説明

アルミニウム合金製の筺体の製造方法と該製造方法により製造される筺体

【課題】仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用するアルミニウム合金板による筺体を、接合部を変形させることなく、接合強度を確保すると共に、意匠性を低下させることなく製造するものである。
【解決手段】筺体状に折曲成形されたアルミニウム合金板2bの内面において、断面L字形状のアングル材3の折曲部3aを、接合すべき面の各境界辺に当接させるとともに、その両接合面3bをそれぞれ接合すべき面に当接させた上、該アルミニウム合金板2b内側から裏当て治具4を当接させながら、該アルミニウム合金板2b外側から回転工具5の圧入ピン5aを差し込んで摩擦撹拌点接合を行い、接合部を形成して一体に接合することによって、接合部における変形を防止しつつ、接合強度を確保すると共に、その意匠性を低下させることなく、アルミニウム合金材を筺体に成形することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、筺体の製造方法と、該製造方法により製造される筺体に関するものであり、特に例えば仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用される筺体の製造方法と、該製造方法により製造される筺体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば仏壇、礼拝壇又は供養塔等に使用される筺体は、木製によるものが一般的であった。ところが、近年、資源保護やリサイクルという社会的要請により、該筺体を他の材料、たとえば、リサイクル容易なアルミニウム合金材により製造することが始められている。即ち、アルミニウム合金材は、精錬時には多くの電力を必要として製造コストが高くなるものの、一旦アルミニウム合金材と成った後は再溶解などによって、低コストでリサイクルをすることができるものである。
【0003】
そして、上記仏壇、礼拝壇又は供養塔等に用いられる筺体では、その意匠性を向上させるため、筺体を形成するアルミニウム合金材の表面に対して電解着色アルマイト又は塗装処理を施した上で、該アルミニウム合金材を直接又は接合部材を用いてリベットの機械的点接合により一体に成形することが一般的である。
【0004】
しかしながら、筺体の製造においてリベットによる機械的点接合を用いると、次のような欠点がある。即ち、第1に、リベットを打つにあたり予めアルミニウム合金材や接合部材に先行穴が必要となること、第2に、一体に接合したアルミニウム合金材の表裏面において、変形したリベットの端縁が突出してしまうこと、第3に、強力な力によってリベットを変形させるのでリベット間で変形が起こりやすいこと、第4に、リベットが鋼製であるとアルミニウム合金材との間で電食を発生する恐れがあること、第5に、リベット自体の管理供給のコストが必要となることである。その結果、仏壇、礼拝壇又は供養塔等に使用する筺体としての意匠性の低下及び製造コストの上昇を招来してしまうものである。
【0005】
そのため仏壇、礼拝壇又は供養塔等に使用する筺体の製造において摩擦撹拌接合法を用いると、接合部における接合強度が十分に確保でき、アルミニウム合金材や接合部材の変形による筺体としての意匠性の低下を招来することがない上、先行穴の開削やリベットの部品管理に要するコストを削減できると共に、リベットの存在による不具合を防止できる。
【特許文献1】特開2000−75666
【特許文献2】特開2000−130039
【特許文献3】特開2000−135106
【特許文献4】特開2000−130040
【特許文献5】特開2000−136943
【特許文献6】特開2003−275876
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、例えば仏壇、礼拝壇又は供養塔等に使用する筺体の製造において、摩擦撹拌点接合を適用することで、接合部を変形させることなく、接合強度を十分に確保すると共に、該筺体の意匠性の低下をも防止しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願発明は上記筺体の製造において、接合部材を介して摩擦撹拌点接合を適用する。
【0008】
具体的には、第1の特徴として、平板面とその周縁に立設される単数又は複数の面板から構成し、該平板面の対向方向に開口部を有するアルミニウム合金製の筺体の製造方法であって、
該平板面と該平板面の周縁に立設される面板の隣接する各端縁間及び/又は、面板の隣接する各端縁間を、該各々の面の端縁近傍に接合部材の接合面を当接させつつ、該面の端縁近傍あるいは接合面の一方から回転工具のプローブを差し込むとともに、他方から裏当て治具を当接することで摩擦撹拌点接合を行うことにより、接合部を形成して一体に接合することによって、開口部を有する筺体に成形してなることを特徴とするものである。
そのため、平板面と該平板面の周縁に立設される面板の隣接する各端縁間及び/又は、面板の隣接する各端縁間における接合において、接合部材を重ね合わせるように介することで摩擦撹拌点接合を適用できるので、接合部が変形することなく、接合強度を十分に確保することができると共に、該接合部が平滑に成形されるので筺体の意匠性を低下させることを防止できる。
【0009】
第2の特徴として、第1の特徴を踏まえ、上記平板面を円板体あるいは多角形板体としてなることを特徴とするものである。
そのため、様々な形状の筺体を摩擦撹拌点接合により成形できる。
【0010】
第3の特徴として、上記第1及び第2の特徴を踏まえた上で、摩擦撹拌点接合時において、互いに当接する平板面あるいは面板の端縁近傍と接合部材の接合面とを、回転工具のプローブの差し込み側からその差し込み方向へ向かって固定具により押勢して一体に固持することを特徴とするものである。
そのため、摩擦撹拌点接合時に、回転工具のプローブを差し込むことで互いに接合することとなる平板面あるいは面板と接合部材の接合面とが、固定具と裏当て治具とによって挟持されることから、その接合する両者がずれてしまったり、隙間が発生したりすることがなくなるので、確実に接合できるとともに、その接合強度も確保できる上、正確な位置で接合することができる。
【0011】
第4の特徴として、上記摩擦撹拌点接合時において使用する固定具を、回転工具を挿入する孔部を有する固定具としてなることを特徴とするものである。
そのため、固定具自体の位置決めが容易となるとともに、例えば当該固定具自体を、孔を有するプレート状にすれば、互いに接合する平板面あるいは面板と接合部材の接合面に対して、広く均一に負荷をかけて固定することができるので、摩擦撹拌点接合をより確実に行うことができ、またリング状あるいは円筒状にすれば、接合部の周囲に集中して均一に負荷をかけることができると共に、固定具自体も小さくできるので、狭所でも摩擦撹拌点接合を確実に行えるものである。
【0012】
第5の特徴として、上記摩擦撹拌点接合時において使用する固定具を、回転工具を挿入する該固定具の孔部端縁が、回転工具のショルダーの端部から0.5〜3mmの位置となるように固定してなることを特徴とするものである。
そのため、固定具によって、互いに接合する平板面あるいは面板と接合部材の接合面とを強固かつ確実に固定することができる。
なお、固定具における固定位置を回転工具のショルダーの端部から0.5mm未満とすると、摩擦撹拌点接合時に形成される接合部と固定具とが著しく近接してしまい、回転工具による接合面に対する撹拌の影響を受け、固定具自体が破損する恐れがある。また回転工具のショルダーの端部から3mmより大とすると、固定具による固持が弱くなり、回転工具のプローブの回転によって接合面がずれてしまったり隙間が生じてしまう恐れがある。
【0013】
第6の特徴として、第1乃至第5の特徴を踏まえた上で、上記摩擦撹拌点接合を行う回転工具のショルダーに、その先端がプローブの差し込み方向に向って、プローブの突出長よりも短く突出する切削部を単数又は複数配設してなることを特徴とするものである。
そのため、摩擦撹拌点接合時において、回転工具のプローブによって形成される、接合部の周囲に生じるアルミニウム合金溢出物による盛り上がりを切削し平滑に成形するので、接合部における意匠性の低下を十分に防止できる。
【0014】
第7の特徴として、第1乃至第6の特徴を踏まえた上で、上記摩擦撹拌点接合時において使用する裏当て治具の、平板面あるいは面板あるいは接合部材の接合面に当接する面に、凹又は凸部から形成される紋様部を形成してなることを特徴とするものである。
そのため、上記摩擦撹拌点接合時において、プローブを差し込んで接合部を形成する際に圧力が裏当て治具に対して伝達されると、裏当て治具の当接面に形成された紋様部の紋様が、その当接する接合部材等の面に押し付けられるため、その押し付けられた接合部材等の面に紋様が刻設されるものとなり、筺体、特に接合部材表面の意匠性を向上させることができる。
【0015】
第8の特徴として、より具体的な方形の筺体の製造方法であり、方形状のアルミニウム合金板の四隅を正方形状に切除した上で、該切除部の隣り合う端縁が合致するように折曲成形して平板面とそれに対向する開口部を有するよう筺体状とした後、折曲部と、該折曲部を挟んで直角となる二つの接合面より形成される断面L字形状の接合部材を、筺体状のアルミニウム合金板内側において、前記合致した端縁に該折曲部を、且つ筺体状としたアルミニウム合金板の前記合致した端縁を形成する各面に該各接合面をそれぞれ当接させ、更に、その内側に該接合面が当接している位置において、該筺体状のアルミニウム合金板外側より回転工具のプローブを差し込むとともに、接合部材内側から裏当て治具を当接することで摩擦撹拌点接合を行うことにより、接合部を形成して一体に接合することによって、開口部を有する筺体に成形してなることを特徴とするものである。
そのため、特に仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用する、長方体である筺体を、接合部が変形することなく、接合強度を確保し、且つ筺体としての意匠性に優れたものに容易に成形することができる。
【0016】
第9の特徴として、第8の特徴を踏まえた上で、上記アルミニウム合金製の筐体の少なくとも内側となる面及び接合部材の内側となる面を、アルマイト又は塗装処理するものとしてなることを特徴とするものである。
そのため、アルマイト又は塗装処理するアルミニウム合金材や接合部材の表面により、仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用する筺体としての意匠性を向上させることができる。
【0017】
第10の特徴として、アルミニウム合金製の筺体が、第1乃至第9の特徴を踏まえて製造されることを特徴とするものである。
そのため、例えば様々な用途、形状を有する筺体、特に仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用される筺体は、接合強度を確保しながら、その意匠性を損ねることなく成形されるものとなる。
【発明の効果】
【0018】
本願発明は、仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用される筺体の製造過程において、アルミニウム合金材に対する摩擦撹拌点接合を適用することにより、接合強度を確保しつつ、意匠性を損ねることなく製造することができると共に、リサイクルに供することで資源保護又は省エネルギーという社会的要請にも応えることもできるという優れた効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下において、本願発明の実施例である仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用する筺体の製造方法について説明する。
なお、この実施例は、本願発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これらにより本願発明が制限されるものでない。
【0020】
まず、図1(イ)における1は、本願発明の筺体の製造方法により製造される仏壇、礼拝壇及び供養塔等に使用される長方体状の筺体である。該筺体1は、少なくともその内面はアルマイト又は塗装処理が施されており、開口部1aと開口部1a正面の背面1b及び、該背面1bに連続する上下面1c、1d及び左右の側面1e、1fから構成されるものである。
【0021】
そこで、まず上記筺体1の製造方法は、図2(イ)〜(ヘ)に示すようにしてなるものである。
即ち、表裏面のうち裏面、すなわち筺体とした際に内側面となる面であって、図2(イ)における紙面上側の面をアルマイト又は塗装処理した方形状のアルミニウム合金板2において、その四隅を正方形状に切除する〔図2(ロ)参照〕
そして、該切除した四隅の正方形部分における隣り合う端縁2a同士が合致するように、該処理した面を内側にして折曲成形して〔図2(ロ)参照、点線部が谷部となる。〕、開口部1aを有するよう筺体状のアルミニウム合金板2bとする〔図2(ハ)参照〕。
次に、表面をアルマイト又は塗装処理した上、折曲部3aと、該折曲部3aを挟んで直角となる二つの接合面3bより形成される断面L字形状の接合部材であるアングル材3を、筺体状のアルミニウム合金板2b内側から、その合致させた端縁2aによって形成された、筺体状のアルミニウム合金板2bの上下面1c、1d及び左右の側面1e、1fの境界辺に該折曲部3aを当接させるとともに、該二つの接合面3bを上下面1c、1d及び左右の側面1e、1f内面に各々当接するようにして配置する〔図2(ニ)参照〕。この時、各接合面3bは小さいので、各面1c、1d、1e、1fの各端縁近傍において当接しているに過ぎない。
その後、該筺体状のアルミニウム合金板2bの各接合面3bが当接している位置において、上下面1c、1d及び左右の側面1e、1f外側より、回転工具5のプローブである圧入ピン5aを差し込むとともに、該筺体状のアルミニウム合金板2b内面の接合部材3内側から裏当て治具4を当接させて、摩擦撹拌点接合するものである〔図2(ホ)参照〕。
その結果、該筺体状のアルミニウム合金板2bと接合部材3の接合面3bとの間で接合部6を形成して一体に接合され、該筺体状のアルミニウム合金板2bは開口部1aを有する筺体1に成形することができる〔図2(ヘ)参照〕。
以上のように、筺体1の接合部6は、摩擦撹拌点接合されているので変形することがなく、接合強度を十分に確保すると共に、接合部の表面は平滑に成形されて筺体としての意匠性が低下することを防止できるものである。
【0022】
更に、図1(ロ)における1’は、上記筺体1の内側において、該筺体1の内面に固持された棚支持体7、7’によって支持された棚8が設置されている筺体である。
【0023】
この図1(ロ)において示す上記筺体1’は、図3(イ)〜(ニ)に示すようにして製造するものである。
先ず、図3における筺体1は、背面1bの幅に比して側面1e、1fの幅が短いので、その内面に固持される棚支持体7、7’として、側面1e、1f側には短寸のアングル材3を、又、背面1b側には長寸のアングル材3’をそれぞれ使用する。
そして、上記アングル材3、3’の折曲部3a、3a’を上側にして、その水平方向の接合面3b、3’bが同一水平面となるよう、その垂直方向の接合面3b、3’bを該筺体1の左右の側面1e、1f及び背面1bに密着させながら各々配置する〔図3(ロ)参照〕。
そして、該アングル材3、3’の接合面3b、3’bの内側から裏当て治具4を当接させながら、筺体1の外側より回転工具5の圧入ピン5aを差し込むことで摩擦撹拌点接合を行ってなるものである〔図3(ハ)、及び図4(イ)及び(ロ)参照〕。
その結果、該筺体1とアングル材3、3’の接合面3b、3’bとの間で摩擦撹拌点接合により接合部6’を形成して一体に接合されるので、棚支持体7、7’は筺体1内面に固持されることとなり、棚8を設置することができる筺体1’となる〔図3(ニ)参照〕。
【0024】
更に、上記筺体1の製造において使用される摩擦撹拌点接合に際して、筺体1を形成する各面1b〜1fと接合部材3とをそれぞれ固定するにあたって、図5(イ)に示すように、回転工具5の圧入ピン5aを差し込む接合部6’の近傍を、回転工具5を挿嵌する孔部9aを有するプレート状の固定具9によって固定すれば、作業性は一層向上する。その場合、特にその固定位置は、当該孔部9aの端縁が回転工具5のショルダー5bの端部から0.5〜3mm〔図5(イ)における「L」に相当する。〕となるように設定する。
すなわち、当該固定具9は、回転工具5の圧入ピン5aの差し込み側からその差し込み方向へ向かって押勢するものであるのに対し、摩擦撹拌点接合に際して使用される裏当て治具4が、回転工具5の圧入ピン5aの差し込む側とは逆側から圧入ピン5aの差し込み方向と対向する方向へ接合部6を押圧していることから、当該固定具9と裏当て治具4によって、その接合される各面1b〜1fと接合部材3とが挟持されて固定されることとなる。その結果、該回転工具5の圧入ピン5aを孔部9aを介して差し込む接合部6’において、筺体1を構成するアルミニウム合金板2と接合部材3の接合面3bとは、浮き上がることなく互いに密着したまま確実に接合されることとなる。
【0025】
また、上記固定具9に代えて、図5(ロ)に示すように、回転工具5の圧入ピン5aの同心円状に配置される端縁を有する円筒状の固定具9’であっても良く、この場合であってもその固定位置は、当該孔部9aの端縁が回転工具5のショルダー5bの端部から0.5〜3mm〔図5(ロ)における「L」に相当する。〕となるように設定する。
その結果、上記プレート状の固定具9の場合と同様に、筺体1を成すアルミニウム合金板2と断面L字形状の接合部材3の接合面3bとは、浮き上がることなく互いに密着したまま確実に接合されることとなる。又、この固定具9’においては、回転工具5と一体に取り付けることが可能であり、作業領域が狭い場合でも、摩擦撹拌点接合を容易に行い得るようにするものである。
【0026】
その上、図6(イ)〜(ホ)において示すように、上記摩擦撹拌点接合を行う回転工具5のショルダー5bに、圧入ピン5aの差し込み方向に向かう切削部10を配設してもよいものである。この切削部10は、後述するように圧入ピン5aの差し込みによってその接合部6から溢出したアルミニウム合金溢出物2b’を削り取るものであるので、当然その突出長は圧入ピン5aの突出長よりも短く設定されている。
即ち、上記摩擦撹拌点接合において、回転工具5の圧入ピン5aをアルミニウム合金板2に差し込み撹拌することで〔図6(イ)〜(ロ)参照〕、その接合部6となるべき部分からその差し込まれた圧入ピン5aの体積に応じてアルミニウム合金溢出物2b’が溢れ出す。そして、この溢出したアルミニウム合金溢出物2b’が、該接合部6周縁においてバリとなって盛り上がる〔図6(ハ)参照〕。
そして、更に回転工具5の圧入ピン5aを差し込むことで、回転工具5のショルダー5bにおいて圧入ピン5aの差し込み方向に向かうように配設される切削部10が、アルミニウム合金板2上の接合部6周縁にバリとなって盛り上がったアルミニウム合金溢出物2b’を削り取る〔図6(ニ)参照〕。
その結果、該アルミニウム合金板2の接合部6の表面は平滑に成形されるので、筺体1の意匠性を向上させることができるものである〔図6(ホ)参照〕。
【0027】
一方、上記摩擦撹拌点接合を行う回転工具5を、例えば特開2001−259863公報において示す接合方法において使用される回転工具5’、即ち図7(イ)〜(ニ)において示す三重構造の回転工具5’としても良いものである。
まず、この回転工具5’は、外部リング5’bに穿設された孔内に回転自在且つ上下方向に出没自在となる圧入ピン5’aを内装する中間リング5’cを摺動自在に内挿するものである。
そのため、該回転工具5’の圧入ピン5’aを筺体1のアルミニウム合金板2外側より差し込むことで行う摩擦撹拌点接合において、その圧入ピン5’aの差し込みによって溢れ出たアルミニウム合金溢出物2b’を、中間リング5’cを後退させることによって、圧入ピン5’aと外部リング5’bとの間に封じ込める〔図7(イ)参照〕。
そして、摩擦撹拌点接合後において、圧入ピン5’aを抜出すとともに、中間リング5’cを前身させて、その押圧力によって、圧入ピン5’aと外部リング5’bとの間に封じ込められていたアルミニウム合金溢出物2b’を、該回転工具5’の圧入ピン5’aにより形成された圧入穴5’dに対して、埋設するものである〔図7(ロ)〜(ハ)参照〕。
その結果、該回転工具5’の圧入ピン5’aを差し込んだ接合部6のアルミニウム合金板2表面は全く平滑になるので〔図7(ホ)参照〕、筺体1の意匠性が低下することを防止できる。
【0028】
その上で、図8において示すように、アルミニウム合金板2の接合部6への回転工具5の圧入ピン5aの差し込みに対して、反対側からアングル材3の接合面3bに当接するように配置される裏当て治具4において、該アングル材3の接合面3bに当接する裏当て治具4の表面に、凹又は凸部から形成される紋様部11を形成し、該紋様部11を回転工具5の圧入ピン5aの差し込み位置と対向する位置となるよう位置決めしてもよいものである。
即ち、上記回転工具5の圧入ピン5aをアルミニウム合金板2に差し込むことで摩擦撹拌点接合を行うと、接合部6の形成と同時に、圧入ピン5aの差し込む方向の延長線上にも圧力が伝わるものとなる。そして、筺体1の内面に設けられるアングル材3の接合面3bの内側に当接する裏当て治具4の表面には、紋様部11が形成されていることから、該紋様部11の紋様12が、該回転工具5の圧入ピン5aの差し込みによる圧力によってアングル材3の接合面3bの表面に打刻されることとなる。
その結果、該筺体1の内面に固定されるアングル材3の接合面3bの表面は、該紋様部11の紋様12によりその意匠性がさらに向上するものである。
【実施例1】
【0029】
そこで、本願発明の実施例として、厚さ1.0mmの3003−H34のアルミニウム合金板2の下面側に、厚さ2mmの6063−T3のアルミニウム合金からなる断面L型形状のアングル材3の接合面3bを重ねるとともに、その重ね合わされたアングル材3の接合面3bの下面方向から、深さ0.2mm、最大φ5mmの三重円模様の凹部からなる紋様部11を上面に設けた鋼製の裏当て治具4を当接させ、クランプ治具により両者の固定を行った。
そして、回転工具5の圧入ピン5a〔ショルダー5b(φ10mm)の端部に、径方向に180度の位置に各1mmに刃物状の切削部10を2個設けた。圧入ピンφ5mm、圧入ピン長1.3mm〕をアルミニウム合金板2の上側から回転数2000rpmで差し込み、接合時間5秒間で摩擦撹拌点接合を行った。
その結果、接合部6はバリも少なく、アングル材3の接合面3bの下面には、三重円模様の紋様12がエンボス加工された(図9参照)。
なお、接合部6の剪断引張試験を行ったところ、3kNの剪断強度を有するものであり、両者は強固に且つ容易に取り付けられることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明の筺体の製造方法は、単に仏壇、礼拝壇及び供養塔等において使用されるだけでなく、アルミニウム合金材よりなるあらゆる筺体に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(イ)及び(ロ)は、本願発明の実施例である筺体の製造方法により製造される筺体の全体斜視図である。
【図2】図1(イ)の筺体の製造方法を示す模式図である。
【図3】図1(ロ)の筺体の製造方法を示す模式図である。
【図4】図3における摩擦撹拌点接合時における(イ)は拡大斜視図、(ロ)は拡大側面図である。
【図5】本願発明の実施例である筺体の製造方法において、摩擦撹拌点接合する際に使用する固定具を、(イ)はプレート状、(ロ)は円筒状とした場合の模式図である。
【図6】(イ)〜(ホ)は本願発明の実施例である筺体の製造方法において、回転工具に切削部を配設した場合の摩擦撹拌点接合の状況を示す模式図である。
【図7】本願発明の実施例である筺体の製造方法において、回転工具に三重構造のものを用いた場合の摩擦撹拌点接合の状況を示す模式図である。
【図8】本願発明の実施例である筺体の製造方法において、摩擦撹拌点接合をするにあたって使用する裏当て治具に紋様部を設けてなる場合の分解斜視図である。
【図9】図8に示す製造方法による接合部における、アングル材下側からの拡大正面図である。
【符号の説明】
【0032】
1、1’ 筺体
1a、1’a 開口部
1b、1’b 背面
1c、1’c 上面
1d、1’d 下面
1e、1’e、1f、1’f 側面
2 アルミニウム合金板
2a 端縁
2b 筺体状のアルミニウム合金板
2b’ アルミニウム合金溢出物
3、3’ アングル材
3a、3’a 折曲部
3b、3’b 接合面
4 裏当て治具
5、5’ 回転工具
5a、5’a 圧入ピン
5b ショルダー
5’b 外部リング
5’c 中間リング
5’d 圧入穴
6、6’ 接合部
7、7’ 棚支持体
8 棚
9、9’ 固定具
9a 孔部
10 切削部
11 紋様部
12 紋様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板面とその周縁に立設される単数又は複数の面板から構成し、該平板面の対向方向に開口部を有するアルミニウム合金製の筺体の製造方法であって、
該平板面と該平板面の周縁に立設される面板の隣接する各端縁間及び/又は、面板の隣接する各端縁間を、該各々の面の端縁近傍に接合部材の接合面を当接させつつ、該面の端縁近傍あるいは接合面の一方から回転工具のプローブを差し込むとともに、他方から裏当て治具を当接することで摩擦撹拌点接合を行うことにより、接合部を形成して一体に接合することによって、開口部を有する筺体に成形してなることを特徴とするアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項2】
上記平板面を、円板体あるいは多角形板体としてなることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項3】
上記摩擦撹拌点接合時において、互いに当接する平板面あるいは面板の端縁近傍と接合部材の接合面とを、回転工具のプローブの差し込み側からその差し込み方向へ向かって固定具により押勢して一体に固持することを特徴とする請求項1又は2記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項4】
上記摩擦撹拌点接合時において使用する固定具を、回転工具を挿入する孔部を有する固定具としてなることを特徴とする請求項3記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項5】
上記摩擦撹拌点接合時において使用する固定具を、回転工具を挿入する該固定具の孔部端縁が、回転工具のショルダーの端部から0.5〜3mmの位置となるように固定してなることを特徴とする請求項4記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項6】
上記摩擦撹拌点接合を行う回転工具のショルダーに、その先端がプローブの差し込み方向に向って、プローブの突出長よりも短く突出する切削部を単数又は複数配設してなることを特徴とする請求項1乃至5記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項7】
上記摩擦撹拌点接合時において使用する裏当て治具の、平板面あるいは面板あるいは接合部材の接合面に当接する面に、凹又は凸部から形成される紋様部を形成してなることを特徴とする請求項1乃至6記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項8】
方形状のアルミニウム合金板の四隅を正方形状に切除した上で、該切除部の隣り合う端縁が合致するように折曲成形して平板面とそれに対向する開口部を有するよう筺体状とした後、折曲部と、該折曲部を挟んで直角となる二つの接合面より形成される断面L字形状の接合部材を、筺体状のアルミニウム合金板内側において、前記合致した端縁に該折曲部を、且つ筺体状としたアルミニウム合金板の前記合致した端縁を形成する各面に該各接合面をそれぞれ当接させ、更に、その内側に該接合面が当接している位置において、該筺体状のアルミニウム合金板外側より回転工具のプローブを差し込むとともに、接合部材内側から裏当て治具を当接することで摩擦撹拌点接合を行うことにより、接合部を形成して一体に接合することによって、開口部を有する筺体に成形してなることを特徴とするアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項9】
上記アルミニウム合金製の筐体の少なくとも内側となる及び接合部材の内側となる面を、アルマイト又は塗装処理するものとしてなることを特徴とする請求項8記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法。
【請求項10】
上記請求項1乃至9記載のアルミニウム合金製の筺体の製造方法より製造されることを特徴とする筺体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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