説明

エアバッグ装置用袋体

【目的】 簡単な構造により、短時間に膨出し確実に乗員の衝突エネルギーを吸収できるエアバッグ装置用袋体を提供する。
【構成】 インフレータから送られる膨張用圧力ガスを排気するためのベントホール26を有するエアバッグ装置用袋体において、前記インフレータとベントホール26とを結ぶガスの拡散方向、すなわち、袋体10の半径方向を介してその両側にあるベントホール周縁部を互いに縫着してベントホール26を閉塞し、内圧上昇により破断して縫着を解除する縫着部を有する。このため、袋体10の膨張初期の前方突出力によって発生する膨張衝撃張力Fがベントホール26に加わらないので、袋体10の膨張途中でベントホール26が開口してガスが排気されることがなく、袋体10は瞬時に膨張する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両急減速時に作動するエアバッグ装置に用いられ、エアバッグ装置作動時には乗員側へ向けて膨出するエアバッグ装置用袋体に関する。
【0002】
【従来の技術】エアバッグ装置、例えば、ステアリングホイールに取付けられるエアバッグ装置は、車両急減速時の加速度センサの作動によりインフレータから発生する大量のガスを、インフレータの乗員側に折り畳まれた状態でパッド内に格納されている袋体内へ流入し、この袋体を乗員側へ向けて膨出させてステアリングホイールと乗員との間に介在させるように構成されている。
【0003】従来よりこの種のエアバッグ装置用袋体には、膨張する袋体の内圧を所定値に維持するために、反乗員側の部位に円形状の排気孔(以下、「ベントホール」という。)が設けられている。このベントホールの周縁部を、図10に示すように、所定の強度を有する縫合糸4で縫着して、袋体6の膨張途中においてはベントホール2の閉塞状態を維持し、袋体6からガスが排気されることのないようにすると共に、袋体6の膨張後に乗員が袋体6と当接することにより又はガス圧により、この袋体6の内圧が所定値以上となったときには、縫合糸4が破断されてベントホール2が開口し、このベントホール2を介してガスが袋体6の内部から外部へ所定量排気されることにより、所定の内圧で袋体6の膨出状態を維持する構造のものが本願出願人による特願平5−164705号に提示された。
【0004】しかしながら、このベントホール2の縫着方向(図3(C)における矢印A方向)が、ベントホール2におけるガスの拡散方向、例えば、図9のように袋体6を構成する基布が円形の場合は、この袋体6の半径方向に沿っていない場合には、膨出しようとする袋体6の初期の前方突出力により、このベントホール2に前記ガスの拡散方向に沿って大きな膨張衝撃張力Fが加わる。このため、袋体6が完全に膨張状態となる前に縫合糸4が破断されて、ガスが排気されることによって、袋体6の膨出動作を遅延させることのないようにする必要があり、縫合糸4の縫製強度を上げる等の対策を施さなければならない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事実を考慮し、簡単な構造により、短時間に膨出し確実に乗員の衝突エネルギーを吸収できるエアバッグ装置用袋体を得ることが目的である。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、ガス供給部から送られる膨張用圧力ガスを排気するためのベントホールを有するエアバッグ装置用袋体において、前記ガス供給部とベントホールとを結ぶガス拡散方向を介してその両側にあるベントホール周縁部を互いに縫着してベントホールを閉塞し、内圧上昇により破断して縫着を解除する縫着部を有することを特徴とする。
【0007】
【作用】車両急減速時にガス供給部からの圧力ガスにより、袋体が乗員側へ膨出しようとする。このときガス供給部からベントホールを通る圧力ガスの拡散方向に沿って、袋体の膨張初期の前方突出力によって膨張衝撃張力が発生する。しかし、ベントホールは前記圧力ガスの拡散方向の両側にあるベントホール周縁部が互いに縫着されて閉塞されているため、袋体の膨張途中においては、ベントホールの周縁部分に縫製された縫合糸は縫合状態を維持し、ベントホールは閉塞状態を維持される。従って、縫合糸の縫製強度を上げなくても袋体の膨張途中でベントホールからガスが排気されることがないので、袋体の膨張動作は遅延されることなく、袋体は瞬時に膨張状態となる。
【0008】一方、袋体が完全に又はほぼ膨張状態となり、乗員がこの袋体と当接して又はガス圧によって袋体の内圧が所定値以上となったときは、ベントホール周縁部分に縫製された縫合糸がこの内圧に抗しきれずに破断され、ベントホールが開口してガスが排気される。このため、袋体の内圧の上昇が抑えられ、乗員の衝撃エネルギーがスムースに吸収されて乗員を確実に受け止めることができる。
【0009】
【実施例】図1には、本発明の第1実施例に係る袋体10が適用されたエアバッグ装置12の概略全体構成が袋体膨張状態で示されている。
【0010】エアバッグ装置12は、ステアリングホイール14の中央部分に配置されており、ステアリングホイール14と共に回転、又は相対回転可能となっている。このエアバッグ装置12では、内部に袋体10が折り畳まれて収容されている。この袋体10内には、ガス発生用のインフレータ16が取り付けられている。インフレータ16にはガス発生物質が封入されており、車両急減速時にはガス発生物質が燃焼によって分解して大量のガスを放出し、このガスで袋体10を膨張できる。
【0011】図2に示すように、袋体10は上基布18と下基布20とを縫製することにより略球形の袋体に形成されている。すなわち、袋体10は、各々円形状に裁断された上基布18と下基布20の外周縁部分を互いに内方へ折り返して合わせた状態で縫着手段としての縫合糸22によって縫合されている。これらの上基布18及び下基布20は、ネオプレン又はシリコン等の樹脂でコーティングされたナイロン平織又はコーティングを省略したリップストップ織等の耐熱性及びシール性に優れた布材で形成されている。また、縫合糸22は、綿、絹等の天然繊維又はナイロン等の合成繊維で形成され、上基布18と下基布20の縫着状態を維持するのに十分な強度、太さを有している必要があり、高強度及び安価であることから一例として1260デニールのナイロン縫糸とされている。
【0012】下基布20の中央部には、ガス供給部を構成するインフレータ取付用の取付孔24が形成されており、この取付孔24にインフレータ16が入り込んだ状態で固定されている。また、取付孔24の近傍には、膨張した後にガスを放出して衝撃を吸収するための一対のベントホール26が形成されている。
【0013】図3(A)に示すように、このベントホール26においては、孔26Aの対向周縁部分が折り山線Lを中心に互いに重ね合わされて、図3(B)に示すような重合部26Bが設けられ、孔26Aが半円形状に形成されるように折り畳まれる。このように折り畳まれた状態で、図3(C)に示すように、孔26Aの周縁部分に沿ってこの重合部26Bが縫着及び破断手段としての縫合糸28によって縫着されている。この縫着において、ベントホール26の縫着方向、すなわち、縫製部分の両端を結んだ方向(矢印A方向)を、図2に示すように、膨張又は展開状態の袋体10においてベントホール26のガスの拡散方向、すなわち、袋体10の半径方向に沿わせるために、このガスの拡散方向に図3(A)における折り山線Lを向けて重合、縫着がされる。
【0014】縫合糸28は縫合糸22と同様の材料で形成されており、高強度及び安価であることから、一例として420デニールのナイロン縫糸とされている。すなわち、ベントホール26の縫製部分の強度は、上基布18と下基布20の外周縁部分の縫製強度以下の縫製強度とされている。このためには、縫合糸22よりも引っ張り強度の弱い縫合糸28を用いたり、縫合糸22は上基布18、下基布20を複数回縫い込んで縫着するのに対し、縫合糸28はこれより少ない回数、例えば一周のみの縫い込みにする等の強度差別手段が適用できる。
【0015】図1及び図2に示すように、袋体10(上基布18と下基布20)の内部には、ストラップ30、32、34が配置されている。ストラップ30、32は取付孔24の左右両側に位置し、またストラップ34は取付孔24の下方側に位置しており、それぞれ、上端部が上基布18に、下端部が下基布20に縫製されて連結されている。これらのストラップ30、32、34は、袋体10が膨張した際に、上基布18と下基布20の膨張展開を制限して、袋体10が所定の形状を維持するようになっている。
【0016】次に、第1実施例の作用を説明する。通常の車両走行状態では、加速度センサ(図示省略)が作動することはないので、袋体10はステアリングホイールに取付けられたベースプレート(図示省略)とパッド(図示省略)との間に折り畳まれた状態で格納されている。
【0017】この状態から車両急減速状態になると、加速度センサが作動して、インフレータ16から発生したガスがインフレータ16のガス孔16Aから袋体10内へ流入して、袋体10が膨出しようとする。このときガスの拡散方向、すなわち、図2における袋体10の半径方向に沿って、袋体10の膨張初期の前方突出力によって膨張衝撃張力Fが発生する。しかし、本実施例に係るベントホール26では、孔26Aの周縁部分がこのガスの拡散方向に沿って縫着されているため、この膨張衝撃張力Fはベントホール26に加わらない。このため、袋体10の膨張途中においては、孔26Aの周縁部分に縫製された縫合糸28は縫合状態を維持し、ベントホール26は閉塞状態を維持される。従って、袋体10の膨張途中でベントホール26からガスが排気されることがないので、インフレータ16から発生したガスが比較的低圧、低速であっても短時間に膨出すると共に、袋体10の内圧が膨出初期に必要な値に達する。すなわち、袋体10の膨張動作は遅延されることなく、袋体10は瞬時に膨張状態となって、図4に示すように、ステアリングホイール14と乗員Mとの間に介在する。
【0018】一方、袋体10が完全に膨張状態となり、袋体10の内圧が乗員Mの当接によって又はガス圧によって上昇すると、重合部26Bが互いに離反する力を受け、縫合糸28に引っ張り力が作用する。ベントホール26の孔26Aは上基布18と下基布20の外周縁部分の縫製強度以下の縫製強度によって縫製されているため、袋体10の内圧の上昇に伴って上基布18と下基布20の外周縁部分の縫合糸22より先に縫合糸28が破断する。これにより、ベントホール26の重合部26Bが離反し孔26Aが袋体10の内外を連通する状態となり、孔26Aからガスが流出する。このため、袋体10の内圧の過度な上昇が抑えられ、乗員Mの衝撃エネルギーがスムーズに吸収されて乗員Mは袋体10によって確実に受け止められる。
【0019】次に本発明の第2実施例を説明する。なお、前記第1実施例と基本的に同一の部品には前記第1実施例と同一の符号を付与しその説明を省略している。また、袋体を構成する基布の材質、基布の外周縁部分の縫着に使用される縫合糸の材質及び太さ等並びにベントホールの逢着に使用される縫合糸の材質及び太さ等は、第1実施例における上基布18、下基布20、縫合糸22、28とそれぞれ同様とする。
【0020】図5には、本発明の第2実施例に係る袋体40が適用されたエアバッグ装置42の概略全体構成が示されている。また、図6(A)にはこの袋体40が膨張した状態における概略斜視図が示され,図6(B)には、図6(A)をドア44から見た側面図が示されている。
【0021】エアバッグ装置42は、車両の運転席側のドア44のアウタパネルとインナパネルとの間に配設されており、例えば図5の矢印D方向に沿って所定の荷重が作用した場合に、そのときのアウタパネルの変形により、ドア44に外方から所定の荷重が作用したことを感知する図示しないセンサを備えている。また、エアバッグ装置42は、前記インフレータ16を備えており、このインフレータ16の車両室内側となる位置には、袋体40が折り畳まれて収容されている。
【0022】この袋体40は、二枚の基布を所定の箇所で縫合することにより構成されている。すなわち、図6(A)に示すように、袋体40は、各々短形上に裁断された車室内側(すなわち、図5における乗員Mの側)の上基布46と車室外側の下基布48を備えており、これらの上基布46と下基布48の外周縁部分を互いに内方へ折り返して合わせた状態で縫着手段としての縫合糸50によって縫合されている。この縫合糸50は一例として1260デニールのナイロン縫糸とされている。
【0023】また、袋体40の反乗員側の部位、すなわち、インフレータ16が略中央部に取付けられた下基布48には、ベントホール52が形成されている。このベントホール52においては、孔52Aの対向周縁部分が互いに重ね合わされて、重合部52Bが設けられ、孔52Aが半円形状に形成されるように折り畳まれている。このように折り畳まれた状態で、孔52Aの周縁部分に沿ってこの重合部52Bが縫着及び破断手段としての縫合糸54によって縫着されている。この縫着において、ベントホール52の縫着方向、すなわち、縫製部分の両端を結んだ方向(図3(A)の矢印A方向)を、膨張又は展開状態の袋体40においてベントホール52のガスの拡散方向、すなわち、図示しないインフレータ取付孔の中心から放射方向(図6(B)における矢印E方向)に沿わせるために、このガスの拡散方向に図3(A)における折り山線Lを向けて重合、縫着がされる。
【0024】この縫合糸54は一例として420デニールのナイロン縫糸とされている。すなわち、ベントホール52の縫製部分の強度は、上基布46と下基布48の外周縁部分の縫製強度以下の縫製強度とされている。このために、第1実施例と同様の強度差別手段が使用できる。
【0025】次に、第2実施例の作用を説明する。上記構成の袋体40は、通常は(エアバッグ装置42が非作動状態では)、折り畳まれた状態でドア44のアウタパネルとインナパネルとの間に格納されている。
【0026】この状態から車両急減速状態になると、図示しない加速度センサが作動して、インフレータ16から発生したガスがインフレータ16のガス孔16Aから袋体40内へ流入して、袋体40が膨出しようとする。このときガスの拡散方向、すなわち、図示しないインフレータ取付孔の中心から放射方向に沿って、袋体40の膨張初期の前方突出力によって膨張衝撃張力Fが発生する。しかし、本実施例に係るベントホール52では、孔52Aの周縁部分がこのガスの拡散方向に沿って縫着されているため、この膨張衝撃張力Fはベントホール52に加わらない。このため、袋体40の膨張途中においては、孔52Aの周縁部分に縫製された縫合糸54は縫合状態を維持し、ベントホール52は閉塞状態を維持される。従って、袋体42の膨張途中でベントホール52からガスが排気されることがないので、インフレータ16から発生したガスが比較的低圧、低速であっても短時間に膨出すると共に、袋体40の内圧が膨出初期に必要な値に達する。すなわち、袋体40の膨張動作は遅延されることなく、図示しないドアトリムの一部でもあるエアバッグドアを開放させながら、袋体40は瞬時に膨張状態となって、図5に示すように、ドアのインナパネルと乗員Mとの間に介在する。
【0027】一方、袋体40が完全に膨張状態となり、袋体40の内圧が乗員Mの当接によって又はガス圧によって上昇すると、ベントホール52の孔52Aは上基布46と下基布48の外周縁部分の縫製強度以下の縫製強度によって縫製されているため、袋体40の内圧の上昇に伴ってベントホール52に押圧力が作用し上基布46と下基布48の外周縁部分の縫合糸50より先に縫合糸54が破断する。これにより、ベントホール52の重合部52Bが離反し孔52Aが袋体40の内外を連通する状態となり、孔52Aからガスが流出する。このため、袋体40の内圧の過度な上昇が抑えられ、乗員Mの側部における衝撃エネルギーがスムースに吸収されて、乗員Mへの負荷が低減されて乗員Mが保護される。
【0028】次に本発明の第3実施例を説明する。なお、前記第1実施例と基本的に同一の部品には前記第1実施例と同一の符号を付与してその説明を省略している。また、袋体を構成する基布の材質、基布の外周縁部分の縫着に使用される縫合糸の材質及び太さ等並びにベントホールの逢着に使用される縫合糸の材質及び太さ等は、第1実施例における上基布18、下基布20、縫合糸22、28とそれぞれ同様とする。
【0029】図7には、本発明の第3実施例に係る袋体60が適用されたエアバッグ装置62の概略全体構成が示されている。また、図8(A)にはこの袋体60が膨張した状態における概略斜視図が示され、図8(B)には図8(A)を車体上側から見た上面図が示されている。
【0030】図7に示すように、エアバッグ装置62は、パッセンジャー席としての助手席64の車両前方側に配設されたインストルメントパネル66の車両略前方側に取付けられており、また、このエアバッグ装置62には、内部に袋体60が折り畳まれて収容されている。この袋体60内には、前記インフレータ16が取り付けられており、このインフレータ16が車両急減速時に大量のガスを放出し、このガスで袋体60を乗員M側に膨張できるようになっている。
【0031】この袋体60は、三枚の基布を所定の箇所で縫合することにより構成されている。すなわち、図8(A)に示すように、袋体60は、略台形形状に裁断され、乗員から見て右側及び左側にある二枚の側基布68A、68Bと略台形の下底を対称線として線対称の形状に裁断された一枚の中央基布70を備えており、これらの側基布68A、68Bと中央基布70の外周縁部分をそれぞれ互いに内方へ折り返して合わせた状態で縫着手段としての縫合糸72A、72Bによって縫合されている。この縫合糸72A、72Bは一例として1260デニールのナイロン縫糸とされている。
【0032】また、袋体60の膨張状態において中央基布70の反乗員側、かつ、インフレータ16より上側及び下側の部位の中央基布70の横幅の略中央部に、ベントホール74がそれぞれ形成されている。このベントホール74においては、孔74Aの対向周縁部分が互いに重ね合わされて、重合部74Bが設けられ、孔74Aが半円形状に形成されるように折り畳まれている。このように折り畳まれた状態で、孔74Aの周縁部分に沿ってこの重合部74Bが縫着及び破断手段としての縫合糸76によって縫着されている。この縫着において、ベントホール74の縫着方向、すなわち、縫製部分の両端を結んだ方向(図3(A)の矢印A方向)を、膨張又は展開状態の袋体60においてベントホール74のガスの拡散方向、すなわち、本実施例においては、インフレータ16の取付孔78の中心から中央基布70の前記横幅の中心方向(図8(B)における矢印G方向)に沿わせるために、このガスの拡散方向に図3(A)における折り山線Lを向けて重合、縫着がされる。
【0033】この縫合糸76は一例として420デニールのナイロン縫糸とされている。すなわち、ベントホール74の縫製部分の強度は、側基布68A、68Bと中央基布70の外周縁部分の縫製強度以下の縫製強度とされている。このために、第1実施例と同様の強度差別手段が使用できる。
【0034】次に、第3実施例の作用を説明する。上記構成の袋体60は、エアバッグ装置62の非作動状態では、折り畳まれた状態でインストルメントパネル66内に格納されている。
【0035】この状態から車両急減速状態になると、図示しない加速度センサが作動して、インフレータ16から発生したガスがインフレータ16のガス孔16Aから袋体60内へ流入して、袋体60が膨出しようとする。このときガスの拡散方向、すなわち、インフレータ16の取付孔78の中心から中央基布70の前記横幅の中心方向に沿って、袋体60の膨張初期の前方突出力によって膨張衝撃張力Fが発生する。しかし、本実施例に係るベントホール74では、孔74Aの周縁部分がこのガスの拡散方向に沿って縫着されているため、この膨張衝撃張力Fはベントホール74に加わらない。このため、袋体60の膨張途中においては、孔74Aの周縁部分に縫製された縫合糸76は縫合状態を維持し、ベントホール74は閉塞状態を維持される。従って、袋体60の膨張途中でベントホール74からガスが排気されることがないので、インフレータ16から発生したガスが比較的低圧、低速であっても短時間に膨出すると共に、袋体60の内圧が膨出初期に必要な値に達する。すなわち、袋体60の膨張動作は遅延されることなく、図示しないエアバッグカバーを破断させて、袋体60は瞬時に膨張状態となって、図7に示すように、インストルメントパネル66と乗員Mとの間に介在する。
【0036】一方、袋体60が完全に膨張状態となり、袋体60の内圧が乗員Mの当接によって又はガス圧によって上昇すると、ベントホール74の孔74Aは側基布68A、68Bと中央基布70の外周縁部分の縫製強度以下の縫製強度によって縫製されているため、袋体60の内圧の上昇に伴ってベントホール74に押圧力が作用し側基布68A、68Bと中央基布70の外周縁部分の縫合糸72A、72Bより先に縫合糸76が破断する。これにより、ベントホール74の重合部74Bが離反し孔74Aが袋体60の内外を連通する状態となり、孔74Aからガスが流出する。このため、袋体60の内圧の過度な上昇が抑えられ、乗員Mの衝撃エネルギーがスムースに吸収されて乗員Mは袋体60によって確実に受け止められる。
【0037】なお、本実施例におけるエアバッグセンサの種類としては、機械式であるか、電気式であるかを問わず、ガス供給源も図示構造に限らず、他の車体部分から圧力ガスを導くものであってもよい。また、本実施例では、インフレータ16を下基布20、48の取付孔24、又は、中央基布70の取付孔78に取り付けた構造としたが、これに限らず、インフレータ16を車体の他の部分に設置することができる。
【0038】さらに、縫合糸28、54、76の太さ、強度は本実施例に限定されるものではなく、孔26A、52A、74Aの対向周縁部を互いに縫着して孔26A、52A、74Aを閉止し、袋体10、40、60の内圧上昇により破断して縫着を解除できる太さ、強度であれば、適宜変更できる。また、上記実施例では、図3(C)において縫合糸28を半円状に縫い込んでいるが、屈曲直線状に縫い込んで部分的に引っ張り応力が集中し易くしてもよい。さらに、縫合糸28は孔26Aの回りを全周に渡って縫い込む以外にも周囲の一部を残して他の部分のみを縫い込むようにしてもよい。あるいは、上記実施例では、縫着用として用いた縫合糸にナイロン縫糸を使用しているが、先に述べたように天然繊維又は合成繊維等の各種糸が適用でき、さらには縫着可能であれば、糸以外のガラス、金属等であってもよい。
【0039】
【発明の効果】以上説明したように本発明に係るエアバッグ装置用袋体は、簡単な構造により、短時間に膨出し確実に乗員の衝突エネルギーを吸収できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例に係るエアバッグ装置用袋体の構成を示す膨張状態において一部を破断した斜視図である。
【図2】本発明の第1実施例に係る袋体を車体側から見た状態を示す底面図である。
【図3】(A)乃至(C)は本発明の第1実施例に係る袋体のベントホールの縫着手順を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1実施例に係る袋体が適用されたエアバッグ装置が作動し袋体が膨張した状態における概略側面図である。
【図5】本発明の第2実施例に係る袋体が適用されたエアバッグ装置の概略全体構成図である。
【図6】(A)は本発明の第2実施例に係るエアバッグ装置用袋体を一部を破断して半乗員側から見た斜視図であり、(B)は本発明の第2実施例に係る袋体を反乗員側から見た状態を示す側面図である。
【図7】本発明の第3実施例に係る袋体が適用されたエアバッグ装置の概略全体構成図である。
【図8】(A)は本発明の第3実施例に係るエアバッグ装置用袋体を乗員側から見た斜視図であり、(B)は本発明の第3実施例に係る袋体を車体上側から見た状態を示す上面図である。
【図9】先行技術における袋体を車体側から見た状態を示す底面図である。
【図10】先行技術におけるエアバッグ装置用袋体の構成を示す膨張状態において一部を破断した斜視図である。
【符号の説明】
10 袋体
12 エアバッグ装置
16 インフレータ
24 取付孔
26 ベントホール
26A 孔
26B 重合部
28 縫合糸
40 袋体
42 エアバッグ装置
52 ベントホール
52A 孔
52B 重合部
54 縫合糸
60 袋体
62 エアバッグ装置
74 ベントホール
74A 孔
74B 重合部
76 縫合糸
78 取付孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガス供給部から送られる膨張用圧力ガスを排気するためのベントホールを有するエアバッグ装置用袋体において、前記ガス供給部とベントホールとを結ぶガス拡散方向を介してその両側にあるベントホール周縁部を互いに縫着してベントホールを閉塞し、内圧上昇により破断して縫着を解除する縫着部を有することを特徴とするエアバッグ装置用袋体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開平7−223503
【公開日】平成7年(1995)8月22日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平6−76150
【出願日】平成6年(1994)4月14日
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)