記(3)工程において分離されたカーボン分を乾燥・粉砕する工程
を有することを特徴とする
非円形断面を有し、空気存在下で保持温度500℃で60分の質量減量率が30%未満であり、平均粒子径1〜50μmであることを特徴とするアモルファスカーボン粒子の製造方法。
【請求項2】
金属抽出工程(2)において、酸性水と共に還元剤を添加することを特徴とする請求項1記載のアモルファスカーボン粒子の製造方法。
【請求項3】
金属抽出工程(2)において、還元剤が亜硫酸水またはヒドラジンであることを特徴とする請求項2に記載のアモルファスカーボン粒子の製造方法。
【請求項4】
金属抽出工程(2)において、pH0.1〜3.0の酸性水を燃焼灰に対し質量比2〜10倍添加し、液温度40℃以上、攪拌時間90分以内として処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のアモルファスカーボン粒子の製造方法。
【請求項5】
得られるアモルファスカーボン粒子は、BET法にて測定した比表面積が20〜1m/g、窒素吸着法により測定した細孔容積が0.020〜0.001ml/gとなるものである請求項1〜4のいずれか1つに記載のアモルファスカーボン粒子の製造方法。
【請求項6】
得られるアモルファスカーボン粒子は、X線回折により測定した面間隔が3.43A以上となるものである請求項1〜5のいずれか1つに記載のアモルファスカーボン粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−191316(P2007−191316A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−35539(P2004−35539)
【出願日】平成16年2月12日(2004.2.12)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】