説明

アルギニン含有錠剤

【課題】亀裂及び崩壊を抑制した高用量アルギニン含有錠剤を提供する。
【解決手段】アルギニン1質量部に対して0.3質量部以上の疎水性物質を含有することを特徴とする、錠剤中のアルギニン含有量が16.9質量%以上である錠剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギニンを含有した錠剤に関し、食品、医薬品、医薬部外品の分野において利用される。
【背景技術】
【0002】
アルギニンは、成長ホルモン分泌促進、血流改善等、基礎代謝を上昇させる効果を有していることから、サプリメント等として市販されている。市販されているアルギニン製剤は、カプセル剤や粒剤が主であるが、効果の期待できる量をカプセル剤や粒剤で摂取するには以下の通り、問題点を有している。すなわち、カプセル剤では圧縮工程を経ていないので、大きいカプセルを多量に摂取しなければならない点、粒剤ではアルギニンの味、臭いが気になる点、また包装にコストがかかる点等が問題となる。従って高用量のアルギニンを含有する錠剤の提供が望まれている。
【0003】
これまでにアルギニンを含有する錠剤については報告例があるが、アルギニンの含有量としては約10質量%以下のものがほとんどであり(特許文献1〜4参照)、より高用量のアルギニン含有錠剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−1873号公報
【特許文献2】特開2007−197378号公報
【特許文献3】WO2004/078171号公報
【特許文献4】特開2005−298373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、アルギニン含有錠剤において、錠剤に対して一定量以上のアルギニンを含有させると、加湿条件下において錠剤に亀裂や崩壊が発生することを新たに発見した。本発明の課題は前記亀裂及び崩壊を抑制したアルギニン含有錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、アルギニン1質量部に対して0.3質量部以上の疎水性物質を含有したアルギニン含有錠剤には、亀裂及び崩壊が発生せず、課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)アルギニン1質量部に対して0.3質量部以上の疎水性物質を含有することを特徴とする、錠剤中のアルギニン含有量が16.9質量%以上である錠剤。
(2)疎水性物質が硬化油である上記(1)に記載の錠剤。
(3)コーティングを施さないことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の錠剤。
(4)アルギニン1質量部に対して0.3質量部以上の疎水性物質を含有する粉体を練合造粒する工程を含むことを特徴とする、錠剤中のアルギニン含有量が16.9質量%以上である錠剤の製造方法。
(5)疎水性物質が硬化油であることを特徴とする上記(4)に記載の錠剤の製造方法。
(6)コーティングを施さないことを特徴とする上記(4)又は(5)に記載の錠剤の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、亀裂及び崩壊の見られない高用量のアルギニン含有錠剤が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて5時間保存した後の写真である。
【図2】参考例4で製造した錠剤の製造直後の写真である。
【図3】参考例1で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて3時間保存した後の写真である。
【図4】参考例2で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて2時間保存した後の写真である。
【図5】参考例3で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて2時間保存した後の写真である。
【図6】参考例4で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて2時間保存した後の写真である。
【図7】実施例1で製造した錠剤の製造直後の写真である。
【図8】比較例1で製造した錠剤の製造直後の写真である。
【図9】比較例1で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて5時間保存した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アルギニンとは好ましくはL体のアルギニンであり、塩の形態をとっても良い。アルギニンの塩としては製剤学上許容される塩であれば特に限定されないが、例えば塩酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩等を挙げることができる。本発明においてアルギニンの塩を使用した場合、錠剤におけるアルギニンの含有量とは、遊離体のアルギニンに換算した量である。
【0011】
疎水性物質とは、例えば、パラフィン、硬化ヒマシ油、硬化ナタネ油、硬化綿実油などの硬化油、トリグリセライド、モノグリセライド、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ステアリルアルコールなどの高級脂肪族アルコール、カルナバロウ、テトラグリセリンペンタステアレート、テトラグリセリンヘキサベヘネートのポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。中でも硬化油が好ましく、硬化ヒマシ油がより好ましい。硬化油の市販品としては例えば、ラブリワックス(登録商標 フロイント産業株式会社製)等を使用することができる。
【0012】
練合造粒とは、混合する粉体に液体やペースト等を添加し、練りこみながら造粒する方法である。
【0013】
コーティングを施すとは、錠剤や顆粒の表面に、種々の物質被膜を形成し被覆することであり、悪味および悪臭の防止、水、光、酸素などの外的条件からの安定性確保、腸溶性や徐放性等の機能付与等を目的として施す。なお、本発明の錠剤及びその製造途中の造粒物にはコーティングを施さなくとも錠剤に亀裂及び崩壊が見られないが、コーティングすることを妨げるものではない。例えば、本発明の錠剤に悪味、悪臭を有する成分を配合した場合、又は水、光、酸素等に不安定な成分を配合した場合にコーティングを施すことは有効である。
【0014】
錠剤の亀裂及び崩壊とは、錠剤表面やエッジ部分が裂け、錠剤表面から剥がれ落ちるように崩れていく状態を言う。亀裂及び崩壊が発生した錠剤例の写真を図面に示した。錠剤の亀裂とは、図4や図9の状態であり、錠剤の崩壊とは、図5や図6の状態である。錠剤の亀裂及び崩壊は、アルギニンが吸水し、膨潤することで発生すると考えられる。
【0015】
本発明のアルギニン含有錠剤には賦形剤を配合することができる。該賦形剤としては、例えば、乳糖、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、還元麦芽糖水飴、トレハロース、砂糖、ブドウ糖、リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。これらの賦形剤は一種又は二種以上使用できる。
【0016】
更に、本発明の錠剤は、慣用の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、嬌味剤などが挙げられる。該添加剤は単独でも混合物としても用いることができる。
【0017】
結合剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルランなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分α化デンプンなどが挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸及びその金属塩、タルク、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。嬌味剤としては、例えば、甘味剤(例えば、アスパルテーム、アセスルファムK、ステビア、スクラロース、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウムなどの人工甘味料など)などが挙げられる。
【0018】
さらに本発明には、各種アミノ酸及びその塩類、各種ビタミン類、その他の生薬及び生薬抽出物など一般に使用される成分を配合することができる。
【実施例】
【0019】
以下に参考例、実施例、比較例、及び試験例によって、本発明を詳細に説明する。
【0020】
参考例1〜4
以下の操作を行い、表1に示す組成比になるように参考例1〜4の錠剤を製造した。
Lアルギニン、還元麦芽糖水飴、ヒドロキシプロピルセルロース、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸カルシウムをそれぞれ秤量し、混合、粉砕したものを、打錠機にて打錠し、1錠質量370mgの錠剤を製造した。表中の単位はいずれも質量%である。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例1及び比較例1
以下の操作を行い、表2に示す組成比となるように実施例1及び比較例1の錠剤を製造した。
【0023】
Lアルギニン、及び硬化油をそれぞれ秤量、混合し、粉砕したものに対して、ヒドロキシプロピルセルロースを精製水に溶解し、ヒドロキシプロピルセルロース濃度を6.0%とした溶液を結合液として、練合造粒機を用いて造粒、乾燥し、造粒物を得た。コウジンエキス末、紅景天エキス末、黒胡椒抽出物、ビタミンB、亜鉛含有酵母、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸カルシウムをそれぞれ秤量し、混合、粉砕したものを、該造粒物と混合し、打錠機にて打錠、1錠質量360mgの錠剤を製造した。表中の単位はいずれも質量%である。
【0024】
【表2】

【0025】
試験例
参考例1、2、3、4及び実施例1、比較例1で製造した錠剤を試験サンプルとした。
試験サンプルを、25℃60%RHの条件下にて任意時間保存した後、試験サンプルの外観変化を評価した。試験結果を表3及び表4に示した。また、それぞれの錠剤について代表的な写真を図1〜図9に示した。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
表中の評価結果は以下の通りである。
0:変化無し
1:錠剤に亀裂
2:錠剤の崩壊
【0029】
参考例より、25℃60%RHの条件下における試験サンプルの外観変化は、Lアルギニンの含有量に依存し、Lアルギニンの含有量が16.9質量%以上では錠剤に亀裂や崩壊を確認した。従って本発明はアルギニンを錠剤に対して16.9質量%以上含有させる場合に、特に効果を発揮する。なお、アルギニンの含有量が16.9質量%未満である錠剤に対しても、アルギニンの吸水、膨潤を抑制するために、本発明を適用することができる。
【0030】
実施例1で得られた試験サンプルの25℃60%RH条件下における外観変化を評価したところ、錠剤の亀裂や崩壊は確認されず、安定であることを確認した。比較例1で得られた試験サンプルの25℃60%RH条件下における外観変化を評価したところ、錠剤側面に亀裂が入ることを確認した。
【0031】
以上の結果より、硬化油の含有量がLアルギニン1質量部に対して0.3質量部であれば、Lアルギニンの含有量が55.6質量%においても25℃60%RHの条件下にて安定な錠剤を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のアルギニン含有錠剤は、食品、医薬品、医薬部外品などとして、利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギニン1質量部に対して0.3質量部以上の疎水性物質を含有することを特徴とする、錠剤中のアルギニン含有量が16.9質量%以上である錠剤。
【請求項2】
疎水性物質が硬化油である請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
コーティングを施さないことを特徴とする請求項1又は2に記載の錠剤。
【請求項4】
アルギニン1質量部に対して0.3質量部以上の疎水性物質を含有する粉体を練合造粒する工程を含むことを特徴とする、錠剤中のアルギニン含有量が16.9質量%以上である錠剤の製造方法。
【請求項5】
疎水性物質が硬化油である請求項4に記載の錠剤の製造方法。
【請求項6】
コーティングを施さないことを特徴とする請求項4又は5に記載の錠剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−270111(P2010−270111A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97296(P2010−97296)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】