説明

エミッタ結合形無安定マルチバイブレータ

【課題】さらに温度変動に対し安定な発振周波数が得られるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータを提供することを目的とする。
【解決手段】交互にオンオフする第1、第2のトランジスタQ1、Q2を具えるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータにおいて、マルチバイブレータを構成する2つの負荷抵抗R1、R2と、ダイオード接続された第3、第4のトランジスタQ3、Q4のコレクタ同士と正の温度係数を有する抵抗Rtとの直列回路を、電源Vccと前記第1、第2のトランジスタQ1、Q2のそれぞれの各コレクタとの間に接続されてなることを特徴とするエミッタ結合形無安定マルチバイブレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エミッタ結合形無安定マルチバイブレータの発振周波数変動低減に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に用いられるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータの回路を図3に示す。
図3において、Q1、Q2は交互にオンオフする第1、第2のトランジスタで、その各エミッタ間にコンデンサC(その容量値をCとする)が接続される。第1、第2のトランジスタQ1、Q2の各エミッタにはそれぞれ互いに等しい定電流の定電流源(その定電流をI/2とする)を構成する第6、第7のトランジスタQ6、Q7を通じて接地される。
【0003】
ベース及びコレクタを共通接続したダイオード接続の第3、第4のトランジスタQ3、Q4のエミッタが第1、第2のトランジスタQ1、Q2のコレクタに接続されるとともに夫々のベース及びコレクタが電源Vccに接続される。そして、電源Vccと第1、第2のトランジスタQ1、Q2のコレクタ間に、それぞれマルチバイブレータを構成する負荷抵抗R1、R2が接続される。ここで、第3、第4のトランジスタQ3、Q4は第1、第2のトランジスタQ1、Q2を飽和させないようにして無安定マルチバイブレータの動作を早くするためのスピードアップ用クリッピング素子となる。以上が無安定マルチバイブレータの一般的な構成である。
【0004】
この回路の発振周波数FoはFo=I/(4*Vbe*C)で表される。ただし、Vbeは第1、第2のトランジスタQ1、Q2のコレクタ・エミッタの飽和電圧Vceであり、第3、第4のトランジスタQ3、Q4のベース・エミッタ間電圧Vbeと等しいとする。
この従来の無安定マルチバイブレータでは、第1、第2のトランジスタQ1、Q2および第3、第4のトランジスタQ3、Q4のベース・エミッタ電圧Vbeは周知のように一般に負の温度係数を持つために、周囲温度の変化や素子の自己発熱によって発振周波数Foが変動してしまう。
【0005】
【特許文献1】特開平1−151815号公報
【特許文献2】特開平9−121143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記温度変化による発振周波数の変動を補償するため、従来の無安定マルチバイブレータでは、トランジスタQ8を設け、トランジスタQ8のVce飽和電圧の変化を検出して第6、第7のトランジスタQ6、Q7を介して第1、第2のトランジスタQ1、Q2の電流Iの制御を行い、発振周波数Foの変動の低減を行っている。
しかしながら、本回路の動作、例えば、Vcc=5V、f=1.3MHzにおいて約35KHz程度、発振周波数が上昇してしまい、充分な温度補償が得られなかった。
【0007】
上記に鑑み、本発明は、さらに温度変動に対し安定な発振周波数が得られるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明によるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータは、交互にオンオフする第1、第2のトランジスタを具えるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータにおいて、マルチバイブレータを構成する2つの負荷抵抗と、ダイオード接続された第3、第4のトランジスタのコレクタ同士と正の温度係数を有する抵抗との直列回路を、電源と前記第1、第2のトランジスタのそれぞれの各コレクタとの間に接続されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源と第1、第2のトランジスタの各コレクタとの間に正の温度係数を有する抵抗を設けることにより、温度変動に対し従来よりさらに安定した発振周波数を得ることができる。
【実施例】
【0010】
以下に、図1を参照して、本発明の実施例を説明する。
図1は本発明の一実施例であるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータを示す。図1において図3と対応する部分には同一符号を付して説明する。
【0011】
Q1、Q2は交互にオンオフするNPN形の第1、第2のトランジスタで、その各エミッタ間にコンデンサCが接続される。第1、第2のトランジスタQ1、Q2の各エミッタはそれぞれ互いに等しい定電流の定電流源を構成するNPN形の第6、第7のトランジスタQ6、Q7を介して接地される。第6、第7のトランジスタQ6、Q7の各ベースには発振周波数の温度補償を行うためのトランジスタQ8を設け、そのトランジスタQ8のコレクタ・エミッタ飽和電圧Vceの変化を検出して第1、第2のトランジスタQ1、Q2の電流Iを制御することは従来例と同じである。
【0012】
そして、ベース及びコレクタを共通接続したダイオード接続の第3、第4のトランジスタQ3、Q4のコレクタ(およびベース)同士を接続するとともに正の温度係数を有する抵抗Rtを直列接続し、その直列回路と負荷抵抗R1、R2との並列回路を電源Vccと第1、第2のトランジスタQ1、Q2のそれぞれのコレクタ間に接続されている。
ただし、第3、第4のトランジスタQ3、Q4のそれぞれのエミッタは第1、第2のトランジスタQ1、Q2のそれぞれのコレクタに接続され、抵抗Rtが電源Vccに接続される。
【0013】
このように、正の温度係数を有する抵抗Rtを用いることにより、周囲温度や各トランジスタQ1〜Q4の自己発熱等の温度変化を抵抗Rtの両端の電圧を変化させ、各トランジスタQ1〜Q4のベース・エミッタ電圧Vbeと相殺する動きを生じさせるため、発振周波数の変動はさらに抑制される。
なお、第3、第4のトランジスタQ3、Q4は第1、第2のトランジスタQ1、Q2を飽和させないようにして、無安定マルチバイブレータの動作を早くするためのスピードアップ用クリッピング素子であることは従来例と同じである。
【0014】
つぎに、図2を参照して、本発明の他の実施例であるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータを示す。図2において図1、図3と対応する部分には同一符号を付して説明する。
【0015】
図2に示すように、Q1、Q2は交互にオンオフするNPN形の第1、第2のトランジスタで、その各エミッタ間にコンデンサCが接続される。第1、第2のトランジスタQ1、Q2の各エミッタはそれぞれ互いに等しい定電流の定電流源を構成するNPN形の第6、第7のトランジスタQ6、Q7を介して接地される。第6、第7のトランジスタQ6、Q7の各ベースには発振周波数の温度補償を行うためのトランジスタQ8を設け、そのトランジスタQ8のコレクタ・エミッタ飽和電圧Vceの変化を検出して第1、第2のトランジスタQ1、Q2の電流Iを制御することは従来例と同じである。
【0016】
そして、ベース及びコレクタを共通接続したダイオード接続の第3、第4のトランジスタQ3、Q4のそれぞれのコレクタ(およびベース)と正の温度係数を有するそれぞれの抵抗Rt1、Rt2を直列接続し、そのそれぞれの直列回路とそれぞれの負荷抵抗R1、R2とのそれぞれの並列回路を電源Vccと第1、第2のトランジスタQ1、Q2のそれぞれのコレクタ間に接続されている。
ただし、第3、第4のトランジスタQ3、Q4のそれぞれのエミッタは第1、第2のトランジスタQ1、Q2のそれぞれのコレクタに接続され、抵抗Rt1、Rt2が電源Vccに接続される
【0017】
このように、正の温度係数を有する抵抗Rt1、Rt2を用いることにより、周囲温度や各トランジスタQ1〜Q4の自己発熱等の温度変化を抵抗Rt1、Rt2の両端の電圧を変化させ、各トランジスタQ1〜Q4のベース・エミッタ電圧Vbeと相殺する動きを生じさせるため、発振周波数の変動はさらに抑制される。
なお、第3、第4のトランジスタQ3、Q4は第1、第2のトランジスタQ1、Q2を飽和させないようにして、無安定マルチバイブレータの動作を早くするためのスピードアップ用クリッピング素子であることは従来例と同じである。
ここで、各トランジスタQ1、Q2、Q3、Q4、負荷抵抗R1、R2はモノリシック、その他の手段で1つの熱結合として纏めることが最良である。
【0018】
このように、正の温度係数を有する抵抗RtおよびRt1、Rt2を接続することによって、周囲温度や各トランジスタQ1〜Q4の自己発熱等を抵抗RtおよびRt1、Rt2の両端の電圧を変化させ、各トランジスタQ1〜Q4のベース・エミッタ電圧Vbeと相殺する動きを生じさせるため、発振周波数の変動はさらに抑制される。一例として、従来例と同条件で比較したところ、周波数変動は約5KHzとなり従来比で1/5以下となった。
【0019】
以上、本発明のエミッタ結合形無安定マルチバイブレータの好適な実施例を図1、図2を参照して説明した。しかし、これらは単なる例示にすぎず、例えば、第3、第4のトランジスタQ3、Q4はダイオードを用いてもよい。このように、本発明の精神を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であることが当業者には容易に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例であるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータの回路図
【図2】本発明の他の実施例であるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータの回路図
【図3】従来のエミッタ結合形無安定マルチバイブレータの回路図
【符号の説明】
【0021】
Q1、Q2 第1、第2のトランジスタ
Q3〜Q8 トランジスタ
C コンデンサ
R1、R2 負荷抵抗
Rt、Rt1、Rt2 正の温度係数を具えた抵抗
Vcc 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互にオンオフする第1、第2のトランジスタを具えるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータにおいて、
マルチバイブレータを構成する2つの負荷抵抗と、ダイオード接続された第3、第4のトランジスタのコレクタ同士と正の温度係数を有する抵抗との直列回路を、電源と前記第1、第2のトランジスタのそれぞれの各コレクタとの間に接続されてなることを特徴とするエミッタ結合形無安定マルチバイブレータ。
【請求項2】
交互にオンオフする第1、第2のトランジスタを具えるエミッタ結合形無安定マルチバイブレータにおいて、
マルチバイブレータを構成する2つのそれぞれの負荷抵抗と、ダイオード接続された第3、第4のトランジスタのそれぞれのコレクタと正の温度係数を有するそれぞれの抵抗とのそれぞれの直列回路を、電源と前記第1、第2のトランジスタのそれぞれの各コレクタとの間に接続されてなることをを特徴とするエミッタ結合形無安定マルチバイブレータ。
【請求項3】
前記第3、第4のトランジスタがダイオードからなる請求項1、2記載のエミッタ結合形無安定マルチバイブレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−296412(P2009−296412A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148960(P2008−148960)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)