説明

エレベータ

【課題】
エレベータが或る階に到着後、人の乗り降りによりカゴを吊り下げるロープが伸縮しカゴが上下動する。それを抑えるためカゴ固定装置を備える。その階でカゴ荷重が増加(減少)後にカゴの固定を解除したときは、急激にカゴが下降(上昇)してショックが生じる。このようなショックを防止するための専用装置が必要であったのを不要とする。
【解決手段】
カゴが固定されていない状態において所定階で積載荷重が所定量増加(減少)したらロープがどれだけ伸びる(縮む)のかを計測しておけば、それによって任意階で積載荷重が任意量増加(減少)したらロープがどれだけ伸びる(縮む)かの長さが計算できる。カゴが固定されている状態において任意階で、前記の長さだけロープを縮め(伸ばし)ておいてからカゴの固定を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降開始時に発生するショックを抑制する制御装置を備えたエレベータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベータでは、着床停止したカゴでの乗り降りによって積載荷重の変化が発生するのに伴ってカゴを吊り下げるロープが伸縮し、カゴに上下方向の動揺が生じて乗客に不快感や無用な不安感を与えるという問題があった。このような動揺を抑制する制動機構が後記の特許文献1で提案されている。その制動機構はカゴに装備され、作動体と制動片を有し、作動体によって制動片をガイドレール等に押し付けるというものである。このような制動機構を以下ではカゴ固定装置と呼ぶことにする。
【0003】
〔ショック発生について〕
このようなカゴ固定装置をカゴの着床停止時に作動させてカゴを固定した場合、その後ドアが開いて人が乗り降りした後、ドアが閉まってカゴの固定を解除しカゴを出発させる際に、以下の問題が発生する。すなわち、カゴを固定する前の積載荷重に比べ、カゴの固定を解除する前の積載荷重が増えている場合、カゴの固定を解除した後に、積載荷重が増えている分だけカゴを吊り下げているロープが伸びてカゴが急激に下がるため、ショックが発生する。また、カゴを固定する前の積載荷重に比べ、カゴの固定を解除する前の積載荷重が減っている場合には、カゴの固定を解除した後に、積載荷重が減っている分だけカゴを吊り下げているロープが縮んでカゴが急激に引っ張り上げられるため、ショックが発生する。
【0004】
上述したエレベータの問題が工事用リフトでも発生することが後記の特許文献2に記載されている。特許文献2によると、工事用リフトでは搬器を把持装置によってマストに固定するのであるが、この固定を解除して搬器を出発させる際に前記エレベータと同様のショックが発生する。なぜなら、搬器を固定する前の積載荷重に比べ、搬器の固定を解除する前の積載荷重が増えた場合は、搬器の固定を解除した後に、積載荷重が増えている分だけ搬器を吊り下げているワイヤーが伸びて搬器が急激に下がるためである。また、搬器を固定する前の積載荷重に比べ、搬器の固定を解除する前の積載荷重が減った場合は、搬器の固定を解除した後に、積載荷重が減っている分だけ搬器を吊り下げているワイヤーが縮んで搬器が急激に引っ張り上げられるためである。
【0005】
〔ショック防止方法について〕
このようなショック発生を防止する方法が同じく特許文献2に記載されている。その方法は、積載荷重が増えた場合に、搬器の固定を解除するとワイヤーが伸びてしまう分だけ、固定を解除する前にワイヤーを縮めておこうとする方法である。そうすれば、増加前の積載荷重に対応するワイヤー張力から、増加後の積載荷重に対応するワイヤー張力への張力増加が、搬器の固定を解除した後になって初めて表面化するのを回避することができる。つまり、搬器の固定を解除する前にワイヤー張力の増加を先取りしておくので、搬器の固定を解除した後にワイヤー張力の増加がなく、ショックが発生しないことになる。
【0006】
またその方法は、積載荷重が減った場合に、搬器の固定を解除するとワイヤーが縮んでしまう分だけ、固定を解除する前にワイヤーを伸ばしておこうとする方法である。そうすれば、減少前の積載荷重に対応するワイヤー張力から、減少後の積載荷重に対応するワイヤー張力への張力減少が、搬器の固定を解除した後になって初めて表面化するのを回避することができる。つまり、搬器の固定を解除する前にワイヤー張力の減少を先取りしておくので、搬器の固定を解除した後にワイヤー張力の減少がなく、ショックが発生しないことになる。
【0007】
〔ショック防止装置について〕
というわけで、搬器の固定を解除する前に先取りしてワイヤーを縮めたり伸ばしたりするのであるが、この縮めたり伸ばしたりすればよい長さを知ることが次の課題となる。これについて特許文献2には、搬器をマストに固定した状態において搬器の積載荷重の増加または減少によって変位し、その変位がワイヤーの伸びまたは縮みによって解消するような機構と、その変位量がゼロにまで解消された所でオンからオフとなるリミットスイッチを設けること、そしてこのリミットスイッチがオンからオフとなる所までワイヤーを縮めたり伸ばしたりすればよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−179373号公報
【特許文献2】特開平5−032386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した工事用リフトにおけるリミットスイッチを、エレベータのカゴに設けることにすると、リミットスイッチ周辺のカゴ設計において自由度が制約されると共に、リミットスイッチを追加する余分な費用が掛かるという問題が出てくる。
【0010】
またリミットスイッチを設けた場合、制御装置は、リミットスイッチの状態を監視しておき、オンからオフへ変化した時点を捉えてロープを縮めたり伸ばしたりする動作を停止させなければならないが、オンからオフへの変化を見てから動作停止へ移るというワンテンポの動作遅れが存在し、その分、カゴの固定を解除して停止階から出発するタイミングが遅れるため、僅かと言えどもエレベータの運行効率を低下させる影響がある。
【0011】
以上のような設計自由度の制約、費用の増大、運行効率の低下を招くリミットスイッチを導入せずに、カゴの固定を解除する前に先取りしてロープを縮めたり伸ばしたりする量を把握することができるような制御装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、カゴを吊り下げるロープと、前記ロープを引き上げたり引き下げたりする巻上機と、前記巻上機を所定の回転量だけ回転させることによって前記ロープを所定の長さだけ引き上げたり引き下げたりさせる制御装置と、前記制御装置からの指令により前記カゴを固定したり前記カゴの固定を解除したりするカゴ固定装置と、前記カゴの積載荷重を計測して前記制御装置に伝える荷重計とを備えたエレベータにおいて、前記制御装置は、任意階からエレベータを出発させる際、後記(A)と(B)から計算した長さだけ、前記巻上機に前記ロープを引き上げたり引き下げたりさせた後で前記カゴ固定装置に前記カゴの固定を解除させるというものである。
(A)前記任意階で計測された積載荷重の変化量。
(B)前記カゴが固定されていない状態において所定階で積載荷重を所定量変化させたときのロープ長変化量。
【発明の効果】
【0013】
上記の解決手段によれば、工事用リフトにおけるリミットスイッチをエレベータのカゴに設ける必要がないので、リミットスイッチ周辺のカゴ設計において自由度が制約されたり、リミットスイッチを追加する余分な費用が掛かったりする問題は生じない。また、リミットスイッチが変化したのを見てからロープ伸び縮み動作を停止するというワンテンポの動作遅れがないので、エレベータ運行効率が低下することもない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エレベータを構成する要素および要素間の関係を模式的に表わした図。
【図2】後記カゴ非固定モードでロープ長変化量等のデータを得る、人手による作業手順のフローチャート。
【図3】最下階、最上階のデータから後記考察階のデータを得る補間計算のグラフ。
【図4】カゴが或る階に到着しその階から出発するまでの制御手順のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明が実施される一つの形態を、図1〜図4を使って説明する。
【0016】
〔エレベータの構成〕
図1は、エレベータを構成する要素および要素間の関係を模式的に表わした図である。1はエレベータのカゴであり、この中に人を載せて行先階へ運ぶためのものである。2はカゴ1を吊り下げるロープで、これが引き上げられることでカゴ1が上昇し、引き下げられることでカゴ1が下降する。ロープ2はまた、メインシーブ3とそらせシーブ4を経由してカウンターウェイト5も吊り下げている。
【0017】
メインシーブ3は、巻上機6が回転するのと連動して回転し、ロープ2を引き上げたり引き下げたりする。巻上機6は、制御装置7からの給電を受けて回転する。巻上機6には、巻上機6に連動して回転する回転量計8が付設されている。制御装置7は、回転量計8が回転するに連れて発するパルスをカウントすることによって巻上機6の回転量を把握する。また、ロープ2を所定の長さだけ引き上げたり引き下げたりさせるためには巻上機6をどれだけ回転させればよいのかという換算をして巻上機6を制御することができる。
【0018】
カゴ1の積載荷重は、カゴの下部に設けた荷重計12によって計測され、計測結果が制御装置7に伝達される。
【0019】
カゴ1にはローラーガイド(図示せず)が設けられ、鉛直方向に延びるよう設置されたガイドレール10に沿ってローラーガイドが回転しながらカゴ1が昇降することによって、カゴ1の水平方向の揺れが抑制される。カゴ1にはカゴ固定装置11も設けられ、次に述べる役割を果す。
【0020】
カゴ1が或る階に到着後(昇降終了後)、ドアが開き人が乗り降りするが、乗り降りしたときの積載荷重の変化によってロープが伸び縮みし、カゴ1が上下に揺れ動く。この上下動を抑えるため、カゴ固定装置11がガイドレール10に制動片(図示せず)を押し付けるようにする。この制動片を押し出したり引っ込めたりする制御は、制御装置7からの指令信号に基づいて行われる。
【0021】
このときの制御手順は次のとおりである。昇降終了の直後には制御装置7の指令によりカゴ固定装置11が制動片をガイドレール10に押し付けてカゴ1を固定する。カゴ1の固定状態は、人の乗り降りが終って次の昇降を開始するまで継続する。昇降開始の直前には、制御装置7の指令によりカゴ固定装置11がガイドレール10に押し付けていた制動片を引っ込めてカゴ1の固定を解除するので、カゴ1の固定状態は終了する。
【0022】
〔カゴの固定を解除するときに発生する問題の解決〕
上述したように、カゴ1の固定を解除してカゴ1の昇降を開始させるのであるが、その際に問題が発生する。それは、カゴ1の積載荷重が、カゴ1を固定する前に比べ、固定を解除する前のほうが増えている場合、固定を解除した後に、積載荷重が増えている分だけカゴ1を吊り下げているロープ2が伸びてしまい、カゴ1が急激に下がるため、ショックが発生することである。これは、ロープ張力の値が、増加前の積載荷重に見合った値から、カゴの固定を解除した後になって、増加後の積載荷重に見合った値へと増加するためである。
【0023】
このような事態を防止するため、カゴの固定を解除した後にロープ2が伸びてしまう長さだけ、固定を解除する前にロープ2を引き上げて、ロープ張力を大きくしておくことにする。
【0024】
また、カゴ1の積載荷重が、カゴ1を固定する前に比べ、固定を解除する前のほうが減っている場合、固定を解除した後に、積載荷重が減っている分だけカゴ1を吊り下げているロープ2が縮んでしまい、カゴ1が急激に上がるため、ショックが発生する問題がある。これは、ロープ張力の値が、減少前の積載荷重に見合った値から、カゴの固定を解除した後になって、減少後の積載荷重に見合った値へと減少するためである。
【0025】
このような事態を防止するため、カゴの固定を解除した後にロープ2が縮んでしまう長さだけ、固定を解除する前にロープ2を引き下げて、ロープ張力を小さくしておくことにする。
【0026】
以上述べたように、カゴ1の固定を解除する前にロープ2を引き上げたり引き下げたりしておけば、固定を解除した後にショックが発生しなくなるのであるが、この引き上げたり引き下げたりする長さをいくらにすればよいのかが次の課題となる。
【0027】
〔考察階でのロープ長変化量を、カゴが固定されない状態で求めればよいこと〕
カゴ1が或る階に昇降して来たときを考える。この階を考察階と呼ぶことにする。考察階に昇降して来たときの積載荷重と、考察階で人が乗り降りした後に新たな階へ昇降を開始しようとするときの積載荷重とを計測し、後者の荷重から前者の荷重を引き算した値をΔW0という名で記憶しておくことにする。この絶対値|ΔW0|を使って、考察階から新たな階へ昇降を開始しようとして カゴ1の固定を解除する前に、どれだけの長さだけロープ2を引き上げたり引き下げたりすればよいのかを計算することにする。
【0028】
そのためには、カゴ1が固定されていない状態で|ΔW0|だけ積載荷重を変化させたときにロープ長がどれだけ変化するのかが分ればよい。なぜなら、このときの積載荷重の変化によってロープが伸びるのであれば、カゴ1が固定されている状態から解除される際に、その伸びる長さだけロープ2を引き上げてロープ張力を大きくしておくことにより、固定が解除された後になって初めてロープ張力が大きくなるといったことは起らなくなるからである。また、カゴ1が固定されていない状態での積載荷重の変化によってロープが縮むのであれば、カゴ1が固定されている状態から解除される際に、その縮む長さだけロープ2を引き下げてロープ張力を小さくしておくことにより、固定が解除された後になって初めてロープ張力が小さくなるといったことは起らなくなるからである。
【0029】
上述したように、停止階においてカゴ1が固定されない状態(カゴ1の積載荷重の変化に応じて、カゴ1を吊り下げているロープが伸び縮みする状態)を作り出したいのであるが、例えば次の方法がある。すなわち、「制御装置7がカゴ固定装置11へ指令しなくする方法」や、「制御装置7からカゴ固定装置11への指令経路を遮断する方法」や、「カゴ固定装置11が制動片を出そうとしなくする方法」や、「カゴ固定装置11がガイドレール10に制動片を押し付けなくする方法」である。この中の「制御装置7がカゴ固定装置11へ指令しなくする方法」を以降の記載で採用するが、停止階においてカゴ1が固定されない状態を作り出せるものであれば、(上記で例示したかどうかにかかわらず)どのような方法を採用しても本発明の本質を逸脱するものではない。
【0030】
以降の記載では、停止階においてカゴ1が固定されない状態を作り出すために「制御装置7がカゴ固定装置11へ指令しなくする方法」を採用する。そしてこの方法をさらに詳細化し、制御装置7が「カゴ非固定モード」と称する内部状態をとったとき、カゴ固定装置11に対してはカゴを固定せよという指令を発しないものとする方式を採用することにする。これに対し通常の場合は、カゴ到着時にカゴを固定させる指令を発し、カゴ出発時にカゴの固定を解除させる指令を発するわけであるが、この場合に制御装置7は「カゴ固定モード」と称する内部状態をとることにする。このように制御装置7は「カゴ非固定モード」または「カゴ固定モード」どちらかの内部状態をとることになる。両モードを切り換えるため、カゴ1等に専用スイッチ(図示せず)を装備し、その作動したことが制御装置7に伝わるようにしてある。なお、このスイッチを操作して「カゴ非固定モード」へ切り換えるのは主に、建物にエレベータを新設する工事が終了するまでの期間や、工事が終了後にエレベータが平常の稼動状態になっているときの保守点検作業時である。
【0031】
〔所定階でのロープ長変化量を計測すること〕
このように、カゴ非固定モードの考察階で積載荷重を変化させたときにロープ長がどれだけ変化するのかを計算すればよいのであるが、そのために、カゴ非固定モードの所定階(例えば最下階と最上階)で積載荷重を変化させたときにロープ長がどれだけ変化するのかを計測して、そのデータから計算することにする。
【0032】
このような最下階と最上階でのロープ長変化量の計測など、関連するデータを得るための人手による作業手順を、以下、図2のフローチャートによって説明する。なおロープ長変化量については、ロープ長の変化がカゴ床高さの変化に反映することから、カゴ床高さ変化量に置き換えて計測することにする。
【0033】
まずステップS21では、制御装置7を専用操作によりカゴ非固定モードとする。続くステップS31でカゴ1を最下階に下降させる。
【0034】
続くステップS32でカゴ1を無積載状態にし、荷重計12の計測データを専用操作により制御装置7の記憶領域にW11という名で記憶させる。続くステップS33で、乗場床に対してカゴ床が何mm上下にあるかを計測し、計測値を専用操作により制御装置7の記憶領域に書き込み、D11という名で記憶させる。なおこの値は、乗場床よりもカゴ床が上にあるときはプラス値、下にあるときはマイナス値とする。この点、以下に述べるカゴ床高さの計測でも同様なので、この点の記載を以下では省略する。
【0035】
続くステップS34で、乗場に予め用意しておいた定格積載分のウェイトをカゴ1に積み込み、荷重計12の計測データを専用操作により制御装置7の記憶領域にW12という名で記憶させる。続くステップS35で、乗場床に対してカゴ床が何mm上下にあるかを計測し、計測値を専用操作により制御装置7の記憶領域に書き込み、D12という名で記憶させる。
【0036】
続くステップS36では、専用操作により制御装置7に対し、|W11−W12|の計算をさせ、その結果を記憶領域にΔW1という名で記憶させると共に、|D11−D12|の計算をさせ、その結果を記憶領域にΔD1という名で記憶させる。
【0037】
続くステップS41でカゴ1を最上階に上昇させる。続くステップS42でカゴ1は定格積載状態のまま、荷重計12の計測データを専用操作により制御装置7の記憶領域にW22と名づけて記憶させる。続くステップS43で、乗場床に対してカゴ床が何mm上下にあるかを計測し、計測値を専用操作により制御装置7の記憶領域に書き込み、D22という名で記憶させる。
【0038】
続くステップS44で、カゴ1からウェイトを降ろして無積載状態とし、荷重計12の計測データを専用操作により制御装置7の記憶領域にW21という名で記憶させる。続くステップS45で、乗場床に対してカゴ床が何mm上下にあるかを計測し、計測値を専用操作により制御装置7の記憶領域に書き込み、D21という名で記憶させる。
【0039】
続くステップS46では、専用操作により制御装置7に対し、|W21−W22|の計算をさせ、その結果を記憶領域にΔW2という名で記憶させると共に、|D21−D22|の計算をさせ、その結果を記憶領域にΔD2という名で記憶させる。
【0040】
〔所定階でのロープ長変化量から、考察階でのロープ長変化量を求めること〕
次に、カゴ非固定モードのとき考察階にカゴ1が到着後、積載荷重の増減がΔW0だけあったとして、その絶対値|ΔW0|に対するカゴ床高さ変化量ΔD0がいくらになるかを計算することにする。これらの比をとってΔD0/|ΔW0|という値を考えると、これは、最下階での同様の値ΔD1/ΔW1と、最上階での同様の値ΔD2/ΔW2から計算することができる。すなわち、予め計測された各階の乗場床高さZ1(最下階)、Z0(考察階)、Z2(最上階)を考慮し、直線的な補間計算をグラフ化する図3を描いて次の式を導くことができる。ΔD0/|ΔW0|=[ ΔD1/ΔW1×(Z2−Z0)+ΔD2/ΔW2×(Z0−Z1) ]/(Z2−Z1) 。(なお各階の乗場床高さは、例えば最下階の乗場床を基準位置として、そこからの距離を計測したものとすればよい)
【0041】
このようにして求めたカゴ非固定モードでのカゴ床高さ変化量ΔD0を、カゴ固定モードでの固定を解除する時点でロープ2を引き上げたり引き下げたりする長さとすればよい。すなわち、ΔW0>0の場合はロープ2をΔD0だけ引き上げてからカゴの固定を解除することにし、ΔW0<0の場合はロープ2をΔD0だけ引き下げてからカゴの固定を解除することにする。
【0042】
なお、ロープ2をΔD0だけ引き上げたり引き下げたりする際、制御装置7は、回転量計8が回転するに連れて発するパルスをカウントすることによって巻上機6の回転量を把握し、ロープ2をΔD0だけ引き上げたり引き下げたりするのに対応した回転量だけ回転したら巻上機6への給電を停止する。
【0043】
〔昇降終了から開始までの制御手順〕
上述した内容を制御手順の形で述べ直すことにする。すなわち、カゴ固定モードにおいてカゴ1が或る階に到着して昇降を終了してから、その階で人の乗り降りがあり、また新たな階をめざして昇降を開始するまでの局面で、制御装置7がどういう制御手順をとるのかについて図4によって説明する。
【0044】
まずステップS1では、或る階にカゴ1が到着したところで巻上機6への給電を停止して回転を停止させ、昇降を終了させる。続くステップS2では、荷重計12から伝えられた計測データW01を制御装置7内の記憶領域に記憶する。続くステップS3ではカゴ固定装置11に指令し、ガイドレール10に制動片を押し付けさせることによってカゴ1を固定させる。
【0045】
続くステップS4ではドアを開け、人を乗り降りさせる。続くステップS5では所定時間後にドアを閉める。続くステップS6では、ドアが閉まったときに荷重計から伝えられた計測データW02と、ステップS2で記憶されていたW01から、W02−W01を計算し、計算結果ΔW0を制御装置7内の記憶領域に記憶する。
【0046】
続くステップS7では、ステップS6で記憶されていたΔW0と、予めカゴ非固定モードにおいて最下階と最上階で得ていた積載荷重の変化量ΔW1とΔW2、カゴ床高さ変化量ΔD1とΔD2から、予め計測された各階の乗場床高さZ1(最下階)、Z0(考察階)、Z2(最上階)を考慮し、次に示す式で計算し、計算結果ΔD0を制御装置7内の記憶領域に記憶する。ΔD0=[ ΔD1/ΔW1×(Z2−Z0)+ΔD2/ΔW2×(Z0−Z1) ]/(Z2−Z1)×|ΔW0|
【0047】
続くステップS8では、ΔW0の正負を判定する。ΔW0>0の場合はステップS9へ、ΔW0<0の場合はステップS10へ、ΔW0=0の場合はステップS11へ移行する。
【0048】
ステップS9では、ロープをΔD0だけ引き上げるように巻上機6を回転させる。ステップS10では、ロープをΔD0だけ引き下げるように巻上機6を回転させる。
【0049】
ステップS11では、カゴ固定装置11に指令してガイドレール11に押し付けていた制動片を引っ込めさせ、カゴ1の固定を解除させる。そして巻上機に回転をさせ始め、新たな階をめざしてカゴを出発させる。以上、制御手順を述べた。
【0050】
〔実施形態の変形例〕
以上述べた実施形態では、カゴ固定装置として、ガイドレール10に制動片を押し付けてカゴ1を固定する機構を挙げているが、昇降路上下方向のカゴ移動を抑止するものでありさえすればどのようなカゴ固定装置を採用してもよい。
【0051】
また以上述べた実施形態では、カゴ1が考察階に到着した後で積載荷重を計測することを述べたが、積載荷重の計測タイミングは、考察階をめざして昇降を開始する前の時点から考察階に到着した後の時点までのどの時点でもよい。
【0052】
また以上述べた実施形態では、ロープ2を所定の長さだけ引き上げたり引き下げたりさせるために巻上機6をどれだけ回転させればよいかを制御装置7が制御するために、巻上機6に付設した回転量計8を利用しているが、このような回転量計を利用することは必須でなく、ロープ2を所定の長さだけ引き上げたり引き下げたりさせる制御が可能でさえあればどのような形態でも構わない。
【0053】
また以上述べた実施形態では、カゴ非固定モードで最下階と最上階において、無積載から定格積載へと(あるいは定格積載から無積載へと)積載荷重を変化させたときのカゴ床高さ変化量を測定しておいて、それを基に考察階での積載荷重の変化量に対するカゴ床高さ変化量を求めたわけであるが、最下階と最上階の代りに任意の異なる2箇所の階床において、無積載と定格積載の代りに任意の異なる2種類の所定荷重に対してカゴ床高さ変化量を計測することにしてもよい。
【0054】
また、任意の異なる3箇所以上の所定階でカゴ床高さ変化量を測定したり、任意の異なる3種類以上の所定荷重でカゴ床高さ変化量を測定したりして、それらのデータから考察階のΔD0/|ΔW0|を推定できるよう、妥当な計算式を設定してもよい。
【0055】
また、全階で積載荷重の変化量ΔW1に対するカゴ床高さ変化量ΔD1を計測することによって、任意の考察階のΔD0/|ΔW0|を、その階で計測されていたΔD1/ΔW1そのものであるとしてもよい。
【0056】
また、任意の1箇所の所定階で積載荷重の変化量ΔW1に対するカゴ床高さ変化量ΔD1を計測し、この計測値から得たΔD1/ΔW1を、任意の考察階のΔD0/|ΔW0|として採用することにしてもよい。
【0057】
要するに、何箇所のどの階床で、何種類のどの荷重でデータを計測するのかによって、そこから計算される考察階でのカゴ床高さ変化量について、精度に多少の差が出たとしても、考察階のカゴ床高さ変化量が計算できることには変りなく、これを使ってカゴの固定を解除する際のショックを抑える制御が可能であれば、許容されるものである。
【0058】
また以上述べた実施形態では、カゴ非固定モードにおいてカゴ床高さの変化量を計測しているが、カゴ床高さの変化量に限らず、ロープ長変化量が計測できるのであればどのような計測方法をとってもよい。
【0059】
また以上述べた実施形態は、制御装置7が「カゴ非固定モード」と称する内部状態をとったときに、カゴ固定装置11に対してカゴを固定せよという指令を発しないものとする方式によって記載したものである。そして、この方式に関連した記載内容は、停止階においてカゴ1が固定されない状態(カゴ1の積載荷重の変化に応じて、カゴ1を吊り下げているロープが伸び縮みする状態)を何らかの方式で作り出した上で実施した内容の一例を示したものである。したがって、この状態を実現するためにどのような方式を採用したとしても本発明の本質を逸脱するものではない。
【0060】
〔実施形態と変形例による効果〕
上述した実施形態および変形例によれば次の効果が得られる。すなわち、カゴが固定されていない状態において所定階で積載荷重の所定変化量に対するロープ長変化量を計測しておくことにより、任意階での積載荷重の任意変化量に対するロープ長変化量を計算することができる。したがって、カゴが固定されている状態において任意階で、この計算されたロープ長変化量だけロープを引き上げたり引き下げたりしてからカゴの固定を解除することにより、カゴの固定を解除した後にロープ張力が変化するのを避けることができ、ショックが防止できる。
【0061】
このように制御装置の記憶領域や計算機能を活用することによって、ロープを引き上げたり引き下げたりする長さを求めることができ、リミットスイッチ等の余分な装置を追加する必要はなく、設計自由度が制約されたり、余分な費用が掛かったりする問題は生じない。また、ロープを引き上げたり引き下げたりする長さをすぐに把握して、引き上げたり引き下げたりする動作を終了させるタイミングを予め承知しておくことができるので、エレベータを出発させるのがワンテンポ遅れたりすることもなく運行効率の低下を招くことがない。
【符号の説明】
【0062】
1…カゴ、2…ロープ、3…メインシーブ、4…そらせシーブ、5…カウンターウェイト、6…巻上機、7…制御装置、8…回転量計、10…ガイドレール、11…カゴ固定装置、12…荷重計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゴを吊り下げるロープと、前記ロープを引き上げたり引き下げたりする巻上機と、前記巻上機を所定の回転量だけ回転させることによって前記ロープを所定の長さだけ引き上げたり引き下げたりさせる制御装置と、前記制御装置からの指令により前記カゴを固定したり前記カゴの固定を解除したりするカゴ固定装置と、前記カゴの積載荷重を計測して前記制御装置に伝える荷重計とを備えたエレベータにおいて、
前記制御装置は、任意階からエレベータを出発させる際、後記(A)と(B)に基いて計算した長さだけ、前記巻上機に前記ロープを引き上げたり引き下げたりさせた後で前記カゴ固定装置に前記カゴの固定を解除させることを特徴とするエレベータ。
(A)前記任意階で計測された積載荷重の変化量。
(B)前記カゴが固定されていない状態において所定階で積載荷重を所定量変化させたときのロープ長変化量。
【請求項2】
請求項1に記載されたエレベータにおいて、制御装置は、任意階で計測された積載荷重が、到着時よりも出発時のほうが増加した場合は、巻上機にロープを引き上げさせることを特徴とするエレベータ。
【請求項3】
請求項1に記載されたエレベータにおいて、ロープ長変化量は、カゴ床高さの変化量であることを特徴とするエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−103798(P2013−103798A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248769(P2011−248769)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000112705)フジテック株式会社 (138)
【Fターム(参考)】