説明

インナーライナー及び空気入りタイヤ

【課題】接着層を設けることなく、タイヤ内面との接合が可能となるインナーライナー及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマーを含む弾性体層3と、ガスバリア性樹脂を含むバリア層4とを交互に積層してなる積層体1を備えるタイヤ用インナーライナーであって、前記積層体1のうち最もタイヤ外方(矢印Aの方向)にある最外面層2が、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インナーライナー及び空気入りタイヤ、特に、接着層を設けることなく、タイヤ内面との接合が可能となるインナーライナー及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの内圧を保持するためにタイヤ内面に空気バリア層として配設されるインナーライナーには、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴム等を主原料とするゴム組成物が使用されている。しかしながら、これらブチル系ゴムを主原料とするゴム組成物は、空気バリア性が低いため、かかるゴム組成物をインナーライナーに使用した場合、インナーライナーの厚さを1mm前後とする必要があった。そのため、タイヤに占めるインナーライナーの重量が約5%となり、タイヤの重量を低減して自動車、農業用車両、及び建設作業用車両等の燃費を向上させる上で障害となっている。
【0003】
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、ガスバリア性に優れることが知られている。該EVOHは、空気透過量が上記ブチル系のインナーライナー用ゴム組成物の100分の1以下であるため、100μm以下の厚さでも、タイヤの内圧保持性を大幅に向上させることができる上、タイヤの重量を低減することが可能である。
【0004】
上記ブチル系ゴムより空気透過性の低い樹脂は数多く存在するが、空気透過性がブチル系のインナーライナーの10分の1程度の場合、100μmを超える厚さでないと、内圧保持性の改良効果が小さく、また、100μmを超える厚さの場合、タイヤの重量を低減する効果が小さく、また、タイヤ屈曲時の変形からインナーライナーが破断したり、インナーライナーにクラックが発生してしまい、バリア性を保持することが困難となる。耐屈曲性を向上させるために、融点170〜230℃のナイロン樹脂に、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体のハロゲン化物を含むエラストマーを使用する技術が開示されているが(特許文献1)、樹脂に対するエラストマーの比率が高いため、耐屈曲性は向上するもののナイロン樹脂が有するバリア性を保持できなくなる問題がある。
【0005】
これに対し、上記EVOHを使用した場合、100μm以下の厚さでも使用可能であるため、タイヤ転動時の屈曲変形で破断し難く、また、クラックも生じ難くなる。そのため、空気入りタイヤの内圧保持性を改良するために、EVOHをタイヤのインナーライナーに用いることは有効であるといえる。例えば、特許文献2には、EVOHからなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤが開示されている。
【0006】
また、特許文献3に開示のインナーライナーでは、タイヤの内圧保持性を向上させるため、エラストマーからなる補助層に接着剤層を介して貼り合わせて使用することが好ましいとされている。
ただし、熱可塑性樹脂を含む樹脂フィルム層とゴム状弾性体層との密着性が低いため、剥離効力については改善の余地があった。
【0007】
そのため、特許文献4では、剥離効力の向上を目的として、接着剤層に、ゴム成分100質量部に対し、分子中に反応部位を二つ以上有するマレイミド誘導体(H)及びポリ-p-ジニトロソベンゼンの少なくとも一種を0.1質量部以上配合した接着剤組成物(I)を用いたことを特徴とする積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−199713号公報
【特許文献2】特開平6−40207号公報
【特許文献3】特開2004−176048号公報
【特許文献4】特開2008−24228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、引用文献1〜4の技術については、いずれもインナーライナーを空気入りタイヤの内面に接合するため接着剤層を設ける必要があったが、接着剤中に含有される揮発性有機化合物(VOC)をなくすことが好ましく、さらに、接着剤の塗工工程にかかる煩雑さを排除する点からは、接着剤層を設けることなく空気入りタイヤの内面に接合することができるインナーライナーの開発が望まれている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、接着層を設けることなく、タイヤ内面との優れた接着力を有するインナーライナー及び該インナーライナーを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、熱可塑性エラストマーを含む弾性体層と、ガスバリア性樹脂を含むバリア層とを交互に積層してなる積層体を備えるタイヤ用インナーライナーについて、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、前記積層体を構成する層のうち最もタイヤ外方にある最外面層に、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有する最外面層を、さらに備えることで、接着層を設けることなく、タイヤ内面との優れた接着力を実現できることを見出した。
【0012】
即ち、本発明のタイヤ用インナーライナーは、熱可塑性エラストマーを含む弾性体層と、ガスバリア性樹脂を含むバリア層とを交互に積層してなる積層体を備えるタイヤ用インナーライナーであって、記積層体を構成する層のうち最もタイヤ外方にある最外面層が、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有することを特徴とする。
【0013】
また、前記最外面層のエラストマー成分は、加硫可能なジエン部位を有するポリマーであることが好ましく、前記最外面層のエラストマー成分は、ウレタン結合を有することが好ましい。
さらに、前記最外面層のエラストマー成分は、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、又は、それらの変性ポリマーであることがより好ましい。
【0014】
また、前記最外面層と、接合するタイヤ内面とが、加硫により接合されることが好ましい。
【0015】
また、前記バリア層のガスバリア性樹脂は、ヒドロキシ基を有することが好ましく、前記最外面層のエラストマー成分は、前記ガスバリア性樹脂のヒドロキシ基と結合できる変性基を有することがより好ましい。
【0016】
さらに、前記熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0017】
また、本発明のインナーライナーは、共押出成型により製造されることが好ましい。
【0018】
そして、本発明の空気入りタイヤは、上記インナーライナーを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の積層体、タイヤ用インナーライナー及び空気入りタイヤによれば、接着層を設けることなく、タイヤ内面との優れた接着力を有するインナーライナー及び該インナーライナーを用いた空気入りタイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のインナーライナーの一部を示した模式的断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの一実施態様の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<インナーライナー>
以下に、本発明のインナーライナーを、図を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明のインナーライナーの断面を見た図である。
【0022】
本発明のインナーライナーは、図1に示すように、熱可塑性エラストマーを含む弾性体層3と、ガスバリア性樹脂を含むバリア層4とを交互に積層してなる積層体1を備える。
そして、本発明は、前記積層体1を構成する層2、3、4のうち最もタイヤ外方(矢印Aの方向)にある最外面層2が、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有することを特徴とする。
【0023】
上記構成を備えることで、図1に示すように、前記インナーライナー1を空気入りタイヤ5の内面5aに接合する際、前記最外面層2中のエラストマー成分が、空気入りタイヤ5のゴム成分中に含まれるジエン系ゴムと結合するため、別途、接着剤からなる層を設けることなく、空気入りタイヤの内面との高い接着力を得ることができる。
【0024】
さらに、前記最外面層は、従来のインナーライナーに形成される接着層とは異なり、例えば共押出成型等によって、前記バリア層及び前記弾性体層と共に形成することができるため、従来のインナーライナーに比べて製造工程の簡易化の点においても効果を奏する。
【0025】
(バリア層)
本発明インナーライナーを構成するバリア層は、積層体の空気バリア性を実現し、タイヤの内圧を保持するため、ガスバリア性の樹脂を含む層である。
ここで、前記ガスバリア性樹脂については、所望の空気バリア性を確保できるものであれば特に限定されず、例えば、ポリアミド系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体、ウレタン系重合体、オレフィン系重合体又はジエン系重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂を、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記ガスバリア性樹脂は、高い空気バリア性を確保できる点からヒドロキシ基を有することが好ましい。
【0026】
さらに、上記樹脂の中でもエチレン−ビニルアルコール共重合体、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体又はポリアミド系樹脂が好ましい。かかる樹脂は、空気透過量が低く、ガスバリア性に優れるためである。
【0027】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、エチレン含有量が25〜50モル%であることが好ましく、30〜48モル%であることがさらに好ましく、35〜45モル%であることが一層好ましい。エチレン含有量が25モル%未満では、耐屈曲性、耐疲労性及び溶融成形性が悪化することがあり、一方、50モル%を超えると、ガスバリア性を十分に確保できないことがある。また、該エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ケン化度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、99%以上であることが一層好ましい。ケン化度が90%未満では、ガスバリア性及び成形時の熱安定性が不十分となることがある。さらに、該エチレン−ビニルアルコール共重合体は、メルトフローレート(MFR)が190℃、2160g荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがさらに好ましい。
【0028】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、エチレン含有量が3〜70モル%であることが好ましく、10〜60モル%であることがさらに好ましく、20〜55モル%であることが一層好ましく、25〜50モル%であることが特に好ましい。エチレン含有量が3モル%未満では、インナーライナーの耐水性、耐熱水性、高湿度下でのガスバリア性及び溶融成形性が低下するおそれがあり、一方、70モル%を超えると、インナーライナーのガスバリア性が低下するおそれがある。
【0029】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、インナーライナーのガスバリア性、耐湿性及び層間接着性を向上させる観点から、ケン化度が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが一層好ましく、99%以上であることが特に好ましい。一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度は、99.99%以下が好ましい。EVOHのケン化度が80%未満では、インナーライナーの溶融成形性、ガスバリア性、耐着色性及び耐湿性が低下するおそれがある。
【0030】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点から、メルトフローレート(MFR)が190℃、21.18N荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることがさらに好ましい。
【0031】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体は、1,2−グリコール結合構造単位の含有量G(モル%)が下記式:
G ≦ 1.58−0.0244×E
[式中、Gは1,2−グリコール結合構造単位の含有量(モル%)であり、EはEVOH中のエチレン単位含有量(モル%)であり、但し、E ≦ 64である]の関係を満たし、且つ、固有粘度が0.05〜0.2L/gの範囲であることが好ましい。このようなEVOHを用いることで、得られるインナーライナーは、ガスバリア性の湿度依存性が小さくなり、良好な透明性及び光沢を有し、他の樹脂からなる層への積層も容易になる。なお、1,2−グリコール結合構造単位の含有量は、「S.Aniyaら,Analytical Science Vol.1,91(1985)」に記載された方法に準じて、EVOH試料をジメチルスルホキシド溶液とし、温度90℃における核磁気共鳴法によって測定されることができる。
【0032】
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位及びビニルアルコール単位の他に、他の繰り返し単位(以下、構造単位ともいう)、例えばこれらの単位から誘導した繰り返し単位を1種又は複数種有する重合体である。なお、変性EVOHの好適なエチレン含有量、ケン化度、メルトフローレート(MFR)、1,2−グリコール結合構造単位の含有量及び固有粘度は、上述のEVOHと同様である。
【0033】
前記変性EVOHは、例えば下記に示す構造単位(I)及び(II)から選ばれる少なくとも一種の構造単位を有することが好ましく、該構造単位を全構造単位に対して0.5〜30モル%の割合で含有することがさらに好ましい。かかる変性EVOHであれば、樹脂又は樹脂組成物の柔軟性及び加工特性、並びにインナーライナーの層間接着性、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。
【化1】

上記式(I)中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又はヒドロキシ基を表す。また、R、R及びRのうちの一対が結合していてもよい(但し、R、R及びRのうちの一対が共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。一方、上記式(II)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基又はヒドロキシ基を表す。また、RとR又はRとRは結合していてもよい(但し、RとR又はRとRが共に水素原子の場合は除く)。また、前記炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基又はハロゲン原子を有していてもよい。
【0034】
前記変性EVOHにおいて、上記構造単位(I)及び/又は(II)の全構造単位に対する含有量の下限は、0.5モル%が好ましく、1モル%がより好ましく、1.5モル%がさらに好ましい。一方、前記変性EVOHにおいて、上記構造単位(I)及び/又は(II)の全構造単位に対する含有量の上限は、30モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、10モル%がさらに好ましい。前記構造単位(I)及び/又は(II)を前記特定した割合で含有することで、樹脂又は樹脂組成物の柔軟性及び加工特性、並びにインナーライナーの層間接着性、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。
【0035】
上記構造単位(I)及び(II)において、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはアルキル基、アルケニル基等が挙げられ、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基等が挙げられる。
【0036】
上記構造単位(I)において、前記R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基であることが好ましく、これらの中でも、それぞれ独立に水素原子、メチル基、ヒドロキシ基又はヒドロキシメチル基であることがさらに好ましい。かかるR、R及びRであれば、インナーライナーの延伸性及び熱成形性をさらに向上させることができる。
【0037】
EVOH中に上記構造単位(I)を含有させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、エチレンとビニルエステルとの共重合において、さらに構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させる方法等が挙げられる。該構造単位(I)に誘導される単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3−ヒドロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ヒドロキシ−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5−ヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジヒドロキシ−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジヒドロキシ−1−ヘキセン、4−ヒドロキシ−1−ヘキセン、5−ヒドロキシ−1−ヘキセン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセン等のヒドロキシ基やエステル基を有するアルケンが挙げられる。それらの中でも、共重合反応性、及び得られるインナーライナーのガスバリア性の観点から、プロピレン、3−アシロキシ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましい。具体的には、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンがさらに好ましく、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが特に好ましい。なお、エステルを有するアルケンを用いる場合は、ケン化反応の際に、前記構造単位(I)に誘導される。
【0038】
上記構造単位(II)において、R及びRは共に水素原子であることが好ましい。特に、R及びRが共に水素原子であり、前記R及びRのうちの一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基で、他方が水素原子であることがより好ましい。構造単位(II)中の脂肪族炭化水素基は、アルキル基又はアルケニル基が好ましい。また、インナーライナーのガスバリア性を特に重視する観点から、R及びRのうちの一方がメチル基又はエチル基で、他方が水素原子であることが好ましい。さらに、前記R及びRのうちの一方が(CHOHで表される置換基(但し、hは1〜8の整数である)で、他方が水素原子であることも好ましい。この(CHOHで表される置換基においては、hが1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0039】
また、EVOH中に上記構造単位(II)を含有させる方法としては、特に限定されるものではないが、ケン化反応によって得られたEVOHに一価エポキシ化合物を反応させる方法等が挙げられる。一価エポキシ化合物としては、下記式(III)〜(IX)で表される化合物が好適に挙げられる。
【化2】

上記式(III)〜(IX)中、R、R、R10、R11及びR12は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基等)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基又はシクロアルケニル基等)又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基等)を表す。なお、R及びR又はR11及びR12は、同一であってもよく、異なっていてもよい。また、i、j、k、p及びqは、1〜8の整数を表す。
【0040】
上記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘプタン、6−メチル−1,2−エポキシヘプタン、3−エチル−1,2−エポキシヘプタン、3−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、3−ブチル−1,2−エポキシヘプタン、4−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−プロピル−1,2−エポキシヘプタン、6−エチル−1,2−エポキシヘプタン、4−メチル−2,3−エポキシヘプタン、4−エチル−2,3−エポキシヘプタン、4−プロピル−2,3−エポキシヘプタン、2−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−メチル−3,4−エポキシヘプタン、5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−プロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。
【0041】
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−3−ペンチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘキシルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘプチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−4−フェノキシブタン、1,2−エポキシ−4−ベンジルオキシブタン、1,2−エポキシ−5−メトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−エトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−プロポキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ブトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ペンチルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ヘキシルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−フェノキシペンタン、1,2−エポキシ−6−メトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−エトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−プロポキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ブトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ヘプチルオキシヘキサン、1,2−エポキシ−7−メトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−エトキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−プロポキシヘプタン、1,2−エポキシ−7−ブトキシヘプタン、1,2−エポキシ−8−メトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−エトキシオクタン、1,2−エポキシ−8−ブトキシオクタン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−ヘプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。
【0042】
上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテル、ブタンジオールモノグリシジルエーテル、ペンタンジオールモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、ヘプタンジオールモノグリシジルエーテル、オクタンジオールモノグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0043】
上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−プロペン、4−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ブテン、5−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ペンテン、6−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘキセン、7−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘプテン、8−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−オクテン等が挙げられる。
【0044】
上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。
【0045】
上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。
【0046】
上記式(IX)で表される一価エポキシ化合物としては、例えば、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。
【0047】
前記一価エポキシ化合物の中では、炭素数が2〜8のエポキシ化合物が好ましい。特に、化合物の取り扱いの容易さ及びEVOHに対する反応性の観点から、一価エポキシ化合物の炭素数は、2〜6がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。また、一価エポキシ化合物は、これらの式で表される化合物のうち式(III)又は(IV)で表される化合物であることが特に好ましい。具体的には、EVOHに対する反応性及び得られるインナーライナーのガスバリア性の観点から、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが好ましく、これらの中でもエポキシプロパン及びグリシドールが特に好ましい。
【0048】
本発明において、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、例えば、エチレンとビニルエステルとを重合してエチレン−ビニルエステル共重合体を得、該エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化することにより得られる。また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、上述のとおり、(1)エチレンとビニルエステルとの重合において、さらに構造単位(I)に誘導される単量体を共重合させたり、(2)ケン化反応によって得られたEVOHに対して一価エポキシ化合物を反応させることにより得られる。ここで、エチレン−ビニルアルコール共重合体及び変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の重合方法は、特に限定されず、例えば溶液重合、懸濁重合、乳化重合、バルク重合のいずれであってもよい。また、連続式、回分式のいずれであってもよい。
【0049】
前記重合に用いることができるビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等の脂肪酸ビニル等が挙げられる。
【0050】
また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を製造する場合、エチレン及びビニルエステルの他に、これら単量体と共重合し得る単量体を好ましくは少量で用いることがある。この共重合し得る単量体としては、上述の構造単位(I)に誘導される単量体に加えて、他のアルケン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸又はその無水物、塩、モノアルキルエステル若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。また、ビニルシラン化合物を単量体として用いることもでき、共重合体中に導入されるビニルシラン化合物の量は、0.0002モル%以上で且つ0.2モル%以下であることが好ましい。ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。これらビニルシラン化合物の中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。
【0051】
重合に使用できる溶媒は、エチレン、ビニルエステル及びエチレン−ビニルエステル共重合体を溶解し得る有機溶剤であれば特に限定されない。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。それらの中でも、反応後の除去分離が容易である点で、メタノールが特に好ましい。
【0052】
重合に使用できる開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス−(2−シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾニトリル系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0053】
重合温度は、通常20〜90℃程度であり、好ましくは40〜70℃である。重合時間は、通常2〜15時間程度であり、好ましくは3〜11時間である。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して通常10〜90%程度であり、好ましくは30〜80%である。重合後の溶液中の樹脂分は、5〜85質量%程度であり、好ましくは20〜70質量%である。
【0054】
所定時間の重合後又は所定の重合率に達した後、得られる共重合体溶液に必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去し、その後、未反応のビニルエステルを除去する。未反応のビニルエステルを除去する方法としては、例えば、ラシヒリングを充填した塔の上部から共重合体溶液を一定速度で連続的に供給し、塔の下部よりメタノール等の有機溶剤蒸気を吹き込み、塔頂部よりメタノール等の有機溶剤と未反応ビニルエステルの混合蒸気を留出させ、塔底部より未反応のビニルエステルを除去した共重合体溶液を取り出す方法等が採用される。
【0055】
次に、前記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加し、該溶液中に存在する共重合体をケン化する。ケン化方法は、連続式、回分式のいずれも可能である。前記アルカリ触媒としては、例えば水酸化ナトリム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。また、ケン化の条件は、例えば回分式の場合、共重合体溶液中のアルカリ触媒の濃度が10〜50質量%程度、反応温度が30〜65℃程度、触媒使用量がビニルエステル構造単位1モル当たり0.02〜1.0モル程度、ケン化時間が1〜6時間程度であることが好ましい。
【0056】
ケン化反応後の(変性)EVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の副生塩類、その他不純物を含有するため、これらを必要に応じて中和、洗浄することにより除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後の(変性)EVOHを、イオン交換水等の金属イオン、塩化物イオン等をほとんど含まない水で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等を一部残存させてもよい。
【0057】
前記ポリアミド樹脂(PA)は、酸とアミンが反応してできるアミド結合を持つ高分子化合物の総称であり、機械特性が良く、引張り、圧縮、曲げ、衝撃に強いという特徴を有する。前記インナーライナーのガスバリア性、溶融成形性及び層間接着性を向上させる観点から、前記PAは、メルトフローレート(JIS K 7210 1999(230℃ 21.18N))において、100g/10分であることが好ましく、30g/10分であることがさらに好ましい。
【0058】
前記ポリアミド樹脂の具体的な種類については、例えば、ナイロン6、ナイロン6−66、ナイロンMXD6、芳香族ポリアミド等が挙げられる。
【0059】
前記ポリビニルアルコール樹脂(PVA)は、合成樹脂の一種であり、酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。
【0060】
また、前記バリア層は、JIS K7126Aに準拠した20℃、65%RHにおける酸素透過度が、8.0×10−12 cm3/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10−12 cm3/cm2・sec・cmHg以下であることがさらに好ましく、5.0×10−13 cm3/cm2・sec・cmHg以下であることが一層好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過度が8.0×10−12 cm3/cm2・sec・cmHgを超えると、タイヤの内圧保持性を高めるために、前記バリア層を厚くせざるを得ず、インナーライナーの重量を十分に低減できなくなるおそれがある。
【0061】
さらに、前記バリア層は、架橋されていることが好ましい。前記バリア層が架橋されていない場合、タイヤの加硫工程で前記積層体(インナーライナー)が著しく変形して不均一となり、積層体のガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性が悪化するおそれがある。ここで、架橋方法としては、エネルギー線を照射する方法が好ましく、該エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、α線、γ線等の電離放射線が挙げられ、これらの中でも電子線が特に好ましい。電子線の照射は、前記バリア層をフィルムやシート等の成形体に加工した後に行うことが好ましい。ここで、電子線の線量は、10〜500kGyの範囲が好ましく、50〜300kGyの範囲がより好ましい。電子線の線量が10kGy未満では、架橋が進み難く、一方、500kGyを超えると、成形体の劣化が進み易くなる。また、前記バリア層は、他層との粘着性を向上させるために、酸化法や凹凸化法等によって表面処理を施してもよい。酸化法としては、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理等が挙げられ、凹凸化法としては、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの中でもコロナ放電処理が好ましい。
【0062】
(弾性体層)
本発明のインナーライナーを構成する弾性体層は、熱可塑性エラストマーを含む層であり、熱可塑性エラストマーを含む層であれば、その他の構成については特に限定されるものではない。例えば、熱可塑性エラストマーからなる層又は該熱可塑性エラストマーがマトリクスとして存在する熱可塑性エラストマー組成物からなる層などが挙げられる。なお、マトリクスとは、連続相を意味する。
上述したバリア層は、ガスバリア性が高く、タイヤの内圧保持性を改良する効果が大きいものの、タイヤ中のゴムに比べ弾性率が大幅に高いため、屈曲時の変形で破断したり、クラックが生じることがおそれがある。そのため、この弾性体層を前記バリア層と交互に積層するによって、インナーライナーの内圧保持性及び耐クラック性の両立を図ることができる。
【0063】
なお、本発明のインナーライナーを構成する弾性体層は、20℃及び65%RHでの空気透過度が、5.0×10−8cm3/cm2・sec・cmHg以下であるのが好ましい。5.0×10−8cm3/cm2・sec・cmHgを超えると、前記バリア層にクラックが生じた際、急激な内圧低下を防ぐことができないおそれがあるからである。なお、空気透過度は、JIS K7126Aに準拠して測定される。
【0064】
前記弾性体層に用いる熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーが好ましい。なお、これらの熱可塑性エラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
前記ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、芳香族ビニル系重合体ブロック(ハードセグメント)と、ゴムブロック(ソフトセグメント)とを有し、芳香族ビニル系重合体部分が物理架橋を形成して橋かけ点となり、一方、ゴムブロックがゴム弾性を付与する。該ポリスチレン系熱可塑性エラストマーは、分子中のソフトセグメントの配列様式により分けることができ、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられ、さらにはポリブタジエンとブタジエン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体を水添して得られる結晶性ポリエチレンとエチレン/ブチレン−スチレンランダム共重合体とのブロック共重合体や、ポリブタジエン又はエチレン−ブタジエンランダム共重合体とポリスチレンとのブロック共重合体を水添して得られる、例えば、結晶性ポリエチレンとポリスチレンとのジブロック共重合体等も含まれる。これらの中でも、機械的強度、耐熱安定性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性、柔軟性、加工性等のバランスの面から、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が好適である。
【0066】
前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーには、ハードセグメントとしてポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンブロックを、ソフトセグメントとしてエチレン−プロピレン−ジエン共重合体等のゴムブロックを備える熱可塑性エラストマー等が含まれる。なお、かかる熱可塑性エラストマーには、ブレンド型とインプラント化型がある。また、前記ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ハロゲン化ブチル系ゴム、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン等を挙げることもできる。
【0067】
前記ポリジエン系熱可塑性エラストマーとしては、1,2−ポリブタジエン系TPE及びトランス1,4−ポリイソプレン系TPE、水添共役ジエン系TPE、エポキシ化天然ゴム等を挙げることができる。なお、1,2−ポリブタジエン系TPEは、分子中に1,2−結合を90%以上含むポリブタジエンであって、ハードセグメントとして結晶性のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンと、ソフトセグメントとして無定形1,2−ポリブタジエンとからなる。また、トランス1,4−ポリイソプレン系TPEは、分子中に98%以上のトランス1,4構造を有するポリイソプレンであって、ハードセグメントとしての結晶性トランス1,4セグメントと、ソフトセグメントとしての非結晶性トランス1,4セグメントからなる。
【0068】
前記ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)は、一般に、以下に示す3種類に大別される。
・タイプ1:高分子量ポリ塩化ビニル(PVC)/可塑化ポリ塩化ビニル(PVC)ブレンド型TPVC
ハードセグメントに高分子量のPVCを用いて、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いてなる熱可塑性エラストマーである。なお、ハードセグメントに高分子量のPVCを用いることで、微結晶部分にて架橋点の働きを持たせている。
・タイプ2:部分架橋PVC/可塑化PVCブレンド型TPVC
ハードセグメントに部分架橋又は分岐構造を導入したPVCを、ソフトセグメントに可塑剤で可塑化されたPVCを用いてなる熱可塑性エラストマーである。
・タイプ3:PVC/エラストマーアロイ型TPVC
ハードセグメントにPVCを、ソフトセグメントに部分架橋ニトリルブタジエンゴム(NBR)等のゴム又はポリウレタン系TPE、ポリエステル系TPE等のTPEを用いてなる熱可塑性エラストマーである。
【0069】
前記塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマーは、水性懸濁液又は四塩化炭素のような溶媒中でポリエチレンを塩素ガスと反応させて得られる軟質樹脂であり、ハードセグメントには結晶性ポリエチレンブロックが、ソフトセグメントには塩素化ポリエチレン(CPE)ブロックが用いられる。なお、CPEブロックには、ポリエチレン及び塩素化ポリエチレンの両成分がマルチブロック又はランダム構造の混合物として混在している。
【0070】
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)は、分子中のハードセグメントとしてポリエステルを、ソフトセグメントとしてガラス転移温度(Tg)の低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。TPEEは、分子構造の違いによって次のようなタイプに分けることができ、ポリエステル・ポリエーテル型TPEEとポリエステル・ポリエステル型TPEEが主流を占めている。
(1)ポリエステル・ポリエーテル型TPEE
一般には、ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとしてポリエーテルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(2)ポリエステル・ポリエステル型TPEE
ハードセグメントとして芳香族系結晶性ポリエステルを、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
(3)液晶性TPEE
ハードセグメントとして剛直な液晶分子を、ソフトセグメントとして脂肪族系ポリエステルを用いた熱可塑性エラストマーである。
【0071】
前記ポリアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)は、ハードセグメントとしてポリアミドを、ソフトセグメントとしてTgの低いポリエーテル又はポリエステルを用いたマルチブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するポリアミド成分は、ナイロン6,66,610,11,12等から選択され、ナイロン6、ナイロン12が主体を占めている。ソフトセグメントの構成物質には、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール等の長鎖ポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールの代表例には、ジオールポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)、ポリ(オキシプロピレン)グリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールの代表例には、ポリ(エチレンアジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4アジペート)グリコール等が挙げられる。
【0072】
前記フッ素樹脂系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとしてフッ素樹脂を、ソフトセグメントとしてフッ素ゴムからなるABA型ブロックコポリマーである。ハードセグメントを構成するフッ素樹脂には、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が用いられ、ソフトセグメントを構成するフッ素ゴムには、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等が用いられる。より具体的には、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン−プロピレンゴム、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、ホスファゼン系フッ素ゴムや、フルオロポリエーテル、フルオロニトロソゴム、パーフルオロトリアジンを含むもの等が挙げられる。なお、フッ素樹脂系TPEは、他のTPEと同じようにミクロ相分離して、ハードセグメントが架橋点を形成している。
【0073】
前記ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)は、(1)ハードセグメントとして短鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタンと、(2)ソフトセグメントとして長鎖グリコールとイソシアネートとの反応で得られるポリウレタンとからなる直鎖状のマルチブロックコポリマーである。ここで、ポリウレタンとは、イソシアネート(−NCO)とアルコール(−OH)との重付加反応(ウレタン化反応)で得られるウレタン結合(−NHCOO−)を有する化合物の総称である。本発明のインナーライナーにおいては、弾性体層を形成するエラストマーがTPUであれば、該弾性体層を積層することで、延伸性及び熱成形性を向上させることができる。また、かかるインナーライナーでは、弾性体層とバリア層との層間接着性を向上できるため、耐クラック性等の耐久性が高く、インナーライナーを変形させて使用しても、ガスバリア性及び延伸性を維持することができる。
【0074】
前記TPUは、高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート、鎖伸長剤等から構成される。該高分子ポリオールは、複数のヒドロキシ基を有する物質であり、重縮合、付加重合(例えば開環重合)、重付加等によって得られる。高分子ポリオールとしては、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はこれらの共縮合物(例えばポリエステル−エーテル−ポリオール)等が挙げられる。これらの中でも、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールが好ましく、ポリエステルポリオールが特に好ましい。なお、これらの高分子ポリオールは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
ここで、前記ポリエステルポリオールは、例えば、常法に従い、ジカルボン酸、そのエステル、その無水物等のエステルを形成し得る化合物と低分子ポリオールとを直接エステル化反応若しくはエステル交換反応によって縮合させるか、又はラクトンを開環重合することにより製造されることができる。
【0076】
前記ポリエステルポリオールの生成に使用できるジカルボン酸としては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用されるジカルボン酸が挙げられる。該ジカルボン酸として、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸等の炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、炭素数が6〜12の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、アゼライン酸又はセバシン酸が特に好ましい。これらジカルボン酸は、ヒドロキシ基とより反応し易いカルボニル基を有しており、バリア層との層間接着性を大幅に向上させることができる。
【0077】
前記ポリエステルポリオールの生成に使用できる低分子ポリオールとしては、特に限定されず、ポリエステルの製造において一般的に使用される低分子ポリオールが挙げられる。該低分子ポリオールとして、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール等の炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノール等の脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の芳香族2価アルコール等が挙げられる。これらの低分子ポリオールは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール等の側鎖にメチル基を有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールが好ましい。かかる脂肪族ジオールを用いて得たポリエステルポリオールは、ヒドロキシ基との反応が起こり易く、バリア層との層間接着性を大幅に向上させることができる。さらに、前記低分子ポリオールと共に、少量の3官能以上の低分子ポリオールを併用することができる。3官能以上の低分子ポリオールとしては、例えばトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0078】
前記ポリエステルポリオールの生成に使用できるラクトンとしては、例えばε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等を挙げることができる。
【0079】
前記ポリエーテルポリオールとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレン)グリコール等が挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、ポリテトラメチレングリコールが好ましい。
【0080】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール等の炭素数2〜12の脂肪族ジオール又はこれらの混合物を炭酸ジフェニル又はホスゲン等の作用により縮重合して得られる化合物が好適に挙げられる。
【0081】
前記高分子ポリオールは、数平均分子量の下限が、500であるのが好ましく、600であるのがより好ましく、700であるのがさらに好ましい。一方、高分子ポリオールの数平均分子量の上限は、8,000が好ましく、5,000がより好ましく、3,000がさらに好ましい。高分子ポリオールの数平均分子量が前記下限より小さいと、有機ポリイソシアネートとの相溶性が高過ぎ、得られるTPUの弾性が乏しくなるため、得られるインナーライナーの延伸性等の力学的特性や熱成形性が低下するおそれがある。一方、高分子ポリオールの数平均分子量が前記上限を超えると、有機ポリイソシアネートとの相溶性が低下して、重合過程での混合が困難になり、その結果、ゲル状物の塊の発生等により安定したTPUが得られなくなるおそれがある。なお、高分子ポリオールの数平均分子量は、JIS−K−1577に準拠して測定し、ヒドロキシ基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0082】
前記有機ポリイソシアネートとしては、特に限定されるものではなく、TPUの製造に一般的に使用される公知の有機ジイソシアネートが使用できる。該有機ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネート等を挙げることができる。これらの中でも、得られるインナーライナーの強度及び耐屈曲性が向上できる観点から、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。これらの有機ポリイソシアネートは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
前記鎖伸長剤としては、特に限定されず、TPUの製造に一般的に使用される公知の鎖伸長剤が使用でき、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量300以下の低分子化合物が好適に使用される。鎖伸長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。これらの中でも、得られるインナーライナーの延伸性及び熱成形性がさらに向上できる観点から、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。これらの鎖伸長剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0084】
前記TPUの製造方法としては、前記高分子ポリオール、有機ポリイソシアネート及び鎖伸長剤を使用し、公知のウレタン化反応技術を利用する製造方法が挙げられ、プレポリマー法及びワンショット法のいずれを用いてもよい。特には、実質的に溶媒の不存在下にて溶融重合を行うことが好ましく、多軸スクリュー型押出機を用いた連続溶融重合を行うことがさらに好ましい。
【0085】
前記TPUは、高分子ポリオールと鎖伸長剤との合計質量に対する有機ポリイソシアネートの質量の比[イソシアネート/(高分子ポリオール+鎖伸長剤)]が、1.02以下であることが好ましい。該比が1.02を超えると、成形時の長期運転安定性が悪化するおそれがある。
【0086】
(最外面層)
本発明インナーライナーを構成する最外面層は、図1に示すように、前記積層体1を構成する層の中で最もタイヤ外方にある層であり、前記空気入りタイヤの内面5aと前記インナーライナー1との接着性を確保するべく、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有することを要する。ここで、加熱接着とは、前記インナーライナーを空気入りタイヤの内面に貼り付けた状態で加熱を行うことで前記空気入りタイヤの内面と前記最外面層とを接着させることをいう。
なお、図1では、バリア層が最外面層2となっているが、前記弾性体層3が最外面層2となる場合もある。その場合も、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有することを要する。
【0087】
ここで、前記ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分とは、インナーライナーを構成する部材として、一定の空気バリア性及び耐クラック性を具え、ジエン系ゴムとの加熱接着が可能なエラストマー成分であれば特に限定はされない。高いバリア性及び耐クラック性を有する点から、前記エラストマー成分は加硫可能なジエン部位を有するポリマーであることが好ましく、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、又は、それらの変性ポリマー等が挙げられる。
【0088】
また、前記最外面層のエラストマー成分は、ウレタン結合を有することが好ましい。前記タイヤ内面との優れた接着性を有しつつ、柔軟性も確保できるからである。
【0089】
また、前記最外面層のエラストマー成分は、ヒドロキシ基と結合できる変性基を有することが好ましい。前記バリア層を構成する樹脂成分にヒドロキシ基が含まれる場合、前記バリア層と水素結合を行うことで、高い接着性を実現できるからである。ここで、ヒドロキシ基と結合できる変性基とは、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基等が挙げられる。
【0090】
前記最外層中の前記エラストマー成分の含有量は、20質量%以上であることが好ましい。前記エラストマー成分の含有量が20質量%未満の場合、含有量が少なすぎるため、十分に前記空気入りタイヤ内面との接着力を確保できないおそれがあるからである。また、さらに良好な接着力を得る点からは、前記エラストマー成分の含有量は、50質量%以上であることがより好ましい。
【0091】
さらに、前記最外面層の表面は、コロナ処理を施しても良い。
【0092】
また、前記最外面層の厚さは、1〜1000μmの範囲であることが好ましい。1μm未満の場合、前記最外面層による空気入りタイヤ内面との接着力を十分に得ることができないおそれがあり、一方、前記厚さが1000μmを超えると、前記最外面層が厚くなりすぎるため、タイヤ質量の増加を招くおそれがあるからである。
【0093】
前記最外面層と、接合するタイヤ内面との接合は、加硫によって行われることが好ましい。前記タイヤ内面と最外面層との高い接着力を確保することができるためである。
【0094】
(積層体)
本発明のインナーライナーを構成する積層体は、図1に示すように、前記弾性体層3と前記バリア層4とを、交互に積層してなる。
前記弾性体層3と前記バリア層4とを、交互に積層することで、バリア層で発生したピンホールや割れ等の欠陥が隣接する層へ進展することを抑制できるため、積層体1全体にわたる亀裂や破断を防ぐことができ、高いガスバリア性及び耐クラック性等の耐久性を維持することができる。また、前記積層体によって奏される効果をさらに発揮できるように、前記積層体の席層数は合計で7層以上であることが好ましく、11層以上であることがより好ましく、15層以上であることがさらに好ましい。なお、バリア層4及び弾性体層3の合計層数の上限は、特に限定されず、インナーライナー1の用途等によって適宜選択できる。
【0095】
前記バリア層は、一層の平均厚さの下限が、0.001μmであることを要し、0.01μmであることが好ましく、0.05μmであることがさらに好ましい。一方、一層の平均厚さの上限は、10μmであること要し、7μmが好ましく、5μmがより好ましく、3μmがさらに好ましく、1μmが最も好ましい。バリア層において一層の平均厚さが0.001μm未満では、均一な厚さで成形することが困難になり、積層体のガスバリア性及びクラック性が低下するおそれがある。一方、一層の平均厚さが10μmを超えると、積層体の厚さによっては積層体を構成するバリア層の数を十分に確保できなくなり、耐クラック性が低下するおそれがあり、またバリア層に靭性を付与できない場合がある。なお、バリア層における一層の平均厚さとは、積層体を構成するバリア層の厚さの合計をバリア層の層数で除した値を指す。
【0096】
前記弾性体層は、同様の理由から、一層の平均厚さの下限が0.001μmであることを要し、0.005μmであることが好ましく、0.01μmであることがさらに好ましい。同様の理由から、弾性体層における一層の平均厚さの上限は、40μmであることを要し、30μmであることが好ましく、20μmであることがさらに好ましい。なお、弾性体層における一層の平均厚さとは、積層体を構成する弾性体層の厚さの合計を弾性体層の層数で除した値を指す。また、弾性体層の合計厚さは、バリア層の合計厚さと同じか又はバリア層の合計厚さより厚い、即ち弾性体層の合計厚さのバリア層の合計厚さに対する比(弾性体層/バリア層)が1以上になるような厚さであることが好ましい。これにより、積層体が全層破断に至るまでの屈曲疲労特性が向上する。
【0097】
前記バリア層と前記弾性体層との合計である前記積層体の厚さは、0.1〜1000μmの範囲が好ましく、0.5〜750μmの範囲がさらに好ましく、1〜500μmの範囲が一層好ましい。積層体の厚さが前記特定した範囲内にあれば、空気入りタイヤ用インナーライナーとして好適であり、またバリア層及び弾性体層の一層の平均厚さを限定することとも相まって、ガスバリア性、耐クラック性等をさらに向上させることができる。
【0098】
(インナーライナーの製造方法)
本発明のインナーライナーの製造方法としては、バリア層と弾性体層層と最外層とが良好に積層・接着可能な方法であれば特に限定されるものではなく、例えば共押出し、はり合わせ、コーティング、ボンディング、付着等の公知の方法が挙げられる。
これらの中でも、本発明のインナーライナーの製造方法としては、ガスバリア性樹脂を含む樹脂組成物と熱可塑性エラストマーを含むエラストマー組成物と、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含むエラストマー組成物とを準備し、これら組成物を用いた多層共押出法によりバリア層及び弾性体層を有する多層構造体を製造する方法が、高い生産性、層間接着性に優れる観点から好ましい。
【0099】
前記多層共押出法においては、バリア層を形成する樹脂又は樹脂組成物と、弾性体層を形成するエラストマー又はエラストマー組成物と、最外層を形成するエラストマー組成物とが、加熱溶融され、異なる押出機やポンプからそれぞれの流路を通って押出ダイに供給され、押出ダイから多層に押し出された後に積層接着することで、本発明の多層構造体が形成される。この押出ダイとしては、例えばマルチマニホールドダイ、フィールドブロック、スタティックミキサー等を用いることができる。
【0100】
(タイヤ内面)
タイヤ内面とは、図1に示すように、空気入りタイヤ5の中で、本発明のインナーライナー1と接合する面5aのことである。
前記空気入りタイヤ5を構成するゴム成分として、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムを含むことが好ましい。ここで、上記ハロゲン化ブチルゴムとしては、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム及びそれらの変性ゴム等が挙げられる。また、前記ハロゲン化ブチルゴムは、市販品を利用することができ、例えば、「Enjay Butyl HT10−66」(登録商標)[エンジェイケミカル社製,塩素化ブチルゴム]、「Bromobutyl 2255」(登録商標)[JSR(株)製,臭素化ブチルゴム]、「Bromobutyl 2244」(登録商標)[JSR(株)製,臭素化ブチルゴム]を挙げることができる。また、塩素化又は臭素化した変性ゴムの例としては、「Exxpro50」(登録商標)[エクソン社製]が挙げられる。
【0101】
前記ゴム成分中のブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムの含有率は、耐空気透過性を向上させる観点から、50質量%以上であるのが好ましく、70〜100質量%であるのがさらに好ましい。ここで、上記ゴム成分としては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムの他、ジエン系ゴムやエピクロロヒドリンゴム等を用いることができる。これらゴム成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
前記ジエン系ゴムとして、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、シス−1,4−ポリブタジエン(BR)、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン(1,2BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。これらジエン系ゴムは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0103】
前記空気入りタイヤには、前記ゴム成分の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤、例えば、補強性充填剤、軟化剤、老化防止剤、加硫剤、ゴム用加硫促進剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸等を目的に応じて適宜配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。
【0104】
<空気入りタイヤ>
本発明の空気入りタイヤは、上述したインナーライナーを備えることを特徴とする。以下に、図を参照しながら本発明の空気入りタイヤを詳細に説明する。
図2は、本発明の空気入りタイヤの一実施態様の部分断面図である。図2に示すタイヤは、一対のビード部9及び一対のサイドウォール部10と、両サイドウォール部10に連なるトレッド部11とを有し、上記一対のビード部9間にトロイド状に延在して、これら各部9、10、11を補強するカーカス12と、該カーカス12のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された2枚のベルト層からなるベルト13と、上記ビード部9内に夫々埋設したリング状のビードコア14のタイヤ半径方向外側に配置したビードフィラー15を備え、さらに、該カーカス12の内側のタイヤ内面には本発明のインナーライナー16が配置されている。
【0105】
図示例のタイヤにおいて、カーカス12は、上記ビード部9内にそれぞれ埋設した一対のビードコア14間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア14の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明の空気入りタイヤにおいて、カーカス12のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
【0106】
また、図示例のタイヤにおいて、ベルト13は、2枚のベルト層からなるが、本発明の空気入りタイヤにおいては、ベルト13を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、2枚のベルト層は、該ベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト13を構成する。さらに、図示例のタイヤは、ビードフィラー15を備えるが、本発明の空気入りタイヤは、ビードフィラー15を有していなくてもよいし、他の構造のビードフィラーを備えることもできる。
【0107】
本発明の空気入りタイヤは、インナーライナー16に上述したインナーライナーを適用し、常法により製造することができる。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【0108】
(フィルムと空気入り未加硫タイヤとの接着方法)
本発明のインナーライナーと未加硫タイヤとの接着方法は、前記インナーライナーを未加硫タイヤ内面に配設し、フィルムと未加硫タイヤとを加硫することによって接着する。別途、接着剤層を設けることなく、インナーライナーを空気入りタイヤの内面に装着することができる点で有効である。
なお、加硫条件としては、通常使用される条件であれば特に限定されず、例えば、120℃以上、好ましくは125℃〜200℃、より好ましくは130〜180℃の温度で実施される。
【0109】
また、本発明においては、前記インナーライナーを構成する積層体にエネルギー線を照射してフィルムマトリクスを架橋することが好ましい。積層体を電子線で架橋しておかないと、後の加硫工程においてフィルムが著しく変形して均一な層を保持することができなくなり、得られる積層体が所定の機能を発揮しなくなるおそれがある。
【実施例】
【0110】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0111】
(弾性体層1)
熱可塑性ポリウレタン(TPU)((株)クラレ製クラミロンU3190)を、弾性体層1に用いた。
【0112】
(弾性体層2)
窒素充填された20Lのステンレス製反応器に、ヘキサン8000g、1,3−ブタジエン2000gを加え、70℃の温度に過熱し、攪拌しながらジイソブチルアルミニウムヒドリドのヘキサン溶液(20%)21ml、エチルアルミニウムセスキクロライドのヘキサン溶液(20%)2.5ml、ネオジウムバーサタイトのヘキサン溶液(8.8%)2.75ml加え、60分後にヘキサメチレンジイソシアネート10gを200mlのヘキサンに溶解させ加え、エチレングリコール4gとラウリン酸ジブチルスズ0.15mlを200mlのヘキサンに溶解させ、60分経過後に4gの「Irganox1520」をヘキサン100mlに溶解させ加える。その後、15Lのイソプロパノールにポリマーを沈殿させ、乾燥することにより得られた、ウレタン変性ポリブタジエン(ブタジエン系TPU)を、弾性体層2に用いた。
【0113】
(弾性体層3)
ブタジエンゴム(JSR製 BR01)と、該ブタジエンゴム100質量部に対して、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロンU3190]を5質量部配合したゴム組成物を、弾性体層3に用いた。
【0114】
(弾性体層4)
20Lのステンレス製反応器にエラストマー層2で合成したウレタン変性ポリブタジエン2000gをトルエン8000gに溶解させ、50℃にした。その後、攪拌しながら、ギ酸240mlを添加し、過酸化水素水(30wt%)1000gを少しずつ滴下し攪拌を続け、4時間後にIrganox1520をトルエン100mlに溶解させて加えた。その後、15Lのイソプロパノールにポリマーを沈殿させ、乾燥することにより得られた、ウレタン変性エポキシ化ポリブタジエンを、弾性体層4に用いた。
【0115】
(バリア層1)
臭素化ブチルゴム(JSR製 Bromobutyl2244)と、該臭素化ブチルゴムゴム100質量部に対して、後述のバリア層2に用いられるエチレン−ビニルアルコール共重合体の樹脂組成物を300質量部配合したものを、バリア層1として用いた。
【0116】
(バリア層2)
エチレン含量44モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(190℃、2160g荷重下でのMFR:5.5g/10分)を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、二軸押出機(スクリュー:20mmφ,フルフライト、シリンダー・ダイ温度設定:C1/C2/C3/ダイ=200/200/200/200(℃))を用いて200℃で溶融し、ペレット化した樹脂組成物を、バリア層2に用いた。
なお、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量及びケン化度は、重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H−NMR測定[日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用]で得られたスペクトルから算出した値である。また、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR)は、メルトインデクサーL244[宝工業株式会社製]の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダーにサンプルを充填し、190℃で溶融した後、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけ、シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)から求めた。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合は、2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿して算出した値をメルトフローレート(MFR)とした。
【0117】
<サンプル1〜5>
その後、各バリア層の材料と、弾性体層の材料とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層からなる積層体を作製した。なお、積層体は、弾性体層/バリア層/弾性体層が10μm/10μm/10μmとなるように製膜した。
・各樹脂の押出温度:C1/C2/C3/ダイ=170/170/200/200℃
・各樹脂の押出機仕様:熱可塑性ポリウレタン:25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
・樹脂組成物(C):20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
・Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
・冷却ロールの温度:50℃
・ 引き取り速度:4m/分
<サンプル6、7>
弾性体層とバリア層とを交互に、合計25層(バリア層が12層(各層の厚さが1μm)、弾性体層が13層(各層の厚さが1μm))積層してなる積層体(マイクロレイヤー)を、共押出成型によって形成した。
その後、日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200−100」を使用して、加速電圧200kV、照射エネルギー150kGyの条件で上記積層体に電子線照射して架橋処理を施した。
【0118】
その後、下記の配合のゴム組成物を調製し、厚さ2mmの未加硫ゴム状弾性体シートを作製した。
(ゴム組成物)
天然ゴム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60質量部
臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244]・・・ 40質量部
GPFカーボンブラック[旭カーボン(株)製,#55] ・・・ 10質量部
SUNPAR2280[日本サン石油(株)製] ・・・・・・・ 1質量部
ステアリン酸[旭電化工業(株)製] ・・・・・・・・・・・・ 2質量部
加硫促進剤[ノクセラーDM、大内新興化学工業(株)製] ・・ 0.5質量部
酸化亜鉛[白水化学工業(株)製] ・・・・・・・・・・・・・ 1質量部
硫黄[軽井沢精錬所製] ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3質量部
【0119】
その後、電子線照射した積層体をゴム状弾性体シートに貼り合わせ、160℃で15分間加硫処理を行うことでサンプルとなる積層体を作製した。
【0120】
<評価>
実施例及び比較例の各サンプルの積層体について、(1)接着性及び(2)ガスバリア性についての評価を行った。
【0121】
(1)接着性
JIS Z0237に準拠して、90°ピール、剥離速度300mm/minにて、接着性の測定(N/25mm)を行った。評価結果を表1に示す。
なお、評価については、サンプル1の値を100として、他の値を指数化し、数値が大きいほど接着性が高く良好な結果であることを示す。
(2)ガスバリア性
上記フィルムのサンプルを、20℃、65%RHで5日間調湿した。その後、調湿済みのフィルムを2枚使用し、GTRテック(株)製 GTR−10Xを用い、20℃、65%RHの条件下で、JIS K7126Aに準拠して、空気透過度の測定を行い、2枚のフィルムの平均を算出した。
評価については、サンプル1の平均値を100としたときの指数によって表示した。指数値が高い程、ガスバリア性に優れており、良好な結果を示す。
【0122】
【表1】

【0123】
表1の結果から、実施例のサンプル3〜7の積層体は、比較例のサンプル1及び2の積層体に比べて、バリア性及び接着性のいずれもが高いことがわかった。特に接着性については、1.2〜6倍も高く、本発明による積層体の接着力が優れていることがわかる。その結果、弾性体層にジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有すすることによって、ガスバリア性を維持又は向上させながら、優れた接着性が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、接着層を設けることなく、タイヤ内面との接合が可能となるインナーライナー及び空気入りタイヤを提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0125】
1 インナーライナー、積層体
2 最外面層
3 弾性体層
4 バリア層
9 ビード部
10 サイドウォール部
11 トレッド部
12 カーカス
13 ベルト
14 ビードコア
15 ビードフィラー
16 インナーライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを含む弾性体層と、ガスバリア性樹脂を含むバリア層とを交互に積層してなる積層体を備えるタイヤ用インナーライナーであって、
前記積層体を構成する層のうち最もタイヤ外方にある最外面層が、ジエン系ゴムと加熱接着が可能であるエラストマー成分を含有することを特徴とするタイヤ用インナーライナー。
【請求項2】
前記最外面層のエラストマー成分は、加硫可能なジエン部位を有するポリマーであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項3】
前記最外面層のエラストマー成分は、ウレタン結合を有することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項4】
前記最外面層のエラストマー成分は、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、又は、それらの変性ポリマーであることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項5】
前記最外面層と、接合するタイヤ内面とが、加硫により接合されることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項6】
前記バリア層のガスバリア性樹脂は、ヒドロキシ基を有することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項7】
前記最外面層のエラストマー成分は、前記ガスバリア性樹脂のヒドロキシ基と結合できる変性基を有することを特徴とする請求項6に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項8】
前記熱可塑性エラストマーが、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項9】
前記インナーライナーが、共押出成型により製造されることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用インナーライナー。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のタイヤ用インナーライナーを備えることを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−10493(P2013−10493A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−125368(P2012−125368)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)