説明

アルカリ土類金属窒化物の製造方法

【課題】容易な方法で収率良く高純度のアルカリ土類金属窒化物を製造する方法を提供する。
【解決手段】1種のアルカリ土類金属にアンモニアを反応させて液相化し、得られたアルカリ土類金属アミドを熱分解する、アルカリ土類金属窒化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ土類金属を出発原料とし、アミド化合物を経由するアルカリ土類金属窒化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アルカリ土類金属窒化物は、半導体装置に用いる窒化アルミニウムの原料、金属摺動部材、電極構成材料等の材料の1つとして注目されている。このような用途に使用される金属窒化物は、高純度品が求められる。
【0003】
従来の金属窒化物の製造方法としては、カルシウム等のアルカリ土類金属を窒素気流中で加熱する方法が挙げられる(非特許文献1、2)。
しかしながら、この方法では、金属の表面だけが窒化するにすぎず、内部まで窒化させることは困難であった。従って、この方法で得られた金属窒化物は、前記半導体装置等の高純度品が要求される用途には使用できなかった。
また、カルシウムをアンモニアと熱する方法があるが、この方法によると水素化カルシウムが副生するという問題があり(非特許文献3)、さらに、4窒化三カルシウムを250℃に熱する方法もあるが、爆発性や毒性の問題があった(非特許文献4)。
また、溶融した亜鉛−カルシウム合金を、加熱、加圧された窒素のジェットと反応させる窒化カルシウムの合成方法が開示されているが(特許文献1)、この方法には、特別な装置が必要であり、工業的に有利な方法とは言い難い。
さらにまた、特許文献2には四塩化ケイ素などの金属ハロゲン化物と液体アンモニアとの反応で金属アミドを合成し、分離した生成物を窒素又はアンモニア雰囲気中で加熱分解することで窒化けい素等が得られることが記載されている。しかしながら、アルカリ金属やアルカリ土類金属は、そのハロゲン化物と液体アンモニアを反応させるとアンモニウムハライドを生成するものであり、アミドは生成しないことは周知であるから、特許文献2にはアルカリ金属やアルカリ土類金属については全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−531483号公報
【特許文献2】特開昭54−145400号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大木道則他編、「化学大辞典」第1版、東京化学同人、第1版1413頁、1989年
【非特許文献2】日本化学会編、「新実験化学講座8、無機化合物の合成I」丸善(株)、第414頁、1976)
【非特許文献3】「化学大辞典5」縮刷版、共立出版(株)、第880頁、1987年
【非特許文献4】「無機化合物・錯体辞典」中原勝儼著、講談社、第476頁、1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点が無く、容易な方法で収率良く、高純度のアルカリ土類金属窒化物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯かる実情に鑑み、本発明者は鋭意研究を行った結果、アルカリ土類金属にアンモニアを反応させて液相化し、得られたアルカリ土類金属アミドを熱分解することで高純度のアルカリ土類金属窒化物が収率良く得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、1種のアルカリ土類金属にアンモニアを反応させて液相化し、得られたアルカリ土類金属アミドを熱分解する、アルカリ土類金属窒化物の製造方法を提供する
ものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容易な方法で収率良く、高純度のアルカリ土類金属窒化物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の種々の反応条件により得られたアルカリ土類金属アミド、アルカリ土類金属窒化物のXRD結果を示す図である。
【図2】実施例4の種々の反応条件により得られたアルカリ土類金属窒化物のXRD結果を示す図である。
【図3】実施例5で得られた窒化ストロンチウムのXRD結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明方法の原料は、1種のアルカリ土類金属である。具体的には、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が挙げられる。得られるアルカリ土類金属窒化物としては、(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)32が挙げられる。
これらのアルカリ土類金属は、公知であり、公知の方法で製造することができる。
【0012】
本発明方法では、まず1種のアルカリ土類金属にアンモニアを反応せしめる。アンモニアの使用量は、アルカリ土類金属1モルに対して、2モル以上が好ましく、アンモニアは溶媒も兼ねているため、多ければ多いほど好ましい。また、アルカリ土類金属とアンモニアの反応温度は、アルカリ土類金属の種類によって適宜決定すればよいが、−77〜300℃が好ましく、20〜200℃がより好ましく、50〜100℃が更に好ましい。アルカリ土類金属とアンモニアは液相を形成することから、均一なアルカリ土類金属アミドとなる。従って、反応時間は液相が形成されるまでの時間であり、通常1分〜72時間が好ましく、更に1時間〜3時間程度が好ましい。
【0013】
このようにして得られたアルカリ土類金属アミドは熱分解に付し、アルカリ土類金属窒化物とする。
アルカリ土類金属アミドを熱分解する温度の下限は、アルカリ土類金属アミドが熱分解する温度であるが、反応時間と経済性の点から、500℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、1000℃以上がさらに好ましい。温度の上限は、アルカリ土類金属窒化物が分解しない温度であるが、反応炉や経済性から、1500℃以下とすることが好ましい。従って、アルカリ土類金属アミドを熱分解する温度は、500〜1500℃が好ましく、さらに800〜1300℃、特に1000〜1200℃が好ましい。
【0014】
アルカリ土類金属アミドは、空気中で酸化しやすいので、反応は、真空下又は窒素ガス若しくはアルゴンガス等の不活性ガス下で行うことが好ましく、特に窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガス下で行うことが好ましい。また、ガス雰囲気下で反応を行う場合その圧力は特に制限はないが、常圧で行うのが経済的で好ましい。また、反応は、バッチ式でも連続式でも良いが、量産する場合は、連続式が有利である。
【0015】
反応時間は、装置、反応温度、原料量により適宜決定すればよいが、通常10分〜48時間とすることが好ましく、1時間〜24時間がさらに好ましく、特に3時間〜12時間が好ましい。
【0016】
反応装置は、特定のガス雰囲気と高温を発生し、高温に耐えられる装置であればよく、例えば、管状炉、電気炉、バッチ式キルン、ロータリーキルンを用いればよい。
【0017】
反応終了後は、例えばバッチ式の場合には、反応装置内には目的とするアルカリ土類金属窒化物のみが粉体状で残存するので、回収は極めて容易である。
一方、連続式の場合には、例えば、N2やArで内部が満たされたロータリーキルンを用いれば、容易にアルカリ土類金属窒化物が連続的に回収される。
【0018】
本発明方法により得られるアルカリ土類金属窒化物は、製造工程における不純物の混入が少なく、熱分解反応により容易に内部まで反応が進行するため高純度であり、新たな用途が期待され、特にLEDなどの蛍光体原料としての用途に適する。窒化物において混入する可能性のある不純物の例は、Fe、Co、Ni、Crなどであるが、本発明により製造されるアルカリ土類金属窒化物においては通常Feは10ppm以下、Coは1ppm以下、Niは1ppm以下、Crは1ppm以下である。
【実施例】
【0019】
以下実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
金属カルシウム2.00gを200ccの反応容器に入れ、アンモニア40gを充填させた後、100℃、2時間反応させた。反応後の回収物をXRDにより構造解析をした結果、カルシウムアミドの単相であった(図1)。また、回収したカルシウムアミドの重量は3.58gであり、収率は99.6%であった。
得られたカルシウムアミド化合物2.00gを、窒素雰囲気下で1000℃、4時間加熱した。反応後の生成物をXRDにより構造解析をした結果、窒化カルシウムの単相であった(図1)。得られた窒化カルシウムは1.37gであり、収率は99.8%であった。
【0021】
実施例2
実施例1と同様に、金属ストロンチウム2.00gを出発原料とした場合は、アンモニアとの反応後のアミド化合物の構造はストロンチウムアミド単相であり、収率は99.2%であった(図1)。得られたストロンチウムアミドの熱分解(1000℃、4時間、N2中)後の生成物は窒化ストロンチウム単相であり、収率は99.5%であった(図1)。
【0022】
実施例3
さらに、実施例1と同様に、金属バリウム2.00gを出発原料とした場合は、アンモニアとの反応後のアミド化合物の構造はバリウムアミド単相であり、収率は99.7%であった(図1)。得られたバリウムアミドの熱分解(1000℃、4時間、N2中)後の生成物は窒化バリウム単相であり、収率は99.3%であった(図1)。
【0023】
実施例4
実施例1と同様にして得られたカルシウムアミド化合物2.00gを、窒素雰囲気下で800℃、900℃又は1300℃、4〜16時間加熱した。反応後の生成物をXRDにより構造解析をした結果、窒化カルシウムの単相であった(図2)。得られた窒化カルシウムは1.37gであり、収率は99.8%であった。
【0024】
実施例5
実施例2と同様にして得られたストロンチウムアミドを、ヘリウム雰囲気下で600℃、6時間加熱した。反応後の生成物をXRDにより構造解析をした結果、窒化ストロンチウムの単相であった(図3)。収率はほぼ定量的であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種のアルカリ土類金属にアンモニアを反応させて液相化し、得られたアルカリ土類金属アミドを熱分解する、アルカリ土類金属窒化物の製造方法。
【請求項2】
熱分解温度が500〜1500℃である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
熱分解を真空下又は窒素ガス若しくは不活性ガス下で行う請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
アルカリ土類金属が、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム又はバリウムである請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−66991(P2012−66991A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24661(P2011−24661)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)