説明

ウェビング巻取装置

【課題】巻取装置本体に対して回動可能に設けられる加速度センサの小型化が可能なウェビング巻取装置を得る。
【解決手段】本ウェビング巻取装置10の加速度センサ82は球体110が載置されるセンサハウジング102を備えている。このセンサハウジング102の支持壁116の縦壁118には回動軸142が形成されており、ハンガ84の支持壁86に形成された軸受孔144に回動自在に支持される。ここで、この回動軸142の形成位置は、支持壁116にセンサレバー130を装着し、更に、載置部104の湾曲面106上に球体110を載置した状態でのセンサハウジング102の重心位置よりも上方に設定されている。このため、球体110の下側やセンサハウジング102の下側に重量物を取り付けなくても巻取装置本体12が傾いた際に反応よくセンサハウジング102を回動させることができる。このため、加速度センサ82を小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置を構成するウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートベルト装置を構成するウェビング巻取装置には、車両が急減速した場合にスプールの引出方向への回転を規制するためのロック機構を作動させる加速度センサが設けられている。この種の加速度センサは、車両が急減速した際に慣性体が慣性移動する構成とされ、慣性体の慣性移動によりロック機構が作動する。
【0003】
一方、下記特許文献1に開示されたウェビング巻取装置はリクライニング機構を有するシートのシートバックに内蔵される。このため、ウェビング巻取装置の姿勢はシートバックの傾斜に伴い傾く。この特許文献1に開示されたウェビング巻取装置では、加速度センサの慣性体を支持するセンサケースが、ウェビング巻取装置の姿勢(傾き)に関わらず、その自重により水平を保てるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−274613の公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この特許文献1に開示されたウェビング巻取装置の加速度センサは、慣性体の重心位置を下げるため、その下側にウエイト部が設けられている。このため、慣性体、ひいては、加速度センサが大型化してしまう。
【0006】
本発明は上記事実を考慮して、巻取装置本体に対して回動可能に設けられる加速度センサの小型化が可能なウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、巻取方向に回転することでウェビングを巻取るスプールを有すると共に、作動することで前記巻取方向とは反対の引出方向への前記スプールの回転を規制するロック機構を有する巻取装置本体と、車両が急減速することによって慣性移動することで前記ロック機構を作動させる慣性質量体が載置されると共に、前記巻取装置本体に対して所定の回動軸周りに回動可能に前記巻取装置本体に設けられたハウジングを有し、更に、前記ハウジングの前記回動軸が前記慣性質量体を含む前記ハウジングの重心位置よりも上側に設定された加速度センサと、を備えている。
【0008】
請求項1に記載のウェビング巻取装置によれば、巻取装置本体のスプールからウェビングが引出されてシートに着座した乗員の身体に装着された状態で車両が急減速すると、加速度センサのハウジングに載置された慣性質量体が慣性移動する。慣性質量体が慣性移動すると巻取装置本体のロック機構が作動させられる。ロック機構が作動すると、スプールの引出方向への回転が規制され、これにより、スプールからのウェビングの引出しが規制される。これにより、車両前方へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビングによって強く拘束できる。
【0009】
一方、加速度センサは巻取装置本体に対して所定の回動軸周りに回動可能とされ、しかも、加速度センサにおいて慣性質量体を含むハウジングの重心位置がハウジングの回動軸の中心よりも下側に設定される。このため、ハウジングの回動軸の向きと同じ方向を軸方向とする軸周りに巻取装置本体が傾くと、加速度センサのハウジングは巻取装置本体が傾く前の姿勢を保とうし、巻取装置本体に対して回動軸周りに相対的に回動する。これにより、加速度センサのハウジングの姿勢が保たれ、巻取装置本体が傾いても巻取装置本体が傾く前の状態と同様に加速度センサが作動する。
【0010】
しかも、ハウジングの回動軸の位置が慣性質量体を含むハウジングの重心位置よりも上側に位置するようにハウジングの形状等が設定されるので、慣性質量体の重心位置を下げるためのウエイトを別途設けなくてもよく、また、慣性質量体の形状を特別な形状にしなくてもよい。このため、安価なコストで実現できる。
【0011】
請求項2に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項1に記載の本発明において、前記回動軸側へ向けて開口した凹形状に形成されて、前記慣性質量体としての球体が転動可能に載置される載置部を含めて前記ハウジングを構成すると共に、前記載置部と前記回動軸との間に前記球体を含めた前記ハウジングの重心が位置するように前記回動軸の位置を設定している。
【0012】
請求項2に記載のウェビング巻取装置によれば、ハウジングは巻取装置本体に対する回動軸側へ向けて開口した凹形状の載置部を有しており、この載置部上に慣性質量体としての球体が載置される。車両が急減速すると、球体が慣性で載置部上を転動し、載置部における凹面を昇る。これのような球体の動作によりロック機構が作動する。
【0013】
ここで、本発明に係るウェビング巻取装置では、球体が載置される載置部と巻取装置本体に対するハウジングの回動軸との間に球体を含めたハウジングの重心位置が設定される。このため、巻取装置本体が傾いても加速度センサのハウジングの姿勢が保たれ、巻取装置本体が傾く前の状態と同様に加速度センサが作動する。
【0014】
請求項3に記載の本発明に係るウェビング巻取装置は、請求項2に記載の本発明において、前記載置部上に載置された状態での前記球体の重心位置よりも上側に前記回動軸を設定している。
【0015】
請求項3に記載のウェビング巻取装置によれば、球体は車両急減速時に慣性移動する慣性質量体であるが故に質量が比較的大きく、この球体を含むハウジングの重心位置は球体の重心位置(中心位置)の近傍となる。このため、載置部上の球体の重心位置よりも上側に回動軸の位置を設定することで比較的に容易に回動軸の位置を設定できる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように、本発明に係るウェビング巻取装置は、巻取装置本体に対して回動可能に設けられる加速度センサの小型化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置の要部の構成を概略的に示す背面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置の要部の構成を概略的に示す側面図である。
【図3】巻取装置本体が傾いた状態を示す図2に対応した側面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置の要部の構成を概略的に示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<本実施の形態の構成>
図4には本発明の一実施の形態に係るウェビング巻取装置10の構成が概略的な分解斜視図によって示されている。この図に示されるように、ウェビング巻取装置10は巻取装置本体12を構成するフレーム14を備えている。フレーム14は図示しないシートのシートバックの内側で、シートバックを構成するシートバックフレーム(シートバックの骨格)等にボルト等により一体的に締結固定されている。
【0019】
このフレーム14は一対の脚板32、34を備えている。脚板32、34の各々は厚さ方向がシートバックの幅方向に沿った板状に形成されていると共にシートバックの幅方向に互いに対向している。この脚板32と脚板34との間にはスプール36が設けられている。スプール36は軸方向が脚板32と脚板34との対向方向に沿った中空の軸部材とされている。
【0020】
このスプール36にはウェビング38の長手方向基端側が係止されている。ウェビング38は幅方向がスプール36の軸方向に沿った長尺帯状に形成されており、スプール36がその中心軸線周りの一方である巻取方向に回転するとウェビング38がその長手方向基端側からスプール36の外周部に巻取られて格納され、ウェビング38をその先端側へ引っ張ると、スプール36に巻取られているウェビング38が引出されると共にスプール36が巻取方向とは反対の引出方向に回転する。
【0021】
スプール36の内側には、例えば、トーションシャフト等と称される棒状のエネルギー吸収手段が設けられている。このエネルギー吸収手段はスプール36における脚板34側でスプール36に対する相対回転が規制された状態でスプール36に繋がっている。さらに、このエネルギー吸収手段の脚板34側は脚板34に形成された透孔44を通過して脚板34の外側(脚板34の脚板32とは反対側)に突出している。
【0022】
この脚板34の外側(脚板34の脚板32とは反対側)ではスプリングケース46が脚板34に取り付けられている。スプリングケース46の内側には、スプール付勢手段としての渦巻きばねが収容されている。この渦巻きばねの渦巻き方向外側端はスプリングケース46に係止され、渦巻き方向内側端は上述したエネルギー吸収手段に直接又は間接的に係止されている。スプール36と共にエネルギー吸収手段が引出方向に回転すると、渦巻きばねが巻き締められ、エネルギー吸収手段を介してスプール36を巻取方向に付勢する。
【0023】
これにスプール36の脚板32側にはロック機構52を構成するロックベース54が設けられている。ロックベース54はスプール36に対して同軸的に相対回転可能にスプール36の脚板32側の端部に装着されている。但し、ロックベース54は上述したエネルギー吸収手段の脚板32側の部分にエネルギー吸収手段に対して相対回転が規制された状態で繋がっている。したがって、ロックベース54はスプール36に対し、エネルギー吸収手段を介して相対回転が規制された状態で繋がっていることになる。
【0024】
このロックベース54には外周面にて開口したパウル収容部56が形成されている。このパウル収容部56の内側にはロックパウル58が設けられている。また、ロックベース54は脚板32に形成されたラチェット孔60を貫通しており、パウル収容部56からロックパウル58の一部が抜け出ると、ロックパウル58の先端側に形成されたラチェット歯がラチェット孔60のラチェット歯に噛み合う。この状態では、ロックベース54の引出方向への回転が規制され、間接的にはスプール36の引出方向への回転が規制される。
【0025】
一方、脚板32の外側(脚板32の脚板34とは反対側)では脚板32にセンサホルダ62が取り付けられている。センサホルダ62は一部が脚板32側へ向けて開口した有底形状に形成されており、その内側にはVギヤ64が設けられている。Vギヤ64に対応して上述したエネルギー吸収手段から軸部66がセンサホルダ62側へ向けて延出されている。軸部66はスプール36に対して同軸的に設けられており、この軸部66にVギヤ64が回転自在に支持されている。
【0026】
Vギヤ64には図示しないスプリングが設けられている。このスプリングの一部はロックベース54に係合しており、ロックベース54が引出方向に回転するとロックベース54にスプリングが押圧されて、更にこのスプリングがVギヤ64を引出方向に押圧する。このため、Vギヤ64はロックベース54に追従して引出方向に回転できる。但し、スプリングを弾性変形させることでロックベース54はVギヤ64に対して相対的に引出方向に回転できる。また、上記のロックパウル58は一部がVギヤ64に係合しており、Vギヤ64に対するロックベース54の引出方向への相対回転に連動してパウル収容部56から抜け出る方向にロックパウル58が移動してラチェット孔60のラチェット歯に噛み合うようになっている。
【0027】
センサホルダ62の脚板32とは反対側にはセンサカバー78が設けられている。センサカバー78は脚板32側へ向けて開口した有底形状とされ、脚板32に取り付けられている。このセンサカバー78の内側には加速度センサ82が設けられている。加速度センサ82はハンガ84を備えている。ハンガ84は支持壁86、87を備えている。支持壁86と支持壁87とは、スプール36の軸方向と同じ向き、又は、スプール36の軸方向に対してシート前後方向を軸方向とする軸周りにシート上下方向へ傾斜した向きに互いに対向した板状に形成されている。
【0028】
これらの支持壁86、87の間には周壁88が形成されている。周壁88は支持壁86、87の外周一部に沿って形成されている。このため、ハンガ84は周壁88が形成されていない部分にて開口した中空箱形状とされ、支持壁87が脚板32に固定されることでハンガ84がフレーム14又はセンサホルダ62に取り付けられる。
【0029】
ハンガ84の支持壁86と支持壁87との間には、例えば、全体的に合成樹脂材を成形することにより形成されたセンサハウジング102が設けられている。センサハウジング102は載置部104を備えている。載置部104は厚さ方向上側に平面視略円形で上方へ向けて開口するように湾曲した凹形状の湾曲面106が形成されており、この湾曲面106上に慣性質量体としての球体110が載置されている。この球体110は、例えば、ステンレスや鉄等の金属によって形成されており、全体的にセンサハウジング102よりも充分に質量が大きい。
【0030】
なお、本実施の形態では、載置部104上において球体110が載置される部位を湾曲面106とした。しかしながら、球体110が載置される部位は、後述するように球体110が慣性により転動して昇り上がるような斜面であれば湾曲していなくてもよい。
【0031】
また、載置部104の支持壁87側の端部からは縦壁114が上方へ向けて立設されている。これに対して、載置部104の支持壁86側には支持壁116が設けられている。支持壁116は縦壁118を備えている。縦壁118は載置部104の支持壁86側の端部から上方へ向けて立設されており、支持壁86、87の対向方向に縦壁114と対向している。
【0032】
縦壁118の幅方向一端からは縦壁114側へ向けて横壁120が延出されており、縦壁118の幅方向他端からは縦壁114側へ向けて横壁122が延出されている。このため、支持壁116は平面視で縦壁114側へ向けて開口した凹形状とされている。支持壁116の上端部近傍には支持シャフト124が設けられている。支持シャフト124は軸方向が横壁120と横壁122との対向方向に沿った軸部材で、その一端は横壁120に支持されて他端は支持シャフト124に支持されている。
【0033】
また、横壁120と横壁122との間にはセンサレバー130が設けられているセンサレバー130は基部132を備えており、この基部132を上記の支持シャフト124が貫通している。これにより、センサレバー130が支持シャフト124周りに回動可能に支持されている。また、センサレバー130は笠部134を備えている。笠部134は外観が扁平の円錐形状に形成されている。この笠部134の底面は円錐の頂部とは反対側へ向けて開口した凹形状の湾曲面又は斜面とされており、この底面が載置部104における湾曲面106上に載置された球体110に覆い被さっている。
【0034】
このため、球体110が湾曲面106の縁部へ向かって湾曲面106上を昇り上がると、笠部134が支持シャフト124周りに上昇するように回動する。この笠部134には押圧突起136が略上方(すなわち、笠部134の底面とは反対側)へ突出形成されており、笠部134が支持シャフト124周りに上昇するように回動すると押圧突起136が後述するVパウル180を上方へ押し上げる。
【0035】
一方、支持壁116の縦壁118の上端部近傍には回動軸142が形成されている。回動軸142は縦壁118の縦壁114とは反対側の面からスプール36の軸方向と同じ向きに突出形成されており、ハンガ84の支持壁86に形成された軸受孔144に回動自在に支持されている。この縦壁118における回動軸142の形成位置は、載置部104における湾曲面106が形成された方の面よりも上側とされ、更に、載置部104の湾曲面106上に載置された球体110の中心位置よりも上側とされている。
【0036】
縦壁118における回動軸142の形成位置よりも下側では縦壁118からガイドピン146が突出形成されている。縦壁118からのガイドピン146の突出方向は縦壁118からの回動軸142の突出方向と同じ向きとされており、ハンガ84の支持壁86に形成されたガイド孔148に入り込んでいる。
【0037】
ガイド孔148は軸受孔144を曲率の中心として湾曲した長孔とされている。このガイド孔148の内側にガイドピン146が入り込んでいることによりガイド孔148の長手方向一端にガイドピン146が当接する位置からガイド孔148の長手方向他端にガイドピン146が当接する位置までの間に回動軸142周りのセンサハウジング102の回動範囲が限定されている。
【0038】
また、図1に示されるように、縦壁114には回動軸150が形成されている。回動軸150は縦壁114の縦壁118とは反対側の面から上記の回動軸142に対して同軸的に突出形成されている。この回動軸150はハンガ84の支持壁87に形成された軸受孔152に回動自在に支持されている。
【0039】
ここで、支持壁116の縦壁118における回動軸142の形成位置、及び、縦壁114における回動軸150の形成位置は、支持壁116にセンサレバー130を装着し、更に、載置部104の湾曲面106上に球体110を載置した状態でのセンサハウジング102の重心位置よりも上方に設定されている。
【0040】
一方、センサホルダ62からは脚板32とは反対側へ向けて支持シャフト178が突出形成されている。支持シャフト178は軸方向がスプール36の軸方向と同じ向きに設定されており、Vパウル180の基部182が支持シャフト178周りに回動自在に支持されている。このVパウル180は板状の受圧板184を備えている。この受圧板184はセンサレバー130の押圧突起136の上側に位置していると共に、ガイド孔148の一端にガイドピン146が当接した状態からガイド孔148の他端にガイドピン146が当接した状態の間の回動軸142周りのセンサハウジング102の回動範囲内で受圧板184の下側の面が押圧突起136と対向するように押圧突起136の大きさが設定されている。
【0041】
また、Vパウル180は係合爪186を備えている。この係合爪186に対応してセンサホルダ62には図示しない開口が形成されており、この開口を介してセンサホルダ62においてVギヤ64を収容する部分とセンサホルダ62の外側とが連通している。支持シャフト124周りに上昇するようにセンサレバー130が回動して、押圧突起136が受圧板184を上方へ押圧すると、係合爪186がVギヤ64の外周部に形成されたラチェット歯に噛み合う。このように係合爪186がVギヤ64のラチェット歯に噛み合うとVギヤ64の引出方向への回転が規制される。
【0042】
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本実施の形態の作用並びに効果について説明する。
【0043】
本ウェビング巻取装置10では、車両が急減速すると加速度センサ82におけるセンサハウジング102の載置部104に形成された湾曲面106上を球体110が湾曲面106の縁部側へ向けて転動しつつ昇り上がる。このように転動した球体110は笠部134の底面を上方へ押圧し、支持シャフト124周りにセンサレバー130を上方へ向けて回動させる。
【0044】
このようにセンサレバー130が回動すると笠部134に形成された押圧突起136がVパウル180の受圧板184の下面を上方へ押圧し、支持シャフト178周りにVパウル180を回動させる。このように回動したVパウル180は係合爪186が上昇して、Vギヤ64の外周部に形成されたラチェット歯に噛み合う。これにより、Vギヤ64の引出方向への回転が規制される。
【0045】
一方、車両が急減速することでウェビング38を装着した乗員が車両前方へ慣性移動するとウェビング38が引っ張られる。ウェビング38が引っ張られるとスプール36が引出方向へ回転する。スプール36には上述したエネルギー吸収手段を介してロックベース54が繋がっている。ロックベース54はスプール36に対する相対回転が規制されているので、スプール36が引出方向に回転することでロックベース54が引出方向に回転する。
【0046】
ここで、上記のようにVパウル180の係合爪186がVギヤ64のラチェット歯に噛み合うことでVギヤ64の引出方向への相対回転が規制された状態でスプール36と共にロックベース54が引出方向に回転すると、Vギヤ64に対するロックベース54の相対的な引出方向への回転が生じる。このような相対回転がVギヤ64とロックベース54との間で生じると、ロックベース54に形成されたロックパウル58からパウル収容部56の一部が突出するようにパウル収容部56が移動し、これにより、脚板32に形成されたラチェット孔60のラチェット歯にパウル収容部56の先端側のラチェット歯が噛み合う。
【0047】
このようにラチェット孔60のラチェット歯にパウル収容部56のラチェット歯が噛み合うことでロックベース54の引出方向への回転、ひいては、スプール36の引出方向への回転が規制される。これによってスプール36からのウェビング38の引出しが規制され、ウェビング38によって車両前方へ慣性移動する乗員の身体を効果的に拘束できる。
【0048】
ところで、本ウェビング巻取装置10は上述したように車両のシートを構成するシートバックに内蔵される。車両のシートはシートクッションに対してシートバックがその幅方向を軸方向とする軸周りに傾動する所謂「リクライニング機構」が設けられている。シートバックがシートクッションに対して傾動すると、シートバックに内蔵されたウェビング巻取装置10の巻取装置本体12がシートバックと共にシート幅方向、すなわち、スプール36の軸方向と同じ向きを軸方向とする軸周りに回動して傾く。
【0049】
ここで、本ウェビング巻取装置10では、加速度センサ82のセンサハウジング102はスプール36の軸方向と同じ向きを軸方向とする回動軸142、150周りに回動可能である。しかも、センサハウジング102は合成樹脂材の成形品であるものの、センサハウジング102における載置部104の湾曲面106上に載置された球体110はセンサハウジング102よりも質量が大きい。
【0050】
また、支持壁116の縦壁118における回動軸142の形成位置、及び、縦壁114における回動軸150の形成位置は、支持壁116にセンサレバー130を装着し、更に、載置部104の湾曲面106上に球体110を載置した状態でのセンサハウジング102の重心位置よりも上方に設定されている。
【0051】
このため、図2に示される状態から図3に示されるように巻取装置本体12が傾くと、センサハウジング102は慣性で回動軸142、150周りに回動して元の姿勢(載置部104の上面が鉛直上方を向いた姿勢)を維持する。これにより、シートバックと共に巻取装置本体12が傾いても、不用意に(車両が急減速していないのに)球体110が転動することを防止できる。
【0052】
また、本ウェビング巻取装置10では、慣性質量体が球形状の球体110である。このため、球体110の中心、すなわち、球体110の重心位置は簡単に把握できる。ここで、本ウェビング巻取装置10では、回動軸142、150の形成位置を載置部104の湾曲面106上に載置された球体110の中心位置よりも上側とすることで支持壁116にセンサレバー130を装着し、更に、載置部104の湾曲面106上に球体110を載置した状態でのセンサハウジング102の重心位置よりも上方としている。このため、回動軸142、150の形成位置の設定が容易である。
【0053】
さらに、本ウェビング巻取装置10では、回動軸142、150の形成位置を上記のように設定していることで、球体110の下側やセンサハウジング102の下側に重量物を取り付けなくても巻取装置本体12が傾いた際に反応よくセンサハウジング102を回動させることができる。このため、加速度センサ82を小型化できる。
【0054】
しかも、本ウェビング巻取装置10では、慣性質量体が球形状の球体110であるので、湾曲面106上で慣性質量体が転がることによりロック機構52を作動させるという構造とすることができる。このような構造では、載置部104の上面を上方へ向けて開口した湾曲面や斜面にすればよいので、載置部104の構造も単純で簡単である。
【0055】
また、例えば、本ウェビング巻取装置10とは異なり、車両のセンターピラー等に設けられるウェビング巻取装置は、シートバックに内蔵される構成とは異なり巻取装置本体が傾いてしまうことがない。このため、このようなウェビング巻取装置では本ウェビング巻取装置10のように加速度センサに球体が転動することでロック機構を作動させるタイプのものが用いられることが多い。ここで、本ウェビング巻取装置10では、上記のように慣性質量体に載置部104の湾曲面106上で転がる球体110を用いているので、車両のセンターピラー等に設けられるウェビング巻取装置の加速度センサに用いられる球体との共用が可能になる。
【0056】
なお、本実施の形態では説明しなかったが、ロック機構52は加速度センサ82が作動した際に作動できる構成であればよい。したがって、加速度センサ82以外のセンサ、例えば、スプール36の引出方向への回転加速度が所定の大きさ以上の場合に作動するセンサが作動した際にもロック機構52が作動する構成としてもよい。
【0057】
また、慣性質量体としての球体110が球形状であることのメリットは上述のとおりであるが、慣性質量体の形状を球形状に限定するものではない。すなわち、例えば、慣性質量体が円柱形状や円板形状、直方体形状や下面が張り出した曲面の錐形状や錐台形状等の非球形状とする構成であってもよい。
【0058】
さらに、本実施の形態では、ロックベース54に設けたパウル収容部56がフレーム14の脚板32に形成されたラチェット孔60のラチェット歯に噛み合うことでロックベース54、ひいてはスプール36の引出方向への回転を規制する構成であったが、ロック機構の構成がこのような構成に限定されるものではない。例えば、ロックベース54の外周部にラチェット歯を形成し、フレーム14の脚板32等に設けられたパウルがロックベース54のラチェット歯に噛み合うことでロックベース54、ひいてはスプール36の引出方向への回転を規制する構成のロック機構であってもよい。
【0059】
また、本実施の形態では特に言及していないが、例えば、センサハウジング102に求められる回転角度等の諸条件によってはセンサハウジング102の支持壁116等にウエイト(重り)を設ける構成としてもよい。なお、このようにセンサハウジング102にウエイトを設ける構成の場合、支持壁116の縦壁118における回動軸142の形成位置、及び、縦壁114における回動軸150の形成位置を、このウエイトを含んだセンサハウジング102の重心位置よりも上方に設定されることになる。
【0060】
さらに、本発明の観点からすれば、回動して傾く巻取装置本体12に対してセンサハウジング102が慣性で巻取装置本体12に対して相対的に回動できる構成を備えていればよい。したがって、例えば、シートバックの傾動に連動又はシートバックと一体的に移動する移動体を含めて構成された傾動検出手段をシートに設け、傾動検出手段の移動体とセンサハウジング102とをワイヤやケーブル等の機械的連結手段で連結し、移動体にセンサハウジング102を連動させる構成を付加してもよい。
【0061】
また、本実施の形態に係るウェビング巻取装置10は、「リクライニング機構」を有するシートを構成するシートバックに内蔵される構成であるが、本ウェビング巻取装置10の設置位置がシートバックの内側に限定されるものではない。したがって、シートクッションの内側や、シートの側方、更には、車両のセンターピラーやルーフ等、車両におけるシートバック以外の位置にウェビング巻取装置10を設置してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10 ウェビング巻取装置
12 巻取装置本体
36 スプール
38 ウェビング
52 ロック機構
82 加速度センサ
102 センサハウジング(ハウジング)
104 載置部
110 球体(慣性質量体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻取方向に回転することでウェビングを巻取るスプールを有すると共に、作動することで前記巻取方向とは反対の引出方向への前記スプールの回転を規制するロック機構を有する巻取装置本体と、
車両が急減速することによって慣性移動することで前記ロック機構を作動させる慣性質量体が載置されると共に、前記巻取装置本体に対して所定の回動軸周りに回動可能に前記巻取装置本体に設けられたハウジングを有し、更に、前記ハウジングの前記回動軸が前記慣性質量体を含む前記ハウジングの重心位置よりも上側に設定された加速度センサと、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記回動軸側へ向けて開口した凹形状に形成されて、前記慣性質量体としての球体が転動可能に載置される載置部を含めて前記ハウジングを構成すると共に、前記載置部と前記回動軸との間に前記球体を含めた前記ハウジングの重心が位置するように前記回動軸の位置を設定した請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記載置部上に載置された状態での前記球体の重心位置よりも上側に前記回動軸を設定した請求項2に記載のウェビング巻取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107499(P2013−107499A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254070(P2011−254070)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】