説明

エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法

【課題】シート内部に気泡がなく、歩留まりが向上した厚膜のEVAシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル共重合体を含む樹脂組成物を混練した後、カレンダーロール25で圧延する工程を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法であって、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの厚さが0.7〜2.0mmであり、そして、前記カレンダーロール25に供給される前記樹脂組成物の温度を70〜90℃に調整することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用封止膜や合わせガラス用中間膜等に用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体シートをカレンダー成形によって製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAとも称する。)シートは、透明性や接着性に優れていることから、太陽電池用封止膜や合わせガラス用中間膜の他、反射防止層等を有する光学フィルタをディスプレイに貼り付けるための接着膜などとして広く用いられている。
【0003】
EVAシートを太陽電池用封止膜として使用する場合には、例えば、図3に示すように、ガラス基板などからなる表面側透明保護部材11、太陽電池用封止膜13A、接続タブ15で電気的に接続された複数の太陽電池用セル14、太陽電池用封止膜13B、及び裏面側保護部材(バックカバー)12をこの順で積層し、減圧で脱気した後、加熱加圧することにより製造される太陽電池に使用される。太陽電池用封止膜13A、13Bにより太陽電池用セル14が封止されると共に、各部材が接着一体化される(特許文献1)。
【0004】
また、合わせガラス用中間膜として使用する場合には、図4に示すように、2枚のガラス板7A及び7Bの間に合わせガラス用中間膜5を挟持し、架橋硬化させて製造される合わせガラスに使用される。合わせガラスは主に自動車や建物の窓に使用され、合わせガラス用中間膜5により、耐貫通性や破損したガラスの飛散が防止される(特許文献2)。
【0005】
このような目的で用いられるEVAシートは、エチレン−酢酸ビニル共重合体および架橋剤などの添加剤を含む組成物を、カレンダー成形、押出成形、プレス成形等種々の成形法により成膜して製造される。この中でもカレンダー成形は生産能力が高く、シートを製造するために一般に広く使用されている。
【0006】
カレンダー成形に用いられる装置としては、例えば、特許文献3に記載のようなカレンダー成形機が一般的に用いられている。このカレンダー成形機では、図1に示すように、EVAを含む樹脂組成物(原料)を混練機21に投入し、溶融混練後、コンベアベルト22で混練物20を搬送して練りロール23に供給した後、練りロール23で膜状となった混練物をコンベアベルト24で搬送する。そして、混練物をカレンダーロール25(第1ロール25A、第2ロール25B、第3ロール25C、第4ロール25D)で圧延し、圧延されたシートをテイクオフロール26で取り出した後、複数の冷却ロール28で冷却し、これにより得られたEVAシート30を巻き取り機29で巻き取る。EVAシートは合わせガラス用中間膜や太陽電池用封止膜に用いる場合には、通常0.4〜0.6mm程度の厚さに成形されて使用される(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−091772号公報
【特許文献2】特開2007−331952号公報
【特許文献3】特開2007−160740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、このようなカレンダー成形において、樹脂組成物をカレンダーロールで圧延する前に、混練時や樹脂組成物が滞留するバンク31(図1参照)において樹脂組成物中に気泡が生じることは一般に回避することができない問題である。通常使用される膜厚のEVAシートの製造時には気泡が生じてもカレンダーロールによる圧延過程や、製品製造時のラミネート時に気泡が抜けるので問題は生じない。
【0009】
しかしながら、膜厚の厚いEVAシートの場合は、圧延過程のカレンダーロール間のクリアランスが大きいため大きな気泡が残存し、残存した気泡はラミネート時においても抜けず、生産不良となるという問題がある。膜厚の厚いEVAシートは、厚い透明基板(ガラス)を用いる合わせガラスや、薄い太陽電池用セルを用いた太陽電池の作製時にそのセル割れを防ぐために使用され、近年その需要が高まっていることからこの問題を解決できる対策が望まれている。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、得られるシート内部における気泡の残存が防止され、歩留まりが向上した厚膜のEVAシートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を含む樹脂組成物を混練した後、カレンダーロールで圧延する工程を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法であって、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの厚さが0.7〜2.0mmであり、そして、前記カレンダーロールに供給される前記樹脂組成物の温度を70〜90℃に調整することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法により達成される。
【0012】
従来のカレンダー成形で厚膜品のEVAシートを製造する際には、樹脂組成物を混練した後カレンダーロールに供給するまでの間にその樹脂組成物の温度が低下して、流動性が下がることにより気泡が抜けずに残存することが問題となっていた。本発明の構成のように、0.7〜2.0mmという厚膜品のEVAシートを製造する際に、カレンダーロールに供給される樹脂組成物の温度を70〜90℃に調整することにより、流動性が良好な状態でカレンダーロールで圧延することができるので、その圧延時に気泡を抜け出させることが可能となる。
【0013】
本発明の好ましい態様は以下の通りである。
【0014】
(1)前記混練を練りロールで行い、前記温度調整を、前記練りロールと前記カレンダーロールとの間に配置された、前記混練された前記樹脂組成物を前記カレンダーロールに搬送する搬送手段において加熱することにより行う。この構成のように、搬送手段において樹脂組成物の加熱を行うことにより、効率的に樹脂組成物の温度を70〜90℃の範囲に維持することができる。
【0015】
(2)前記加熱を、前記樹脂組成物に熱線照射することにより行う。簡易且つ迅速に温度調整を行うことができる。
【0016】
(3)前記搬送手段としてコンベアベルトを使用し、該コンベアベルトのベルト温度を40〜70℃とすることにより前記温度調整を行う。簡易な方法で温度の低下を防ぎ、樹脂組成物を70〜90℃に維持することが可能となる。
【0017】
(4)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの厚さが0.7〜1.0mmである。厚膜EVAシート中でも0.7〜1.0mmの厚さの場合には気泡の残存を確実に防止することができる。
【0018】
(5)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(JIS K7210に従って、190℃、荷重21.18Nで測定)が、35g/10分以下である。EVAの流動性をこの範囲とすることにより、気泡の残存を確実に防止することができる。
【0019】
(6)前記樹脂組成物は架橋剤を含む。上記温度によれば、架橋剤が入っている場合でも架橋剤を反応させずにEVAシートを製造することができる。
【0020】
(7)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体シートが、太陽電池用封止膜又は合わせガラス用中間膜である。本発明の製造方法により形成されたEVAシートは、太陽電池用封止膜又は合わせガラス用中間膜として好適に使用することができる。
【0021】
また、本発明は、上記製造方法により製造されたエチレン−酢酸ビニル共重合体シートを提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るエチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法によれば、EVAシート内部における気泡の残存を防止することができ、歩留まりを向上させることができる。したがって、接着性及び外観の良好な厚膜EVAシートを高い生産性で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】カレンダー成形機の一例を示す概略図である。
【図2】カレンダーロールの配置例を示す概略図である。
【図3】太陽電池の一例を示す概略断面図である。
【図4】合わせガラスの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るEVAシートの製造方法を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の製造方法に用いるカレンダー成形機の一例を示す概略図である。
【0025】
このカレンダー成形機では、エチレン−酢酸ビニル共重合体及び必要により架橋剤等の添加剤を含む樹脂組成物(原料)を混練機21に投入し、溶融混練後、コンベアベルト22で混練物20を搬送して練りロール23に供給する。練りロール23で加熱混練(通常70〜90℃)して膜状になった混練物をコンベアベルト24により搬送し、カレンダーロール(一般に熱ロールとも呼ばれる)である第1ロール25Aと第2ロール25Bとの間に供給する。この時、第1ロール25Aと第2ロール25Bの間隙には樹脂組成物が滞留しているバンク31が生じる。カレンダーロール25に供給された樹脂組成物は、第1ロール25A、第2ロール25B、第3ロール25C、第4ロール25Dで圧延され、圧延されたシートはテイクオフロール26で取り出される。その後、5個の冷却ロール28で冷却して、得られたEVAシート30を巻き取り機29で巻き取ることにより、ロール状に巻回されたEVAシートが得られる。
【0026】
本実施の形態においては、第1ロール25Aと第2ロール25Bはほぼ水平となるように配置され、第3ロール25Cは第2ロール25Bに対して鉛直方向下方に配置され、第3ロール25Cとほぼ水平となるように第4ロール25Dが配置されている。エンボスロール27は、シート面に凹凸加工を施す必要がある場合に適宜設けられるものであり、テイクオフロール26のあとに配置される。
【0027】
本発明のEVAシートの製造方法において特徴的なことは、製膜後のEVAシートの厚さが0.7〜2.0mmの厚膜EVAシートを製造する際に、上記カレンダーロール25A、25Bの間に供給される樹脂組成物を70〜90℃、好ましくは80〜90℃の温度に調整することである。このように、カレンダーロール25に供給される樹脂組成物の温度を調整し、流動性の低下を防ぐことにより気泡の巻き込みを防止することができる。70℃未満であると流動性が低下して混練時やバンク31で発生した気泡がシート内部に残存する可能性があり、90℃を超えるとEVA樹脂組成物に含まれる架橋剤が反応して架橋反応が生じる場合がある。本発明では、カレンダーロール25に供給される直前の温度、すなわち図1に示すカレンダーロール25A、25Bに供給されるときの樹脂組成物の温度が70〜90℃であればよい。また、EVAシートの成膜後の厚さは0.7〜1.0mmであることが、確実に気泡の巻きこみを防止することができる点で好ましい。
【0028】
本発明において上記温度調整を行うための加熱手段は、樹脂組成物を70〜90℃の範囲に調整することができれば特に限定されない。例えば、コンベアベルト24の上方にヒータを設置してコンベアベルト24上を移動する樹脂組成物を直接加熱する方法、コンベアベルト24の内側にヒータを設置し、加熱されたベルトによって樹脂組成物を間接的に加熱する方法、樹脂組成物を練りロール23からコンベアベルト24上を搬送した後、再度練りロール23に戻すというサイクルを一定時間行ってコンベアベルト24を温める方法等が挙げられる。この際、コンベアベルト24のベルト温度は40〜70℃とすることが好ましい。この温度とすることにより加熱混練した後の樹脂組成物の温度低下を効率的に防止し、上記温度に調整することができる。なお、コンベアベルト24の長さ方向の長さは一般に10〜20mである。
【0029】
また、樹脂組成物の温度は、接触温度計を樹脂組成物に直接接触させることにより、あるいは赤外線方式や光温度方式等の非接触温度計により測定することができる。EVAシートの加工性に影響を及ぼさない点から非接触温度計により温度測定することが好ましい。また、カレンダー成形機は、樹脂組成物が意図せず90℃を超えた場合に冷却を行うための冷却手段を備えていても良い。冷却手段としては、窒素や空気等の不活性ガスからなる冷風を樹脂組成物に送風する冷却機等が挙げられ、このような冷却機は、例えばコンベアベルト24の上方に設置すればよい。
【0030】
更に、カレンダー成形機は、上記温度計からの情報に応じて加熱手段及び冷却手段のON/OFFや強弱の調整を行う制御手段(図示せず)が備えられていてもよい。これにより、常に温度をモニターして樹脂組成物を70〜90℃の範囲の温度に制御することが可能となる。
【0031】
なお、カレンダーロール25A、25B、25C、25Dの回転速度は、1〜30m/分、特に1〜20m/分とするのが好ましい。回転速度は、通常25A<25B<25C<25Dとなるように設定される。カレンダーロールの温度は50〜90℃、特に80〜90℃とすることが好ましい。
【0032】
また、EVAシートの厚さの設定は、カレンダーロール15Cと15Dの間隔を、所望とするシート厚となるように設定することにより行うことができる。これにより、0.7〜2.0mm厚のEVAシートを得ることができる。
【0033】
なお、本発明において、カレンダーロールの配置形態は特に限定されず、従来から目的に応じて使い分けられているあらゆる配置形態を採用することができる。例えば、図2に示すように、(a)直列3本型、(b)傾斜3本型、(c)直列4本型、(d)逆L型、(e)Z型、(f)傾斜Z型、(g)5本型等が挙げられる。
【0034】
以下、EVAシートを作製するためのEVA樹脂組成物について詳細に説明する。
【0035】
[エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)]
EVAにおける酢酸ビニル含有量は20〜35質量%、特に22〜26質量%であることが好ましい。20質量%未満であると、EVAシートの加工性が低下する恐れがあり、35質量%を超えると、カルボン酸、アルコール等が発生し、EVAシートと接する部材との界面で発泡が生じ易くなる恐れがある。
【0036】
また、EVAのメルトフローレート(MFR)は、35g/10分以下、特に2〜6g/10分であることが好ましい。低すぎると流動性が低下し、発生した気泡が抜けにくくなる場合があり、この範囲より高いと加工性が低下する場合がある。なお、本発明におけるメルトフローレート(MFR)の値は、JIS K7210に従い、190℃、荷重21.18Nの条件に基づいて測定されたものである。
【0037】
[架橋剤]
本発明においてEVAを含む樹脂組成物はエチレン−酢酸ビニル共重合体の架橋構造を形成するための架橋剤を含むことが好ましい。架橋構造を形成することで、太陽電池モジュールに用いた場合の封止性能や、合わせガラスに用いた場合の接着性能を向上させることができる。架橋剤としては、接着力、耐湿性、耐貫通性の温度依存性が改善されたEVAシートが得られることから、有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0038】
前記有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも使用することができる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。
【0039】
前記有機過酸化物としては、樹脂の加工温度・貯蔵安定性の観点から例えば、ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤、tert−ヘキシルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシ2−ヘキシルカーボネート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、スクシニックアシドパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイル+ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシマレイックアシド、tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサン、tert−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、tert−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、等が挙げられる。
【0040】
ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、70℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであればいずれも使用可能であるが、半減期10時間の分解温度が50℃以上のものが好ましく、調製条件、成膜温度、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して適宜選択できる。使用可能なベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤は1種でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
有機過酸化物として、特に、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ブチルパーオキシ2−ヘキシルカーボネートが好ましい。
【0042】
前記有機過酸化物の含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜3質量部であることが好ましい。前記有機過酸化物の含有量は、少ないと得られる架橋後の耐久性能が低下する恐れがあり、多くなると共重合体との相溶性が悪くなる恐れがある。
【0043】
[架橋助剤]
EVAを含む樹脂組成物は、必要に応じて、さらに架橋助剤を含んでいてもよい。前記架橋助剤は、エチレン−酢酸ビニル共重合体のゲル分率を向上させ、EVAシートの接着性及び耐久性を向上させることができる。
【0044】
前記架橋助剤の含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、一般に10質量部以下、好ましくは0.1〜5質量部、更に好ましくは0.1〜2.5質量部で使用される。これにより、接着性に優れるEVAシートが得られる。
【0045】
前記架橋助剤(官能基としてラジカル重合性基を有する化合物)としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の3官能の架橋助剤の他、(メタ)アクリルエステル(例、NKエステル等)の単官能又は2官能の架橋助剤等を挙げることができる。なかでも、トリアリルシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートが好ましく、特にトリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0046】
[接着性向上剤]
EVAシートは、合わせガラスや太陽電池モジュールに使用した場合の接着性能を向上させるため、更に接着向上剤を含んでいても良い。接着向上剤としては、シランカップリング剤を用いることができる。これにより、優れた接着力を有するEVAシートを形成することが可能となる。シランカップリング剤としては、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。なかでも、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましく挙げられる。
【0047】
前記シランカップリング剤の含有量はエチレン−酢酸ビニル共重合体100質量部に対して5質量部以下、好ましくは0.1〜2質量部であることが好ましい。
【0048】
[その他]
EVAシートは、膜の種々の物性(機械的強度、光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整のため、必要に応じて、可塑剤、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物などの各種添加剤、紫外線吸収剤、光安定剤および老化防止剤を含んでいてもよい。
【0049】
本発明の製造方法により製造されるEVAシートは、気泡が内部に存在せず、接着性及び外観が良好であるので、合わせガラス用中間膜又は太陽電池用封止膜として好ましく使用することができる。
【0050】
合わせガラス用中間膜として使用する場合は、例えば、本発明により製造されたEVAシート(中間膜)を2枚の透明基板の間に介在させて、接合一体化させることにより合わせガラスが製造される。前記透明基板は、例えば珪酸塩ガラス、無機ガラス板、無着色透明ガラス板などのガラス板の他、プラスチックフィルムを用いてもよい。前記プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンアフタレート(PEN)フィルム、ポリエチレンブチレートフィルムを挙げることができ、PETフィルムが好ましい。透明基板の厚さは、0.05〜20mm程度が一般的である。
【0051】
合わせガラスの製造は、通常、EVAシートを2枚の透明基板で挟持して積層し、その積層体を減圧下で脱気し、加熱下に押圧することにより(高温ラミネート工程)、EVAシートに含まれるエチレン−酢酸ビニル共重合体を架橋硬化して、各層を接合一体化することにより行われる。架橋硬化する場合は、前記積層体を、一般に100〜150℃、特に135℃付近で、10分〜120分、好ましくは10分〜60分、加熱処理することにより行われる。前記架橋硬化は、例えば80〜120℃の温度で予備圧着した後に行われてもよい。前記加熱処理は、例えば135℃で10〜30分間(雰囲気温度)が特に好ましい。また、前記加熱処理は0〜800KPaのプレス圧力を積層体に加えながら行うのが好ましい。架橋後の積層体の冷却は一般に室温で行われるが、特に冷却は速いほど好ましい。
【0052】
また、EVAシートを太陽電池用封止膜に使用する場合は、通常、表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に、本発明により製造されたEVAシート(封止膜)を介在させて架橋一体化させることにより太陽電池用セルを封止させて太陽電池を製造する。太陽電池用セルを十分に封止するには、表面側透明保護部材、表面側封止膜、太陽電池用セル、裏面側封止膜及び裏面側保護部材をその順で積層し、積層体を減圧下で予備圧着し、各層の残存する空気を脱気した後、加熱加圧して封止膜を架橋硬化させればよい。
【0053】
ここで、太陽電池セルの光が照射される側(受光面側)を「表面側」と称し、太陽電池セルの受光面とは反対面側を「裏面側」と称する。
【0054】
太陽電池に使用される表面側透明保護部材は、通常、珪酸塩ガラスなどのガラス基板が好ましい。ガラス基板の厚さは、0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板は、一般に、化学的に、或いは熱的に強化させたものであってもよい。また、裏面側保護部材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのプラスチックフィルムであるが、耐熱性、耐湿熱性を考慮してフッ化ポリエチレンフィルム、特にフッ化ポリエチレンフィルム/Al/フッ化ポリエチレンフィルムをこの順で積層させたフィルムが好ましい。
【0055】
前記加熱加圧は、例えば、前記積層体を、真空ラミネータで温度135〜180℃、さらに140〜180℃、特に155〜180℃、脱気時間0.1〜5分、プレス圧力0.1〜1.5kg/cm2、プレス時間5〜15分で加熱圧着すればよい。この加熱加圧時に、表面側封止膜および裏面側封止膜に含まれるEVAを架橋させることにより、表面側封止膜および裏面側封止膜を介して、表面側透明保護部材、裏面側透明部材及び太陽電池用セルを一体化させて、太陽電池用セルを封止することができる。
【0056】
以下、本発明を実施例により説明する。
【実施例】
【0057】
以下に示す配合の樹脂組成物を、図1に示すカレンダー成形機を用いて、表1に示す厚さのEVAシートをそれぞれ作製した。なお、この際、図1に示すコンベアベルト24上の樹脂組成物を表1に示す各温度に加熱して温度調整を行った。温度調整は、図1に示す練りロール23で加熱混練(混練温度:90℃)した樹脂組成物をコンベアベルト24に搬送した後、カレンダーロール25に供給後、練りロール23に戻して再度コンベアベルト24上を搬送させるというサイクルを1時間行うことにより、コンベアベルト24のベルト温度を表1に示す温度とすることにより行った。
【0058】
また、樹脂組成物の温度及びコンベアベルト24のベルト温度は、赤外線非接触温度計により測定した。なお、各カレンダーロールは、速度を6〜10m/分、温度を85〜90℃に調整した。
【0059】
(EVA樹脂組成物の配合)
・EVA 100質量部
(酢酸ビニル含有量:24質量%、MFR:2.5g/10分)
・架橋剤(t−ブチルパーオキシ2−ヘキシルカーボネート) 2.5質量部
・架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート) 2.0質量部
・シランカップリング剤(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)0.5質量部
【0060】
<評価方法>
得られたEVAシートについて気泡の有無及びその長さ(L)を目視で観察した。気泡の長さLは、カレンダー成形時の圧延により楕円状に延びた気泡の長さを示しており、単位はmmである。
【0061】
また、2枚のガラス(3.0mm)でEVAシートを挟持し、真空ラミネータにて、135℃でラミネートを行った後のEVAシートについて、気泡の有無を目視で確認した。結果を表1に示す
【0062】

【表1】

【0063】
<評価結果>
表1に示されているように、EVA樹脂組成物の温度が70〜90℃の場合には、それぞれ50℃、60℃である比較例1〜3に比べて、気泡の数が少ないことが認められた。特に80℃、90℃である実施例2及び3では、気泡が全く認められなかった。
【符号の説明】
【0064】
5 合わせガラス用中間膜
7A、7B 透明基板
11 表面側透明保護部材
12 裏面側保護部材
13A 太陽電池用封止膜(表面側)
13B 太陽電池用封止膜(裏面側)
14 太陽電池用セル
15 接続タブ
21 混練機
22 コンベアベルト
23 練りロール
24 コンベアベルト
25A、25B、25C、25D カレンダーロール
26 テイクオフロール
27 エンボスロール
28 冷却ロール
29 巻き取り機
30 EVAシート
31 バンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体を含む樹脂組成物を混練した後、カレンダーロールで圧延する工程を含むエチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法であって、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの厚さが0.7〜2.0mmであり、そして、
前記カレンダーロールに供給される前記樹脂組成物の温度を70〜90℃に調整することを特徴とするエチレン−酢酸ビニル共重合体シートの製造方法。
【請求項2】
前記混練を練りロールで行い、
前記温度調整を、前記練りロールと前記カレンダーロールとの間に配置された、前記混練された前記樹脂組成物を前記カレンダーロールに搬送する搬送手段において加熱することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱を、前記樹脂組成物に熱線照射することにより行うことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記搬送手段としてコンベアベルトを使用し、該コンベアベルトのベルト温度を40〜70℃とすることにより前記温度調整を行うことを特徴とする請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体シートの厚さが0.7〜1.0mmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレート(JIS K7210に従って、190℃、荷重21.18Nで測定)が、35g/10分以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物は架橋剤を含むことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体シートが、太陽電池用封止膜又は合わせガラス用中間膜であることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項に記載の製造方法により製造されたエチレン−酢酸ビニル共重合体シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−93392(P2013−93392A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233535(P2011−233535)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】