説明

エンジン油組成物

【課題】低リン、低硫黄処方のエンジン油であっても、従来のエンジン油と同等又はそれ以上の酸化安定性、耐摩耗性、及び低摩擦性能を有し、劣化によってエンジン油粘度が上昇しないエンジン油組成物を提供すること。
【解決手段】(A)特定の構造を有する亜鉛ジチオホスフェート、(B)特定の構造を有する硫化(オキシ)モリブデンジチオカーバメート、(C)特定の有機モリブデン化合物、および(D)アミン系酸化防止剤を配合することを含有するエンジン油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のエンジン油組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、優れた酸化安定性を持ち、劣化によってオイルの粘度上昇を引き起こさないエンジン油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン油に求められることは、エンジン内部の潤滑を行い、清浄性を保つ機能に加え、近年の環境問題より、排ガス触媒を被毒させないエンジン油や省燃費機能を持つエンジン油等が求められている。こうした新しく求められている機能の中で、省燃費機能については、例えば、エンジン油の粘度を下げて粘性抵抗を少なくする方法や、有機モリブデン等を配合して潤滑時の摩擦係数を下げる方法等により、エンジン内部のエネルギー損失を少なくして対応してきた。
【0003】
エンジン内の燃焼によって生じる排気ガスには、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等が含まれており、これらの有害物質は、環境汚染、自然破壊、人体への悪影響等を引き起こすことが知られている。そこで排ガス触媒の改良等が行われてきたが、エンジン油に含まれるリン成分や硫黄成分は、排ガス触媒を被毒することが知られており、エンジン油内のリン成分や硫黄成分を削減することが必要になってきた。
【0004】
具体的にエンジン油内のリンを削減するということは、亜鉛ジチオホスフェートの含量を低減させるということである。亜鉛ジチオホスフェートは、耐摩耗性や酸化防止性を持つ添加剤であり、亜鉛ジチオホスフェートの削減は、エンジン油の耐摩耗性や酸化防止性の低下を引き起こす。耐摩耗性や酸化防止性は、配合の工夫や他の添加剤等で補うこともできたが、エンジン油の酸化劣化に伴い、エンジン油の粘度が上昇するという現象を抑えることはできなかった。エンジン油粘度の上昇は、エンジン油に含まれる成分の劣化や重合等によって引き起こされ、亜鉛ジチオフォスフェートを削減したエンジン油においては、粘度上昇が著しく大きくなる傾向にあった。
【0005】
エンジン油の粘度が上昇すると、エンジン内の粘性抵抗が増えるため、エンジン油の粘度を下げて粘性抵抗を少なくするという効果が低下する。それにより、エンジン油に求められている省燃費機能も低下してしまった。そこで低リン、低硫黄処方のエンジン油が劣化しても、粘度上昇しないエンジン油が求められてきた。
【0006】
そこで特定の硫黄化合物とアミン系酸化防止剤との組み合わせにより、粘度上昇を防止する方法(例えば、特許文献1を参照)や、カルボン酸系分散剤と硼酸系分散剤の組み合わせにより、粘度上昇を防止する方法(例えば、特許文献2を参照)、金属塩清浄剤の組み合わせにより、潤滑油寿命を延ばして粘度上昇を防止する方法(例えば、特許文献3を参照)等が知られている。しかし特許文献1の方法は、硫黄化合物が増加してしまうという問題と共に、リン含量を削減したエンジン油では、粘度の上昇を防止する効果が不十分であった。また、特許文献2、3の方法では、リン含量を削減したエンジン油の粘度上昇を防止する効果が不十分であり、更に、耐磨耗性等のエンジン油に求められる基本的な性能も不十分であった。
【0007】
【特許文献1】特表2002−507657号公報
【特許文献2】特開2003−193078号公報
【特許文献3】特表2003−517092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、低リン、低硫黄処方のエンジン油であっても、従来のエンジン油と同等又はそれ以上の酸化安定性、耐摩耗性、及び低摩擦性能を有し、劣化によってエンジン油粘度が上昇しないエンジン油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者等は、低リン処方のエンジン油について鋭意検討し、特定の構造のエステル化合物を配合することにより、低リン処方であっても、耐摩耗性、酸化防止性、持続性及び低摩擦性能に優れ、劣化しても粘度上昇しない、省燃費効果に優れたエンジン油を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち本発明は、エンジン油組成物全体に対し、
(A)成分として下記の一般式(1)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R及びRは炭化水素基を表わし、aは0〜1/3の数を表わす。)で表わされる亜鉛ジチオホスフェートをリン含量として100〜500質量ppm、
【0013】
(B)成分として、下記の一般式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R〜Rは炭化水素基を表わし、X〜Xは硫黄原子又は酸素原子を表わす。)で表わされる硫化(オキシ)モリブデンジチオカーバメートをモリブデン含量として50〜1500ppm、(C)成分として、硫黄原子及びリン原子を含まない有機モリブデン化合物をモリブデン含量として50〜1500ppm、(D)成分として、アミン系酸化防止剤を含有することを特徴とするエンジン油組成物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は、酸化安定性、耐摩耗性、及び低摩擦性に優れ、エンジン油が劣化してもエンジン油粘度が上昇しない、低リン処方のエンジン油を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に用いられる潤滑基油に特に制約はなく、従来潤滑基油として慣用されている一般的な潤滑油、例えば、鉱油、合成油及びこれらの混合物が挙げられる。より具体的には、ポリ-α-オレフィン、エチレン-α-オレフィン共重合体、ポリブテン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、アルキル置換ジフェニルエーテル、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、炭酸エステル、シリコーン油、フッ素化油等の合成油、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油あるいはこれらを精製した精製鉱油類等を用いることができる。これらの基油はそれぞれ単独で用いてもよく、混合物で用いてもよい。
【0018】
本発明で用いられる潤滑基油は、硫黄含量が200ppm以下で、100℃の粘度が3〜20mm2/Sの範囲にあるものが好ましい。中でも、硫黄含量が100ppm以下で、100℃の粘度が3〜10mm2/Sのものが好ましく、硫黄含量が100ppm以下で、100℃の粘度が3〜10mm2/Sの鉱油がより好ましい。排ガス触媒の活性低下が起こりやすくなるため、潤滑基油の硫黄含量はなるべく少ない方が好ましい。
【0019】
本発明の(A)成分について説明する。本発明の(A)成分は、一般式(1)で表わされる亜鉛ジチオホスフェートである。
【0020】
一般式(1)において、R及びRは炭化水素基を表わす。炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
【0021】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ステアリル、エイコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2−ブチルオクチル、2−ブチルデシル、2−ヘキシルオクチル、2−ヘキシルデシル、2−オクチルデシル、2−ヘキシルドデシル、2−オクチルドデシル、2−デシルテトラデシル、2−ドデシルヘキサデシル、2−ヘキサデシルオクタデシル、2−テトラデシルオクタデシル、モノメチル分枝−イソステアリル等が挙げられる。
【0022】
アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。
【0023】
アリール基としては、例えば、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、スチレン化フェニル、p−クミルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル基等が挙げられる。
【0024】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0025】
これらの炭化水素基の中で、R及びRとしては、アルキル基が好ましく、2級アルキル基が更に好ましい。炭素数は、3〜14であることが好ましく、3〜10であることが更に好ましく、3〜8であることが最も好ましい。R及びRは、同一の炭化水素基でも異なる炭化水素基でもよい。
【0026】
また、一般式(1)において、a=0の場合、中性亜鉛ジチオホスフェート(中性塩)と呼ばれ、aが1/3の場合は、塩基性亜鉛ジチオホスフェート(塩基性塩)と呼ばれている。
亜鉛ジチオホスフェートは、これら中性塩と塩基性塩の混合物であるため、aは0〜1/3の数で表される。aの数は亜鉛ジチオホスフェートの製法によって異なるが、0.08〜0.3が好ましく、0.15〜0.3が更に好ましく、0.18〜0.3が最も好ましい。aが0.3より大きくなると、加水分解安定性が悪くなる場合があり、aが0.08より小さくなると、配合した潤滑油の耐磨耗性が悪くなる場合がある。
【0027】
本発明のエンジン油組成物全量に対する、(A)成分である一般式(1)で表わされる亜鉛ジチオホスフェートの含量は、リン含量として100〜500質量ppmであり、好ましくは150〜500質量ppm、更に好ましくは200〜500質量ppm、最も好ましくは250〜500質量ppmである。(A)成分の含量がリン含量として100質量ppm未満では、耐摩耗性及び酸化防止性が不充分となり、500質量ppmを超えると、排ガス浄化触媒の活性低下が起こり易くなる。
【0028】
次に、本発明の(B)成分について説明する。本発明の(B)成分は、前記一般式(1)で表される、硫化(オキシ)モリブデンジチオカーバメート(MoDTC)である。
一般式(1)において、R3〜R6は炭化水素基であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等である。
【0029】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2―エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ステアリル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2―ブチルオクチル、2―ブチルデシル、2―ヘキシルオクチル、2―ヘキシルデシル、2―オクチルデシル、2―ヘキシルドデシル、2―オクチルドデシル、2―デシルテトラデシル、2―ドデシルヘキサデシル、2―ヘキサデシルオクタデシル、2―テトラデシルオクタデシル、モノメチル分枝―イソステアリル等が挙げられる。
【0030】
アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。
【0031】
アリール基としては、例えば、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、スチレン化フェニル、p―クミルフェニル、α―ナフチル、β―ナフチル基等が挙げられる。
【0032】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0033】
3〜R6は互いに同一でも異なってもよいが、本発明のエンジン油組成物のロングドレイン化を図る上で、R3〜R6は互いに異なっているのが好ましい。
【0034】
また、R3〜R6はアルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基が更に好ましい。炭素数があまりに少ないと、潤滑基油への溶解性が乏しくなり、あまりに炭素数が多いと、融点が高くなるとともに活性が低くなることから、R3〜R6は炭素数6〜18のアルキル基が好ましく、炭素数8〜15のアルキル基が更に好ましく、炭素数8〜13のアルキル基が最も好ましい。
【0035】
また、一般式(1)において、X〜Xは硫黄原子又は酸素原子であり、X〜Xの全てが硫黄原子又は酸素原子であってもよく、4つのX〜Xが硫黄原子と酸素原子の混合であってもよいが、潤滑性及び腐食性を考慮した場合、硫黄原子/酸素原子の存在比が1/3〜3/1であるのが特に好ましい。
【0036】
次に、本発明の(C)成分について説明する。本発明の(C)成分は、硫黄原子及びリン原子を含まない有機モリブデン酸アミン塩のことであり、より具体的には、有機アミン化合物に5価又は6価のモリブデン原子を有する化合物を反応させたものである。有機アミン化合物は、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれでもよく、例えば、モノアルキルアミン、モノアルケニルアミン、モノアルカノールアミン、モノアリールアミン等の1級アミン;ジアルキルアミン、ジアルケニルアミン、ジアルカノールアミン、ジアリールアミン等の2級アミン;トリアルキルアミン、トリアルケニルアミン、トリアルカノールアミン、トリアリールアミン、ピリジン等の3級アミンが挙げられるが、これらの中でも、一般式(3)で表される2級アミン化合物が好ましい。
【0037】
【化3】

【0038】
一般式(3)において、R7、R8は水素原子又は炭化水素基であり、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等である。
【0039】
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、2級ブチル、ターシャリブチル、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、ターシャリペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2―エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ステアリル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、トリアコンチル、2―ブチルオクチル、2―ブチルデシル、2―ヘキシルオクチル、2―ヘキシルデシル、2―オクチルデシル、2―ヘキシルドデシル、2―オクチルドデシル、2―デシルテトラデシル、2―ドデシルヘキサデシル、2―ヘキサデシルオクタデシル、2―テトラデシルオクタデシル、モノメチル分枝―イソステアリル等が挙げられる。
【0040】
アルケニル基としては、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。
【0041】
アリール基としては、例えば、フェニル、トルイル、キシリル、クメニル、メシチル、ベンジル、フェネチル、スチリル、シンナミル、ベンズヒドリル、トリチル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、フェニルフェニル、ベンジルフェニル、スチレン化フェニル、p―クミルフェニル、α―ナフチル、β―ナフチル基等が挙げられる。
【0042】
シクロアルキル基、シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、メチルシクロペンテニル、メチルシクロヘキセニル、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0043】
これらの中でも、R7、R8はアルキル基、アルケニル基が好ましく、アルキル基が更に好ましい。更に詳細には、R7、R8は互いに同一でも異なってもよい2級アミンが好ましい。また、炭素数があまりに少ないと、潤滑基油への溶解性が乏しくなり、あまりに炭素数が多いと、融点が高くなるとともに活性が低くなることから、R7、R8は炭素数6〜20のアルキル基が好ましく、炭素数8〜18のアルキル基が更に好ましく、炭素数10〜15のアルキル基が最も好ましい。
【0044】
また、一般式(3)で表わされるアミン化合物と反応させる、5価又は6価のモリブデン化合物としては、例えば、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO・nHO)、モリブデン酸(HMoO)、モリブデン酸アルカリ金属塩(MMoO)、モリブデン酸アンモニウム{(NHMoO又は(NH[Mo24]・4HO}、MoCl、MoOCl、MoOCl、MoOBr、MoCl等が挙げられるが、反応生成物である有機モリブデン酸アミン塩の収率を考慮すると、6価のモリブデン化合物が好ましい。6価のモリブデン化合物の中では、入手しやすい三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸アルカリ金属塩、モリブデン酸アンモニウム等が好ましく、三酸化モリブデン又はその水和物が更に好ましい。
【0045】
一般式(3)で表わされるアミン化合物と、5価又は6価のモリブデン化合物との反応比は、アミン1モルに対して、モリブデン原子が0.5〜5モルの比であることが好ましい。モリブデン原子のモル比が0.5よりも少ない場合には、モリブデンと反応していない遊離のアミンが多く、5よりも多い場合には未反応のモリブデン化合物が多くなり、いずれの場合も反応精製物中の有機モリブデン酸アミン塩の濃度が低下するからである。更に好ましい反応比は、アミン1モルに対して、モリブデン原子が0.6〜4モルであり、最も好ましくは、0.9〜2.5モルである。
【0046】
本発明の(C)成分である、有機モリブデン酸アミン塩の製造方法は、上記のアミン化合物と上記の5価又は6価のモリブデン化合物を、50〜120℃で1〜10時間、撹拌、混合すればよい。この時、溶媒を加えて反応することもできる。使用できる溶媒としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、イソオクタン、ベンセン、トルエン、キシレン、テトラリン、デカリン、ミネラルスピリット、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の炭化水素系有機溶媒;エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル等の非プロトン性極性溶媒;ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素系燃料油;鉱油、ポリブテン、アルキルベンゼン等の炭化水素系潤滑性基油等、そして水が挙げられる。これらの溶媒の中でも、水は反応を促進する効果があり、アミン化合物1モルに対して水を1〜5モル添加することが好ましく、1.5〜4モルであることが更に好ましく、1.8〜3モルであることが最も好ましい。
【0047】
反応終了後、過剰の水は、減圧脱水等の方法により除去される。その他の溶媒は、必要に応じて除去すればよい。例えば、炭化水素系潤滑性基油を用いた場合には、脱水終了後、炭化水素系潤滑性基油を除くことなく潤滑油添加剤等として使用することもできる。
【0048】
次に、本発明の(D)成分について説明する。本発明の(D)成分は、アミン系酸化防止剤である。アミン系酸化防止剤としては、例えば、1―ナフチルアミン、フェニル―1―ナフチルアミン、p―オクチルフェニル―1―ナフチルアミン、p―ノニルフェニル―1―ナフチルアミン、p―ドデシルフェニル―1―ナフチルアミン、フェニル―2―ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;N,N’―ジイソプロピル―p―フェニレンジアミン、N,N’―ジイソブチル―p―フェニレンジアミン、N,N’―ジフェニル―p―フェニレンジアミン、N,N’―ジ―β―ナフチル―p―フェニレンジアミン、N―フェニル―N’―イソプロピル―p―フェニレンジアミン、N―シクロヘキシル―N’―フェニル―p―フェニレンジアミン、N―1,3―ジメチルブチル―N’―フェニル―p―フェニレンジアミン、ジオクチル―p―フェニレンジアミン、フェニルヘキシル―p―フェニレンジアミン、フェニルオクチル―p―フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系酸化防止剤;ジピリジルアミン、ジフェニルアミン、p,p’―ジ―n―ブチルジフェニルアミン、p,p’―ジ―t―ブチルジフェニルアミン、p,p’―ジ―t―ペンチルジフェニルアミン、p,p’―ジオクチルジフェニルアミン、p,p’―ジノニルジフェニルアミン、p,p’―ジデシルジフェニルアミン、p,p’―ジドデシルジフェニルアミン、p,p’―ジスチリルジフェニルアミン、p,p’―ジメトキシジフェニルアミン、4,4’―ビス(4―α,α―ジメチルベンゾイル)ジフェニルアミン、p―イソプロポキシジフェニルアミン、ジピリジルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、フェノチアジンカルボン酸エステル、フェノセレナジン等のフェノチアジン系酸化防止剤が挙げられる。
【0049】
これらの中でも、エンジン油の増粘を抑制する効果に優れていることから、ジフェニルアミン系酸化防止剤の使用が好ましい。
【0050】
本発明のエンジン油組成物において、(B)成分の含量は、モリブデン含量として50〜1500質量ppmであることが好ましく、350〜1500質量ppmであることがより好ましい。(B)成分のモリブデン含量が50質量ppm未満の場合、摩擦係数を低下させる性能に劣ったり、エンジン油の粘度が上昇したりする場合があり、1500質量ppmを超えると、潤滑基油へ溶解させることが困難になる場合や、酸化劣化時にスラッジが発生する場合がある。
【0051】
(C)成分の含量は、モリブデン含量として50〜1500質量ppmであることが好ましく、100〜1000量ppmがより好ましく、100〜700質量ppmが更に好ましい。50質量ppm未満の場合、酸化劣化時にエンジン油の粘度が上昇する場合があり、1500質量ppmを超えると、潤滑基油へ溶解させることが困難になる場合や、酸化劣化時にスラッジが発生する場合がある。
【0052】
更に、(B)成分と(C)成分の合計量は、モリブデン含量として1500質量ppm以下であることが好ましい。1500質量ppmを超えると、潤滑基油へ溶解させることが困難になる場合や、スラッジが発生する場合がある。
【0053】
(D)成分の含量は、0.1〜2質量%が好ましく、0.1〜1.5質量%がより好ましく、0.2〜1.0質量%が更に好ましく、0.2〜0.7質量%が最も好ましい。0.1質量%未満の場合は、酸化劣化時にエンジン油の粘度が上昇する場合があり、2質量%を超えると、添加量に見合う効果を得られない場合がある。
【0054】
本発明のエンジン油組成物全体のリン濃度は、(A)成分によるところが多いが、下記に記すその他の成分の中にはリン原子を含有するものもある。これらの成分を添加した場合、リン濃度は上昇するが、エンジン油組成物全体に対するリン濃度は500ppm以下が好ましい。また、本発明のエンジン油組成物全体の硫黄濃度は、3000ppm以下が好ましく、2500ppm以下がさらに好ましい。これらのリン濃度や硫黄濃度が好ましい範囲を超えると、排ガス触媒の活性低下が起こる場合がある。
【0055】
リンや硫黄成分を過度に配合した従来のエンジン油組成物であれば、エンジン油組成物の劣化抑制、粘度上昇の抑制、長寿命、低摩擦効果等は基本的に可能である。本発明のエンジン油組成物は、極力リンと硫黄成分を低減したものである。こうした低リン低硫黄のエンジン油に、各種の添加剤を配合した場合は、従来のリンや硫黄成分を過度に配合したエンジン油組成物と違い、添加剤の示す挙動が大きく変わることが知られている。本発明のエンジン油組成物は、低リン低硫黄という今までと違う環境下において、劣化制御、粘度上昇の制御、長寿命、低摩擦効果を著しく向上することができるものである。
【0056】
更に、本発明のエンジン油組成物は、公知の潤滑油添加剤の添加を拒むものではなく、使用目的に応じて、フェノール系酸化防止剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤などを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。但し、これらの中でリン系及び硫黄系の添加剤を使用する場合は、エンジン油中の総リン含量及び総硫黄含量が増えるので、その他のリン化合物や硫黄化合物は、出来ることであれば、なるべく使用しないことが好ましい。
【0057】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6―ジ―ターシャリブチルフェノール(以下、ターシャリブチルをt−ブチルと略記する。)、2,6―ジ―t−ブチル−p―クレゾール、2,6―ジ―t―ブチル―4―メチルフェノール、2,6―ジ―t―ブチル―4―エチルフェノール、2,6―ジ―t―ブチル―4―オクチルフェノール、2,4―ジメチル―6―t−ブチルフェノール、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ―t−ブチルフェニル)プロピオン酸ドデシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ―t−ブチルフェニル)プロピオン酸デシル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ―t−ブチルフェニル)プロピオン酸オクチル等が挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤の好ましい配合量は、基油に対して0.1〜1質量%である。
【0058】
極圧剤としては、例えば、硫化油脂、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルスルフィド等の硫黄系添加剤;モノオクチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリフェニルフォスファイト、トリブチルフォスファイト、チオリン酸エステル等のリン系化合物;チオリン酸金属塩、チオカルバミン酸金属塩、酸性リン酸エステル金属塩等の有機金属化合物などが挙げられる。これら極圧剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01〜1質量%である。
【0059】
油性向上剤としては、例えば、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;オレイルグリセリンエステル、ステリルグリセリンエステル、ラウリルグリセリンエステル等のエステル類;ラウリルアミド、オレイルアミド、ステアリルアミド等のアミド類;ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン等のアミン類;ラウリルグリセリンエーテル、オレイルグリセリンエーテル等のエーテル類が挙げられる。これら油性向上剤の好ましい配合量は、基油に対して0.1〜5質量%である。
【0060】
清浄剤としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどのスルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフェート及びこれらの過塩基性塩が挙げられる。これらの中でもリン及び硫黄原子のないサリシレート系の清浄剤が好ましい。これらの清浄剤の配合量は、基油に対して0.5〜10質量%である。
【0061】
分散剤としては、例えば、分子量約700〜3000のアルキル基またはアルケニル基が付加されたコハク酸イミド、コハク酸エステル、ベンジルアミン又はこれらのホウ素変性物等が挙げられる。これらの分散剤の好ましい配合量は、基油に対して0.5〜10質量%である。
【0062】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリ(C1〜18)アルキルメタクリレート、(C1〜18)アルキルアクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ジエチルアミノエチルメタクリレート/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、エチレン/(C1〜18)アルキルメタクリレート共重合体、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、スチレン/イソプレン水素化共重合体等が挙げられる。あるいは、分散性能を付与した分散型もしくは多機能型粘度指数向上剤を用いてもよい。平均分子量は10,000〜1,500,000程度である。これらの粘度指数向上剤の好ましい配合量は、基油に対して0.1〜20質量%である。
【0063】
流動点降下剤としては、例えば、ポリアルキルメタクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルスチレン、ポリビニルアセテート等が挙げられ、平均分子量は1000〜100,000である。これらの流動点降下剤の好ましい配合量は、基油に対して0.005〜3質量%である。
【0064】
防錆剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、酸化パラフィンワックスカルシウム塩、酸化パラフィンワックスマグネシウム塩、牛脂脂肪酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩、アルケニルコハク酸又はアルケニルコハク酸ハーフエステル(アルケニル基の分子量は100〜300程度)、ソルビタンモノエステル、ノニルフェノールエトキシレート、ラノリン脂肪酸カルシウム塩等が挙げられる。これらの防錆剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01〜3質量%である。
【0065】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール ベンゾイミダゾール ベンゾチアゾール テトラアルキルチウラムジサルファイド等が挙げられる。これら腐食防止剤の好ましい配合量は、基油に対して0.01〜3質量%である。
【0066】
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシリコーン、トリフルオロプロピルメチルシリコーン、コロイダルシリカ、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、アルコールエトキシ/プロポキシレート、脂肪酸エトキシ/プロポキシレート、ソルビタン部分脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの消泡剤の好ましい配合量は、基油に対して0.001〜0.1質量%である。
【0067】
本発明のエンジン油組成物は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、ジェットエンジン等の内燃機関用の潤滑油として使用できる。中でもガソリンエンジン用の潤滑油として好適に使用することができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明の潤滑油組成物を詳細に説明する。尚、以下の実施例中、%は特に記載が無い限り質量基準である。
【0069】
まず、基油として下記性状の鉱物油を使用し、各種添加剤を添加した基準油を作り、それに本発明の潤滑剤を添加して試験を行った。基油の性状及び、試験に使用した各成分及び配合量は以下のとおりである。
【0070】
<基油>
鉱油系高度VI油。動粘度4.1mm/s(100℃)、18.3mm/s(40℃)、粘度指数(VI)=126、硫黄含量80ppm
<基準油配合表>
基油 100質量部
メタクリレート系粘度指数向上剤 3.5質量部
コハク酸イミド系分散剤 5.0質量部
サリシレート系清浄剤 2.5質量部
【0071】
<A成分>
(A−1) R1=2−オクチル、R2=2−オクチルの亜鉛ジチオホスフェート リン含量7.8%
(A−2) R1=n−ブチル、R2=1−オクチルの亜鉛ジチオホスフェート リン含量8.2%
【0072】
<B成分>
(B−1) 一般式(2)においてR〜Rが2−エチルヘキシル基であり、
1及びX2が硫黄原子、X3及びX4が酸素原子であるMoDTC
モリブデン含量20.9%
(B−2) 一般式(2)においてR及びRが2−エチルヘキシル基であり、
及びRがイソトリデシル基であり、X1及びX2が硫黄原子、
3及びX4が酸素原子であるMoDTC
モリブデン含量18.1%
【0073】
<C成分>
(C−1)
攪拌機、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えたガラス製反応容器に、三酸化モリブデン1モル及び水540gを仕込み、窒素気流下で攪拌して三酸化モリブデンを分散させた。この後、窒素気流下で50〜60℃に保ちつつ1.0モルの、ジ−n−オクチルアミンを1時間かけて滴下し、更に1時間同温度で熟成した後、攪拌を停止して静置し目視したところ、水中に分散していた三酸化モリブデン粉末は消失しており、反応液は水層と油層からなる2層に分離していた。この後、水層を分離し、油層を100℃で1.4kPa以下に減圧して水分を除去して、淡青色オイル状のC−1を得た。また、C−1のIR分析では、三酸化モリブデン由来の990cm−1付近の吸収が消失していることから、原料の三酸化モリブデンが完全に反応していることを確認した。モリブデン含量23.8%
(C−2)
C−1のジ−n−オクチルアミンに代えて、1.0モルのモノ牛脂由来アルキルアミンを使用した以外はMoAm1と同様にしてC−2を得た。C−2をIR分析することにより、原料の三酸化モリブデンが完全に反応していることを確認した。モリブデン含量22.4%
【0074】
<D成分>
(D−1) p,p’―ジドデシルジフェニルアミン
(D−2) フェニルオクチル―p―フェニレンジアミン
【0075】
<その他成分>
(E−1) 3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ―t−ブチルフェニル)プロピオン酸
オクチル
【0076】
【表1】

(カッコ内は配合量で単位は質量%、下段はそれぞれの添加剤の組成物全体に対するリン又はモリブデン量)
【0077】
表1に示した組成物は以下の方法で試験を行った。
<試験油の劣化試験>
表1に示した組成物を、JIS K−2514(潤滑油−酸化安定度試験方法)に準拠して、触媒として銅板と鉄板を入れたガラス容器に試料250mlを入れ、1300rpmで空気を巻き込むよう攪拌しながら、165.5℃で168時間加熱することにより、試験油を酸化劣化させた。劣化試験前及び試験後の試験油について、動粘度(40℃)を測定した。その結果から、粘度比(劣化後の動粘度を劣化前の動粘度で割った値)が小さいものほど、劣化しても粘度が上がらないことを示す。また、劣化後の試験油をろ紙でろ過し、ヘキサンでよく洗浄したあと乾燥して、スラッジの重量を測定した。
【0078】
<潤滑性能試験>
本発明品及び比較品の潤滑性組成物(新油)を用いて、シェル式高速四球試験機にて、荷重30kg、室温、回転数1,500rpm、時間10分間の条件で、平均摩擦係数及びボールの摩耗痕径を測定した。
【0079】
【表2】

【0080】
スラッジ量については0.1g未満であれば良好な酸化安定性があると判断できるので、本発明品は全て良好な酸化安定性を有していることがわかる。また、平均摩擦係数は0.1以下であれば低摩擦エンジンオイルと呼ばれることから、本発明品は全て低摩擦性能を有していることがわかる。更に、磨耗痕は0.3mm未満であれば良好な耐磨耗性を示しているといえるので、本発明品は全て良好な耐摩耗性を有していることがわかる。そして、本発明品の劣化後の粘度については明らかに上昇が抑えられている。以上の結果から本発明のエンジン油組成物は、酸化安定性、低摩擦性、及び耐磨耗性が良好で、劣化してもオイルの粘度が上昇しないエンジンオイルであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン油組成物全体に対し、
(A)成分として下記の一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは炭化水素基を表わし、aは0〜1/3の数を表わす。)
で表わされる亜鉛ジチオホスフェートをリン含量として100〜500質量ppm、
(B)成分として、下記の一般式(2)
【化2】

(式中、R〜Rは炭化水素基を表わし、X〜Xは硫黄原子又は酸素原子を表わす。)で表わされる硫化(オキシ)モリブデンジチオカーバメートをモリブデン含量として50〜1500ppm、
(C)成分として、硫黄原子及びリン原子を含まない有機モリブデン化合物をモリブデン含量として50〜1500ppm、および
(D)成分として、アミン系酸化防止剤を含有するエンジン油組成物。
【請求項2】
前記エンジン油組成物全体のリン濃度が500ppm以下であることを特徴とする請求項1記載のエンジン油組成物。
【請求項3】
前記エンジン油組成物全体の硫黄濃度が3000ppm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のエンジン油組成物。
【請求項4】
(C)成分が下記の一般式(3)
【化3】

(式中、R7及びR8は水素原子又は炭化水素基を表わすが、同時に水素原子であることは無い。)で表されるアミンと、5価又は6価のモリブデン原子を有する化合物との反応物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のエンジン油組成物。
【請求項5】
(D)成分がジフェニルアミン系酸化防止剤であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のエンジン油組成物。
【請求項6】
(C)成分がモリブデン含量として50〜500ppmであり、(B)成分と(C)成分の合計のモリブデン含量が1500ppm以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のエンジン油組成物。
【請求項7】
前記エンジン油組成物に対して、(D)成分が0.1〜2.0質量%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のエンジン油組成物。
【請求項8】
フェノール系酸化防止剤、極圧剤、油性向上剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食防止剤及び消泡剤からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のエンジン油組成物。

【公開番号】特開2006−131766(P2006−131766A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322597(P2004−322597)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)
【Fターム(参考)】