説明

イオントラップ型周波数標準器及び出力周波数安定化方法

【課題】PMTの暗電流を低減し、背景雑音を低減できるイオントラップ型周波数標準器を提供することを目的とする。
【解決手段】イオントラップ型周波数標準器303は、容器17内の水銀イオン102を光ポンピングして水銀イオン102を基底状態の下準位へ集める光ポンピング手段15と、電磁波を照射して、基底状態の下準位に集まった水銀イオン103を上準位へ遷移させる電磁波照射手段13と、水銀イオン103が励起状態を経由して再び基底状態へ戻る際に放射される蛍光23の光強度を測定する受光手段14と、蛍光23の光強度が最大となるように電磁波の周波数を調整する制御手段と、電磁波照射手段13が照射する電磁波の周波数を出力周波数として出力する出力手段と、受光手段14の光電面を冷却する冷却手段31と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀イオンを使用したイオントラップ型周波数標準器及び出力周波数安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水銀イオントラップ型周波数標準器では、ミリ波と相互作用した水銀イオンが発する蛍光を受光手段である光電子増倍管(PMT)で観測し、水銀イオンの遷移周波数fを検出してミリ波の正確な周波数を決定している(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Sang K. Chung, John D. Prestage, Robert L. Tjoelker, Lute Maleki、“Buffer Gas Experiments in Mercury (Hg+) Ion Clock”.Proc. Of International Frequency Control Symposium, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図4のように、水銀イオンが発する蛍光を観測した蛍光信号にはPMTの暗電流等に起因する背景雑音が重畳している。背景雑音が蛍光信号に重畳すると、蛍光信号のピーク点が不明確になり、正確な水銀イオンの遷移周波数fを検出することが困難になる。このため、遷移周波数fを正確に検出するためには背景雑音を極小にすることが必要である。そこで、本発明は、PMTの暗電流を低減し、背景雑音を低減できるイオントラップ型周波数標準器及び出力周波数安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明に係るイオントラップ型周波数標準器は、受光手段であるPMTの受光面を冷却することとした。
【0006】
具体的には、本発明に係るイオントラップ型周波数標準器は、容器(17)内の水銀イオンを光ポンピングして前記水銀イオンを基底状態(1/2)の下準位(F=0)へ集める光ポンピング手段(15)と、上準位(F=1)と下準位の間のエネルギー差に相当する周波数の電磁波を照射して、前記光ポンピング手段で基底状態の下準位に集まった前記水銀イオンを基底状態の上準位に遷移させる電磁波照射手段(13)と、前記電磁波照射手段で上準位に遷移した前記水銀イオンを前記光ポンピング手段で再び光ポンピングし、該水銀イオンが励起状態を経由して再び基底状態となる際に放射される蛍光の光強度を測定する受光手段(14)と、前記受光手段で測定した前記蛍光の光強度が最大となるように前記電磁波照射手段が照射する前記電磁波の周波数を調整する制御手段と、前記電磁波照射手段が照射する前記電磁波の周波数を出力周波数として出力する出力手段と、前記受光手段の光電面を冷却する冷却手段(31)と、を備える。
【0007】
本発明に係る出力周波数安定化方法は、容器内の水銀イオンを光ポンピングして前記水銀イオンを基底状態の下準位へ集め、上準位と下準位間のエネルギー差に相当する周波数の電磁波を照射して前記水銀イオンを基底状態の上準位に遷移させ、前記水銀イオンが上準位から前記光ポンピング手段により再び励起状態を経由して基底状態に戻る際に放射される蛍光の強度を測定し、前記蛍光の光強度が最大となるように前記電磁波の周波数を調整し、前記電磁波の周波数を出力周波数として出力する際に、前記蛍光を受光する受光手段の光電面を冷却する。
【0008】
PMTの暗電流のほとんどはPMTの光電面から放出される熱電子が原因である。本発明は、光電面を冷却するものとしており、暗電流を大幅に減少させることが可能である。従って、本発明は、PMTの暗電流を低減し、背景雑音を低減できるイオントラップ型周波数標準器及び出力周波数安定化方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、PMTの暗電流を低減し、背景雑音を低減できるイオントラップ型周波数標準器及び出力周波数安定化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るイオントラップ型周波数標準器を説明する図である。
【図2】本発明に係るイオントラップ型周波数標準器の受光手段とその冷却手段を説明する図である。
【図3】水銀イオンエネルギー準位を説明する図である。
【図4】背景雑音が重畳した蛍光信号を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、具体的に実施形態を示して本発明を詳細に説明するが、本願の発明は以下の記載に限定して解釈されない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0012】
図1は、本実施形態のイオントラップ型周波数標準器303を説明する図である。イオントラップ型周波数標準器303は、容器17内の水銀イオン102を光ポンピングして水銀イオン102を基底状態の下準位へ集める光ポンピング手段15と、上準位と下準位の間のエネルギー差に相当する周波数の電磁波を照射して、光ポンピング手段15で基底状態の下準位に集まった水銀イオン103を上準位に遷移させる電磁波照射手段13と、電磁波照射手段13で上準位に遷移した水銀イオン102を光ポンピング手段15で再び光ポンピングし、水銀イオン102が励起状態を経由して再び基底状態となる際に放射される蛍光23の光強度を測定する受光手段14と、受光手段14で測定した蛍光23の光強度が最大となるように電磁波照射手段13が照射する電磁波の周波数を調整する制御手段(不図示)と、電磁波照射手段13が照射する電磁波の周波数を出力周波数として出力する出力手段(不図示)と、受光手段14の光電面を冷却する冷却手段31と、を備える。
【0013】
水銀源101は、容器17内に水銀蒸気を供給する。電子銃16は電子線22で水銀蒸気を水銀イオンにイオン化する。四重極トラップ18は、1〜2MHzのRF電圧が印加されており、水銀イオンを中心部に閉じ込める。図1では、この様子を水銀イオン102として示している。光ポンピング手段15は、波長194.2nmの励起光21を出力する水銀ランプである。
【0014】
光ポンピングについて、図3の水銀イオンのエネルギー準位の図で説明する。水銀イオンは2つのエネルギー状態、つまり基底状態1/2と励起状態1/2を持ち、基底状態は二つのエネルギー準位(F=0、1)から構成される。ここで、光ポンピング手段15から励起光21を照射すると、基底状態の準位F=1にあるイオンのみが励起状態へ遷移する。しかし、励起状態に遷移したイオンは、すぐに基底状態に戻る。このとき、イオンはそれぞれの準位(F=0、1)に均等に遷移する。そして、基底状態の準位F=1に戻ったイオンは、励起光21を吸収して再び励起状態へ上がる。一方、基底状態の準位F=0に戻ったイオンは、そのまま残る。これを繰り返すことで、全てのイオンは基底状態の準位F=0に集まる。
【0015】
十二重極トラップ19も、1〜2MHzのRF電圧が印加されており、水銀イオンを中心部に閉じ込めることができる。十二重極トラップ19は、光ポンピングされた水銀イオン102を四重極トラップ18から取り出し、中心部に閉じ込める。図1では、この様子を水銀イオン103として示している。
【0016】
電磁波照射手段13は、例えば、40GHz導波管である。電磁波照射手段13は、制御手段で周波数が設定された電磁波を水銀イオン103に照射する。このときの水銀イオン103の様子を図3の水銀イオンのエネルギー準位の図で説明する。光ポンピング直後の水銀イオン103は基底状態の準位F=0にある。水銀イオンの遷移周波数fである周波数40.5GHzの電磁波が照射されると、基底状態の準位F=0にあるイオンは同じ基底状態の準位F=1に遷移する。このとき、電磁波の周波数が40.5GHzからずれると基底状態の準位F=0から準位F=1へ遷移するイオンの量が少なくなる。
【0017】
続いて、四重極トラップ18は電磁波が照射された水銀イオン103を十二重極トラップ19から取り出し、再び中心部に閉じ込める。図1では、この様子を水銀イオン102として示している。四重極トラップ18では光ポンピング手段15から励起光21が照射されているので、水銀イオン102の基底状態の準位F=1にあるイオンは励起状態へ遷移することになる。そして、励起状態へ遷移したイオンは、すぐに蛍光23を出して基底状態へ戻る。
【0018】
受光手段14は、蛍光23の光強度を測定する。ここで、前述のように電磁波照射手段13が照射した電磁波の周波数が40.5GHzからずれていると基底状態の準位F=1にあるイオンが少ないので、蛍光23の光強度が弱くなる。そこで、制御手段は蛍光23の光強度が最大となるように電磁波の周波数を調整する。出力手段は、制御手段が調整した電磁波の周波数を出力周波数として出力する。イオントラップ型周波数標準器303は、このようにして、正確な40.5GHzの周波数(遷移周波数f)を出力することができる。なお、イオントラップ型周波数標準器303は、磁場の影響を低減するための磁場シールド11及びエネルギー状態の縮退を解くCコイル12も備えている。
【0019】
例えば、受光手段14はPMTとすることができる。図2はPTMである受光手段14を冷却する冷却手段31を説明する図である。冷却手段31は、PTMの光電面を冷却し、光電面から放出される熱電子を低減する。例えば、光電面は、冷却手段31の冷却により冷却しない場合より10℃低下する。このため、PTMが測定した測定信号から、熱電子による暗電流を大幅に低減することができる。この結果、イオントラップ型周波数標準器303は、背景雑音を極小にすることができ、遷移周波数fを正確に測定して出力することができる。
【0020】
以上のように、イオントラップ型周波数標準器303は、容器17内の水銀イオン102を光ポンピングして水銀イオン102を基底状態の下準位へ集め、上準位と下準位間のエネルギー差に相当する周波数の電磁波を照射して水銀イオン103を上準位へ遷移させ、水銀イオン103が上準位から励起状態を経由して再び基底状態経戻る際に放射される蛍光23の強度を測定し、蛍光23の光強度が最大となるように前記電磁波の周波数を調整し、前記電磁波の周波数を出力周波数として出力する際に、蛍光23を受光する受光手段14の光電面を冷却し、正確な遷移周波数fを安定して出力することができる。
【符号の説明】
【0021】
11:磁場シールド
12:Cコイル
13:電磁波照射手段
14:受光手段
15:光ポンピング手段
16:電子銃
17:容器
18:四重極トラップ
19:十二重極トラップ
21:励起光
22:電子線
23:蛍光
31:冷却手段
101:水銀源
102、103:水銀イオン
303:イオントラップ型周波数標準器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器(17)内の水銀イオンを光ポンピングして前記水銀イオンを基底状態の下準位へ集める光ポンピング手段(15)と、
上準位と下準位の間のエネルギー差に相当する周波数の電磁波を照射して、前記光ポンピング手段で基底状態の下準位に集まった前記水銀イオンを基底状態の上準位へ遷移させる電磁波照射手段(13)と、
前記電磁波照射手段で上準位へ遷移した前記水銀イオンを前記光ポンピング手段で再び光ポンピングし、該水銀イオンが励起状態を経由して再び基底状態へ戻る際に放射される蛍光の光強度を測定する受光手段(14)と、
前記受光手段で測定した前記蛍光の光強度が最大となるように前記電磁波照射手段が照射する前記電磁波の周波数を調整する制御手段と、
前記電磁波照射手段が照射する前記電磁波の周波数を出力周波数として出力する出力手段と、
前記受光手段の光電面を冷却する冷却手段(31)と、
を備えるイオントラップ型周波数標準器。
【請求項2】
容器内の水銀イオンを光ポンピングして前記水銀イオンを基底状態の下準位へ集め、上準位と下準位間のエネルギー差に相当する周波数の電磁波を照射して前記水銀イオンを上準位へ遷移させ、前記水銀イオンが上準位から励起状態を経由して再び基底状態へ戻る際に放射される蛍光の強度を測定し、前記蛍光の光強度が最大となるように前記電磁波の周波数を調整し、前記電磁波の周波数を出力周波数として出力する際に、
前記蛍光を受光する受光手段の光電面を冷却する出力周波数安定化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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