説明

アンバランス計測方法と装置

【課題】軸受と潤滑油との温度差に影響されず、かつ、回転機械の個体毎にアンバランスデータがばらつくことなく、高精度なアンバランスデータを取得する。
【解決手段】回転体を回転駆動させる試運転を複数回行い(ステップS1)、各試運転毎に、データ取得ステップS2、ずれ量算出ステップS3、および判断ステップS4を行う。データ取得ステップS2では、支持体の振動と回転体の回転角を検出し、かつ、振動と回転角から前記回転体のアンバランスデータを算出する。ずれ量算出ステップS3では、試運転のアンバランスデータが、この試運転の直前に行った試運転のアンバランスデータからずれている量を表したずれ量を算出する。判断ステップS4では、ずれ量がしきい値以下であるかを判断する。ずれ量がしきい値以下になるまで、ステップS1〜S4を繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械に設けられる回転体のアンバランスを計測するアンバランス計測方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願において、回転機械は、流体と力を及ぼし合う回転翼が回転体に設けられた流体機械である。回転機械には、原動機と被動機がある。原動機は、流体が回転翼に作用させる圧力により回転体が回転駆動されることで、流体の持つエネルギーを回転運動エネルギーに変換する。この回転運動エネルギーは、前記回転翼を含む回転体の運動エネルギーである。原動機としては、例えば、ガスタービン(軸流タービン、ラジアルタービン)がある。被動機は、回転駆動されている回転翼が流体に圧力を作用させることで、回転運動エネルギーを流体に与える。この回転運動エネルギーは、前記回転翼を含む回転体の運動エネルギーである。被動機としては、例えば、圧縮機(遠心圧縮機、航空エンジンなどに設けられる軸流圧縮機、斜流圧縮機、横流圧縮機、ポンプ)がある。また、回転機械には、原動機と被動機の両方の機能を持つ過給機もある。
【0003】
回転体のアンバランスを計測するために、回転機械を試運転する。この時、回転体の回転運動により生じる振動を検出するとともに、回転体の回転角を検出する。検出した振動と回転角から、どの回転方向位置に、どれだけのアンバランス量が存在するかを求める。このようなアンバランス計測は、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−267907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来においては、アンバランス計測の精度が低くなる場合があった。その理由として、以下の事が考えられる。
(1)試運転時に、回転体を回転可能に支持する軸受に潤滑油を流すが、試運転開始時において、軸受と、軸受に供給される潤滑油との間に温度差がある。この温度差により、検出した振動に誤差が生じる可能性がある。
(2)回転機械の組み立て公差により、回転機械の動作が安定するまでの時間が、回転機械の個体毎に異なる。例えば、回転機械が過給機である場合には、内部エアの抜け具合や軸受の温度が、安定するまでの時間が過給機毎に異なる。その結果、アンバランスデータが回転機械の個体毎に異なる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、軸受と潤滑油との温度差に影響されず、かつ、回転機械の個体毎にアンバランスデータがばらつくことなく、高精度なアンバランスデータを取得できるアンバランス計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明によると、回転体のアンバランスを計測するアンバランス計測方法であって、
前記回転体を回転可能に支持体で支持した状態で、前記回転体を回転駆動させる試運転を複数回行い、
前記各試運転毎に、データ取得ステップ、ずれ量算出ステップ、および判断ステップを行い、
データ取得ステップでは、前記支持体の振動と前記回転体の回転角を検出し、かつ、該振動と回転角から前記回転体のアンバランスデータを算出し、
ずれ量算出ステップでは、前記試運転で得た前記アンバランスデータが、該試運転の直前に行った前記試運転で得た前記アンバランスデータからずれている量を表したずれ量を算出し、
前記判断ステップでは、前記ずれ量がしきい値以下であるかを判断し、
前記ずれ量が前記しきい値以下になるまで、前記試運転、前記データ取得ステップ、ずれ量算出ステップ、および判断ステップとを繰り返す、ことを特徴とする請求項1に記載のアンバランス計測方法が提供される。
【0008】
上述した本発明のアンバランス計測方法では、回転体の試運転を複数回行い、前記各試運転毎に、データ取得ステップとずれ量算出ステップと判断ステップを行い、データ取得ステップでは、アンバランスデータを算出し、ずれ量算出ステップでは、このアンバランスデータが、1つ前の試運転で得たアンバランスデータからどれだけずれているかを表したずれ量を算出し、判断ステップでは、該ずれ量がしきい値以下であるかを判断するので、アンバランスデータが安定したかを判断でき、これにより、精度の高いアンバランスデータを取得できる。具体的には次の通りである、
(1)従来では、回転体を回転可能に支持する軸受と、この軸受に供給される潤滑油との間に温度差がある場合には、正確なアンバランス量を計測できない。これに対し、上述の本発明では、前記ずれ量がしきい値以下である場合には、前記の温度差が無くなっていると判断でき、これにより、正確なアンバランスデータを取得できる。
(2)また、従来では、回転機械の組み立て公差により、回転機械の動作が安定するまでの時間が、回転機械の個体毎に異なるため、アンバランスデータが回転機械の個体毎にばらつく。これに対し、上述の本発明では、前記ずれ量がしきい値以下である場合には、回転機械の動作が安定したと判断でき、これにより、アンバランスデータが回転機械の個体毎にばらつくことを防止できる。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によると、前記判断ステップにおいて、前記ずれ量が前記しきい値以下であると判断した場合には、最後に行った前記試運転について算出したアンバランスデータに基づいて、前記回転体の一部を切削し、これにより、前記回転体のバランスを修正する。
【0010】
このように、前記ずれ量が前記しきい値以下となったら、最後に行った前記試運転のアンバランスデータを使用して、回転体のバランスを修正する。従って、高精度なバランス修正が可能となるとともに、回転機械の個体毎に、バランス修正精度に差が生じることを防止できる。
【0011】
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記アンバランスデータUは、

=G/E

で表され、ここで、Eは、前記回転体の影響係数であり、添え字nは、何回目の試運転であるかを示す番号であり、Gは、

=g(cosψ+jsinψ

で表され、jは、虚数単位であり、gは、前記振動のうち、前記回転体の1秒当たりの回転数と同じ振動数成分の振幅であり、ψは、前記回転角の基準値に対する前記振動数成分の位相差であり、
前記ずれ量ΔUは、

ΔU=|U−Un−1

で表される。
【0012】
このようなずれ量ΔUに基づいて、アンバランスデータUが安定したかどうかを判断できる。
【0013】
また、上述の目的を達成するため、本発明によると、回転体のアンバランスを計測するアンバランス計測装置であって、
前記回転体を回転可能に支持する支持体と、
前記支持体の加速度を検出する加速度センサと、
前記回転体の回転角を検出する角度センサと、
検出された前記加速度と前記回転角に基づいて、前記回転体のアンバランスデータを算出する演算器と、を備え、
前記回転体を回転駆動させる試運転が複数回行われ、前記演算器は、各試運転毎に前記アンバランスデータを算出し、
連続する2回の前記試運転の間における前記アンバランスデータのずれ量を算出するずれ算出部と、
前記ずれ量がしきい値以下であるかを判断する判断部と、を備える、ことを特徴とするアンバランス計測装置が提供される。
【0014】
上述した本発明のアンバランス計測装置では、演算器は各試運転毎に前記アンバランスデータを算出し、ずれ算出部は、連続する2回の前記試運転の間における前記アンバランスデータのずれ量を算出し、判断部は、前記ずれ量がしきい値以下であるかを判断するので、アンバランスデータが安定したかを判断でき、これにより、精度の高いアンバランスデータを取得できる。なお、試運転を連続して複数回行うことで、速やかにアンバランスデータを安定させることができる。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明によると、軸受と潤滑油との温度差に影響されず、かつ、回転機械の個体毎にアンバランスデータがばらつくことなく、高精度なアンバランスデータを取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のアンバランス計測方法に使用できるアンバランス計測装置を示す。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】振動データを示す波形である。
【図4】振動データを表す複素平面である。
【図5】アンバランスデータのずれ量を表す複素平面である。
【図6】本発明の実施形態によるアンバランス計測方法を示すフローチャートである。
【図7】本発明のアンバランス計測装置を過給機に適用した場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態によるアンバランス計測装置10を示す。図2は、図1のII−II矢視図である。アンバランス計測装置10は、支持体3、加速度センサ5、角度センサ7、演算器9、ずれ算出部11、判断部13、および切削装置15を備える。
【0019】
支持体3は、回転機械の回転体17を支持する。回転体17は、支持体3に支持された状態で、回転体17の軸Cを中心に回転可能である。なお、支持体3の一部は、回転機械の静止側部材により構成されてもよい。
【0020】
加速度センサ5は、支持体3に取り付けられる。加速度センサ5は、回転体17が回転している状態で、支持体3の加速度(即ち、振動)を検出し、該加速度を示す振動信号を演算器9に出力する。この加速度センサ5として公知のセンサを使用できる。
【0021】
角度センサ7は、回転体17の回転角を検出し、該回転角を示す回転角信号を演算器9に出力する。この回転角は、回転体17が1回転することでゼロ度〜360度まで変化する。即ち、回転角は、所定の始点となる回転体17の回転位相(始点回転角)から回転体17が回転した角度を示す。
【0022】
演算器9は、検出された前記加速度(即ち、前記振動信号)と前記回転角(即ち、前記回転角信号)に基づいて、振動データGを生成し、さらに、この振動データGから前記回転体17のアンバランスデータUを算出する。本実施形態では、後述のように回転体17を回転駆動する試運転を複数回行い、各試運転毎に、演算器9は、振動データGを生成し、アンバランスデータUを算出する。
なお、U、Gの添え字nは、何回目の試運転であるかを示す試運転の番号である。従って、例えば、Gは、n回目の試運転についての振動データであり、Uは、n回目の試運転で算出したアンバランスデータである。以下において他の記号に付される添え字nについても同様である。
【0023】
振動データGは、振動の振幅gと位相差ψからなる。図3は、振動の振幅gと位相差ψを示す。図3において、横軸は、角度センサ7により検出した回転体17の回転角を示し、縦軸は、加速度センサ5により検出された振動のうち1次振動の強度を示す。1次振動は、回転体17の回転速度と同じ周波数成分の振動である。即ち、1次振動振幅gnは、加速度センサ5による振動検出時における回転体17の回転速度(1秒間での回転数)と同じ周波数[Hz]の成分を、加速度センサ5が出力した前記振動信号から抽出した振動である。図3において、位相差ψは、回転角の基準値(図3の例では、ゼロ度)に対する1次振動のずれを示す。即ち、位相差ψは、前記基準値(基準回転角)に対する、1次振動の周期の始点となる回転角のずれを示す。このような振動データGを、複素数で表す。図4は、複素数で表した振動データGを示す。図4のように、1次振動の振幅gを大きさ(絶対値)とし、上述の位相差ψを偏角として、振動データGを複素数で表す。即ち、jを虚数単位として、振動データGを次式(1)で表す。

=g(cosψ+jsinψ) ・・・(1)
【0024】
アンバランスデータUを、次式(2)で表す。

=G/E ・・・(2)

ここで、Eは、影響係数である。
【0025】
影響係数は、予め取得されている。影響係数は、本発明のアンバランス計測方法の対象となる回転機械と同じ機種の回転機械(以下、基準回転機械という)について取得された複素数である。影響係数は、上述のアンバランス計測装置10を用いて、次のように取得されてよい。
まず、基準回転機械の回転体17について、前記式(1)の振動データ(以下、Gという)を取得する。
次に、基準回転機械の回転体17の所定位置に錘を取り付けた状態で、回転体17を回転駆動することで、前記式(1)の振動データ(以下、Gという)を取得する。
その後、演算器9が、次式(3)により影響係数Eを算出する。

E=(G−G)/M(cosφ+jsinφ) ・・・(3)

ここで、Mは、錘の換算質量である。換算質量Mは、M=r×mである。rは、回転体17の軸Cから錘の重心までの半径方向距離(即ち、軸Cに対する半径方向の距離)であり、mは、錘の質量である。一方、φは、錘の重心の回転方向位置(即ち、軸Cを回る方向の位置)を示す。この回転方向位置は、所定の回転方向位置に対する位相で表現されてよい。なお、錘は、例えばネジであって、回転体17には、このネジを取り付けるためのネジ孔が形成されていてよい。また、錘を使用する代わりに、回転体17の一部を切削することで、影響係数を取得してもよい。
【0026】
ずれ算出部11は、連続する2回の前記試運転の間における前記アンバランスデータUのずれ量ΔUを算出する。前記ずれ量ΔUは、次式(4)で表される。

ΔU=|U−Un−1

=|U(cosθ+jsinθ
−Un−1(cosθn−1+jsinθn−1)|

=|(Ucosθ−Un−1cosθn−1
+j(Usinθ−Un−1sinθn−1)|

={(Ucosθ−Un−1cosθn−1
−(Usinθ−Un−1sinθn−11/2 ・・・(4)

このΔUは、図5のように表される。
【0027】
判断部13は、前記ずれ量ΔUがしきい値T以下であるかを判断する。即ち、判断部13は、次式(5)が成り立つかを判断する。

ΔU=|U−Un−1|≦T ・・・(5)
【0028】
切削装置15は、回転体17の切削対象部17aを切削する切削工具15a(例えば、エンドミル)と、該切削工具15aを3次元的(例えば、図1の互いに直交するX軸方向、Y軸方向、Z軸方向)に移動させる駆動機構15bと、該駆動機構15bの動作を制御することで切削工具15aの位置を制御する位置制御部15cとを有する。位置制御部15cは、入力されるアンバランスデータに従って切削対象部17aを切削する。なお、切削対象部17aは、例えば、回転体17を構成する回転軸の先端に取り付けられたナットまたは円柱形部材である。
【0029】
図6は、本発明の実施形態によるアンバランス計測方法を示すフローチャートである。このアンバランス計測方法は、運転ステップS1、データ取得ステップS2、ずれ量算出ステップS3、および判断ステップS4などを有する。
【0030】
運転ステップS1では、前記回転体17を回転可能に支持体3で支持した状態で、前記回転体17を回転駆動する試運転を行う。なお、1回の試運転は、回転体17の回転速度を初期速度(例えばゼロ)から計測対象回転速度まで上昇させることである。従って、再び、運転ステップS1を行う場合には、回転体17の回転速度を、前記計測対象回転速度から初期速度以下にしてから、回転体17の回転速度を前記初期速度から前記計測対象回転速度まで上昇させる。
【0031】
データ取得ステップS2では、運転ステップS1により回転体17が前記計測対象回転速度で回転している状態で、前記支持体3の振動を加速度センサ5により検出し、前記回転体17の回転角を角度センサ7により検出する。さらに、データ取得ステップS2では、演算器9が、検出した振動と回転角から、上述の振動データGを算出し、前記回転体17の前記アンバランスデータUを算出する。なお、振動データGは、前記振動のうち、前記計測対象回転速度(1秒毎の回転数)と同じ周波数の成分の振動である。
【0032】
ずれ量算出ステップS3では、今回の前記試運転のアンバランスデータGが、該運転の直前に行った前記試運転のアンバランスデータGn−1からずれている量を表した前記ずれ量ΔUをずれ算出部11により算出する。ただし、図6において、スタートから試運転をまだ一回しか行っていない場合には、ステップS3,S4を省略してステップS6へ進む。
【0033】
前記判断ステップS4では、判断部13が、ずれ量算出ステップS3で算出したずれ量ΔUが前記しきい値T以下であるかを判断する。ずれ量ΔUがしきい値T以下である場合には、修正ステップS5へ進み、そうでない場合には、ステップS6へ進む。
【0034】
ステップS6では、試運転の回数nを1だけ増加させて、ステップS7へ進む。
【0035】
ステップS7では、試運転の回数nが、所定の限界回数nmaxを超えているかを判断する。超えている場合には、回転機械または支持体3に異常があるとして、本方法を終了する。一方、越えていない場合には、運転ステップS1へ進み、上述の運転ステップS1、データ取得ステップS2、ずれ量算出ステップS3、および判断ステップS4を再び行う。
【0036】
一方、修正ステップS5では、最後に行った前記試運転について算出した(即ち、最後のデータ取得ステップS2で算出した)前記アンバランスデータUを修正用アンバランスデータUとし、この修正用アンバランスデータUに基づいて、前記回転体17の一部を切削する。即ち、切削装置15が、アンバランスデータUが示す切削位置と切削量に基づいて、対象回転体17の切削対象部17aを切削する。このアンバランスデータUは、演算器9から位置制御部15cに入力される。位置制御部15cは、Uに基づいて駆動機構15bを制御することで切削工具15aを移動させ、これにより、切削対象部17aがUに従って切削される。
を、Aを絶対値とし、偏角をαとして、次式(6)で表す。

=A(cosα+jsinα) ・・・(6)

Aは、アンバランス換算質量を示し、A=r×mである。ここで、rは、対象回転体17の軸Cから切削位置までの半径方向距離であり、その値は任意に選択可能である。mは、切削する質量である。一方、αは、前記切削位置の回転方向位置を示す。従って、修正ステップS5において、切削工具15aは、rとαが示す半径方向位置と回転方向位置に位置決めされた状態で、切削質量がmになるまで軸Cの方向に移動する。この時、位置制御部15cは、mと、切削対象部17aの密度と、切削工具15の寸法と、必要であれば切削対象部17aの形状とに基づいて、切削工具15を軸Cの方向に移動させる距離を算出し、該距離に基づいて駆動機構15bを制御する。
【0037】
上述した実施形態のアンバランス計測と装置によると、次の効果(A)、(B)が得られる。
【0038】
(A)回転機械の試運転を複数回行い、前記各試運転毎に、データ取得ステップS2とずれ量算出ステップS3と判断ステップS4を行い、データ取得ステップS2では、アンバランスデータUを算出し、ずれ量算出ステップS3では、このアンバランスデータUが、1つ前の試運転で得たアンバランスデータUn−1からどれだけずれているかを表したずれ量ΔUを算出し、判断ステップS4では、該ずれ量ΔUがしきい値T以下であるかを判断するので、アンバランスデータUが安定したかを判断でき、これにより、精度の高いアンバランスデータを取得できる。
例えば、従来では、回転体17を回転可能に支持する軸受と、この軸受に供給される潤滑油との間に温度差がある場合には、正確なアンバランス量を計測できない。これに対し、上述の実施形態では、前記ずれ量ΔUがしきい値T以下である場合には、前記の温度差が無くなっていると判断でき、これにより、正確なアンバランスデータを取得できる。
また、従来では、回転機械の組み立て公差により、回転機械の動作が安定するまでの時間が、回転機械の個体毎に異なるため、アンバランスデータが回転機械の個体毎にばらつく。これに対し、上述の実施形態では、前記ずれ量ΔUがしきい値T以下である場合には、回転機械の動作が安定したと判断でき、これにより、アンバランスデータが回転機械の個体毎にばらつくことを防止できる。
【0039】
(B)前記ずれ量ΔUが前記しきい値T以下となったら、最後に行った前記試運転のアンバランスデータを使用して、回転体17のバランスを修正する。従って、高精度なバランス修正が可能となるとともに、回転機械の個体毎に、バランス修正精度に差が生じることを防止できる。
【0040】
[実施例]
図7は、上述の実施形態によるアンバランス計測装置10を、回転機械としての過給機20に適用した場合を示す。
【0041】
過給機20の回転体17は、図7に示すように、エンジンの排ガスにより回転駆動されるタービン翼21と、タービン翼21と一体的に回転することで圧縮空気をエンジンに供給するコンプレッサ翼23と、一端部にタービン翼21が結合され他端部にコンプレッサ翼23が結合される回転軸25と、を有する。また、過給機20は、回転体17を回転可能に支持する静止側部材27を有する。図7の例では、静止側部材27は、回転体17(回転軸25)を回転可能に支持する軸受27a,27bが内部に組み込まれる軸受ハウジングである。また、過給機20は、タービン翼21を内部に収容するタービンハウジング29と、コンプレッサ翼23を内部に収容するコンプレッサハウジング(図7では取り外されている)と、を備える。タービンハウジング29には、タービン翼21を回転駆動する流体を流す流路(スクロール)が形成されている。タービンハウジング29は、支持体3の内部に取り付けられる。タービン翼21を駆動する流体をタービンハウジング29の前記流路へ供給でき、タービン翼21を駆動した当該流体を支持体3の外部へ排出できるように支持体3が構成されている。
【0042】
また、支持体3は、タービンハウジング29を介して、または直接、軸受ハウジング27を支持する。図7では、回転体17の切削対象部17aは、コンプレッサ翼23側の端部にあり、この例ではナットである。図7では、角度センサ7と切削装置15は、共にコンプレッサ翼23側に設けられているが、角度センサ7を使用する時には、切削装置15の切削工具15aが角度センサ7に干渉しない位置へ退避し、切削装置15を使用する時には、角度センサ7が切削装置15に干渉しない位置へ退避する。
【0043】
図7において、アンバランス計測装置10の他の構成と動作は、上述の実施形態と同じであってよい。また、図7に示すアンバランス計測装置10を用いて、上述の実施形態によるアンバランス計測方法を過給機20の回転体17に対して行ってよい。
【0044】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0045】
3 支持体、5 加速度センサ、7 角度センサ、
9 演算器、10 アンバランス計測装置、11 ずれ算出部、
13 判断部、15 切削装置、17 回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体のアンバランスを計測するアンバランス計測方法であって、
前記回転体を回転可能に支持体で支持した状態で、前記回転体を回転駆動させる試運転を複数回行い、
前記各試運転毎に、データ取得ステップ、ずれ量算出ステップ、および判断ステップを行い、
データ取得ステップでは、前記支持体の振動と前記回転体の回転角を検出し、かつ、該振動と回転角から前記回転体のアンバランスデータを算出し、
ずれ量算出ステップでは、前記試運転で得た前記アンバランスデータが、該試運転の直前に行った前記試運転で得た前記アンバランスデータからずれている量を表したずれ量を算出し、
前記判断ステップでは、前記ずれ量がしきい値以下であるかを判断し、
前記ずれ量が前記しきい値以下になるまで、前記試運転、前記データ取得ステップ、ずれ量算出ステップ、および判断ステップとを繰り返す、ことを特徴とする請求項1に記載のアンバランス計測方法。
【請求項2】
前記判断ステップにおいて、前記ずれ量が前記しきい値以下であると判断した場合には、最後に行った前記試運転について算出したアンバランスデータに基づいて、前記回転体の一部を切削し、これにより、前記回転体のバランスを修正する、ことを特徴とする請求項1に記載のアンバランス計測方法。
【請求項3】
前記アンバランスデータUは、

=G/E

で表され、ここで、Eは、前記回転体の影響係数であり、添え字nは、何回目の試運転であるかを示す番号であり、Gは、

=g(cosψ+jsinψ

で表され、jは、虚数単位であり、gは、前記振動のうち、前記回転体の1秒当たりの回転数と同じ振動数成分の振幅であり、ψは、前記回転角の基準値に対する前記振動数成分の位相差であり、
前記ずれ量ΔUは、

ΔU=|U−Un−1

で表される、ことを特徴とする請求項1または2に記載のアンバランス計測方法。
【請求項4】
回転体のアンバランスを計測するアンバランス計測装置であって、
前記回転体を回転可能に支持する支持体と、
前記支持体の加速度を検出する加速度センサと、
前記回転体の回転角を検出する角度センサと、
検出された前記加速度と前記回転角に基づいて、前記回転体のアンバランスデータを算出する演算器と、を備え、
前記回転体を回転駆動させる試運転が複数回行われ、前記演算器は、各試運転毎に前記アンバランスデータを算出し、
連続する2回の前記試運転の間における前記アンバランスデータのずれ量を算出するずれ算出部と、
前記ずれ量がしきい値以下であるかを判断する判断部と、を備える、ことを特徴とするアンバランス計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−281744(P2010−281744A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136564(P2009−136564)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】