説明

アルミニウム製軽量圧力容器

車輌、船舶、航空機、携帯機器などの移動体への搭載に適した、LPガスや天然ガス、燃料電池用の水素ガスなどの充填用アルミニウム金属軽量圧力容器を提供する。 金属アルミニウム50〜99体積%と、繊維径0.5〜500nm、繊維長1000μm以下を有し、かつ中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維1〜50体積%とを含有し、上記微細繊維が金属アルミニウム中に均一に分散された材料からなることを特徴とする軽量圧力容器。微細炭素繊維は、好ましくは、その表面にアルミニウムとの親和性を高める被覆層または処理層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種のガス、液化石油(LP)ガスや天然ガスなどの燃料ガス、特に燃料電池用の水素ガスなどを充填するためのアルミニウム製軽量圧力容器に関し、更に詳しくは、車輌、船舶、航空機、携帯機器などの移動体の搭載に適したアルミニウム金属製軽量圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
LPガスや天然ガスなどの燃料ガス、酸素ガス、窒素ガス、炭酸ガスなどの各種のガスを充填する容器(ボンベ)は、耐圧性などの関係上一般に鋼製の重量の大きい容器が使用されている。しかし、近年、これらのガスを充填した圧力容器を車輌、船舶、航空機、携帯機器などの移動体に搭載することが要求される場合が増大している。このような場合には、移動体の軽量化の必要性から圧力容器に対してできるだけ軽量化することが要求される。
【0003】
このような圧力容器の軽量化のために、例えば、特許文献1〜特許文献3などに開示されるように、従来の鋼製容器に代わり、アルミニウムやチタン製の軽量金属容器を使用した軽量圧力容器が一部使用されている。また、さらなる軽量化のために、肉厚を薄くしたアルミニウム容器を使用し、強度の補強のためにその周囲を、樹脂を含浸したガラス繊維や炭素繊維などの繊維を巻回した、所謂コンポジット容器と呼ばれる軽量圧力容器が特許文献1などにより知られている。
【0004】
このアルミニウム製コンポジット容器は、従来の鋼製圧力容器の約1/3であり、また、アルミニウム金属容器の約1/2という、極めて軽量である特長を有している。しかし、一方では、このコンポジット容器は、例えば、エポキシ樹脂を含浸したガラス繊維をフィラメントワイディング法などによりアルミニウム製容器の外周にフープラップやヘリカルラップ状に巻きつけるという手間と時間のかかる作業を必要とする。さらに、このコンポジット容器では、強化繊維としてガラス繊維よりも補強効果の大きい炭素繊維を使用した場合には、その有する導電性のために、圧力容器を湿潤雰囲気で使用した場合に、炭素繊維とアルミニウム金属との接触界面で接触腐食という重大な問題が生じる。これを防ぐために炭素繊維とアルミニウムとのを絶縁処理をするための手段が必要なため、このコンポジット容器のコストをさらに増大させる要因となっている。
【0005】
特に、近年、LPガスや天然ガスを燃料とする移動体が既に走行しており、また、実用化が間近い水素ガスを燃料にする燃料電池車においては、燃費を下げるために移動体の軽量化が従来にも増して要求され、これらのガスを充填するための少しでも軽量な圧力容器が要求が増大している。
【特許文献1】特開平11−104762号公報
【特許文献2】特開2000−234699号公報
【特許文献3】特開2001−349494号公報
【特許文献4】特開平10−267195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の状況に鑑み、本発明は、車輌、船舶、航空機、携帯機器などの移動体に搭載に適した、LPガスや天然ガスなどの各種のガス、特に、燃料電池用の水素ガスなどを充填するための軽量で強度の大きい新規な金属アルミニウム製軽量圧力容器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の目的を達成すべく研究を重ねたところ、以下を要旨とする本発明により上記目的が達成されることが見出された。
(1)アルミニウム金属50〜99体積%と、繊維径0.5〜500nm、繊維長1000μm以下を有し、かつ中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維1〜50体積%とを含有し、上記微細炭素繊維がアルミニウム金属中に均一に分散された材料からなることを特徴とする軽量圧力容器。
(2)微細炭素繊維が、気相法による炭素繊維、及び/又はカーボンナノチューブである上記(1)に記載の軽量圧力容器。
(3)微細炭素繊維が、ホウ素化合物の存在下に非酸化性雰囲気にて2300℃以上の温度で熱処理されている上記(1)又は(2)に記載の軽量圧力容器。
(4)微細炭素繊維が、その表面にアルミニウムとの親和性を高める被覆層または処理層を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の軽量圧力容器。
(5)被覆層又は処理層が、化学蒸着層、又はプラズマ蒸着層である上記(4)に記載の軽量圧力容器。
(6)液化石油ガス、天然ガス、又は水素ガスが充填され、移動体に搭載される上記(1)〜(5)の軽量圧力容器。
(7)燃料電池用の水素ガスが充填される上記(1)〜(5)の軽量圧力容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明による軽量圧力容器は、従来のPAN、ピッチ、セルロースなどの繊維を熱処理し炭化することによって得られる、繊維径が5〜10μmの所謂有機系炭素繊維と比べて、強度や弾性率が格段に大きい微細炭素繊維がアルミニウム金属中に均一に分散して含有する材料から形成されているので、極めて軽量であり、衝撃強度などの機械的強度が大きい特長を有する。また、微細炭素繊維は、アルミニウム金属中に均一に分散し一体化し、かつ大きい導電性を有するので、上記したコンポジット容器で発生するような腐食の問題も生じない。
【0009】
さらに、微細炭素繊維が、その表面に、化学蒸着層、プラズマ蒸着層、コロナ放電処理層、又は酸処理層などのアルミニウム金属との親和性を高める被覆層又は処理層を有することにより、本発明の圧力容器はさらに機械的強度が大きく向上し、その結果、肉厚の薄い材料から圧力容器を形成できるので一層大きな軽量化が達成できる。
【0010】
かくして本発明によれば、LPガスや天然ガスなどの各種のガス、特に燃料電池用の水素ガスなどを充填するための、車輌、船舶、航空機、携帯機器などの移動体に搭載に適した新規な金属アルミニウム製軽量圧力容器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用される微細炭素繊維としては、繊維径0.5〜500nm、繊維長1000μm以下で、好ましくはアスペクト比3〜1000を有する、好ましくは炭素六角網面からなる円筒が同心円状に配置された多層構造を有し、その中心軸が空洞構造の微細炭素繊維が使用される。かかる微細炭素繊維は、従来のPAN、ピッチ、セルロース、レーヨンなどの繊維を熱処理することによって得られる、繊維径が5〜15μmの従来のカーボンファイバーとは大きく異なるものである。本発明で使用される微細炭素繊維は、従来のカーボンファイバーと比べて繊維径や繊維長さが異なるだけでなく、構造的にも大きく異なっている。この結果、導電性、熱伝導性などの物性の点で極めて優れるものである。
【0012】
本発明で使用される微細炭素繊維は、その繊維径が0.5nmより小さい場合には、得られる複合材料の強度が不十分になり、500nmより大きいと、機械的強度、熱伝導性などが低下する。また、繊維長が1000μmより大きい場合には、微細炭素繊維が均一に分散し難くなるため、材料の組成が不均一になり、圧力容器の機械的強度が低下する。本発明で使用される微細炭素繊維は、繊維径が10〜200nm、繊維長が3〜300μm、好ましくはアスペクト比が3〜500を有するものが特に好ましい。なお、本発明において微細炭素繊維の繊維径や繊維長は、電子顕微鏡により測定することができる。
【0013】
本発明で使用される好ましい微細炭素繊維は、カーボンナノチューブである。このカーボンナノチューブは、グラファイトウイスカー、フィラメンタスカーボン、炭素フィブリルなどとも呼ばれているもので、チューブを形成するグラファイト膜が一層である単層カーボンナノチューブと、多層である多層カーボンナノチューブとがあり、本発明ではそのいずれも使用できる。しかし、多層カーボンナノチューブの方が、大きい機械的強度が得られるとともに経済面でも有利であり好ましい。
【0014】
本発明で使用されるカーボンナノチューブは、例えば、「カーボンナノチュ−ブの基礎」(コロナ社発行、23〜57頁、1998年発行)に記載されるようにアーク放電法、レーザ蒸発法及び熱分解法などにより製造される。カーボンナノチューブは、繊維径が好ましくは0.5〜500nm、繊維長が好ましくは1〜500μm、好ましくはアスペクト比が3〜500のものである。
【0015】
本発明において特に好ましい微細炭素繊維は、上記カーボンナノチューブのうちで繊維径と繊維長が比較的大きい気相法炭素繊維である。このような気相法炭素繊維は、VGCF(Vapor Grown Carbon Fiber)とも呼ばれ、特開2003−176327号公報に記載されるように、炭化水素などのガスを有機遷移金属系触媒の存在下において水素ガスとともに気相熱分解することによって製造される。この気相法炭素繊維(VGCF)は、繊維径が好ましくは50〜300nm、繊維長が好ましくは3〜300μm、好ましくはアスペクト比が3〜500のものである。そして、このVGCFは、製造しやすさや取り扱い性の点で優れている。
【0016】
本発明で使用される微細炭素繊維は、2300℃以上、好ましくは2500〜3500℃の温度で非酸化性雰囲気にて熱処理することが好ましく、これにより、その機械的強度、化学的安定性が大きく向上し、圧力容器の軽量化に貢献する。非酸化性雰囲気は、アルゴン、ヘリウム、窒素ガスが好ましく使用される。この熱処理において、炭化ホウ素、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸塩、窒化ホウ素、有機ホウ素化合物などのホウ素化合物を共存させた場合には、上記熱処理効果が一層向上するとともに、熱処理温度も低下し、有利に実施できる。このホウ素化合物は、熱処理された微細炭素繊維中にホウ素含有量が0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%になるように存在させるのが好ましい。
【0017】
さらに、本発明で使用される微細炭素繊維は、その表面にアルミニウムとの親和性を高める被覆層又は処理層を有することが好ましい。これにより、微細炭素繊維のアルミニウムへのいわゆる濡れ性や接着性が改善され、微細炭素繊維のアルミニウム金属中への分散が一層均一化し、一体化した材料となり、圧量容器の強度の向上に貢献する。かかる被覆層又は処理層は、化学蒸着(CVD)層、プラズマ蒸着(PVCD)層、コロナ放電処理層、及び酸処理層からなる群から選ばれる少なくとも1つからなるものが好ましい。なかでも、CVD層、またはPVCD層の被覆層が好ましく、その材質としては、ニッケル、チタン、ジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデンなどの金属、ケイ素の炭化物、窒化物、ホウ化物、酸化物などが好ましい。CVD層、またはPVCD層の厚みは、微細炭素繊維径の0.1〜10%であるのが好ましい。
【0018】
上記微細炭素繊維表面のアルミニウムとの親和性の被覆は、既知の手段により、微細炭素繊維の表面にニッケル、チタンなどの金属微粒子を結合させることによっても行うことができる。このための方法としては、ニッケル、チタンなどの金属製の内壁面を有する容器内で微細炭素繊維を高速回転させて撹乱混合する。これにより、微細炭素繊維に高圧縮力、高衝撃力が加えられて、微細炭素繊維が金属製内壁に衝突することにより容器内壁を形成する金属の微粒子が微細炭素繊維の表面に付着し、結合し、表面が被覆される。
【0019】
微細炭素繊維とアルミニウム金属とから圧力容器を製造する場合、両者の混合物を形成し、該混合材料から圧力容器が製造される。微細炭素繊維との混合に際し、アルミニウム金属は、アルミニウム金属単体のほかに、アルミニウム−チタンなどの合金が使用できる。微細炭素繊維との混合にあたって、アルミニウム金属は、平均粒径が、好ましくは0.5〜1000nmにするのが好ましい。
【0020】
本発明において微細炭素繊維とアルミニウムとの混合比は重要であり、微細炭素繊維とアルミニウムとは、微細炭素繊維1〜50体積%と、アルミニウム50〜99体積%の比率で混合される。微細炭素繊維の量が多すぎるとアルミニウム金属との密着性が悪くなり、また、微細炭素繊維の量が少なすぎると、得られる圧力容器の機械的強度が低下し、本発明の目的を達成できない。なかでも、微細炭素繊維とアルミニウムとは、微細炭素繊維3〜40体積%と、アルミニウム60〜97体積%の混合比が好ましく、特には、微細炭素繊維6〜30体積%と、アルミニウム70〜94体積%の混合比が好適である。
【0021】
微細炭素繊維とアルミニウムとは充分に混合することが好ましいが、混合する手段としては、ボールミル、らいかい機などの混合機を使用して均一に混合される。
【0022】
本発明では、微細炭素繊維とアルミニウムとの混合物に対し、機械的強度、成形性、硬度などを改善するために、チタン、リチウムなどの他の金属を添加することができる。
【0023】
本発明で微細炭素繊維とアルミニウムとを含む混合物を成形して圧力容器を製造する方法は、既存のアルミニウム金属製の圧力容器を製造する場合と同様な方法が採用できる。例えば、微細炭素繊維とアルミニウム粉末との混合物を溶融し、溶湯を圧力容器の形状の金型に注入して製造する方法、或いは微細炭素繊維とアルミニウム金属との混合物の溶湯から製造した板状物を筒状に曲げ加工し、次いで長手方向に溶接した胴部と、微細炭素繊維とアルミニウム金属との混合物から製造した半球状の鏡板とを溶接するなどの方法により製造される。後者の製造方法の場合、胴部と半球状の鏡板とは、必ずしも同じ材料から形成する必要はなく、異なる材料から形成してもよい。
【0024】
本発明の軽量圧力容器であって、繊維径が150nm、繊維長が4.5μm、アスペクト比が30の気相法炭素繊維をアルゴンガス雰囲気中、温度2800℃で30分間処理した繊維をCVD処理により表面にニッケルを被覆した微細炭素繊維10体積%と平均粒径50nmのアルミニウム粉末90体積%との混合物を温度1200℃にて成型して得られる、10リットルの容量の圧力容器は、35Kgであり、かつ350Kg/cmの耐圧試験圧力を有する。これを同じ耐圧試験圧力を有する従来の圧力容器と比較した場合、鋼製圧力容器の重量は約150Kgであり、また、アルミニウム金属容器の重量は約50Kgであり、また、アルミニウム製コンポジット容器の重量は約40Kgであるので本発明の圧力容器が極めて軽量であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明で製造される圧力容器は、上記のように従来の圧力容器に比較して極めて軽量であり、衝撃強度などの機械的強度が大きい特長を有し、かつコンポジット容器の如く腐食の問題も有さず、製造コストが大きくないので、極めて広範な用途に使用できる。即ち、本発明の軽量圧力容器は、車輌、船舶、航空機、携帯機器などの移動体に搭載される、LPガスや天然ガスなどの充填容器、また燃料電池用の水素ガスなどの充填容器に使用された場合、移動体の燃費を減少、及びその占めるスペースの減少に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム金属50〜99体積%と、繊維径0.5〜500nm、繊維長1000μm以下を有し、かつ中心軸が空洞構造からなる微細炭素繊維1〜50体積%とを含有し、上記微細炭素繊維がアルミニウム金属中に均一に分散された材料からなることを特徴とする軽量圧力容器。
【請求項2】
微細炭素繊維が、気相法による炭素繊維、及び/又はカーボンナノチューブである請求項1に記載の軽量圧力容器。
【請求項3】
微細炭素繊維が、ホウ素化合物の存在下に非酸化性雰囲気にて2300℃以上の温度で熱処理されている請求項1又は2に記載の軽量圧力容器。
【請求項4】
微細炭素繊維が、その表面にアルミニウムとの親和性を高める被覆層または処理層を有する請求項1〜3のいずれかに記載の軽量圧力容器。
【請求項5】
被覆層又は処理層が、化学蒸着層、プラズマ蒸着層、コロナ放電処理層、及び酸処理層からなる群から選ばれる少なくとも1つからなる請求項4に記載の軽量圧力容器。
【請求項6】
液化石油ガス、天然ガス、又は水素ガスが充填され、移動体に搭載される請求項1〜5のいずれかに記載の軽量圧力容器。
【請求項7】
燃料電池用の水素ガスが充填される請求項1〜5のいずれかに記載の軽量圧力容器。

【国際公開番号】WO2005/040666
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515051(P2005−515051)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016162
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000005979)三菱商事株式会社 (56)
【Fターム(参考)】