説明

イグニツシヨンキー装置

【目的】 不正な手段でキーシリンダのキーロータが回動されたとしてもエンジンが始動してしまうおそれがなく、車両の盗難防止機能の向上を図る。
【構成】 キーシリンダ2側に、キーロータへのキー5の差し込みを検出するキー検出スイッチ13と、一次コイル14とを設ける。キー5側には、キーロータへの差し込みに伴い、一次コイル14に流れる電流の変化に基づき誘導起電力が生ずる二次コイル28と、その起電力に基づき電波信号を発する発信回路を設ける。コード判別回路48は、電波信号を受信し、その信号が特定の信号であるときのみ、EFI(電子制御燃料噴射装置)51の作動を許容する。従って、特定の信号がない限り、キーロータを回動したとしてもエンジンを始動させることはできない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両の盗難防止機能の向上を図ったイグニッションキー装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に自動車においては、ステアリングコラム部分に設けられたイグニッション用のキーシリンダにキーを差し込み、キーシリンダのキーロータをキーにて回動操作することによりイグニッションスイッチを介してエンジンを始動させる構成となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来構成においては、例えば自動車の所有者以外の者がキーシリンダに正規のキー以外のものを差し込んでキーロータを回動させることでエンジンが始動されてしまうおそれがあった。
【0004】そこで、本発明の目的は、不正な手段でキーシリンダのキーロータが回動されたとしてもエンジンが始動してしまうおそれがなく、車両の盗難防止機能の向上を図り得るイグニッションキー装置を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明のイグニッションキー装置は、キーと、このキーが差し込まれて回動操作されるキーロータを備えたキーシリンダと、前記キーロータの回動に応じて状態が切り換えられるイグニッションスイッチと、前記キーロータへのキーの差し込みを検出するキー検出手段と、前記キーシリンダに設けられ、前記キー検出手段が検出状態で且つ前記イグニッションスイッチがオフ状態のときに通電される一次コイルと、前記キーに設けられ、そのキーが前記キーロータへ差し込まれた状態で、前記一次コイルに流れる電流の変化に基づき誘導起電力が生ずる二次コイルと、前記キーに設けられ、前記二次コイルに生ずる起電力に基づき特定の空中伝播信号を発する発信回路と、空中伝播信号を受信し、その受信した空中伝播信号が特定の信号であるときのみエンジンの始動を許容する受信信号判別手段とを具備する構成に特徴を有する。
【0006】
【作用】キーシリンダのキーロータへキーを差し込むと、キー検出手段によりそのキーの差し込みが検出され、これに基づきキーシリンダ側の一次コイルが通電される。この一次コイルの電流の変化に基づき、キー側の二次コイルに誘導起電力が生じ、この起電力に基づきキー側の発信回路から特定の空中伝播信号を発する。
【0007】発信回路から発せられた空中伝播信号は受信信号判別手段にて受信され、その受信された空中伝播信号が特定の信号であった場合に限りエンジンの始動が許容されるようになり、キーにてキーロータを回動操作することによりイグニッションスイッチを介してエンジンを始動させることができる。
【0008】このエンジンの始動時において、受信信号判別手段が空中伝播信号を受信しなかったり、或いは受信してもそれが特定の信号とは異なる内容の信号であった場合には、エンジンの始動が許容されず、従って、キーロータが回動されてもエンジンは始動されない。
【0009】
【実施例】以下、本発明の一実施例につき図面を参照して説明する。まず図2および図3において、シリンダ用ベース1は、自動車の図示しないステアリングコラム部分に設けられるもので、これにイグニッション用のキーシリンダ2が装着されている。
【0010】キーシリンダ2のロータケース3にはキーロータ4が回動可能に配設されており、そのキーロータ4は、「LOCK」位置でキー挿入口4aに対してキー5(図1参照)の抜き差しが可能で、差し込まれたキー5により「LOCK」位置と「START」位置との間で回動操作されるようになっている。
【0011】キーロータ4の後端部には該キーロータ4と一体的に回動するカムシャフト6が設けられ、このカムシャフト6の後端部に、該カムシャフト6の回動に応じて状態が切り換えられるイグニッションスイッチ7が設けられている。イグニッションスイッチ7は、キーロータ4の回動位置に応じて、「OFF」、「ACC」、「ON」、および「ST」の4つの状態に切り換えられる(図1参照)。
【0012】なお、キー5によりキーロータ4を「START」位置へ回動させた状態で、操作力を解除することに伴い、イグニッションスイッチ7はこれに設けられた図示しない復帰用のばねの付勢力により「ST」状態から「ON」状態に切り換えられると共に、カムシャフト6を介してキーロータ4が「START」位置から「ON」位置へ自動的に復帰回動するようになっている。
【0013】上記カムシャフト6部分にはステアリングロック装置8が設けられている。このステアリングロック装置8は、周知のように、カムシャフト6に設けられたカム9と、このカム9により移動される枠部材10と、この枠部材10を図2中矢印A方向へ付勢する圧縮コイルばね11と、枠部材10に引っ掛けられ枠部材10と一体的に移動するロックバー12とを備えていて、上記キーシリンダ2のキーロータ4が「LOCK」位置に回動され、かつキーロータ4からキー5が抜き取られることに伴い、ロックバー12の先端部が図示しないステアリングシャフト側の係合溝に係合することにより、ステアリングシャフトひいてはステアリングホイールをロックする構成となっている。
【0014】そして、上記キーシリンダ2の前部には、キーロータ4へのキー5の差し込みを検出するキー検出スイッチ13が設けられていると共に、一次コイル14が装着されている。
【0015】而して、その一次コイル14は、図1に示すように、キー検出スイッチ13がオン状態で、かつイグニッションスイッチ7が「OFF」状態のときに、AND回路15から出力される信号に基づき大電流供給回路16を介して大電流が供給され、また、キー検出スイッチ13がオン状態で、かつイグニッションスイッチ7が「ON」状態のときに、AND回路17から出力される信号に基づき微弱電流供給回路18を介して微弱電流が供給されるようになっている。
【0016】一方、上記キー5の基部には、図4および図5に示すように、発信装置の本体19が一体的に設けられている。この本体19は、キー5とインサート成形された第1のケース部20と、この第1のケース部20の開口部を覆うようにねじ21により装着された第2のケース部22とから構成されている。
【0017】本体19には、発信回路23(図6参照)を備えたプリント基板24、発信回路23を発信動作させるための押釦式のロック用スイッチ25およびアンロック用スイッチ26、発信回路23の電源としての二次電池27、並びに上記キーシリンダ2側の一次コイル14と対応する二次コイル28等が設けられている。上記発信回路23は、自動車におけるドアのロックおよびロック解除を遠隔操作するための信号を発するために用いられるものである。
【0018】ここで、キー5における本体19側の電気的構成について図6を参照して述べる。全波整流回路29は、ダイオード29aないし29dをブリッジ接続して構成され、その交流入力端子間には上記二次コイル28およびコンデンサ30の並列回路が接続され、直流出力端子間には定電圧ダイオード31およびコンデンサ32の並列回路が接続されている。さらに、コンデンサ32に並列に逆流阻止用ダイオード33,34および上記二次電池27の直列回路が接続され、ダイオード33のカソードは発信回路23の正電源入力端子23aに接続され、二次電池27の負端子は上記ロック用スイッチ25を介して発信回路23の負電源入力端子23bに接続されている。
【0019】上記発信回路23は、正,負電源入力端子23a,23bの他に信号入力端子23cを有しており、その正,負電源入力端子23a,23b間に直流電圧が印加された場合であって、信号入力端子23cの信号がロウレベルの時にはアンテナ35から空中伝播信号、この場合電波信号によってロック信号を出力し、信号入力端子23cの信号がハイレベルの時にはアンテナ35からアンロック信号を出力するようになっている。
【0020】しかして、この発信回路23の正,負電源入力端子23a,23b間には上記アンロック用スイッチ26および抵抗36の直列回路が接続されており、その抵抗36に並列にコンデンサ37,抵抗38およびダイオード39の直列回路が接続されて、抵抗38およびダイオード39の共通接続点は信号入力端子23cに接続されている。
【0021】さらに、アンロック用スイッチ26および抵抗36の共通接続点は、逆流阻止用ダイオード40を介してダイオード33のアノードに接続されていると共に、抵抗41を介してNPN形のトランジスタ42のベースに接続されている。そして、トランジスタ42のエミッタおよびコレクタはロック用スイッチ25の両端子に接続され、トランジスタ42のベース,エミッタ間には抵抗43が接続されている。
【0022】また、抵抗44および逆流阻止用ダイオード45はダイオード33のアノードと二次電池27の正端子との間に直列に接続され、もって充電回路46を構成するようになっている。
【0023】而して、ロック用スイッチ25がオン操作された場合には、発信回路23の正,負電源入力端子23a,23b間に二次電池27の直流電圧が印加されると共に、信号入力端子23cの信号がロウレベルとなり、これに基づき発信回路23はアンテナ45からロック信号を出力し、一方、アンロック用スイッチ26がオン操作された場合には、トランジスタ42がオンすることに基づき発信回路23の正,負電源入力端子23a,23b間に二次電池27の直流電圧が印加されると共に、信号入力端子23cの信号がハイレベルとなり、これに基づき発信回路23はアンテナ25からアンロック信号を出力するようになっている。
【0024】上記発信回路23から発せられる電波信号は、自動車の図示しないアンテナに受信される。その電波信号は、数十ビットのコード信号として構成され、そのコードの内容はロック信号とアンロック信号とでは異なり、且つロック信号とアンロック信号はそれぞれ自動車毎に特定のコードに設定されている。
【0025】アンテナにより受信された電波信号は図示しない判別回路に伝送される。判別回路は、受信した電波信号のコードがその自動車に定められた特定のコードであるか、且つそのコードがロック信号であるかアンロック信号であるかを判別し、特定のコードであった場合、ロック信号に対してはドアロック装置をロックさせ、アンロック信号に対してはドアロック装置をロック解除させる。
【0026】一方、上記キーシリンダ2の近傍には、図1R>1に示すように上記アンテナとは別個のアンテナ47が設けられており、このアンテナ47は上記発信回路23から発せられる電波信号を受信し、その受信した信号は受信信号判別回路としてのコード判別回路48に伝送される。このコード判別回路48は、受信した電波信号のコードがその自動車に定められた特定のコードであるかを判別し、特定のコードであった場合にその信号をAND回路49に出力する。
【0027】AND回路49の入力端子には、コード判別回路48の出力端子の他に、キー検出スイッチ13と、OR回路50の出力端子とが接続されている。OR回路50は、イグニッションスイッチ7が「ON」状態となるか、または、「ST」状態となったときにその信号をAND回路49に出力する而して、AND回路49は、キー検出スイッチ13、OR回路50、並びにコード判別回路48からそれぞれ信号があったときのみ、例えばEFI(電子制御燃料噴射装置)51の作動を許容することによりエンジンの始動を許容し、それ以外のときは、キーロータ4が回動されてもそのEFI51の作動を阻止することによりエンジンの始動を阻止するようになっている。
【0028】次に上記構成の作用を説明する。いま、運転者がエンジンを始動させるべく、キー5をキーシリンダ2のキー挿入口4aへ差し込んだとする。すると、キー検出スイッチ13がこれを検出してオンし、その検出信号がAND回路15に出力される。
【0029】このとき、キーシリンダ2へキー5を差し込んだ状態では、キーロータ4は「LOCK」位置にあり、イグニッションスイッチ7は「OFF」状態であるから、上記キー検出スイッチ13がオンすることに伴い、大電流供給回路16を介してキーシリンダ2側の一次コイル14に大電流が供給される。
【0030】そして、その一次コイル14に流れる電流が変化することに伴い、キーシリンダ2に差し込まれたキー5側の二次コイル28に誘導起電力が生ずるようになる。この誘導起電力の発生に伴いトランジスタ42がオンし、これにに基づき発信回路23の正,負電源入力端子23a,23b間に直流電圧が印加されると共に、信号入力端子23cの信号がハイレベルとなり、これに基づき発信回路23はアンテナ35からアンロック信号を一定時間出力する。
【0031】このようにして発信回路23からアンロック信号が発信されると、その電波信号は自動車側のアンテナ47により受信されてコード判別回路48に伝送される。コード判別回路48は、その電波信号が特定のコードであるか否かを判別し、電波信号が特定コードの信号であった場合には、その信号をAND回路49に出力する。
【0032】そして、運転者がキーシリンダ2に差し込まれたキー5によりキーロータ4を回動操作し、キーロータ4を「START」位置まで回動させると、イグニッションスイッチ7が「ST」状態となり、これに伴いAND回路49を介してEFI51の作動が許容されるようになり、もって図示しないスタータを介してエンジンが始動されるようになる。
【0033】なお、キーロータ4を「START」位置まで回動させてエンジンを始動させた後、キー5の回動操作力を解除すると、イグニッションスイッチ7は「ST」状態から「ON」状態に切り換えられると共に、キーロータ4は「START」位置から「ON」位置へ自動的に回動されて保持される。
【0034】ところで、エンジンを始動する場合において、運転者以外の者がエンジンを始動しようとして、キーシリンダ2のキー挿入口4aに異物を差し込んでキーロータ4を「START」位置まで回動させたとする。すると、イグニッションスイッチ7は「ST」状態に切り換えられることになる。
【0035】しかしながら、AND回路49にコード判別回路48から信号が入力されない限り、EFI51の作動が阻止されるから、例えキーロータ4が回動されたとしてもエンジンを始動させることはできない。また、仮にキーシリンダ2に不正なキーを差し込んで電波信号を発信させたとしても、その電波信号のコードが合致しない限り、やはりエンジンを始動させることはできない。従って、不正な手段でエンジンを始動させることはできず、盗難防止の効果は極めて大きい。
【0036】一方、前述したように、正規のキー5によりエンジンを始動して、エンジンが駆動している状態においては、イグニッションスイッチ7が「ON」状態に維持されている。この状態では、微弱電流供給回路18により上記大電流供給回路16の場合よりも小さな微弱電流が一次コイル14に供給されるようになる。
【0037】このように一次コイル14に微弱電流が供給される状態では、キー5側の二次コイル28に生ずる誘導起電力に基づき、二次電池27が充電される。従って、エンジンの駆動中は常に二次電池27が充電されることになるから、その二次電池27が消耗することを防止でき、よって電池が消耗して発信回路23が発信動作できなくなるという不具合を防止できる。
【0038】なお、上記した実施例では、エンジンの始動を許容するための特定の信号として、ドアのロック解除用の信号であるアンロック信号を利用したが、専用の信号を使用する構成としても良い。
【0039】また、空中伝播信号として電波信号を例示したが、それに代えて超音波信号や赤外線信号であっても良い。
【0040】
【発明の効果】以上の記述にて明らかなように、本発明によれば、キーをキーシリンダに差し込むことに伴いキー側の発信回路から空中伝播信号を発信させ、その空中伝播信号が特定の信号であるときのみエンジンの始動が許容される構成としたことにより、空中伝播信号が発せられなかったり、或いは発せられた信号が特定の信号とは異なる内容の信号であった場合には、キーシリンダのキーロータが回動操作されてもエンジンを始動させることができない。従って、不正な手段によってキーロータを回動したとしても、エンジンが始動してしまうおそれがなく、よって車両の盗難防止機能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図
【図2】キーシリンダ部分の断面図
【図3】キーシリンダ部分の正面図
【図4】キーの横断面図
【図5】キーの縦断面図
【図6】キー側の電気的構成図
【符号の説明】
2はキーシリンダ、4はキーロータ、5はキー、7はイグニッションスイッチ、13はキー検出スイッチ(キー検出手段)、14は一次コイル、23は発信回路、27は二次電池、28は二次コイル、51はEFIである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 キーと、このキーが差し込まれて回動操作されるキーロータを備えたキーシリンダと、前記キーロータの回動に応じて状態が切り換えられるイグニッションスイッチと、前記キーロータへのキーの差し込みを検出するキー検出手段と、前記キーシリンダに設けられ、前記キー検出手段が検出状態で且つ前記イグニッションスイッチがオフ状態のときに通電される一次コイルと、前記キーに設けられ、そのキーが前記キーロータへ差し込まれた状態で、前記一次コイルに流れる電流の変化に基づき誘導起電力が生ずる二次コイルと、前記キーに設けられ、前記二次コイルに生ずる起電力に基づき特定の空中伝播信号を発する発信回路と、空中伝播信号を受信し、その受信した空中伝播信号が特定の信号であるときのみエンジンの始動を許容する受信信号判別手段とを具備して成るイグニッションキー装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図6】
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【公開番号】特開平5−39767
【公開日】平成5年(1993)2月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−217953
【出願日】平成3年(1991)8月2日
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)