説明

エンジンの排気再循環制御装置

【課題】排気再循環の実施による運転フィーリングの悪化を回避しつつ燃料消費率を向上する。
【解決手段】EGRマップ選択部101は、車両加速度が基準値以下の通常の運転状態である場合、振動や騒音を感じ易い状態であると判断して通常EGRマップMP1を選択し、車両加速度が基準値を超えた過渡運転状態では、振動や騒音を感じ難い状態であると判断して燃費最良EGRマップMP2を選択する。そして、選択したEGRマップに切り換えるようEGRマップ切換部102に指示し、EGR制御部103で用いるEGRマップを切り換えることで、EGRの実施による運転フィーリングの悪化を回避しつつ燃料消費率を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気側から吸気側に再循環させる排気の再循環量を制御するエンジンの排気再循環制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両においては、排気エミッションを低減するため、排気ガスの一部を吸気系に再循環させる排気再循環(EGR)装置が用いられており、このEGR装置では、エンジンの吸気系と排気系とをバイパスするEGR通路を設け、このEGR通路に介装したEGR制御弁の開度をエンジン運転状態に応じて可変することでEGR量を制御するようにしている。
【0003】
この場合、EGR量の制御は、一般に、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づく領域毎に適切なEGR量を設定したマップを用いて行われ、このようなマップの例は、例えば、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−294265号公報
【特許文献2】特開2004−293392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のEGRマップによるEGR量の制御は、EGRの実施による振動や騒音を乗員が感じ取り、運転フィーリングが悪化することを防止するセッティングとされている。従って、従来のマップによるEGR量の設定は、燃料消費率の向上という観点からみたとき、必ずしも満足のいくものではない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、排気再循環の実施による運転フィーリングの悪化を回避しつつ、燃料消費率を向上することのできるエンジンの排気再循環制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるエンジンの排気再循環制御装置は、エンジンの排気側から吸気側に再循環させる排気の再循環量を制御するエンジンの排気再循環制御装置において、エンジン回転数及び負荷に基づく領域毎に、運転フィーリングの悪化を防止可能な前記再循環量を設定する第1のマップと、エンジン回転数及び負荷に基づく領域毎に、燃料消費率を最良とする前記再循環量を設定する第2のマップと、車両の加速度が基準値以下のとき、前記第1のマップを選択し、前記加速度が前記基準値を超えたとき、前記第2のマップを選択するマップ選択部と、前記再循環量を制御する際に、前記マップ選択部で選択されたマップを参照可能とし、非選択のマップを参照不可に切り換えるマップ切換部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、排気再循環の実施による運転フィーリングの悪化を回避しつつ、燃料消費率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】エンジン制御系の全体構成図
【図2】EGR制御に係る機能ブロック図
【図3】EGRマップの特性図
【図4】EGRマップ切換ルーチンのフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1において、符号1はエンジンであり、同図においては、シリンダヘッド2に、各気筒の吸気ポート或いは気筒内に燃料を噴射するインジェクタ30と、気筒内の混合気に火花放電して混合気を燃焼させる点火プラグ31とを配設した4気筒ガソリンエンジンの例を示している。
【0012】
このエンジン1の吸気系の構成として、各気筒の吸気ポートに連通するブランチ部を有する吸気マニホルド3がシリンダヘッド2に連設され、吸気マニホルド3の各ブランチが集合する吸気通路4に、スロットル弁5が介装されている。スロットル弁5には、電子制御装置(ECU)100からの制御信号によってスロットル開度を制御するアクチュエータ6が連設されている。
【0013】
更に、スロットル弁5の上流側に、インタークーラ7が介装され、インタークーラ7の上流側に、ターボ過給機8のコンプレッサ8aが介装され、コンプレッサ8a上流側に、エアクリーナ9が介装されている。エアクリーナ9の下流側には吸入空気量センサ10が介装されている。
【0014】
一方、エンジン1の排気系の構成としては、各気筒の排気ポートに連通するブランチ部を有する排気マニホルド11がシリンダヘッド2に連設され、排気マニホルド11の各ブランチが集合する排気通路12に、ターボ過給機8のタービン8bが介装されている。ターボ過給機8は、例えば、周知の可変ノズル式ターボ過給機(Variable Geometory Turbosupercharger:VGT)であり、タービン8bの周囲に設けられた可変ノズルのベーンに、ECU100からの制御信号によってベーン開度を制御するアクチュエータ13がリンク機構(図示せず)を介して連設されている。
【0015】
また、タービン8bの上流側の排気通路12は、排気再循環(EGR)通路14を介してスロットル弁5下流側の吸気通路4にバイパス接続されている。EGR通路14には、EGRガスを冷却するEGRクーラ15と、ECU100からの制御信号によってEGR通路14から吸気通路4に環流されるEGR量を制御するEGR制御弁16とが介装されている。更に、タービン8b下流側の排気通路12には、タービン8bを通過した排気を浄化する触媒コンバータ20が介装され、触媒コンバータ20の上流側に、空燃比センサ21が臨まされている。
【0016】
次に、ECU100を中心とする電子制御系について説明する。
ECU100は、CPU,ROM,RAM,I/Oインターフェイス等からなるマイクロコンピュータを備えて構成される電子制御装置であり、A/D変換器、タイマ、カウンタ、各種ロジック回路、各種駆動回路等を備えている。
【0017】
ECU100には、上述の吸入空気量センサ10や空燃比センサ21、クランク軸の回転位置を検出するクランク角センサ50、アクセルペダルの踏込み量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ51、車速を検出する車速センサ52、その他、図示しない各種センサ・スイッチ類が入力インターフェイスを介して接続されている。また、ECU100には、出力インターフェイスを介して、上述のインジェクタ30、スロットル弁5を開閉駆動するアクチュエータ6、ターボ過給機8のアクチュエータ13、EGR制御弁16、点火プラグ31に火花放電を発生させるための高電圧を誘起する点火コイル(図示せず)の通電を制御するイグナイタ32、その他、等の各種アクチュエータ類が接続されている。
【0018】
尚、ECU100は、CAN(Controller Area Network)等の通信プロトコルに基づく車内ネットワーク(図示せず)に接続されており、変速機を制御するトランスミッションECU、ブレーキを制御するブレーキECU等の車内ネットワークに接続される他のECUからの各種制御情報を車内ネットワークを介して受信すると共に、他のECUへの制御情報を車内ネットワークに送出する。
【0019】
ECU100は、上述の各種センサ・スイッチ類で検出した各種車両情報、車内ネットワークを介して入力される各種制御情報に基づいて、各種アクチュエータ類を駆動し、燃料噴射制御、点火時期制御、過給圧制御等のエンジン制御を実行する。このエンジン制御においては、クランク角センサ50からの信号に基づくエンジン回転数とアクセルセンサ51からの信号に基づくアクセル開度とに基づいて、目標空燃比を実現する空気量及び燃料噴射量を決定し、空燃比センサ21の信号に基づく目標空燃比へのフィードバック制御により、エンジンの燃焼状態を最適に制御する。
【0020】
また、ECU100は、所定の運転領域においてEGR制御を実行し、排気ガスの一部を吸気系に還流させて気筒内で再燃焼させることで、排気エミッションの低減、燃料消費率(燃費)の向上を図るようにしている。このEGR制御においては、EGR通路14に介装したEGR制御弁16の開度をエンジン運転状態に応じて制御することでEGR量を定めており、予め、実験或いはシミュレーション等により、エンジン回転数と負荷とに応じて最適なEGR量を定めたマップを作成し、ECU100内に保有している。
【0021】
具体的には、ECU100は、EGRマップとして、ドライバの運転フィーリングを重視してEGR量を設定する第1のマップと、燃費を重視してEGR量を設定する第2のマップとの2枚のマップを保有しており、ECU100は、これらの第1,第2の2枚のマップを運転状態に応じて切り換えてEGR制御を実行する。このため、ECU100は、図2に示すように、EGRマップ選択部101、EGRマップ切換部102、EGR制御部103をEGR制御に係る機能部として備えている。ECU100は、これらの機能部により、車両の運転状態に応じてマップを切り換えながらEGR制御を実行することで、EGRの実施による運転フィーリングの悪化を回避しながら燃費向上を図る。
【0022】
詳細には、EGRマップ選択部101は、EGRを実施する運転状態に応じて第1,第2のマップのうちの何れを選択するかを判定し、選択したマップへの切り換えを指示する。すなわち、EGR量を増加させるとドライバがエンジンの振動や騒音を感じ易く運転フィーリングの悪化を招く虞のある運転状態では、運転フィーリングを悪化させることのないEGR量を設定した運転フィーリング重視の第1のマップとしての通常EGRマップMP1を選択し、EGR量を増加させてもドライバが振動や騒音を感じ難い運転状態では、燃費が最良となるEGR量を設定した燃費重視の第2のマップとしての燃費最良EGRマップMP2を選択する。
【0023】
振動や騒音を感じ易い運転状態か振動や騒音を感じ難い運転状態かは、車両の加速度を基準値と比較して判断する。基準値は、EGR量の増加による振動や騒音をドライバが感じ取りにくくなる加速度(例えば、0.5m/s2程度の加速度)であり、予め実験或いはシミュレーションによって決定され、判定閾値としてECU100内に保有されている。
【0024】
EGRマップ選択部101は、車両加速度が基準値以下の通常の運転状態である場合には、振動や騒音を感じ易い状態であると判断して通常EGRマップMP1を選択し、車両加速度が基準値を超えた過渡運転状態では、振動や騒音を感じ難い状態であると判断して燃費最良EGRマップMP2を選択する。そして、選択したEGRマップに切り換えるようEGRマップ切換部102に指示し、EGR制御部103で用いるEGRマップを切り換える。
【0025】
尚、加速度は、車速センサ52で検出した車速から求めることができるが、加速度センサを備えている車両では、加速度センサで検出するようにしても良い。
【0026】
EGRマップ切換部102は、EGRマップ選択部101からの指示により、EGR制御部103で参照するEGRマップの参照先を、選択されたEGRマップのアドレスに切り換え、非選択のEGRマップを参照不可とする。例えば、初期状態においては、EGR制御部103で参照するEGRマップは、通常EGRマップMP1の参照アドレスに設定されており、燃費最良EGRマップMP2は参照不可とされている。これに対して、EGRマップ選択部101で燃費最良EGRマップMP2が選択された場合には、その指示に従って、EGR制御部103で参照するEGRマップの参照先を、通常EGRマップMP1の参照アドレスから燃費最良EGRマップMP2の参照アドレスに切り換え、通常EGRマップMP1を参照不可とする。
【0027】
通常EGRマップMP1、燃費最良EGRマップMP2は、それぞれ、図3(a),図3(b)に示され、それぞれのマップには、異なるEGR量が設定された略楕円形状の領域がエンジン回転数と負荷とに応じて設定されている。本実施の形態においては、エンジン負荷としてアクセル開度を用い、エンジン回転数とアクセル開度とを軸とするマップ平面上の各領域毎に、実験やシミュレーション等によって予め求めた最適なEGR量が設定され、領域が小さくなる程、EGR量が増加する特性を有している。尚、エンジン負荷として、スロットル開度、吸入空気量、燃料噴射量を用いても良い。
【0028】
通常運転時のEGR制御では、エンジン回転数及び負荷状態が高くなるほど燃焼状態が良くなるので、相対的に低温の排気ガスを増やしても燃焼状態に支障がないため、図3(a)に示すようなEGRマップとして振動及び騒音が発生する限界内でEGR量を増加させる。この通常EGRマップMP1に対して、図3(b)に示す燃費最良EGRマップMP2は、一番大きい領域は同じであるものの、相対的に小さい領域を多く保有する特性に設定されている。換言すれば、燃費最良EGRマップMP2は、通常EGRマップMP1と同じEGR量の領域同士の間隔が密になり、エンジン回転数及びアクセル開度の増加に対して早期にEGR量が増加する特性に設定されている。
【0029】
すなわち、通常EGRマップMP1は、振動や騒音の発生を抑制して運転フィーリングの悪化を防止可能なEGR量を格納している。一方、燃費最良EGRマップMP2は、通常EGRマップMP1に対して、エンジン回転数とアクセル開度とにより決定される領域毎に、EGR量を増加していった場合に燃費が最良となるEGR量を予め実験或いはシミュレーションによって求めて格納している。
【0030】
EGR制御部103は、EGRマップ切換部102で切り換え設定された参照アドレスのEGRマップを用いて、エンジン回転数及びアクセル開度に応じてEGR量を設定する。そして、設定したEGR量となるようEGR制御弁16の開度を制御することにより、設定量の排気ガスを吸気系に還流させて再燃焼させ、EGRの実施による運転フィーリングの悪化を回避しつつ排気エミッションの低減及び燃費向上を実現する。
【0031】
以上のマップ切換によるEGR制御は、具体的には、図4のフローチャートに示すECU100のソフトウエア処理によって実行される。以下、マップ切換によるEGR制御処理について、図4のフローチャートを用いて説明する。
【0032】
このEGR制御処理は、一定時間或いは所定周期毎に繰り返し実行されるルーチンであり、先ず、最初のステップS1において、現在の運転領域がEGR実施領域か、エンジンの冷態始動時の暖機完了前等のEGRを実施しない領域であるかを調べる。そして、現在の運転領域がEGR非実施領域である場合には、EGRマップ切換処理を実行することなく本ルーチンを抜け、EGR実施領域である場合、ステップS1からステップS2へ進んで車両の加速度を基準値と比較する。
【0033】
ステップS2において、加速度が基準値以下である場合、ステップS3で運転フィーリンを重視した通常EGRマップMP1を選択してEGR制御を実行し、本ルーチンを抜ける。一方、加速度が基準値を超えている場合には、ステップS2からステップS4へ進み、燃費を重視した燃費最良EGRマップMP2を選択してEGR制御を実行する。
【0034】
ステップS4で燃費最良EGRマップMP2を選択した後は、ステップS5へ進んで加速度の変化を監視し、加速度が変化した場合、ステップS6で燃費最良EGRマップMP2から運転フィーリングを重視した通常EGRマップMP1に切り換える。本実施の形態においては、燃費最良EGRマップMP2を用いてEGR制御を実行した後、加速度が所定の閾値(例えば、基準値に所定のヒステリシス分を加えた値)を下回るような変化がない限り、燃費最良EGRマップMP2を用いてのEGR制御を維持し、加速度が所定の閾値以下に変化した場合、燃費最良EGRマップMP2から通常EGRマップMP1に切り換えて振動や騒音の発生を未然に回避し、運転フィーリングの悪化を防止する。
【0035】
このように本実施の形態においては、車両加速度が基準値以下の運転状態では、運転フィーリングを重視してセッティングされたEGRマップを用いてEGR制御を行い、加速度が基準値を超える過渡運転状態では、燃費向上を重視してセッティングされたEGRマップを用いてEGR制御を行うため、EGRの実施による運転フィーリングの悪化を回避しつつ排気エミッションの低減及び燃費向上を実現することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン
14 EGR通路
16 EGR制御弁
100 電子制御装置
101 EGRマップ選択部
102 EGRマップ切換部
103 EGR制御部
MP1 通常EGRマップ(第1のマップ)
MP2 燃費最良EGRマップ(第2のマップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気側から吸気側に再循環させる排気の再循環量を制御するエンジンの排気再循環制御装置において、
エンジン回転数及び負荷に基づく領域毎に、運転フィーリングの悪化を防止可能な前記再循環量を設定する第1のマップと、
エンジン回転数及び負荷に基づく領域毎に、燃料消費率を最良とする前記再循環量を設定する第2のマップと、
車両の加速度が基準値以下のとき、前記第1のマップを選択し、前記加速度が前記基準値を超えたとき、前記第2のマップを選択するマップ選択部と、
前記再循環量を制御する際に、前記マップ選択部で選択されたマップを参照可能とし、非選択のマップを参照不可に切り換えるマップ切換部と
を備えることを特徴とするエンジンの排気再循環制御装置。
【請求項2】
前記マップ選択部は、前記第2のマップを選択した後、前記加速度が所定の閾値以下に変化したとき、前記第2のマップを非選択として前記第1のマップを選択することを特徴とする請求項1記載のエンジンの排気再循環制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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