説明

アルミニウムの着色方法

【課題】陽極酸化処理をしたアルミニウムの着色において、染色浴のくり返し使用を可能にする異なる2種類の金属錯塩染料を配合して用いるアルミニウムの着色方法を提供する。
【解決手段】特定の化学構造を有する2種類の金属錯塩染料(いずれも、クロム、コバルト又は鉄を含む。)を、所定の割合(70〜90:30〜10重量部)で配合した染料組成物を用いて陽極酸化処理アルミニウムの着色を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる2種類の金属錯塩染料を配合して用いるアルミニウムの着色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来アルミニウムの着色は、水および適当な酸を含む電解液中でアルミニウムを陽極として通電し、アルミニウム表面を多孔質の酸化アルミニウム層としたのち(以下陽極酸化処理と略称する。)金属錯塩染料、酸性染料、直接染料等を着色剤として使用することにより行われていた。例えば、金属錯塩染料は、特公昭61−60869、特開昭60−235867号公報に記載されている染料等が挙げられる。近年、陽極酸化処理アルミニウムを黒色に着色する場合、需要の多様化に伴い、処理物の色の安定性、処理浴の継続の使用がランニングコスト、廃水問題の面から要求されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来より使用されている着色剤を用いた陽極酸化処理アルミニウムの黒色の着色では、処理浴の多数回のくりかえし使用の着色で、処理物の色相が充分に安定していないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、本発明を完成した。即ち、本発明は次の一般式(1)
【0005】
【化1】

と次の一般式(2)
【0006】
【化2】

{一般式(1)及び一般式(2)の式中、mは1又は2であり、Xは、水素、ナトリウム、カリウム又はアンモニウムを表わし、Mは、クロム、コバルト又は鉄を表わす。}で表わされる金属錯塩染料とを、70〜90重量部対30〜10重量部配合した染料組成物を用いることを特徴とする陽極酸化処理アルミニウムの着色方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のアルミニウムの着色方法は、染色浴に溶存アルミニウム、硫酸根を有する物質が蓄積しても、充分に黒色に着色される。そのため染色浴を多数回使用することができ、省力化、省エネルギー化が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
上記一般式(1)のうち、クロム錯塩染料は、特開昭55−97492号公報等で公知のものであり、上記一般式(2)のうちクロム錯塩染料は染料便覧等に記載のものであるが、これら染料を単独で陽極酸化処理アルミニウムの黒色の着色に用いた場合、処理浴のくり返し使用時に、処理物の最初の黒色が次第に灰色に変化するという現象がみられた。
【0009】
この原因は、かならずしも明らかではないが、処理浴(浸漬浴)を多数回くり返し使用すると、浸漬浴に陽極酸化処理アルミニウムに付着した溶存アルミニウム、硫酸根を有する物質、その他金属塩類や油脂等が混入し、これらの混入物が陽極酸化処理アルミニウムの着色を阻害し、陽極酸化処理アルミニウム着色物が一定の黒色にならず外観不良が発生するものと考えられる。
【0010】
本発明では、一般式(1)と一般式(2)で表わされる金属錯塩染料を70〜90重量部対30〜10重量部の割合で配合することにより、数10回の処理浴の継続使用が可能となるが、一般式(1)で表わされる金属錯塩染料の配合使用割合が70部未満になると、即ち一般式(2)で表わされる金属錯塩染料の配合使用割合が30部以上になると、処理浴中への一般式(2)で表わされる染料の溶出(なきだし現象)が起き好ましくない。
また一般式(1)の染料を90部を越えて使用すると、即ち一般式(2)の染料を10部未満で使用すると安定した黒色の着色物が得られない。
【実施例】
【0011】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、文中、部および%は重量部及び重量%を意味する。
実施例1
次の構造式
【0012】
【化3】

で表わされるクロム錯塩染料(以下、クロム錯塩染料No.1という。)70部と次の構造式
【0013】
【化4】

で表わされるクロム錯塩染料(以下、クロム錯塩染料No.2という。)30部とを1リットルのボールミルに加え、約5時間混合し粉砕して染料組成物を得た(以下、染料組成物No.1という)。
【0014】
比較例1
実施例1で用いたクロム錯塩染料No.1、100部を実施例1と全く同様に処理して染料粉末を得た(以下、比較染料No.1という)。
【0015】
実施例2
次の構造式
【0016】
【化5】

で表わされるクロム錯塩染料(以下、クロム錯塩染料No.3という)80部と、実施例1で用いたクロム錯塩染料No.2、20部とを1リットルのボールミルに加え、実施例1と同様に処理して染料組成物(染料組成物No.2)を得た。
【0017】
比較例2
実施例2で用いたクロム錯塩染料No.3、100部を実施例2と全く同じに処理して染料粉末(比較染料No.2)を得た。
【0018】
実施例3
実施例1〜2、比較例1〜2、で得られた染料組成物、比較染料を用いて陽極酸化処理アルミニウムを浸漬浴中で、多数回のくりかえし着色を行った。結果を表記する。
【0019】
【表1】

【0020】
なお、陽極酸化処理をしたアルミニウム試験片の着色物は次のようにして得た。厚さ3mmのアルミニウム(純度99.85%)片を20%硫酸水溶液中、温度20℃、10dm/А、14Vの条件で、45分間陽極酸化処理を行ない、酸化皮膜の膜厚、15μの酸化皮膜層を有するアルミニウム片を得た。別に実施例1、2および比較例1、2で得られた染料を用いて、1.0%の染色浴を調整し、これらの染色浴に、上記のアルミニウム片を浸漬し、pH5.5、温度60℃、時間15分間の条件で着色した。第2回目以降の着色は、染色浴の染料濃度が1.0%になるように調整して、着色操作をくり返した。従って、表1中、150dmとは、この着色操作を15回くり返したことを意味する。
【0021】
表中、耐光値は、着色アルミニウム試験片をフエードオメーター(光源、カーボンアーク灯)256時間照射後、変退色用プルースケールで判定した。耐熱値は、着色アルミニウム試験片を200℃5時間処理した後、グレースケールで判定した。
【0022】
表中から明らかなように、本発明の染料組成物No.1、No.2を使用した場合は、多数回(15回)くり返し着色を行なっても、優れた黒色を呈し、さらに耐光、耐熱の性能も優れていた。それに比べ、比較染料No.1、No.2の場合は、5〜10回くりかえし着色すると色相が灰色で黒色にならず、さらに耐光、耐熱も低下し、本発明に係わる着色剤より実用上劣っていた。
【0023】
また、くり返し使用中の染色浴中の溶存アルミニウム、及び硫酸根の蓄積量を測定した。その結果を表2に示した。
【0024】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

と次の一般式(2)
【化2】

{一般式(1)及び一般式(2)の式中、mは1又は2であり、Xは、水素、ナトリウム、カリウム又はアンモニウムを表わし、Mは、クロム、コバルト又は鉄を表わす。}で表わされる金属錯塩染料とを、70〜90重量部対30〜10重量部配合した染料組成物を用いることを特徴とする陽極酸化処理アルミニウムの着色方法。
【請求項2】
前記した一般式(1)及び一般式(2)のMがクロムであることを特徴とする請求項1記載の陽極酸化処理アルミニウムの着色方法。
【請求項3】
前記した一般式(1)及び一般式(2)のMがコバルトであることを特徴とする請求項1記載の陽極酸化処理アルミニウムの着色方法。
【請求項4】
前記した一般式(1)及び一般式(2)のMが鉄であることを特徴とする請求項1記載の陽極酸化処理アルミニウムの着色方法。