説明

アンテナ装置、及び無線通信装置

【課題】より小型化が可能な周波数可変機能を備えたアンテナ装置及びこのアンテナ装置を搭載した無線通信装置を実現すること。
【解決手段】給電点を有し、誘電体基板の一面上に形成された逆L字形状のエレメント導体と、誘電体基板の一面上に形成された、開口を有する環状の第1導体と、誘電体基板の他面上に形成され、第1導体の開口が向く方向と逆方向を向く位置に開口を有し、誘電体基板を挟んで第1導体に対向する環状の第2導体と、誘電体基板の一面上において第1導体を挟んでエレメント導体と対向する領域に対応する誘電体基板の他面上の領域に形成されるグラウンド導体と、第1又は第2導体の開口を塞ぐように形成された容量素子と、第1又は第2導体のうち、開口に容量素子が形成されていない導体の開口を塞ぐように形成された可変容量素子と、を備える、アンテナ装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置、及び無線通信装置に関し、特に移動体通信端末に適用可能なアンテナ装置、及び無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信装置には、複数の無線通信システムへの対応が要求されるようになってきた。そのため、こうした無線通信装置に搭載されるアンテナ装置には、小型化に加え、複数の周波数帯或いは広帯域で動作する機能が要求されるようになった。複数の周波数帯で動作するアンテナ装置としては、例えば、周波数帯域を可変するチューナブル・アンテナ(Tunable antenna)がある。また、モノポール・アンテナ(Monopole antenna)の給電部分に複数の異なる長さの導体線路を組み合わせた調整回路を設けて周波数帯域を可変するアンテナ装置がある(例えば、下記の特許文献1を参照)。さらに、アンテナ装置の寄生素子に接続された選択回路を切り替えることで周波数帯域を可変するアンテナ装置がある(例えば、下記の特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第07/042615号パンフレット
【特許文献2】特表2009−510900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に記載のアンテナ装置は複数の異なる長さの導体線路をスイッチで切り替えて周波数帯域を可変する仕組みであるため、可変する周波数帯域の数に応じた導体線路が必要となる。そのため、可変周波数帯域の数が増えた場合、必要な導体線路の数が多くなり、アンテナ装置の小型化が困難になる。また、上記の特許文献2に記載のアンテナ装置は、寄生素子に選択回路を接続し、スイッチの切り替えで周波数帯域を可変する仕組みである。そのため、可変周波数帯域の数が増えた場合に寄生素子の数を増やす必要が生じ、アンテナ装置の小型化が困難になる。
【0005】
こうした問題点に鑑み、本件発明者は、SRR導体上に設けたスイッチの短絡/開放を切り替えることにより共振周波数を可変にしたアンテナ装置を考案した(特開2011−103630号公報を参照)。このアンテナ装置は、逆L形状のエレメント導体と、グラウンド導体との間にSRR導体を配置し、SRR導体上に設けた複数のスイッチの短絡/開放を制御することで共振周波数を可変する構成を有する。この構成を適用することで、上記の特許文献1及び2に記載のアンテナ装置に比べ、小型化で所望の周波数帯域に共振周波数を容易に可変することが可能なアンテナ装置(従来例)を実現することができる。
【0006】
しかしながら、上記従来例に係るアンテナ装置においても、共振周波数の可変範囲に応じて複数のスイッチをSRR導体上に設けねばならず、可変範囲が広がると部品点数の増加が避けられない。さらに、スイッチの数が増加することでスイッチの制御が複雑化してしまう。そこで、本発明は、このような問題点に鑑みて考案されたものであり、本発明の目的とするところは、より小型化が可能な周波数可変機能を備えたアンテナ装置及びこのアンテナ装置を搭載した無線通信装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のある観点によれば、給電点を有し、誘電体基板の一面上に形成された逆L字形状のエレメント導体と、前記誘電体基板の一面上に形成された、開口を有する環状の第1導体と、前記誘電体基板の他面上に形成され、前記第1導体の開口が向く方向と逆方向を向く位置に開口を有し、前記誘電体基板を挟んで前記第1導体に対向する環状の第2導体と、前記誘電体基板の一面上において前記第1導体を挟んで前記エレメント導体と対向する領域に対応する前記誘電体基板の他面上の領域に形成されるグラウンド導体と、前記第1又は第2導体の開口を塞ぐように形成された容量素子と、前記第1又は第2導体のうち、開口に前記容量素子が形成されていない導体の開口を塞ぐように形成された可変容量素子と、を備える、アンテナ装置が提供される。
【0008】
かかる構成により、第1導体と第2導体とでSRRが形成され、SRRの共振周波数付近における実効透磁率の変化と掛け合わせて大きな波長短縮効果が得られるため、アンテナ装置の小型化が可能になる。また、可変容量素子の容量値を制御することにより、LC共振回路を形成するアンテナ装置の共振周波数を自由に切り替えることが可能になり、複数の周波数帯域に対応することが可能になる。さらに、共振周波数の可変を容量値の制御で行うため、スイッチなどで共振周波数を切り替える構成とは異なり、対応すべき周波数帯の数が増加しても部品点数の増加がなく、装置のサイズが大きくならずに済む。その結果、アンテナ装置及びこれを搭載した無線通信装置の更なる小型化が可能になる。また、対応すべき周波数帯の数が増加しても、可変容量素子の容量値を制御するだけで済むため、制御の複雑化を招かずに済む。
【0009】
また、前記容量素子は、前記第1導体の開口に形成されていてもよく、この場合には前記可変容量素子は、前記第2導体の開口に形成される。さらに、上記のアンテナ装置は、所望の共振周波数となるように前記可変容量素子の容量値を調整する制御部をさらに備えていてもよい。また、前記制御部は、前記容量素子の容量値を上回る所定範囲内で前記可変容量素子の容量値を変化させるように構成されていてもよい。なお、前記第1導体及び前記第2導体は、SRR(Split Ring Resonator)を形成する。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明のある観点によれば、上記のアンテナ装置を搭載した無線通信装置が提供される。かかる構成により、複数の周波数帯域に対応可能な小型の無線通信装置が実現される。なお、上記の制御部は、無線通信装置の制御機能であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明によれば、より小型化が可能な周波数可変機能を備えたアンテナ装置及びこのアンテナ装置を搭載した無線通信装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】SRRを搭載したアンテナ装置の構成例を示した図である。
【図2】本実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示した図である。
【図3】本実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示した図である。
【図4】本実施形態に係るアンテナ装置の構成例を示した図である。
【図5A】本実施形態に係るアンテナ装置を構成するSRR導体の構成例を示した図である。
【図5B】本実施形態に係るアンテナ装置を構成するSRR導体の構成例を示した図である。
【図5C】本実施形態に係るアンテナ装置を構成するSRR導体の構成例を示した図である。
【図6】本実施形態に係るアンテナ装置の誘電率特性を示した図である。
【図7】本実施形態に係るアンテナ装置の透磁率特性を示した図である。
【図8】本実施形態に係るアンテナ装置のVSWR特性を示した図である。
【図9A】本実施形態に係るアンテナ装置を構成するSRR導体の構成例を示した図である。
【図9B】本実施形態に係るアンテナ装置を構成するSRR導体の構成例を示した図である。
【図9C】本実施形態に係るアンテナ装置を構成するSRR導体の構成例を示した図である。
【図9D】本実施形態に係るアンテナ装置を構成するSRR導体の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
(概要)
本実施形態に係るアンテナ装置は、SRR(Split Ring Resonator;分割リング共振器)の共振周波数付近の材料特性を利用し、SRRを構成する各導体の開口部分に可変容量素子を設け、その容量値を変化させることにより、共振周波数を可変するものである。なお、ここで言うSRRとは、少なくとも一部が分離された環状の金属(導電性部材)から成る構造体であり、後述する特性を発現するものである。
【0015】
(SRRの特性)
まず、SRRの一般的な特性について簡単に説明する。
【0016】
一般に、SRRはリングの一部に「Split(開口部)」を有する二つの金属リングが同心円状に配置された構造をしている。こうした構造的特徴から「2重リングSRR」とも呼ばれる。SRRのリング部分はインダクタンス(L)として機能し、リング間の間隙部分はキャパシタンス(C)として機能する。
【0017】
例えば、リングを含む平面に垂直な磁場成分を含む電磁波(入射磁場)がSRRに入射すると、電磁誘導の原理に従い、入射磁場を打ち消す反抗磁場を作り出す誘導電流(J)がリング上に誘起される。この誘導電流は各リングに沿って流れるが、リングの一部に設けられた開口部で誘導電流の流れが遮られ、2つのリング間に等しい量の正負の電荷が蓄積される。さらに、2つのリング間に蓄積された電荷がリング間のキャパシタンス(C)を介して内側から外側(及び外側から内側)のリングへと流れることでSRRにLC共振の閉回路が形成される。従って、SRRの共振周波数fは、SRRを形成するキャパシタンス(C)及びインダクタンス(L)に基づいて下記の式(1)のように表される。
【0018】
【数1】

…(1)

【0019】
この共振周波数付近において大きな誘導電流が誘起され、大きな反抗磁場が作り出される。そのため、SRRの実効的な透磁率は大きく変化する。上記の共振周波数に近い周波数を有する電磁波が入射すると、その電磁波はSRRに共鳴して大きく吸収される。つまり、電磁波の吸収に対応する透磁率の虚部(Imaginary)は、電磁波の周波数がSRRの共振周波数に近づくにつれて増大する。また、虚部の変化に応じて透磁率の実部(Real)も変化する。実部の変化量は、虚部の変化量が大きいほど(即ち、SRRのQ値が高いほど)大きくなり、適当な条件に調整すると、共振周波数の高周波数側において負の透磁率を実現することができる。
【0020】
以上、SRRの特性について説明した。上記のように、SRRは磁気駆動のLC共振回路がその動作原理となっており、共振器構造の設計次第でSRRの共振周波数を自由に設計することが可能である。
【0021】
(従来例:SRRを利用したアンテナ装置100の構成)
次に、図1を参照しながら、SRRを利用したアンテナ装置100の構成について説明する。図1は、SRRを利用したアンテナ装置100の構成を示した図である。
【0022】
図1に示すように、アンテナ装置100は、第1SRR導体101と、第2SRR導体102と、誘電体基板103と、エレメント導体104と、給電点105と、グラウンド導体106とを含む。なお、エレメント導体104は、例えば、L字型に形成される。また、エレメント導体104は、給電点105を介してグラウンド導体106と接続される。そして、エレメント導体104は、逆L型アンテナ(Inverted−L antenna)として機能する。
【0023】
第1SRR導体101は、誘電体基板103の一面(以下、表面)に形成される。また、第2SRR102は、誘電体基板103の他面(以下、裏面)に形成される。図1の例において、第1SRR導体101及び第2SRR導体102は、矩形リング状に形成されている。また、第1SRR導体101は、矩形リングの一部を分離した開口部101aを有する。同様に、第2SRR導体102は、矩形リングの一部を分離した開口部102aを有する。なお、第1SRR導体101及び第2SRR導体102の形状は、矩形リング形状に限らず、任意のリング形状に変形することが可能である(例えば、図5A〜図5Cを参照)。また、第1SRR導体101と第2SRR導体102とは、異なる形状であってもよい。
【0024】
第1SRR導体101と第2SRR導体102とは、誘電体基板103を挟んで対向する位置に配置される。また、第1SRR導体101と第2SRR導体102とは、第1SRR導体101の開口部101aと第2SRR導体102の開口部102aとが互いに反対を向くように互い違いに配置される。例えば、第1SRR導体101の開口部101aが誘電体基板103の表面において右側に向く場合、第2SRR導体102の開口部102aは誘電体基板103の裏面において左側に向く。
【0025】
上記のような構造により、第1SRR導体101及び第2SRR導体102は、それぞれ一般的なSRRの各リングと同様にインダクタンス(L)として機能する。また、誘電体基板103を挟んで対向配置された第1SRR導体101と第2SRR導体102との間でキャパシタンス(C)が形成される。そのため、第1SRR導体101及び第2SRR導体102はSRRとして機能する。従って、アンテナ装置100は、第1SRR導体101及び第2SRR導体102の長さに依存するインダクタンス(L)、及び、第1SRR導体101及び第2SRR導体102の配置と誘電体基板103の誘電率及び厚みとに依存するキャパシタンス(C)によって決まる共振周波数で動作する。
【0026】
以上、SRRを利用したアンテナ装置100の構成について説明した。なお、アンテナ装置100は、設計時にインダクタンス(L)及びキャパシタンス(C)が固定されてしまう。そのため、共振周波数を可変にするには、インダクタンス(L)又はキャパシタンス(C)を可変にする仕組みを設ける必要がある。そこで、本件発明者は、第1SRR導体101及び第2SRR導体102の長さをスイッチで切り替えられるようにする仕組みを考案した(特開2011−103630号公報)。しかし、スイッチを利用する場合、利用する周波数帯の数が増加するにつれて多くのスイッチが必要になる。多くのスイッチを設けると、装置のサイズが大きくなる上、制御が複雑化してしまう。
【0027】
こうした問題点に鑑み、本件発明者は、スイッチを用いずに共振周波数を可変にする仕組みを考案した。この仕組みを適用すると、より小型で制御が容易なアンテナ装置(後述するアンテナ装置200)が実現される。以下、本実施形態に係るアンテナ装置200の構成について詳細に説明する。
【0028】
(実施形態:アンテナ装置200の構成)
図2を参照しながら、本発明の一実施形態に係るアンテナ装置200の構成について説明する。図2は、本実施形態に係るアンテナ装置200の構成例を示した説明図である。
【0029】
図2に示すように、アンテナ装置200は、第1SRR導体201と、第2SRR導体202と、誘電体基板203と、エレメント導体204と、給電点205と、グラウンド導体206と、第1容量素子211と、第2可変容量素子212とを有する。
【0030】
エレメント導体204は、例えば、L字型に形成される。また、エレメント導体204は、給電点205を介してグラウンド導体206と接続される。そして、エレメント導体204は、逆L型アンテナ(Inverted−L antenna)として機能する。また、エレメント導体204で形成される逆L型アンテナは、自由空間における長さが概ね1/4波長となる周波数で動作する。なお、誘電体基板203上に配置されたエレメント導体204で形成される逆L型アンテナは、誘電体基板203の材料定数に対応する波長短縮効果の影響を受ける。
【0031】
第1SRR導体201は、誘電体基板203の一面(以下、表面)に形成される。また、第2SRR202は、誘電体基板203の他面(以下、裏面)に形成される。図2の例において、第1SRR導体201及び第2SRR導体202は、矩形リング状に形成されている。また、第1SRR導体201は、矩形リングの一部を分離した開口部201aを有する。同様に、第2SRR導体202は、矩形リングの一部を分離した開口部202aを有する。なお、第1SRR導体201及び第2SRR導体202の形状は、矩形リング形状に限らず、任意のリング形状に変形することが可能である。また、第1SRR導体201と第2SRR導体202とは、異なる形状であってもよい。
【0032】
第1SRR導体201と第2SRR導体202とは、誘電体基板203を挟んで対向する位置に配置される。また、第1SRR導体201と第2SRR導体202とは、第1SRR導体201の開口部201aと第2SRR導体202の開口部202aとが互いに反対を向くように互い違いに配置される。例えば、第1SRR導体201の開口部201aが誘電体基板203の表面において右側に向く場合、第2SRR導体202の開口部202aは誘電体基板203の裏面において左側に向く。このように、第1SRR導体201及び第2SRR導体202で形成されるSRRを設けることで、SRRの共振周波数付近における実効透磁率の変化と掛け合わせて大きな波長短縮効果が得られ、アンテナ装置の小型化が可能になる。
【0033】
言い換えると、SRRの共振周波数付近における実効透磁率の変化が十分に大きくなるのであれば、第1SRR導体201と第2SRR導体202との位置関係は、ある程度自由に設計することができる。例えば、X方向に見た場合に、図9Aに示すように、第1SRR導体201と第2SRR導体202とが重なるように配置されていてもよいし、図9Bに示すように、第1SRR導体201と第2SRR導体202とが部分的に重なるように配置されていてもよい。或いは、図9C及び図9Dに示すように、第1SRR導体201と第2SRR導体202とが全く重ならないように配置されていてもよい。
【0034】
さて、第1SRR導体201の開口部201aには、開口部201aを塞ぐように容量素子211が形成される。つまり、第1SRR導体201の各端部に容量素子211の各端部が接続され、第1SRR導体201の両端部を容量素子211が電気的に接続している。同様に、第2SRR導体202の開口部202aには、開口部202aを塞ぐように可変容量素子212が形成される。つまり、第2SRR導体202の各端部に可変容量素子212の各端部が接続され、第2SRR導体202の両端部を可変容量素子212が電気的に接続している。可変容量素子212は、第2SRR導体202の容量値を可変する。そのため、可変容量素子212の容量値を制御することにより、LC共振回路を形成するアンテナ装置200の共振周波数を自由に切り替えることが可能になる。
【0035】
ここで、図3及び図4を参照しながら、誘電体基板203の表面に形成された第1SRR導体201の構成及び誘電体基板203の裏面に形成された第2SRR導体202の構成について、より詳細に説明する。
【0036】
図3に示すように、誘電体基板203の表面には、開口部201aが容量素子211で塞がれた第1SRR導体201、及び逆L形状のエレメント導体204が形成されている。一方、誘電体基板203の裏面には、図4に示すように、開口部202aが可変容量素子212で塞がれた第2SRR導体202、及びグラウンド導体206が形成されている。第1SRR導体201及び第2SRR導体202で形成されるSRRは、Z方向について、エレメント導体204とグラウンド導体206とで挟まれた領域に配置される。容量素子211の容量値は、例えば、1pFなどに設定される。この場合、可変容量素子212の容量値は、1pF〜2.4pFなどの範囲に設定される。
【0037】
以上、アンテナ装置200の構成について説明した。なお、図2の例では、第2SRR導体202の開口部202aに形成した素子の容量値を可変する構成を示したが、第1SRR導体201の開口部201aに形成した素子の容量値を可変する構成にしてもよい。
【0038】
(アンテナ装置200の特性)
次に、図6及び図7を参照しながら、アンテナ装置200の特性について説明する。図6は、アンテナ装置200の誘電率特性を示す図である。一方、図7は、アンテナ装置200の透磁率特性を示す図である。図6及び図7では、実線が実部(Real)の特性を示し、破線が虚部(Imaginary)の特性を示している。
【0039】
cを真空中の光速、μγを媒質の比透磁率、εγを媒質の比誘電率とすると、一般に、位相速度Vは下記の式(2)で表現される。つまり、材料定数μγ及びεγに応じて、下記の式(3)で表現される(εγμγ−1/2倍の波長短縮効果が得られる。そのため、誘電体基板203の材料定数μγ及びεγに対してSRRの共振周波数付近における実効透磁率の変化を掛け合わせた波長短縮効果が得られる。
【0040】
【数2】

…(2)

【0041】
また、SRRの共振周波数は、第1SRR導体201及び第2SRR導体202の導体長を調整することで設定できる。そのため、第1SRR導体201及び第2SRR導体202の導体長を調整して、図6及び図7にハッチングで示したLTEの周波数帯域付近に共振周波数を設定することができる。このような設定にすると、図7に示すように、LTEの周波数帯域内で実効透磁率が大きく変化する特性が得られる。
【0042】
上記のように、逆L形状のエレメント導体204とグラウンド導体206との間に、誘電体基板203を挟んで配置された第1SRR導体201及び第2SRR導体202で形成されたSRRを設けることで、SRRの共振周波数付近における実効透磁率の変化が誘電体基板203の材料係数と掛け合わされ、誘電体基板203の材料定数に起因する波長短縮効果よりも大きな波長短縮効果が得られる。そのため、共振周波数が低周波数域へとシフトする。また、第2SRR導体202の開口部202aに設けられた可変容量素子212の容量値を変化させることにより、共振周波数を可変することができる。例えば、図8(VSWR特性)に示すように、LTEの周波数帯域とGSMの周波数帯域との間で共振周波数を可変することが可能になる。
【0043】
なお、LTE(Long Term Evolution)とは、携帯電話の高速なデータ通信仕様の一つである第3世代携帯電話方式「W−CDMA」の標準化団体3GPPが標準化を進めている次世代の通信システムであり、例えば、700MHzの周波数帯を利用する。また、GSM(Global System for Mobile Communications)とは、携帯電話に使われる無線通信方式の一つであり、例えば、850MHz、900MHzなどの周波数帯を利用する。
【0044】
(制御方法について)
ところで、可変容量素子212の容量値は、アンテナ装置200を搭載した無線通信装置の制御部(非図示)により制御される。例えば、制御部は、受信信号の周波数を検出し、検出した周波数に応じて可変容量素子212の容量値を制御する。例えば、制御部は、LTEに対応する受信信号の周波数を検出した場合、共振周波数がLTEの周波数帯域付近になるように可変容量素子212の容量値を制御する。一方、GSMに対応する受信信号の周波数を検出した場合、制御部は、共振周波数がGSMの周波数帯域付近になるように可変容量素子212の容量値を制御する。
【0045】
容量素子211の容量値を1pF、特性インピーダンスを50Ωとし、可変容量素子212の容量値を1pF〜2.4pFに可変した場合、アンテナ装置200のVSWR特性は、図8に示すように変化する。可変容量素子212の容量値が1pFの場合、高域側に共振周波数(VSWRの最小値)が位置する。そして、可変容量素子212の容量値が増加するにつれて低域側に共振周波数がシフトする。図8に示すように、この例においては、可変容量素子212の容量値を1pF〜2.4pFの範囲で可変することにより、GSMの周波数帯域とLTEの周波数帯域とがカバーされる。
【0046】
以上、アンテナ装置200の特性について説明した。上記のように、可変容量素子212の容量値を可変することにより、所望の周波数帯域において共振周波数を可変することが可能である。また、可変容量素子212の容量値を切り替えることで周波数帯域を可変しているため、利用する無線通信システムの周波数帯の数が増えた場合でも装置のサイズが大きくなることは無い。そのため、複数の無線通信システムに適用可能な小型の無線通信装置を提供することが可能になる。さらに、可変容量素子212の容量値を調整するだけで共振周波数を自由に変更できるため、制御が容易である。
【0047】
ところで、共振周波数の可変動作を利用することにより、無線通信装置の制御部においてオートチューニング動作を行うことも可能である。この場合、初期状態として、例えば、可変容量素子212の容量値を容量素子211の容量値と同じに設定しておく。そして、制御部は、可変容量素子212の容量値を徐々に変化させつつ、共振周波数を低域側又は高域側に徐々にシフトさせて所望の受信信号に自動的に同調するようにしてもよい。
【0048】
(変形例:SRRの形状について)
次に、アンテナ装置200に適用可能なSRRの他の形状について、図5A〜図5Cを参照しながら説明する。図5Aは多角形状の一部が分離された開口部401aを有するSRR導体401の形状を示す。また、図5Bは四角形状の一部が分離された開口部402aを有するSRR導体402の形状を示す。また、図5Cはリング形状の一部が分離された開口部403aを有するSRR導体403の形状を示す。なお、上述したSRRの特性を実現できる形状であれば、これに限定されない。
【0049】
第1SRR導体201及び第2SRR導体202は、図5A〜図5Cに示したSRR導体401、402、403のように様々なリング形状に変形することが可能である。このような形状に変形した場合も、SRR導体401、402、403の開口部401a、402a、403aには、容量素子211又は可変容量素子212が設けられる。そのため、可変容量素子212の容量値を可変することにより、アンテナ装置200の共振周波数を可変することが可能である。
【0050】
(製造方法について)
アンテナ装置200は、逆L形状のエレメント導体204とグラウンド導体206との間に位置する誘電体基板203の表裏面に、第1SRR導体201と第2SRR導体202とをそれぞれ形成したものであるため、簡易な製造方法で製造することができる。例えば、誘電体基板203の表裏面をエッチングして、第1SRR導体201及び第2SRR導体202を形成したり、或いは、誘電体基板203の表裏面に第1SRR導体201及び第2SRR導体202を貼り付けて形成したりすることができる。製造方法が簡易であるため、アンテナ装置200に設計変更が発生した場合にも容易に対応可能になり、製造コストの抑制に寄与する。
【0051】
また、誘電体基板203は、フレキシブルな誘電体フィルムなどで製作してもよい。誘電体基板203をフレキシブルな誘電体フィルムで製作した場合、誘電体基板203は折り曲げることが可能となるため、無線通信装置への実装が容易となる。なお、誘電体基板203以外にもエレメント導体204やグラウンド導体206をフレキシブルな素材で製作してもよい。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、上記説明においては、エレメント導体を逆L形状としたが、エレメント導体の開放端をさらに屈折させてコの字形状としてもよい。つまり、SRRをコの字形状のエレメント導体で囲み、グラウンド導体とエレメント導体とで囲うように配置してもよい。この場合、エレメント導体の配置面積が少なくなるため、アンテナ装置の更なる小型化に寄与する。
【符号の説明】
【0053】
100、200 アンテナ装置
101、201 第1SRR導体
102、202 第2SRR導体
103、203 誘電体基板
104、204 エレメント導体
105、205 給電点
106、206 グラウンド導体
211 容量素子
212 可変容量素子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電点を有し、誘電体基板の一面上に形成された逆L字形状のエレメント導体と、
前記誘電体基板の一面上に形成された、開口を有する環状の第1導体と、
前記誘電体基板の他面上に形成され、前記第1導体の開口が向く方向と逆方向を向く位置に開口を有し、前記誘電体基板を挟んで前記第1導体に対向する環状の第2導体と、
前記誘電体基板の一面上において前記第1導体を挟んで前記エレメント導体と対向する領域に対応する前記誘電体基板の他面上の領域に形成されるグラウンド導体と、
前記第1又は第2導体の開口を塞ぐように形成された容量素子と、
前記第1又は第2導体のうち、開口に前記容量素子が形成されていない導体の開口を塞ぐように形成された可変容量素子と、
を備える
ことを特徴とする、アンテナ装置。
【請求項2】
前記容量素子は、前記第1導体の開口に形成され、
前記可変容量素子は、前記第2導体の開口に形成される
ことを特徴とする、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
所望の共振周波数となるように前記可変容量素子の容量値を調整する制御部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記容量素子の容量値を上回る所定範囲内で前記可変容量素子の容量値を変化させる
ことを特徴とする、請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1導体及び前記第2導体は、SRR(Split Ring Resonator)を形成する
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアンテナ装置を搭載した
ことを特徴とする、無線通信装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【公開番号】特開2013−93643(P2013−93643A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232671(P2011−232671)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】