説明

エチレン−ビニルエステル共重合体ケン化物組成物及び当該組成物を用いた多層構造体

【課題】高温での耐着色性、耐熱性に優れ、更に熱可塑性樹脂組成物との接着性に優れ、且つ外観に優れた多層構造体を提供できるEVOH樹脂組成物及び当該組成物層を含む多層構造体を提供する。
【解決手段】(A)EVOH樹脂;(B)アルカリ土類金属;(C)アルカリ金属;及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸を含有し、要件(α)(B)アルカリ土類金属の前記(A)EVOH樹脂に対する含有率が10超〜50ppm;要件(β)(B)アルカリ土類金属に対する(C)アルカリ金属の含有量比(C/B)=0.001〜0.5、及び要件(γ)(D)炭素数2〜4のカルボン酸の(B)アルカリ土類金属に対する含有量比(D/B)=5〜30を充足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で溶融成形しても外観に優れた多層構造体を得ることができるエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(以下、「EVOH樹脂」と称することがある)組成物、およびこれを用いた多層構造体に関するものであり、特にポリエチレンテレフタレート(以下、「PET樹脂」と称することがある)等のポリエステル系樹脂と共射出成形、共押出成形して、外観に優れた多層構造体を得ることができるEVOH樹脂の組成物、及びこれを用いた多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリオレフィン等の熱可塑性樹脂製のフィルム、容器に、ガスバリア性を付与するために、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物(EVOH樹脂)を積層した多層構造体とすることが一般に行われている。
ポリエステル、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂に対するEVOH樹脂の接着性が低いので、これらの熱可塑性樹脂とEVOH樹脂とを組み合わせた多層構造体を製造する場合、通常、接着性樹脂層(通常、酸無水物変性樹脂を使用)を介在させて積層している。
【0003】
しかしながら、成形法によっては、EVOH樹脂層と熱可塑性樹脂層との間に接着性樹脂層を介在させることが困難な場合がある。例えば、共射出成形装置としては、2種構成の成形機が主流であるため、PET/EVOH/PETといった2種3層構造のガスバリヤ性ペットボトルなどを、共射出成形法により製造する場合、PET/EVOH層間に他原料である接着性樹脂層を介在させることは装置上、困難である。このような装置上の理由からも、接着性樹脂層を介在させなくても、耐剥離性に優れた多層構造体を製造できるEVOH樹脂が求められている。
【0004】
EVOH樹脂に、ある特定の金属を含有したEVOH樹脂組成物では、熱可塑性樹脂に対する接着性を改善できることが見出され、このようなEVOH樹脂組成物を用いることで、接着性樹脂層を介在させなくても、ポリエステル等の熱可塑性樹脂を積層した多層構造体を製造できることから、当該EVOH樹脂組成物の研究、開発が進められている。
【0005】
例えば、特開2005−82226号公報(特許文献1)に、亜鉛、ニッケル、鉄、クロム、バナジウム、カルシウム及びマグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属の塩、酸化物、又は水酸化物を含有し、且つ亜鉛、ニッケル、鉄、クロム、バナジウム、カルシウム及びマグネシウムを、EVOH樹脂に対して0.001〜1重量%(10〜10000ppm)含有させた樹脂組成物を用いて、熱可塑性ポリエステルと共射出延伸ブロー成形した容器が提案されている。具体的には、酢酸マグネシウム四水和物を0.088重量%、または酢酸亜鉛二水和物を0.022重量%添加してなるEVOH樹脂組成物をポリエステルと共射出延伸ブロー成形した容器は、これらの酢酸金属塩を添加していないEVOH樹脂組成物を用いて共射出延伸ブロー成形した容器と比べて、層の衝撃剥離発生率が低かったことが示されている(表1)。
【0006】
また、特開2005−89482号公報(特許文献2)に、PET/EVOH/PETの2種3層の共射出成形による多層構造体に用いるEVOH樹脂組成物として、アルカリ金属塩をアルカリ金属換算で0.1〜20μmol/g含有し、95℃の水に10時間浸漬処理して抽出されるカルボン酸根(C1)を0〜2μmol/g含有し、かつ95℃の0.05規定水酸化ナトリウム水溶液に10時間浸漬処理して抽出されるカルボン酸根(C2)を0〜40μmol/g含有するEVOH樹脂組成物からなるブロー成形容器が開示されている。具体的には、EVOH樹脂組成物ペレット中に、カリウム塩をカリウム換算で3.40μmol/g、リン酸化合物をリン酸根換算で1.2μmol/g含有し、さらに95℃、10時間の熱水で遊離抽出されるカルボン酸根(C1)を0ppm含有するEVOH樹脂(実施例1)を用いると、2種3層の共射出ブロー成形を連続で72時間実施しても、得られた容器(ボトル)にブツの発生が認められず、着色もなかったと説明されている(段落番号0119、0120、表2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−82226号公報
【特許文献2】特開2005−89482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、高温設定が必要とされるPET樹脂との共射出成形において、特定の金属を含有したEVOH樹脂組成物は耐衝撃剥離性が改善されたことを開示しているが、このEVOH樹脂組成物層の熱着色や発泡、ピンホールといった外観については言及されていない。
【0009】
特許文献2では、層間接着性付与の目的でアルカリ金属塩を添加するとともに、溶融安定性改善と臭気や酸味の発生を防止する目的でEVOH樹脂中に含まれる95℃,10時間の熱水で遊離抽出されるカルボン酸根(即ち酢酸)を、炭酸水を用いた特殊な洗浄液を用いて洗い落すことで極力少量にしている。さらに、溶融成形時のロングラン性、特に耐着色性を付与する目的でリン酸化合物が配合されている。
【0010】
本発明は、上記特許文献1、2に開示されている組成とは異なるEVOH樹脂組成物において、高温での耐着色性、耐熱性に優れ、更にポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂との接着性に優れ、且つ外観に優れた多層構造体を提供できるEVOH樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物は、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物;(B)アルカリ土類金属;(C)アルカリ金属;及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸を含有するエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物で、下記要件(α)(β)及び(γ)を充足するものである。
(α)(B)アルカリ土類金属の前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対する含有率が10超〜50ppm、
(β)(C)アルカリ金属の(B)アルカリ土類金属に対する含有量比(C/B)=0.001〜0.5、
(γ)(D)カルボン酸の(B)アルカリ土類金属に対する含有量比(D/B)=5〜30。
【0012】
本発明のEVOH樹脂組成物は、ポリエステル樹脂層等の熱可塑性樹脂に対する(A)EVOH樹脂の接着性向上のために、特定量の(B)アルカリ土類金属を含有するところに特徴がある。(B)アルカリ土類金属は、ポリエステル系樹脂内に含まれるカルボキシル基とEVOH樹脂内に含まれる水酸基とのエステル化反応触媒として働き、ポリエステル系樹脂との接着性を向上させる効果を発揮することが期待できる。
【0013】
また、本発明のEVOH樹脂組成物は、(C)アルカリ金属の含有量が、(B)アルカリ土類金属に対して、特定範囲に調節されているところに特徴がある。
ここで、EVOH樹脂は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物をケン化触媒に用いて製造されることから、ケン化時に副生する酢酸又はEVOHポリマー鎖末端に微量発生するカルボキシル基が、前記ケン化触媒を構成しているアルカリ金属と塩を形成する。従って、EVOH樹脂中には、通常、アルカリ金属が含まれており、未洗浄の状態では、アルカリ金属が、EVOH樹脂に対して金属換算で3000ppm程度含有されている。本発明の樹脂組成物においては、(B)アルカリ土類金属と(C)アルカリ金属の含有量比を特定範囲とするために、必要に応じて、洗浄等により、アルカリ金属を除去されることもある。
【0014】
また、本発明のEVOH樹脂組成物は、(D)炭素数2〜4のカルボン酸の含有量が、通常、不純物として含有されている濃度以上であり、かつ(B)アルカリ土類金属に対して特定範囲に調節されているところに特徴がある。
通常、EVOH樹脂の製造にあたり、重合用モノマー由来のカルボン酸が微量、残存したり、ケン化工程では、カルボン酸が微量(多い場合でも10ppm未満)副生される。また、溶液のpH調整のためにカルボン酸を添加する場合もある。これらの理由から、通常、EVOH樹脂にはカルボン酸が含有されている。しかし、本発明の樹脂組成物においては、(D)炭素数2〜4のカルボン酸の含有量が、通常、不純物として含有されている濃度以上であり、かつ(B)アルカリ土類金属に対して特定範囲に調節されている。
【0015】
本発明のEVOH樹脂組成物は、好ましくは、280℃、窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が15重量%以下である。
【0016】
本発明のEVOH樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記(B)アルカリ土類金属は、マグネシウムであることが好ましい。また、前記(D)炭素数2〜4のカルボン酸が、炭素数2〜4のモノ又はジカルボン酸であることが好ましい。また、前記(C)アルカリ金属がカリウム又はナトリウムであることが好ましい。また、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対するリン酸根の含有量は、5ppm以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のEVOH樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物は、下記一般式で示される1,2−ジオール単位を有していることが好ましい。
【0018】
【化1】

【0019】
(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。)
【0020】
さらに、本発明の別の見地のEVOH樹脂組成物の態様では、(E)塩基性アミン系ポリマーを含有する。前記(E)塩基性アミン系ポリマーは、アルキレンイミンポリマーであることが好ましい。また、前記(E)塩基性アミン系ポリマーの含有量は、EVOH樹脂100重量部あたり、0.01〜10重量部であることが好ましい。
【0021】
本発明の多層構造体は、以上のような本発明のEVOH樹脂組成物からなる層(EVOH樹脂組成物層)を少なくとも1層有するものである。前記EVOH樹脂組成物層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂層が積層されている多層構造体が好ましく、前記熱可塑性樹脂層は、ポリエステル系樹脂層であることが好ましい。本発明の多層構造体の好ましい態様によれば、ポリエステル系樹脂層/エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物層/ポリエステル系樹脂層の構造を有する。
【0022】
本発明の多層中空容器は、上記本発明のいずれかの態様の多層構造体からなり、共射出成形により成形されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のEVOH樹脂組成物は、高温での熱安定性に優れ、接着性樹脂層を介層しなくても、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂との耐剥離強度、さらには外観にも優れた多層構造体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容は本発明を特定するものではない。
はじめに本発明の樹脂組成物について説明する。
【0025】
<EVOH樹脂組成物>
本発明のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂組成物は、(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体のケン化物(EVOH樹脂)を主成分とし、(B)アルカリ土類金属を含有する組成物において、通常のEVOH樹脂が有する含有量と比べて、(C)アルカリ金属の含有量を少ない特定範囲に調節し、かつ(D)炭素数2〜4のカルボン酸の含有量を特定範囲に増大させたものである。
【0026】
〔(A)EVOH樹脂〕
本願発明の樹脂組成物の主成分はEVOH樹脂であり、樹脂組成物中のEVOH樹脂の含有率は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上である。
EVOH樹脂は、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、本発明では、一般的に食品包装用のフィルムなどとして公知のEVOH樹脂を用いることができる。
【0027】
エチレンとビニルエステル系モノマーとの重合は、公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合などにより行うことができる。
【0028】
得られたエチレン−ビニルエステル共重合体のケン化も公知の方法、すなわちエチレン−ビニルエステル共重合体をアルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態で、アルカリ触媒又は酸触媒を用いて行うことができる。前記アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートを用いることができる。前記酸触媒としては、硫酸、塩酸、硝酸、メタスルホン酸などを用いることができる。この他、ゼオライト、カチオン交換樹脂などを、ケン化触媒として用いることもできる。
【0029】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、一般的に酢酸ビニルが用いられるが、他のビニルエステル系モノマー、例えばギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等の、通常炭素数3〜20、好ましくは炭素数4〜10、特に好ましくは炭素数4〜7の脂肪族ビニルエステルを用いてもよい。これらのモノマーは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0030】
本発明で用いるEVOH樹脂におけるエチレン構造単位の含有量は、ISO14663に基づいて計測した値で、通常20〜60モル%、好ましくは25〜50モル%、特に好ましくは25〜40モル%である。エチレン構造単位の含有量が低すぎた場合は、高湿時のガスバリア性、耐水溶解性、溶融成形性が低下する傾向があり、逆に高すぎた場合、水酸基の含有量が相対的に減少しすぎることになるため、ガスバリア性およびポリエステル系樹脂との層間接着性が不足する傾向がある。
【0031】
前記EVOH樹脂におけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOH樹脂は水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液にて)に基づいて計測した値で、通常90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは99〜100モル%である。かかるケン化度が低すぎた場合にはガスバリア性、熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0032】
前記EVOH樹脂のメルトフローレート(MFR)(210℃、荷重2160g)は、通常0.5〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、特に好ましくは2〜35g/10分である。MFRが大きすぎる場合には、製膜性が不安定となる傾向があり、小さすぎた場合には粘度が高すぎて流動不良が生じて、スジ・ムラなどの外観不良を発生する傾向がある。
【0033】
(A)成分のEVOH樹脂は、エチレン、ビニルエステル系モノマー以外に、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば5モル%以下)で、共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合していてもよい。前記エチレン性不飽和単量体としては、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1,2−ジオール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類やそのエステル化物、アシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1〜18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタアクリルアミド、炭素数1〜18のN−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、2−メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0034】
さらに、本発明に用いられるEVOH樹脂は、公知の方法にてウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化など「後変性」されていてもよい。
【0035】
特に、ヒドロキシ基含有α−オレフィン類を共重合したEVOH樹脂は、ブロー成形、真空成形などの二次成形性が良好になる点で好ましく、中でも1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂が好ましい。
【0036】
1,2−ジオールを側鎖に有するEVOH樹脂とは、具体的には下記構造単位(1)を有するEVOH樹脂である。
【0037】
【化1】

【0038】
[一般式(1)において、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【0039】
〜Rに用いることができる有機基としては、特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の飽和炭化水素基、フェニル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、水酸基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0040】
〜Rは、いずれも通常炭素数1〜30、特には炭素数1〜15、さらには炭素数1〜4の飽和炭化水素基または水素原子であることが好ましく、優れたガスバリア性能を得るためには、水素原子が最も好ましい。従って、R1〜R6がすべて水素であるものが最も好ましい。
【0041】
また、一般式(1)で表わされる構造単位中のXは、代表的には単結合である。従って、上記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位における最も好ましい構造は、R〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合である。すなわち、下記構造式(1a)で示される構造単位が最も好ましい。
【0042】
【化1a】

【0043】
尚、一般式(1)におけるXは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、結合鎖であってもよい。結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素鎖(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CH2O)m−、−(OCH2)m−、−(CH2O)mCH2−等のエーテル結合部位を含む構造、−CO−、−COCO−、−CO(CH2)mCO−、−CO(C64)CO−等のカルボニル基を含む構造、−S−、−CS−、−SO−、−SO2−等の硫黄原子を含む構造、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−等の窒素原子を含む構造、−HPO4−等のリン原子を含む構造などのヘテロ原子を含む構造、−Si(OR)−、−OSi(OR)2−、−OSi(OR)2O−等の珪素原子を含む構造、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−等のチタン原子を含む構造、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−等のアルミニウム原子を含む構造などの金属原子を含む構造等が挙げられる(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは自然数であり、通常1〜30、好ましくは1〜15、さらに好ましくは1〜10である。)。これらの結合鎖のうち、製造時あるいは使用時の安定性の点から、−CHOCH−、および炭素数1〜10の炭化水素鎖が好ましく、より好ましくは炭素数1〜6の炭化水素鎖、特に好ましくは炭素数1である。
【0044】
また、本発明で使用されるEVOH樹脂は、構造単位(1)を含有するEVOH樹脂と、該EVOH樹脂とは構造単位、エチレン含有量、ケン化度、分子量などが異なるEVOHのブレンド物であってもよい。
構造単位(1)を有するEVOH樹脂と構造単位が異なるEVOH樹脂としては、例えばエチレン構造単位とビニルアルコール構造単位のみからなるEVOH樹脂や、EVOH樹脂の側鎖に2−ヒドロキシエトキシ基などの官能基を有する変性EVOH樹脂を挙げることができる。エチレン含有量が異なるEVOH樹脂としては、エチレン含有量差が1モル%以上(さらには2モル%以上、特には2〜20モル%)のEVOH樹脂が好ましく用いられ、エチレン含有量以外の構成が同じEVOH樹脂でも異なるEVOH樹脂のいずれも用いることができる。
前記EVOH樹脂ブレンド物の製造方法は特に限定されず、例えば(i)ケン化前の各EVAのペーストを混合した後ケン化する方法、(ii)ケン化後のEVOH樹脂をアルコール又は水/アルコールの混合溶媒に溶解させて得られる各EVOH樹脂の溶液を混合する方法、(iii)各EVOH樹脂をペレット状又は粉体で混合した後、溶融混練する方法などが挙げられる。
【0045】
〔(B)アルカリ土類金属〕
(B)アルカリ土類金属は、通常は150〜250℃での溶融成形におけるロングラン性やセルフパージ性改善の目的で、EVOH樹脂に適宜配合されるが、本発明においては、EVOH樹脂のポリエステル樹脂層等の熱可塑性樹脂に対する接着性向上のために、特定量配合している点に特徴がある。(B)アルカリ土類金属は、ポリエステル系樹脂内に含まれるカルボキシル基とEVOH樹脂内に含まれる水酸基とのエステル化反応触媒として働き、ポリエステル系樹脂との接着性を向上させる効果を発揮できると考えられる。
【0046】
(B)アルカリ土類金属は、(A)EVOH樹脂に対して10超〜50ppm、好ましくは15〜45ppm、特に好ましくは20〜40ppm、最も好ましくは25〜35ppm含有される。
アルカリ土類金属が多すぎると、EVOH樹脂の熱分解が促進されて分解ガスが発生しやすくなり、特に高温で溶融成形した多層構造体において着色や気泡が発生する原因となる。一方、少なすぎると、ポリエステル系樹脂との層間接着性が不足して多層構造体での層間剥離が生じやすくなる。
【0047】
(B)アルカリ土類金属としては、べリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられ、これらは1種又は2種以上を混合して含有させることができる。これらのうち、好ましくはマグネシウム及びカルシウムであり、より好ましくはマグネシウムである。
【0048】
このようなアルカリ土類金属は、通常、低分子化合物(具体的には、塩,水酸化物等)として含有される。EVOH樹脂中における分散性の点から、好ましくは塩である。
【0049】
塩の場合、炭酸塩、炭酸水素塩等、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩であってもよいし、炭素数2〜11のモノカルボン酸塩(酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩など)、炭素数2〜11のジカルボン酸塩(シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩など)、炭素数12以上のモノカルボン酸塩(ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩)等の有機酸塩であってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
【0050】
アニオンの酸性が弱いほどポリエステル系樹脂との接着改善効果に優れる点から、アニオンの酸性が弱い有機酸塩が好ましく用いられる。より好ましくは水溶性の低分子量化合物である炭素数2〜4のモノカルボン酸塩であり、さらに好ましくは酢酸塩、プロピオン酸塩であり、最も好ましくは酢酸塩である。
【0051】
リン酸塩は、アニオンの酸性が強く、ポリエステル系樹脂との接着性を低下させる原因となり得るので、リン酸塩として含有する場合には、後述する(C)アルカリ金属塩のアニオンとの総量で、リン酸根として5ppm以下となるように含有させることが好ましい。ここで、リン酸根は、EVOH樹脂組成物の粉末試料を0.01規定塩酸水中で95℃、6時間処理した抽出液からイオンクロマトグラフィで定量される値である。
【0052】
〔(C)アルカリ金属〕
(C)アルカリ金属とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムをいい、これらは1種または2種以上混合して用いることができる。これらのうち、好ましくはナトリウムおよびカリウムであり、特にナトリウムが好ましい。
【0053】
アルカリ金属は、通常、低分子化合物(具体的には、塩,水酸化物等)として含有される。EVOH樹脂中における分散性の点から、好ましくは塩として含有される。
【0054】
塩の場合、炭酸塩、炭酸水素塩等、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩、塩化物等の無機塩であってもよいし、炭素数2〜11のモノカルボン酸塩(酢酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩、エナント酸塩、カプリン酸塩など)、炭素数2〜11のジカルボン酸塩(シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、スベリン酸塩、セバチン酸塩など)、炭素数12以上のモノカルボン酸塩(ラウリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、12ヒドロキシステアリン酸塩、ベヘン酸塩、モンタン酸塩)等の有機酸塩であってもよい。また、これらの混合物であってもよい。
好ましくは有機酸塩であり、さらに好ましくは水溶性の低分子量化合物である炭素数2〜4のモノカルボン酸塩であり、特に好ましくは酢酸塩、プロピオン酸塩であり、最も好ましくは酢酸塩である。
【0055】
(C)アルカリ金属は、(B)アルカリ土類金属に対する重量比((C)/(B))が下記要件を充足するように含有される。(C)/(B)=0.001〜0.5、好ましくは(C)/(B)=0.005〜0.2、さらに好ましくは(C)/(B)=0.01〜0.1。
尚、EVOH樹脂に対する(C)アルカリ金属の含有量は、通常、0.01超〜25ppmであり、好ましくは0.05〜10ppm、さらに好ましくは0.1〜5ppmである。
【0056】
特に、(C)アルカリ金属にナトリウムが含まれる場合、ナトリウムは高温で溶融成形した際の熱着色や熱分解に及ぼす影響が大きいため、ナトリウム分の上限を上記条件より少なく設定することが好ましい。すなわち、(B)アルカリ土類金属に対するナトリウム含有量の重量比((ナトリウム)/(B))は、好ましくは0.001〜0.2であり、より好ましくは、0.001〜0.1である。
尚、EVOH樹脂に対するナトリウムの含有量は、通常0.01〜5ppm、好ましくは0.01〜2ppmである。
【0057】
また、リン酸塩は、アニオンの酸性が強く、ポリエステル系樹脂との接着力を低下させる原因となり得るので、リン酸アルカリ金属塩とリン酸アルカリ土類金属塩との総量で、リン酸根が5ppm以下となるようにすることが好ましい。ここで、リン酸根は、EVOH樹脂組成物の粉末試料を0.01規定塩酸水中で95℃、6時間処理した抽出液からイオンクロマトグラフィで定量される値である。
【0058】
(C)/(B)が高すぎると、(B)アルカリ土類金属と共存した状態で(C)アルカリ金属の含有量が多すぎることを意味し、EVOH樹脂の着色が目立つようになるだけでなく、EVOH樹脂の耐熱性が低下する。このため、高温で溶融成形して多層構造体を製造する場合、生じた分解ガスにより、EVOH樹脂組成物層が発泡したり、発泡した近傍ではピンホールが生じるなど、外観が損なわれ、ひいてはEVOH樹脂組成物層のガスバリヤ性も損なわれる。
【0059】
ところで、EVOH樹脂は、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといった、アルカリ金属の水酸化物をケン化触媒に用いて製造されている。このような触媒中のアルカリ金属は、ケン化時に副生する酢酸ナトリウムとして、あるいはEVOHポリマー鎖末端に微量発生するカルボキシル基と塩を構成することにより、EVOH樹脂中に必然的に存在する。このような事情の下、EVOH樹脂中に存在するアルカリ金属量は、未洗浄の状態では、EVOH樹脂に対して3000ppm程度である。
【0060】
しかしながら、本発明の樹脂組成物においては、アルカリ金属量を上述の範囲内で含有させる必要があるので、EVOH樹脂中にアルカリ金属が所定量以上に残存している場合、洗浄等により除去する。本発明においては、EVOH樹脂を通常時よりもさらに洗浄することにより、アルカリ金属の含有率を上記特定微量に調節する。具体的に説明すると、水洗のみでは、上記特定微量濃度にまでアルカリ金属を除去することは困難である。従って、ケン化により製造されるEVOH樹脂を用いる場合、酢酸等の酸で洗浄した後、水洗したEVOH樹脂を用いることが好ましい。特に、ポリマー鎖末端のカルボキシル基と結合しているアルカリ金属については、酸で洗浄することにより効率よく除去することができる。
【0061】
但し、洗浄精度の向上、あるいは酸触媒存在下でケン化したEVOH樹脂のように、アルカリ金属がほとんど含有されていないEVOH樹脂を用いる場合、またはアルカリ金属含有量を調整したい場合等には、別途、アルカリ金属を添加することも差し支えない。
【0062】
〔(D)炭素数2〜4のカルボン酸〕
(D)炭素数2〜4のカルボン酸は、モノカルボン酸、ジカルボン酸、飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸のいずれであってもよいし、さらには分子内の炭素数2〜4の範囲内であれば、分岐を有するものであってもよいし、ヒドロキシル基等の置換基を有するカルボン酸であってもよい。具体的には、酢酸、酪酸、プロピオン酸のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸等のヒドロキシ酸;アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
中でもEVOH樹脂中の分散性の点から、炭素数2〜4のモノ又はジカルボン酸が好ましく、経済的な点から炭素数2〜4のモノカルボン酸がより好ましく、特に好ましくは、酢酸である。
【0063】
(D)炭素数2〜4のカルボン酸は、従来は150〜250℃での溶融成形における耐熱性改善の目的でEVOH樹脂に適量配合させることが多かったが、本発明においては、アルカリ土類金属によって得られた接着性改善を阻害させずに、さらに後述する芳香族ポリエステル系樹脂などの高融点熱可塑性樹脂との共押出成形、共射出成形が可能なように、280℃近傍でのEVOH樹脂の熱分解を緩和する目的で配合される。
【0064】
(D)炭素数2〜4のカルボン酸の含有量は、(B)アルカリ土類金属に対する重量比((D)/(B))で、5〜30、好ましくは10〜20である。
尚、(D)炭素数2〜4のカルボン酸の(A)EVOH樹脂に対する含有量は、50超〜1500ppm程度であり、好ましくは100〜1000ppm、更に好ましくは200〜700ppm、特に好ましくは250〜500ppm程度含有されることになる。
【0065】
(D)/(B)が低すぎると、即ちカルボン酸量が少なすぎると、耐熱分解性が低下し、280℃近傍では熱分解が顕著になり、高温で溶融成形した多層構造体において着色や気泡が発生する原因となる。一方、(D)/(B)が多すぎると、カルボン酸量が多すぎることを意味し、ポリエステル系樹脂との層間接着力が低下する傾向にある。
【0066】
ここで、EVOH樹脂の原料モノマーとして、酢酸ビニルを使用している場合、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物には、ごく微量の酢酸が含有される。また、エチレン−酢酸ビニル系共重合体のケン化により製造されるEVOH樹脂の場合、不純物としての酢酸がごく微量(多い場合でも10ppm未満)、副生する。また、上記(C)アルカリ金属量を低減させるために、EVOH樹脂を酢酸等のカルボン酸水溶液で洗浄する場合においても、EVOH樹脂に、若干の酢酸等のカルボン酸が含有されている場合がある。
しかしながら、本発明の樹脂組成物においては、炭素数2〜4のカルボン酸の含有量は、通常、不純物として含有されている濃度以上であり、(B)アルカリ土類金属に対して特定多量、含有されているところに特徴がある。
よって、上記範囲を充足するように、必要な場合には、別途EVOH樹脂にカルボン酸を添加する。
【0067】
なお、上記カルボン酸濃度は、乾燥して得られたEVOH樹脂組成物の粉末試料を95℃の熱水中で10時間処理した水抽出液から、イオンクロマトグラフィーで定量することにより測定される濃度である。従って、(D)成分には、EVOHポリマー鎖に残存する未ケン化部分として化学結合しているカルボキシル基に由来するカルボン酸は含まれない。一方、(B)アルカリ土類金属および(C)アルカリ金属がカルボン酸塩塩として含有され、そのカルボン酸が上記炭素数2〜4のカルボン酸である場合、当該金属塩由来の炭素数2〜4のカルボン酸イオンは(D)成分に合算される。
【0068】
〔(E)塩基性アミン系ポリマー〕
本発明の樹脂組成物には、(A)EVOH樹脂、(B)アルカリ土類金属、(C)アルカリ金属塩、(D)炭素数2〜4のカルボン酸の他、さらに、(E)塩基性アミン系ポリマーを含有することが好ましい。
【0069】
ここで、(E)塩基性アミン系ポリマーとは、ポリマー鎖中又は鎖末端に、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンとなる窒素原子を、少なくも1個以上有しているポリマーをいう。ポリマーを構成するモノマーとしては、メラミン、尿素、エチレンイミン、アクリルアミド、ビニルピロリドン、アミノ酸等の第1アミン、第2アミン、第3アミン化合物を用いて合成されるものであってもよいし、ポリマー鎖末端を第1アミン、第2アミン又は第3アミン化合物で修飾することにより、ポリマーの水溶液が塩基性を示すようになったものであってもよい。合成高分子化合物に限らず、天然由来の高分子化合物、例えば微生物の二次生産物などであってもよい。
【0070】
このような塩基性アミン系ポリマーとしては、具体的には、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン等のアルキレンイミンポリマー、ポリカルボジイミド、尿素樹脂、エチレン尿素樹脂などのイミノ基含有ポリマー;ポリビニルアミン、ポリアクリルアミド、ポリリジン、メラミン樹脂、変性メラミン樹脂、メラミン−尿素樹脂、ポリリン酸メラミンなどのアミノ基含有ポリマー;ポリビニルピロリドンなどが挙げられ、なかでもポリエチレンイミンが好ましく用いられる。
【0071】
(E)塩基性アミン系ポリマー中のアミン由来の窒素原子(好ましくはアミノ基又はイミノ基)は、アルカリとして作用できることから、共押出又は共射出成形時に、ポリエステルに作用してエステル結合の一部を分解し、次いで、その一部をEVOH樹脂のOH基との結合形成を可能にすることで、EVOH樹脂層とポリエステル系樹脂層との接着性向上に寄与できるのではないかと推測される。
【0072】
(E)塩基性アミン系ポリマーの含有量は、(A)EVOH樹脂100重量部対して、0.01〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。アミン系ポリマーの配合量が増大するほど、ポリエステル系樹脂との接着性改善効果は増大するが、樹脂組成物におけるEVOH樹脂の含有率が相対的に低下することになって、ガスバリア性低下をもたらす傾向にある。
【0073】
(F)その他の添加物
本発明のEVOH樹脂組成物には、上記成分のほか、必要に応じて、本発明の効果を損なわない限り(例えば、樹脂組成物全体の5重量%未満にて)、エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコール等の可塑剤;飽和脂肪族アミド(例えばステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(例えばオレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(例えばエチレンビスステアリン酸アミド等)、低分子量ポリオレフィン(例えば分子量500〜10000程度の低分子量ポリエチレン、又は低分子量ポリプロピレン)等の滑剤;アンチブロッキング剤;酸化防止剤;着色剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;抗菌剤;不溶性無機塩(例えば、ハイドロタルサイト等);充填材(例えば無機フィラー等);酸素吸収剤(例えば、ポリオクテニレン等のシクロアルケン類の開環重合体や、ブタジエン等の共役ジエン重合体の環化物等);界面活性剤、ワックス;分散剤(ステアリン酸モノグリセリド等);共役ポリエン化合物などの公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0074】
前記共役ポリエン化合物とは、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造であって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、いわゆる共役二重結合を有する化合物である。共役ポリエン化合物は、2個の炭素−炭素二重結合と1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ジエン、3個の炭素−炭素二重結合と2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役トリエン、あるいはそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる構造である共役ポリエン化合物であってもよい。ただし、共役する炭素−炭素二重結合の数が8個以上になると共役ポリエン化合物自身の色により成形物が着色する懸念があるので、共役する炭素−炭素二重結合の数が7個以下であるポリエンであることが好ましい。また、2個以上の炭素−炭素二重結合からなる上記共役二重結合が互いに共役せずに1分子中に複数組あってもよい。例えば、桐油のように共役トリエンが同一分子内に3個ある化合物も共役ポリエン化合物に含まれる。
【0075】
共役ポリエン化合物の具体例としては、イソプレン、ミルセン、ファルネセン、センブレン、ソルビン酸、ソルビン酸エステル、ソルビン酸塩、アビエチン酸等の炭素−炭素二重結合を2個有する共役ジエン化合物;1,3,5−ヘキサトリエン、2,4,6−オクタトリエン−1−カルボン酸、エレオステアリン酸、桐油、コレカルシフェロール等の炭素−炭素二重結合を3個有する共役トリエン化合物;シクロオクタテトラエン、2,4,6,8−デカテトラエン−1−カルボン酸、レチノール、レチノイン酸等の炭素−炭素二重結合を4個以上有する共役ポリエン化合物などが挙げられる。これらの共役ポリエン化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0076】
共役ポリエン化合物の添加量は、(A)EVOH樹脂100重量部に対して通常0.000001〜1重量部であり、好ましくは0.00001〜1重量部、特に好ましくは0.0001〜0.01重量部であることがより好ましい。
なお、かかる共役ポリエン化合物は、(A)EVOH樹脂に、あらかじめ含有されていることが好ましい。
【0077】
また、本発明の樹脂組成物は、EVOH樹脂以外の他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などを含有してもよい。この場合、他の熱可塑性樹脂の含有率は、樹脂組成物全体の10重量%未満、さらに5重量%未満とすることが好ましい。
【0078】
以上のような組成を有するEVOH樹脂組成物は、高温での熱安定性に優れ、特に280℃近傍での高温でも着色が少なく、EVOH樹脂の熱分解が少なくて済む。具体的には、280℃で窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。また、250℃で窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が4重量%以下、好ましくは2重量%以下である。
【0079】
溶融成形中にEVOH樹脂から分解ガスが発生すると、両側に他の熱可塑性樹脂層を設けた多層構造体においては発生ガスの脱気が熱可塑性樹脂層によって遮られるため、発生ガスによる膨れが生じたり、膨れの近傍ではピンホールが発生したりすることがある。この点、本発明のEVOH樹脂組成物では、高温熱分解によるガス発生量が少量に抑制されているので、EVOH樹脂組成物を中間層とした、他の熱可塑性樹脂との多層構造体での外観不良を抑えることができる。
【0080】
このことは、250〜310℃の高温域で溶融成形しても外観に優れた成形物を得ることが可能であることを意味する。従って、芳香族ポリエステル系樹脂のような溶融成形温度領域が高温域にある熱可塑性樹脂との共射出、共押出成形が可能となり、接着性、外観に優れた多層構造体を得ることができる。
【0081】
また、本発明のEVOH樹脂組成物は、着色の原因となるアルカリ金属の含有量を低減しているので、ペレットの状態としてはもちろん、加熱後も着色が少ない。従って、外観、特に黄色味の着色が問題とされるような成形品の材料としても好適である。
【0082】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明のEVOH樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0083】
通常、EVOH樹脂はエチレン−ビニルエステル系共重合体を、アルコール又は水/アルコール溶媒に溶解させた状態でアルカリ触媒存在下でケン化されたEVOH樹脂が市販されている。(A)EVOH樹脂として、アルカリ触媒存在下でケン化されたEVOH樹脂を用いた場合のEVOH樹脂組成物の製造方法は、EVOH樹脂を酢酸で洗浄する工程;EVOH樹脂を水で洗浄する工程;及び酢酸及びアルカリ土類金属を添加する工程を含む。
【0084】
ここで、EVOH樹脂の製造(ケン化)に使用されるアルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、リチウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートが挙げられる。従って、このようなアルカリ触媒を用いたケン化により、ビニルエステル由来の酸、当該由来の酸のアルカリ金属塩が副生する。このようなケン化方法により製造されるEVOH樹脂には、通常、不純物として、ケン化触媒に使用したアルカリ金属、ケン化反応の副生物であるカルボン酸が含まれているので、本発明の樹脂組成物、すなわちアルカリ土類金属、アルカリ金属、及び炭素数2〜4のカルボン酸を、上記濃度範囲に調整されたEVOH樹脂組成物を製造するためには、不純物として含まれるアルカリ金属濃度をさらに減少させるとともに、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸濃度を調節する必要がある。
【0085】
アルカリ金属の除去は、EVOH樹脂を洗浄することにより行われる。かかる洗浄方法としては、例えば(i)高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)から得られたEVOH樹脂の多孔性析出物を酸や水で洗浄する方法、(ii)高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)を酸や水で洗浄する方法等が挙げられる。
【0086】
(i)の方法において、EVOH樹脂溶液から多孔性析出物を作製する方法としては、公知の方法が採用可能である。例えば、ケン化後のEVOH樹脂溶液を凝固液槽に、ストランド状に押出して凝固し、得られたストランド状のEVOH樹脂含水多孔質体を適当な長さにカッティングすることにより多孔性析出物の含水ペレットが得られる。得られた含水ペレットを、洗浄液と接触させることにより、効率よくアルカリ金属を除去することができる。
【0087】
(ii)の方法では、高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)を洗浄液と共に棚段付容器、攪拌容器、ニーダー等の内部で接触させることにより、効率よくアルカリ金属を除去することができる。
【0088】
以上のような洗浄を行うことにより、アルカリ金属を上記で特定した濃度の範囲にまで低減せしめたEVOH樹脂を得ることができる。
【0089】
洗浄液に用いる酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の水溶性の弱酸が挙げられ、これらのうち酢酸が好ましく用いられる。
また、洗浄液に使用する水としては、イオン交換水、蒸留水、濾過水など、不純物としての金属イオンを除去した水が好ましい。
【0090】
なお、EVOH樹脂としてエチレン−ビニルエステル系共重合体を酸触媒存在下で加水分解されたEVOH樹脂を用いる場合や、上記洗浄で(C)アルカリ金属の含有量が不足する場合、(C)アルカリ金属を含有させてその含有量を調節することも可能である。例えば上記の水洗後に(C)アルカリ金属水溶液に浸漬する方法や、後述する(B)アルカリ土類金属および(D)炭素数2〜4のカルボン酸と共に添加する方法により、アルカリ金属の含有量を高めればよい。
【0091】
一方、(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸についてはケン化により製造されるEVOH樹脂中に不純物として混入される濃度は非常に低いので、別途添加する必要がある。
(B)アルカリ土類金属および(D)炭素数2〜4のカルボン酸を添加する方法としては、公知の方法を採用することが可能である。これらは別々に添加してもよいし、アルカリ土類金属のカルボン酸塩として添加しても差し支えない。
【0092】
(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸の添加方法としては、例えば、(i)EVOH樹脂と、(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)とをドライブレンドする方法;(ii)(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)を水等の溶媒に溶解した後、EVOH樹脂に混合する方法;(iii)(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩溶液)にEVOH樹脂を浸漬させる方法;(iv)溶融状態のEVOH樹脂に、(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)をブレンドする方法;(v)EVOH樹脂の水/アルコール溶液の含水多孔性質体を、(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)溶液に接触させる方法;(vi)EVOH樹脂の溶液に、(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)溶液を添加後、凝固槽中に析出させる方法;(vii)高濃度のEVOH樹脂溶液(ペースト状)に、(B)アルカリ土類金属及び(D)炭素数2〜4のカルボン酸(および/またはアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩)を接触させる方法等が挙げられる。
【0093】
EVOH樹脂の洗浄工程と、アルカリ土類金属及び炭素数2〜4のカルボン酸の添加工程の順序は特に限定しないが、製造効率の観点から、洗浄後、添加する順序が好ましい。特に、上記(i)〜(v)の方法を採用する場合には、予め洗浄(必要に応じて乾燥)することにより、アルカリ金属を所定濃度にまで低減したEVOH樹脂組成物を用いることが好ましい。(vi)の方法では、添加後、得られた含水多孔質体を洗浄、乾燥してEVOH樹脂組成物ペレットを得るものである。(v)、(vi)の方法では、洗浄に供した含水多孔質体のペレットを、続けてアルカリ土類金属の炭素数2〜4のカルボン酸塩溶液に浸漬しており、乾燥工程を1回行うだけで済むので、生産上、有利である。ペレット内部における添加剤の濃度分布を均等にできる点で、(v)の方法が最も好ましい。
【0094】
なお、溶融混練は、押出機、バンバリーミキサー、ニーダールーダー、ミキシングロール、ブラストミル等の公知の混練機を用いることができる。例えば、押出機の場合、単軸または二軸の押出機等が挙げられる。溶融混練後、樹脂組成物をストランド状に押出し、カットしてペレット化する方法が採用され得る。
【0095】
乾燥は、公知の方法で行うことができる。すなわち、静置乾燥法、流動乾燥法およびこれらの方法を併用してもよい。場合によっては、ベント付きの押出機中で溶融混練しながら乾燥させても構わない。これらのうち、初めに流動乾燥法で乾燥し、引き続いて静置乾燥法で乾燥する方法が好適である。乾燥温度は特に限定しないが、通常70〜120℃ 程度の温度が採用され、乾燥が進むにつれて温度を上昇させることもできる。乾燥後の含水率は通常1重量% 以下であり、好適には0.5重量% 以下である。こうして得られた乾燥ペレットが、以後の成形工程に供される。
【0096】
また、(B)アルカリ土類金属、(C)アルカリ金属、(D)炭素数2〜4のカルボン酸のいずれかの含有量が、本発明の請求項に規定する(α),(β),(γ)の要件のいずれかを満たさないEVOH樹脂組成物であっても、上記成分の含有量が異なるEVOH樹脂組成物を少なくとも1種類以上ブレンドすることによって、本発明の規定する要件(α),(β),(γ)の全てを満たすEVOH樹脂組成物を得ることが可能である。このようなブレンド物としては、例えば、(B)アルカリ土類金属が10ppm未満の樹脂組成物と(B)アルカリ土類金属が20ppm以上(好ましくは50ppm以上)の樹脂組成物とのブレンド、(D/B)が5未満の樹脂組成物と(D/B)が15以上(好ましくは30以上)の樹脂組成物とのブレンドなどが挙げられる。
ブレンド物の調整方法としては、特に限定はなく、ペレット同士を混ぜ合わせる方法(ドライブレンド)や、混ぜ合わせたペレットを単軸押出機、二軸押出機等で溶融混練してストランド状に押出し、カットしてペレット状の樹脂組成物を得る方法などが挙げられる。
【0097】
<成形方法、成形品、多層構造体>
〔成形方法〕
本発明のEVOH樹脂組成物は、各種成形物の材料として用いることができる。溶融成形により例えばフィルム、シート、カップ、チューブ、パイプやボトルなどに成形することができる。かかる溶融成形方法としては、公知の手法が採用可能である。例えば、押出成形法(T−ダイ押出、チューブラーフィルム押出(ブローアップ比:通常0.7〜6)、ブロー成形、溶融紡糸、異型押出等)、射出成形法等が挙げられる。溶融成形温度は、通常150〜300℃の範囲から、適宜選択される。
【0098】
〔成形品〕
本発明のEVOH樹脂組成物は、単独で、フィルム、シート、容器、棒状体、管状体等の各種成形品材料として用いることもできるが、好ましくは、他の熱可塑性樹脂層を配した多層構造体である。
多層構造体の場合、「他の熱可塑性樹脂層」を構成する熱可塑性樹脂としては、疎水性熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。例えば具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、環状ポリオレフィン、或いはこれらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの等の広義のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド、共重合ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂が挙げられる。本発明においては、特にポリエステル系樹脂が有効に用いられる。
【0099】
〔ポリエステル系樹脂〕
ポリエステル系樹脂としては、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂のいずれを用いてもよい。好ましくは、剛性、耐熱性に優れている芳香族ポリエステル系樹脂を用いる。
【0100】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、脂肪族アルキル鎖がエステル結合で連結された熱可塑性重合体が挙げられ、具体的には、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が用いられる。
また、芳香族ポリエステル系樹脂としては、芳香族ジカルボン酸又はこれらのアルキルエステルとグリコールとを主として縮合重合した重合体が挙げられ、エチレンテレフタレート、エチレンナフタレートなどを主たる繰り返し単位とするポリエステルが好ましく用いられる。加工性、強度等を大幅に損なわない範囲で、エチレンテレフタレート、エチレンナフタレート構成単位以外のカルボン酸、グリコールが共重合されていてもよい。
【0101】
ポリエステル系樹脂を形成する酸成分としては、テレフタル酸、ナフタレン酸の他、イソフタル酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環族ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体、p−オキシ安息香酸、オキシカプロン酸等のオキシ酸およびこれらのエステル形成性誘導体の他、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。
【0102】
ポリエステル系樹脂を形成するグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールの他、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等の芳香族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールの他、グリセリン、1,3−プロパンジオール、ペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0103】
エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステル系樹脂の場合、エチレンテレフタレート単位の含有量は、通常75〜100モル%、好ましくは85〜100モル%、さらに好ましくは95〜99.5モル%程度である。また、好ましい固有粘度(フェノールとテトラクロルエタンの50/50(重量比))の混合溶剤中、温度30℃にて測定)は、通常0.5〜1.3dl/gであり、好ましくは0.65〜1.2dl/g、特に好ましくは0.70〜0.90dl/gである。
【0104】
エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とする芳香族ポリエステル系樹脂の場合、エチレンナフタレートの含有量は、通常75〜100モル%、好ましくは85〜98モル%程度である。また、固有粘度は通常0.4〜1.2dl/g、好ましくは0.55〜1.0dl/g、特に好ましくは0.70〜0.90dl/gである。
【0105】
また、上記エチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂とエチレンナフタレート系ポリエステル樹脂とのブレンド物を用いることもでき、これらのブレンド物は、ガスバリア性や紫外線遮断性、溶融成形性が向上している点で好ましい。ブレンド比率は、通常エチレンテレフタレート系ポリエステル樹脂が通常5〜90重量%、更には15〜85重量%であり、エチレンナフタレート系ポリエステル樹脂が通常95〜10重量%、更には85〜15重量%である。
【0106】
さらに、かかる芳香族ポリエステル系樹脂には諸特性を大幅に損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や添加剤を配合することも可能で、熱可塑性樹脂としては、MXD−6ナイロン、ポリカーボネート、ポリアリレート、液晶ポリマー等が挙げられる。
【0107】
近年の地球環境に対する影響への配慮から、ポリエステル系樹脂原料(酸成分及びグリコール成分)として、石油を精製して得られた原料に代えて、植物由来の原料を用いたポリエステル系樹脂(植物成分由来ポリエステル系樹脂)を用いてもよい。植物由来の酸成分としては、松などの木性植物、オレンジ・レモンなどの柑橘果実、天然繊維、油性植物、トウモロコシ(コーンシロップ)等に含まれるカレン、リモネン、リグニン、ヒドロキシメチルフルフラール、植物油などの成分から精製したものを用いることができる。植物由来のグリコール成分としては、さとうきび、テンサイ、トウモロコシ、ジャガイモ等などに含まれる糖、デンプンなどの成分、または、稲、麦、キビ、草植物等などに含まれるセルロースなどの成分から精製したものを用いることができる。
【0108】
〔多層構造体〕
本発明の多層構造体は、本発明のEVOH樹脂組成物層を少なくとも1層有するものであればよい。
また、当該EVOH樹脂組成物層の片面又は両面に、他の熱可塑性樹脂層が積層される多層構造体の場合、必要に応じて樹脂組成物層と他の熱可塑性樹脂層との間に接着性樹脂層が介在されていてもよい。しかしながら、本発明のEVOH樹脂組成物層は熱安定性に優れているので、芳香族ポリエステル系樹脂のように、高温域で溶融成形する熱可塑性樹脂と共射出成形、共押出成形することができる。よって、接着性樹脂層が介在していなくても、接着性が良好であり、外観が良好な多層構造体を製造することができる。従って、本発明のEVOH樹脂組成物は、特に芳香族ポリエステル系樹脂との多層構造体とすることが好ましい。さらには、少なくとも芳香族ポリエステル系樹脂層/EVOH樹脂組成物層/芳香族ポリエステル系樹脂層という構造を有する多層構造体に供する原料として好適に用いることができる。
【0109】
多層構造体の層構成は、特に限定しない。EVOH樹脂組成物層(以下、「EVOH層」と略記することがある)をI、他の熱可塑性樹脂層をIIとするとき、II/I/IIの三層構造のみならず、II/I/II/I、II/I/II/I/II、II/I/II/I/II/I、II/I/II/I/II/I/II等、任意の組み合わせの層構成を採用できる。リグラインド層、接着性樹脂層、あるいはI及びIIとは異なる熱可塑性樹脂層を、更に設けてもよい。通常は、EVOH層を中間層に設けるが、ヒートシール層としてEVOH層を最内層に設けたり、光沢性が必要な場合にはEVOH層を最外層に設けてもよい。多層構造体の層構成としては、本発明の樹脂組成物層と芳香族ポリエステル系樹脂層が接している場合に、本発明の効果が顕著に得られる。
【0110】
また、本発明の多層構造体の各層の厚みは、層構成や用途に応じて変化させてもかまわない。EVOH層については通常1〜100μm(さらには5〜50μm)が好ましく、他の熱可塑性樹脂層については通常20〜3000μm(さらには50〜1000μm)が好ましい。EVOH層が薄すぎる場合にはガスバリア性が不足することがあり、またその厚み制御が不安定となることがあり、逆に厚すぎる場合には耐衝撃性が劣ることがあり、かつ経済性が低下する傾向がある。また他の熱可塑性樹脂層が薄すぎる場合は耐圧強度が不足することがあり、逆に分厚すぎる場合は重量が大きくなり、かつ経済性が低減する傾向がある。
また、EVOH層と他の熱可塑性樹脂層の厚みは、多層構造体中の同じ樹脂層の厚みを全て足し合わせた状態で、通常、他の熱可塑性樹脂層の方が厚く、EVOH層/他の熱可塑性樹脂層として、通常1/2〜1/100、好ましくは1/5〜1/60、さらに好ましくは1/10〜1/40である。
【0111】
〔多層構造体の製造方法〕
本発明の多層構造体の製造方法について説明する。
本発明のEVOH樹脂組成物は、他の熱可塑性樹脂と共射出成形、共押出成形して多層構造体を作成するのに適している。
【0112】
多層構造体としてフィルムやシートを得る場合、共押出成形を採用するのが有効である。フィルムやシートなどの多層構造体は、次いで必要に応じて延伸処理を行ってもよい。かかる延伸処理とは熱的に均一に加熱された多層構造体をチャック、プラグ、真空力、圧空力、ブローなどにより、チューブ、フィルム状に均一に成形する操作を意味する。
前記延伸は、一軸延伸、二軸延伸(同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる)のいずれであってもよい。
延伸方法としてはロール延伸法、テンター延伸法、チューブラー延伸法(ダブルバブル法、トリプルバブル法)、延伸ブロー法等、公知の手法が採用可能である。
【0113】
一軸延伸、二軸延伸(同時二軸延伸方式、逐次二軸延伸方式のいずれの方式も採用できる)の場合、該延伸を行う温度は、多層構造体の温度(多層構造体近傍温度)で、通常40〜170℃、好ましくは60〜160℃程度の範囲から選ばれる。延伸倍率は、面積比にて、通常2〜50倍、好ましくは2〜20倍である。かかる延伸後、寸法安定性を付与するため、必要に応じて熱処理することも可能である。かかる熱処理は周知の手段で実施可能であり、例えば、上記延伸フィルムの緊張状態を保ちながら通常80〜180℃、好ましくは100〜165℃で、通常2〜600秒間程度、加熱することにより行う。
【0114】
共押出成形の場合、EVOH樹脂組成物の押出成形温度は通常150〜300℃(さらには160〜250℃)の範囲で適宜設定される。ここで、共押出成形する熱可塑性樹脂が、芳香族ポリエステル系樹脂のように、通常230〜350℃(さらには250〜330℃)で押出成形を行う樹脂の場合、EVOH樹脂と熱可塑性樹脂が合流するダイ温度も通常230〜350℃であり、さらには250〜330℃と、通常の押出温度よりも高温域に設定することになる。しかしながら、本発明のEVOH樹脂組成物は、高温での熱安定性に優れているので、このような高温域で溶融押出をおこなっても、着色、発泡、ピンホールといった外観上の問題が生じにくく、外観に優れた多層構造体(シート、フィルム)を得ることができる。
【0115】
かくして得られた多層構造体の形状は任意の形状を採用することができ、フィルム、シート、テープ等が例示される。また、得られる多層構造体は、必要に応じて、熱処理、冷却処理、圧延処理、印刷処理、ドライラミネート処理、溶液又は溶融コート処理、有機・無機物蒸着処理、製袋加工、深絞り加工等が施されてもよい。高いガスバリア性が要求される場合には、得られた多層構造体を基材にして、アルミニウム、アルミナ(Al23)、シリカ(SiOx、x=1又は2)などの金属あるいは無機物を蒸着させることが好ましい。
以上のようにして得られたフィルムやシート状の多層構造体は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の二次加工に供することも可能である。二次加工により、カップ、トレイなどの広口容器を得ることができる。
【0116】
上記の如く得られたカップ、トレイ等からなる容器やフィルム、シートからなる袋や蓋材は、一般的な食品の他、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、ペットフードなどの食品包装用途に非常に有用である。また、これらの容器やフィルム、シートで蓄肉包装する場合には、ケースレディ包装システム、真空スキンパック包装システムなどが採用される。
また、外観特性やガスバリア性、溶剤バリア性等に優れることから、農業用フィルム、壁紙用フィルム、バルーン、タイヤ用インナーライナー、真空断熱材などの各種用途にも有用である。
【0117】
〔多層中空容器〕
以下は、上記多層構造体において、タンクやボトル等の多層中空容器を製造する方法について説明する。
かかる方法としては、共射出ブロー成形法、共押出ブロー成形法を採用することが好ましい。なかでも本発明のEVOH樹脂組成物は共射出二軸延伸ブロー成形法を好適に採用できる。
【0118】
共射出二軸延伸ブロー成形法とは、まず、少なくともEVOH層を中間層とし、その両側に他の熱可塑性樹脂層を配してなる、多層構造を有するプリフォーム(容器前駆体)を共射出成形により作製してから、これを加熱して金型内で一定温度に保ちながら縦方向に機械的に延伸し(ブロー成形)、同時あるいは逐次に加圧空気を吹き込んで円周方向に膨らませる方式である。
【0119】
多層構造を有するプリフォームを作製する場合、通常は、2台の射出シリンダーと多層マニホールドシステムを有する射出成形機を用い、単一の金型内に、溶融したEVOH樹脂組成物及び他の熱可塑性樹脂をそれぞれの射出シリンダーより、多層マニホールドシステムを通して同時あるいは時間をずらして射出することにより得られる。
【0120】
例えば、先に両外層用の他の熱可塑性樹脂を射出し、次いで中間層となるEVOH樹脂組成物を射出して、所定量のEVOH樹脂組成物を射出後に更に他の熱可塑性樹脂の射出を継続することにより、他の熱可塑性樹脂層/EVOH層/他の熱可塑性樹脂層の3層の構成からなり、中間のEVOH層が両側の他の熱可塑性樹脂層に完全に封入されたプリフォームが得られる。
【0121】
また、先に内外層用の他の熱可塑性樹脂を射出し、次いでEVOH樹脂組成物を射出して、それと同時に又はその後中心層となる他の熱可塑性樹脂を再度射出し、他の熱可塑性樹脂層/EVOH層/他の熱可塑性樹脂層/EVOH層/他の熱可塑性樹脂層の2種5層構成のプリフォームを得ることができる。
【0122】
かかるプリフォームの射出成形温度(シリンダー温度)は、他の熱可塑性樹脂の場合、樹脂の種類、融点、熱分解点により、通常150〜350℃の範囲で適宜設定される。芳香族ポリエステル系樹脂の場合、通常230〜350℃であり、さらには250〜330℃、特には270〜310℃である。かかる成形温度が低すぎる場合、芳香族ポリエステル系樹脂の溶融が不充分となることがある。
【0123】
EVOH樹脂組成物の射出成形温度(シリンダー温度)は通常150〜300℃であり、さらには160〜270℃、特には170〜260℃が好ましく、かかる範囲から、他の熱可塑性樹脂と合流する多層マニホールド部の温度に応じて、適宜設定される。
【0124】
EVOH樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とが合流する多層マニホールド部の温度は、通常射出成型温度(シリンダー温度)として高温に設定していた方の樹脂の成形温度にあわせて設定される。従って、他の熱可塑性樹脂として芳香族ポリエステル系樹脂を用いる場合、EVOH樹脂組成物と芳香族ポリエステル系樹脂とが合流する多層マニホールド部の温度は通常230〜350℃であり、さらには250〜330℃、特には270〜310℃が好ましい。本発明のEVOH樹脂組成物では、280℃でも窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が15重量%以下といった、高温での耐熱分解性に優れているので、このようにマニホールド部温度を高温域に設定されるような共射出成形を安定的に行うことが可能である。
【0125】
また、EVOH樹脂組成物と他の熱可塑性樹脂とが流入する金型の温度は通常0〜80℃であり、さらには5〜60℃、特には10〜30℃が好ましく、かかる温度が低すぎる場合、金型が結露することがあるため、得られるプリフォームやボトルの外観性が低下することがある。逆に80℃を越えると、得られるプリフォームのブロー成形性が低下したり得られるボトルの透明性が低下したりすることがある。
【0126】
以上のようにして、多層構造を有するプリフォームが得られる。得られたプリフォームを直接そのまま、あるいは再加熱してブロー金型内で一定温度に保ちながら縦方向に機械的に延伸し、同時あるいは逐次に加圧空気を吹き込んで円周方向に膨らませることにより、目的とするボトルが得られる。
【0127】
射出成形されたプリフォームを温かい状態のまま、すぐに再加熱工程に送りブロー成形する方式(ホットパリソン法)と、射出成形されたパリソンを室温状態で一定時間保管した後、再加熱工程に送りブロー成形する方式(コールドパリソン法)のいずれも採用できる。一般的にはコールドパリソン法の方がボトルに充填物を充填した製品の生産性に優れる点で好ましく採用される。
【0128】
プリフォームの再加熱には、赤外線ヒーターやブロックヒーターなどの発熱体を用いて行うことができる。加熱されたプリフォームの温度は通常80〜150℃である。かかる温度が低すぎる場合、延伸の均一性が不充分となり得られる多層中空容器の形状や厚みが不均一となることがある。逆に高すぎる場合、芳香族ポリエステル系樹脂は結晶化が促進されるため、多層中空容器が芳香族ポリエステル系樹脂層を含んでいる場合、白化することがある。
【0129】
再加熱されたプリフォームは二軸延伸されて目的とする多層中空容器が得られる。一般的には、縦方向に1〜7倍程度、プラグやロッド等により機械的に延伸されてから、圧空力により横方向に1〜7倍程度延伸されて、目的とする多層中空容器が得られる。縦方向の延伸と横方向の延伸は、同時に行ってもよいし、逐次に行ってもよい。また、縦方向の延伸時に圧空力を併用することも可能である。
【0130】
以上のようにして得られた本発明の多層中空容器は、耐圧強度が通常25kg/cm2以上であり、さらには30kg/cm2以上であることが好ましい。なお、かかる耐圧強度は、耐圧試験装置(イーヴィック社製、KT−5000)を用いて測定した値である。
かかる多層中空容器の容量は任意に選択可能である。通常50mL〜10Lであり、好ましくは50mL〜5Lであり、特に好ましくは50mL〜2Lである。また、かかる多層中空容器の層構成として好ましくは、少なくともポリエステル系樹脂層/EVOH層/ポリエステル系樹脂層の構造を有するものであり、特には、芳香族ポリエステル系樹脂層/EVOH層/芳香族ポリエステル系樹脂層の2種3層の多層構造が好ましい。
【0131】
かくして得られた本発明の多層構造体は、カップ、トレイなどの多層広口容器や、タンク、ボトル等の多層中空容器として各種用途に有用である。好ましくは多層中空容器であり、特に好ましくは多層ボトルである。
これらの容器は一般的な食品の他、醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング等の調味料、味噌、食酢等の発酵食品、サラダ油等の油脂食品、清酒、ビール、みりん、ウィスキー、焼酎、ワイン等の酒類、炭酸飲料、ジュース、スポーツドリンク、牛乳、コーヒー飲料、ウーロン茶、紅茶、ミネラルウォーター等の清涼飲料水、化粧品、医薬品、洗剤、香粧品、工業薬品、農薬等各種の容器、特に、ビール、ワイン、炭酸飲料、ジュース、お茶、牛乳、コーヒー飲料等の飲料や、ソース、ケチャップ、ドレッシング等の調味料の容器として好ましく用いられる。
【実施例】
【0132】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0133】
<EVOH樹脂組成物ペレットNo.1−9の製造及び評価>
〔EVOH樹脂組成物ペレットNo.1−9の製造〕
冷却コイルを持つ1m3の重合缶に酢酸ビニルを500kg、メタノール80kg、アセチルパーオキシド300ppm(対酢酸ビニル)、クエン酸30ppm(対酢酸ビニル)、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを14kgを仕込み、系を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧が43kg/cm2となるまで圧入して、攪拌しながら、67℃まで昇温して、重合率が50%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量33モル%のエチレン−酢酸ビニル−ジアセトキシブテン三元共重合体を得た。
【0134】
該エチレン−酢酸ビニル−ジアセトキシブテン三元共重合体のメタノール溶液に、該共重合体中の残存酢酸基に対して、0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を供給することにより、ケン化を行い、上述の側鎖1,2−グリコール結合を有する構造単位(式(1a)参照)を1.0モル%含有するEVOH樹脂のメタノール溶液(EVOH樹脂30%、メタノール70%)を得た。かかるEVOH樹脂のアセチルオキシ部分のケン化度は99.6モル%であり、乾燥後ペレットのMFRは13g/10分(210℃、荷重2160g)であった。
【0135】
得られたEVOH樹脂のメタノール溶液を冷水中に、ストランド状に押し出し、得られたストランド状物(含水多孔質体)をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの樹脂分35%のEVOH樹脂の多孔性ペレットを得た。
【0136】
得られた多孔性ペレットを、EVOH樹脂に対してナトリウム分が、表1に示す濃度となるまで、濃度0.5%の酢酸水で洗浄した。その後、表1に示す酢酸濃度(EVOH樹脂に対する濃度)及び酢酸マグネシウム濃度(水に対する濃度)を有する酢酸/酢酸マグネシウム水溶液に浸漬した後、酸素濃度0.5%以下の窒素気流下中で110℃で8時間乾燥を行った。
乾燥後のEVOH樹脂組成物ペレットの、下記測定方法によるアルカリ土類金属(Mg)、アルカリ金属(Na)、酢酸の含有量、及びMFR値は、表1に示す通りである。このようにして得られたEVOH樹脂組成物ペレットNo.1−9を、下記評価方法に基づいて、揮発分、着色度、外観、耐熱分解性及びPETに対する層間接着性を評価した。測定結果をあわせて表1に示す。
【0137】
〔組成物ペレットの測定評価方法〕
(1)アルカリ金属(Na)含有率、アルカリ土類金属(Mg)含有率(重量%)
EVOH樹脂組成物ペレットを灰化後、塩酸水溶液に溶解して、原子吸光分析法(日立社製の原子吸光光度計)によって測定を行い、標準液との吸光度の比率からアルカリ金属(Na)含有率、アルカリ土類金属(Mg)含有率を定量した。
【0138】
(2)酢酸の含有率(ppm)
乾燥後のEVOH樹脂組成物ペレットを、凍結粉砕により粉砕した。得られた粉砕EVOH樹脂組成物を、呼び寸法1mmの篩(標準篩規格JIS Z−8801準拠)でふるい分けした。上記の篩を通過したEVOH樹脂組成物粉末10gとイオン交換水50mlを共栓付き100ml三角フラスコに投入し、冷却コンデンサーを付け、95℃で10時間攪拌抽出した。得られた抽出液2mlを、イオン交換水8mlで希釈した。前記希釈された抽出液を、イオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、酢酸量を定量した。定量に際しては、酢酸水溶液を用いて作成した検量線を用いた。
【0139】
(3)揮発分
乾燥後のEVOH樹脂組成物ペレットをアルミカップ上に10g置いて、150℃に設定した恒温機「PHH−200」(タバイエスペック製)内で5時間保持した。保持前後の重量を測定し、加熱前の重量に対する減少度(重量%)を揮発分として算出した。
【0140】
(4)着色度
乾燥後のEVOH樹脂組成物ペレットをアルミカップ上に10g置いて、N2ガス雰囲気下のイナートオーブン(Inert Oven「DN63HI」(ヤマト科学製))内で、(i)230℃,10分、又は(ii)280℃,10分間、ペレットを加熱した。加熱によりEVOH樹脂組成物ペレットは溶融し、プレート形状のEVOH樹脂(直径:55mm,厚み:4mm)が得られた。このEVOHプレートを冷却固化した後、着色度を分光色差計「SE−2000」(日本電色工業製)を用いてYI値(黄色度)で評価した。
【0141】
なお、上記加熱条件(i)は、EVOH樹脂の射出成形機内での長期滞留環境を再現するモデル試験であり、条件(ii)は、EVOHとポリエステル系樹脂が合流する多層マニフォールド部での長期滞留環境を再現するモデル試験である。両者とも、加熱試験後のYI値が小さいほど熱着色が少ないことを示し、YI値が大きいほど熱によって黄色に着色しやすいことを意味している。
【0142】
(5)外観
(4)の着色度評価で得られたEVOHプレートの中心部3cm,3cmの正方形内に観察される直径1mm以上の気泡の数を目視にて評価した。
○・・・気泡数が5個未満
△・・・気泡数が5個未満10個以上
×・・・気泡数が10個以上
【0143】
(6)耐熱分解性(重量減少度:wt%)
乾燥後のEVOH樹脂組成物ペレットを、250℃、280℃の各温度について、窒素雰囲気下で1時間保持した。各温度の保持前後の重量を測定し、加熱前の重量に対する減少度(重量%)を算出した。評価には、熱重量測定装置「Pyris1 TGA」(パーキンエルマー製)を用いた。
【0144】
(7)PETに対する接着性(PET/EVOH/PET共押出フィルムのT−peel強度)
乾燥後のEVOH樹脂組成物ペレットと、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂ペレット(日本ユニペット社「BK6180C」,密度1.4g/cm3,融点250℃,固有粘度0.83dl/g,イソフタル酸変性量2mol%)とを、フィードブロック3種5層の多層Tダイを備えた多層押出装置に供給して、PET層/PET層/EVOH層/PET層/PET層の層構成(厚み 35/5/20/5/35μm)の多層フィルム(実質的には、厚み40/20/40μmの2種3層のフィルムに該当)を得た。得られた多層フィルムについて、オートグラフにてPET層とEVOH層との間のT−peel強度を測定して、層間接着性を評価した。
【0145】
(共押出フィルム作製条件)
・中間層押出機(EVOH):40mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
・上下層押出機(PET):40mmφ単軸押出機(バレル温度:280℃)
・中上下層押出機(PET):32mmφ単軸押出機(バレル温度:280℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:260℃)
・引取速度:7m/分
・ロール温度:70℃
【0146】
(T−peel強度試験条件)
・装置:Autograph AGS-H(島津製作所製)
・ロードセル:50N
・試験方法:T−peel法(T型状にして剥離)
・試験片サイズ: 幅15 mm
・試験速度: 300 mm/min
【0147】
【表1】

【0148】
ペレットNo.1−4は、本発明実施例に該当し、ペレットNo.5−9は比較例に該当する。
EVOH樹脂に対してNa、Mg、酢酸を本発明の範囲内に調節したペレットNo.1−4では、いずれもPETに対する接着性を保持しつつ、250℃、280℃といった高温加熱によっても重量減少が少なく、高温での安定性に優れていることがわかる。また、280℃の高温域では、230℃の場合よりも着色したが、着色の程度は、ペレットNo.5,6よりも少なく、しかも発泡については、280℃でもほとんど認められない程度(1個)であり、外観上優れたものであることがわかる。
【0149】
これに対して、ペレットNo.5は、洗浄後のNa濃度が高く、結果として、EVOH樹脂組成物中に含まれるアルカリ金属含有率が高く、C/B(Na/Mg)比が0.5より高い場合である。PETに対する接着性については、実施例(ペレットNo.1−4)と同程度であったが、着色度が高く、また、高温で発泡が起こりやすかった。また、150℃での揮発分は、ペレットNo.6と同程度であったが、250℃、280℃といった高温加熱後の重量減少率が大きく、高温で分解されやすいことがわかる。
【0150】
ペレットNo.6は、浸漬処理に用いた酢酸濃度が低く、D/B(酢酸/Mg)比が5未満の場合であり、結果としてEVOH樹脂組成物中の酢酸濃度も低くなっていた。PETに対する接着性については、実施例(ペレットNo.1−4)に匹敵していたが、EVOH樹脂組成物中の酢酸濃度が低いためか、No.1−4よりも着色が大きく、280℃での発泡が起こりやすかった。また、150℃での揮発分は、ペレットNo.1,2と同程度であったが、200℃以上、特に280℃での重量減少率が大きく、高温で分解されやすいことがわかる。
【0151】
ペレットNo.7は、浸漬処理に用いた酢酸濃度が高く、D/B(酢酸/Mg)比が30を超えた場合であり、結果としてEVOH樹脂組成物中の酢酸濃度が高くなっていた。EVOH樹脂組成物中の酢酸濃度が高すぎるためか、PETに対する接着性については、実施例(ペレットNo.1−4)と比べて大幅に低下していた。このような接着力では、ボトル、カップなどの多層容器として用いた場合に、PET層とEVOH層との間でのデラミネーションが簡単に起こる傾向にあるため好ましくない。
【0152】
ペレットNo.8は、浸漬処理に用いた酢酸マグネシウム濃度が低く、Mg量が10ppm未満の場合である。実施例(ペレットNo.1−4)と比べて、高温での重量減少率は低く、耐熱分解性が優れていたが、EVOH樹脂組成物中のマグネシウム濃度が低すぎるためか、PETに対する接着性については、ペレットNo.1−4よりも大幅に劣っていた。このような接着力では、ボトル、カップなどの多層容器として用いた場合に、PET層とEVOH層との間でのデラミネーションが簡単に起こる傾向にあるため好ましくない。
【0153】
ペレットNo.9は、浸漬処理に用いた酢酸マグネシウム濃度が高く、Mg量が50ppmを超える場合である。PETに対する接着性については実施例(ペレットNo.1−4)よりも高く優れていたが、EVOH樹脂組成物中のマグネシウム濃度が高すぎるためか、高温、特に280℃での重量減少率が大きく、耐熱分解性が劣っていることがわかる。
【0154】
なお、実施例においても、浸漬処理における酢酸濃度を高くした場合(ペレットNo.2)、接着性が若干低下する傾向にあるが、アルカリ土類金属に対する含有割合を本発明の特定範囲内とすることにより、高温での着色、発泡、250℃、280℃といった高温加熱に対する安定性が損なわれることはなかった。
【0155】
また、浸漬処理における酢酸マグネシウム濃度を高くしたもの(ペレットNo.3,4)では、高温加熱に対する安定性が低下する傾向が見られたものの、PETに対する接着性については、若干増大していることから、用途、求められる特性に応じて、本発明の特定範囲内で、アルカリ土類金属、アルカリ金属、酢酸の各濃度を、適宜設定すればよいことがわかる。
【0156】
<多層構造体のブロー延伸性、及び多層容器の耐衝撃剥離性>
〔EVOH樹脂組成物ペレットNo.10の製造〕
ペレットNo.1の重合において3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを添加しなかった以外はペレットNo.1と同様にして重合を行い、エチレン含有量33モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体を得た。
該エチレン−酢酸ビニル共重合体を、ペレットNo.1の場合と同様にして、ケン化、多孔質ペレット作製、洗浄、次いで酢酸/酢酸マグネシウム水溶液に浸漬処理し、続いて乾燥処理を行うことにより、揮発分として0.23重量%のEVOH樹脂組成物ペレットNo.10を得た。
【0157】
〔多層構造体S1,S2、S3の製造及び評価〕
上記で調製したEVOH樹脂組成物ペレットNo.1,ペレットNo.8,及びペレットNo.10と、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(日本ユニペット社「BK6180C」,密度1.4g/cm3,融点250℃,固有粘度0.83dl/g,イソフタル酸変性量2mol%)とを、フィードブロック3種5層の多層Tダイを備えた多層押出装置に供給して、下記条件で共押出することにより、PET層/PET層/EVOH層/PET層/PET層の層構成(厚み 150/20/60/20/150μm)の多層構造体(実質的には、厚み170/60/170μmの2種3層のシートに該当)S1,S2,及びS3を得た。得られた各多層構造体S1,S2,及びS3について、下記評価方法に基づいて、ブロー延伸性を評価した。
【0158】
また、作成した多層構造体S1,S2,S3について、真空圧空成形機(浅野研究所製)を用いて、下記条件でトレー型の多層容器を作製し、耐衝撃剥離性を評価した。これらの測定結果を表2に示す。
【0159】
(共押出シート作製条件)
・中間層押出機(EVOH):40mmφ単軸押出機(バレル温度:230℃)
・上下層押出機(PET):40mmφ単軸押出機(バレル温度:280℃)
・中上下層押出機(PET):32mmφ単軸押出機(バレル温度:280℃)
・ダイ:3種5層フィードブロック型Tダイ(ダイ温度:250℃)
・引取速度:2m/分
・ロール温度:50℃
【0160】
(多層構造体のブロー延伸性評価方法)
所定の成形金型を有さない真空圧空成形機(浅野研究所製)に作製した多層構造体をセットし、ヒーター温度300℃で、加熱時間を30〜45秒間(シート表面温度の範囲:124〜142℃)加熱し、空気圧力0.6kg/cm2にて圧空延伸を行い、風船状の延伸多層構造体を得た。
【0161】
得られた風船状の延伸多層構造体内を水で充満した後、メスシリンダーを用いて水の容積を計測することで風船の容積を求めた。このモデル実験は、所定の成形金型を有さない真空圧空成形機を用いることにより、工業的に行われる延伸加工にてかけられる張力よりも広範囲の張力が多層構造体に付勢されるものであり、実際の工業的製造法よりも厳しい条件における試験方法である。
風船状の延伸多層構造体の容積は、非常に強い張力に対応して延伸する能力(ブロー延伸性)を確認することができ、該容積が大きいほど、高延伸倍率にて延伸しやすく、延伸性に優れると言える。
また、加熱時間を変化させて上記の傾向を観察することにより、適応可能な延伸温度範囲を知ることができる。
【0162】
(多層容器作製条件及び耐衝撃剥離性の測定)
上記で得られた多層構造体について、真空成形機(浅野研究所製)を用いて、トレー型の多層容器を作製した。
・金型寸法:縦110mm、横85mm、深さ、25mm
・ヒーター温度:300℃
・加熱時間:25秒
・シート表面温度:120℃
【0163】
上記で作製した多層容器を、圧縮成形機を用いてトレー底面を上向きにした状態で圧縮変形させた。圧縮変形させたトレー底面にカッターで切り口を施した後に、トレー底面部を黒インクに30秒間浸漬させた。トレーへの毛細管現象によるインクの吸収状況から、以下の評価基準に基づいて多層容器の圧縮変形による多層構造体の衝撃剥離の程度を目視で観察し、以下のように、評価した。
○・・・トレー側面への黒インクの浸透が観察されず、外観が良好であった。
×・・・トレー側面に黒インクが浸透して、外観が黒く汚れた。このことは、衝撃によって層間剥離が生じたことを表しており、耐衝撃剥離性が不足していると言える。
【0164】
【表2】

【0165】
多層構造体S1とS2を比べると、原料となる組成物ペレットの耐熱分解性のような差異(No.8の方が耐熱性が優れている)は、多層構造体のブロー延伸性については認められなかった。一方、多層構造体の耐衝撃剥離性については、PETに対する接着性に関するペレットNo.1の優位性が、多層容器となっても反映され、S1の方が優れていた。
【0166】
多層構造体S3は、側鎖1,2−ジオール構造単位を有しないEVOH樹脂を用いた組成物ペレットNo.10を原料とするものである。多層構造体S1と多層構造体S3とは、原料とするペレットのアルカリ金属、アルカリ土類金属、酢酸濃度が等しいにもかかわらず、S3のブロー延伸性は、S1よりも劣っていた。
【0167】
また、側鎖1,2−ジオール構造単位を有するEVOH樹脂を用いた多層構造体S1では128℃の低温状態からブロー延伸が可能であるのに対して、当該構成単位を有しないEVOH樹脂を用いた多層構造体S3でブロー延伸するためには137℃まで温度を上げる必要があった。また、140℃以上の高温においては、多層構造体S1では多層構造体S3の約2倍の容積まで膨らみ高倍率延伸が可能であった。
この傾向は、ボトル、カップなどブロー成形で多層容器を作製する場合にも同様であると考えられ、側鎖1,2−ジオール構造単位を有するEVOH樹脂を用いた多層構造体S1では延伸可能な温度範囲が広くブロー延伸性に優れていることがわかる。
【0168】
<EVOH樹脂組成物ブレンドペレットNo.11−12の評価>
上記で調製したEVOH樹脂組成物ペレットNo.6とペレットNo.7を表3に示す割合でペレット同士を混合したブレンドペレットNo.11、及びペレットNo.8とペレットNo.9を表3に示す割合でペレット同士を混合したブレンドペレットNo.12を調製した。ブレンドペレットは、下記の条件で溶融混練して均一状態にした後、ペレットNo.1と同様の方法で、揮発分、着色度、外観、耐熱分解性及びPETに対する層間接着性を評価した。測定結果をあわせて表3に示す。
(ペレットの溶融混練条件)
溶融混練装置 :プラストグラフ(ブラベンダー製)
ミキサー :W50EHT型(容量55cc)
充填樹脂量 :50g
混練温度 :210℃
混練時間 :2分
ローター回転数:50rpm
【0169】
【表3】

【0170】
ペレットNo.11は、(D/B)が5未満の樹脂組成物ペレットと(D/B)が30以上の樹脂組成物ペレットをブレンドした場合である。ペレットNo.12は、アルカリ土類金属が10ppm未満の樹脂組成物ペレットとアルカリ土類金属が50ppm以上の樹脂組成物ペレットをブレンドした場合である。いずれもペレットNo.1同様に、PETに対する接着性を保持しつつ、250℃、280℃といった高温加熱によっても重量減少が少なく、高温での安定性に優れていることがわかる。
従って、本発明の規定する要件(α),(β),及び(γ)のいずれかを充足していないEVOH樹脂組成物であっても、アルカリ土類金属、アルカリ金属、酢酸の各濃度の異なるEVOH樹脂組成物と組み合わせることにより、本発明の要件(α),(β),及び(γ)を充足できるようにしたEVOH樹脂組成物は、本発明のEVOH樹脂組成物として、本発明の目的が得られることがわかる。
【0171】
<塩基性アミン系ポリマー含有EVOH樹脂組成物ペレットNo.21、並びにリン酸金属塩含有EVOH樹脂組成物ペレットNo.22の製造及び評価>
上記で調製したEVOH樹脂組成物ペレットNo.1に、表4に示す割合で、アミン系ポリマー又はリン酸アルカリ金属塩を添加し、溶融混合し、得られた樹脂組成物を下記条件で溶融混練して、ストランド状に押出し、ペレタイザーでカットして、EVOH樹脂組成物の円柱形ペレットNo.21及び22を得た。このペレットNo.21、22について、ペレットNo.1と同様の方法で、280℃での耐熱分解性及びPETに対する接着性を測定評価した。測定結果を表4に併せて示す。また、比較のために、ペレットNo.1,5の測定結果も併せて示す。
【0172】
なお、塩基性アミン系ポリマーとしては、ポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社の試薬、平均分子量約600)、リン酸アルカリ金属塩としては、リン酸二水素カリウム(和光純薬工業株式会社の特級試薬)を用いた。
【0173】
(押出条件)
押出機:直径(D)32mm、二軸押出機
L/D=56
スクリーンパック:90/90メッシュ
ベント:すべて閉
スクリュ回転数 :200rpm
設定温度:C2/C3/C4/C5/C6/C7/C8/C9/C10/C11/C12/C13/C14/C15/C16/D
=120/190/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200/200 ℃
吐出量:18kg/hr
【0174】
【表4】

【0175】
塩基性アミン系ポリマーを含有させたEVOH樹脂組成物のペレットNo.21は、含有されていないペレットNo.1よりも、PETに対する接着性が増大していた。また、280℃での耐熱分解性も良好であり、高温での安定性に優れていた。従って、塩基性アミン系ポリマーの添加が、EVOH樹脂組成物のPETに対する接着性、高温安定性の向上に役立つことがわかる。
【0176】
ペレットNo.22は、ペレットNo.1の樹脂組成物にさらにリン酸アルカリ金属塩(リン酸二水素カリウム)を添加した場合である。EVOH樹脂に対してカリウムとして72ppm、リン酸根として175ppmにて含有するものであり、C/B=72.6/26=2.8である。このようなペレットNo.22は、PETに対する接着性がペレットNo.1よりも大幅に低下しており、さらにC/B=6.6のペレットNo.5よりも大幅に接着性が低いものであった。従って、PETに対する接着性の観点から、EVOH樹脂組成物にリン酸塩は含有されない方が好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0177】
本発明のEVOH樹脂組成物は、高温でも着色が少なく熱分解しにくく安定なので、ポリエステル等の高融点熱可塑性樹脂と共押出成形、共射出成形に供することができ、接着強度に優れた多層構造体を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物;
(B)アルカリ土類金属;
(C)アルカリ金属;及び
(D)炭素数2〜4のカルボン酸
を含有し、且つ下記要件(α),(β),及び(γ)を充足するエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物:
(α)(B)アルカリ土類金属の前記(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対する含有率が10超〜50ppm、
(β)(B)アルカリ土類金属に対する(C)アルカリ金属の含有量比(C/B)=0.001〜0.5、
(γ)(D)炭素数2〜4のカルボン酸の(B)アルカリ土類金属に対する含有量比(D/B)=5〜30。
【請求項2】
280℃、窒素雰囲気下で1時間保持した際の重量減少率が15重量%以下である請求項1に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項3】
(B)アルカリ土類金属は、マグネシウムである請求項1又は2に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項4】
(D)炭素数2〜4のカルボン酸が、炭素数2〜4のモノ又はジカルボン酸である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項5】
(C)アルカリ金属がカリウム又はナトリウムである請求項1〜4のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項6】
(A)エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物に対するリン酸根の含有量は、5ppm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項7】
エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物は、下記一般式で示される1,2−ジオール単位を有している請求項1〜5のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【化1】


(式中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R4、R5、及びR6はそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。)
【請求項8】
(E)塩基性アミン系ポリマーを含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項9】
前記(E)塩基性アミン系ポリマーは、アルキレンイミンポリマーである請求項8に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項10】
前記(E)塩基性ポリマーの含有量は、EVOH樹脂100重量部あたり、0.01〜10重量部である請求項8又は9に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物からなる層を少なくとも1層有する多層構造体。
【請求項12】
請求項11に記載のエチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂層が積層されている多層構造体。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂層は、ポリエステル系樹脂層である請求項12に記載の多層構造体。
【請求項14】
前記多層構造体は、ポリエステル系樹脂層/エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物組成物層/ポリエステル系樹脂層の構造を有する請求項13に記載の多層構造体。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の多層構造体からなる多層中空容器。
【請求項16】
共射出成形により成形されたことを特徴とする請求項15に記載の多層中空容器。

【公開番号】特開2012−31405(P2012−31405A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150091(P2011−150091)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】