説明

インクジェットプリンタヘッド

【課題】 生産工程で実施される印字テストを不要にし、生産性を向上させるインクジェットプリンタヘッドを提供する。
【解決手段】 金属で形成され、インク滴が吐出されるノズル孔2aを中央側に配列するノズル板2と、該ノズル板2上に積層され、ノズル孔2aと連通するインク流路3aを有し、赤外線の透過を許容する材質を用いてインク流路3aがエッチング加工される流路板3と、該流路板3上に積層され、インク流路3a内のインク液を加圧する金属で形成される振動板4と、該振動板4を変形させる圧力を発生させる圧力発生手段とを備え、流路板3とノズル板2との積層状態で、インク流路3aはノズル孔2aとその積層方向で重なり合って連通する連通孔3cと、該連通孔3cの外側に形成される凹状の連通溝3dとを含み、ノズル板2は連通溝3dが形成される個所の流路板3には積層されずに、流路板3の連通孔3cを囲う近傍に積層される大きさで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生産工程中に内部のインク流路の検査工程を取り入れることを可能したインクジェットプリンタヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ等の画像記録装置として用いるインクジェット記録装置において使用するインクジェットプリンタヘッドは、インク滴が吐出されるノズルと、このノズルと連通されるインク流路と、このインク流路内のインクを加圧する圧力発生手段とを備えて、圧力発生手段を駆動することでインク流路内のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004―291515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなインクジェットプリンタヘッドのインク流路は、複数の不透明材(主にステンレスなどの金属)である流路板部材を積層して形成したものであるため、インク流路を形成した後ではインク流路の内部を目視で確認することができない。このため印字機能が正常であることを検査するために生産全数に対して印字テストが実施されており生産性を高めることができない課題を有している。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために鑑み、生産工程で実施される印字テストを不要にし、生産性を向上させるインクジェットプリンタヘッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタヘッドの主たる構成としては、金属で形成され、インク滴が吐出されるノズル孔をチャンネル列方向及びノズル列方向で、自身の中央側に配列するようにしたノズル板と、該ノズル板上に積層され、前記ノズル孔と連通するインク流路を有し、赤外線の透過を許容する材質を用いて前記インク流路がエッチング加工される流路板と、該流路板上に積層され、前記インク流路内のインク液を加圧するように変形可能な金属で形成される振動板と、該振動板を変形させる圧力を発生させる圧力発生手段と、を備え、前記インク流路は、前記流路板と前記ノズル板との積層状態で、前記ノズル孔とその積層方向で重なり合って連通する連通孔と、該連通孔よりも前記ノズル列方向の外側において当該流路板の前記振動板が積層される面に、前記連通孔と連通される凹状の連通溝とを含み、当該ノズル板は、前記連通溝が形成される個所の前記流路板には積層されずに、該流路板の連通孔を囲う近傍に積層される大きさで形成されることを特徴とする。
【0007】
上記主たる構成とすることにより、流路板が赤外線透過性材料で形成され、連通溝が形成される個所の流路板にはノズル板が積層されていないため、ノズル板の外側の領域に位置する連通溝が存在するその当該個所に赤外線を照射すると、流路板を透過して振動板に達した赤外線は振動板が金属製であることによりその赤外線が反射され、この反射された赤外線はさらに当該個所の流路板を透過することにより、流路板に形成されるインク流路を構成する連通溝内部を、その反射される赤外線を受光する赤外線カメラによって映し出して確認することできる。このため連通溝内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認できることとなる。これによって生産工程において必要とされていた全数実施している印字テストが不要となり生産コストの低減が可能となるインクジェットプリンタヘッドが提供できる。さらに、このようにヘッド内の可視化ができることにより、気泡が残らない(気泡が混入しても容易に排出できる)流路形状の開発に利用することができる。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタヘッドの主たる構成において、前記ノズル板が積層されない個所の前記流路板の板面を鏡面状態にすることもできる。これにより、主たる構成の上記効果に加え流路板がエッチング加工で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通溝内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部によって映し出された画像のノイズが低減され、連通溝内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタヘッドの主たる構成において、前記ノズル板が積層されない個所の前記流路板の板面には、前記積層方向において前記連通溝と重なり合わないように裏溝が形成されるようにすることもできる。これにより、主たる構成の上記効果に加え流路板としての反りなどの変形防止や接着剤の過剰分の逃がし機能を具有させることができる。また、流路板がエッチング加工で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通溝内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部によって映し出された画像のノイズが低減され、連通溝内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタヘッドの次の主たる構成は、赤外線の透過を許容する材質で形成され、インク滴が吐出されるノズル孔をチャンネル列方向及びノズル列方向で、自身の中央側に配列するようにしたノズル板と、該ノズル板上に積層され、前記ノズル孔と連通するインク流路を有し、赤外線の透過を許容する材質を用いて前記インク流路がエッチング加工される流路板と、該流路板上に積層され、前記インク流路内のインク液を加圧するように変形可能な金属で形成される振動板と、該振動板を変形させる圧力を発生させる圧力発生手段と、を備え、前記インク流路は、前記流路板と前記ノズル板との積層状態で、前記ノズル孔とその積層方向で重なり合って連通する連通孔と、該連通孔よりも前記ノズル列方向の外側において当該流路板の前記振動板が積層される面に、前記連通孔と連通される凹状の連通溝とを含む、ことを特徴とすることにより、赤外線撮像装置の赤外線発光部からインクジェットプリンタヘッドに照射される赤外線は、ノズル板が赤外線透過性材料で形成されていることにより、その当該個所の流路板を透過して振動板に達することとなる。この振動板に達した赤外線は、振動板が金属製であることにより、その赤外線が反射される。この反射された赤外線はさらに当該個所の流路板を透過することにより、流路板に形成されるインク流路を構成する連通孔と連通溝内部が赤外線カメラとしての撮像部によって映し出される。そして、この映し出されて得られた画像を確認することで、連通孔、連通溝内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認できることとなる。これによって生産工程において必要とされていた全数実施している印字テストが不要となり生産コストの低減が可能となるインクジェットプリンタヘッドが提供できる。さらに、このようにヘッド内の可視化ができることにより、気泡が残らない(気泡が混入しても容易に排出できる)流路形状の開発に利用することができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタヘッドの上記次の主たる構成において、前記ノズル板が積層される前記流路板の板面を鏡面状態にすることもできる。これにより、上記次の主なる構成の効果に加え流路板としての反りなどの変形防止や接着剤の過剰分の逃がし機能を具有させることができる。また、流路板がエッチング加工で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通孔、連通溝内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部によって映し出された画像のノイズが低減され、連通孔、連通溝内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明のインクジェットプリンタヘッドの上記次の主たる構成において、前記ノズル板が積層される前記流路板の板面には、前記積層方向において前記連通溝と重なり合わないように裏溝が形成されるようにすることもできる。これにより、次の主なる構成の上記効果に加え流路板としての反りなどの変形防止や接着剤の過剰分の逃がし機能を具有させることができる。また、流路板がエッチング加工で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通溝内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部によって映し出された画像のノイズが低減され、連通溝内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るインクジェットプリンタヘッドを使用する画像形成装置の概要図。
【図2】インクジェットプリンタヘッドのノズル列方向の要部断面図。
【図3】インクジェットプリンタヘッドのチャンネル列方向の要部断面図。
【図4】ノズル板の外観斜視図。
【図5】ノズル板のNi電鋳工法の説明図。
【図6】流路板の外観斜視図。
【図7】流路板の変形例を示す部分断面図。
【図8】振動板の外観斜視図およびA―A概略断面図。
【図9】圧電素子の外観斜視図。
【図10】マニホールドの外観斜視図。
【図11】金属製のノズル板を有するインクジェットプリンタヘッドのノズル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【図12】同上インクジェットプリンタヘッドのチャンネル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【図13】他のインクジェットプリンタヘッドのノズル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【図14】他のインクジェットプリンタヘッドのチャンネル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【図15】赤外線透過材質のノズル板を有するインクジェットプリンタヘッドのノズル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【図16】同上インクジェットプリンタヘッドのチャンネル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【図17】他のインクジェットプリンタヘッドのノズル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【図18】他のインクジェットプリンタヘッドのチャンネル列方向の赤外線撮像装置による検査例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンタヘッドを使用する画像形成装置の概要図、図2はインクジェットプリンタヘッドのノズル列方向の要部断面図、図3はインクジェットプリンタヘッドのチャンネル列方向の要部断面図である。
【0015】
図1において、インクジェットプリンタヘッド1は、プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ、これらの複合機等の各種の画像形成装置Aに使用され、並列に設けられる複数の印字チャンネルからインク滴を吐出する液体吐出ヘッドである。この画像形成装置Aは複数のインクジェットプリンタヘッド1をキャリッジBに搭載して、このキャリッジBを被記録媒体Cの搬送方向C1と直交する走査方向B1に主走査させるとともに、被記録媒体Cをインク画像の記録幅に応じて間欠的に搬送し、搬送と吐出させるインク滴の付着による記録を交互に繰り返すことによって被記録媒体Cにインク画像を形成するものである。
【0016】
なお、キャリッジBには、各インクジェットプリンタヘッド1に供給するインク液を貯留するインクタンクDと、該インクタンクDに接続されるインク供給管Eが配設され、該インク供給管Eを介してインク液が各インクジェットプリンタヘッド1に供給されるようになっている。
【0017】
各インクジェットプリンタヘッド1へ供給されるインク液は、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のインク液が使用されている。このインクジェットプリンタヘッド1としては、圧電素子を用いてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの、或いは、発熱抵抗体を用いてインク滴を吐出させるいわゆるバブル型のもの、静電力でインク滴を吐出させるいわゆる静電型のものなどを用いることができるが、本例ではピエゾ型のものを用いている。
【0018】
このインクジェットプリンタヘッド1は、図2、図3に示すように、並列に設けられる複数の印字チャンネルに対応し、チャンネル列方向Y及びノズル列方向Xで、自身の中央側に配列するようにした複数のノズル孔2aを有するノズル板2と、このノズル板2上に積層され、ノズル板2のノズル孔2aと連通するインク流路3aを有する流路板3と、この流路板3上に積層され、インク流路3a内のインク液に対し、自身の部分変形によって圧力を加える振動板4と、振動板4を部分変形させるための圧力を発生させる圧力発生手段としての圧電素子5と、流路板3の複数のインク流路3a内にインクタンクDからのインク液を供給する共通インク室6aを有するマニホールド6を備えている。
【0019】
ノズル板2は、図4に示すように、長方板状に金属で形成され、そのノズル孔2aは、並列に設けられる印字チャンネルにおいて、短手側をノズル列方向Xとし、長手側をチャンネル列方向Yとして、それらの方向に所定のピッチにて複数形成されている。なお、ノズル列方向Xは走査方向B1、チャンネル列方向Yは搬送方向C1に対応している。
【0020】
このノズル板2はNi電鋳工法で製作しており、その一例として図5に示すように、導体基板等からなる電鋳支持基板20上に、ノズル孔2aに対応する位置にレジストパターン21を成膜した後、Ni電鋳を行って、電鋳支持基板20上にノズル板2の厚みを有する電鋳めっき膜22を成膜した後、電鋳めっき膜22を電鋳支持基板20から剥離し、レジストパターン21を除去することによって厚み方向に貫通するノズル孔2aを有するノズル板2を得ることができる。なお、ノズル板2は10〜40μm程度の板厚として形成され、そのノズル孔2aは直径10〜35μm程度に形成されている。
【0021】
流路板3は図2、図3、図6に示すように、ノズル板2の短手方向の幅寸法W1よりも幅広となした幅寸法W2を有し、ノズル板2の長手方向の長さ寸法L1とほぼ同じ程度の長さ寸法L2を有する長方板状の流路板本体3bに、ノズル孔2aと連通するインク流路3aが形成される。
【0022】
この流路板3はノズル板2上に積層される。この積層状態は接着剤によって接合されており、この積層接合状態において、流路板3のインク流路3aは、ノズル板2のノズル孔2aとはその積層方向で重なり合うように連通する流路板本体3bの厚み方向に貫通形成した連通孔3cと、該連通孔3cと連続して連通するように、該連通孔3cよりもノズル列方向Xの外側において流路板3の振動板4が積層される面、すなわち、ノズル板2との接合側とは反対側の板面の表面3b1において、ノズル板2の短手方向の側縁2bより外側(図2の左右方向)の領域に、流路板本体3bの短手方向に所定の長さ寸法にて凹状に形成される連通溝3dとによって構成される。
【0023】
このように、ノズル板2は、連通孔3cを囲う近傍における流路板3の一部分に積層され、かつ連通溝3dが形成されている当該流路板3の一部分以外における他の部分に積層されない大きさで形成されるものとなる。換言すれば、ノズル板2は、連通溝3dが形成される個所の流路板3には積層されずに、その流路板3の連通孔3cを囲う近傍に積層される大きさで形成されることとなる。
【0024】
また、流路板3の変形例としては、図7に示すように、ノズル板2との接合側である流路板本体3bの板面である裏面3b2に、流路板3としての反りなどの変形防止や接着剤の過剰分の逃がしのために、凹状の裏溝3eを形成することもできる。この裏溝3eは流路板本体3bの厚み方向(上記積層方向と同方向)において、表面3b1側に形成される連通溝3dと重なり合わないように変位させて形成されている。
【0025】
このインク流路3aや、裏溝3eを有する上記の複数の例における流路板3は、単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板、SOI基板などのシリコン基板等を用いて、リソグラフィ技術を使ったウエットエッチング加工法により形成されている。
【0026】
また、流路板3はウエットエッチング加工法により形成されるために、このような加工では流路板3の表面における局所的な化学反応を制御できないため光学的な鏡面が得られないこともあって、少なくとも図2、図3、図6に示す流路板3にあっては、ノズル板2との接合側である流路板本体3bの裏面3b2を鏡面加工によって光学的な鏡面状態とすることが望ましい。
【0027】
また、図7に示す流路板3にあっては、ノズル板2との接合側である流路板本体3bの裏溝3eを除く裏面3b2を鏡面加工によって光学的な鏡面状態とすることが望ましい。
【0028】
この鏡面の表面粗さをJIS・B0651で規定されるRy(最大高さ)、すなわち、基準長さにおける最低谷底から最大山頂までの高さとした。そして、可視光線の長波長端の0.76〜0.83μmを下限とし、上限は1mmぐらいまでの波長範囲の赤外線による乱反射がしない表面粗さとしている。赤外線には、一般的に波長が2.5μm以下の近赤外線、波長が2.5〜25μmの中赤外線、波長が25μm以上の遠赤外線に分けられる。本例ではこれらを含んだ赤外線を用いており、具体的な一例として、波長が1.127μm以上の赤外線の波長領域を使用しているため、その約1/8以下のRy0.14μm以下の表面粗さを持つ鏡面であれば良い。この表面粗さによって後述する流路可視化に際し、20μm程度の気泡を確認することが可能となる。
【0029】
図2、図3における流路板3上に積層される振動板4は、2層構造の金属プレートに樹脂をコートして形成した積層材料から加工したもので、例えば金属プレートにはステンレス鋼と樹脂にはポリイミドを使って積層材料としている。加工方法は、プレス加工法とウエットエッチング加工法で作製している。
【0030】
この振動板4は、図8に示すように、金属層としての薄膜層4aと、厚膜層4bとの2層膜で構成され、薄膜層4aは1〜5μm程度の膜厚、厚膜層4bは10〜30μm程度の膜厚であり、振動板4全体としては10〜40μm程度の板厚として形成される。
【0031】
そして、振動板4は、圧電素子5が接合される接合部4cと、圧電素子5からの圧力を複数のインク流路3a内のインク液に伝播させるための複数のダイアフラム部4dと、圧電素子5が振動板4に干渉しないように形成された凹部4eとを備えている。また、振動板4には、マニホールド6の共通インク室6a内のインク液を流路板3のインク流路3aに導くためのインク供給孔4fが形成されている。
【0032】
図2、図3に示すように、この振動板4には、各インク流路3aに対応して、その流路内のインク液を加圧するための圧力発生手段である電気機械変換素子としての積層型の圧電素子5が接合されている。この圧電素子5は金属あるいはセラミックスなどの高剛性材料で形成したベース基板7に接合されている。
【0033】
図9は圧電素子5を、図2、図3とは上下方向を反対にして示している図である。この図9において、圧電素子5は圧電部材5aにハーフカットのダイシングによるスリット加工を所定ピッチで施すことで櫛歯状に分割して、圧電素子5と支柱部8を交互に形成するようにしている。そして、図3に示すように圧電素子5はインク流路3aと対応させ、支柱部8はインク流路3a間の隔壁部3fに対応させるように設けられている。ここでは、支柱部8も圧電部材5aから形成されるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱部材となる。
【0034】
また、圧電素子5の電極にFPCケーブル9を介して駆動信号を供給するようにしている。圧電素子5の伸縮によりインク流路3a内を収縮、膨張させる。これは圧電素子5に駆動信号が印加され充電が行われると伸長し、また圧電素子5に充電された電荷が放電すると反対方向に収縮することによる。
【0035】
図2、図3に示すマニホールド6は、振動板4の外周部に接着剤にて接合している。このマニホールド6は、図10に示すように共通インク室6aとなる凹部、この共通インク室6aに外部(インク供給管E)からインク液を供給するためのインク供給路6bが形成されている。このマニホールド6は、例えばエポキシ系樹脂、或いはポリフェニレンサルファイトを用いて射出成形により形成している。
【0036】
次に、本発明に係るインクジェットプリンタヘッド1の生産工程に含ませる内部のインク流路3aの検査について説明する。本検査はインクジェットプリンタヘッド1のインク流路3a内の状態を赤外線を利用して作業者の目視で確認できるように可視化するものである。
【0037】
その検査の一例としては、図2、図3に示すインクジェットプリンタヘッド1にあっては、図11、図12に示すように、インクジェットプリンタヘッド1のインク流路3a内の状態を赤外線撮像装置10を使用して確認する。この赤外線撮像装置10はインクジェットプリンタヘッド1のノズル板2の下方に配設される赤外線を発する赤外線発光部11と、任意の撮像倍率に設定可能な赤外線カメラとしての撮像部12とを備えている。
【0038】
赤外線撮像装置10の赤外線発光部11からインクジェットプリンタヘッド1に照射される赤外線は、ノズル板2が金属製であっても、その短手方向の幅寸法W1よりも幅広となした幅寸法W2によって流路板3が赤外線透過性材料で形成され、すなわち、ノズル板2として連通溝3dが形成される個所の流路板3には積層されずに、その流路板3の連通孔3cを囲う近傍に積層される大きさであるため、ノズル板2の短手方向の側縁2bより外側の領域に、流路板3の連通溝3dが位置することにより、その当該個所の流路板3を透過して振動板4に達することとなる。この振動板4に達した赤外線は、振動板4が金属製であることにより、その赤外線が反射される。この反射された赤外線はさらに当該個所の流路板3を透過することにより、流路板3に形成されるインク流路3aを構成する連通溝3d内部が赤外線カメラとしての撮像部12によって映し出される。そして、この映し出されて得られた画像を確認することで、連通溝3d内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認できることとなる。
【0039】
さらに、インクジェットプリンタヘッド1の流路板3の板面である裏面3b2を鏡面加工したものである場合、流路板3がウエットエッチング加工法で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通溝3d内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部12によって映し出された画像のノイズが低減され、連通溝3d内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【0040】
その検査の他の例としては、図7に示す流路板3のように、その厚み方向において、表面3b1側に形成される連通溝3dと重ね合わさらないように変位させて裏溝3eを形成している図13、図14に示すインクジェットプリンタヘッド1にあっては、振動板4で反射された赤外線が流路板3を透過し、かつ、撮像部12に入射する赤外線の経路内に裏溝3eが位置しないので、裏溝3e表面の凹凸による赤外線の乱反射の影響がない状態で撮像部12によって映し出された画像を得ることができる。
【0041】
さらに、この例に対して、インクジェットプリンタヘッド1の流路板3の板面である裏面3b2を鏡面加工したものとする場合、流路板3がウエットエッチング加工法で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通溝3d内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部12によって映し出された画像のノイズが低減され、連通溝3d内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【0042】
次に、インクジェットプリンタヘッド1の変形例としては、上述のノズル板2の幅寸法W1を、流路板3の幅寸法W2とほぼ同じ程度とし、ノズル板2と流路板3とを全面積層状態にするようにできる。また、この例によるノズル板2の材質としては、赤外線の透過を許容するシリコン基板、樹脂、ガラスなどで形成するものである。
【0043】
この具体例として、図11、図12に示すノズル板3の幅寸法W1を流路板3の幅寸法W2とほぼ同じ程度するとともに、材質を金属製から赤外線の透過を許容する材質に変更したたインクジェットプリンタヘッド1の変形例を、図15、図16に示す。この例による他の構成部材について、上述の他の実施の形態における構成部材と同様な部材は、図中に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0044】
また、同様に図13、図14に示すノズル板3の幅寸法W1を流路板3の幅寸法W2とほぼ同じ程度にしたインクジェットプリンタヘッド1の変形例を、図17、図18に示すものとする。なお、この例による他の構成部材について、上述の他の実施の形態における構成部材と同様な部材は、図中に同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0045】
次に、インクジェットプリンタヘッド1のインク流路3a内の状態を赤外線を利用して作業者が目視で確認するように可視化する検査の一例として、図15、図16に示すインクジェットプリンタヘッド1にあっては、赤外線撮像装置10の赤外線発光部11からインクジェットプリンタヘッド1に照射される赤外線は、ノズル板2が赤外線透過性材料で形成されていることにより、その当該個所の流路板3を透過して振動板4に達することとなる。この振動板4に達した赤外線は、振動板4が金属製であることにより、その赤外線が反射される。この反射された赤外線はさらに当該個所の流路板3を透過することにより、流路板3に形成されるインク流路3aを構成する連通孔3cと連通溝3d内部が赤外線カメラとしての撮像部12によって映し出される。そして、この映し出されて得られた画像を確認することで、連通孔3c、連通溝3d内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認できることとなる。
【0046】
さらに、インクジェットプリンタヘッド1の流路板3の裏面3b2を鏡面加工したものである場合、流路板3がウエットエッチング加工法で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通孔3c、連通溝3d内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部12によって映し出された画像のノイズが低減され、連通孔3c、連通溝3d内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【0047】
その検査の他の例としては、図17、図18に示すインクジェットプリンタヘッド1にあっては、振動板4で反射された赤外線が流路板3を透過し、かつ、撮像部12に入射する赤外線の経路内に裏溝3eが位置しないので、裏溝3e表面の凹凸による赤外線の乱反射の影響がない状態で撮像部12によって映し出された画像を得ることができる。
【0048】
さらに、この例に対して、インクジェットプリンタヘッド1の流路板3の板面である裏面3b2を鏡面加工したもので構成する場合、流路板3がウエットエッチング加工法で形成されることによる、その表面の凹凸個所での赤外線の乱反射の影響を、その連通孔3c、連通溝3d内部の表面のみに抑えることができるため、赤外線カメラとしての撮像部12によって映し出された画像のノイズが低減され、連通孔3c、連通溝3d内部における気泡や塵、埃などの異物の有無が確認しやすくなる。
【0049】
上述のインクジェットプリンタヘッド1の構成は例示であり、本発明を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能であり、実施の形態の各構成要素を任意に組み合わせる形で構成することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 インクジェットプリンタヘッド
2 ノズル板2
2a ノズル孔
2b 側縁
3 流路板
3a インク流路
3c 連通孔
3d 連通溝
3e 裏溝
4 振動板
5 圧電素子
6 マニホールド
X ノズル列
Y チャンネル列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属で形成され、インク滴が吐出されるノズル孔をチャンネル列方向及びノズル列方向で、自身の中央側に配列するようにしたノズル板と、
該ノズル板上に積層され、前記ノズル孔と連通するインク流路を有し、赤外線の透過を許容する材質を用いて前記インク流路がエッチング加工される流路板と、
該流路板上に積層され、前記インク流路内のインク液を加圧するように変形可能な金属で形成される振動板と、
該振動板を変形させる圧力を発生させる圧力発生手段と、を備え、
前記インク流路は、前記流路板と前記ノズル板との積層状態で、前記ノズル孔とその積層方向で重なり合って連通する連通孔と、該連通孔よりも前記ノズル列方向の外側において当該流路板の前記振動板が積層される面に、前記連通孔と連通される凹状の連通溝とを含み、
当該ノズル板は、前記連通溝が形成される個所の前記流路板には積層されずに、該流路板の連通孔を囲う近傍に積層される大きさで形成されることを特徴とするインクジェットプリンタヘッド。
【請求項2】
前記ノズル板が積層されない個所の前記流路板の板面を鏡面状態にしたことを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタヘッド。
【請求項3】
前記ノズル板が積層されない個所の前記流路板の板面には、前記積層方向において前記連通溝と重なり合わないように裏溝が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェットプリンタヘッド。
【請求項4】
赤外線の透過を許容する材質で形成され、インク滴が吐出されるノズル孔をチャンネル列方向及びノズル列方向で、自身の中央側に配列するようにしたノズル板と、
該ノズル板上に積層され、前記ノズル孔と連通するインク流路を有し、赤外線の透過を許容する材質を用いて前記インク流路がエッチング加工される流路板と、
該流路板上に積層され、前記インク流路内のインク液を加圧するように変形可能な金属で形成される振動板と、
該振動板を変形させる圧力を発生させる圧力発生手段と、を備え、
前記インク流路は、前記流路板と前記ノズル板との積層状態で、前記ノズル孔とその積層方向で重なり合って連通する連通孔と、該連通孔よりも前記ノズル列方向の外側において当該流路板の前記振動板が積層される面に、前記連通孔と連通される凹状の連通溝とを含む、ことを特徴とするインクジェットプリンタヘッド。
【請求項5】
前記ノズル板が積層される前記流路板の板面を鏡面状態にしたことを特徴とする請求項4に記載のインクジェットプリンタヘッド。
【請求項6】
前記ノズル板が積層される前記流路板の板面には、前記積層方向において前記連通溝と重なり合わないように裏溝が形成されることを特徴とする請求項4又5に記載のインクジェットプリンタヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−11679(P2012−11679A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150741(P2010−150741)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】