説明

アルバダファインダー

【課題】 撮影フレーム等のパターン像の判別が容易でなく、あるいは、ファインダー視野内の被写体像を色調が不自然になる。
【解決手段】 負のパワーを持つ第1レンズL1、負のパワーを持つ第2レンズL2、正のパワーを持つ第3レンズL3から構成されるレンズ系を有している。第3レンズL3の物体側の面3aには、ファインダー視野中で確認されるパターンを形成するために物体側から入射する光束のうちの特定波長成分を選択的に反射させる反射パターン4が形成されている。また、第2レンズL2の眼E側の面2bには、反射光、透過光が共にほぼ白色となるような分光反射率、分光透過率を有するハーフミラー面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、主としてコンパクトカメラのファインダーとして使用されるアルバダファインダーに関し、特に、ファインダー視野中に形成される撮影フレーム(視野枠)等のパターン像の視認性の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のアルバダファインダーとしては、負レンズと正レンズと少なくとも2枚のレンズを備え、物体側のレンズの眼側の面をハーフミラー面とすると共に、眼側のレンズの物体側の面に撮影範囲等を示すための反射パターンを形成したものが知られている。
【0003】物体側から入射した光束の一部は、反射パターンで反射された後、ハーフミラー面で再度反射されて撮影者の眼に入射する。撮影者は、撮影フレーム等のパターン像と被写体像とを重ねて見ることができる。従来の反射パターンは、分光反射率が可視光域においてほぼ一定のアルミニウム蒸着ミラーにより形成されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のアルバダファインダーは、ハーフミラーの分光反射率がほぼ一定である場合には、ファインダー視野中に撮影フレーム等のパターン像が白色で視認されるため、被写体像と重ねて見たときにパターン像をファインダー視野内で判別することが困難であるという問題を有している。
【0005】一方、ハーフミラーの分光反射率に不均一な分布を持たせた場合、パターン像はハーフミラーの反射率の高い波長によって色が付くために判別は容易となるが、透過光がその補色となるためにパターン以外の被写体像にも色が付き、ファインダー視野が不自然な色調となる。
【0006】例えば、図10に示すようにハーフミラー面の分光反射率を黄色成分のみを反射させるよう構成すると、パターン像はファインダー視野内で黄色く色づいて見えるために判別しやすいが、透過光はその補色で青色となるため、被写体像は青く色づいて見えることとなる。
【0007】
【発明の目的】この発明は、上述した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、ファインダー視野内の被写体像を自然な色調に保ちつつ、撮影フレーム等のパターン像を容易に判別することができるアルバダファインダーの提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】この発明にかかるアルバダファインダーは、上記の目的を達成させるため、少なくとも物体側から眼側に向けて順に配置された負レンズ、正レンズを有するレンズ系と、負レンズと正レンズとの間に配置され、ファインダー視野中で確認されるパターン像を形成するために物体側から入射する光束のうちの特定波長成分を選択的に反射させる反射パターンが形成された反射パターン面と、反射パターン面の物体側に対向して配置され、透過光、反射光が共にほぼ白色となるような分光反射率、分光透過率を有するハーフミラー面とを備えることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施態様】以下、この発明にかかるアルバダファインダーの実施態様を説明する。実施態様のアルバダファインダーFは、図1に示すように、物体O側から眼E側に向けて順に配置された、負のパワーを持つ第1レンズL1、負のパワーを持つ第2レンズL2、正のパワーを持つ第3レンズL3から構成されるレンズ系を有している。
【0010】負の第2レンズL2と正の第3レンズL3の間、この例では第3レンズL3の物体側の面3aには、ファインダー視野中で確認されるパターン像を形成するために物体側から入射する光束のうちの特定波長成分を選択的に反射させる反射パターン4が形成されている。すなわち、この実施態様では、第3レンズの物体側面3aが反射パターン面として機能している。
【0011】また、反射パターン面に対して物体O側から対向する位置、この例では第2レンズL2の眼E側の面には、反射光、透過光が共に白色となるような分光反射率、分光透過率を有するハーフミラー面2bが形成されている。このようなハーフミラー面は、例えば可視光域における分光反射率、分光透過率をほぼ一定とすることによって得られる。
【0012】反射パターン4は、図2に示されるように、この例ではファインダー視野中で撮影範囲を示すための撮影フレームを形成する撮影フレームパターン4aと、オートフォーカス用のセンサの測定範囲を示す合焦フレーム(あるいは測距フレーム)を形成する合焦フレームパターン4bとから構成されている。
【0013】物体Oからの光束は、第1レンズL1、第2レンズL2を透過して第3レンズL3に到達し、反射パターン4に入射した部分は光束中の特定波長成分のみが反射され、反射パターン4以外に入射した部分は第3レンズをそのまま透過して撮影者の眼Eに入射する。
【0014】反射パターン4で反射された特定波長成分は、ハーフミラー面2bで反射され、第3レンズを透過して撮影者の眼に入射する。これにより撮影者は被写体像に撮影フレーム、合焦フレームを重ねて見ることができる。
【0015】ハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率は透過光、反射光ともに白色となるよう定められているため、被写体像は全体的に暗くなるのみで色はつかず、撮影者は被写体像を自然な色調で観察することができる。一方、反射パターン4の分光反射率を例えば黄色成分を多く反射させるよう設計すれば、フレーム部分は黄色く見えるため、視野内での判別が容易となる。
【0016】なお、ファインダー視野内での反射パターン像の判別を容易とするためには、反射パターンの分光反射率を黄色、あるいはオレンジ色等の目立つ色の波長成分を多く反射させるよう設定することが望ましい。
【0017】具体的には、ハーフミラー面2bの反射光のCIE色座標(x,y)が、以下の条件(1)、(2)を共に満たすよう設定され、かつ、反射パターン4の反射光のCIE色座標(x,y)が、以下の条件(3)、(4)を共に満たすよう設定されることが望ましい。なお、反射光のCIE色座標(x,y)は、標準光源C(相関色温度6774K)を使用した場合のCIE1931色度座標(x,y)を意味する。
【0018】0.22 < x < 0.35 …(1)0.20 < y < 0.42 …(2)0.35 < x < 0.60 …(3)0.20 < y < 0.55 …(4)
【0019】
【実施例】次に、ハーフミラー面2b、反射パターン4の膜構成の具体的な実施例を7例説明する。なお、いずれの例も第2レンズL2はPC(ポリカーボネイト)、第3レンズL3はPMMA(ポリメチルメタクリレート)により成形されている。
【0020】また、ハーフミラー面2bは、いずれの実施例においても誘電体膜を蒸着によりコーティングして形成されており、反射パターン4は、実施例1〜3では誘電体膜を蒸着によりコーティングして形成され、実施例4,5では金属膜を蒸着によりコーティングして形成され、実施例6,7では金属膜をコーティングした上に誘電体膜を重ねてコーティングすることにより形成されている。
【0021】
【実施例1】図3は、実施例1のハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率と反射パターン4の分光反射率とを示す。ハーフミラー面2b、反射パターン4の膜構成は、それぞれ表1、表2に示される。光学膜厚は、物理的な厚さと表示された波長での屈折率との積である(単位:nm)。
【0022】実施例1の構成によれば、ハーフミラー面の透過率がほぼ一定であることから被写体像は自然な色調で観察され、ファインダー視野中の反射パターン像は、黄色く色づいて観察される。
【0023】
【表1】


【0024】
【表2】


【0025】
【実施例2】図4は、実施例2のハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率と反射パターン4の分光反射率とを示す。ハーフミラー面2b、反射パターン4の膜構成は、それぞれ表3、表4に示される。実施例2の構成によれば、ハーフミラー面の透過率がほぼ一定であることから被写体像は自然な色調で観察され、ファインダー視野中の反射パターン像は、オレンジ色に色づいて観察される。
【0026】
【表3】


【0027】
【表4】


【0028】
【実施例3】図5は、実施例3のハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率と反射パターン4の分光反射率とを示す。ハーフミラー面2b、反射パターン4の膜構成は、それぞれ表5、表6に示される。実施例3の構成によれば、ハーフミラー面の透過率が短波長側でやや大きいため、被写体像はわずかに青みかかった色調で観察され、ファインダー視野中の反射パターン像は、オレンジ色に色づいて観察される。
【0029】
【表5】


【0030】
【表6】


【0031】
【実施例4】図6は、実施例4のハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率と反射パターン4の分光反射率とを示す。ハーフミラー面2bの膜構成は表1に示した実施例1と同一であり、反射パターン4は膜厚100nmの金の層である。金や真鍮のような金色の金属で反射パターンを形成すると、ファインダー視野中で反射パターン像は黄色く色づいて観察される。
【0032】
【実施例5】図7は、実施例5のハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率と反射パターン4の分光反射率とを示す。ハーフミラー面2bの膜構成は表1に示した実施例1と同一であり、反射パターン4は膜厚100nmの銅の層である。反射パターンを銅にした場合には、ファインダー視野中で反射パターン像は赤色に色づいて観察される。
【0033】
【実施例6】図8は、実施例6のハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率と反射パターン4の分光反射率とを示す。ハーフミラー面2bの膜構成は表1に示した実施例1と同一であり、反射パターン4は膜厚100nm程度の銅の層に誘電体層を積層したもので、その膜構成は表7に示される。ファインダー視野中で反射パターン像は紫色に色づいて観察される。
【0034】
【表7】


【0035】
【実施例7】図9は、実施例7のハーフミラー面2bの分光反射率、分光透過率と反射パターン4の分光反射率とを示す。ハーフミラー面2bの膜構成は表1に示した実施例1と同一であり、反射パターン4は膜厚100nm程度の銅の層に誘電体層を積層したもので、その膜構成は表8に示される。ファインダー視野中で反射パターン像は赤色に色づいて観察される。
【0036】
【表8】


【0037】実施例6,7によれば、金属膜による高い反射率を維持しつつ誘電体層の構成によって微妙な色バランスを調整することができる。また、硬い誘電体層により金属膜が保護されるため、金属膜の損傷を防ぐことができる。
【0038】以下の表11は、上述した6つの実施例のハーフミラー面と反射パターンとの反射光の色とCIEの色度座標とを示す。
【0039】
【表9】
ハーフミラー面(反射光) 反射パターン(反射光) 色 CIE(x,y) 色 CIE(x,y)実施例1 白 0.309, 0.320 黄 0.434, 0.468実施例2 白 0.305, 0.308 オレンジ 0.437, 0.462実施例3 白 0.287, 0.273 オレンジ 0.428, 0.451実施例4 白 0.309, 0.320 黄 0.401, 0.384実施例5 白 0.309, 0.320 赤 0.378, 0.357実施例6 白 0.309, 0.320 紫 0.360, 0.255実施例7 白 0.309, 0.320 赤 0.420, 0.365
【0040】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、反射パターンの反射率に波長選択性を持たせることにより、撮影者は、ファインダー視野内で被写体像を自然な色調で観察しつつ、撮影フレーム等のパターン像をファインダー視野内で白色より判別しやすい色で確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施例にかかるアルバダファインダーのレンズ系を示す斜視図である。
【図2】 図1のレンズ系の一部を拡大して示す斜視図である。
【図3】 実施例1にかかるアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【図4】 実施例2にかかるアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【図5】 実施例3にかかるアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【図6】 実施例4にかかるアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【図7】 実施例5にかかるアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【図8】 実施例6にかかるアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【図9】 実施例7にかかるアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【図10】 従来例のアルバダファインダーの反射パターン面の分光反射率、ハーフミラー面の分光透過率および分光反射率を示すグラフである。
【符号の説明】
F アルバダファインダー
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
2b ハーフミラー面
3a 物体側面
4 反射パターン
4a 撮影フレームパターン
4b 合焦フレームパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】少なくとも物体側から眼側に向けて順に配置された負レンズ、正レンズを有するレンズ系と、前記負レンズと正レンズとの間に配置され、ファインダー視野中で確認されるパターン像を形成するために物体側から入射する光束のうちの特定波長成分を選択的に反射させる反射パターンが形成された反射パターン面と、前記反射パターン面の物体側に対向して配置され、反射光、透過光が共にほぼ白色となるような分光反射率、分光透過率を有するハーフミラー面とを備えることを特徴とするアルバダファインダー。
【請求項2】前記ハーフミラー面の反射光のCIE色座標(x,y)が、以下の条件(1)、(2)を共に満たすことを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
0.22 < x < 0.35 …(1)0.20 < y < 0.42 …(2)
【請求項3】前記反射パターンは、前記正レンズの物体側の面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
【請求項4】前記ハーフミラー面は、前記負レンズの眼側の面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
【請求項5】前記反射パターンは、前記ファインダー視野中で撮影範囲を示す撮影フレームを形成することを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
【請求項6】前記反射パターンは、前記ファインダー視野中で撮影範囲を示す撮影フレームと、合焦範囲を示す合焦フレームとを形成することを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
【請求項7】前記反射パターンは、誘電体をコーティングして形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
【請求項8】前記反射パターンは、金属膜をコーティングして形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
【請求項9】前記反射パターンは、金属膜をコーティングした上に誘電体を重ねてコーディングして形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
【請求項10】前記反射パターンの反射光のCIE色座標(x,y)が、以下の条件(3)、(4)を共に満たすことを特徴とする請求項1に記載のアルバダファインダー。
0.35 < x < 0.60 …(3)0.20 < y < 0.55 …(4)
【請求項11】物体側から眼側に向けて順に配置された少なくとも2枚のレンズを備え、眼側のレンズの物体側の面に、ファインダー視野中で確認されるパターン像を形成するために物体側から入射する光束のうちの特定波長成分を選択的に反射させる反射パターンを形成し、物体側のレンズの眼側の面に、反射光、透過光が共にほぼ白色となるような分光反射率、分光透過率を有するハーフミラー面を形成したことを特徴とするアルバダファインダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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