説明

アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法、及びその処理装置

【課題】担体に安定してアンモニア酸化菌を付着固定させることができ、かつ安定した亜硝酸化処理ができるアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法及びその装置を提供すること。
【解決手段】1)以下の工程を含む、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。カルシウム濃度制御工程:アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水中のカルシウム濃度を亜硝酸化工程の運転条件に応じて制御する工程、亜硝酸化工程:カルシウム濃度制御工程で得られた廃水存在下、担体にアンモニア酸化菌を固定化するとともに該廃水を亜硝酸化する工程、脱窒工程:亜硝酸化工程で得られた亜硝酸及びアンモニア性窒素を含む廃水を脱窒処理する工程。2)上記1)のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法を実施する装置であって、前記カルシウム濃度制御工程に用いられる装置は、該廃水のカルシウム濃度を測定する装置、カルシウムを除去する装置、M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置を備えた槽を含み、前記亜硝酸化工程に用いられる装置は、前記M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置と連絡した中和剤添加量制御装置、及び該中和剤添加量制御装置に連絡した中和剤注入装置を備えた亜硝酸化槽を含み、前記脱窒工程に用いられる装置は、脱窒槽を含む、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法、及びその処理装置に関するものであり、詳しくは、アンモニア性窒素含有の有機性及び無機性廃液の窒素除去に関するもので、カルシウムや窒素濃度の高いごみ浸出水、半導体工場や化学工場排水の窒素除去に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に浸出水の特徴としてNH−Nが高く、BOD等の有機物濃度が低い。従来、このような浸出水の窒素除去方式として、一般的に生物学的硝化脱窒法がよく用いられる。生物学的硝化脱窒法では、通常硝化プロセス及び脱窒プロセスより構成される。第1プロセスの硝化プロセスでは、原水中のアンモニア性窒素を好気状態の反応槽、通称硝化槽において先ずアンモニア酸化菌により亜硝酸性窒素に酸化し、続いて亜硝酸酸化菌により亜硝酸性窒素を硝酸性窒素に酸化する。硝化プロセス後段の脱窒プロセスではこの硝化槽からの処理液(硝化液)を嫌気状態の反応槽、通称脱窒槽に導入して、硝化液中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素を従属栄養性の脱窒菌により、電子供与体により、無害の窒素ガスに還元される。この電子供与体は通常処理対象液中の有機物が利用される。有機物の少ない場合、外部からメタノールを電子供与体として添加する必要がある。
【0003】
この生物学的硝化脱窒処理では、流入原水中のアンモニア性窒素を硝化槽に対し、亜硝酸性窒素を経て最終的に硝酸性窒素に酸化する。このため、硝化槽にアンモニア性窒素酸化に必要な酸素を供給する必要がある。酸素必要量は原水アンモニア性窒素の4.57倍と高く、その供給動力が無視できない。また、脱窒槽では、硝酸性窒素が電子受容体となる従属脱窒反応において、電子供与体となる有機物が必要となる。原水中に有機物が少ない場合、脱窒に必要な電子供与体となるメタノールを添加することが必要となる。安定した脱窒性能を得るため、メタノール添加量は通常、脱窒槽に流入する硝酸性窒素量の2.5〜3倍程度必要となる。このように硝化プロセスの曝気動力及び脱窒プロセスのメタノール添加量は莫大であり、ランニングコストが高い。これらの低減が硝化脱窒プロセスを普及させるために解決しなければいけない大きな課題となっている。
【0004】
近年、上記従属栄養脱窒菌による従来の脱窒機構と全く異なる独立栄養脱窒菌による脱窒処理法が開示されている(例えば、特許文献1)。これはアンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性微生物を利用し、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素を嫌気状態において反応させて窒素ガスに変換する嫌気性アンモニア酸化処理法(Anaerobic Ammonium Oxidation Process)、所謂ANAMMOX反応による窒素除去方法、またはアンモニア脱窒処理法である。下記式(1)はアンモニア脱窒の反応式を示す。式(1)に示すようにはアンモニア脱窒の場合、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素が直接反応するため、メタノール等の有機物添加が不要であり、薬品代が大きく低下する。また、脱窒反応ではNH−N 1モルに対し、NO−N 1.32モルの比率で反応するため、処理対象原水中アンモニア性窒素を従来の硝化プロセスのように全部亜硝酸性及び硝酸性窒素に酸化する必要が無く、その一部を亜硝酸性窒素に酸化すればよいこととなる。アンモニア脱窒反応から、原水NH−Nの57%を亜硝酸性窒素に酸化すれば、アンモニア脱窒原水のNO−N/NH−N比が1.32となり、式(1)に示すような反応が得られ、処理水にNH−N及びNO−Nがともになくなることが可能である。
1NH+1.32NO+0.066HCO+0.13H→1.02N+0.26NO+0.066CH15+2.03HO (1)
【0005】
上記のようにアンモニア脱窒を用いた脱窒処理として、先ず流入原水中のアンモニア性窒素の一部を硝化プロセスにおいて亜硝酸性窒素に酸化する必要がある。アンモニア脱窒反応で高率な脱窒性能を得るために、原水NH−Nの57%をNO−Nにし、43%のNH−Nを残留させておくことが望まれる。この場合、亜硝酸化処理水のNO−N/NH−N比が1.32となり、式(1)に示すアンモニア脱窒反応に必要なNO−N/NH−N比に一致する。
【0006】
原水中のNH−NがNO−Nに酸化されることに伴い、M−アルカリ度が消費される。1mg/L NH−Nの硝化で消費されるM−アルカリ度が7.1mg/Lとなる。原水のNH−Nに対するM−アルカリ度比率が低い場合、原水NH−Nの硝化比率が少なく、処理水NO−N/NH−N比が目標値の1.3を大きく下回ることとなる。逆に原水のNH−Nに対するM−アルカリ度が高い場合、硝化が進行し、処理水NH−N残留が少なくなり、処理水NO−N/NH−N比が目標値の1.3を大きく超えることとなる。従って、原水中のM−アルカリ度/NH−N比を予め適切な値にしておく必要がある。通常、M−アルカリ度/NH−Nが3.7〜4.4になるように調製しておくことが重要である。
【0007】
一方、近年、埋立処分場に埋め立てられる廃棄物の内、焼却灰や焼却残渣の比率が高くなっている。これに伴い、浸出水中のカルシウム濃度(Ca濃度)が増加している。Ca濃度が高いと浸出水中の炭酸イオン(CO2−)との反応で不溶性のCaCOとして析出する。水処理施設ではこの不溶性CaCO析出により、処理水配管の閉塞や散気装置の目詰まり等を引起し、装置トラブルの大きな要因となる。これに対応するため、Ca濃度の高い浸出水に対し、一般的に予めCaを除去する軟化処理装置を設けている。
【0008】
Ca除去の軟化処理方法は一般的に被処理水に炭酸ナトリウム(NaCO)を添加し、アルカリ添加により、pHを約10以上に高くすることで被処理水中のCaイオンを不溶性のCaCO汚泥として除去するものである。この軟化処理においてNaCOの添加量は反応式(2)に示すように理論的に被処理液Ca濃度に対し、2.65倍のNaCOが必要となる。一般的に処理水Ca濃度が100mg/L以下となれば、Caスケール析出が抑制されるので、軟化処理の処理水Ca濃度目標値を100mg/L以下とすることが多い。なお、実際の処理では処理水のCa濃度を100mg/L以下とするためには、NaCO添加量を理論値の1.05〜1.1倍、即ち被処理水Ca濃度の2.8〜2.9倍の添加が必要となる。
Ca2++NaCO=CaCO↓+2Na (2)
【0009】
Ca及び窒素の高い被処理水に対し、従来のCa及び窒素除去方法としてCa除去の軟化処理→硝化脱窒の順で行うことが開示されている。特許文献2の図1に開示されているように被処理水に対し、前処理槽において炭酸塩を添加し、CO2−が被処理水中のCa2+と反応して不溶性のCaCOとして析出されることが明示されている。さらにCa除去後の上澄水を中和処理し、後段の生物硝化脱窒槽に導入して従来の生物学的脱窒処理で窒素除去を行うことが開示されている。
【0010】
近年、Ca除去+窒素除去において 従来の窒素除去に替わり、前記の独立栄養脱窒菌による脱窒、即ちANAMMOX方式による脱窒を適用する処理法が開示されている。
【0011】
特許文献3では、図1に示すように被処理水に対し、Ca除去装置+亜硝酸化反応槽+ANAMMOX反応槽の順でCa及び窒素除去を行っている。
【0012】
一方、亜硝酸化処理プロセスにおいて、近年、硝化菌の付着できる生物担体を亜硝酸化槽に添加した担体方式が開示されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3460745号公報
【特許文献2】特開2002−355695号公報
【特許文献3】特開2007−125484号公報
【特許文献4】特開2010−253404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
Ca除去の軟化処理方法において、実機の場合、被処理水Caの測定を通常頻繁にせず、NaCO添加量は計画値のCa濃度に基いて添加量を決めることが多い。また、浸出水の場合、降雨量によりCa濃度が変化する。NaCO添加量が過剰の場合、軟化処理水のM−アルカリ度が高くなる。これらのことから、当初計画値のCa濃度に対して所定量NaCOを添加していることが多く、過剰添加の場合が多い。NaCO添加量が過剰の場合、軟化処理水のM−アルカリ度が高くなる。軟化処理水に炭酸源が多く残留し、必要に応じて酸添加による脱炭酸を行うため、ランコスの増加要因となるという問題があった。
【0015】
さらに浸出水のM−アルカリ度が通常高いことから、浸出水中M−アルカリ度由来の炭酸源も高pH領域においてCaと反応して不溶性のCaCOとなることから、浸出水中のM−アルカリ度、即ち炭酸源を考慮しないでNaCO必要量を添加すると、添加量がさらに過剰になり、ランコス増となるという問題があった。
【0016】
また、上記従来技術では、Ca除去手段の一つとして炭酸塩である炭酸ナトリウムや重炭酸ナトリウムの添加で不溶性のCaCOとして析出させて除去する方法が示されている。また、処理水Ca濃度を100mg/L以下とすることでCaによるスケール析出がなく、安定した処理が得られるとしている。しかし、炭酸塩の添加量については原水Ca等の濃度変動に対応できる適切な注入方法は示されていない。従って、炭酸塩の添加量が過剰となれば、処理水に炭酸塩が残留し、M−アルカリ度の増加となる。特に浸出水中にもM−アルカリ度に代表されるように溶存炭酸塩が多く存在していることから、浸出水中Ca除去において、M−アルカリ度由来の炭酸源を考慮しないで必要量の炭酸塩を添加すると処理水中の炭酸塩が大幅に残留して、M−アルカリ度の増加となるという問題があった。
【0017】
一方、Ca除去後の軟化処理水を対象とした亜硝酸化処理では、処理水のNO−N/NH−N比を後段のアンモニア脱窒反応に最適な1.32とするためには、軟化処理水のM−アルカリ度濃度がNH−N濃度に対して3.7〜4.4倍となるように調整することが必要である。従って、軟化処理水に炭酸塩の残留が多く、M−アルカリ度が高くなると調整に必要な酸添加量が増加することとなるという問題もあった。
【0018】
また、硝化槽に担体を添加し、担体表面に付着する硝化菌による硝化において、硝化性能は担体表面の付着硝化菌量に左右される。発明者らは担体と活性汚泥を混合した硝化槽において、Ca濃度の高い原水が硝化槽に流入した場合、活性汚泥において硝化菌の増殖が認められる一方、CaCO析出による硝化菌比率が低下し、さらに担体においては硝化菌の付着が殆ど認められないという問題を見出した。
【0019】
本発明は、上記問題を解消するためになされたものであり、その課題は、担体に安定してアンモニア酸化菌を付着固定させることができ、かつ安定した亜硝酸化処理ができるアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
1)以下の工程を含む、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。
カルシウム濃度制御工程:アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水中のカルシウム濃度を亜硝酸化工程の運転条件に応じて制御する工程
亜硝酸化工程:カルシウム濃度制御工程で得られた廃水存在下、担体にアンモニア酸化菌を固定化するとともに該廃水を亜硝酸化する工程
脱窒工程:亜硝酸化工程で得られた亜硝酸及びアンモニア性窒素を含む廃水を脱窒処理する工程
2)上記1)のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法を実施する装置であって、前記カルシウム濃度制御工程に用いられる装置は、該廃水のカルシウム濃度を測定する装置、カルシウムを除去する装置、M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置を備えた槽を含み、前記亜硝酸化工程に用いられる装置は、前記M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置と連絡した中和剤添加量制御装置、及び該中和剤添加量制御装置に連絡した中和剤注入装置を備えた亜硝酸化槽を含み、前記脱窒工程に用いられる装置は、脱窒槽を含む、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理装置。
【0021】
本発明は、アンモニア性窒素(NH−N)及びカルシウム含有廃水中のカルシウム濃度(Ca濃度)を、アンモニア酸化菌を固定化する担体を用いる亜硝酸化工程の運転条件に応じて制御するカルシウム濃度制御工程を設けたことを最大の特徴とする。
上記担体に硝化菌付着ができない原因の一つとしては、担体表面にCaCO析出で硝化菌の付着を困難にしたことによるものであることを見出した。特に亜硝酸化槽において、立上げ運転時、アンモニア酸化菌を優占的に増殖させるには、Ca濃度を低くすればCaCO析出の恐れがほぼなく、担体表面においてアンモニア酸化菌が安定して付着することができることを見出した。
一方、担体にアンモニア酸化菌が付着固定し、硝化が亜硝酸型硝化となった定常運転後、亜硝酸化槽において、Ca濃度が高くなっても、担体にCa析出がなく、アンモニア酸化菌が安定して付着できていることが実験的に確認できたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Ca及びアンモニア性窒素含有の被処理水に対し、担体を用いた亜硝酸化処理とアンモニア脱窒処理を組み合わせた処理プロセスによる窒素除去を行う場合において、被処理水に対して、予めCaを除去すれば、亜硝酸化槽内の担体にアンモニア酸化菌が短期間で付着固定でき、安定した部分亜硝酸化性能が得られる。また、Ca除去の軟化処理において、被処理水中の炭酸塩濃度を考慮した炭酸塩必要量の添加を行うことにより、炭酸塩の添加量が低減できる。炭酸塩添加量の適正化により、軟化処理水中に炭酸塩残留によるM−アルカリ度の増加がなく、該処理水のM−アルカリ度/NH−N比率を安定して部分亜硝酸化処理に必要な数値範囲に設定できるので、部分亜硝酸化処理が安定して得られる。さらに担体にアンモニア酸化菌が付着固定し、部分亜硝酸化型硝化に移行した後、M−アルカリ度律速による亜硝酸化処理条件において、軟化処理水のCa濃度を高く設定しても、担体表面にCaCO析出によるスケール生成がなく、アンモニア酸化菌が安定して付着固定できることから、軟化処理に伴う薬品添加量及び汚泥発生量が大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る方法及び装置の構成を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
初めに、Ca濃度制御工程について説明する。
Ca濃度制御工程は、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水(以下、単に原水ともいう)中のCa濃度を亜硝酸化工程の運転条件に応じて制御する工程である。
ここで、Ca濃度は、(株)共立理化学研究所製カルシウム分析用パックテスト、電極式Ca濃度計、キレート敵定法、フレーム原子吸光法、ICP発光分光分析法の何れかにより測定される値を意味する。
本工程では、測定されたCa濃度及び亜硝酸化工程の運転条件に応じてCa濃度が制御される。本発明において、該制御は、原水のCa濃度の測定のみをも包含するものであり、測定値が所定以下の場合には、軟化処理の必要はない。本工程で処理された原水を軟化処理水ともいう。ただし、原水に軟化処理を施してないものも便宜上、軟化処理水に含める。
該運転条件が、亜硝酸化工程の立ち上げ運転工程の場合には、Ca濃度が低くなるように制御する。Ca濃度が所定値以下の場合は、軟化処理の必要はない。一方、亜硝酸化工程の定常運転工程では、Ca濃度を高く維持でき、軟化処理の負荷を低減できる。
該軟化処理としては、Ca濃度を低くする制御手段を用いるのであれば、特に制限はない。例えば、凝集沈殿、凝集−膜分離、晶析、イオン交換、電気脱塩、電気泳動、等が挙げられる。
【0025】
本発明では、軟化処理は、NaCO添加量C(mg/L)を下記式(3)より算出して原水に添加して炭酸カルシウムの凝集沈殿を行い、原水のCa濃度を制御する処理が好ましい。
=(Cin−Cout)×a−C/1.06 (3)
ここで、Cin(mg/L):原水のCa濃度、Cout(mg/L):原水の目標Ca濃度(例えば、立ち上げ運転工程、定常運転工程)、C(mg/L):原水のM−アルカリ度濃度、aは係数である。本発明において、M−アルカリ度濃度は、pH4.8でのアルカリ消費量を求める滴定法により測定される値を意味する。
この軟化処理は、原水中の炭酸塩をCa除去に有効利用することが可能である。発明者らは浸出水のM−アルカリ度と添加炭酸塩(NaCO換算)濃度の関係を実験的に検討した結果、上式(3)に示す関係式が得られることを明らかにできた。
係数aは軟化処理のpHによって若干異なるが、Ca除去の好適なpHは9〜10、好ましくは9.0〜9.5である。係数aはpH9.0〜10.0において2.6〜2.9、pH9.0〜9.5においては2.8〜2.9とすることで安定したCa濃度制御を行うことができ、安定した目標水質が得られる。
【0026】
該軟化処理は、Ca濃度を100mg/L以下、又は100mg以上500mg/L以下に制御することが好ましい。Ca濃度を100mg/L以下に制御すると亜硝酸化工程の立ち上げ運転工程でのアンモニア酸化菌の担体への付着固定を促進することができる。また、100mg以上500mg/L以下に制御することにより、亜硝酸化工程の定常運転工程を安定して行うことができるとともに軟化処理の薬剤を低減できる。
【0027】
本発明のCa濃度制御工程に用いられる装置は、原水のCa濃度を測定する装置、カルシウムを除去する装置、M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置を備えた槽を含む。上記各装置は、制御装置と連絡させることができる。本発明において、NH−N濃度は、(株)共立理化学研究所製アンモニウム態窒素想定用パックテスト、NH−N電極測定法、中和滴定法の何れかにより測定される値を意味する。
該Ca濃度制御工程に用いられる装置は、Ca濃度測定及び軟化処理を行う槽とM−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定するための槽を独立に設けてもよいし、同一の槽としてもよい。後者の場合、M−アルカリ度濃度及びNH−N濃度の測定は、軟化処理の後に行うことが好ましい。
カルシウムを除去する装置は、軟化処理を行う槽と兼用され、かつカルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させるための薬品を槽へ注入するための注入装置を備えることができる。また、該注入装置は、Ca濃度を測定する装置と連絡した制御装置に連絡させてもよい。例えば、上記式(3)を用いて制御装置にて該薬品量を計算した結果を、注入装置に連絡し、注入装置から槽へ同量を投入するように構成することができる。
【0028】
次に亜硝酸化工程について説明する。
亜硝酸化工程は、カルシウム濃度制御工程で得られた廃水存在下(即ち、Ca濃度制御工程で得られた軟化処理水存在下)、担体にアンモニア酸化菌を固定化するとともに軟化処理水を亜硝酸化する工程である。ここで、Ca濃度制御工程で得られた軟化処理水とは、上記軟化処理を施されて得られる処理水、又は上記軟化処理を施されないままのものをいう。また、この亜硝酸化工程で得られた処理水を亜硝酸化処理水ともいう。
亜硝酸化工程は、立ち上げ運転工程、及び定常運転工程を含むことが好ましく、軟化処理水のCa濃度は上述のように制御されたものである。
また、亜硝酸化工程は、軟化処理水のM−アルカリ度/NH−N比を3.7〜4.4に制御することが好ましい。
【0029】
立ち上げ運転工程において、通常、アンモニア酸化菌を担体に付着固定させるためには反応槽内pHを高くし、遊離NH(以下FA)濃度を高く維持する。通常、亜硝酸化槽内のFAを1〜10mg/L、好ましくは2〜10mg/Lに維持すれば、短期間で担体にアンモニア酸化菌が優占的に付着固定するので安定した亜硝酸化処理が得られる。FAは反応槽のpH、NH−N濃度、水温の変化に大きく左右される。FAはpHが高いほど高くなるため、立ち上げ運転工程初期においてpHを最大8程度に高くすることがある。この条件において、Ca濃度を100mg/L以下にすればCaCO析出の恐れがほぼなく、担体表面においてアンモニア酸化菌が安定して付着することができる。
【0030】
一方、担体にアンモニア酸化菌が付着固定し、硝化が亜硝酸型硝化となった定常運転工程では、亜硝酸化槽において、M−アルカリ度律速による部分亜硝酸化処理が進行し、pHが7付近、若しくは7以下に低下する。この条件では亜硝酸化槽内のCa濃度が最大500mg/Lとなっても、担体にCa析出がなく、アンモニア酸化菌が安定して担体に付着し、維持される。
【0031】
上記のように担体を用いた亜硝酸処理では、担体にアンモニア酸化菌が付着固定するまでの立ち上げ運転工程においては軟化処理水Ca濃度を例えば、100mg/L以下とすれば、FA濃度が高く維持できるpH8前後でも担体の表面にCaCO析出によるスケール付着がなく、アンモニア酸化菌が安定して付着固定できる。アンモニア酸化菌が一旦付着固定し、亜硝酸型硝化に進行した場合には、定常運転工程となり、M−アルカリ律速に伴い、亜硝酸化槽pHが7前後に低下する。このpH条件では亜硝酸化槽内のCa濃度を最大500mg/LとしてもCaCO析出の可能性がほとんどない。即ち、Ca除去の軟化処理プロセスにおいて、式(3)に示すように炭酸塩添加量が大幅に低減できる上、CaCO析出の汚泥量も大幅に減少する。
【0032】
本発明の亜硝酸化工程に用いられる装置は、軟化処理水のM−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置と連絡した中和剤添加量制御装置、及び該中和剤添加量制御装置に連絡した中和剤注入装置を備えた亜硝酸化槽を含む。中和剤添加量制御装置は、該軟化処理水のM−アルカリ度及びNH−N濃度の情報を処理して亜硝酸化槽への中和剤添加量を計算するとともにその計算結果を中和剤注入装置に連絡し、同注入装置から同中和剤添加量を同槽へ注入させる機能を有するように構成できる。
【0033】
また、本発明では、亜硝酸化工程は、PO−P濃度を0.1〜1mg/Lに制御することが好ましい。
例えば、浸出水や工場廃水の場合、原水中にリン含有が少ない場合には、微生物増殖に必要となるリンを亜硝酸化槽に添加することが好ましい。亜硝酸化槽においてリン濃度が低いと担体にアンモニア酸化菌の付着固定が困難な傾向にある。
発明者らの実験検討結果では、軟化処理水のリン濃度をPO−Pとして0.1mg/L以上、好ましくは0.2mg/L以上とすれば、担体に付着固定するアンモニア酸化菌量及び活性の何れも安定することを確認できた。一方、処理水においてCa濃度が100mg/L程度存在するので、PO−Pが高いとpHの高い領域でCaとPO−Pとの反応でハイドロキシルアパタイト(以下HAP)主体とされる不溶性固形物が析出し、担体に付着し、アンモニア酸化菌の安定付着を阻害する。このため、リン添加量を適値に調製することが求められる。軟化処理水をPO−Pとして1mg/L以下、好ましくは、0.5mg/L以下とすれば、長期においてHAP析出は全くなく、安定した亜硝酸化処理性能が得られる。
【0034】
亜硝酸化処理水のPO−P濃度を0.1〜1mg/Lに制御する手段としては、亜硝酸化処理工程に、又は同工程から脱窒工程前までの間に亜硝酸化処理水のPO−P濃度を測定する装置を設け、上記と同様にこの装置をリン注入装置及び制御装置と連絡させることができる。例えば、制御装置にて該PO−P濃度を連絡し、注入装置から所定のPO−P濃度となるリン物質を軟化処理水または亜硝酸化槽に投入するように構成することができる。
【0035】
次に脱窒工程について説明する。
本発明の脱窒工程は、亜硝酸化工程で得られた亜硝酸及びアンモニア性窒素を含む廃水(即ち、亜硝酸化処理水)を脱窒処理する工程である。
亜硝酸化処理水は、亜硝酸化処理水中のNH−Nが電子供与体、NO−Nが電子受容体となり、アンモニア脱窒菌により脱窒処理される。この脱窒処理により得られた処理水をアンモニア脱窒処理水ともいう。
脱窒工程に用いられる装置は、亜硝酸化処理水を脱窒処理するための脱窒槽を含むことが好ましい。
【0036】
以下に本発明を、実施態様の一例を示す図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明はこれのみに限定されるものではない。
図1に廃棄物埋立最終処分場の浸出水を原水として、この原水に対して本発明による処理を実施する一例をフローシートにて説明する。
図1に示す如く、原水1が軟化処理槽2に導入されて、前記式(3)を用いてCaの除去を行う。軟化処理槽にはCa除去に必要な炭酸塩やアルカリ及び凝集用ポリマー等の添加薬品3を順次添加して原水中のCaを不溶のCaCOを含む汚泥として沈降濃縮させて濃縮汚泥を排出汚泥4として系外に排出する。
後述の実施例1の軟化処理は一つの軟化処理槽で凝集と混和反応及び固液分離を順に行うバッチ式であったが、一般的に炭酸塩添加とpH調製で凝集反応を行う軟化処理槽とポリマー添加で汚泥フロックを形成する混和槽、そして固液分離を行う沈殿池の順に連続処理しても同様な効果が得られる。
軟化処理槽2には、添加薬品3を原水1に注入する注入装置21、添加薬品3を原水1に混合、攪拌するための攪拌装置2b、原水のpHを測定するためのpH測定装置2c、Ca濃度、M−アルカリ度濃度等を測定するための濃度測定装置等を備えることができる。
【0037】
軟化処理槽2からの上澄液は軟化処理水5として原水槽6に導入される。この軟化処理水5は亜硝酸化槽原水7として亜硝酸化槽8に導入される。原水槽6は必ずしも必要ではなく、原水の水質変動が少ない場合や安定した流入量が得られる場合、特に原水槽を設けなくても良い。また、軟化処理水のpHが通常、高いので、必要に応じて酸を添加してpH調製することが望ましい。
原水槽6は、M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置6a、並びに所望の添加薬品を軟化処理水5に混合するための攪拌装置6bを備える。
【0038】
亜硝酸化槽8に添加直後の担体はアンモニア酸化菌が全く付着固定していないことから、硝化菌含有の種汚泥を添加した状態で原水7を供給して、ブロワー8d1及び散気管8d2を備えた散気装置8dにより曝気処理し、アンモニア酸化菌を付着固定させる立上げ運転を行う。この立上げ運転において亜硝酸化槽8に流入する原水7、即ち、軟化処理水5のCaを100mg/L以下に制御すれば、亜硝酸化槽内pH、水温が大きく変動してもCaCO析出が全くなく、担体表面に短期間でアンモニア酸化菌を安定して付着固定することができる。この立上げ運転ではFA濃度を1〜10mg/Lと高くするために、水温20℃以上、好ましくは25℃〜40℃とすれば、アンモニア酸化菌が数日間で付着する。また、pHを7.0以上、好ましくは7.5〜8.5に設定すれば、アンモニア酸化菌が優占的に増殖して担体に付着固定できる。これにより、硝化が亜硝酸型となり、NO−Nの生成がほぼ無くなる。上記のような立上げ運転条件で数日程度、最大2週間程度の通水処理を行うと担体にほぼ定常状態に近いアンモニア酸化菌が付着できる。
【0039】
アンモニア酸化菌が安定して付着すると硝化速度が上昇し、亜硝酸化槽8へ流入する原水7のアンモニア性窒素がアンモニア酸化菌の働きでNO−Nに変換される。それに伴って、M−アルカリ度が消費されてpHが低下する。該原水7のM−アルカリ度/NH−N比を予め3.7〜4.4に調製したことから、M−アルカリ度が100mg/L以下に低下しても亜硝酸化処理水NO−N/NH−Nがほぼ1.0〜1.5となる。M−アルカリ度の残留が少ないことから、これ以上硝化がほとんど進行せず、NO−N/NH−Nがほぼ1.0〜1.5のままとなる。
このように部分亜硝酸型硝化が安定して進行した場合、亜硝酸化槽pH低下とともにNO−Nも増加するので亜硝酸化槽内の遊離亜硝酸(以下FNA)濃度が増加する。FNAが高いほどアンモニア酸化菌が優占的に増殖するのでpHが7.5以下、好ましくは6.0〜7.2と制御されることでアンモニア酸化菌の優占増殖が維持される。
【0040】
上述の亜硝酸化型硝化の立上げ運転が完了すると、次いで、例えば、以下のような定常運転に移行される。M−アルカリ度律速によりpHが7.5以下に低下した処理段階において、軟化処理水Ca濃度を立上げ運転時の100mg/L以下から100〜500mg/L、特に亜硝酸化槽8のpH6.0〜7.2の場合、軟化処理水のCa濃度を300〜500mg/Lとしても、CaCO生成がないことから、担体にCaスケール付着による硝化性能低下がなく、安定した処理が得られる。これにより、軟化処理での炭酸塩添加量及びCaCO析出による汚泥発生量が大幅に減少し、処理コストの低減となる。
【0041】
上述のように、亜硝酸化槽8に導入される原水7のM−アルカリ度/NH−N比率が部分亜硝酸化処理に必要な3.7〜4.4となるように予め制御、調製することが望ましい。軟化処理では原水のCa及びM−アルカリ度に対応した炭酸塩量の添加を行っているため、M−アルカリ度の過剰がほぼ無いことから、一般的にM−アルカリ度不足による中和剤9を添加するケースが生じる。この方法として原水槽に所定量の中和剤9を添加しても、直接、亜硝酸化槽に添加しても同様な効果が得られる。
中和剤の添加量は、軟化処理水のM−アルカリ度濃度にもよるが、M−アルカリ度換算で通常、2000mg/L以下である。
中和剤9として、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムを用いることができる。また、必要に応じて硫酸、塩酸等の酸添加による調整も可能である。
亜硝酸化槽8は、原水槽6に備えた軟化処理水のM−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置6aと連絡した中和剤添加量制御装置8a、及び該中和剤添加量制御装置8aに連絡した中和剤注入装置8bを備えている。中和剤添加量制御装置8aは、該軟化処理水のM−アルカリ度及びNH−N濃度の情報を処理して亜硝酸化槽への中和剤9の添加量を計算するとともにその計算結果を中和剤注入装置8bに連絡し、同注入装置から同中和剤9の添加量を同槽8へ注入させる機能を有する。この中和剤注入装置8bは、ポンプと中和剤溶液槽等から構成することができる。また、亜硝酸化槽は、槽内の溶存酸素(DO)量を測定するための装置8e、槽内のpHを測定するための装置8fを備えることができる。
【0042】
亜硝酸化槽8では、同槽内のアンモニア酸化菌付着の担体10及び活性汚泥中のアンモニア酸化菌の働きで流入NH−Nの一部がNO−Nに酸化される。処理後の亜硝酸化槽内混合液が亜硝酸化槽分離スクリーン8cにて担体が分離されて亜硝酸化槽混合液8gが沈殿池11に流入し、汚泥沈降分離後、上澄液が亜硝酸化処理水12として得られる。また、沈殿池からの濃縮汚泥11aの一部は返送汚泥11bとして亜硝酸化槽に戻され、残余は余剰汚泥11cとする。
【0043】
亜硝酸化処理水12は直接、アンモニア脱窒槽13に導入してもよいが、水量やpH調製、さらにアンモニア脱窒に必要な炭酸源や栄養剤を添加するために中間調整槽14を設けて、添加薬品15を同注入装置14aより亜硝酸化処理水に添加混合すると水量及び水質が一層均一化される。
【0044】
この中間調整槽14からの流出水をアンモニア脱窒原水16としてアンモニア脱窒槽13に導入されると担体17に付着、固定したアンモニア脱窒菌により流入原水のNH−Nが電子供与体、NO−Nが電子受容体となり、脱窒処理される。脱窒処理後の混合液が分離スクリーン131により担体17が分離された処理液がアンモニア脱窒処理水18となる。
また、アンモニア脱窒槽13は、槽内の酸化還元電位(orp)量を測定するための装置13b、槽内のpHを測定するための装置13c、攪拌装置13d、添加薬品注入装置13eを備えることができる。
【0045】
亜硝酸化槽8にアンモニア酸化菌を付着固定できる担体10として、高分子担体を充填すれば、アンモニア酸化菌を安定して付着できることから、亜硝酸化槽において安定した亜硝酸化性能が得られる。亜硝酸化槽に充填する高分子担体としては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリルアミド、光硬化性樹脂等の合成高分子、カラギーナン、アルギン酸ソーダ等の高分子を用いたゲル担体、ポリエチレンやポリウレタン、ポリポロピレン等からなる流動担体が挙げられる。
該担体の形状としては球形、四角形、円筒形の何れも使用可能、有効径は曝気槽出口のスクリーンより安定して分離できる3〜10mmが好ましい。担体比重は曝気状態において均一に流動可能となる1.01〜1.05であるものが好ましい。また、担体充填量は均一に混合流動可能となる10〜30容量%(V%)であることが望ましい。
【0046】
アンモニア脱窒槽13にアンモニア脱窒菌を付着固定できる担体17として、高分子担体を充填すれば、アンモニア脱窒菌を安定して付着できることから、アンモニア脱窒槽13において安定した脱窒性能が得られる。アンモニア脱窒槽に充填する高分子担体としては、亜硝酸化に用いられるものと同様の材料の流動担体が挙げられる。
担体の形状としては球形、四角形、円筒形の何れも使用可能、有効径は脱窒槽出口のスクリーンより安定して分離できる3〜10mmが好ましい。担体として表面に微細孔径を多く有するもの、内部中空であるスポンジ、表面に無数の凹凸を有するものがアンモニア脱窒菌の付着固定が速く、短期間で高い脱窒性能が得られる。さらに長期間、脱窒槽内アンモニア脱窒菌を高濃度に維持できることから、安定した脱窒性能が得られる。
担体比重は嫌気状態において撹拌より均一流動できる1.01〜1.10であるものが好ましい。担体充填量は脱窒槽内において局部堆積のないように10〜30V%とすることが望ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例を説明するが、以下に制限されない。
(実施例1)
図1に示した方法及び装置構成に準じてアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理を行った。
表1に本実施例1における軟化処理の条件を示す。上述のように軟化処理は一つの軟化処理槽で凝集と混和反応及び固液分離を順に行うバッチ式で行った。
【0048】
【表1】

【0049】
軟化処理の条件は後段の亜硝酸化処理の立上げ運転期間と定常運転期間に対応した条件とした。表1は各期間の平均値を示した。
軟化処理のpH及びHRTはそれぞれ、9.0と20分であり、いずれの処理期間においても同じとした。立上げ運転期間では、軟化処理水Ca濃度目標値を100mg/Lとし、前記式(3)より求めたNaCO添加量を2040mg/Lとした。一方、亜硝酸化処理が立上げ運転後の定常運転期間では、軟化処理水のCa濃度目標値を300mg/Lに変更したため、NaCO添加量が1480mg/Lとなり、立上げ運転時より560mg/L少なくなった。
【0050】
表2は亜硝酸化処理槽の条件を示す。また、表3はアンモニア脱窒の処理条件を示す。
亜硝酸化処理の立上げ運転では、水温30℃、pH7.5〜8.0でNH−N負荷を平均1.0kg/m/dとし、15日間の連続通水を行った。
立上げ運転後の定常運転期間では水温20〜30℃、pH6.0〜7.5、NH−N負荷を平均2.5kg/m/dとし、180日間の連続通水処理を行った。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
亜硝酸化処理槽には平均粒径4.2mmのPEG担体を20V%充填した。原水7(軟化処理水)に対し、予めM−アルカリ度/NH−N比を求め、M−アルカリ度/NH−Nが約4.0となるように所定量のNaOH水溶液を亜硝酸化槽に注入した。亜硝酸化槽内DOが4mg/L以上となるようにブロワーの出力調整を行った。
アンモニア脱窒槽に対し、pHが7.5以下となるように硫酸注入による制御を行った。脱窒槽には平均粒径4mmのPVA担体を20V%充填した。また、アンモニア脱窒槽に流入する亜硝酸化処理水の無機炭素がほとんど無かったため、無機炭素源としてNaCO約250mg/Lを亜硝酸化処理水に添加した。
表4に実施例1において、亜硝酸化処理立上げ運転後の180日定常運転期間中、原水、軟化処理水、亜硝酸化処理水及びアンモニア脱窒処理水質の一例を示す。
【0054】
【表4】

【0055】
軟化処理では、表1及び表2に示す立上げ運転期間において、亜硝酸化槽のPEG担体にアンモニア酸化菌が既に付着したことから、軟化処理水のCa濃度は目標値300mg/L以下の250mg/Lとなった。
亜硝酸化処理では、軟化処理水のM−アルカリ度/NH−N比を4.0となるように亜硝酸化槽にNaOH注入による調整を行ったことから、NH−Nの約56%が亜硝酸化され、亜硝酸化処理水のNO−Nが140mg/Lとなり、NO−N/NH−N比が1.22とアンモニア脱窒必要量1.32に近い値が得られた。亜硝酸化処理水のNO−Nに対するNO−N比が98.6%となり、安定した亜硝酸化処理が得られた。
【0056】
アンモニア脱窒処理において、亜硝酸化処理水のNO−N/NH−Nが1.22とアンモニア脱窒反応に必要な比率にほぼ近い。その結果、脱窒処理水NH−N及びNO−Nがそれぞれ、12.3mg/L、8.9mg/Lといずれも低い。T−Nが52.2mg/Lとなり、原水T−Nに対する除去率が83.3%得られた。
【0057】
実施例1では、原水の不足M−アルカリ度を補給するため、亜硝酸化槽8に所定量のアルカリ剤を連続添加した。なお、アルカリ剤を原水槽6に直接添加しても同様な効果が得られる。また、アルカリ剤としてNaOHやNaCO及びNaHCO等何れを用いても同様な効果が得られる。また、この実施例では、亜硝酸化処理水を一旦中間調整槽に導入して水量やpH調製、さらにアンモニア脱窒に必要な炭酸源や栄養剤を添加混合後、アンモニア脱窒に導入したが、直接、アンモニア脱窒槽に導入しても同様な効果が得られる。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同一の原水を用い、Ca除去の軟化処理を行わず、直接、亜硝酸化処理、アンモニア脱窒処理の順に処理を行った。処理水量は表2に示す実施例1の定常運転期間と同様な水量で540L/dとし、NH−N負荷も同じく2.5kg/m/dとなった。
表5に比較例1の原水及び処理水水質結果の一例を示す。
表5に示すように原水に対するCa除去がないため、亜硝酸化処理では流入原水Caが1200mg/Lと高く、亜硝酸化処理水Caが1050mg/Lとなり、原水より約150mg/L低下した。これは亜硝酸化槽においてCaCOが生成したことによるものであり、担体表面にCaCO由来のスケール付着が見られた。この結果、亜硝酸化処理水のNH−Nが230mg/Lと高く、NO−N/NH−N比率が0.2と低く、亜硝酸化処理能力が低いことが示された。
上記のように亜硝酸化槽において安定した亜硝酸化処理ができず、亜硝酸化処理水のNH−Nが高く、硝化性能が低いことから、アンモニア脱窒槽ではアンモニア脱窒処理水のNH−Nが205mg/Lと高く、同処理水T−Nも242mg/Lと原水T−Nとほぼ同程度となり、窒素除去率が僅か18%程度であった。
【0059】
【表5】

【0060】
(比較例2)
原水は実施例1と同様なものを用いた。本比較例では、軟化処理において原水中のM−アルカリ度由来の炭酸源を考慮せず、Ca濃度に対し約2.8倍の炭酸ナトリウム(NaCO)を添加した。他の処理条件は実施例1と同一とした。
表6は軟化処理での原水及び軟化処理水の水質の一例を示す。
軟化処理のNaCO添加量が3360mg/Lとなり、実施例1の1480mg/Lより1880mg/L多くなっている。その結果、処理水Caが50mg/Lと低くなったが、M−アルカリ度が1850mg/Lと高く、炭酸塩が多く残留した。M−アルカリ度/NH−N比が6.1倍となり、部分亜硝酸化処理に必要となる4.0に調整するためには多量の酸添加が必要となった。また、これに伴うCaCOを含む汚泥の発生量は実施例1より500mg/L多い。
【0061】
【表6】

【0062】
(実施例2)
実施例1と同一な原水を用い、図1に示す実施例1と同様な処理フローで処理を行った。実施例2ではリンがほとんど無い軟化処理水に対し、PO−Pが約0.8mg/Lとなるように添加して徐々に亜硝酸化処理の立ち上げを行った。表7には亜硝酸化処理立ち上げ後、定常運転時の原水及び処理水の一例を示す。
表7に示すように軟化処理水に対し、リン酸の添加でPO−Pを約0.8mg/Lに調整し、亜硝酸化処理液PO−Pが0.6mg/Lとなった。その結果、亜硝酸化槽PEG担体に安定したアンモニア酸化菌が付着できたことから、亜硝酸化処理水のNH−Nが140mg/Lに低下し、NO−Nが171mg/Lに増加した。NO−N/NH−N比が1.22とアンモニア脱窒に最適値の1.32に近い値となった。さらにアンモニア脱窒処理水でNH−N及びNO−Nがそれぞれ、12.3mg/Lと8.9mg/Lに低下し、T−Nが52.2mg/Lとなり、良好な脱窒性能が得られた。
【0063】
【表7】

【0064】
(比較例3)
比較例3では、実施例2と同一な原水及び処理フローを用いた。だだし、実施例2と異なるのは軟化処理水に添加する燐酸濃度が実施例2より高く、PO−Pとして約3.0mg/Lとなった。表8に比較例3の原水及び各種処理水の水質の一例を示す。
軟化処理水に添加するPO−Pが3.0mg/Lと高く、Ca残留や高pHの影響により亜硝酸化処理槽のPEG担体にはHAP主体と思われるスケールが生成した。この結果、良好な亜硝酸化処理性能が得られず、処理水NH−Nが240mg/Lと高く、NO−Nが45mg/Lと低い。これによりアンモニア脱窒処理水のNH−Nが205mg/Lと高く、T−Nが244mg/Lの残留となった。
【0065】
【表8】

【0066】
Ca濃度制御工程で予め軟化処理水中のM−アルカリ度及びNH−N濃度を知ることで、亜硝酸化工程における軟化処理水への中和剤の添量を適切に制御することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…原水、2…軟化処理槽、2a…注入装置、2b…攪拌装置、2c…pH測定装置、3…添加薬品、4…排出汚泥、5…軟化処理水、6…原水槽、6a…M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置、6b…攪拌装置、7…亜硝酸化槽原水、8…亜硝酸化槽、8a…中和剤添量制御装置、8b…中和剤注入装置、8c…分離スクリーン、8d…散気装置、8d1…ブロワー、8d2…散気管、8e…DO測定装置、8f…pH測定装置、8g…亜硝酸化槽混合液、9…中和剤、10…担体、11…沈殿池、11a…濃縮汚泥、11b…返送汚泥、11c…余剰汚泥、12…亜硝酸化処理水、13…アンモニア脱窒槽、13a…分離スクリーン、13b…orp量測定装置、13c…pH測定装置、13d…攪拌装置、13e…添加薬品注入装置、14…中間調整槽、14a…添加薬品注入装置、15…添加薬品、16…アンモニア脱窒原水、17…担体、18…アンモニア脱窒処理水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。
カルシウム濃度制御工程:アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水中のカルシウム濃度を亜硝酸化工程の運転条件に応じて制御する工程
亜硝酸化工程:カルシウム濃度制御工程で得られた廃水存在下、担体にアンモニア酸化菌を固定化するとともに該廃水を亜硝酸化する工程
脱窒工程:亜硝酸化工程で得られた亜硝酸及びアンモニア性窒素を含む廃水を脱窒処理する工程
【請求項2】
前記亜硝酸化工程は、立ち上げ運転工程、及び定常運転工程を含む、請求項1のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。
【請求項3】
前記カルシウム濃度制御工程は、NaCO添加量C(mg/L)を下記式より算出して該廃水に添加する、請求項1又は2のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。
=(Cin−Cout)×a−C/1.06
ここで、Cin(mg/L):該廃水のカルシウム濃度、Cout(mg/L):該廃水の目標カルシウム濃度、C(mg/L):該廃水のM−アルカリ度濃度、aは係数である。
【請求項4】
前記亜硝酸化工程は、M−アルカリ度/NH−N比を3.7〜4.4に制御する、請求項1〜3のいずれか1項のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。
【請求項5】
前記亜硝酸化工程は、カルシウム濃度を100mg/L以下、又は100mg以上500mg/L以下に制御する、請求項1〜4のいずれか1項のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。
【請求項6】
前記亜硝酸化工程は、PO−P濃度を0.1〜1mg/Lに制御する、請求項1〜5のいずれか1項のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項のアンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理方法を実施する装置であって、前記カルシウム濃度制御工程に用いられる装置は、該廃水のカルシウム濃度を測定する装置、カルシウムを除去する装置、M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置を備えた槽を含み、前記亜硝酸化工程に用いられる装置は、前記M−アルカリ度濃度、及びNH−N濃度を測定する装置と連絡した中和剤添加量制御装置、及び該中和剤添加量制御装置に連絡した中和剤注入装置を備えた亜硝酸化槽を含み、前記脱窒工程に用いられる装置は、脱窒槽を含む、アンモニア性窒素及びカルシウム含有廃水の脱窒処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−236122(P2012−236122A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105444(P2011−105444)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(591030651)水ing株式会社 (94)
【Fターム(参考)】