エレメント管、隔壁及び隔壁の構築方法
【課題】 構造的な無駄が少なく、隔壁の曲折部を容易に形成可能なエレメント管を提供する。
【解決手段】 地中1に隔壁10を形成する際に、その隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して隔壁10を形成する筒体のエレメント管6である。
そして、この筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面の溝部6aが形成され、第二傾斜面に溝部6aの幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケット6c,6cが外側に突出して形成されている。
【解決手段】 地中1に隔壁10を形成する際に、その隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して隔壁10を形成する筒体のエレメント管6である。
そして、この筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面の溝部6aが形成され、第二傾斜面に溝部6aの幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケット6c,6cが外側に突出して形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に複数配置されて隔壁を形成するエレメント管、及びそのエレメント管を使用して構築されるトンネルの覆工等の隔壁、及びトンネルの一部を拡幅したり、併設されたトンネル間に合流・分岐部を形成したりする隔壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図12の断面図に示すように、地中1を地上まで開削することなく、複数の円形又は欠円形のエレメント管2,・・・を配置して隔壁3を構築する方法が知られている(特許文献1など参照)。
【0003】
この方法では、まず、一管目のエレメント管2を、掘進機で円形に掘削した掘削孔の後方から推し込んで配置する。さらに、先行して配置されたエレメント管2の隣に、それをガイドにしながら他のエレメント管2を推進させ、この作業を繰り返すことによってエレメント管2,・・・を次々に連結しながら配置していく。
【0004】
そして、複数のエレメント管2,・・・によって図12に示したような断面視略楕円形の閉断面を形成した後に、エレメント管2,・・・同士が当接する側面の一部を開口し、その楕円形の円周方向に鋼材を挿入し、コンクリートを打設することによって、隣接するエレメント管2,・・・同士が一体化された隔壁3が構築される。
【0005】
この隔壁3で囲繞された内部は、掘削されて隔壁3をトンネル周壁とする大断面のトンネルが形成され、道路や共同溝などに使用される。
【0006】
一方、四隅が直角の断面視四角形のエレメント管を複数連結して、大断面トンネルの外郭を形成する方法も知られている(特許文献2など参照)。
【特許文献1】特開2000−310100号公報(図13、0002段落乃至0003段落)
【特許文献2】特開2000−120373号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記したように円形の小断面を連結して隔壁3を構築する場合、構造計算上の構造体として設計に考慮することが出来るのは、図12の二点鎖線で挟まれた有効厚4の部分だけである。
【0008】
このように円形断面は、アーチ効果によって個々の小断面の掘削時には掘削面が安定するなどの利点を有しているが、構造計算上は有効厚4に含まれない曲率のある部分は不用な部分として扱われ、余掘り部又は余剰部を構築したことになるため経済的であるとはいえない。
【0009】
さらに、この有効厚4の厚さは、隣接するエレメント管2,2同士を近づけて重複する部分を大きくすれば厚くすることはできるが、ラップ部が大きくなれば同じ周長の隔壁を構築するために使用されるエレメント管2,・・・の数も多くなるので材料費が増加すると共に、掘進機を掘進させる回数も増えるため、工費及び工期が増加する原因となる。
【0010】
また、矩形のエレメント管を使用した場合、平面状の隔壁を形成する場合は問題がないが、楕円形などの曲折部を有する隔壁を構築する際は、エレメント管とエレメント管の間に隙間が発生するため、エレメント管が推進中に左右に動き易く所定の位置にエレメント管を配置するのが難しい。
【0011】
そこで、本発明は、構造的な無駄が少なく、隔壁の曲折部を容易に形成可能なエレメント管、及びそのエレメント管を使用して構築される隔壁、及び隔壁の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面の溝部が形成され、第二傾斜面に前記溝部の幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケットが外側に突出して形成されたエレメント管であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載のものは、前記第一傾斜面と前記第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成された請求項1に記載のエレメント管であることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項3に記載のものは、前記筒体を形成する外殻と前記溝部に挟まれた内空間又は前記係合ブラケットにより形成される内空間の少なくとも一方に、止水部形成材を注入するための中空部が形成された請求項1又は2に記載のエレメント管であることを特徴とする。
【0015】
そして、請求項4に記載のものは、地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面のガイド溝部が形成され、第二傾斜面に前記ガイド溝部に挿入可能な形状の突起部が外側に突出して形成されたエレメント管であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエレメント管を地中で複数連結し、そのエレメント管の内部を連結方向に連通させて応力部材を配置すると共に、エレメント管の内部にセメント系固化材を充填して一体化したことを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエレメント管を地中に複数配置して形成する隔壁の構築方法であって、トンネルを掘削し、該トンネルの内側から周囲を掘り広げてトンネル軸に直交する方向に広がる発進基地を構築し、該発進基地から前記トンネルに沿って所定の長さ離れた位置に前記発進基地と同様にして到達基地を構築し、前記発進基地から前記到達基地に向けて地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら該掘削孔に配置し、さらに他の前記エレメント管を配置済みの前記エレメント管の隣に、前記溝部と前記係合ブラケットを係合させながら配置する工程を繰り返すことによって、前記トンネルの周りに複数の前記エレメント管を連結した隔壁を構築し、前記発進基地と前記到達基地の間の前記トンネルと前記隔壁の間の地中を掘削する隔壁の構築方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
このように構成された請求項1に記載のものは、略台形断面に形成されたエレメント管の一方に形成された前記溝部に、隣接して配置される他方のエレメント管の一対の前記係合ブラケットを係合させて連結させる。
【0019】
このため、隣接する前記エレメント管の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁の曲折部を形成することができるうえに、隣接するエレメント管との間にはほとんど隙間を発生させることがない。
【0020】
また、エレメント管は略台形断面をしているため、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0021】
さらに、前記溝部に前記係合ブラケットを係合させながら前記エレメント管を配置できるので、前記エレメント管同士を相対的に回転(ローリング)させることなく連結させることができる。また、面同士を係合させるだけで連結できるので、連結方向の拘束は緩やかであり、曲線部の施工や施工誤差に容易に対応することができる。
【0022】
また、請求項2に記載のものは、略台形断面の側面となる前記第一傾斜面と前記第二傾斜面が、その間の中心線に対して線対称に形成されている。
【0023】
このため、同形状のエレメント管を隣接させると対向する各傾斜面の長さは等しくなり、エレメント管を連結した際に段差が発生することがない。また、前記傾斜面を合わせるだけで隔壁の曲折部を容易に同じ角度で形成することができる。
【0024】
さらに、エレメント管を交互に反転させた向きで配置することで、容易に平面状の隔壁を形成することができる。
【0025】
また、請求項3に記載のものは、前記止水部形成材を注入するための中空部が予め形成されている。
【0026】
このため、容易に前記止水部形成材を注入することができ、迅速にエレメント管の外側に止水部を形成させることができる。さらに、止水性を向上させることができるので、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな場所にも、安全に隔壁を構築することができる。
【0027】
さらに、請求項4に記載の発明は、略台形断面に形成されたエレメント管の一方に形成された前記ガイド溝部に、隣接して配置される他方のエレメント管の突起部を挿入して連結させる。
【0028】
このため、隣接する前記エレメント管の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁の曲折部を形成することができるうえに、隣接するエレメント管との間にはほとんど隙間を発生させることがない。
【0029】
また、エレメント管は略台形断面をしているため、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0030】
そして、請求項5に記載の発明は、前記したいずれかのエレメント管を地中で複数連結し、連結後にその内部を連通させて前記応力部材とセメント系固化材によって一体化させた隔壁を構築する。
【0031】
このようにして構築された隔壁の内部の土砂を掘削すれば、前記隔壁はトンネルの覆工となり、トンネルの途中の外周に前記隔壁を設ければ、トンネルの拡大部を構築することができる。
【0032】
また、地上から発進立坑と到達立坑を構築し、この発進立坑と到達立坑の間に前記隔壁を構築すれば、地下鉄の駅舎部や地下駐車場等の外殻構造を前記隔壁で容易に形成することができる。
【0033】
また、請求項6に記載の発明は、トンネルの途中の内側から発進基地と到達基地を設け、その発進基地から複数のエレメント管を到達基地に向けて配置することによって隔壁を構築し、その隔壁によってトンネル拡大部を形成することができる。
【0034】
このため、地上に工事用の用地が確保できない場所や、大深度地下等の地上からの施工が難しい場所であっても、トンネルの拡幅部や、併設して構築された複数のトンネルの合流・分岐部を、トンネルを利用することで容易に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0036】
なお、前記従来例と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0037】
図1は、先導エレメント管5の両側面に本実施の形態によるエレメント管6,・・・を連結した図であり、図2は併設して構築されたトンネル9A,9Bの合流・分岐部を、エレメント管5,6,・・・を連結して形成した隔壁10によって構築した斜視図を示したものである。
【0038】
まず、本実施の形態のエレメント管6の構成について説明する。
【0039】
本実施の形態のエレメント管6は、筒体を形成する略台形断面の外殻6bによって、上底、下底及び側面の大部分が形成される。さらに、この側面を、上底及び下底に斜めに交わる第一傾斜面及び第二傾斜面とし、この第一傾斜面と第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成される。
【0040】
すなわち、第一傾斜面と第二傾斜面は、上底及び下底と同じ角度で交わるように形成される。このため、同じ向きに合わせたエレメント管6,・・・を連結させると、上底と傾斜面が交わる角度の略2倍の内角の曲折部を有する隔壁10が構築される。
【0041】
そして、この第一傾斜面には、凹型断面の溝部6aが長手方向に連続して延設される。ここでは、溝部6aの底面を形成する外殻として遮蔽板6dを使用する。すなわち、断面略コ字型に形成した外殻6bの開口部をこの遮蔽板6dで塞いで略台形の閉断面を形成する。
【0042】
さらにこの溝部6aは、外側に開放する略矩形断面の溝であって、遮蔽板6dと、その遮蔽板6dに端面が当接されるように鉤型に折り曲げられた外殻6bの端部によって形成される。
【0043】
また、この外殻6b及び遮蔽板6dの内側面には、リブなどの補強材6eが取り付けられて、エレメント管6が土圧や水圧に耐え得る構造に補強される。
【0044】
また、筒体の第二傾斜面には、一対の係合ブラケット6c,6cが形成される。この一対の係合ブラケット6c,6cは、エレメント管6の溝部6aに係合させる部材である。この係合ブラケット6c,6cは、外殻6bに取り付けられた際に、略直角三角形が形成されるように鋼板を折り曲げて形成される。
【0045】
ここで、一対の係合ブラケット6c,6cは、外殻6bと略直交するように交わる面を、溝部6aの側面部に略平行するように対峙させ、溝部6aの幅に略等しい間隔となるように取り付けられる。
【0046】
このように外殻6bの外側に突出して形成された係合ブラケット6c,6cが、窪んだ溝部6aに嵌まり込むことで、先行して配置したエレメント管6に後から配置するエレメント管6が係合される。
【0047】
図1の中央部には、最初に配置する先導エレメント管5が示されている。この先導エレメント管5は、特殊形態のエレメント管であり、先導エレメント管5を先行管として、図1に示すように両側にエレメント管6,・・・が連結される。このため、この先導エレメント管5は、両側面に溝部5a,5aが設けられており、この溝部5a,5aにエレメント管6の係合ブラケット6c,6cを係合させる。
【0048】
なお、先導エレメント管5は、最初に推進させる際の作業性を考慮して、図1では他のエレメント管6,・・・よりも大きな断面としているが、これに限定されるものではなく、他のエレメント管6と同一形状又は同程度の大きさに形成することもできる。
【0049】
また、図5には、エレメント管6,6同士の連結部の一部を拡大した断面図を示した。この図5を参照しながら、止水部形成材を注入するための中空部について説明する。
【0050】
図5の右側には、エレメント管6の溝部6aの両端に設けられる内空間の一方を示した。この内空間は、外殻6bの端部を鉤型に折り曲げて、その開口部を遮蔽板6dで塞ぐことによって、外殻6bと溝部6aに挟まれた位置に断面略矩形に形成される。
【0051】
また、図5の左側には、係合ブラケット6cによって形成された断面略直角三角形の内空間を示した。
【0052】
これらの内空間は、エレメント管6,6の間の連結部に止水部を形成させるために、止水部形成材を注入する中空部として使用することができる。ここで、止水部形成材としての地盤改良材15を使用する場合は、地中1側に地盤改良材15が排出されるように、外殻6b及び係合ブラケット6cには貫通部13A,13Bが形成される。
【0053】
この貫通部13A,13Bは、円形又はスリット形状に形成される。また、隣接して配置されるエレメント管6側に傾く方向に形成されることで、排出された地盤改良材15を隣接したエレメント管6方向に効果的に広げることができる。
【0054】
この地盤改良材15には、セメント系固化材や水ガラス系注入材などが使用でき、地盤改良材15が地中1に注入されることによって地中1が透水係数の低い止水部に変質する。
【0055】
次に、図2に示すようなトンネルの合流・分岐部を形成するトンネル拡大部の構築方法について説明する。
【0056】
まず、トンネル9Aを全線に亘って構築する。このトンネル9Aは、例えばシールド掘削機によって掘削した掘削面に、円弧状のセグメントをトンネル周壁として配置することによって構築する。
【0057】
そして、トンネル9Aの所定の位置で、トンネル周壁を一部撤去して、そのトンネル9Aの内側から地中1を掘り広げ、トンネル軸に直交する方向に広がる発進基地7を形成する。
【0058】
この発進基地7は、トンネル9Aを中心に徐々に掘り広げて、例えば直方体状の空間に形成することができる。
【0059】
この発進基地7からトンネル9Aに沿って所定の長さ離れた位置に、発進基地7と同様にして同形状の到達基地8を構築する(図2参照)。これらの発進基地7及び到達基地8を、トンネル9Aの内部から構築するようにすれば、地上にこれらの基地7,8を構築するための用地を確保する必要がない。
【0060】
これらの基地7,8は、エレメント管5,6,・・・を地中1へ発進させるために構築される。このため、本実施の形態のトンネル拡大部は、これらの基地7,8の間に構築される。
【0061】
図3は、図2のA−A線位置の断面図に、参考のために発進基地7の投影断面を二点鎖線で示したものである。
【0062】
発進基地7からの先導エレメント管5の配置は、隔壁10を構築する予定位置であれば任意の位置からおこなうことができるが、例えば先導エレメント管5,5が円形断面の頂点部と最下点部に配置されるようにする。
【0063】
この先導エレメント管5は、掘削断面が台形又は矩形となる掘進機によって掘削された掘削孔に配置される。ここで、掘進機としては、シールド掘削機又は推進機のいずれも適用できるが、本実施の形態では推進機を使用した場合について、以下に説明する。
【0064】
この掘進機の後端には、先導エレメント管5の先端を当接させ、この先導エレメント管5の後端を発進基地7から推進ジャッキで押すことによって、先導エレメント管5を地中1に推し込む。ここで、頂点部に配置される先導エレメント管5は上底が下底よりも長く、最下点部に配置される先導エレメント管5は上底が下底よりも短くなる向きに合わせられる。
【0065】
この先導エレメント管5は、推進ジャッキで押した分だけ坑口で継ぎ足し、さらに地中1に推し込む。
【0066】
そして、先導エレメント管5の配置が完了した後に、図3に示すように先導エレメント管5の両側面に次々にエレメント管6,・・・を配置していく。すなわち、先導エレメント管5の傾斜面に設けられた溝部5aに沿って掘進機を掘進させ、その後端に上底が下底より長くなる向きに合わせたエレメント管6の先端を当接させ、このエレメント管6の後端を発進基地7から推進ジャッキで押すことによって、エレメント管6を地中1に推し込む。
【0067】
この際、図1に示すように、後から配置するエレメント管6は、一対の係合ブラケット6c,6cが、先導エレメント管5の溝部5aに係合されるようにして推進させる。
【0068】
このようなエレメント管6,・・・の推進工程を繰り返してエレメント管6,・・・を連結していく。後から配置されるエレメント管6は、先に配置されたエレメント管6に近づくように配置される傾向にあり、隣接して配置されるエレメント管6,6の対向する傾斜面の長さは等しいため、エレメント管6,6の間にほとんど隙間を生じさせることなく、エレメント管6,6同士を容易に近接させることができる。
【0069】
また、エレメント管6,・・・同士の連結は、掘削されて空洞となった溝部6aに係合ブラケット6c,6cを挿入することでおこなえるため、係合ブラケット6c,6cが推進の抵抗又は障害になることがほとんどない。
【0070】
さらに、推進中のエレメント管6が先行して配置されたエレメント管6に対して相対的に回転しようとすれば、係合ブラケット6c,6cが溝部6aの側面部に接触して回転が阻止されるので、エレメント管6は先行して配置されたエレメント管6から離れていくことなく正確な位置に配置される。
【0071】
ここまでがエレメント管配置工程であり、以下に止水部形成工程について図5を参照しながら説明する。
【0072】
まず、外殻6bと遮蔽板6dによって囲まれた中空部と、係合ブラケット6cの内部の中空部に詰まった土砂を取り除くために、高圧洗浄管を挿入して、中空部の内部を洗浄する。この洗浄は、予め形成された中空部に沿っておこなえばよいため、連続したガイド孔を容易に形成することができる。
【0073】
そして、中空部の内部に注入管14A,14Bを挿入する。注入管14A,14Bの側面には側面孔が所定の間隔で設けられており、図5に示したようにその側面孔から漏れ出した地盤改良材15で中空部を満たすことができる。
【0074】
中空部の内部に満たされた地盤改良材15は、貫通部13A,13Bを通って地中1に排出され、これによって地中1が変質して止水部が形成される。
【0075】
このように止水部を形成することで、溝部6aと係合ブラケット6cの隙間を通って内部に浸入する水の経路を遮断することができる。
【0076】
また、注入後に注入管14A,14Bを引き抜くことで、地中1に注入されない地盤改良材15が回収されるので、注入ロスを削減することができる。
【0077】
なお、図3では、頂点部に配置された先導エレメント管5の両側面からエレメント管6,・・・を延伸させて、最下点部に配置された先導エレメント管5に到達させているが、施工期間を短縮するために最下点部の先導エレメント管5からもエレメント管6,・・・を延伸させることができる。
【0078】
図4に示したように断面略円形の閉断面を形成したエレメント管5,6,・・・は、溝部6aや係合ブラケット6c,6cが設けられた傾斜面の一部を切り開き、隣接するエレメント管5,6,・・・の内部を横断するように鋼材(図示省略)を周方向に挿入する。そして、内部にコンクリートを充填することで一体化された隔壁10を構築する。
【0079】
そして、隔壁10に囲繞された地中1であって、先行して構築したトンネル9Aの隣に新たにトンネル9Bを構築する。
【0080】
この結果、隔壁10の内側には、2本のトンネル9A,9Bが併設されることになる。この併設されたトンネル9A,9Bの一方又は両方のトンネル周壁を撤去して、トンネル9A,9B上方と隔壁10内周面の間を掘削して掘削部12を形成する。
【0081】
この掘削部12は、合流・分岐部として必要とされる合流・分岐空間11(図4の一点鎖線で囲まれた部分)が確保できる範囲まで形成される。この隔壁10で囲繞された範囲は、外部の地中1とは遮断されているので、安全かつ容易に掘削することができる。さらに、掘削されて露出した隔壁10の内側面に沿って、別の内側壁を設けることもできる。
【0082】
次に、本実施の形態のエレメント管6及びトンネル拡大部の構築方法の作用について説明する。
【0083】
以上に述べたようなエレメント管6、及びこれを使用したトンネル拡大部の構築方法によれば、略台形断面に形成されたエレメント管6の一方に形成された溝部6aに、隣接して配置される他方のエレメント管6の一対の係合ブラケット6c,6cを係合させて連結させる。
【0084】
このため、隣接するエレメント管6,6の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁10の曲折部を形成することができる上に、隣接するエレメント管6,6の間にほとんど隙間を発生させることがない。
【0085】
また、エレメント管6は略台形断面をしているため、地中1を掘削して配置されたエレメント管6の大部分が隔壁10の構造計算上の構造体を形成することになり、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0086】
さらに、溝部6aに係合ブラケット6c,6cを係合させながらエレメント管6を配置できるので、後から配置するエレメント管6をローリングさせることなく、先行して配置されたエレメント管6に近接した正確な位置に配置させることができる。
【0087】
そして、溝部6aの側面部と係合ブラケット6cの面同士を係合させるだけで連結できるので、連結方向の拘束は緩やかであり、曲線部の施工や施工誤差にも容易に対応することができる。また、無理にエレメント管6を推し込むことがないので、設置の際に溝部6aや係合ブラケット6c等のエレメント管6の構成部材に過大な応力を発生させて塑性変形させ、推進を不能にすることがない。
【0088】
また、略台形断面の側面となる前記第一傾斜面と前記第二傾斜面が、その間の中心線に対して線対称に形成されているため、隣接させるエレメント管6,6の対向する各傾斜面の長さは等しくなり、エレメント管6,6を連結した際に、段差が発生することがない。また、隔壁10の曲折部を容易に同じ角度で形成することができる。
【0089】
さらに、地盤改良材15を注入するための中空部が、予め外殻6b内側又は係合ブラケット6c内側に延設されているため、容易に地盤改良材15を注入することができ、迅速にエレメント管6の外側に止水部を形成させることができる。
【0090】
そして、地盤改良材15は貫通部13A,13Bを通過させて排出させればよいので、止水部を形成させる地中1に容易に注入することができる。
【0091】
このため、エレメント管6,6同士の連結部に、止水部を形成して確実に止水することができる。また、連結部の止水性を向上させることによって、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな地中1にも、安全に隔壁10を構築することができる。
【0092】
また、トンネル9Aの途中の内側から発進基地7と到達基地8を設け、その発進基地7から複数のエレメント管5,6,・・・を到達基地8に向けて配置することによって隔壁10を構築し、トンネル拡大部を形成することができる。
【0093】
このため、地上に工事用の用地が確保できない場所や、大深度地下等の地上からの施工が難しい場所であっても、トンネルの拡幅部や、併設して構築された複数のトンネル9A,9Bの合流・分岐部を、トンネル9A,9Bを利用することで容易に構築することができる。
【実施例1】
【0094】
以下、前記した実施の形態の実施例1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0095】
実施例1では、図6に示すように、2本の併設されたトンネル9A,9Bの上部に屋根を架け渡すように隔壁25を構築する場合について説明する。
【0096】
この実施例1では、最初に2本のトンネル9A,9Bを並行させて構築する。そして、このトンネル9A,9Bの一方又は両方の内側から、トンネル軸に直交する方向にトンネル周囲を掘り広げて、発進基地7及び到達基地8を構築する。
【0097】
この発進基地7から最初に推進させる先導エレメント管16は、トンネル9Aとトンネル9Bの中間付近に配置する。そして、この先導エレメント管16の両側にエレメント管17,・・・を連結して隔壁25を左右両側に延伸させる。
【0098】
このエレメント管17,・・・の連結は、溝部17aと一対の係合ブラケット17b,17bを係合させることによって行なわれる。
【0099】
また、この隔壁25の両端部に配設されるエレメント管17,17は、トンネル9A,9Bのトンネル周壁にそれぞれ接続させる。そして、エレメント管16,17,・・・を横断するように円弧状に鋼材を配置し、コンクリートを内部に充填することで隔壁25を一体化させる。
【0100】
この隔壁25は、両端がトンネル9A,9Bで支持された断面視扇形の山留め部材となるため、その下部を掘削して掘削部19を形成することが容易にできる。そして、掘削部19に面したトンネル周壁を撤去することで、トンネル9A,9Bの合流・分岐部を構築することができる。
【0101】
さらに、隔壁25を下側から支持させるために、トンネル9A,9B間に柱部18を設けることもできる。
【0102】
このようにトンネル9A,9Bに隔壁25を支持させることで、配置するエレメント管17,・・・の数を減らしたり、掘削部19の掘削量を低減したりすることができ、経済的にトンネル9A,9Bの拡大部を構築することができる。
【0103】
また、図7に示したように、上部に屋根のように架け渡された隔壁25Aに加えて、下部にも隔壁25Bを設けることができる。この隔壁25Bは、トンネル9Aとトンネル9Bの下部を連結させるように、エレメント管16,17,・・・を連結して構築する。
【0104】
このように、トンネル9A,9Bの拡大部を、隔壁25A,25Bとトンネル9,9とによって囲まれた範囲に構築することで、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな地中1にも、安全にトンネル9A,9Bの拡大部を構築することができる。
【0105】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0106】
以下、前記した実施の形態の実施例2について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0107】
実施例2では、図8に示すように、2本の併設されたトンネル9A,9Bを、断面視半円形のアーチ型の隔壁26で覆う場合について説明する。
【0108】
この実施例2では、最初にトンネル9Aを構築し、そのトンネル9A内側から、トンネル軸に直交する方向にトンネル周囲を掘り広げて、発進基地7及び到達基地8を構築する。
【0109】
この発進基地7から最初に推進させる先導エレメント管20,20は、アーチ型の隔壁22の脚部となる両側の下端部に配設する。この先導エレメント管20,20の内部からは、隔壁22の支持力を確保するための支持杭23,・・・を打設することができる。
【0110】
そして、両側の下端部に配設された先導エレメント管20,20から、アーチ型に形成される隔壁26の頂点に向けてエレメント管21,・・・を連結していく。
【0111】
このエレメント管21,・・・の連結は、溝部21aと一対の係合ブラケット21b,21bを係合させることによって行なわれる。この連結工程を繰り返してアーチ型にエレメント管20,21,22,・・・が閉合された後に、エレメント管20,21,22,・・・を横断するように鋼材(図示省略)を配置し、コンクリートを内部に充填することで隔壁26を一体化させる。
【0112】
この隔壁26で覆われた地中1には、トンネル9Aに併設されるようにもう一本のトンネル9Bを構築する。そして、併設されたトンネル9A,9Bの一方又は両方のトンネル周壁を撤去して、隔壁26の内側を掘削して掘削部24を形成する。
【0113】
このように、アーチ型の隔壁26が山留め部材となるため、その下部を掘削して掘削部24を形成することが容易にできる。さらに、掘削部24に面したトンネル周壁を撤去することで、図8に一点鎖線で示したようなトンネル9A,9Bの合流・分岐空間11を形成することができる。
【0114】
このようにトンネル9A,9Bの上半部を覆うようにアーチ型の隔壁26を設けることで、断面視円形の隔壁10を形成する場合に比べて配置するエレメント管21,・・・の数を減らすことができ、経済的にトンネル9A,9Bの拡大部を構築することができる。
【0115】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0116】
以下、前記した実施の形態の実施例3について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0117】
前記実施の形態では、図1に示したように、上底が下底より長くなる向きに配設された先導エレメント管5の両側に、同様に上底が下底より長くなる向きに合わせたエレメント管6,・・・を連結していくことで、曲折部を有する隔壁10を形成したが、実施例3では平面状の隔壁27を形成する方法について説明する。
【0118】
この実施例3では、図9に示すように、最初に設置する先導エレメント管5は、上底が下底より長くなる向きに合わせて配設される。そして、この両側に連結させるエレメント管6A,6Aは、上底が下底より短くなる向きに合わせて配設される。
【0119】
このように傾斜面が同じ角度に形成されたエレメント管5,6Aを、傾斜面の傾きが打ち消されるように向きを反転させて配設させることで、先導エレメント管5の上底及び下底と、エレメント管6A,6Aの上底及び下底は平行になる。
【0120】
さらに、エレメント管6A,6Aの隣には、上底が下底より長くなる向きに合わせたエレメント管6B,6Bが連結される。このようにエレメント管6A,6B,・・・の向きを反転させながら順に連結していくことで、平面状の隔壁27を構築することができる。
【0121】
さらに、この実施例3のように、上底及び下底と直交する中心線に対して線対称となる略台形断面のエレメント管6A,6B,・・・を使用することで、曲折部のみならず平面部を有する隔壁27も容易に構築することができる。
【0122】
また、隔壁の全体形状が円筒形、楕円形、馬蹄形、平板形等のように様々な形状であっても、同一形状のエレメント管6を使用して構築することができるので、製造コストを削減できる。また、同一形状であれば、配置場所が限定されることもなく、効率よく施工することができる。
【0123】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例4】
【0124】
以下、前記した実施の形態の実施例4について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0125】
前記実施の形態では、止水部形成材として地盤改良材15を使用したが、実施例4では凍結工法で使用する不凍液等の冷媒を止水部形成材として使用する。
【0126】
この冷媒には、地中1に直接、注入するものと、注入管内を循環させて間接的に地中1を冷却するものがあるが、直接注入する場合は前記実施の形態と同じ構成によって実施することができるので、注入管内を循環させるものを使用する構成についてここでは説明する。
【0127】
この実施例4では、外殻6b及び係合ブラケット6cに貫通部13A,13Bを設ける必要は無いが、後から挿入する注入管が外殻6bや係合ブラケット6cの内側面と接触する面積が大きくなるように構成する方が冷却効率を向上させることができる。
【0128】
中空部の内部には、例えば先端をU字型に折り返した注入管を挿入し、発進基地7に設置した冷凍機で冷却した冷媒を注入管内部で循環させる。こうすることによって、低温部が注入管、外殻6b又は係合ブラケット6c、地中1の順に広がり、溝部6aに近接する地中1が凍結して止水部が形成される。
【0129】
凍結工法によって形成される止水部の止水性能は非常に高いので、エレメント管6,6同士の連結部の止水を確実におこなうことができる。
【0130】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例5】
【0131】
以下、前記した実施の形態の実施例5について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0132】
前記実施の形態では、図1に示したように、上底及び下底が平面に形成された先導エレメント管5を使用して説明したが、本発明の略台形断面には、上底及び下底が曲面に形成されたものも含まれる。
【0133】
図10(a)は、上底が曲面外殻30fで形成されたエレメント管30を連結して構築された隔壁28の断面図である。
【0134】
このように略台形断面の側面となる傾斜面が平面に形成されていれば、上底又は下底は曲面で形成されていてもよい。曲面外殻30fを使用することによって、アーチ効果を期待することができるようになり、安全に掘削孔を形成することができる。さらに、曲面外殻30fに作用する土圧及び水圧に対しても、高い耐荷性を示すことができる。
【0135】
また、エレメント管30の両側面は平面に形成されているため、エレメント管30,30同士を連結させても重複する部分がほとんどない上に、側面の高さを隔壁28の有効厚とすることができるので、従来の円形のエレメント管2を使用する場合に比べて、経済的に隔壁28を構築することができる。
【0136】
また、図10(b)に示すように、上底及び下底が曲面外殻31f,31fで形成されたエレメント管31の場合も、前記エレメント管30と同様の効果を得ることができる。
【0137】
さらに、連結後のエレメント管31,・・・は、前記実施の形態及び実施例と同様に、内部を一体化した隔壁29とすることができる。図10(b)に示すように、エレメント管31,・・・を連結して止水部37,・・・を形成した後に、エレメント管31が連結された側の遮蔽板31dと外殻31bの一部を切断して開口部を形成し、エレメント管31,・・・内部を連結方向に連通させる。
【0138】
そして、連結方向に横断する応力部材としての連結鉄筋34,・・・を配置して補強材31e,31eに端部を固定する。また、補強材31e,31eの上下方向には、せん断補強筋又は配力筋として補強鉄筋35,・・・を配置する。
【0139】
このように補強した後に、セメント系固化材としてのコンクリート36を、ポンプなどでエレメント管31,・・・の内部に充填して、隔壁29を一体化させる。
【0140】
このように隔壁29の内部の補強材31e,・・・を、連結鉄筋34,・・・によって連結方向に力学的に連続させ、連通した内部にコンクリート36を充填することで、隔壁29を強固な一体構造とすることができる。
【0141】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例6】
【0142】
以下、前記した実施の形態の実施例6について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0143】
実施例6では、図11に示したように、エレメント管33,33同士の連結手段として、ガイド溝部33aと突起部33cを使用する場合について説明する。
【0144】
このエレメント管33は、筒体を形成する略台形断面の外殻33bによって、上底、下底及び側面の大部分が形成される。さらに、この側面を、上底及び下底に斜めに交わる第一傾斜面及び第二傾斜面とし、この第一傾斜面と第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成される。
【0145】
そして、この第一傾斜面には、一対の凹型断面のガイド溝部33a,33aが長手方向に連続して延設される。
【0146】
また、筒体の第二傾斜面には、一対の突起部33c,33cが形成される。この一対の突起部33c,33cは、ガイド溝部33a,33aにそれぞれ挿入させる部材である。このため、この突起部33c,33cは、ガイド溝部33aの内空よりも少し小さめに形成する。
【0147】
すなわち、ガイド溝部33a,33aに、隣接して配置されるエレメント管33の突起部33c,33cを挿入した際に、隙間が小さければ挿入抵抗は大きくなり、隙間が大きければ連結が弱くなるため、適度な隙間が形成されるように両者の大きさを決定する。
【0148】
以上に述べたような実施例6のエレメント管33の構成によれば、隣接するエレメント管33,33の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁32の曲折部を形成することができる上に、隣接するエレメント管33,33の間にほとんど隙間を発生させることがない。
【0149】
また、エレメント管33は略台形断面をしているため、地中1を掘削して配置されたエレメント管33の大部分が隔壁32の構造計算上の構造体を形成することになり、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0150】
さらに、ガイド溝部33a,33aに突起部33c,33cを挿入することでエレメント管33を配置できるので、後から配置するエレメント管33をローリングさせることなく、先行して配置されたエレメント管33に近接した正確な位置に配置させることができる。
【0151】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0152】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0153】
例えば、前記実施の形態又は実施例では、エレメント管を連結して形成される全体形状の断面が、円形、扇形、半円形又は直線形の隔壁10,25,26,27について説明したが、この形状に限定されるものではなく、例えば断面が楕円形、馬蹄形、四角形などの隔壁であってもよい。
【0154】
また、隔壁のすべてが前記エレメント管で形成されていなくともよく、例えば施工誤差を吸収できるような接続管(図示せず)を使用することもできる。この接続管は、例えば一側面で隣接するエレメント管6の溝部6aよりも充分に間隔の狭い係合ブラケットと、他側面で隣接するエレメント管6の係合ブラケット6c,6cの間隔よりも充分に間隔の広い溝部を備えた形状に形成される。
【0155】
このように前記接続管の継手部を、隣接するエレメント管6の継手部と合わせやすい形状にすることで、多少の施工誤差があっても、隔壁を閉合断面とすることが容易にできる。ここで、前記接続管とエレメント管の間は、他の連結部よりも隙間が大きくなるため、充分な大きさの止水部を形成しておく。
【0156】
さらに、前記実施の形態又は実施例では、トンネル9A,9Bの周囲に隔壁を設けた例について説明したが、これに限定されるものではなく、トンネル9A,9Bを設けなくとも、本数を変更してもよい。また、トンネル9A,9Bを設ける際も、その構築する順序は任意に設定することができる。
【0157】
また、外殻6bと遮蔽板6d、又は係合ブラケット6cによって形成される内空間が広い場合は、その内空間を仕切り板で間仕切りしたり、貫通孔13A,13Bに沿って管状のガイド部材を延設したりして、止水部形成材を注入するための中空部とすることもできる。
【0158】
さらに、貫通孔13A,13Bの位置は、図5に示した位置に限定されるものではなく、例えば隣接するエレメント管6の外殻と対面する側に貫通孔13Aを設けて、エレメント管6,6の隙間に地盤改良材15を注入するように構成することもできる。
【0159】
また、前記実施の形態又は実施例では、止水部形成材を注入する中空部を隣接するエレメント管6と対面するエレメント管6の側面に設けたが、これに限定されるものではなく、エレメント管6の上面及び下面に外殻6bから地山側に突起するように設けることもできる。
【0160】
さらに、止水部を形成する工程は、エレメント管6を配置した直後に連続しておこなわなくとも、任意の数のエレメント管6,・・・を配置した後にまとめておこなうこともできる。
【0161】
そして、先行して配置されたエレメント管5,6,・・・の溝部5a,6a,・・・と掘進機によって掘削された掘削面との間の略矩形の隙間には、掘削面の崩壊や地山の緩みを防止するために、係合ブラケット6c,6cの推進が可能な強度の充填材を充填しておくこともできる。
【0162】
さらに、先行して配置されたエレメント管6の一対の係合ブラケット6c,6cに、後から配置するエレメント管6の溝部6aを係合させることによって連結させることもできる。
【0163】
また、溝部6aの断面形状は、矩形でなくとも、台形又は逆向きの台形であってもよい。この場合は、対峙する係合ブラケット6c,6cの形状も、溝部6aの形状に合わせて形成される。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明の最良の実施の形態のエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の最良の実施の形態によって構築されたトンネル拡大部の斜視図である。
【図3】トンネル拡大部の構築方法の作業手順を説明する断面図である。
【図4】図2のA−A線でのトンネル拡大部を説明する断面図である。
【図5】地盤改良材が注入される状態を説明した一部拡大断面図である。
【図6】実施例1のトンネル拡大部の構成を説明する断面図である。
【図7】実施例1の隔壁を上下に配置したトンネル拡大部の構成を説明する断面図である。
【図8】実施例2のトンネル拡大部の構成を説明する断面図である。
【図9】実施例3のエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。
【図10】(a)実施例5の上底が曲面外殻で形成されたエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。(b)実施例5の上底及び下底が曲面外殻で形成されたエレメント管の内部を連通させて一体化した構成を説明する断面図である。
【図11】実施例6のガイド溝部と突起部を設けたエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。
【図12】従来例の円形のエレメント管を連結して構築された隔壁の断面図である。
【符号の説明】
【0165】
1 地中
6 エレメント管
6a 溝部
6b 外殻
6c 係合ブラケット
7 発進基地
8 到達基地
9A,9B トンネル
10 隔壁
15 地盤改良材(止水部形成材)
17,21 エレメント管
25〜29 隔壁
30,31 エレメント管
33 エレメント管
33a ガイド溝部
33b 外殻
33c 突起部
34 連結鉄筋(応力部材)
36 コンクリート(セメント系固化材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に複数配置されて隔壁を形成するエレメント管、及びそのエレメント管を使用して構築されるトンネルの覆工等の隔壁、及びトンネルの一部を拡幅したり、併設されたトンネル間に合流・分岐部を形成したりする隔壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図12の断面図に示すように、地中1を地上まで開削することなく、複数の円形又は欠円形のエレメント管2,・・・を配置して隔壁3を構築する方法が知られている(特許文献1など参照)。
【0003】
この方法では、まず、一管目のエレメント管2を、掘進機で円形に掘削した掘削孔の後方から推し込んで配置する。さらに、先行して配置されたエレメント管2の隣に、それをガイドにしながら他のエレメント管2を推進させ、この作業を繰り返すことによってエレメント管2,・・・を次々に連結しながら配置していく。
【0004】
そして、複数のエレメント管2,・・・によって図12に示したような断面視略楕円形の閉断面を形成した後に、エレメント管2,・・・同士が当接する側面の一部を開口し、その楕円形の円周方向に鋼材を挿入し、コンクリートを打設することによって、隣接するエレメント管2,・・・同士が一体化された隔壁3が構築される。
【0005】
この隔壁3で囲繞された内部は、掘削されて隔壁3をトンネル周壁とする大断面のトンネルが形成され、道路や共同溝などに使用される。
【0006】
一方、四隅が直角の断面視四角形のエレメント管を複数連結して、大断面トンネルの外郭を形成する方法も知られている(特許文献2など参照)。
【特許文献1】特開2000−310100号公報(図13、0002段落乃至0003段落)
【特許文献2】特開2000−120373号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記したように円形の小断面を連結して隔壁3を構築する場合、構造計算上の構造体として設計に考慮することが出来るのは、図12の二点鎖線で挟まれた有効厚4の部分だけである。
【0008】
このように円形断面は、アーチ効果によって個々の小断面の掘削時には掘削面が安定するなどの利点を有しているが、構造計算上は有効厚4に含まれない曲率のある部分は不用な部分として扱われ、余掘り部又は余剰部を構築したことになるため経済的であるとはいえない。
【0009】
さらに、この有効厚4の厚さは、隣接するエレメント管2,2同士を近づけて重複する部分を大きくすれば厚くすることはできるが、ラップ部が大きくなれば同じ周長の隔壁を構築するために使用されるエレメント管2,・・・の数も多くなるので材料費が増加すると共に、掘進機を掘進させる回数も増えるため、工費及び工期が増加する原因となる。
【0010】
また、矩形のエレメント管を使用した場合、平面状の隔壁を形成する場合は問題がないが、楕円形などの曲折部を有する隔壁を構築する際は、エレメント管とエレメント管の間に隙間が発生するため、エレメント管が推進中に左右に動き易く所定の位置にエレメント管を配置するのが難しい。
【0011】
そこで、本発明は、構造的な無駄が少なく、隔壁の曲折部を容易に形成可能なエレメント管、及びそのエレメント管を使用して構築される隔壁、及び隔壁の構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、請求項1の発明は、地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面の溝部が形成され、第二傾斜面に前記溝部の幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケットが外側に突出して形成されたエレメント管であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載のものは、前記第一傾斜面と前記第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成された請求項1に記載のエレメント管であることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項3に記載のものは、前記筒体を形成する外殻と前記溝部に挟まれた内空間又は前記係合ブラケットにより形成される内空間の少なくとも一方に、止水部形成材を注入するための中空部が形成された請求項1又は2に記載のエレメント管であることを特徴とする。
【0015】
そして、請求項4に記載のものは、地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面のガイド溝部が形成され、第二傾斜面に前記ガイド溝部に挿入可能な形状の突起部が外側に突出して形成されたエレメント管であることを特徴とする。
【0016】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエレメント管を地中で複数連結し、そのエレメント管の内部を連結方向に連通させて応力部材を配置すると共に、エレメント管の内部にセメント系固化材を充填して一体化したことを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエレメント管を地中に複数配置して形成する隔壁の構築方法であって、トンネルを掘削し、該トンネルの内側から周囲を掘り広げてトンネル軸に直交する方向に広がる発進基地を構築し、該発進基地から前記トンネルに沿って所定の長さ離れた位置に前記発進基地と同様にして到達基地を構築し、前記発進基地から前記到達基地に向けて地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら該掘削孔に配置し、さらに他の前記エレメント管を配置済みの前記エレメント管の隣に、前記溝部と前記係合ブラケットを係合させながら配置する工程を繰り返すことによって、前記トンネルの周りに複数の前記エレメント管を連結した隔壁を構築し、前記発進基地と前記到達基地の間の前記トンネルと前記隔壁の間の地中を掘削する隔壁の構築方法であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
このように構成された請求項1に記載のものは、略台形断面に形成されたエレメント管の一方に形成された前記溝部に、隣接して配置される他方のエレメント管の一対の前記係合ブラケットを係合させて連結させる。
【0019】
このため、隣接する前記エレメント管の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁の曲折部を形成することができるうえに、隣接するエレメント管との間にはほとんど隙間を発生させることがない。
【0020】
また、エレメント管は略台形断面をしているため、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0021】
さらに、前記溝部に前記係合ブラケットを係合させながら前記エレメント管を配置できるので、前記エレメント管同士を相対的に回転(ローリング)させることなく連結させることができる。また、面同士を係合させるだけで連結できるので、連結方向の拘束は緩やかであり、曲線部の施工や施工誤差に容易に対応することができる。
【0022】
また、請求項2に記載のものは、略台形断面の側面となる前記第一傾斜面と前記第二傾斜面が、その間の中心線に対して線対称に形成されている。
【0023】
このため、同形状のエレメント管を隣接させると対向する各傾斜面の長さは等しくなり、エレメント管を連結した際に段差が発生することがない。また、前記傾斜面を合わせるだけで隔壁の曲折部を容易に同じ角度で形成することができる。
【0024】
さらに、エレメント管を交互に反転させた向きで配置することで、容易に平面状の隔壁を形成することができる。
【0025】
また、請求項3に記載のものは、前記止水部形成材を注入するための中空部が予め形成されている。
【0026】
このため、容易に前記止水部形成材を注入することができ、迅速にエレメント管の外側に止水部を形成させることができる。さらに、止水性を向上させることができるので、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな場所にも、安全に隔壁を構築することができる。
【0027】
さらに、請求項4に記載の発明は、略台形断面に形成されたエレメント管の一方に形成された前記ガイド溝部に、隣接して配置される他方のエレメント管の突起部を挿入して連結させる。
【0028】
このため、隣接する前記エレメント管の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁の曲折部を形成することができるうえに、隣接するエレメント管との間にはほとんど隙間を発生させることがない。
【0029】
また、エレメント管は略台形断面をしているため、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0030】
そして、請求項5に記載の発明は、前記したいずれかのエレメント管を地中で複数連結し、連結後にその内部を連通させて前記応力部材とセメント系固化材によって一体化させた隔壁を構築する。
【0031】
このようにして構築された隔壁の内部の土砂を掘削すれば、前記隔壁はトンネルの覆工となり、トンネルの途中の外周に前記隔壁を設ければ、トンネルの拡大部を構築することができる。
【0032】
また、地上から発進立坑と到達立坑を構築し、この発進立坑と到達立坑の間に前記隔壁を構築すれば、地下鉄の駅舎部や地下駐車場等の外殻構造を前記隔壁で容易に形成することができる。
【0033】
また、請求項6に記載の発明は、トンネルの途中の内側から発進基地と到達基地を設け、その発進基地から複数のエレメント管を到達基地に向けて配置することによって隔壁を構築し、その隔壁によってトンネル拡大部を形成することができる。
【0034】
このため、地上に工事用の用地が確保できない場所や、大深度地下等の地上からの施工が難しい場所であっても、トンネルの拡幅部や、併設して構築された複数のトンネルの合流・分岐部を、トンネルを利用することで容易に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0036】
なお、前記従来例と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0037】
図1は、先導エレメント管5の両側面に本実施の形態によるエレメント管6,・・・を連結した図であり、図2は併設して構築されたトンネル9A,9Bの合流・分岐部を、エレメント管5,6,・・・を連結して形成した隔壁10によって構築した斜視図を示したものである。
【0038】
まず、本実施の形態のエレメント管6の構成について説明する。
【0039】
本実施の形態のエレメント管6は、筒体を形成する略台形断面の外殻6bによって、上底、下底及び側面の大部分が形成される。さらに、この側面を、上底及び下底に斜めに交わる第一傾斜面及び第二傾斜面とし、この第一傾斜面と第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成される。
【0040】
すなわち、第一傾斜面と第二傾斜面は、上底及び下底と同じ角度で交わるように形成される。このため、同じ向きに合わせたエレメント管6,・・・を連結させると、上底と傾斜面が交わる角度の略2倍の内角の曲折部を有する隔壁10が構築される。
【0041】
そして、この第一傾斜面には、凹型断面の溝部6aが長手方向に連続して延設される。ここでは、溝部6aの底面を形成する外殻として遮蔽板6dを使用する。すなわち、断面略コ字型に形成した外殻6bの開口部をこの遮蔽板6dで塞いで略台形の閉断面を形成する。
【0042】
さらにこの溝部6aは、外側に開放する略矩形断面の溝であって、遮蔽板6dと、その遮蔽板6dに端面が当接されるように鉤型に折り曲げられた外殻6bの端部によって形成される。
【0043】
また、この外殻6b及び遮蔽板6dの内側面には、リブなどの補強材6eが取り付けられて、エレメント管6が土圧や水圧に耐え得る構造に補強される。
【0044】
また、筒体の第二傾斜面には、一対の係合ブラケット6c,6cが形成される。この一対の係合ブラケット6c,6cは、エレメント管6の溝部6aに係合させる部材である。この係合ブラケット6c,6cは、外殻6bに取り付けられた際に、略直角三角形が形成されるように鋼板を折り曲げて形成される。
【0045】
ここで、一対の係合ブラケット6c,6cは、外殻6bと略直交するように交わる面を、溝部6aの側面部に略平行するように対峙させ、溝部6aの幅に略等しい間隔となるように取り付けられる。
【0046】
このように外殻6bの外側に突出して形成された係合ブラケット6c,6cが、窪んだ溝部6aに嵌まり込むことで、先行して配置したエレメント管6に後から配置するエレメント管6が係合される。
【0047】
図1の中央部には、最初に配置する先導エレメント管5が示されている。この先導エレメント管5は、特殊形態のエレメント管であり、先導エレメント管5を先行管として、図1に示すように両側にエレメント管6,・・・が連結される。このため、この先導エレメント管5は、両側面に溝部5a,5aが設けられており、この溝部5a,5aにエレメント管6の係合ブラケット6c,6cを係合させる。
【0048】
なお、先導エレメント管5は、最初に推進させる際の作業性を考慮して、図1では他のエレメント管6,・・・よりも大きな断面としているが、これに限定されるものではなく、他のエレメント管6と同一形状又は同程度の大きさに形成することもできる。
【0049】
また、図5には、エレメント管6,6同士の連結部の一部を拡大した断面図を示した。この図5を参照しながら、止水部形成材を注入するための中空部について説明する。
【0050】
図5の右側には、エレメント管6の溝部6aの両端に設けられる内空間の一方を示した。この内空間は、外殻6bの端部を鉤型に折り曲げて、その開口部を遮蔽板6dで塞ぐことによって、外殻6bと溝部6aに挟まれた位置に断面略矩形に形成される。
【0051】
また、図5の左側には、係合ブラケット6cによって形成された断面略直角三角形の内空間を示した。
【0052】
これらの内空間は、エレメント管6,6の間の連結部に止水部を形成させるために、止水部形成材を注入する中空部として使用することができる。ここで、止水部形成材としての地盤改良材15を使用する場合は、地中1側に地盤改良材15が排出されるように、外殻6b及び係合ブラケット6cには貫通部13A,13Bが形成される。
【0053】
この貫通部13A,13Bは、円形又はスリット形状に形成される。また、隣接して配置されるエレメント管6側に傾く方向に形成されることで、排出された地盤改良材15を隣接したエレメント管6方向に効果的に広げることができる。
【0054】
この地盤改良材15には、セメント系固化材や水ガラス系注入材などが使用でき、地盤改良材15が地中1に注入されることによって地中1が透水係数の低い止水部に変質する。
【0055】
次に、図2に示すようなトンネルの合流・分岐部を形成するトンネル拡大部の構築方法について説明する。
【0056】
まず、トンネル9Aを全線に亘って構築する。このトンネル9Aは、例えばシールド掘削機によって掘削した掘削面に、円弧状のセグメントをトンネル周壁として配置することによって構築する。
【0057】
そして、トンネル9Aの所定の位置で、トンネル周壁を一部撤去して、そのトンネル9Aの内側から地中1を掘り広げ、トンネル軸に直交する方向に広がる発進基地7を形成する。
【0058】
この発進基地7は、トンネル9Aを中心に徐々に掘り広げて、例えば直方体状の空間に形成することができる。
【0059】
この発進基地7からトンネル9Aに沿って所定の長さ離れた位置に、発進基地7と同様にして同形状の到達基地8を構築する(図2参照)。これらの発進基地7及び到達基地8を、トンネル9Aの内部から構築するようにすれば、地上にこれらの基地7,8を構築するための用地を確保する必要がない。
【0060】
これらの基地7,8は、エレメント管5,6,・・・を地中1へ発進させるために構築される。このため、本実施の形態のトンネル拡大部は、これらの基地7,8の間に構築される。
【0061】
図3は、図2のA−A線位置の断面図に、参考のために発進基地7の投影断面を二点鎖線で示したものである。
【0062】
発進基地7からの先導エレメント管5の配置は、隔壁10を構築する予定位置であれば任意の位置からおこなうことができるが、例えば先導エレメント管5,5が円形断面の頂点部と最下点部に配置されるようにする。
【0063】
この先導エレメント管5は、掘削断面が台形又は矩形となる掘進機によって掘削された掘削孔に配置される。ここで、掘進機としては、シールド掘削機又は推進機のいずれも適用できるが、本実施の形態では推進機を使用した場合について、以下に説明する。
【0064】
この掘進機の後端には、先導エレメント管5の先端を当接させ、この先導エレメント管5の後端を発進基地7から推進ジャッキで押すことによって、先導エレメント管5を地中1に推し込む。ここで、頂点部に配置される先導エレメント管5は上底が下底よりも長く、最下点部に配置される先導エレメント管5は上底が下底よりも短くなる向きに合わせられる。
【0065】
この先導エレメント管5は、推進ジャッキで押した分だけ坑口で継ぎ足し、さらに地中1に推し込む。
【0066】
そして、先導エレメント管5の配置が完了した後に、図3に示すように先導エレメント管5の両側面に次々にエレメント管6,・・・を配置していく。すなわち、先導エレメント管5の傾斜面に設けられた溝部5aに沿って掘進機を掘進させ、その後端に上底が下底より長くなる向きに合わせたエレメント管6の先端を当接させ、このエレメント管6の後端を発進基地7から推進ジャッキで押すことによって、エレメント管6を地中1に推し込む。
【0067】
この際、図1に示すように、後から配置するエレメント管6は、一対の係合ブラケット6c,6cが、先導エレメント管5の溝部5aに係合されるようにして推進させる。
【0068】
このようなエレメント管6,・・・の推進工程を繰り返してエレメント管6,・・・を連結していく。後から配置されるエレメント管6は、先に配置されたエレメント管6に近づくように配置される傾向にあり、隣接して配置されるエレメント管6,6の対向する傾斜面の長さは等しいため、エレメント管6,6の間にほとんど隙間を生じさせることなく、エレメント管6,6同士を容易に近接させることができる。
【0069】
また、エレメント管6,・・・同士の連結は、掘削されて空洞となった溝部6aに係合ブラケット6c,6cを挿入することでおこなえるため、係合ブラケット6c,6cが推進の抵抗又は障害になることがほとんどない。
【0070】
さらに、推進中のエレメント管6が先行して配置されたエレメント管6に対して相対的に回転しようとすれば、係合ブラケット6c,6cが溝部6aの側面部に接触して回転が阻止されるので、エレメント管6は先行して配置されたエレメント管6から離れていくことなく正確な位置に配置される。
【0071】
ここまでがエレメント管配置工程であり、以下に止水部形成工程について図5を参照しながら説明する。
【0072】
まず、外殻6bと遮蔽板6dによって囲まれた中空部と、係合ブラケット6cの内部の中空部に詰まった土砂を取り除くために、高圧洗浄管を挿入して、中空部の内部を洗浄する。この洗浄は、予め形成された中空部に沿っておこなえばよいため、連続したガイド孔を容易に形成することができる。
【0073】
そして、中空部の内部に注入管14A,14Bを挿入する。注入管14A,14Bの側面には側面孔が所定の間隔で設けられており、図5に示したようにその側面孔から漏れ出した地盤改良材15で中空部を満たすことができる。
【0074】
中空部の内部に満たされた地盤改良材15は、貫通部13A,13Bを通って地中1に排出され、これによって地中1が変質して止水部が形成される。
【0075】
このように止水部を形成することで、溝部6aと係合ブラケット6cの隙間を通って内部に浸入する水の経路を遮断することができる。
【0076】
また、注入後に注入管14A,14Bを引き抜くことで、地中1に注入されない地盤改良材15が回収されるので、注入ロスを削減することができる。
【0077】
なお、図3では、頂点部に配置された先導エレメント管5の両側面からエレメント管6,・・・を延伸させて、最下点部に配置された先導エレメント管5に到達させているが、施工期間を短縮するために最下点部の先導エレメント管5からもエレメント管6,・・・を延伸させることができる。
【0078】
図4に示したように断面略円形の閉断面を形成したエレメント管5,6,・・・は、溝部6aや係合ブラケット6c,6cが設けられた傾斜面の一部を切り開き、隣接するエレメント管5,6,・・・の内部を横断するように鋼材(図示省略)を周方向に挿入する。そして、内部にコンクリートを充填することで一体化された隔壁10を構築する。
【0079】
そして、隔壁10に囲繞された地中1であって、先行して構築したトンネル9Aの隣に新たにトンネル9Bを構築する。
【0080】
この結果、隔壁10の内側には、2本のトンネル9A,9Bが併設されることになる。この併設されたトンネル9A,9Bの一方又は両方のトンネル周壁を撤去して、トンネル9A,9B上方と隔壁10内周面の間を掘削して掘削部12を形成する。
【0081】
この掘削部12は、合流・分岐部として必要とされる合流・分岐空間11(図4の一点鎖線で囲まれた部分)が確保できる範囲まで形成される。この隔壁10で囲繞された範囲は、外部の地中1とは遮断されているので、安全かつ容易に掘削することができる。さらに、掘削されて露出した隔壁10の内側面に沿って、別の内側壁を設けることもできる。
【0082】
次に、本実施の形態のエレメント管6及びトンネル拡大部の構築方法の作用について説明する。
【0083】
以上に述べたようなエレメント管6、及びこれを使用したトンネル拡大部の構築方法によれば、略台形断面に形成されたエレメント管6の一方に形成された溝部6aに、隣接して配置される他方のエレメント管6の一対の係合ブラケット6c,6cを係合させて連結させる。
【0084】
このため、隣接するエレメント管6,6の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁10の曲折部を形成することができる上に、隣接するエレメント管6,6の間にほとんど隙間を発生させることがない。
【0085】
また、エレメント管6は略台形断面をしているため、地中1を掘削して配置されたエレメント管6の大部分が隔壁10の構造計算上の構造体を形成することになり、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0086】
さらに、溝部6aに係合ブラケット6c,6cを係合させながらエレメント管6を配置できるので、後から配置するエレメント管6をローリングさせることなく、先行して配置されたエレメント管6に近接した正確な位置に配置させることができる。
【0087】
そして、溝部6aの側面部と係合ブラケット6cの面同士を係合させるだけで連結できるので、連結方向の拘束は緩やかであり、曲線部の施工や施工誤差にも容易に対応することができる。また、無理にエレメント管6を推し込むことがないので、設置の際に溝部6aや係合ブラケット6c等のエレメント管6の構成部材に過大な応力を発生させて塑性変形させ、推進を不能にすることがない。
【0088】
また、略台形断面の側面となる前記第一傾斜面と前記第二傾斜面が、その間の中心線に対して線対称に形成されているため、隣接させるエレメント管6,6の対向する各傾斜面の長さは等しくなり、エレメント管6,6を連結した際に、段差が発生することがない。また、隔壁10の曲折部を容易に同じ角度で形成することができる。
【0089】
さらに、地盤改良材15を注入するための中空部が、予め外殻6b内側又は係合ブラケット6c内側に延設されているため、容易に地盤改良材15を注入することができ、迅速にエレメント管6の外側に止水部を形成させることができる。
【0090】
そして、地盤改良材15は貫通部13A,13Bを通過させて排出させればよいので、止水部を形成させる地中1に容易に注入することができる。
【0091】
このため、エレメント管6,6同士の連結部に、止水部を形成して確実に止水することができる。また、連結部の止水性を向上させることによって、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな地中1にも、安全に隔壁10を構築することができる。
【0092】
また、トンネル9Aの途中の内側から発進基地7と到達基地8を設け、その発進基地7から複数のエレメント管5,6,・・・を到達基地8に向けて配置することによって隔壁10を構築し、トンネル拡大部を形成することができる。
【0093】
このため、地上に工事用の用地が確保できない場所や、大深度地下等の地上からの施工が難しい場所であっても、トンネルの拡幅部や、併設して構築された複数のトンネル9A,9Bの合流・分岐部を、トンネル9A,9Bを利用することで容易に構築することができる。
【実施例1】
【0094】
以下、前記した実施の形態の実施例1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0095】
実施例1では、図6に示すように、2本の併設されたトンネル9A,9Bの上部に屋根を架け渡すように隔壁25を構築する場合について説明する。
【0096】
この実施例1では、最初に2本のトンネル9A,9Bを並行させて構築する。そして、このトンネル9A,9Bの一方又は両方の内側から、トンネル軸に直交する方向にトンネル周囲を掘り広げて、発進基地7及び到達基地8を構築する。
【0097】
この発進基地7から最初に推進させる先導エレメント管16は、トンネル9Aとトンネル9Bの中間付近に配置する。そして、この先導エレメント管16の両側にエレメント管17,・・・を連結して隔壁25を左右両側に延伸させる。
【0098】
このエレメント管17,・・・の連結は、溝部17aと一対の係合ブラケット17b,17bを係合させることによって行なわれる。
【0099】
また、この隔壁25の両端部に配設されるエレメント管17,17は、トンネル9A,9Bのトンネル周壁にそれぞれ接続させる。そして、エレメント管16,17,・・・を横断するように円弧状に鋼材を配置し、コンクリートを内部に充填することで隔壁25を一体化させる。
【0100】
この隔壁25は、両端がトンネル9A,9Bで支持された断面視扇形の山留め部材となるため、その下部を掘削して掘削部19を形成することが容易にできる。そして、掘削部19に面したトンネル周壁を撤去することで、トンネル9A,9Bの合流・分岐部を構築することができる。
【0101】
さらに、隔壁25を下側から支持させるために、トンネル9A,9B間に柱部18を設けることもできる。
【0102】
このようにトンネル9A,9Bに隔壁25を支持させることで、配置するエレメント管17,・・・の数を減らしたり、掘削部19の掘削量を低減したりすることができ、経済的にトンネル9A,9Bの拡大部を構築することができる。
【0103】
また、図7に示したように、上部に屋根のように架け渡された隔壁25Aに加えて、下部にも隔壁25Bを設けることができる。この隔壁25Bは、トンネル9Aとトンネル9Bの下部を連結させるように、エレメント管16,17,・・・を連結して構築する。
【0104】
このように、トンネル9A,9Bの拡大部を、隔壁25A,25Bとトンネル9,9とによって囲まれた範囲に構築することで、大深度地下などの土圧及び水圧の大きな地中1にも、安全にトンネル9A,9Bの拡大部を構築することができる。
【0105】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
【実施例2】
【0106】
以下、前記した実施の形態の実施例2について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0107】
実施例2では、図8に示すように、2本の併設されたトンネル9A,9Bを、断面視半円形のアーチ型の隔壁26で覆う場合について説明する。
【0108】
この実施例2では、最初にトンネル9Aを構築し、そのトンネル9A内側から、トンネル軸に直交する方向にトンネル周囲を掘り広げて、発進基地7及び到達基地8を構築する。
【0109】
この発進基地7から最初に推進させる先導エレメント管20,20は、アーチ型の隔壁22の脚部となる両側の下端部に配設する。この先導エレメント管20,20の内部からは、隔壁22の支持力を確保するための支持杭23,・・・を打設することができる。
【0110】
そして、両側の下端部に配設された先導エレメント管20,20から、アーチ型に形成される隔壁26の頂点に向けてエレメント管21,・・・を連結していく。
【0111】
このエレメント管21,・・・の連結は、溝部21aと一対の係合ブラケット21b,21bを係合させることによって行なわれる。この連結工程を繰り返してアーチ型にエレメント管20,21,22,・・・が閉合された後に、エレメント管20,21,22,・・・を横断するように鋼材(図示省略)を配置し、コンクリートを内部に充填することで隔壁26を一体化させる。
【0112】
この隔壁26で覆われた地中1には、トンネル9Aに併設されるようにもう一本のトンネル9Bを構築する。そして、併設されたトンネル9A,9Bの一方又は両方のトンネル周壁を撤去して、隔壁26の内側を掘削して掘削部24を形成する。
【0113】
このように、アーチ型の隔壁26が山留め部材となるため、その下部を掘削して掘削部24を形成することが容易にできる。さらに、掘削部24に面したトンネル周壁を撤去することで、図8に一点鎖線で示したようなトンネル9A,9Bの合流・分岐空間11を形成することができる。
【0114】
このようにトンネル9A,9Bの上半部を覆うようにアーチ型の隔壁26を設けることで、断面視円形の隔壁10を形成する場合に比べて配置するエレメント管21,・・・の数を減らすことができ、経済的にトンネル9A,9Bの拡大部を構築することができる。
【0115】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0116】
以下、前記した実施の形態の実施例3について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0117】
前記実施の形態では、図1に示したように、上底が下底より長くなる向きに配設された先導エレメント管5の両側に、同様に上底が下底より長くなる向きに合わせたエレメント管6,・・・を連結していくことで、曲折部を有する隔壁10を形成したが、実施例3では平面状の隔壁27を形成する方法について説明する。
【0118】
この実施例3では、図9に示すように、最初に設置する先導エレメント管5は、上底が下底より長くなる向きに合わせて配設される。そして、この両側に連結させるエレメント管6A,6Aは、上底が下底より短くなる向きに合わせて配設される。
【0119】
このように傾斜面が同じ角度に形成されたエレメント管5,6Aを、傾斜面の傾きが打ち消されるように向きを反転させて配設させることで、先導エレメント管5の上底及び下底と、エレメント管6A,6Aの上底及び下底は平行になる。
【0120】
さらに、エレメント管6A,6Aの隣には、上底が下底より長くなる向きに合わせたエレメント管6B,6Bが連結される。このようにエレメント管6A,6B,・・・の向きを反転させながら順に連結していくことで、平面状の隔壁27を構築することができる。
【0121】
さらに、この実施例3のように、上底及び下底と直交する中心線に対して線対称となる略台形断面のエレメント管6A,6B,・・・を使用することで、曲折部のみならず平面部を有する隔壁27も容易に構築することができる。
【0122】
また、隔壁の全体形状が円筒形、楕円形、馬蹄形、平板形等のように様々な形状であっても、同一形状のエレメント管6を使用して構築することができるので、製造コストを削減できる。また、同一形状であれば、配置場所が限定されることもなく、効率よく施工することができる。
【0123】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例4】
【0124】
以下、前記した実施の形態の実施例4について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0125】
前記実施の形態では、止水部形成材として地盤改良材15を使用したが、実施例4では凍結工法で使用する不凍液等の冷媒を止水部形成材として使用する。
【0126】
この冷媒には、地中1に直接、注入するものと、注入管内を循環させて間接的に地中1を冷却するものがあるが、直接注入する場合は前記実施の形態と同じ構成によって実施することができるので、注入管内を循環させるものを使用する構成についてここでは説明する。
【0127】
この実施例4では、外殻6b及び係合ブラケット6cに貫通部13A,13Bを設ける必要は無いが、後から挿入する注入管が外殻6bや係合ブラケット6cの内側面と接触する面積が大きくなるように構成する方が冷却効率を向上させることができる。
【0128】
中空部の内部には、例えば先端をU字型に折り返した注入管を挿入し、発進基地7に設置した冷凍機で冷却した冷媒を注入管内部で循環させる。こうすることによって、低温部が注入管、外殻6b又は係合ブラケット6c、地中1の順に広がり、溝部6aに近接する地中1が凍結して止水部が形成される。
【0129】
凍結工法によって形成される止水部の止水性能は非常に高いので、エレメント管6,6同士の連結部の止水を確実におこなうことができる。
【0130】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例5】
【0131】
以下、前記した実施の形態の実施例5について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0132】
前記実施の形態では、図1に示したように、上底及び下底が平面に形成された先導エレメント管5を使用して説明したが、本発明の略台形断面には、上底及び下底が曲面に形成されたものも含まれる。
【0133】
図10(a)は、上底が曲面外殻30fで形成されたエレメント管30を連結して構築された隔壁28の断面図である。
【0134】
このように略台形断面の側面となる傾斜面が平面に形成されていれば、上底又は下底は曲面で形成されていてもよい。曲面外殻30fを使用することによって、アーチ効果を期待することができるようになり、安全に掘削孔を形成することができる。さらに、曲面外殻30fに作用する土圧及び水圧に対しても、高い耐荷性を示すことができる。
【0135】
また、エレメント管30の両側面は平面に形成されているため、エレメント管30,30同士を連結させても重複する部分がほとんどない上に、側面の高さを隔壁28の有効厚とすることができるので、従来の円形のエレメント管2を使用する場合に比べて、経済的に隔壁28を構築することができる。
【0136】
また、図10(b)に示すように、上底及び下底が曲面外殻31f,31fで形成されたエレメント管31の場合も、前記エレメント管30と同様の効果を得ることができる。
【0137】
さらに、連結後のエレメント管31,・・・は、前記実施の形態及び実施例と同様に、内部を一体化した隔壁29とすることができる。図10(b)に示すように、エレメント管31,・・・を連結して止水部37,・・・を形成した後に、エレメント管31が連結された側の遮蔽板31dと外殻31bの一部を切断して開口部を形成し、エレメント管31,・・・内部を連結方向に連通させる。
【0138】
そして、連結方向に横断する応力部材としての連結鉄筋34,・・・を配置して補強材31e,31eに端部を固定する。また、補強材31e,31eの上下方向には、せん断補強筋又は配力筋として補強鉄筋35,・・・を配置する。
【0139】
このように補強した後に、セメント系固化材としてのコンクリート36を、ポンプなどでエレメント管31,・・・の内部に充填して、隔壁29を一体化させる。
【0140】
このように隔壁29の内部の補強材31e,・・・を、連結鉄筋34,・・・によって連結方向に力学的に連続させ、連通した内部にコンクリート36を充填することで、隔壁29を強固な一体構造とすることができる。
【0141】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【実施例6】
【0142】
以下、前記した実施の形態の実施例6について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0143】
実施例6では、図11に示したように、エレメント管33,33同士の連結手段として、ガイド溝部33aと突起部33cを使用する場合について説明する。
【0144】
このエレメント管33は、筒体を形成する略台形断面の外殻33bによって、上底、下底及び側面の大部分が形成される。さらに、この側面を、上底及び下底に斜めに交わる第一傾斜面及び第二傾斜面とし、この第一傾斜面と第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成される。
【0145】
そして、この第一傾斜面には、一対の凹型断面のガイド溝部33a,33aが長手方向に連続して延設される。
【0146】
また、筒体の第二傾斜面には、一対の突起部33c,33cが形成される。この一対の突起部33c,33cは、ガイド溝部33a,33aにそれぞれ挿入させる部材である。このため、この突起部33c,33cは、ガイド溝部33aの内空よりも少し小さめに形成する。
【0147】
すなわち、ガイド溝部33a,33aに、隣接して配置されるエレメント管33の突起部33c,33cを挿入した際に、隙間が小さければ挿入抵抗は大きくなり、隙間が大きければ連結が弱くなるため、適度な隙間が形成されるように両者の大きさを決定する。
【0148】
以上に述べたような実施例6のエレメント管33の構成によれば、隣接するエレメント管33,33の傾斜面と傾斜面を合わせるだけで容易に隔壁32の曲折部を形成することができる上に、隣接するエレメント管33,33の間にほとんど隙間を発生させることがない。
【0149】
また、エレメント管33は略台形断面をしているため、地中1を掘削して配置されたエレメント管33の大部分が隔壁32の構造計算上の構造体を形成することになり、構造的に無駄となる部分がほとんどない。
【0150】
さらに、ガイド溝部33a,33aに突起部33c,33cを挿入することでエレメント管33を配置できるので、後から配置するエレメント管33をローリングさせることなく、先行して配置されたエレメント管33に近接した正確な位置に配置させることができる。
【0151】
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態又は実施例と略同様であるので説明を省略する。
【0152】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0153】
例えば、前記実施の形態又は実施例では、エレメント管を連結して形成される全体形状の断面が、円形、扇形、半円形又は直線形の隔壁10,25,26,27について説明したが、この形状に限定されるものではなく、例えば断面が楕円形、馬蹄形、四角形などの隔壁であってもよい。
【0154】
また、隔壁のすべてが前記エレメント管で形成されていなくともよく、例えば施工誤差を吸収できるような接続管(図示せず)を使用することもできる。この接続管は、例えば一側面で隣接するエレメント管6の溝部6aよりも充分に間隔の狭い係合ブラケットと、他側面で隣接するエレメント管6の係合ブラケット6c,6cの間隔よりも充分に間隔の広い溝部を備えた形状に形成される。
【0155】
このように前記接続管の継手部を、隣接するエレメント管6の継手部と合わせやすい形状にすることで、多少の施工誤差があっても、隔壁を閉合断面とすることが容易にできる。ここで、前記接続管とエレメント管の間は、他の連結部よりも隙間が大きくなるため、充分な大きさの止水部を形成しておく。
【0156】
さらに、前記実施の形態又は実施例では、トンネル9A,9Bの周囲に隔壁を設けた例について説明したが、これに限定されるものではなく、トンネル9A,9Bを設けなくとも、本数を変更してもよい。また、トンネル9A,9Bを設ける際も、その構築する順序は任意に設定することができる。
【0157】
また、外殻6bと遮蔽板6d、又は係合ブラケット6cによって形成される内空間が広い場合は、その内空間を仕切り板で間仕切りしたり、貫通孔13A,13Bに沿って管状のガイド部材を延設したりして、止水部形成材を注入するための中空部とすることもできる。
【0158】
さらに、貫通孔13A,13Bの位置は、図5に示した位置に限定されるものではなく、例えば隣接するエレメント管6の外殻と対面する側に貫通孔13Aを設けて、エレメント管6,6の隙間に地盤改良材15を注入するように構成することもできる。
【0159】
また、前記実施の形態又は実施例では、止水部形成材を注入する中空部を隣接するエレメント管6と対面するエレメント管6の側面に設けたが、これに限定されるものではなく、エレメント管6の上面及び下面に外殻6bから地山側に突起するように設けることもできる。
【0160】
さらに、止水部を形成する工程は、エレメント管6を配置した直後に連続しておこなわなくとも、任意の数のエレメント管6,・・・を配置した後にまとめておこなうこともできる。
【0161】
そして、先行して配置されたエレメント管5,6,・・・の溝部5a,6a,・・・と掘進機によって掘削された掘削面との間の略矩形の隙間には、掘削面の崩壊や地山の緩みを防止するために、係合ブラケット6c,6cの推進が可能な強度の充填材を充填しておくこともできる。
【0162】
さらに、先行して配置されたエレメント管6の一対の係合ブラケット6c,6cに、後から配置するエレメント管6の溝部6aを係合させることによって連結させることもできる。
【0163】
また、溝部6aの断面形状は、矩形でなくとも、台形又は逆向きの台形であってもよい。この場合は、対峙する係合ブラケット6c,6cの形状も、溝部6aの形状に合わせて形成される。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明の最良の実施の形態のエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の最良の実施の形態によって構築されたトンネル拡大部の斜視図である。
【図3】トンネル拡大部の構築方法の作業手順を説明する断面図である。
【図4】図2のA−A線でのトンネル拡大部を説明する断面図である。
【図5】地盤改良材が注入される状態を説明した一部拡大断面図である。
【図6】実施例1のトンネル拡大部の構成を説明する断面図である。
【図7】実施例1の隔壁を上下に配置したトンネル拡大部の構成を説明する断面図である。
【図8】実施例2のトンネル拡大部の構成を説明する断面図である。
【図9】実施例3のエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。
【図10】(a)実施例5の上底が曲面外殻で形成されたエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。(b)実施例5の上底及び下底が曲面外殻で形成されたエレメント管の内部を連通させて一体化した構成を説明する断面図である。
【図11】実施例6のガイド溝部と突起部を設けたエレメント管を複数連結させた構成を説明する断面図である。
【図12】従来例の円形のエレメント管を連結して構築された隔壁の断面図である。
【符号の説明】
【0165】
1 地中
6 エレメント管
6a 溝部
6b 外殻
6c 係合ブラケット
7 発進基地
8 到達基地
9A,9B トンネル
10 隔壁
15 地盤改良材(止水部形成材)
17,21 エレメント管
25〜29 隔壁
30,31 エレメント管
33 エレメント管
33a ガイド溝部
33b 外殻
33c 突起部
34 連結鉄筋(応力部材)
36 コンクリート(セメント系固化材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、
前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面の溝部が形成され、第二傾斜面に前記溝部の幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケットが外側に突出して形成されたことを特徴とするエレメント管。
【請求項2】
前記第一傾斜面と前記第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のエレメント管。
【請求項3】
前記筒体を形成する外殻と前記溝部に挟まれた内空間又は前記係合ブラケットにより形成される内空間の少なくとも一方に、止水部形成材を注入するための中空部が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のエレメント管。
【請求項4】
地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、
前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面のガイド溝部が形成され、第二傾斜面に前記ガイド溝部に挿入可能な形状の突起部が外側に突出して形成されたことを特徴とするエレメント管。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエレメント管を地中で複数連結し、そのエレメント管の内部を連結方向に連通させて応力部材を配置すると共に、エレメント管の内部にセメント系固化材を充填して一体化したことを特徴とする隔壁。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエレメント管を地中に複数配置して形成する隔壁の構築方法であって、
トンネルを掘削し、該トンネルの内側から周囲を掘り広げてトンネル軸に直交する方向に広がる発進基地を構築し、該発進基地から前記トンネルに沿って所定の長さ離れた位置に前記発進基地と同様にして到達基地を構築し、前記発進基地から前記到達基地に向けて地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら該掘削孔に配置し、さらに他の前記エレメント管を配置済みの前記エレメント管の隣に、前記溝部と前記係合ブラケットを係合させながら配置する工程を繰り返すことによって、前記トンネルの周りに複数の前記エレメント管を連結した隔壁を構築し、前記発進基地と前記到達基地の間の前記トンネルと前記隔壁の間の地中を掘削することを特徴とする隔壁の構築方法。
【請求項1】
地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、
前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面の溝部が形成され、第二傾斜面に前記溝部の幅に略等しい間隔で一対の係合ブラケットが外側に突出して形成されたことを特徴とするエレメント管。
【請求項2】
前記第一傾斜面と前記第二傾斜面は、その間の中心線に対して線対称に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のエレメント管。
【請求項3】
前記筒体を形成する外殻と前記溝部に挟まれた内空間又は前記係合ブラケットにより形成される内空間の少なくとも一方に、止水部形成材を注入するための中空部が形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のエレメント管。
【請求項4】
地中に隔壁を形成する際に、該隔壁位置に沿った掘進機による掘削孔毎に配置され、隣接するもの同士を互いに連結して前記隔壁を形成する筒体のエレメント管であって、
前記筒体は、第一傾斜面と第二傾斜面を対辺に備えた略台形断面に形成され、第一傾斜面に外側に開放する凹型断面のガイド溝部が形成され、第二傾斜面に前記ガイド溝部に挿入可能な形状の突起部が外側に突出して形成されたことを特徴とするエレメント管。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のエレメント管を地中で複数連結し、そのエレメント管の内部を連結方向に連通させて応力部材を配置すると共に、エレメント管の内部にセメント系固化材を充填して一体化したことを特徴とする隔壁。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のエレメント管を地中に複数配置して形成する隔壁の構築方法であって、
トンネルを掘削し、該トンネルの内側から周囲を掘り広げてトンネル軸に直交する方向に広がる発進基地を構築し、該発進基地から前記トンネルに沿って所定の長さ離れた位置に前記発進基地と同様にして到達基地を構築し、前記発進基地から前記到達基地に向けて地中を掘進機によって掘削し、前記エレメント管をその掘削孔に配置し、先行して配置した前記エレメント管の溝部に沿って掘進機を再び掘進させて、該先行エレメント管に隣接する掘削孔を形成し、前記溝部に他の前記エレメント管の前記係合ブラケットを係合させながら該掘削孔に配置し、さらに他の前記エレメント管を配置済みの前記エレメント管の隣に、前記溝部と前記係合ブラケットを係合させながら配置する工程を繰り返すことによって、前記トンネルの周りに複数の前記エレメント管を連結した隔壁を構築し、前記発進基地と前記到達基地の間の前記トンネルと前記隔壁の間の地中を掘削することを特徴とする隔壁の構築方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−112065(P2006−112065A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298396(P2004−298396)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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