説明

アルミニウムベース複合材料

【課題】 これまでに提案されたアルミニウムベース複合材料よりも耐熱性、耐摩耗性及び強度に優れたアルミニウム合金系の複合材料を提供する。
【解決手段】 アルミニウム又はアルミニウム合金粉末からなるベース材料に、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素等から選ばれるセラミックス粒子の少なくとも1種類以上を35〜60vol%と、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素等から選ばれるセラミックス繊維の少なくとも1種類以上を5〜30vol%、かつ前記セラミックス粒子とセラミックス繊維を合計して40〜65vol%添加した混合物を、焼結して得たことを特徴とするアルミニウムベース複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムベース複合材料に関し、詳細には耐熱性、耐摩耗性及び強度に優れたアルミニウムベース複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、地球環境保護の観点からあらゆる分野で省エネルギーが叫ばれるようになってきた。その結果、自動車の燃費向上のために自動車部品の軽量化も必要になり、当然のことながらディスクキャリパ、サポート、ロータ等のブレーキ関連部品の軽量化も要求されるようになった。
【0003】
ところで、これまでブレーキ関連部品の材料として一般に鋳鉄が多く使用されているが、鋳鉄は比重が大きいために軽量化の度合いは限定されている。
そこで大幅な軽量化を図るため、軽量材料であるアルミニウム合金や、アルミニウム合金をベースとし、アルミナや炭化珪素などのセラミックス粒子を添加したアルミニウムベース複合材を素材としたブレーキ関連部品が開発され、実用化されつつある。
【0004】
本発明者は、先に特許文献1で、5〜20vol.%のセラミックス粒子、60〜90vol.%のアルミニウム合金粉末、5〜20vol.%の純アルミニウム粉末を含む混合粉を熱間又は半溶融温度領域で加圧成形したことを特徴とするアルミニウム基複合材で、ブレーキ用ロータを作ることを提案した。
さらに、特許文献2には、Fe,Cr,Ni,Zr,Mnの遷移金属元素より選ばれる1種ないし2種以上の元素:1〜15wt%,Si: 10〜30wt%,Cu:0.5〜5wt%,Mg:1〜5wt%,残部実質的にAlからなり、結晶粒径2μm以下,粉体粒子径50μm以上である加工性にすぐれた高強度アルミニウム合金粉末に、粒径5μm以下のセラミックス粉末1〜10vol%を配合された混合粉末である加工性にすぐれた高強度アルミニウム合金粉末を用いて、自動車用ピストン部材などを作ることが提案されているが、いずれもセラミックス粉末の含有量が少ないものである。
【特許文献1】特開平7−41883号公報
【特許文献2】特開平11−209839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルミニウム合金は耐摩耗性が非常に劣り、またこれまでの鋳造法で開発されたアルミニウムベース複合材は、セラミックス粒子の量が多くなると溶湯の粘度が大きくなり、溶湯が速やかに流れにくくなるため、セラミックス粒子の量をあまり多く添加できない。また、これまでの粉末冶金法で開発されたことから、アルミニウムベース複合材料は、使用するセラミックスが粒子のみであり、その量を多くするとバインダの働きをしているアルミニウム又はアルミニウム合金の量が不足し、強度は低下するためセラミックス粒子の量をあまり多く添加できない。以上のことから、耐熱性、耐摩耗性、強度などに依然として問題が残されている。
特に熱的に厳しいディスクロータへ適用する場合、一部の軽負荷仕様に限定され、耐熱性、耐摩耗性、強度の優れた軽量材料の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑み、自動車、二輪車、鉄道車両、産業機械等のブレーキ関連部品を鋳鉄等の鉄系材料からアルミニウム合金に変えることにより軽量化することを課題としてなされたものであり、これまでに提案された粉末冶金法によるアルミニウムベース複合材料よりも耐熱性、耐摩耗性及び強度に優れたアルミニウム合金系の複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、本発明の前記課題を解決するべく鋭意研究を進めた結果、アルミニウム又はアルミニウム合金に、セラミックス粒子及びセラミックス繊維を分散・含有させてなる合金複合材料において、前記粒子及び繊維の種類及び添加量を適正化することにより、ブレーキ関連部品としての良好な特性を有する複合材料を得ることができるとの知見を得て、この知見に基づき本発明を完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の手段によって上記の課題を解決することができた。
(1)アルミニウム又はアルミニウム合金粉末からなるベース材料に、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素等から選ばれるセラミックス粒子の少なくとも1種類以上を35〜60vol%と、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素等から選ばれるセラミックス繊維の少なくとも1種類以上を5〜30vol%、かつ前記セラミックス粒子とセラミックス繊維を合計して40〜65vol%添加した混合物を、焼結して得たことを特徴とするアルミニウムベース複合材料。
(2)前記焼結は、加圧力を加えながら行われる加圧焼結であることを特徴とする前記(1)記載のアルミニウムベース複合材料。
(3)前記セラミックス繊維は、繊維長0.1〜2mm、かつアスペクト比(繊維長/繊維径)10以上としたことを特徴とする前記(1)又は(2)記載のアルミニウムベース複合材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアルミニウムベース複合材料は、セラミックス粒子とセラミックス繊維を併用し、粉末冶金法による製造方法により得られるものであるため、セラミックス粒子とセラミックス繊維を任意の量だけ多量に添加できる。その特徴を生かし、本発明品はセラミックス粒子を最大60vol%、セラミックス繊維を最大30vol%(セラミックス粒子とセラミックス繊維の合計は最大65vol%)と多量に添加することによって、これまでのアルミニウムベース複合材に比較して耐熱性、耐摩耗性、強度に優れたアルミニウムベース複合材が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の複合材料は、母材となるアルミニウム又はアルミニウム合金のマトリックスにSiC、Al、AlN、Si等のセラミックス粒子及びセラミックス繊維を分散させたものである。アルミニウム又はアルミニウム合金にこれらを分散させることによって、ブレーキ関連部品の軽量化とともに、その耐熱性、耐摩耗性及び強度を改善することができる。
その母材、いわゆるマトリクスとなるアルミニウム又はアルミニウム合金は、その組成を特に限定するものではなく、AlならびにAl−Cu、Al−Si、Al−Mn、Al−Mg、Al−Znの2元系等を基本とし、それらを組み合わせた3元系、4元系等、さらには、少量のNi、Cr、Zr、Ti等を目的に応じて添加した合金系のものを使用できる。
【0011】
セラミックス粒子及びセラミックス繊維の代表的なものはSiC、Al、AlN、及びSiがあり、これらのセラミックス粒子及びセラミックス繊維をそれぞれ1種又は2種以上の合計で40〜65vol%添加し、マトリックスに分散させることが必要である。
上記の添加成分のうち、セラミックス繊維は、アルミニウムベース複合材料の強度の向上に大きく寄与するものである。
【0012】
本発明のアルミニウムベース複合材料において、セラミックス粒子及びセラミックス繊維の添加量を限定した理由について以下に説明する。セラミックス粒子の添加量が35vol%未満では従来材に対する耐熱性、耐摩耗性の向上が顕著でなく、またセラミックス繊維が5vol%未満では強度の向上が顕著でない。特許請求の範囲内の添加量ならば、セラミックス粒子やセラミックス繊維の量が多いほど耐熱性、耐摩耗性、強度は向上するが、セラミックス粒子とセラミックス繊維の合計が65vol%を越えると、結合材の働きをしているアルミニウム又はアルミニウム合金の量が不足するため強度が急激に低下する。
従って、上記に規定した配合割合が耐熱性、耐摩耗性、強度に優れたアルミニウムベース複合材料にとって適当である。
【0013】
上記した種類と添加量のセラミックス粒子とセラミックス繊維とを併用して添加したので、それぞれが有する補強作用が総合される結果、これら2つの補強成分をアルミニウム又はアルミニウム合金母材に分散して複合化させた本発明のアルミニウムベース複合材料は、安価であって、耐熱性、耐摩耗性及び強度が改善されたアルミニウムベース複合材となる。
【0014】
本発明に使用されるアルミニウム又はアルミニウム合金は、そのセラミックス粒子とセラミックス繊維との配合に当っては、混合を均一とするためにも、通常粉末状で混合することが行われ、アルミニウム又はアルミニウム合金粉末の粒子径は、5〜100μmの範囲とするのがよく、20μm程度であることが好ましい。それは粉末の圧縮性、成形性及び塑性変形能を良好にするためである。
また、セラミックス粒子は、粒径が1〜20μmの範囲とするのがよく、粒径10μm以下の微細粒子であることが望ましい。これよりも粗大な粒径では、仕上げ加工(機械加工)が困難となるからである。セラミックス繊維は、繊維長0.1〜2mm、アスペクト比(繊維長/繊維径)10以上とするのがよい。繊維長が0.1mm未満及びアスペクト比10未満では繊維による補強効果が十分でなく、繊維長が2mmを超えると均一に分散させることが困難になるからである。
【0015】
本発明の複合材料は、例えば、下記の方法で製造することができる。
(粉末冶金法)
これは、アトマイズ法によって製造された急冷凝固アルミニウム合金粉末と、セラミックス粒子とを混合した後、ホットプレス等により緻密化させる方法である。
【0016】
まず、所定の化学組成を有するアルミニウム合金溶湯を、空気又は窒素等によるガスアトマイズ法などで急冷凝固させてアルミニウム合金粉末を作製する。
この粉末の粒度は、高強度と高靭性を得るためにも、セラミックス粒子を均一に分散させるためにも微細である方が望ましい。次に、これと所定のセラミックス粒子を各種の撹拌式混合機あるいはボールミル等の粉砕機によって混合する。この後、アルミニウム合金粉末の表面に吸着している水分やガスを除去するために脱ガス処理をする。これは、混合粉末を缶に充填し400〜500℃で真空吸引するか、混合粉を冷間圧縮した予備成形体を不活性雰囲気又は真空中で400〜500℃に加熱することによって行われる。脱ガス後、300〜500℃でホットプレスして混合粉を相対密度100%程度に近いところまで緻密化させる。更に、必要に応じて鍛造加工を行えば最終製品に近い形までの成形と高強度化ができる。最後に切削加工を行い製品とする。
上記工程を経て製造された本発明のアルミニウムベース複合材料は、所定の機械加工等を施して製品として完成される。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
実施例1〜6及び比較例1〜8
1)粒径約20μmのアルミニウム合金(Al−1%Mg)粉末に、平均粒径約4.5μmのアルミナ粒子と長さ約1mm、かつアスペクト比約100(繊維径で約10μm)のアルミナ繊維を第1表に示す割合で配合、混合して混合物を得た。
2)上記混合物を150℃に予熱後、100MPaで予備成形を行った。
3)この予備成形体を超硬合金製の金型に投入し、ホットプレスで30〜40MPa、500〜550℃、5〜10min保持して焼結を行い、アルミニウムベース複合材を得た。
【0019】
4)これらの複合材(本発明の実施例1〜6及び比較例1〜8)と、これまでに開発された鋳造法で作製した複合材(従来品)から摩擦試験片と曲げ試験片を作製し、耐熱限界摩擦試験と三点曲げ試験を実施した。
摩擦試験は、ブレーキ制動初期温度300℃で5回制動後、初期温度を10℃上昇させて5回制動、その後も10℃上昇、5回制動を繰り返し、試験片の溶融等により制動不可になるまでの温度(耐熱限界温度)まで試験を継続した。
【0020】
5)摩擦試験の結果
従来品は制動初期温度420℃で一部溶融し始めたため制動不可(耐熱限界温度420℃)になった。
一方、本発明の実施例品はアルミナ粒子、アルミナ繊維の量が増すに従い耐熱限界は上昇し、最高で制動初期温度520℃まで制動可能であった。また耐熱限界温度が高いほど、耐摩耗性も良好であった。
比較例1〜5の場合、従来品と比較した耐熱性、耐摩耗性、強度の向上は顕著でなかった。さらに、比較例6〜8の場合、結合材として作用するアルミニウム又はアルミニウム合金の量が不足したため、耐熱限界は上昇したものの曲げ強さが著しく低下した。
6)曲げ試験の結果
セラミックス粒子とセラミックス繊維の合計が65vol%以下ならば、繊維量の増加に従い曲げ強さは向上したが、65vol%を越えると曲げ強さは急激に低下した。
【0021】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のアルミニウムベース複合材料は、優れた耐熱性、耐摩耗性及び強度を有するのでディスクキャリパ、サポート、ロータ等のブレーキ関連部品を初めとする種々の工業用材料として有用であり、さらにニッケルを全く含有しないため、金属アレルギーによる用途の制限がないので、広汎な用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金粉末からなるベース材料に、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素等から選ばれるセラミックス粒子の少なくとも1種類以上を35〜60vol%と、アルミナ、炭化珪素、窒化アルミニウム、窒化珪素等から選ばれるセラミックス繊維の少なくとも1種類以上を5〜30vol%、かつ前記セラミックス粒子とセラミックス繊維を合計して40〜65vol%添加した混合物を、焼結して得たことを特徴とするアルミニウムベース複合材料。
【請求項2】
前記焼結は、加圧力を加えながら行われる加圧焼結であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウムベース複合材料。
【請求項3】
前記セラミックス繊維は、繊維長0.1〜2mm、かつアスペクト比(繊維長/繊維径)10以上としたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアルミニウムベース複合材料。

【公開番号】特開2006−63400(P2006−63400A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−247971(P2004−247971)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000145541)株式会社曙ブレーキ中央技術研究所 (8)
【Fターム(参考)】