アルミ押出形材の押出成形方法
【課題】 比較的簡易にしてアルミ押出形材の肉厚変化を可及的有効に抑制するとともに多数ビレットの押出成形にも肉厚変化の抑制を継続し得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法を提供する。
【解決手段】 多数のビレット押出成形を繰返すロット内押出成形を行なうラム速を,押出機のラム速をシーケンス制御することによって,当初1cm/sec乃至1.3cm/sec程度の高速のラム速とし,次いで0.8cm/sec程度の並速のラム速及び0.7cm/sec乃至0.5cm/secの低速のラム速とすることによって,当初の高速でアルミ押出形材の肉厚を薄めに誘導し,その後の並速及び低速でアルミ押出形材を厚めに誘導するようにすることによってロット内の肉厚変化を抑制する。
【解決手段】 多数のビレット押出成形を繰返すロット内押出成形を行なうラム速を,押出機のラム速をシーケンス制御することによって,当初1cm/sec乃至1.3cm/sec程度の高速のラム速とし,次いで0.8cm/sec程度の並速のラム速及び0.7cm/sec乃至0.5cm/secの低速のラム速とすることによって,当初の高速でアルミ押出形材の肉厚を薄めに誘導し,その後の並速及び低速でアルミ押出形材を厚めに誘導するようにすることによってロット内の肉厚変化を抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,押出機によってアルミビレットを押出成形してアルミ押出形材を得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ押出形材の押出成形は,一般に押出機のラム速を定速(等速)に設定し,ビレットの押出速度を定速として行うものとされており,また押出成形によってアルミ押出形材には,例えばその長手方向に肉厚変化によるバラツキが生じること,この肉厚変化のバラツキを吸収するために,一般にアルミ押出形材の設計に際して,平均重量率の変化量,即ちロット内アルミ押出形材の最大最小の重量率を,例えばソリッド材において3%程度乃至それ以下に見込んで,肉厚の許容誤差を予め設定することが行なわれており,またこの肉厚変化を抑制する目的で,例えば押出成形に際してのダイスの温度管理,ダイス形状の変更等,ダイス関連の様々な提案がなされている。
【0003】
一方,この定速のラム速による押出成形に代えて,アルミ押出形材の再結晶不良を解消する目的で,ビレットの押出成形速度を,所定速度の初速に加速した後に漸減状に減速し,また該減速から定速を経て更に減速する如くに,ビレットの押出成形に際して,その押出機のラム速を初速から中速,終速に向けて押出成形中に変化する提案がなされている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−321009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミ押出形材における肉厚変化のバラツキによって,アルミ押出形材の設計に一定の許容誤差を見込む必要があるため,許容誤差をより小さくすることによってアルミ原料の無駄を少なくし得ることになるが,上記ダイス関連の提案によるも,管理が煩雑化する可能性がある上,押出形材の肉厚変化の原因が複雑であることによって,常に安定して有効且つ充分に肉厚変化を抑制し得るものともいえない。
【0006】
また押出成形中にラム速を変化する上記提案にはアルミ押出形材の肉厚変化についての言及はないが,ラム速を制御することは,例えばシーケンス制御によって比較的簡易になし得ることから,これに基づいて実験したところ,アルミ押出形材の肉厚が薄めとなる傾向があるとともにその肉厚変化が比較的小さくなる傾向があり,肉厚変化の抑制に一応有効のものと認められるが,同一ダイスを用いて多数のビレットを押出成形するロットの単位で見ると,各ビレットの押出成形を同一のラム速パターンで繰り返すものであることによって,肉厚の薄め傾向が継続して,例えばビレットの押出成形回数が数回程度となると,肉厚に薄くなりすぎる部分,特にアルミ押出形材の押出方向後方部分が部分的に下限肉厚を下回る傾向を生じることになり,従ってこの場合,ビレット本数を2〜3回程度以下とする場合には肉厚変化の抑制に有効であるも,ビレット本数が多数となる一般の押出成形には不適当である。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので,比較的簡易にしてアルミ押出形材の肉厚変化を可及的有効に抑制するとともに多数ビレットの押出成形にも肉厚変化の抑制を継続し得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に添って検討したところ,本発明者らは,多数ビレットの押出成形を繰返すロット内押出成形を,例えばシーケンス制御によって,ビレットの押出成形回数に応じて押出機のラム速を,ロット内の当初のビレット押出成形を高速のラム速によって押出速度を高速化する一方,その後のビレット押出成形を,該高速よりラム速を低下した並速,即ち一般的な押出速度乃至これより更にラム速を低下した低速とするようにロット内で押出速度を変化してビレット押出成形を継続すると,当初肉厚が薄め傾向を呈するが,その後この傾向が解消されて肉厚変化が小さくなって,ビレット毎に押出成形されたアルミ押出形材間の肉厚変化,またアルミ押出形材における長手方向の肉厚変化を共にごく僅かに抑制して,ビレット押出回数の影響を受け難く,従ってロット内で肉厚変化を可及的有効に安定的に抑制することができるとの知見を得,かかる知見に基づいて本発明を行なったもので,即ち請求項1に記載の発明は,これを,ロット内のビレット押出成形回数に応じて押出機のラム速を変化してビレット押出成形を行なうことによってその押出形材の肉厚変化を抑制する押出成形方法であって,上記ロット内の押出機ラム速を,当初のビレット押出成形用に設定した高速と,その後のビレット押出成形用に設定した並速又はそれより低速とによって変化することを特徴とするアルミ押出形材の押出成形方法としたものである。
【0009】
上記ラム速の変化における高速のラム速設定を,該高速によるビレットの押出成形に際して,常時一定の定速による高定速とすること,また押出成形中に速度を変化する可変高速とすることがそれぞれ可能であり,これらの形態が選択的に使用可能であることから,請求項2乃至請求項6は,当初高速のラム速を,ロット内ビレットの押出成形に適した好ましい形態のものとするように,請求項2に記載の発明を,上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に一定速の高定速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項3に記載の発明を,上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に速度を変化する可変高速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項4に記載の発明を,上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期速度から漸増的に加速変化する漸増の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項5に記載の発明を,上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に漸減的に減速変化する漸減の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項6に記載の発明を,上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に減速変化して定速化する初期速度後減速定速の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法としたものである。
【0010】
本発明はこれらをそれぞれ発明の要旨として上記課題解決の手段とするものである。
【0011】
なお本発明において高速とは,30cmのビレットの押出成形において押出機におけるラム速が概ね1cm/sec乃至1.3cm/sec程度,並速とはラム速が概ね0.8cm/sec程度,低速とはラム速が概ね0.7cm/sec乃至0.5cm/sec程度の速度を意味するように用いる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のとおりに構成したから,多数ビレットの押出成形を繰返すロット内押出成形を,例えばシーケンス制御によって,ビレットの押出成形回数に応じて押出機のラム速を,ロット内の当初のビレット押出成形を高速のラム速によって押出速度を高速化する一方,その後のビレット押出成形を,該高速よりラム速を低下した並速,即ち一般的な押出速度乃至これより更にラム速を低下した低速とするようにロット内で押出速度を変化してビレット押出成形を継続することによって,肉厚変化を可及的有効に安定的に抑制するとともに多数ビレットの押出成形にも肉厚変化の抑制を継続し得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法を提供することができ,請求項2乃至6に記載の発明は,それぞれロット内ビレットの押出成形に適した好ましい形態のものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下更に本発明を具体的に説明すれば,アルミ押出型材は,ロット内のビレット押出成形回数に応じて押出機のラム速を変化してビレット押出成形を行なうことによってその押出形材の肉厚変化を抑制する押出成形方法によってその押出成形を行うものとしてあり,このとき上記ロット内の押出機ラム速は,これを,当初のビレット押出成形用に設定した高速と,その後のビレット押出成形用に設定した並速又はそれより低速とによって変化するものとしてある。
【0014】
ロット内のラム速の変化は,例えばラムの作動をシーケンス制御することによって,各ビレットの押出成形毎にその速度をコントロールして,加熱されたビレットに所定ラム速による加圧力を付与しダイスを強制通過させてアルミ押出型材の成形を行うものとしてある。
【0015】
図1乃至図8は,横軸を時間,縦軸をラムの進行速度として,ビレット毎に使用する時間の経過に伴うラム速パターンのモデルを示したもので,図1及び図2はビレット押出成形中に一定速とする例にして,図1は,初期の立上げ後にラム速を一定の高定速として押出成形を行って,その終了後に減速停止するパターン,図2は上記立上げ後に,押出時間を長くしてラム速を一定の並定速又は低定速として押出成形を行って,同様に減速停止するパターンであり,図3乃至図5は,ビレット押出成形中に速度を変化する可変速度とした例にして,図3は該可変速度を漸増的に加速変化する例,即ち初期の立上り後にラム速を更に無段階的に加速して押出成形を行って,その終了後に減速停止するパターン,図4は可変速度を漸減的に減速変化する例,即ち初期の立上げ後にラム速を無段階的に減速して押出成形を行って,その終了後に更に減速停止するパターン,図5は可変速度を初期速度後減速して定速化する初期速度後減速定速に変化する例,即ち急速な初期立上げ後に短時間ラム速を維持し,その後にラム速を急減速して一定の定速として押出成形を行うパターン,図6乃至図8は,上記例が直線的なラム速変化を行うものであるに対して,可変速度を2次曲線を画くように変化する例であり,図6は上記図5の初期速度後減速定速に変化するものの変形としての2次曲線のパターン,図7は上記図3の漸増的に加速変化するものの変形としての2次曲線のパターン,図8は図7のパターンの漸増後に減速変化と更に加速変化を行なうようにした2次曲線のパターンであり,上記ラム速の変化は,例えばこれら図1乃至図8に示すパターンのものを適宜に組合わせて上記ロット内のビレット押出成形を行なうようにしてある。
【0016】
そしてこのロット内のビレット押出成形に際して当初のビレット押出成形のラム速は,8mm/sec程度を並速として行なうものとされており,本例にあってこれ以上の,例えば9mm/sec乃至10数mm/sec程度を高速,7mm/sec程度以下を低速として,例えば各30cm程度のビレットを同一金型によって多数回に亘って継続的に押出成形するロット内で,当初のビレット押出成形を高速とし,その後のビレット押出成形を並速又はそれより低速とするように,ロット内で上記パターンを組合せ使用することによって,該ロット内のアルミ押出形材の肉厚変化を可及的有効に安定的に抑制するようにしてある。
【0017】
この押出成形の具体的な組合せパターンを示すと,図9はその押出成形の当初を上記図1乃至図2のラム速を一定速にして,例えば10mm/secの高速,次いで9mm/secの高速(これを中速といってもよい)とする高速,図示例にあっては異種複数の高速とする押出成形,その後に同じく図1乃至図2のラム速を一定速にして,例えば8mm/secの並速とする押出成形,更にその後に7mm/secの低速とする押出成形を行なうようにした例,図10はその押出成形の当初を上記図6の初期速度後減速定速にして,例えば初期を10mm/sec,減速して8mm/secのビレット押出成形中に速度を可変する初期高速後減速定速による押出成形,その後に上記図1乃至図2のラム速を一定速にして,同じく例えば8mm/secの並速とする押出成形を行なうようにした例,図11はその押出成形の当初を,図3の漸減減速変化にして,例えば初期を12mm/sec,漸減して8mm/secのビレット押出成形中に同じく速度を可変する漸減高速,図示例にあっては同種複数の漸減高速とする押出成形,その後に図1乃至図2のラム速を一定速にして,同じく8mm/secの並速とする押出成形を行なうようにした例である。
【0018】
これら図示例の如くに,上記の各パターンを組合せてロット内の押出成形を行なうことができ,このとき当初ビレット押出成形を単一種乃至複数種の高定速又は可変高速とし,その後に同じく単一種乃至複数種の並定速乃至低定速のものとするように,そのラム速のパターンを設定するものとしてある。
【0019】
このようにロット内のビレット押出成形を行なうことによって,ロット内のアルミ押出形材の肉厚変化を可及的に抑制することができ,これによって,アルミ押出形材をソリッド材とするとき,例えば一般に3%程度以下とされるロット内の平均重量率の変化量を,例えば2%程度以下,例えば1.8や1.9%程度とすることが可能となり,例えば一般の平均重量率を2.5%程度と仮定すると,該平均重量率を約3割程度減少することが可能となる。
【0020】
実験によれば,上記図10に示した異種複数の高速,その後の並速,更にその後の低速のラム速の組合せによる押出成形(長さ300mmビレットのロット内ビレット本数5本)を行なった実施例と,従来のとおり一定速の並速のラム速による押出成形(同じく長さ300mmビレットのロット内ビレット本数5本)を行なった比較例における平均重量率は,図12のグラフに示すように,2点鎖線で示す比較例が,1本目の押出成形で100.5%程度,2回目に98.5%程度,その後も同じく98.5%程度で推移し,5本目に98%程度であるのに対して,1点鎖線で示す実施例が,1本目の押出成形で98.5%程度,2本目に97%程度,3本目及び4本目に97.5%程度,5本目に98%程度の結果であった。
【0021】
実施例,比較例ともに押出形材の平均重量率は当初の1本目,2本目間でほぼ同等な減少変化が見られるが,高速のラム速を用いた実施例はその1本目で,比較例の1本目より重量が少なく,従って平均重量率の小さな肉厚が薄めの状態からスタートして,同じく高速のラム速の2本目で最低を呈するが,3本目,即ち並速のラム速としたときより肉厚増加に転じてほぼ安定し,5本目で比較例と同等な平均重量率を呈するに至っている。このとき肉厚の厚さを管理するための平均重量率を,例えば96%としてその下限の肉厚管理を行なうようにしたが,高速のラム速を2本目までとして,その後に並速のラム速とすることによって,高速のラム速を継続することによる平均重量率の減少を食い止めて,該肉厚管理下限の平均重量率を下回るのを防止することが可能となった。
【0022】
即ち高速のラム速がビレット押出成形によるアルミ押出形材の肉厚を薄めに誘導し,並速乃至低速のラム速がビレット押出成形によるアルミ押出形材の肉厚を厚めに誘導する結果,これらの組合せによって肉厚のコントロールをなし得ること,高速のラム速を当初のビレット押出成形に適用することによって上記2%程度以下の平均重量率を当初に確保し得ること,その後に並速乃至低速のラム速を適用することによって,高速のラム速を継続した場合に生じる肉厚下限切れを防止する肉厚管理を容易になし得ることが明らかになり,ロット内ビレット押出成形の回数に応じて押出機のラム速を当初高速,その後の並速又は低速に変化することが,アルミ押出形材の肉厚変化を比較的簡易にして可及的有効に抑制するとともに多数ビレットの押出成形にも肉厚変化の抑制を継続し得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法として好適なものとし得ることが判明した。
【0023】
本発明の実施に当って,ロット,ビレット,押出機の形態,該押出機のラム速,そのラム速変化の制御等の各具体的方法等は上記発明の要旨に反しない限り様々に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ラム速を一定速とするパターンのモデル図である。
【図2】ラム速を一定速とするパターンの他のモデル図である。
【図3】ラム速を可変速度とするパターンのモデル図である。
【図4】ラム速を可変速度とするパターンの他のモデル図である。
【図5】ラム速を可変速度とするパターンの同じく他のモデル図である。
【図6】ラム速を2次曲線の可変速度とするパターンのモデル図である。
【図7】ラム速を2次曲線の可変速度とするパターンの他のモデル図である。
【図8】ラム速を2次曲線の可変速度とするパターンの同じく他のモデル図である。
【図9】ラム速の組合せパターンを示すモデル図である。
【図10】ラム速の組合せパターンを示す他のモデル図である。
【図11】ラム速の組合せパターンを示す同じく他のモデル図である。
【図12】平均重量率実験結果グラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は,押出機によってアルミビレットを押出成形してアルミ押出形材を得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ押出形材の押出成形は,一般に押出機のラム速を定速(等速)に設定し,ビレットの押出速度を定速として行うものとされており,また押出成形によってアルミ押出形材には,例えばその長手方向に肉厚変化によるバラツキが生じること,この肉厚変化のバラツキを吸収するために,一般にアルミ押出形材の設計に際して,平均重量率の変化量,即ちロット内アルミ押出形材の最大最小の重量率を,例えばソリッド材において3%程度乃至それ以下に見込んで,肉厚の許容誤差を予め設定することが行なわれており,またこの肉厚変化を抑制する目的で,例えば押出成形に際してのダイスの温度管理,ダイス形状の変更等,ダイス関連の様々な提案がなされている。
【0003】
一方,この定速のラム速による押出成形に代えて,アルミ押出形材の再結晶不良を解消する目的で,ビレットの押出成形速度を,所定速度の初速に加速した後に漸減状に減速し,また該減速から定速を経て更に減速する如くに,ビレットの押出成形に際して,その押出機のラム速を初速から中速,終速に向けて押出成形中に変化する提案がなされている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−321009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミ押出形材における肉厚変化のバラツキによって,アルミ押出形材の設計に一定の許容誤差を見込む必要があるため,許容誤差をより小さくすることによってアルミ原料の無駄を少なくし得ることになるが,上記ダイス関連の提案によるも,管理が煩雑化する可能性がある上,押出形材の肉厚変化の原因が複雑であることによって,常に安定して有効且つ充分に肉厚変化を抑制し得るものともいえない。
【0006】
また押出成形中にラム速を変化する上記提案にはアルミ押出形材の肉厚変化についての言及はないが,ラム速を制御することは,例えばシーケンス制御によって比較的簡易になし得ることから,これに基づいて実験したところ,アルミ押出形材の肉厚が薄めとなる傾向があるとともにその肉厚変化が比較的小さくなる傾向があり,肉厚変化の抑制に一応有効のものと認められるが,同一ダイスを用いて多数のビレットを押出成形するロットの単位で見ると,各ビレットの押出成形を同一のラム速パターンで繰り返すものであることによって,肉厚の薄め傾向が継続して,例えばビレットの押出成形回数が数回程度となると,肉厚に薄くなりすぎる部分,特にアルミ押出形材の押出方向後方部分が部分的に下限肉厚を下回る傾向を生じることになり,従ってこの場合,ビレット本数を2〜3回程度以下とする場合には肉厚変化の抑制に有効であるも,ビレット本数が多数となる一般の押出成形には不適当である。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので,比較的簡易にしてアルミ押出形材の肉厚変化を可及的有効に抑制するとともに多数ビレットの押出成形にも肉厚変化の抑制を継続し得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に添って検討したところ,本発明者らは,多数ビレットの押出成形を繰返すロット内押出成形を,例えばシーケンス制御によって,ビレットの押出成形回数に応じて押出機のラム速を,ロット内の当初のビレット押出成形を高速のラム速によって押出速度を高速化する一方,その後のビレット押出成形を,該高速よりラム速を低下した並速,即ち一般的な押出速度乃至これより更にラム速を低下した低速とするようにロット内で押出速度を変化してビレット押出成形を継続すると,当初肉厚が薄め傾向を呈するが,その後この傾向が解消されて肉厚変化が小さくなって,ビレット毎に押出成形されたアルミ押出形材間の肉厚変化,またアルミ押出形材における長手方向の肉厚変化を共にごく僅かに抑制して,ビレット押出回数の影響を受け難く,従ってロット内で肉厚変化を可及的有効に安定的に抑制することができるとの知見を得,かかる知見に基づいて本発明を行なったもので,即ち請求項1に記載の発明は,これを,ロット内のビレット押出成形回数に応じて押出機のラム速を変化してビレット押出成形を行なうことによってその押出形材の肉厚変化を抑制する押出成形方法であって,上記ロット内の押出機ラム速を,当初のビレット押出成形用に設定した高速と,その後のビレット押出成形用に設定した並速又はそれより低速とによって変化することを特徴とするアルミ押出形材の押出成形方法としたものである。
【0009】
上記ラム速の変化における高速のラム速設定を,該高速によるビレットの押出成形に際して,常時一定の定速による高定速とすること,また押出成形中に速度を変化する可変高速とすることがそれぞれ可能であり,これらの形態が選択的に使用可能であることから,請求項2乃至請求項6は,当初高速のラム速を,ロット内ビレットの押出成形に適した好ましい形態のものとするように,請求項2に記載の発明を,上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に一定速の高定速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項3に記載の発明を,上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に速度を変化する可変高速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項4に記載の発明を,上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期速度から漸増的に加速変化する漸増の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項5に記載の発明を,上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に漸減的に減速変化する漸減の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法とし,請求項6に記載の発明を,上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に減速変化して定速化する初期速度後減速定速の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法としたものである。
【0010】
本発明はこれらをそれぞれ発明の要旨として上記課題解決の手段とするものである。
【0011】
なお本発明において高速とは,30cmのビレットの押出成形において押出機におけるラム速が概ね1cm/sec乃至1.3cm/sec程度,並速とはラム速が概ね0.8cm/sec程度,低速とはラム速が概ね0.7cm/sec乃至0.5cm/sec程度の速度を意味するように用いる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は以上のとおりに構成したから,多数ビレットの押出成形を繰返すロット内押出成形を,例えばシーケンス制御によって,ビレットの押出成形回数に応じて押出機のラム速を,ロット内の当初のビレット押出成形を高速のラム速によって押出速度を高速化する一方,その後のビレット押出成形を,該高速よりラム速を低下した並速,即ち一般的な押出速度乃至これより更にラム速を低下した低速とするようにロット内で押出速度を変化してビレット押出成形を継続することによって,肉厚変化を可及的有効に安定的に抑制するとともに多数ビレットの押出成形にも肉厚変化の抑制を継続し得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法を提供することができ,請求項2乃至6に記載の発明は,それぞれロット内ビレットの押出成形に適した好ましい形態のものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下更に本発明を具体的に説明すれば,アルミ押出型材は,ロット内のビレット押出成形回数に応じて押出機のラム速を変化してビレット押出成形を行なうことによってその押出形材の肉厚変化を抑制する押出成形方法によってその押出成形を行うものとしてあり,このとき上記ロット内の押出機ラム速は,これを,当初のビレット押出成形用に設定した高速と,その後のビレット押出成形用に設定した並速又はそれより低速とによって変化するものとしてある。
【0014】
ロット内のラム速の変化は,例えばラムの作動をシーケンス制御することによって,各ビレットの押出成形毎にその速度をコントロールして,加熱されたビレットに所定ラム速による加圧力を付与しダイスを強制通過させてアルミ押出型材の成形を行うものとしてある。
【0015】
図1乃至図8は,横軸を時間,縦軸をラムの進行速度として,ビレット毎に使用する時間の経過に伴うラム速パターンのモデルを示したもので,図1及び図2はビレット押出成形中に一定速とする例にして,図1は,初期の立上げ後にラム速を一定の高定速として押出成形を行って,その終了後に減速停止するパターン,図2は上記立上げ後に,押出時間を長くしてラム速を一定の並定速又は低定速として押出成形を行って,同様に減速停止するパターンであり,図3乃至図5は,ビレット押出成形中に速度を変化する可変速度とした例にして,図3は該可変速度を漸増的に加速変化する例,即ち初期の立上り後にラム速を更に無段階的に加速して押出成形を行って,その終了後に減速停止するパターン,図4は可変速度を漸減的に減速変化する例,即ち初期の立上げ後にラム速を無段階的に減速して押出成形を行って,その終了後に更に減速停止するパターン,図5は可変速度を初期速度後減速して定速化する初期速度後減速定速に変化する例,即ち急速な初期立上げ後に短時間ラム速を維持し,その後にラム速を急減速して一定の定速として押出成形を行うパターン,図6乃至図8は,上記例が直線的なラム速変化を行うものであるに対して,可変速度を2次曲線を画くように変化する例であり,図6は上記図5の初期速度後減速定速に変化するものの変形としての2次曲線のパターン,図7は上記図3の漸増的に加速変化するものの変形としての2次曲線のパターン,図8は図7のパターンの漸増後に減速変化と更に加速変化を行なうようにした2次曲線のパターンであり,上記ラム速の変化は,例えばこれら図1乃至図8に示すパターンのものを適宜に組合わせて上記ロット内のビレット押出成形を行なうようにしてある。
【0016】
そしてこのロット内のビレット押出成形に際して当初のビレット押出成形のラム速は,8mm/sec程度を並速として行なうものとされており,本例にあってこれ以上の,例えば9mm/sec乃至10数mm/sec程度を高速,7mm/sec程度以下を低速として,例えば各30cm程度のビレットを同一金型によって多数回に亘って継続的に押出成形するロット内で,当初のビレット押出成形を高速とし,その後のビレット押出成形を並速又はそれより低速とするように,ロット内で上記パターンを組合せ使用することによって,該ロット内のアルミ押出形材の肉厚変化を可及的有効に安定的に抑制するようにしてある。
【0017】
この押出成形の具体的な組合せパターンを示すと,図9はその押出成形の当初を上記図1乃至図2のラム速を一定速にして,例えば10mm/secの高速,次いで9mm/secの高速(これを中速といってもよい)とする高速,図示例にあっては異種複数の高速とする押出成形,その後に同じく図1乃至図2のラム速を一定速にして,例えば8mm/secの並速とする押出成形,更にその後に7mm/secの低速とする押出成形を行なうようにした例,図10はその押出成形の当初を上記図6の初期速度後減速定速にして,例えば初期を10mm/sec,減速して8mm/secのビレット押出成形中に速度を可変する初期高速後減速定速による押出成形,その後に上記図1乃至図2のラム速を一定速にして,同じく例えば8mm/secの並速とする押出成形を行なうようにした例,図11はその押出成形の当初を,図3の漸減減速変化にして,例えば初期を12mm/sec,漸減して8mm/secのビレット押出成形中に同じく速度を可変する漸減高速,図示例にあっては同種複数の漸減高速とする押出成形,その後に図1乃至図2のラム速を一定速にして,同じく8mm/secの並速とする押出成形を行なうようにした例である。
【0018】
これら図示例の如くに,上記の各パターンを組合せてロット内の押出成形を行なうことができ,このとき当初ビレット押出成形を単一種乃至複数種の高定速又は可変高速とし,その後に同じく単一種乃至複数種の並定速乃至低定速のものとするように,そのラム速のパターンを設定するものとしてある。
【0019】
このようにロット内のビレット押出成形を行なうことによって,ロット内のアルミ押出形材の肉厚変化を可及的に抑制することができ,これによって,アルミ押出形材をソリッド材とするとき,例えば一般に3%程度以下とされるロット内の平均重量率の変化量を,例えば2%程度以下,例えば1.8や1.9%程度とすることが可能となり,例えば一般の平均重量率を2.5%程度と仮定すると,該平均重量率を約3割程度減少することが可能となる。
【0020】
実験によれば,上記図10に示した異種複数の高速,その後の並速,更にその後の低速のラム速の組合せによる押出成形(長さ300mmビレットのロット内ビレット本数5本)を行なった実施例と,従来のとおり一定速の並速のラム速による押出成形(同じく長さ300mmビレットのロット内ビレット本数5本)を行なった比較例における平均重量率は,図12のグラフに示すように,2点鎖線で示す比較例が,1本目の押出成形で100.5%程度,2回目に98.5%程度,その後も同じく98.5%程度で推移し,5本目に98%程度であるのに対して,1点鎖線で示す実施例が,1本目の押出成形で98.5%程度,2本目に97%程度,3本目及び4本目に97.5%程度,5本目に98%程度の結果であった。
【0021】
実施例,比較例ともに押出形材の平均重量率は当初の1本目,2本目間でほぼ同等な減少変化が見られるが,高速のラム速を用いた実施例はその1本目で,比較例の1本目より重量が少なく,従って平均重量率の小さな肉厚が薄めの状態からスタートして,同じく高速のラム速の2本目で最低を呈するが,3本目,即ち並速のラム速としたときより肉厚増加に転じてほぼ安定し,5本目で比較例と同等な平均重量率を呈するに至っている。このとき肉厚の厚さを管理するための平均重量率を,例えば96%としてその下限の肉厚管理を行なうようにしたが,高速のラム速を2本目までとして,その後に並速のラム速とすることによって,高速のラム速を継続することによる平均重量率の減少を食い止めて,該肉厚管理下限の平均重量率を下回るのを防止することが可能となった。
【0022】
即ち高速のラム速がビレット押出成形によるアルミ押出形材の肉厚を薄めに誘導し,並速乃至低速のラム速がビレット押出成形によるアルミ押出形材の肉厚を厚めに誘導する結果,これらの組合せによって肉厚のコントロールをなし得ること,高速のラム速を当初のビレット押出成形に適用することによって上記2%程度以下の平均重量率を当初に確保し得ること,その後に並速乃至低速のラム速を適用することによって,高速のラム速を継続した場合に生じる肉厚下限切れを防止する肉厚管理を容易になし得ることが明らかになり,ロット内ビレット押出成形の回数に応じて押出機のラム速を当初高速,その後の並速又は低速に変化することが,アルミ押出形材の肉厚変化を比較的簡易にして可及的有効に抑制するとともに多数ビレットの押出成形にも肉厚変化の抑制を継続し得るようにしたアルミ押出形材の押出成形方法として好適なものとし得ることが判明した。
【0023】
本発明の実施に当って,ロット,ビレット,押出機の形態,該押出機のラム速,そのラム速変化の制御等の各具体的方法等は上記発明の要旨に反しない限り様々に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ラム速を一定速とするパターンのモデル図である。
【図2】ラム速を一定速とするパターンの他のモデル図である。
【図3】ラム速を可変速度とするパターンのモデル図である。
【図4】ラム速を可変速度とするパターンの他のモデル図である。
【図5】ラム速を可変速度とするパターンの同じく他のモデル図である。
【図6】ラム速を2次曲線の可変速度とするパターンのモデル図である。
【図7】ラム速を2次曲線の可変速度とするパターンの他のモデル図である。
【図8】ラム速を2次曲線の可変速度とするパターンの同じく他のモデル図である。
【図9】ラム速の組合せパターンを示すモデル図である。
【図10】ラム速の組合せパターンを示す他のモデル図である。
【図11】ラム速の組合せパターンを示す同じく他のモデル図である。
【図12】平均重量率実験結果グラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロット内のビレット押出成形回数に応じて押出機のラム速を変化してビレット押出成形を行なうことによってその押出形材の肉厚変化を抑制する押出成形方法であって,上記ロット内の押出機ラム速を,当初のビレット押出成形用に設定した高速と,その後のビレット押出成形用に設定した並速又はそれより低速とによって変化することを特徴とするアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項2】
上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に一定速の高定速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項3】
上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に速度を変化する可変高速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項4】
上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期速度から漸増的に加速変化する漸増の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項5】
上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に漸減的に減速変化する漸減の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項6】
上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に減速変化して定速化する初期速度後減速定速の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項1】
ロット内のビレット押出成形回数に応じて押出機のラム速を変化してビレット押出成形を行なうことによってその押出形材の肉厚変化を抑制する押出成形方法であって,上記ロット内の押出機ラム速を,当初のビレット押出成形用に設定した高速と,その後のビレット押出成形用に設定した並速又はそれより低速とによって変化することを特徴とするアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項2】
上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に一定速の高定速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項3】
上記当初ビレット押出用に設定した高速のラム速を,ビレット押出成形中に速度を変化する可変高速とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項4】
上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期速度から漸増的に加速変化する漸増の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項5】
上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に漸減的に減速変化する漸減の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【請求項6】
上記可変高速のラム速を,ビレット押出成形中に初期高速から所定速度に減速変化して定速化する初期速度後減速定速の可変高速とすることを特徴とする請求項3に記載のアルミ押出形材の押出成形方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−21215(P2006−21215A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200193(P2004−200193)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(302045705)トステム株式会社 (949)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(302045705)トステム株式会社 (949)
【Fターム(参考)】
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