エンジンのオイルジェット構造
【課題】エンジンのシリンダブロックの鋳造性を損なうことなく、その強度、剛性を十分に確保できるオイルジェットの構造を提供する。
【解決手段】エンジンEのシリンダC内で往復動するピストンPの背面に向けてオイルジェットを噴射するノズル91と、エンジンEのシリンダブロック1の壁部10に形成され、ノズル91に連通された壁内通路(一例として連通路11)と、この壁内通路に連通されるオイル通路80aを有し、前記壁部10に外側から締結された通路形成部材(一例としてオイル分配管8)と、を備える。
【解決手段】エンジンEのシリンダC内で往復動するピストンPの背面に向けてオイルジェットを噴射するノズル91と、エンジンEのシリンダブロック1の壁部10に形成され、ノズル91に連通された壁内通路(一例として連通路11)と、この壁内通路に連通されるオイル通路80aを有し、前記壁部10に外側から締結された通路形成部材(一例としてオイル分配管8)と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動二輪車のような乗り物に搭載されるエンジンのピストンを冷却するためのオイルジェットの構造に関連し、特にオイルジェットのノズルに連通するオイル通路の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より高出力のレシプロエンジンにおいては、シリンダ内を往復動するピストンの背面に向けてオイルジェットを噴射し、高温の燃焼ガスに曝されるピストンの頂部を効果的に冷却することが行われている。例えば特許文献1に記載のエンジンでは、シリンダブロックの壁部に設けられたオイルギャラリに連通させて、各シリンダ毎にジェットパイプ(ノズル)を取付け、このジェットパイプから上方のピストンに向けてオイルを噴射するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−6015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来例のように、シリンダブロックの壁部内にオイルジェットのためのオイル通路を形成する場合、その分、壁部を厚く形成しなくてはならないが、このことは鋳造性を考慮すると好ましいことではない。すなわち、オイル通路の寸法を考慮してシリンダブロックの壁部を全体的に厚くすると、そのことに起因して鋳造不良が発生するおそれがある。しかし、オイル通路の周辺だけ壁部を厚くしようとすると、局所的にブロックの強度、剛性が低下して、振動や騒音の問題を生じることが懸念される。
【0005】
かかる点に鑑みて本発明の目的は、シリンダブロックの鋳造性を損なうことなく、その強度、剛性を十分に確保でき、振動や騒音の問題を生じることがないオイルジェットの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成すべく本発明に係るエンジンのオイルジェット構造は、シリンダ内で往復動するピストンの背面に向けてオイルジェットを噴射するノズルと、シリンダブロックの壁部に形成され、前記ノズルに連通された壁内通路と、この壁内通路に連通されるオイル通路を有し、前記シリンダブロックとは別体とされ、前記壁部に外側から固定された通路形成部材と、を備えることを特徴とする。
【0007】
前記の構成では、エンジンのシリンダブロックの壁部に外付けする通路形成部材にオイル通路を形成したので、シリンダブロックの壁部内に形成するのに比べて寸法やレイアウトの自由度が高くなり、エンジンの仕様等に対応してオイル通路の大きさを自由にに設定することができる。
【0008】
しかも、通路形成部材によってシリンダブロックの壁部の剛性を高める効果が期待でき、その分は壁部の肉厚を薄くすることもできるから、鋳造時に鋳巣ができ難くなって鋳造性が向上する。また、オイル通路をシリンダブロックの壁部内に形成するのに比べて放熱性が高くなり、オイルジェットの温度が低くなってピストンの冷却に有利になる。
【0009】
ここで、エンジンが複数のシリンダを備えている場合には、その各シリンダ毎に前記ノズルおよび壁内通路を設けるとともに、前記通路形成部材の内部のオイル通路は、複数のシリンダの並ぶ方向に延びるように配設し、当該オイル通路から各シリンダ毎に分岐する分岐路を前記各シリンダ毎の壁内通路に連通させる構成としてもよい。こうすれば、前記通路形成部材が、複数のシリンダの並ぶ方向に延びるようにしてシリンダブロックの壁部に固定されるので、この壁部の剛性を効果的に高めることができる。
【0010】
その場合に、前記通路形成部材は、前記シリンダ内でピストンの往復動する方向について当該往復動の範囲に含まれるように、前記シリンダブロックの壁部に固定してもよい。こうすれば、複数のシリンダを取り囲むようにシリンダブロックの壁部を湾曲させて、その厚みを極力、薄くても剛性を確保することが可能になる。
【0011】
前記通路形成部材は、前記エンジンの車両への搭載時に走行方向前方を向く壁部に締結し、走行風によって冷却されるようにしてもよい。こうすれば、通路形成部材の内部のオイル通路を流れるオイルの放熱を促進することができ、ピストンの冷却に有利になる。
【0012】
また、前記のように複数のシリンダを有するエンジンにおいては、それら複数のシリンダの並ぶ方向の両端のシリンダにそれぞれ対応する壁内通路を、対応するシリンダの中心線に対して、前記シリンダの並ぶ方向について内寄りにずらして形成してもよい。
【0013】
こうすれば、シリンダの並ぶ方向の両端の壁内通路同士の距離が短くなるので、その分、通路形成部材の長さを短くできる。このことは通路形成部材の剛性を高めて分岐路と壁内通路との間のシール性を確保する上で有利であり、また、通路形成部材が短くなれば、それを設置するスペースが小さくて済むというメリットもある。
【0014】
さらに、前記エンジンのオイル供給系統が、オイルポンプから圧送されるオイルを冷却するためのオイルクーラを備えている場合には、当該オイルクーラよりも上流側から分岐させたオイルの流れを、前記通路形成部材の内部のオイル通路に供給するように構成してもよい。
【0015】
こうすれば、オイルクーラの圧損の影響を受けず、できるだけ高圧のオイルを通路形成部材の内部のオイル通路に供給することができ、オイルジェットの噴射圧力を高くして、ピストンの冷却効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように本発明に係るエンジンのオイルジェット構造では、オイルジェットのノズルにオイルを供給する通路をエンジンのシリンダブロックとは別体の部材に形成し、この部材をシリンダブロックの壁部に締結する構造としたから、シリンダブロックの鋳造性を損なうことなく、その強度、剛性を確保でき、振動や騒音の問題を生じることが防がれる。しかも、オイル通路をシリンダブロックの壁部内に形成するのに比べて放熱性が高くなり、オイルジェットによるピストンの冷却に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンジンの本体の外観を示す斜視図である。
【図2】同エンジンの前方から見た正面図である。
【図3】同エンジンのシリンダブロックにオイル分配管を取付けた状態で、前方斜め右上から見た斜視図である。
【図4】オイル供給系統の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図5】オイルフィルタやオイルクーラの周辺のオイル通路の構造を示すクランクケース等の断面図である。
【図6A】オイル分配管を上方から見た平面図である。
【図6B】オイル分配管を前方から見て一部を断面で示す説明図である。
【図7】シリンダブロックを前方から見て連通路等の配置を示す図である。
【図8】オイル分配管から連通路を介してオイルジェットのノズルにオイルを供給する構造を示すシリンダブロックの断面図である。
【図9】一部分を断面として、シリンダ毎のオイルジェットの構造を示す斜視図である。
【図10】ノズル構成部材を単独で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るエンジンEについて、図面を参照して説明する。この実施形態のエンジンEは、一例として自動二輪車(図示省略)に搭載されるものであり、以下の説明で用いる前後左右の方向の概念は、このエンジンEを搭載した自動二輪車に騎乗するライダー(乗員)の見る方向を基準とする。
【0019】
−エンジンの全体構成−
図1は、エンジンEを右側の前方斜め上方から見てその外観を示す斜視面であり、図2は、エンジンEを前方から見たものである。これらの図では排気マニホルドや冷却水のホースの一部を取り外して、主にエンジン本体を示している。一例としてエンジンEは、4つのシリンダC(図3を参照)が左右方向に一列に並んだ並列4気筒ガソリンエンジンであり、それらのシリンダCが形成されたシリンダブロック1の上部にシリンダヘッド2が組み付けられて、シリンダCの上端を閉ざしている。
【0020】
車載状態ではエンジンEのシリンダブロック1およびシリンダヘッド2はやや前傾していて、シリンダヘッド2の後壁には、ここに開口するシリンダC毎の吸気ポート(図示せず)にそれぞれ連通するようにして、4連のスロットルボディ20が配設されている。そして、図外のスロットルグリップの操作に応じて機械的にメインスロットルバルブ(図示せず)が回動されるとともに、電動モータ21によりサブスロットルバルブ(図示せず)が回動されて、シリンダCへの混合気の充填量を調整する。
【0021】
一方、図2に示すようにシリンダヘッド2の前面には4つのシリンダCのそれぞれに連通する排気ポート22が前方に向かって開口している。これら4つの排気ポート22は、左右方向に並んで略等間隔に開口していて、図示しない排気マニホルドが取付けられると、4つの排気管の上端部にそれぞれ接続されるようになっている。排気マニホルドの4つの排気管はそれぞれエンジンEの前方において下方に延びた後に、後方へ湾曲してエンジンEの下方において集合し、触媒や排気マフラ等に接続される。
【0022】
また、シリンダヘッド2には、公知の如く吸気ポートおよび排気ポート22を各シリンダCに対して開放または閉鎖する吸気バルブおよび排気バルブが配設されており、これらのバルブを開閉させる動弁機構23(図4を参照)は一例として吸気側および排気側に個別のカムシャフトを備えたDOHCタイプのものである。この動弁機構23は主にシリンダヘッド2の上部に配設され、その上方をヘッドカバー24が覆っている。なお、図1、2に示すようにヘッドカバー24を貫通して、各シリンダC毎に点火装置25が配設されている。
【0023】
図3に示すようにシリンダブロック1は、一例としてアルミ合金の低圧鋳造品であり、4つのシリンダCを取り囲んで左右方向に延びる直方体状とされ、その右端には動弁機構23のカムチェーンを収容するチェーントンネル1aが形成されている。また、シリンダブロック1の下部にはクランクケースの上側部分4a(以下、上側クランクケース部4aという)が一体に形成されており、この上側クランクケース部4aに別体の下側クランクケース部材4b(図1、2を参照)が組み付けられて、クランクケース4を構成する。
【0024】
さらに、前記上側クランクケース部4aおよび下側クランクケース部材4bの後部には、それぞれ一体にミッションケース5の上側部分5a(以下、上側ミッションケース部5aという)および下側部分5b(図5を参照)が形成され、両者が組み付けられてミッションケース5を構成する。ミッションケース5には、図示しないが入力シャフトおよび出力シャフトを備え、両シャフトの間で複数のギヤの噛み合いを切換えることによって変速する機械式のトランスミッション41(図4を参照)が収容される。
【0025】
図1において左手前側に示すように、ミッションケース5の右端にはクラッチカバー50が設けられ、エンジンEからトランスミッション41への駆動力を伝達/遮断するメインクラッチを覆っている。その前方に近接してチェーンカバー51が設けられ、前記チェーントンネル1aの下部の右側の開口を閉ざしている。また、クランクケース4の前面には、二軸バランサの一方を収容する前側バランサ室4cが膨出して形成されている。
【0026】
さらに、図3にのみ示すが、シリンダブロック1の後面から上側クランクケース部4aおよび上側ミッションケース部5aに亘って、ブローバイガスからオイルを分離させるためのブリーザ室4dと、二軸バランサの他方を収容する後側バランサ室4eとが一体に形成され、図には示さない共通の蓋部材によって上部の開口を覆われるようになっている。なお、図1〜3に示すようにシリンダブロック1の前壁10には別体のオイル分配管8(通路形成部材)が取付けられるが、これについては後述する。
【0027】
図1、2に戻って、クランクケース4の下部には潤滑用のオイルを溜めるオイルパン6が配設されている。オイルパン6は、その前半部の左寄りに深底部6aが形成され、それ以外の部分は底の浅い皿状に形成されている。そして、オイルパン6の深底部6aの前部から前方に向かって突出するように、オイルを浄化するための円筒状のオイルフィルタ61が配設されている。また、オイルフィルタ61の上方にはクランクケース4の前部から前方に向かって突出するように、オイルを冷却するための円筒状のオイルクーラ62が配設されている。
【0028】
−オイル供給系統−
本実施形態のエンジンEは、一例としてトランスミッションの入力シャフトに設けられたポンプ駆動ギヤによってオイルポンプ63(図4、5を参照)を駆動し、このオイルポンプ63によってオイルパン6から汲み上げたオイルをクランクシャフト40や動弁機構23など、エンジンEの種々の潤滑部へ分配して供給するためのオイル供給系統60を備えている。図4は、エンジンEのオイル供給系統60の全体的な構成を模式的に示し、図5は、オイルフィルタ61やオイルクーラ62の周辺のオイル通路を示す。
【0029】
図4および図5に示すように、オイルパン6からオイルポンプ63の吸込口へ向かう第1オイル通路64には一次オイルフィルタ59が介設されている。また、オイルポンプ63の吐出口から前記オイルフィルタ61(二次オイルフィルタ)の入口へは第2オイル通路65が延設され、このオイルフィルタ61の出口からは前記オイルクーラ62の介設された第3オイル通路66が延設されている。なお、図5において第2オイル通路65の屈曲部65aよりも下流側の部分と、第3オイル通路66の屈曲部66aよりも上流側の部分とは、それぞれ図に表われていない通路によってオイルフィルタ61に連通している。
【0030】
図4に模式的に示すようにオイルクーラ62は、第3オイル通路66に連通された蛇行オイル通路62aと、この蛇行オイル通路62aを形成するパイプを囲繞するハウジング62bと、このハウジング62b内に冷却水を導入する導入口62cと、ハウジング62b内の冷却水を排水する排水口62dとを備え、ハウジング62b内を循環する冷却水により蛇行オイル通路62aを通過するオイルが冷却される構成となっている。
【0031】
すなわち、図1、2に表われているようにオイルクーラ62のハウジング62bは円筒状であり、その上部から上方に延びる冷却水の導入口62cには、冷却水のホース52の下端が接続されている。このホース52の上端は、シリンダブロック1の前面における左上の隅に設けられたキャップ53の分水口53a(図1にのみ破線で示す)に接続されている。キャップ53は、シリンダブロック1内のウォータジャケットw(図8を参照)への冷却水の取入口1b(図3を参照)を覆っていて、斜め下向きに突出するように冷却水の導入口53bが設けられている。
【0032】
この導入口53bには冷却水のホース54の上端が接続されており、このホース54の下端は、ウォータポンプ55(図2にのみ示す)の吐出口に接続されている。ウォータポンプ55は、図示しない上流側のホースを介して図外のラジエータから吸入した冷却水を吐出し、この冷却水がホース54内を流通してキャップ53に覆われた取入口1bからシリンダブロック1内のウォータジャケットwに流入する。
【0033】
また、冷却水の一部はキャップ53において分水口53aに分流し、ホース52内を流下して導入口62cからオイルクーラ62のハウジング62b内に導入される。そして、ハウジング62b内を循環し、前記のように蛇行オイル通路62aのオイルを冷却した冷却水が排水口62dから排水される。この排水口62dに接続されたホース56は、図1に示すように右側斜め上向きに延びてから折れ曲がって略水平に右側に延び、その後、上向きに湾曲してエンジン本体の右側縁の付近を上方かつ前方に延び、図外のラジエータに接続される。
【0034】
このように、シリンダブロック1内のウォータジャケットwに供給される手前で冷却水の一部をオイルクーラ62に導くことで、オイルを効果的に冷却することができる。但し、前記の蛇行オイル通路62aにおける圧力損失が大きいため、オイルクーラ62の手前の第3オイル通路66を流れるオイルの圧力が一例として500kPaくらいとすると、オイルクーラ62の通過後の圧力は400kPaくらいに低下する。
【0035】
そうして油圧の低下したオイルクーラ62よりも下流側の第3オイル通路66は、シリンダブロック1内に形成された太径のメイン通路60Aに連通している。そして、エンジンEの運転に伴いオイルポンプ63が駆動されると、オイルパン6内のオイルは第1オイル通路64を通じてオイルポンプ63へ汲み上げられ、第2オイル通路65を通じてオイルフィルタ61へ送られる。このオイルフィルタ61において浄化されたオイルはオイルクーラ62に送られ、前記のように冷却された後に第3オイル通路66を通じてメイン通路60Aへ送られる。
【0036】
図5に示すようにメイン通路60Aは、クランクケース4の下部をその長手方向(図の紙面に直交する方向)に延びている。そして、図4に示すようにメイン通路60Aからは複数のオイル通路が分岐して、エンジンEの種々の潤滑部へオイルを供給するとともに、トランスミッション41へもオイルを供給するようになっている。まず、メイン通路60Aの途中の所定箇所から分岐する第4オイル通路67a〜67cが、クランクケース4の壁部内を通って例えばクランクシャフト40のジャーナル部へオイルを供給する。
【0037】
また、クランクシャフト40の内部には、両端の第4オイル通路67a,67cに連通する第5オイル通路(図示省略)が形成され、第4オイル通路67a,67cからのオイルの一部をクランクシャフト40とコンロッド大端部との摺動部位に供給する。さらに、メイン通路60Aからは、クランクケース4の壁部内を通ってジェネレータ42に向かうように、第6オイル通路68が延設されており、これによりジェネレータ42へオイルを供給する。
【0038】
また、メイン通路60Aからは、クランクケース4の壁部内を通って第7オイル通路69が延設されている。この第7オイル通路69は、クランクケース4の壁部内を上方へ延び、シリンダブロック1およびシリンダヘッド2の各壁部内を通って該シリンダヘッド2の上部まで延設されている。第7オイル通路69を通って送られるオイルは動弁機構23へ供給されて、カムシャフトなどを潤滑する。また、第7オイル通路69の途中から分岐する分岐路69aは、カムチェーンの油圧式テンショナ43にオイルを供給する。
【0039】
−オイルジェットの構造−
さらに、本実施形態においては、オイルフィルタ61とオイルクーラ62との間の第3オイル通路66から(即ちオイルクーラ62よりも上流側から)第8オイル通路70が分岐して、4つのシリンダCのそれぞれに対応して配設されたオイルジェットの噴射ノズル91にオイルを供給するようになっている。この第8オイル通路70は、図1および図2に示すように、エンジンEのクランクケース4からシリンダブロック1にかけてそれらの前面に沿うように外付けされたオイル導管7と、これに連なるオイル分配管8とによって構成されている。
【0040】
オイル導管7の経路は、オイルパン6の深底部6aの前面におけるオイルフィルタ61の上方部位から出発して、その上方のオイルクーラ62の右側に回り込むように上向きに延び、当該オイルクーラ62の上端高さ付近で右側に折れ曲がる。そして、オイルクーラ62から排水された冷却水をラジエータに送るホース56に近接しかつ並行して右側に延びた後に、クランクケース5の右側縁で上向きに折れ曲がって上方に延び、シリンダブロック1の上下方向の略中央で左側に折れ曲がって、オイル分配管8に接続されている。
【0041】
前記オイル導管7は主に鋼管などの金属パイプ71によって構成されているが、クランクケース5の右側縁で上向きに折れ曲がって延びる部位には、弾性パイプ72(例えば、ゴムホースにポリエステル系樹脂が積層された耐圧ゴムパイプ等)が結合部材73,74を介して連結されており、これにより寸法誤差や取付け誤差を吸収して、金属パイプ71にかかる応力を低減できる。ここで、下側の結合部材73は一例としてゴム製のチューブであり、クランプ材75によって把持されている。このクランプ材75には、冷却水のホース56を支持するための係合部(図示せず)が一体に設けられている。つまり、互いに近接するオイル導管7およびホース56がクランプ材75によってクランクケース4に支持されている。
【0042】
図5に示すように、オイル導管7の上流端となる金属パイプ71の一端部71aは、ジョイント76によってオイルパン6の深底部6aの前面にボルト留めされている。この深底部6aの前壁には、オイルフィルタ61とオイルクーラ62との間の第3オイル通路66の途中から分岐して前方に延びる分岐路66bが形成され、この分岐路66bの前端が前記金属パイプ71の一端部71a、即ちオイル導管7の上流端に連通している。つまり、オイル導管7の上流端には、オイルクーラ62よりも上流側で第3オイル通路66から分岐したオイルの流れが導入される。
【0043】
一方、図1、2に示すようにオイル導管7の下流端においては、左側に折れ曲がった金属パイプ71の上端部71bがジョイント77によって、オイル分配管8の右端部にボルト留めされている。オイル分配管8はシリンダブロック1の前壁10に締結されて左右方向に直線状に延びており、その前方には図示しない排気マニホルドの4本の排気管が位置している。換言すれば、オイル導管7およびオイル分配管8は、エンジンEの自動二輪車への搭載時に前方を向く壁部に締結されており、その前方の排気管の間を通過した走行風によって、効果的に冷却される。
【0044】
なお、本実施形態では、前記したように左右に延びるオイル分配管8の右端にオイル導管7を接続し、オイル分配管8の左端は閉鎖しているので、図2に示すようにエンジンEの左側にルーティングされている冷却水のホース52,54,55とオイル導管7との干渉の心配がない。また、オイル分配管8の左右の中央にオイル導管7を接続する場合のように、該オイル分配管8の両端のみならず中央部にも開口を形成する必要がなく、また、オイル導管7が前側バランサ室4cと干渉する心配もない。
【0045】
さらに、本実施形態では、前記のようにオイル導管7およびオイル分配管8がクランクケース4からシリンダブロック1にかけてそれらの前面に配設されており、それらがシリンダブロック1およびクランクケース4の右側や左側に飛び出している箇所はない。よって、自動二輪車が大きく傾斜し、転倒したとしてもオイル導管7およびオイル分配管8が障害物に接触し難く、その損傷を防ぐ上で有利になる。
【0046】
次に図6〜9を参照して、オイル分配管8からオイルジェットの噴射ノズル91までの構造を詳しく説明する。図6Aはオイル分配管8を単独で上方から見て示し、図6Bは前方から見て一部を断面で示す。また、図7は、シリンダブロック1を前方から見て、オイル分配管8の締結される台座部12等を示す。図8は、オイル分配管8から連通路11を介して噴射ノズル91に至るオイルの供給路を示し、図9は、ピストンPに向かって噴射されるオイルジェットの様子を示す。
【0047】
図6A,6Bに示すようにオイル分配管8は金属製、一例としてアルミダイキャスト製であり、シリンダブロック1の前方に間隔を空けてその長手方向(左右方向)に直線的に延びるように配置された主管部80と、この主管部80からそれぞれ後方のシリンダブロック1に向けて垂直に突出するように一体成形された4つの枝管部81と、これら各枝管部81に沿って延びてボルト挿通孔82aの形成された4つの締結ボス部82と、を備えている。また、主管部80の長手方向に沿ってその周面には4つのフィン83が形成され、横断面が概略X字状をなしている。このフィン83によってオイル分配管8の剛性および放熱性が高くなっている。
【0048】
図6Bには左右方向の左側を断面で示すようにオイル分配管8の主管部80には、その長手方向に亘ってオイル通路80aが形成され、このオイル通路80aに連通する4つの分岐路81aが、それぞれ前記4つの枝管部81の内部に形成されている。オイル通路80aは型の抜き勾配に対応して両端側の拡径するテーパ状とされている。そして、主管部80の一端部(シリンダブロック1に取付けたときに右端に位置する端部)には、前記のようにオイル導管7の金属パイプ71の上端部71bが取り付けられるフランジ84が形成され、主管部80の他端部はプラグ85によって封止されている。
【0049】
一方、図6Aに示すように4つの枝管部81の先端部にはそれぞれ一段、小径の部分(以下、小形部81bという)が形成されて、シリンダブロック1の前壁10に開口する各シリンダC毎の連通路11(壁内通路)に嵌入されるようになっている。すなわち、図7に示すようにシリンダブロック1の前壁10には、各シリンダC毎に前方に突出する4つの台座部12が形成されていて、この台座部12の前面に前記の連通路11が開口している。台座部12の前面は、連通路11の開口を取り囲む大径の円とこれよりも小径の円とが繋がった瓢箪形であり、連通路11の開口の隣には、オイル分配管8の締結ボス部82を締結するボルト85(図1〜3を参照)が螺入されるボルト穴13が開口している。
【0050】
本実施形態ではシリンダブロック1の前壁部には、4つのシリンダCのそれぞれの外周に沿うように湾曲し、各シリンダCに対応して外方(前方)に膨出する4つの円弧状の部分が左右方向に連なって並んでいる。そして、このシリンダC毎に円弧状に外方に膨出する部分に前記台座部12が設けられている。なお、図7に表われているように各シリンダC毎の台座部12は、対応するシリンダCの中心線Xから左右方向にずれて形成されいるが、このことについては後述する。
【0051】
そして、図8に示すように台座部12の前面に開口する連通路11の開口に、前方からオイル分配管8の枝管部81の先端の小径部81bが嵌入されると、図8には示さないが、台座部12の前面のボルト穴13とオイル分配管8の締結ボス部82のボルト挿通孔82a(図6Bを参照)とが合致し、そこに挿入されるボルト85によって締結ボス部82が台座部12に締結される。なお、連通路11に嵌入された枝管部81の小径部81bにはその外周を巡る周溝81cが形成されて、Oリングが装着されている。
【0052】
こうしてオイル分配管8の枝管部81がシリンダブロック1の前壁10の連通路11に油密に嵌入されて、この連通路11が枝管部81内の分岐路81aを介して主管部80内のオイル通路80aに連通されている。連通路11は、シリンダCに向かって横向きに穿孔された横通路と、クランクケース4の内部に臨むシリンダブロック1の前壁10の下端から上向きに穿孔された縦通路とからなり、図示のようにクランクシャフト40の延びる方向に見ると、概略L字状をなしている。
【0053】
そして、図8の他に図9にも示すように、連通路11の下端にオイルジェットのノズル構成部材9が取付けられている。このノズル構成部材9は、図10に単独で示すように上下に扁平な環状部材90と、その外周から横向きに突出した後に湾曲して上方に延びる噴射ノズル91とからなり、環状部材90の中央の貫通穴90aに下方から挿入されるバンジョーボルト92が前記連通路11の下端に螺入されて、環状部材90をシリンダブロック1の前壁10の下端に締結している。
【0054】
なお、図10に示すようにノズル構成部材9の環状部材90は、貫通穴90aを取り囲む正円状の部分に連続して外周側への延出部90bが形成されて、上下方向に見ると卵形とされていて、その延出部90bの上面には位置決めのためのピン90cが配設されている。このピン90cは、図示は省略するが、シリンダブロック1の前壁10の下端面において連通路11の近傍に形成されている凹部に嵌め込まれる。このことで、以下に述べるように噴射ノズル91の向きを正確に設定することができる。
【0055】
図8に示すようにバンジョーボルト92は、いわゆる貫通穴付ボルトであって、外周に雄ねじが形成された軸部の軸心に沿って延びる中心孔92aが、軸部の先端面にて開口する一方、その軸部の基端側には半径方向に軸部を貫いて前記中心孔92aに連通された連通孔92bが形成されている。そして、この連通孔92bの両端がそれぞれ連通するように軸部の基端側の外周を巡る周溝92cが形成されている。
【0056】
前記のバンジョーボルト92が環状部材90の貫通穴90aに下方から挿入されると、当該環状部材90の周壁を半径方向に貫通する噴射ノズル91の基端が、バンジョーボルト92の軸部92の周溝92cに臨む。よって、この周溝92cと環状部材90の周壁との間に形成される円環状の空間が、噴射ノズル91の基端に開口するノズル内通路91aと連通される。つまり、連通路11がバンジョーボルト92の軸部aの中心孔92aと連通孔92bとを介して周溝92c内に連通し、さらに噴射ノズル91内の通路91aに連通する。
【0057】
こうして、シリンダブロック1において各シリンダC毎に噴射ノズル91のノズル内通路91aがそれぞれ前壁10内の連通路11に連通し、オイル分配管8の4つの分岐路81aを介して主管部80内の共通のオイル通路80aに連通する。よって、上述したようにオイル導管7からオイル分配管8のオイル通路80aに導かれたオイルは、4つの分岐路81aに略等分されて連通路11に流入し、各シリンダC毎の噴射ノズル91へと供給される。
【0058】
その噴射ノズル91は、環状部材90の外周からシリンダCの内方に向かって延びた後に上方に向かって湾曲し、図9に示すようにピストンPの背面(下面)に向けてオイルジェットOJを噴射する。このオイルジェットOJの噴射方向は、一例としてピストンPの頂部における排気側(吸気側と排気側とに二分したうちの排気側であり、本実施形態では前側)に向けられており、その噴射方向を正確に設定できるように、ノズル内通路91aは切削加工により形成されている。
【0059】
また、図8に表われているように、本実施形態において噴射ノズル91は、下死点に位置するピストンP(仮想線で示す)のスカート下端と接触しないよう、それよりも少しだけ下方に配置されている。一方、シリンダブロック1の前壁10において連通路11は、シリンダCの上半部を取り囲むウォータジャケットwの下方に所定の間隔を空けて形成されていて、この連通路11に接続されるオイル分配管8は、下死点に位置するピストンPと略同じ高さに、図8の例で言えばピストンPの頂面(上面)とスカート下端との間に位置している。
【0060】
言い換えると、オイル分配管8は、上下方向についてシリンダC内をピストンPが往復動する範囲に含まれるようにシリンダブロック1の壁部10に締結されており、その内部のオイル通路80aは噴射ノズル91よりも高い位置にあるから、このオイル通路80aに貯留されているオイルが分岐路81aおよび連通路11を介して噴射ノズル91に流入するときには、オイルの自重が噴射圧力を高めることになる。
【0061】
また、図8に表われているようにノズル内通路91aは、オイル分配管8内のオイル通路80aに比べて細く、さらに、噴射ノズル91の先端部で絞られているから、オイルジェットOJの勢いが強くてもオイル通路80aや連通路11のオイルの流速は低くなり、オイル通路80aの油圧が保たれる。4つのシリンダCに跨るオイル通路80aが十分に大きな容積を有することから、オイル通路80aはいわば蓄圧機能を有し、シリンダC毎のオイルジェットの噴射圧力のばらつきは極めて小さい。
【0062】
ところで、図9には示していないが、エンジンEのシリンダC毎にピストンPは、コンロッドを介してクランクシャフト40に連結されており、このクランクシャフト40のウエブやコンロッドとオイルジェットOJとの干渉を避けるために、ノズル構成部材9は、シリンダCの中心線Xに対してクランクシャフト40の長手方向(左右方向)にずらして配設されている。このため、前記のように噴射ノズル91にオイルを供給する連通路11も各シリンダC毎にその中心から左右いずれかにずれて形成されている。
【0063】
すなわち、図7に表われているように、左右方向に並ぶ4つのシリンダCに対応してシリンダブロック1の前面に開口する4つの連通路11のうち、両端の2つの連通路11は、対応するシリンダCの中心線Xに対し左右方向について内寄りにずれている。即ち右端のシリンダCにおいてはシリンダCの中心線Xから左寄りに、また、左端のシリンダCにおいては右寄りに、それぞれずれて連通路11が開口している。
【0064】
より具体的には、右端のシリンダCにおいてはノズル形成部材9がシリンダCの中心線Xに対し左側にずれて配置されており、これに対応して連通路11もシリンダCの中心線Xから左側にずれて開口している。一方、右端のシリンダCを除いた3つのシリンダCにおいてはノズル形成部材9がシリンダCの中心線Xに対し右側にずれて配置されており、これに対応して連通路11もシリンダCの中心線Xから右側にずれて開口している。
【0065】
このため、4つのシリンダCのうち、左右両端のシリンダCに対応する両端の連通路11同士の距離が短くなり、その分、オイル分配管8の長さを短くすることができる。このことは、オイル分配管8の軽量化および剛性の向上に寄与し、4つの枝管部81とこれが嵌入するシリンダブロック1の連通路11との間のシール性を確保する上で有利になる。また、オイル分配管8が短くなれば、その設置スペースが小さくて済み、エンジン本体の周囲におけるホースや補機との干渉を防止する上でも有利になる。
【0066】
但し、そうして左右の両端のシリンダCに対応する連通路11を内寄りにずらした場合、4つの連通路11は左右方向に異なる間隔で並ぶようになる。すなわち、図7に表われているように本実施形態では、右端のシリンダCに対応する連通路11とその隣の連通路11との間隔d1だけが、それ以外の連通路11同士の間隔d2よりも狭くなっており、仮にこれらの連通路11と同じ間隔で締結ボス部82を設けると、この締結ボス部82のボルト挿通孔82aに挿入されるボルト85の間隔が不揃いになる。このことは、オイル分配管8のシリンダブロック1への締結力にばらつきを生じさせ、剛性の向上やシール性の確保には不利になる。
【0067】
この点について本実施形態では、図7に表われているように、前記右端のシリンダCに対応する連通路11においてボルト穴13を左右方向について外寄り(つまり連通路11に対して右側寄り)にずらし、その隣の連通路11に対応するボルト穴13との間隔を広げている。より詳しくは、右から2番目の連通路11に対応するボルト穴13を左側寄りにずらして、前記右端の連通路11に対応するボルト穴13との間隔をさらに広げるとともに、右から3番目(左から2番目)の連通路11に対応するボルト穴13は、連通路11の上に概ね中心を揃えて配設し、右から4番目、即ち左端の連通路11に対応するボルト穴13は、左右方向について内寄り(つまり右側寄り)に配置している。
【0068】
このことで、左右方向に並ぶ4つの連通路11にそれぞれ対応する4つのボルト穴13は、左右方向に略同じ間隔d3で並ぶことになり、これらのボルト穴13に螺入される4つのボルト85がオイル分配管8を、その長手方向について概ね均等な締結力でシリンダブロック1に締結する。よって、オイル分配管8の結合剛性およびシール性も向上する。なお、左右方向に並ぶ4つのボルトは、交互にオイル分配管8の上下に分かれて千鳥状に並んでおり、このことも結合剛性およびシール性の向上に寄与する。
【0069】
−作用効果−
以上の構成により本実施形態のエンジンEでは、クランクシャフト40が回転するとオイルポンプ63が駆動され、オイルパン6から汲み上げられたオイルがオイルフィルタ61およびオイルクーラ62を経由してメイン通路60Aへ送られる。メイン通路60A内のオイルはさらにエンジンEの種々の潤滑部へ送られるとともに、エンジンEの後方のトランスミッション41へも送られる。
【0070】
一方、オイルポンプ63からオイルフィルタ61を通過して第3オイル通路66に送られたオイルの一部は、オイルクーラ62よりも上流で第8オイル通路70に分岐し、ピストンPへのオイルジェットに用いられる。すなわち、エンジンEの外部に取付けられているオイル導管7およびオイル分配管8を経由して各シリンダC毎のオイルジェットの噴射のずる91へ送られて、ピストンPの背面に向けて噴射される。
【0071】
こうしてオイルジェットのためのオイルをエンジンEのシリンダブロック1内ではなく、その外部のオイル導管7やオイル分配管8によって供給するようにしたから、シリンダブロック1等の内部の通路を用いるのに比べてオイルの放熱が促進され、ピストンPの冷却に有利になる。特に本実施形態ではシリンダブロック1の前壁10において排気マニホルドとの間にオイル導管7やオイル分配管8を配設しており、前方の排気管の間を通過した走行風によって効果的に放熱が促進される。
【0072】
また、前記のオイル導管7は、オイルクーラ62よりも上流側から分岐させたオイルの流れをオイル分配管8に導くようにしており、オイルクーラの圧力損室の影響を受けず、高圧のオイルをオイルジェットの噴射ノズル91に供給することができる。これにより、オイルジェットの噴射圧力が高くなってピストンPの冷却効率が高くなる。しかも、前記のオイル導管7およびオイルフィルタ61がいずれもエンジンEの前面に配置されていて、オイル分配管8までの距離が比較的短くなるので、その経路の圧力損失も小さくなり、オイルジェットの噴射圧力を高める上で有利になる。
【0073】
さらに、金属製(本実施形態ではアルミダイキャスト製)のオイル分配管8をシリンダブロック1の前壁10にその長手方向に延びるように配設して、締結する構造としたから、シリンダブロック1自体はできるだけ薄肉に形成して軽量化を図り、その鋳造性を高めつつ強度、剛性は十分に確保することができる。
【0074】
特に本実施形態ではシリンダブロック1の前壁10において、隣り合うシリンダCの間の余肉を盗んで、シリンダCの周壁に沿うように湾曲する4つの円弧状の部分が並ぶように形成している。そして、そうして薄肉化した部分にオイル分配管8を締結してその強度、剛性を高めている。オイル分配管8は、シリンダブロック1の前壁10においてシリンダC内のピストンPの往復動範囲に含まれるように配置し、その締結ボス部82を締結する台座部12は、シリンダブロック1の前壁10において前記のように円弧状に膨出する部分に形成しているので、無駄な肉厚は必要ない。
【0075】
さらにまた、前記のように第8オイル通路70を別体のオイル導管7およびオイル分配管8によって構成したことで、それをエンジンEの内部に形成するのに比べて第8オイル通路70の寸法やレイアウトの自由度が高くなるから、エンジンEの仕様等に対応してオイル通路の大きさを容易に変更することができる。
【0076】
すなわち、一般にエンジンのシリンダブロックは、排気量の異なる複数の種類のエンジンに共通して用いられ、例えば10年以上の長期間に亘って基本的な仕様が変更されないこともある。そして、エンジンは高負荷若しくは高回転の仕様ほどピストンの熱負荷が大きくなって、オイルジェットによる冷却性能を高くする必要があり、これに対応してオイル通路を拡大することが必要になる。
【0077】
しかしながら、エンジンの小型化、軽量化を推し進めるという観点からはシリンダブロックの肉厚も強度、剛性等の要件を確保し得る最小限のものとするのが好ましく、こうした場合には、前記のような仕様の変更に伴ってシリンダブロック内のオイル通路を拡大しようとしても、これにより局所的にブロックの強度、剛性が低下してしまい、振動や騒音の問題を生じるおそれがある。
【0078】
この点について本実施形態のように第8オイル通路70を別体のオイル導管7およびオイル分配管8によって構成すれば、その大きさはエンジンEの仕様等に対応して容易に変更することができる。
【0079】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明に係るエンジンのオイルジェット構造は、前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、または削除することができる。例えば、前記の実施形態ではオイルジェットのための第8オイル通路70を、シリンダブロック1とは別体のオイル導管7およびオイル分配管8によって構成し、それぞれエンジンEの前面に配設しているが、オイル導管7についてはエンジンEの内部、例えばシリンダヘッド2内やランクケース4内に配設してもよい。また、オイル導管7の一部はシリンダブロック1、シリンダヘッド2及びクランクケース4などの内部に形成してもよい。
【0080】
また、前記の実施形態ではオイル導管7の上流端を、オイルクーラ61とオイルクーラ62との間の第3オイル通路66に接続して、オイルクーラ62よりも上流側からオイルを取り出すようにしているが、これに限らず、オイルクーラ62よりも下流側からオイルを取り出すようにしてもよい。
【0081】
前記の実施形態ではシリンダブロック1の前壁10にオイル分配管8を締結しているが、シリンダブロック1の前壁10でなく後壁であってもよいし、締結以外の例えば溶接などの方法でオイル分配管8を固定してもよい。また、シリンダブロック1は低圧鋳造法に限らず、重力鋳造法で製造してもよいし、ダイキャストとしてもよい。
【0082】
オイル分配管8には、その主管部80の横断面がX字状になるように長手方向に延びる4本のフィン83を形成しているが、4本未満或いは5本以上のフィンを形成してもよいし、フィンにも限定されず、主管部80の周面にその表面積が増大するような凹凸形状を形成してもよい。
【0083】
さらに、前記の実施形態では一例として並列4気筒のエンジンEについて説明しているが、これに限らず、例えば単気筒や2気筒、3気筒であってもよく、また、直列式、水平対向式、あるいはV型のエンジンであってもよい。また、前記実施形態ではトランスミッション一体型のエンジンEを示しているが、トランスミッションが一体型でないものや、トランスミッションがないものでもよい。
【0084】
さらにまた、本発明に係るオイルジェット構造はエンジンであれば、自動二輪車に限らず不整地走行車両や小型滑走艇(Personal WaterCraft:PWC)など他の乗り物に搭載されるエンジンにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように本発明は、エンジンのシリンダブロックの鋳造性を損なうことなく、その強度、剛性を十分に確保でき、振動や騒音の問題を生じることがない。またオイルジェットによりピストンを効果的に冷却できる。よって、産業状の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0086】
1 シリンダブロック
10 シリンダブロックの前壁(走行方向前方を向く壁部)
11 シリンダブロックの前壁内の連通路(壁内通路)
7 オイル導管
8 オイル分配管(通路構成部材)
80a オイル通路
81a 分岐路
9 ノズル構成部材
60 オイル供給系統
61 オイルフィルタ
62 オイルクーラ
63 オイルポンプ
66 第3オイル通路(オイルクーラの上流側の通路)
C シリンダ
E エンジン
OJ オイルジェット
P ピストン
X シリンダの中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動二輪車のような乗り物に搭載されるエンジンのピストンを冷却するためのオイルジェットの構造に関連し、特にオイルジェットのノズルに連通するオイル通路の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より高出力のレシプロエンジンにおいては、シリンダ内を往復動するピストンの背面に向けてオイルジェットを噴射し、高温の燃焼ガスに曝されるピストンの頂部を効果的に冷却することが行われている。例えば特許文献1に記載のエンジンでは、シリンダブロックの壁部に設けられたオイルギャラリに連通させて、各シリンダ毎にジェットパイプ(ノズル)を取付け、このジェットパイプから上方のピストンに向けてオイルを噴射するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−6015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来例のように、シリンダブロックの壁部内にオイルジェットのためのオイル通路を形成する場合、その分、壁部を厚く形成しなくてはならないが、このことは鋳造性を考慮すると好ましいことではない。すなわち、オイル通路の寸法を考慮してシリンダブロックの壁部を全体的に厚くすると、そのことに起因して鋳造不良が発生するおそれがある。しかし、オイル通路の周辺だけ壁部を厚くしようとすると、局所的にブロックの強度、剛性が低下して、振動や騒音の問題を生じることが懸念される。
【0005】
かかる点に鑑みて本発明の目的は、シリンダブロックの鋳造性を損なうことなく、その強度、剛性を十分に確保でき、振動や騒音の問題を生じることがないオイルジェットの構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成すべく本発明に係るエンジンのオイルジェット構造は、シリンダ内で往復動するピストンの背面に向けてオイルジェットを噴射するノズルと、シリンダブロックの壁部に形成され、前記ノズルに連通された壁内通路と、この壁内通路に連通されるオイル通路を有し、前記シリンダブロックとは別体とされ、前記壁部に外側から固定された通路形成部材と、を備えることを特徴とする。
【0007】
前記の構成では、エンジンのシリンダブロックの壁部に外付けする通路形成部材にオイル通路を形成したので、シリンダブロックの壁部内に形成するのに比べて寸法やレイアウトの自由度が高くなり、エンジンの仕様等に対応してオイル通路の大きさを自由にに設定することができる。
【0008】
しかも、通路形成部材によってシリンダブロックの壁部の剛性を高める効果が期待でき、その分は壁部の肉厚を薄くすることもできるから、鋳造時に鋳巣ができ難くなって鋳造性が向上する。また、オイル通路をシリンダブロックの壁部内に形成するのに比べて放熱性が高くなり、オイルジェットの温度が低くなってピストンの冷却に有利になる。
【0009】
ここで、エンジンが複数のシリンダを備えている場合には、その各シリンダ毎に前記ノズルおよび壁内通路を設けるとともに、前記通路形成部材の内部のオイル通路は、複数のシリンダの並ぶ方向に延びるように配設し、当該オイル通路から各シリンダ毎に分岐する分岐路を前記各シリンダ毎の壁内通路に連通させる構成としてもよい。こうすれば、前記通路形成部材が、複数のシリンダの並ぶ方向に延びるようにしてシリンダブロックの壁部に固定されるので、この壁部の剛性を効果的に高めることができる。
【0010】
その場合に、前記通路形成部材は、前記シリンダ内でピストンの往復動する方向について当該往復動の範囲に含まれるように、前記シリンダブロックの壁部に固定してもよい。こうすれば、複数のシリンダを取り囲むようにシリンダブロックの壁部を湾曲させて、その厚みを極力、薄くても剛性を確保することが可能になる。
【0011】
前記通路形成部材は、前記エンジンの車両への搭載時に走行方向前方を向く壁部に締結し、走行風によって冷却されるようにしてもよい。こうすれば、通路形成部材の内部のオイル通路を流れるオイルの放熱を促進することができ、ピストンの冷却に有利になる。
【0012】
また、前記のように複数のシリンダを有するエンジンにおいては、それら複数のシリンダの並ぶ方向の両端のシリンダにそれぞれ対応する壁内通路を、対応するシリンダの中心線に対して、前記シリンダの並ぶ方向について内寄りにずらして形成してもよい。
【0013】
こうすれば、シリンダの並ぶ方向の両端の壁内通路同士の距離が短くなるので、その分、通路形成部材の長さを短くできる。このことは通路形成部材の剛性を高めて分岐路と壁内通路との間のシール性を確保する上で有利であり、また、通路形成部材が短くなれば、それを設置するスペースが小さくて済むというメリットもある。
【0014】
さらに、前記エンジンのオイル供給系統が、オイルポンプから圧送されるオイルを冷却するためのオイルクーラを備えている場合には、当該オイルクーラよりも上流側から分岐させたオイルの流れを、前記通路形成部材の内部のオイル通路に供給するように構成してもよい。
【0015】
こうすれば、オイルクーラの圧損の影響を受けず、できるだけ高圧のオイルを通路形成部材の内部のオイル通路に供給することができ、オイルジェットの噴射圧力を高くして、ピストンの冷却効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上、説明したように本発明に係るエンジンのオイルジェット構造では、オイルジェットのノズルにオイルを供給する通路をエンジンのシリンダブロックとは別体の部材に形成し、この部材をシリンダブロックの壁部に締結する構造としたから、シリンダブロックの鋳造性を損なうことなく、その強度、剛性を確保でき、振動や騒音の問題を生じることが防がれる。しかも、オイル通路をシリンダブロックの壁部内に形成するのに比べて放熱性が高くなり、オイルジェットによるピストンの冷却に有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンジンの本体の外観を示す斜視図である。
【図2】同エンジンの前方から見た正面図である。
【図3】同エンジンのシリンダブロックにオイル分配管を取付けた状態で、前方斜め右上から見た斜視図である。
【図4】オイル供給系統の全体構成を模式的に示す説明図である。
【図5】オイルフィルタやオイルクーラの周辺のオイル通路の構造を示すクランクケース等の断面図である。
【図6A】オイル分配管を上方から見た平面図である。
【図6B】オイル分配管を前方から見て一部を断面で示す説明図である。
【図7】シリンダブロックを前方から見て連通路等の配置を示す図である。
【図8】オイル分配管から連通路を介してオイルジェットのノズルにオイルを供給する構造を示すシリンダブロックの断面図である。
【図9】一部分を断面として、シリンダ毎のオイルジェットの構造を示す斜視図である。
【図10】ノズル構成部材を単独で示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るエンジンEについて、図面を参照して説明する。この実施形態のエンジンEは、一例として自動二輪車(図示省略)に搭載されるものであり、以下の説明で用いる前後左右の方向の概念は、このエンジンEを搭載した自動二輪車に騎乗するライダー(乗員)の見る方向を基準とする。
【0019】
−エンジンの全体構成−
図1は、エンジンEを右側の前方斜め上方から見てその外観を示す斜視面であり、図2は、エンジンEを前方から見たものである。これらの図では排気マニホルドや冷却水のホースの一部を取り外して、主にエンジン本体を示している。一例としてエンジンEは、4つのシリンダC(図3を参照)が左右方向に一列に並んだ並列4気筒ガソリンエンジンであり、それらのシリンダCが形成されたシリンダブロック1の上部にシリンダヘッド2が組み付けられて、シリンダCの上端を閉ざしている。
【0020】
車載状態ではエンジンEのシリンダブロック1およびシリンダヘッド2はやや前傾していて、シリンダヘッド2の後壁には、ここに開口するシリンダC毎の吸気ポート(図示せず)にそれぞれ連通するようにして、4連のスロットルボディ20が配設されている。そして、図外のスロットルグリップの操作に応じて機械的にメインスロットルバルブ(図示せず)が回動されるとともに、電動モータ21によりサブスロットルバルブ(図示せず)が回動されて、シリンダCへの混合気の充填量を調整する。
【0021】
一方、図2に示すようにシリンダヘッド2の前面には4つのシリンダCのそれぞれに連通する排気ポート22が前方に向かって開口している。これら4つの排気ポート22は、左右方向に並んで略等間隔に開口していて、図示しない排気マニホルドが取付けられると、4つの排気管の上端部にそれぞれ接続されるようになっている。排気マニホルドの4つの排気管はそれぞれエンジンEの前方において下方に延びた後に、後方へ湾曲してエンジンEの下方において集合し、触媒や排気マフラ等に接続される。
【0022】
また、シリンダヘッド2には、公知の如く吸気ポートおよび排気ポート22を各シリンダCに対して開放または閉鎖する吸気バルブおよび排気バルブが配設されており、これらのバルブを開閉させる動弁機構23(図4を参照)は一例として吸気側および排気側に個別のカムシャフトを備えたDOHCタイプのものである。この動弁機構23は主にシリンダヘッド2の上部に配設され、その上方をヘッドカバー24が覆っている。なお、図1、2に示すようにヘッドカバー24を貫通して、各シリンダC毎に点火装置25が配設されている。
【0023】
図3に示すようにシリンダブロック1は、一例としてアルミ合金の低圧鋳造品であり、4つのシリンダCを取り囲んで左右方向に延びる直方体状とされ、その右端には動弁機構23のカムチェーンを収容するチェーントンネル1aが形成されている。また、シリンダブロック1の下部にはクランクケースの上側部分4a(以下、上側クランクケース部4aという)が一体に形成されており、この上側クランクケース部4aに別体の下側クランクケース部材4b(図1、2を参照)が組み付けられて、クランクケース4を構成する。
【0024】
さらに、前記上側クランクケース部4aおよび下側クランクケース部材4bの後部には、それぞれ一体にミッションケース5の上側部分5a(以下、上側ミッションケース部5aという)および下側部分5b(図5を参照)が形成され、両者が組み付けられてミッションケース5を構成する。ミッションケース5には、図示しないが入力シャフトおよび出力シャフトを備え、両シャフトの間で複数のギヤの噛み合いを切換えることによって変速する機械式のトランスミッション41(図4を参照)が収容される。
【0025】
図1において左手前側に示すように、ミッションケース5の右端にはクラッチカバー50が設けられ、エンジンEからトランスミッション41への駆動力を伝達/遮断するメインクラッチを覆っている。その前方に近接してチェーンカバー51が設けられ、前記チェーントンネル1aの下部の右側の開口を閉ざしている。また、クランクケース4の前面には、二軸バランサの一方を収容する前側バランサ室4cが膨出して形成されている。
【0026】
さらに、図3にのみ示すが、シリンダブロック1の後面から上側クランクケース部4aおよび上側ミッションケース部5aに亘って、ブローバイガスからオイルを分離させるためのブリーザ室4dと、二軸バランサの他方を収容する後側バランサ室4eとが一体に形成され、図には示さない共通の蓋部材によって上部の開口を覆われるようになっている。なお、図1〜3に示すようにシリンダブロック1の前壁10には別体のオイル分配管8(通路形成部材)が取付けられるが、これについては後述する。
【0027】
図1、2に戻って、クランクケース4の下部には潤滑用のオイルを溜めるオイルパン6が配設されている。オイルパン6は、その前半部の左寄りに深底部6aが形成され、それ以外の部分は底の浅い皿状に形成されている。そして、オイルパン6の深底部6aの前部から前方に向かって突出するように、オイルを浄化するための円筒状のオイルフィルタ61が配設されている。また、オイルフィルタ61の上方にはクランクケース4の前部から前方に向かって突出するように、オイルを冷却するための円筒状のオイルクーラ62が配設されている。
【0028】
−オイル供給系統−
本実施形態のエンジンEは、一例としてトランスミッションの入力シャフトに設けられたポンプ駆動ギヤによってオイルポンプ63(図4、5を参照)を駆動し、このオイルポンプ63によってオイルパン6から汲み上げたオイルをクランクシャフト40や動弁機構23など、エンジンEの種々の潤滑部へ分配して供給するためのオイル供給系統60を備えている。図4は、エンジンEのオイル供給系統60の全体的な構成を模式的に示し、図5は、オイルフィルタ61やオイルクーラ62の周辺のオイル通路を示す。
【0029】
図4および図5に示すように、オイルパン6からオイルポンプ63の吸込口へ向かう第1オイル通路64には一次オイルフィルタ59が介設されている。また、オイルポンプ63の吐出口から前記オイルフィルタ61(二次オイルフィルタ)の入口へは第2オイル通路65が延設され、このオイルフィルタ61の出口からは前記オイルクーラ62の介設された第3オイル通路66が延設されている。なお、図5において第2オイル通路65の屈曲部65aよりも下流側の部分と、第3オイル通路66の屈曲部66aよりも上流側の部分とは、それぞれ図に表われていない通路によってオイルフィルタ61に連通している。
【0030】
図4に模式的に示すようにオイルクーラ62は、第3オイル通路66に連通された蛇行オイル通路62aと、この蛇行オイル通路62aを形成するパイプを囲繞するハウジング62bと、このハウジング62b内に冷却水を導入する導入口62cと、ハウジング62b内の冷却水を排水する排水口62dとを備え、ハウジング62b内を循環する冷却水により蛇行オイル通路62aを通過するオイルが冷却される構成となっている。
【0031】
すなわち、図1、2に表われているようにオイルクーラ62のハウジング62bは円筒状であり、その上部から上方に延びる冷却水の導入口62cには、冷却水のホース52の下端が接続されている。このホース52の上端は、シリンダブロック1の前面における左上の隅に設けられたキャップ53の分水口53a(図1にのみ破線で示す)に接続されている。キャップ53は、シリンダブロック1内のウォータジャケットw(図8を参照)への冷却水の取入口1b(図3を参照)を覆っていて、斜め下向きに突出するように冷却水の導入口53bが設けられている。
【0032】
この導入口53bには冷却水のホース54の上端が接続されており、このホース54の下端は、ウォータポンプ55(図2にのみ示す)の吐出口に接続されている。ウォータポンプ55は、図示しない上流側のホースを介して図外のラジエータから吸入した冷却水を吐出し、この冷却水がホース54内を流通してキャップ53に覆われた取入口1bからシリンダブロック1内のウォータジャケットwに流入する。
【0033】
また、冷却水の一部はキャップ53において分水口53aに分流し、ホース52内を流下して導入口62cからオイルクーラ62のハウジング62b内に導入される。そして、ハウジング62b内を循環し、前記のように蛇行オイル通路62aのオイルを冷却した冷却水が排水口62dから排水される。この排水口62dに接続されたホース56は、図1に示すように右側斜め上向きに延びてから折れ曲がって略水平に右側に延び、その後、上向きに湾曲してエンジン本体の右側縁の付近を上方かつ前方に延び、図外のラジエータに接続される。
【0034】
このように、シリンダブロック1内のウォータジャケットwに供給される手前で冷却水の一部をオイルクーラ62に導くことで、オイルを効果的に冷却することができる。但し、前記の蛇行オイル通路62aにおける圧力損失が大きいため、オイルクーラ62の手前の第3オイル通路66を流れるオイルの圧力が一例として500kPaくらいとすると、オイルクーラ62の通過後の圧力は400kPaくらいに低下する。
【0035】
そうして油圧の低下したオイルクーラ62よりも下流側の第3オイル通路66は、シリンダブロック1内に形成された太径のメイン通路60Aに連通している。そして、エンジンEの運転に伴いオイルポンプ63が駆動されると、オイルパン6内のオイルは第1オイル通路64を通じてオイルポンプ63へ汲み上げられ、第2オイル通路65を通じてオイルフィルタ61へ送られる。このオイルフィルタ61において浄化されたオイルはオイルクーラ62に送られ、前記のように冷却された後に第3オイル通路66を通じてメイン通路60Aへ送られる。
【0036】
図5に示すようにメイン通路60Aは、クランクケース4の下部をその長手方向(図の紙面に直交する方向)に延びている。そして、図4に示すようにメイン通路60Aからは複数のオイル通路が分岐して、エンジンEの種々の潤滑部へオイルを供給するとともに、トランスミッション41へもオイルを供給するようになっている。まず、メイン通路60Aの途中の所定箇所から分岐する第4オイル通路67a〜67cが、クランクケース4の壁部内を通って例えばクランクシャフト40のジャーナル部へオイルを供給する。
【0037】
また、クランクシャフト40の内部には、両端の第4オイル通路67a,67cに連通する第5オイル通路(図示省略)が形成され、第4オイル通路67a,67cからのオイルの一部をクランクシャフト40とコンロッド大端部との摺動部位に供給する。さらに、メイン通路60Aからは、クランクケース4の壁部内を通ってジェネレータ42に向かうように、第6オイル通路68が延設されており、これによりジェネレータ42へオイルを供給する。
【0038】
また、メイン通路60Aからは、クランクケース4の壁部内を通って第7オイル通路69が延設されている。この第7オイル通路69は、クランクケース4の壁部内を上方へ延び、シリンダブロック1およびシリンダヘッド2の各壁部内を通って該シリンダヘッド2の上部まで延設されている。第7オイル通路69を通って送られるオイルは動弁機構23へ供給されて、カムシャフトなどを潤滑する。また、第7オイル通路69の途中から分岐する分岐路69aは、カムチェーンの油圧式テンショナ43にオイルを供給する。
【0039】
−オイルジェットの構造−
さらに、本実施形態においては、オイルフィルタ61とオイルクーラ62との間の第3オイル通路66から(即ちオイルクーラ62よりも上流側から)第8オイル通路70が分岐して、4つのシリンダCのそれぞれに対応して配設されたオイルジェットの噴射ノズル91にオイルを供給するようになっている。この第8オイル通路70は、図1および図2に示すように、エンジンEのクランクケース4からシリンダブロック1にかけてそれらの前面に沿うように外付けされたオイル導管7と、これに連なるオイル分配管8とによって構成されている。
【0040】
オイル導管7の経路は、オイルパン6の深底部6aの前面におけるオイルフィルタ61の上方部位から出発して、その上方のオイルクーラ62の右側に回り込むように上向きに延び、当該オイルクーラ62の上端高さ付近で右側に折れ曲がる。そして、オイルクーラ62から排水された冷却水をラジエータに送るホース56に近接しかつ並行して右側に延びた後に、クランクケース5の右側縁で上向きに折れ曲がって上方に延び、シリンダブロック1の上下方向の略中央で左側に折れ曲がって、オイル分配管8に接続されている。
【0041】
前記オイル導管7は主に鋼管などの金属パイプ71によって構成されているが、クランクケース5の右側縁で上向きに折れ曲がって延びる部位には、弾性パイプ72(例えば、ゴムホースにポリエステル系樹脂が積層された耐圧ゴムパイプ等)が結合部材73,74を介して連結されており、これにより寸法誤差や取付け誤差を吸収して、金属パイプ71にかかる応力を低減できる。ここで、下側の結合部材73は一例としてゴム製のチューブであり、クランプ材75によって把持されている。このクランプ材75には、冷却水のホース56を支持するための係合部(図示せず)が一体に設けられている。つまり、互いに近接するオイル導管7およびホース56がクランプ材75によってクランクケース4に支持されている。
【0042】
図5に示すように、オイル導管7の上流端となる金属パイプ71の一端部71aは、ジョイント76によってオイルパン6の深底部6aの前面にボルト留めされている。この深底部6aの前壁には、オイルフィルタ61とオイルクーラ62との間の第3オイル通路66の途中から分岐して前方に延びる分岐路66bが形成され、この分岐路66bの前端が前記金属パイプ71の一端部71a、即ちオイル導管7の上流端に連通している。つまり、オイル導管7の上流端には、オイルクーラ62よりも上流側で第3オイル通路66から分岐したオイルの流れが導入される。
【0043】
一方、図1、2に示すようにオイル導管7の下流端においては、左側に折れ曲がった金属パイプ71の上端部71bがジョイント77によって、オイル分配管8の右端部にボルト留めされている。オイル分配管8はシリンダブロック1の前壁10に締結されて左右方向に直線状に延びており、その前方には図示しない排気マニホルドの4本の排気管が位置している。換言すれば、オイル導管7およびオイル分配管8は、エンジンEの自動二輪車への搭載時に前方を向く壁部に締結されており、その前方の排気管の間を通過した走行風によって、効果的に冷却される。
【0044】
なお、本実施形態では、前記したように左右に延びるオイル分配管8の右端にオイル導管7を接続し、オイル分配管8の左端は閉鎖しているので、図2に示すようにエンジンEの左側にルーティングされている冷却水のホース52,54,55とオイル導管7との干渉の心配がない。また、オイル分配管8の左右の中央にオイル導管7を接続する場合のように、該オイル分配管8の両端のみならず中央部にも開口を形成する必要がなく、また、オイル導管7が前側バランサ室4cと干渉する心配もない。
【0045】
さらに、本実施形態では、前記のようにオイル導管7およびオイル分配管8がクランクケース4からシリンダブロック1にかけてそれらの前面に配設されており、それらがシリンダブロック1およびクランクケース4の右側や左側に飛び出している箇所はない。よって、自動二輪車が大きく傾斜し、転倒したとしてもオイル導管7およびオイル分配管8が障害物に接触し難く、その損傷を防ぐ上で有利になる。
【0046】
次に図6〜9を参照して、オイル分配管8からオイルジェットの噴射ノズル91までの構造を詳しく説明する。図6Aはオイル分配管8を単独で上方から見て示し、図6Bは前方から見て一部を断面で示す。また、図7は、シリンダブロック1を前方から見て、オイル分配管8の締結される台座部12等を示す。図8は、オイル分配管8から連通路11を介して噴射ノズル91に至るオイルの供給路を示し、図9は、ピストンPに向かって噴射されるオイルジェットの様子を示す。
【0047】
図6A,6Bに示すようにオイル分配管8は金属製、一例としてアルミダイキャスト製であり、シリンダブロック1の前方に間隔を空けてその長手方向(左右方向)に直線的に延びるように配置された主管部80と、この主管部80からそれぞれ後方のシリンダブロック1に向けて垂直に突出するように一体成形された4つの枝管部81と、これら各枝管部81に沿って延びてボルト挿通孔82aの形成された4つの締結ボス部82と、を備えている。また、主管部80の長手方向に沿ってその周面には4つのフィン83が形成され、横断面が概略X字状をなしている。このフィン83によってオイル分配管8の剛性および放熱性が高くなっている。
【0048】
図6Bには左右方向の左側を断面で示すようにオイル分配管8の主管部80には、その長手方向に亘ってオイル通路80aが形成され、このオイル通路80aに連通する4つの分岐路81aが、それぞれ前記4つの枝管部81の内部に形成されている。オイル通路80aは型の抜き勾配に対応して両端側の拡径するテーパ状とされている。そして、主管部80の一端部(シリンダブロック1に取付けたときに右端に位置する端部)には、前記のようにオイル導管7の金属パイプ71の上端部71bが取り付けられるフランジ84が形成され、主管部80の他端部はプラグ85によって封止されている。
【0049】
一方、図6Aに示すように4つの枝管部81の先端部にはそれぞれ一段、小径の部分(以下、小形部81bという)が形成されて、シリンダブロック1の前壁10に開口する各シリンダC毎の連通路11(壁内通路)に嵌入されるようになっている。すなわち、図7に示すようにシリンダブロック1の前壁10には、各シリンダC毎に前方に突出する4つの台座部12が形成されていて、この台座部12の前面に前記の連通路11が開口している。台座部12の前面は、連通路11の開口を取り囲む大径の円とこれよりも小径の円とが繋がった瓢箪形であり、連通路11の開口の隣には、オイル分配管8の締結ボス部82を締結するボルト85(図1〜3を参照)が螺入されるボルト穴13が開口している。
【0050】
本実施形態ではシリンダブロック1の前壁部には、4つのシリンダCのそれぞれの外周に沿うように湾曲し、各シリンダCに対応して外方(前方)に膨出する4つの円弧状の部分が左右方向に連なって並んでいる。そして、このシリンダC毎に円弧状に外方に膨出する部分に前記台座部12が設けられている。なお、図7に表われているように各シリンダC毎の台座部12は、対応するシリンダCの中心線Xから左右方向にずれて形成されいるが、このことについては後述する。
【0051】
そして、図8に示すように台座部12の前面に開口する連通路11の開口に、前方からオイル分配管8の枝管部81の先端の小径部81bが嵌入されると、図8には示さないが、台座部12の前面のボルト穴13とオイル分配管8の締結ボス部82のボルト挿通孔82a(図6Bを参照)とが合致し、そこに挿入されるボルト85によって締結ボス部82が台座部12に締結される。なお、連通路11に嵌入された枝管部81の小径部81bにはその外周を巡る周溝81cが形成されて、Oリングが装着されている。
【0052】
こうしてオイル分配管8の枝管部81がシリンダブロック1の前壁10の連通路11に油密に嵌入されて、この連通路11が枝管部81内の分岐路81aを介して主管部80内のオイル通路80aに連通されている。連通路11は、シリンダCに向かって横向きに穿孔された横通路と、クランクケース4の内部に臨むシリンダブロック1の前壁10の下端から上向きに穿孔された縦通路とからなり、図示のようにクランクシャフト40の延びる方向に見ると、概略L字状をなしている。
【0053】
そして、図8の他に図9にも示すように、連通路11の下端にオイルジェットのノズル構成部材9が取付けられている。このノズル構成部材9は、図10に単独で示すように上下に扁平な環状部材90と、その外周から横向きに突出した後に湾曲して上方に延びる噴射ノズル91とからなり、環状部材90の中央の貫通穴90aに下方から挿入されるバンジョーボルト92が前記連通路11の下端に螺入されて、環状部材90をシリンダブロック1の前壁10の下端に締結している。
【0054】
なお、図10に示すようにノズル構成部材9の環状部材90は、貫通穴90aを取り囲む正円状の部分に連続して外周側への延出部90bが形成されて、上下方向に見ると卵形とされていて、その延出部90bの上面には位置決めのためのピン90cが配設されている。このピン90cは、図示は省略するが、シリンダブロック1の前壁10の下端面において連通路11の近傍に形成されている凹部に嵌め込まれる。このことで、以下に述べるように噴射ノズル91の向きを正確に設定することができる。
【0055】
図8に示すようにバンジョーボルト92は、いわゆる貫通穴付ボルトであって、外周に雄ねじが形成された軸部の軸心に沿って延びる中心孔92aが、軸部の先端面にて開口する一方、その軸部の基端側には半径方向に軸部を貫いて前記中心孔92aに連通された連通孔92bが形成されている。そして、この連通孔92bの両端がそれぞれ連通するように軸部の基端側の外周を巡る周溝92cが形成されている。
【0056】
前記のバンジョーボルト92が環状部材90の貫通穴90aに下方から挿入されると、当該環状部材90の周壁を半径方向に貫通する噴射ノズル91の基端が、バンジョーボルト92の軸部92の周溝92cに臨む。よって、この周溝92cと環状部材90の周壁との間に形成される円環状の空間が、噴射ノズル91の基端に開口するノズル内通路91aと連通される。つまり、連通路11がバンジョーボルト92の軸部aの中心孔92aと連通孔92bとを介して周溝92c内に連通し、さらに噴射ノズル91内の通路91aに連通する。
【0057】
こうして、シリンダブロック1において各シリンダC毎に噴射ノズル91のノズル内通路91aがそれぞれ前壁10内の連通路11に連通し、オイル分配管8の4つの分岐路81aを介して主管部80内の共通のオイル通路80aに連通する。よって、上述したようにオイル導管7からオイル分配管8のオイル通路80aに導かれたオイルは、4つの分岐路81aに略等分されて連通路11に流入し、各シリンダC毎の噴射ノズル91へと供給される。
【0058】
その噴射ノズル91は、環状部材90の外周からシリンダCの内方に向かって延びた後に上方に向かって湾曲し、図9に示すようにピストンPの背面(下面)に向けてオイルジェットOJを噴射する。このオイルジェットOJの噴射方向は、一例としてピストンPの頂部における排気側(吸気側と排気側とに二分したうちの排気側であり、本実施形態では前側)に向けられており、その噴射方向を正確に設定できるように、ノズル内通路91aは切削加工により形成されている。
【0059】
また、図8に表われているように、本実施形態において噴射ノズル91は、下死点に位置するピストンP(仮想線で示す)のスカート下端と接触しないよう、それよりも少しだけ下方に配置されている。一方、シリンダブロック1の前壁10において連通路11は、シリンダCの上半部を取り囲むウォータジャケットwの下方に所定の間隔を空けて形成されていて、この連通路11に接続されるオイル分配管8は、下死点に位置するピストンPと略同じ高さに、図8の例で言えばピストンPの頂面(上面)とスカート下端との間に位置している。
【0060】
言い換えると、オイル分配管8は、上下方向についてシリンダC内をピストンPが往復動する範囲に含まれるようにシリンダブロック1の壁部10に締結されており、その内部のオイル通路80aは噴射ノズル91よりも高い位置にあるから、このオイル通路80aに貯留されているオイルが分岐路81aおよび連通路11を介して噴射ノズル91に流入するときには、オイルの自重が噴射圧力を高めることになる。
【0061】
また、図8に表われているようにノズル内通路91aは、オイル分配管8内のオイル通路80aに比べて細く、さらに、噴射ノズル91の先端部で絞られているから、オイルジェットOJの勢いが強くてもオイル通路80aや連通路11のオイルの流速は低くなり、オイル通路80aの油圧が保たれる。4つのシリンダCに跨るオイル通路80aが十分に大きな容積を有することから、オイル通路80aはいわば蓄圧機能を有し、シリンダC毎のオイルジェットの噴射圧力のばらつきは極めて小さい。
【0062】
ところで、図9には示していないが、エンジンEのシリンダC毎にピストンPは、コンロッドを介してクランクシャフト40に連結されており、このクランクシャフト40のウエブやコンロッドとオイルジェットOJとの干渉を避けるために、ノズル構成部材9は、シリンダCの中心線Xに対してクランクシャフト40の長手方向(左右方向)にずらして配設されている。このため、前記のように噴射ノズル91にオイルを供給する連通路11も各シリンダC毎にその中心から左右いずれかにずれて形成されている。
【0063】
すなわち、図7に表われているように、左右方向に並ぶ4つのシリンダCに対応してシリンダブロック1の前面に開口する4つの連通路11のうち、両端の2つの連通路11は、対応するシリンダCの中心線Xに対し左右方向について内寄りにずれている。即ち右端のシリンダCにおいてはシリンダCの中心線Xから左寄りに、また、左端のシリンダCにおいては右寄りに、それぞれずれて連通路11が開口している。
【0064】
より具体的には、右端のシリンダCにおいてはノズル形成部材9がシリンダCの中心線Xに対し左側にずれて配置されており、これに対応して連通路11もシリンダCの中心線Xから左側にずれて開口している。一方、右端のシリンダCを除いた3つのシリンダCにおいてはノズル形成部材9がシリンダCの中心線Xに対し右側にずれて配置されており、これに対応して連通路11もシリンダCの中心線Xから右側にずれて開口している。
【0065】
このため、4つのシリンダCのうち、左右両端のシリンダCに対応する両端の連通路11同士の距離が短くなり、その分、オイル分配管8の長さを短くすることができる。このことは、オイル分配管8の軽量化および剛性の向上に寄与し、4つの枝管部81とこれが嵌入するシリンダブロック1の連通路11との間のシール性を確保する上で有利になる。また、オイル分配管8が短くなれば、その設置スペースが小さくて済み、エンジン本体の周囲におけるホースや補機との干渉を防止する上でも有利になる。
【0066】
但し、そうして左右の両端のシリンダCに対応する連通路11を内寄りにずらした場合、4つの連通路11は左右方向に異なる間隔で並ぶようになる。すなわち、図7に表われているように本実施形態では、右端のシリンダCに対応する連通路11とその隣の連通路11との間隔d1だけが、それ以外の連通路11同士の間隔d2よりも狭くなっており、仮にこれらの連通路11と同じ間隔で締結ボス部82を設けると、この締結ボス部82のボルト挿通孔82aに挿入されるボルト85の間隔が不揃いになる。このことは、オイル分配管8のシリンダブロック1への締結力にばらつきを生じさせ、剛性の向上やシール性の確保には不利になる。
【0067】
この点について本実施形態では、図7に表われているように、前記右端のシリンダCに対応する連通路11においてボルト穴13を左右方向について外寄り(つまり連通路11に対して右側寄り)にずらし、その隣の連通路11に対応するボルト穴13との間隔を広げている。より詳しくは、右から2番目の連通路11に対応するボルト穴13を左側寄りにずらして、前記右端の連通路11に対応するボルト穴13との間隔をさらに広げるとともに、右から3番目(左から2番目)の連通路11に対応するボルト穴13は、連通路11の上に概ね中心を揃えて配設し、右から4番目、即ち左端の連通路11に対応するボルト穴13は、左右方向について内寄り(つまり右側寄り)に配置している。
【0068】
このことで、左右方向に並ぶ4つの連通路11にそれぞれ対応する4つのボルト穴13は、左右方向に略同じ間隔d3で並ぶことになり、これらのボルト穴13に螺入される4つのボルト85がオイル分配管8を、その長手方向について概ね均等な締結力でシリンダブロック1に締結する。よって、オイル分配管8の結合剛性およびシール性も向上する。なお、左右方向に並ぶ4つのボルトは、交互にオイル分配管8の上下に分かれて千鳥状に並んでおり、このことも結合剛性およびシール性の向上に寄与する。
【0069】
−作用効果−
以上の構成により本実施形態のエンジンEでは、クランクシャフト40が回転するとオイルポンプ63が駆動され、オイルパン6から汲み上げられたオイルがオイルフィルタ61およびオイルクーラ62を経由してメイン通路60Aへ送られる。メイン通路60A内のオイルはさらにエンジンEの種々の潤滑部へ送られるとともに、エンジンEの後方のトランスミッション41へも送られる。
【0070】
一方、オイルポンプ63からオイルフィルタ61を通過して第3オイル通路66に送られたオイルの一部は、オイルクーラ62よりも上流で第8オイル通路70に分岐し、ピストンPへのオイルジェットに用いられる。すなわち、エンジンEの外部に取付けられているオイル導管7およびオイル分配管8を経由して各シリンダC毎のオイルジェットの噴射のずる91へ送られて、ピストンPの背面に向けて噴射される。
【0071】
こうしてオイルジェットのためのオイルをエンジンEのシリンダブロック1内ではなく、その外部のオイル導管7やオイル分配管8によって供給するようにしたから、シリンダブロック1等の内部の通路を用いるのに比べてオイルの放熱が促進され、ピストンPの冷却に有利になる。特に本実施形態ではシリンダブロック1の前壁10において排気マニホルドとの間にオイル導管7やオイル分配管8を配設しており、前方の排気管の間を通過した走行風によって効果的に放熱が促進される。
【0072】
また、前記のオイル導管7は、オイルクーラ62よりも上流側から分岐させたオイルの流れをオイル分配管8に導くようにしており、オイルクーラの圧力損室の影響を受けず、高圧のオイルをオイルジェットの噴射ノズル91に供給することができる。これにより、オイルジェットの噴射圧力が高くなってピストンPの冷却効率が高くなる。しかも、前記のオイル導管7およびオイルフィルタ61がいずれもエンジンEの前面に配置されていて、オイル分配管8までの距離が比較的短くなるので、その経路の圧力損失も小さくなり、オイルジェットの噴射圧力を高める上で有利になる。
【0073】
さらに、金属製(本実施形態ではアルミダイキャスト製)のオイル分配管8をシリンダブロック1の前壁10にその長手方向に延びるように配設して、締結する構造としたから、シリンダブロック1自体はできるだけ薄肉に形成して軽量化を図り、その鋳造性を高めつつ強度、剛性は十分に確保することができる。
【0074】
特に本実施形態ではシリンダブロック1の前壁10において、隣り合うシリンダCの間の余肉を盗んで、シリンダCの周壁に沿うように湾曲する4つの円弧状の部分が並ぶように形成している。そして、そうして薄肉化した部分にオイル分配管8を締結してその強度、剛性を高めている。オイル分配管8は、シリンダブロック1の前壁10においてシリンダC内のピストンPの往復動範囲に含まれるように配置し、その締結ボス部82を締結する台座部12は、シリンダブロック1の前壁10において前記のように円弧状に膨出する部分に形成しているので、無駄な肉厚は必要ない。
【0075】
さらにまた、前記のように第8オイル通路70を別体のオイル導管7およびオイル分配管8によって構成したことで、それをエンジンEの内部に形成するのに比べて第8オイル通路70の寸法やレイアウトの自由度が高くなるから、エンジンEの仕様等に対応してオイル通路の大きさを容易に変更することができる。
【0076】
すなわち、一般にエンジンのシリンダブロックは、排気量の異なる複数の種類のエンジンに共通して用いられ、例えば10年以上の長期間に亘って基本的な仕様が変更されないこともある。そして、エンジンは高負荷若しくは高回転の仕様ほどピストンの熱負荷が大きくなって、オイルジェットによる冷却性能を高くする必要があり、これに対応してオイル通路を拡大することが必要になる。
【0077】
しかしながら、エンジンの小型化、軽量化を推し進めるという観点からはシリンダブロックの肉厚も強度、剛性等の要件を確保し得る最小限のものとするのが好ましく、こうした場合には、前記のような仕様の変更に伴ってシリンダブロック内のオイル通路を拡大しようとしても、これにより局所的にブロックの強度、剛性が低下してしまい、振動や騒音の問題を生じるおそれがある。
【0078】
この点について本実施形態のように第8オイル通路70を別体のオイル導管7およびオイル分配管8によって構成すれば、その大きさはエンジンEの仕様等に対応して容易に変更することができる。
【0079】
−他の実施形態−
以上、本発明の実施の形態について種々、説明したが、本発明に係るエンジンのオイルジェット構造は、前記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加、または削除することができる。例えば、前記の実施形態ではオイルジェットのための第8オイル通路70を、シリンダブロック1とは別体のオイル導管7およびオイル分配管8によって構成し、それぞれエンジンEの前面に配設しているが、オイル導管7についてはエンジンEの内部、例えばシリンダヘッド2内やランクケース4内に配設してもよい。また、オイル導管7の一部はシリンダブロック1、シリンダヘッド2及びクランクケース4などの内部に形成してもよい。
【0080】
また、前記の実施形態ではオイル導管7の上流端を、オイルクーラ61とオイルクーラ62との間の第3オイル通路66に接続して、オイルクーラ62よりも上流側からオイルを取り出すようにしているが、これに限らず、オイルクーラ62よりも下流側からオイルを取り出すようにしてもよい。
【0081】
前記の実施形態ではシリンダブロック1の前壁10にオイル分配管8を締結しているが、シリンダブロック1の前壁10でなく後壁であってもよいし、締結以外の例えば溶接などの方法でオイル分配管8を固定してもよい。また、シリンダブロック1は低圧鋳造法に限らず、重力鋳造法で製造してもよいし、ダイキャストとしてもよい。
【0082】
オイル分配管8には、その主管部80の横断面がX字状になるように長手方向に延びる4本のフィン83を形成しているが、4本未満或いは5本以上のフィンを形成してもよいし、フィンにも限定されず、主管部80の周面にその表面積が増大するような凹凸形状を形成してもよい。
【0083】
さらに、前記の実施形態では一例として並列4気筒のエンジンEについて説明しているが、これに限らず、例えば単気筒や2気筒、3気筒であってもよく、また、直列式、水平対向式、あるいはV型のエンジンであってもよい。また、前記実施形態ではトランスミッション一体型のエンジンEを示しているが、トランスミッションが一体型でないものや、トランスミッションがないものでもよい。
【0084】
さらにまた、本発明に係るオイルジェット構造はエンジンであれば、自動二輪車に限らず不整地走行車両や小型滑走艇(Personal WaterCraft:PWC)など他の乗り物に搭載されるエンジンにも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように本発明は、エンジンのシリンダブロックの鋳造性を損なうことなく、その強度、剛性を十分に確保でき、振動や騒音の問題を生じることがない。またオイルジェットによりピストンを効果的に冷却できる。よって、産業状の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0086】
1 シリンダブロック
10 シリンダブロックの前壁(走行方向前方を向く壁部)
11 シリンダブロックの前壁内の連通路(壁内通路)
7 オイル導管
8 オイル分配管(通路構成部材)
80a オイル通路
81a 分岐路
9 ノズル構成部材
60 オイル供給系統
61 オイルフィルタ
62 オイルクーラ
63 オイルポンプ
66 第3オイル通路(オイルクーラの上流側の通路)
C シリンダ
E エンジン
OJ オイルジェット
P ピストン
X シリンダの中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内で往復動するピストンの背面に向けてオイルジェットを噴射するノズルと、
シリンダブロックの壁部に形成され、前記ノズルに連通された壁内通路と、
前記壁内通路に連通されるオイル通路を有し、前記シリンダブロックとは別体とされ、前記壁部に外側から固定された通路形成部材と、を備えることを特徴とするエンジンのオイルジェット構造。
【請求項2】
前記エンジンは複数のシリンダを備え、その各シリンダ毎に前記ノズルおよび壁内通路が設けられ、
前記通路形成部材の内部のオイル通路は、前記複数のシリンダの並ぶ方向に延びていて、当該オイル通路から各シリンダ毎に分岐する分岐路が前記各シリンダ毎の壁内通路に連通している、請求項1に記載のオイルジェット構造。
【請求項3】
前記通路形成部材は、前記シリンダ内でピストンの往復動する方向について当該往復動の範囲に含まれるように、前記シリンダブロックの壁部に固定されている、請求項1または2のいずれかに記載のオイルジェット構造。
【請求項4】
前記通路形成部材が、前記エンジンの車両への搭載時に走行方向前方を向く壁部に固定されている、請求項1〜3のいずれか1つに記載のオイルジェット構造。
【請求項5】
前記複数のシリンダの並ぶ方向の両端のシリンダにそれぞれ対応する壁内通路が、対応するシリンダの中心線に対して、前記シリンダの並ぶ方向について内寄りにずれて形成されている、請求項4に記載のオイルジェット構造。
【請求項6】
前記エンジンのオイル供給系統は、オイルポンプから圧送されるオイルを冷却するためのオイルクーラを備えており、当該オイルクーラよりも上流側から分岐したオイルの流れが前記通路形成部材の内部のオイル通路に供給される、請求項1〜5のいずれか1つに記載のオイルジェット構造。
【請求項1】
シリンダ内で往復動するピストンの背面に向けてオイルジェットを噴射するノズルと、
シリンダブロックの壁部に形成され、前記ノズルに連通された壁内通路と、
前記壁内通路に連通されるオイル通路を有し、前記シリンダブロックとは別体とされ、前記壁部に外側から固定された通路形成部材と、を備えることを特徴とするエンジンのオイルジェット構造。
【請求項2】
前記エンジンは複数のシリンダを備え、その各シリンダ毎に前記ノズルおよび壁内通路が設けられ、
前記通路形成部材の内部のオイル通路は、前記複数のシリンダの並ぶ方向に延びていて、当該オイル通路から各シリンダ毎に分岐する分岐路が前記各シリンダ毎の壁内通路に連通している、請求項1に記載のオイルジェット構造。
【請求項3】
前記通路形成部材は、前記シリンダ内でピストンの往復動する方向について当該往復動の範囲に含まれるように、前記シリンダブロックの壁部に固定されている、請求項1または2のいずれかに記載のオイルジェット構造。
【請求項4】
前記通路形成部材が、前記エンジンの車両への搭載時に走行方向前方を向く壁部に固定されている、請求項1〜3のいずれか1つに記載のオイルジェット構造。
【請求項5】
前記複数のシリンダの並ぶ方向の両端のシリンダにそれぞれ対応する壁内通路が、対応するシリンダの中心線に対して、前記シリンダの並ぶ方向について内寄りにずれて形成されている、請求項4に記載のオイルジェット構造。
【請求項6】
前記エンジンのオイル供給系統は、オイルポンプから圧送されるオイルを冷却するためのオイルクーラを備えており、当該オイルクーラよりも上流側から分岐したオイルの流れが前記通路形成部材の内部のオイル通路に供給される、請求項1〜5のいずれか1つに記載のオイルジェット構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−79623(P2013−79623A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220775(P2011−220775)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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