説明

エンジンのバルブ潤滑装置

【課題】 リフタの構造を複雑化することなく、バルブステムの頂面とリフタの当接部を強制的に潤滑するエンジンのバルブ潤滑装置を提供する。
【解決手段】 シリンダヘッド1にバルブステム5と同軸上に形成されるガイド穴11と、このガイド穴11に摺動可能に介装される有底円筒状のリフタ20とを備え、カム8の回転によりリフタ20を介してバルブステム5を往復動させるエンジンのバルブ潤滑装置において、リフタ20を貫通して動弁室18と背後室17を連通する貫通孔24を形成し、この貫通孔24からバルブステム5の頂部に向けて延びるオイルジェット30を設け、動弁室19から背後室17に吸引される潤滑油をこのオイルジェット30からバルブステム5とリフタ20の当接部に向けて噴出させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブステムの頂面とリフタの当接部を潤滑するエンジンのバルブ潤滑装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カムの回転によりリフタを往復動させてバルブを開閉する直動式バルブ機構において、バルブステムの頂面とリフタの当接部は、リフタによって囲まれているため、これを潤滑することが難しい。
【0003】
従来、この種のエンジンのバルブ潤滑装置として、図3、図4に示すものがある(特許文献2参照)。
【0004】
このバルブ機構は、カム108の回転によりリフタ105を介してバルブステム102を往復動させ、バルブ109を開閉するようになっている。
【0005】
シリンダヘッド101にバルブステム102がオイルシール103を介して摺動可能に支持されるとともに、有蓋円筒状のリフタ105が摺動可能に支持される。
【0006】
バルブステム102の上部にリテーナ104を固設し、リテーナ104とシリンダヘッド101の間にバルブスプリング107が介装される。バルブスプリング107は、バルブステム102をカム108側へ付勢する。
【0007】
リフタ105はリテーナ104の外周を囲むようにして設けられ、その内側中央部をバルブステム102の頂面に当接させ、カム108に追従して往復動するリフタ105の動きをバルブステム102に伝え、バルブ109を開閉する。
【0008】
リフタ105とカム108の間には円盤状のシム106が介装される。シム106の厚さを変えることによってリフタ105とカム108のクリアランスが調節される。
【0009】
このような直動式バルブ機構においては、バルブステム102の頂面とリフタ105の当接部を潤滑して、その磨耗を抑える必要がある。
【0010】
そのため、従来、リフタ105の中央にオイル通路110を貫通形成するとともにリフタ105の上面とシム106の間に、オイル通路110に連通する横連通路111と、この横連通路111に連通する縦通路112を形成している。エンジンの運転時、潤滑油がこれらの通路112,111,110を通してバルブステム102の頂面に供給されるようになっている。
【特許文献1】実開平7−4806号公報
【特許文献2】実開平1−119808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このような従来のエンジンのバルブ潤滑装置にあっては、リフタ105の上面とシム106の間に通路111,112を形成する構造のため、リフタ105への加工が複雑化し、リフタ105の大型化を招くという問題点があった。
【0012】
また、オイル通路110がリフタ105の中央に開口するため、リフタ105のバルブステム102に対する接触面積が減少し、この当接部の磨耗を早めるという問題点があった。
【0013】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、リフタの構造を複雑化することなく、バルブステムの頂面とリフタの当接部を強制的に潤滑するエンジンのバルブ潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、シリンダヘッドにバルブステムと同軸上に形成されるガイド穴と、このガイド穴に摺動可能に介装されバルブステムの頂部に当接する有底円筒状のリフタとを備え、カムの回転によりこのリフタを往復動させてバルブを開閉するエンジンにおいて、リフタを貫通して動弁室とリフタの背後室を連通する貫通孔を形成し、この貫通孔からバルブステムの頂部に向けて延びるオイルジェットを設け、動弁室から貫通孔を通って背後室に吸引される潤滑油をこのオイルジェットからバルブステムとリフタの当接部に向けて噴出させる構成とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、エンジン運転時、カムとリフタの摺接部に供給された潤滑油の一部が動弁室から貫通孔を通して背後室に吸引され、オイルジェットからバルブステムとリフタの当接部に向けて噴出する。
【0016】
オイルジェットが貫通孔からバルブステムとリフタの当接部に向かって延びることにより、オイルジェットから噴出する潤滑油のほとんどがバルブステムとリフタの当接部に到達し、この摺接部の磨耗が抑えられる。
【0017】
リフタは貫通孔が形成され、この貫通孔に接続するオイルジェットが取り付けられる構造のため、リフタへの加工が複雑化することが回避され、リフタの大型化を招かないで済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1において、1はシリンダヘッド、2は排気ポート、3は排気ポート2を開閉するバルブ、8はカム、16はピストン、15はこのピストン16を摺動可能に収容するシリンダである。
【0020】
バルブ3は軸状に延びるバルブステム5を有し、このバルブステム5がシリンダヘッド1にバルブガイド4を介して摺動可能に支持される。バルブステム5の途中にリテーナ6が取り付けられ、このリテーナ6とシリンダヘッド1の間にバルブスプリング7が介装される。このバルブスプリング7はバルブステム5をカム8側へ付勢する。
【0021】
シリンダヘッド1にはガイド穴11がバルブステム5と同軸上に形成され、このガイド穴11に有底円筒状のリフタ20が摺動可能に介装される。カム8の回転によりリフタ20を介してバルブステム5を往復動させ、バルブ3によって排気ポート2を開閉する。
【0022】
図2に示すように、リフタ20はバルブステム5の頂部とリテーナ6等を囲むように有底円筒状に形成される。リフタ20は、シリンダヘッド1のガイド穴11に摺動可能に介装される円筒部21と、カム8に対峙してこの円筒部21の上端部を結ぶ円盤部22と、この円盤部22の下面中央部から突出してバルブステム5に当接する円柱状の凸部23とを有し、これらが一体形成される。
【0023】
このリフタ20はカム8との間にシムを介装しないシムレスタイプのものであり、凸部23の突出高さの異なるものが複数個用意され、その中からリフタ20とカム8のクリアランスが適正になるものが選択して介装されるようになっている。
【0024】
リフタ20とシリンダヘッド1のガイド穴11とロアデッキ12の間には背後室17が画成される。この背後室17はロアデッキ12上の開口部18によってカム8等が収容される動弁室19と連通する。背後室17にバルブスプリング7等が収容されている。
【0025】
そして本発明の要旨とするところであるが、リフタ20を貫通する貫通孔24を形成し、この貫通孔24からバルブステム5の頂部に向けて延びるオイルジェット30を設け、動弁室19から貫通孔24を通して背後室17に吸引される潤滑油をオイルジェット30からバルブステム5とリフタ20の当接部に向けて噴出させる構成とする。
【0026】
貫通孔24はリフタ20の円盤部22を貫通して形成される。貫通孔24は円盤部22の中央部を避けて形成され、凸部23から離して形成される。
【0027】
オイルジェット30は例えば外径1mm程度のパイプ材をを用い、このパイプ材をL字状に湾曲して形成される。
【0028】
オイルジェット30はリフタ20の円盤部22の下面側から突出するように取り付けられ、その先端部31がバルブステム5の頂部に向けて開口する。
【0029】
オイルジェット30の先端部31はその開口端の手前で絞られ、これから噴出する潤滑油の速度を高めるようになっている。
【0030】
以上のように構成されて、次に作用について説明する。
【0031】
エンジンの運転時、カム8の回転によりリフタ20を介してバルブステム5を往復動させ、バルブ3によって排気ポート2を開閉する。このとき、バルブステム5の頂部がバルブガイド4に対してわずかに傾くため、バルブステム5の頂面がリフタ20の凸部23の端面に摺接する。このため、バルブステム5の頂面とリフタ20の当接部を潤滑して、その磨耗を抑える必要がある。
【0032】
エンジン運転時、オイルポンプから送られる潤滑油がカム8とリフタ20の摺接部に供給され、この摺接部が潤滑される。このリフタ20上に供給された潤滑油の一部が動弁室19から貫通孔24を通して背後室17に吸引され、オイルジェット30からバルブステム5とリフタ20の当接部に向けて噴出する。これにより、オイルジェット30から噴出する潤滑油がバルブステム5の頂面とリフタ20の当接部に供給され、この摺接部が潤滑され、その磨耗、焼き付きが抑えられる。
【0033】
リフタ20とシリンダヘッド1のガイド穴11とロアデッキ12の間に画成される背後室17は、ロアデッキ12上の開口部18によって動弁室19と連通しているが、リフタ20が高速で往復動するのに伴って動弁室19との圧力差が生じ、潤滑油の一部が動弁室19から貫通孔24を通して背後室17に吸引され、オイルジェット30からバルブステム5とリフタ20の当接部に向けて噴出し、この摺接部を強制的に潤滑する。
【0034】
オイルジェット30が貫通孔24からバルブステム5とリフタ20の当接部に向かって延び、かつオイルジェット30の先端部31が絞られるているため、オイルジェット30から噴出する潤滑油のほとんどがバルブステム5とリフタ20の当接部に到達し、この摺接部の磨耗、焼き付きが抑えられる。
【0035】
これに対して、貫通孔24に接続するオイルジェット30が設けられない場合、貫通孔24から背後室17に噴出する潤滑油をバルブステム5とリフタ20の当接部に到達させることが難しい。
【0036】
オイルジェット30の先端部31はその開口端の手前で絞られるため、これから噴出する潤滑油の速度を高められ、潤滑油がバルブステム5とリフタ20の当接部に到達し、この摺接部の磨耗が抑えられる。
【0037】
リフタ20は、ガイド穴11に摺接する円筒部21と、カム8に摺接する円盤部22とを有し、貫通孔24はリフタ20の円盤部22を貫通して形成したため、リフタ20上を流下する潤滑油が貫通孔24へと効率よく吸い込まれ、オイルジェット30へと導かれる潤滑油量を十分に確保することができる。
【0038】
リフタ20は貫通孔24が開口し、この貫通孔24に接続するオイルジェット30が取り付けられる構造のため、リフタ20への加工が複雑化することが回避され、リフタ20の大型化を招かないで済む。
【0039】
本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、バルブステムの頂面とリフタの当接部を潤滑するエンジンのバルブ潤滑装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態を示すエンジンの断面図。
【図2】同じくリフタ等の断面図。
【図3】従来例を示すエンジンの断面図。
【図4】同じくリフタ等の断面図。
【符号の説明】
【0042】
1 シリンダヘッド
2 排気ポート
3 バルブ
5 バルブステム
8 カム
17 背後室
19 動弁室
20 リフタ
24 貫通孔
30 オイルジェット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドにバルブステムと同軸上に形成されるガイド穴と、
このガイド穴に摺動可能に介装されバルブステムの頂部に当接する有底円筒状のリフタとを備え、
カムの回転によりこのリフタを往復動させてバルブを開閉するエンジンにおいて、
前記リフタを貫通して動弁室と前記リフタの背後室を連通する貫通孔を形成し、
この貫通孔からバルブステムの頂部に向けて延びるオイルジェットを設け、
前記動弁室から前記貫通孔を通って前記背後室に吸引される潤滑油をこのオイルジェットから前記バルブステムと前記リフタの当接部に向けて噴出させる構成としたことを特徴とするエンジンのバルブ潤滑装置。
【請求項2】
前記リフタは前記ガイド穴に摺接する円筒部と前記カムに摺接する円盤部とを有し、
前記貫通孔をこの円盤部を貫通したことを特徴とする請求項1に記載のエンジンのバルブ潤滑装置。
【請求項3】
前記オイルジェットの先端部を絞って形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンのバルブ潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−17027(P2006−17027A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195545(P2004−195545)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】