説明

エンジン用固定ガイド

【課題】ベースプレートの板厚を増加させることなくガイド長手方向に沿った所定曲率の摺接曲面による安定したチェーン軌道を保持するとともに、伝動チェーンから過度の押圧荷重を受けてもベースプレートのガイド長手方向の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を防止して優れた耐久性を発揮するエンジン用固定ガイドを提供すること。
【解決手段】ベースプレート120のガイド長手方向に沿った補強用細溝部122が、ベースプレート120のプレート裏面に面押し加工具による圧縮応力を作用させて塑性変形させる面押し加工により形成されているとともにベースプレート120に設けたエンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に向けて延在しているエンジン用固定ガイド100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン用タイミングシステムにおいて伝動チェーンを摺接走行させるためのエンジン用固定ガイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン用タイミングシステムにおいて伝動チェーンからタイミングチェーンを摺接走行させるための固定ガイドとして、エンジン内の駆動側スプロケットと従動側スプロケットとの間を周回走行するタイミングチェーンに摺接させて所定のチェーン軌道に沿って走行案内するものが知られている。
【0003】
そして、このような固定ガイドは、伝動チェーンをガイド長手方向に沿って摺接走行させる摺接曲面を形成したシューとこのシューの裏面をガイド長手方向に沿って支持するベースプレートとを備え、これらのシューとベースプレートとがガイド長手方向に沿って所定の曲率を確保した状態で維持して伝動チェーンを案内走行させるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−292855号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の固定ガイドは、シューとベースプレートがチェーン軌道を適切に保つためにガイド長手方向に沿って所定の曲率を保持しているが、伝動チェーンから過度の押圧荷重が常時負荷されるため、鋼板からなるベースプレートであっても長期使用するとベースプレートのガイド長手方向の屈曲変形やエンジン取付用ボルトのボルト取り付け位置で折損を生じる虞れがあり、また、このようなベースプレートの屈曲変形や折損を防止するためにベースプレートの高強度化を図ろうとすると複雑なベース形態を造形したり、高強度材を採用したりするなどの厄介な問題があり、ベースプレートの板厚を増して強度アップを図ろうとすると、エンジン内における設置スペース上の制約を受けて実現できないという問題があった。
【0005】
本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、ベースプレートの板厚を増加させることなくガイド長手方向に沿った所定曲率の摺接曲面による安定したチェーン軌道を保持するとともに、伝動チェーンから過度の押圧荷重を受けてもベースプレートのガイド長手方向の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を防止して優れた耐久性を発揮するエンジン用固定ガイドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本請求項1に係る発明は、伝動チェーンをガイド長手方向に沿って摺接走行させる摺接曲面を形成したシューと、該シューの裏面をガイド長手方向に沿って支持する金属製のベースプレートとを備えたエンジン用固定ガイドにおいて、前記ベースプレートのプレート表面またはプレート裏面に面押し加工具による圧縮応力を作用させて塑性変形させる面押し加工により形成されているとともに前記ベースプレートに設けたエンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に向けて延在していることによって、前述した課題を解決するものである。
【0007】
本請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたエンジン用固定ガイドの構成に加えて、前記補強用細溝部が、前記ベースプレートのプレート裏面においてガイド長手方向の中央部位からガイド長手方向のベース端部位に向けて徐々に深く形成されていることによって、前述した課題をさらに解決するものである。
【0008】
本請求項3に係る発明は、請求項1に記載されたエンジン用固定ガイドの構成に加えて、前記補強用細溝部が、前記ベースプレートのプレート裏面においてガイド長手方向のベース端部位からガイド長手方向の中央部位に向けて徐々に深く形成されていることによって、前述した課題をさらに解決するものである。
【0009】
本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載されたエンジン用固定ガイドの構成に加えて、前記補強用細溝部の溝端が、舳先状に形成されていることによって、前述した課題をさらに解決するものである。
【0010】
本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載されたエンジン用固定ガイドの構成に加えて、前記補強用細溝部が、前記伝動チェーンを構成するリンクプレートの摺動走行位置に合致したベースプレートの対向位置に設けられていることによって、前述した課題をさらに解決するものである。
【0011】
本請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載されたエンジン用固定ガイドの構成に加えて、前記補強用細溝部が、前記ベースプレートの内部に向けて矩形状に凹んだ断面形状を有していることによって、前述した課題をさらに解決するものである。
【0012】
本請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載されたエンジン用固定ガイドの構成に加えて、前記補強用細溝部が、前記ベースプレートのガイド長手方向に沿って並列状態で複数配置されていることによって、前述した課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエンジン用固定ガイドは、伝動チェーンをガイド長手方向に沿って摺接走行させる摺接曲面を形成したシューと、このシューの裏面をガイド長手方向に沿って支持する金属製のベースプレートとを備えていることにより、伝動チェーンを摺接させてチェーン軌道に沿って案内走行させることができるとともに、以下のような格別の効果を奏することができる。
【0014】
すなわち、本請求項1に係る発明のエンジン用固定ガイドは、ベースプレートのガイド長手方向に沿った補強用細溝部がベースプレートのプレート表面またはプレート裏面に面押し加工具による圧縮応力を作用させて塑性変形させる面押し加工により形成されていることによって、補強用細溝部がベースプレート形態を安定させてプレート強度を大幅に向上させるため、ベースプレートの板厚を増加させることなくガイド長手方向に沿った伝動チェーンの安定した軌道形態を長期にわたって確保することができるとともに、伝動チェーンから過度の押圧荷重を受けてもベースプレートの変形を防止して優れた耐久性を発揮することができる。
【0015】
特に、補強用細溝部がシューに対するベースプレートのプレート裏面に設けられている場合、走行する伝動チェーンから過度の押圧荷重を受けてプレート裏面のガイド長手方向に圧縮応力が作用してもベースプレートの屈曲変形を抑制するため、ベースプレートのガイド長手方向の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損をさらに防止することができる。
【0016】
また、補強用細溝部がシューに対するベースプレートのプレート表面に設けられている場合、エンジン内の高温環境下でエンジン用固定ガイドを使用しても補強用細溝部がエンジン用固定ガイドに付着した潤滑油のガイド長手方向に沿った内部油通路として機能するため、内部油通路がシュー裏面とベースプレートのプレート表面との間に蓄熱されがちな伝動チェーンとシューとの摩擦熱をガイド外へ放熱することができる。
【0017】
そして、補強用細溝部がベースプレートに設けたエンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に向けて延在していることにより、エンジン取付用ボルトに支持されるベースプレートのガイド長手方向の全域に亘って塑性変形により加工硬化した加工硬化領域が形成されるため、ベースプレートがエンジン取付用ボルトから支持反力を受けてもベースプレートのガイド長手方向の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を確実に防止することができる。
【0018】
また、本請求項2に係る発明のエンジン用固定ガイドは、請求項1に係るエンジン用固定ガイドが奏する効果に加えて、補強用細溝部がベースプレートのプレート裏面においてガイド長手方向の中央部位からガイド長手方向のベース端部位に向けて徐々に深く形成されていることにより、伝動チェーンがフリースパン領域で振動する際に、補強用細溝部の溝底がガイド長手方向の全域に亘って均一に形成されている場合と比較して、プレート裏面のベース端部位に強固に加工硬化された加工硬化領域が伝動チェーンに接近して形成されるため、伝動チェーンの振動による過度の衝突荷重を受けて伝動チェーンにバタつきが生じてもベースプレートの屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を回避することができる。
【0019】
また、本請求項3に係る発明のエンジン用固定ガイドは、請求項1に記載のエンジン用固定ガイドが奏する効果に加えて、補強用細溝部がベースプレートのプレート裏面においてガイド長手方向のベース端部位からガイド長手方向の中央部位に向けて徐々に深く形成されていることにより、補強用細溝部の底面がガイド長手方向の全域に亘って均一に形成されている場合と比較して、ガイド長手方向の中央部位に強固に加工硬化された加工硬化領域が伝動チェーンに接近して形成されるため、伝動チェーンの張力による過度の押圧荷重を受けてもベースプレートの屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を回避することができる。
【0020】
また、本請求項4に係る発明のエンジン用固定ガイドは、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイドが奏する効果に加えて、補強用細溝部の溝端が舳先状に形成されていることにより、舳先状の溝端が応力集中を回避するため、補強用細溝部の溝端を起点とするベースプレートの破損を防止することができる。
【0021】
また、本請求項5に係る発明のエンジン用固定ガイドは、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイドが奏する効果に加えて、補強用細溝部が伝動チェーンを構成するリンクプレートの摺動走行位置に合致したベースプレートの対向位置に設けられていることにより、伝動チェーンのリンクプレートの摺動走行に起因する摩擦熱を確実に放熱するため、走行する伝動チェーンのリンクプレートから過度の押圧荷重を受けてガイド長手方向に圧縮応力が作用してもベースプレートの摺動走行位置における変形を抑制することができる。
【0022】
また、本請求項6に係る発明のエンジン用固定ガイドは、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイドが奏する効果に加えて、補強用細溝部がベースプレートの内部に向けて矩形状に凹んだ断面形状を有していることにより、面押し加工の際に板厚の微妙な誤差による溝幅の狭小化を回避してエンジン用固定ガイドに付着した潤滑油のガイド長手方向に沿った内部油通路が確実に形成されるため、内部油通路に沿って潤滑油が蓄熱されがちな伝動チェーンとシューとの摩擦熱をガイド外へ放熱し易くすることが可能であり、また、面押し加工時における面押し加工工具の加工面の早期磨損を回避することもできる。
【0023】
そして、本請求項7に係る発明のエンジン用固定ガイドは、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイドが奏する効果に加えて、補強用細溝部がベースプレートのガイド長手方向に沿って並列状態で複数配置されていることにより、ベースプレート上の塑性変形をガイド幅方向で分散させているため、ベースプレートにねじれを生じることなくベースプレート形態がより安定してプレート強度を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例であるエンジン用固定ガイドの使用態様図。
【図2】図1に示すエンジン用固定ガイドの概要図と一部拡大図。
【図3】図2のI−I線で示す断面図と一部拡大断面図。
【図4】図2のII−II線で示す断面図と一部拡大図。
【図5】図2のIII−III線で示す断面図と一部拡大図。
【図6】本発明の第2実施例であるエンジン用固定ガイドの概要図と一部拡大図。
【図7】図6のIV−IV線で示す断面図と一部拡大図。
【図8】図6のV−V線で示す断面図と一部拡大図。
【図9】図6のVI−VI線で示す断面図と一部拡大図。
【図10】本発明の第3実施例であるエンジン用固定ガイドの概要図と一部拡大図。
【図11】図10のVII−VII線で示す断面図と一部拡大図。
【図12】本発明の第4実施例であるエンジン用固定ガイドの断面図と一部拡大図。
【図13】本発明の第5実施例であるエンジン用固定ガイドの断面図と一部拡大図。
【図14】図13のVIII−VIII線で示す断面図と一部拡大図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のエンジン用固定ガイドは、伝動チェーンをガイド長手方向に沿って摺接走行させる摺接曲面を形成したシューとこのシューの裏面をガイド長手方向に沿って支持する金属製のベースプレートとを備えたエンジン用固定ガイドにおいて、ベースプレートのガイド長手方向に沿った補強用細溝部がベースプレートのプレート表面またはプレート裏面に面押し加工具による圧縮応力を作用させて塑性変形させる面押し加工により形成されているとともにベースプレートに設けたエンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に向けて延在していることにより、ベースプレートの板厚を増加させることなくガイド長手方向に沿った所定曲率の摺接曲面による安定したチェーン軌道を保持するとともに、伝動チェーンから過度の押圧荷重を受けてもベースプレートのガイド長手方向の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を防止して優れた耐久性を発揮するものであれば、その具体的な実施態様は如何なるものであっても何ら構わない。
【0026】
すなわち、本発明のエンジン用固定ガイドの具体的な使用態様については、自動車エンジン用タイミングシステムにおいて伝動チェーンに摺接させて所定のチェーン軌道に沿って走行案内するものに好適に用いられる。
【0027】
そして、本発明で用いるベースプレートの具体的な材料については、伝動チェーンの張力変動やエンジン内部の高温環境下などで耐久性を発揮するために、例えば、鉄鋼材、アルミニウム材などの金属材料を用い、アルミニウム材を用いた場合には軽量化を図ることができるのでより好ましい。
【0028】
また、本発明で用いるベースプレートのプレート曲面に形成された所定曲率については、ガイド長手方向に沿って少なくとも1以上の曲率を備えたものであれば良く、例えば、ガイド長手方向のチェーン進入側とチェーン進出側に小さな円弧を形成する曲率を備えるとともにこれらのチェーン進入側とチェーン進出側との中央部位に大きな円弧を形成する曲率を備えたものであっても良く、ガイド長手方向のチェーン進入側とチェーン進出側に小さな円弧を形成する曲率を備えるとともにこれらのチェーン進入側とチェーン進出側との中央部位に直線状摺接面を形成したものであっても良い。
【0029】
また、本発明で採用するベースプレートの「面押し加工」は、プレス加工に属するものであって、その面押しメカニズムについては現時点においても明確に解明されていないが、面押し加工による圧縮応力をベースプレートの加工面に作用させて塑性変形させることによって、ベースプレート形態が安定してプレート強度の大幅な向上が見込まれる加工のことである。
【0030】
さらに、前述した面押し加工によって得られる補強用細溝部は、ベースプレートをエンジンに固定するエンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に向けて延在していれば良く、補強用細溝部がベースプレートのガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に亘って形成されていても、補強用細溝部の溝端がエンジン取付用ボルトの取り付け位置からベースプレートのガイド長手方向のそれぞれのベース端部位までの間で留まっていても構わない。
【0031】
また、前述した補強用細溝部の具体的断面形状については、例えば、矩形状、半円弧状、逆三角状などに凹んだ断面形状であれば良いが、矩形状や半円弧状に凹んだ断面形状の場合は、面押し加工工具の加工面の早期磨損を回避できるという生産技術上の利点もある。また、補強用細溝部の形成本数については、1本、若しくは、複数本のいずれであっても良い。
【0032】
また、前述した補強用細溝部の具体的な溝深さ寸法については、ベースプレートの長手方向に沿って漸次変化させても良く、例えば、ベースプレートのガイド長手方向のベース端部位で最も深くても、ベースプレートのガイド長手方向の中央部位で最も深くても構わない。
このように補強用細溝部の溝深さ寸法を変えることによって、ベースプレートのプレート強度やプレート剛性をガイド長手方向に沿って部分的に変化させることができる。
【0033】
そして、前述した補強用細溝部の具体的な溝幅寸法については、ベースプレートの長手方向に沿って漸次変化させても良く、例えば、ベースプレートのガイド長手方向のベース端部位で最も広くても、ベースプレートのガイド長手方向の中央部位で最も広くても構わない。
このように補強用細溝部の溝幅寸法を変えることによって、ベースプレートのプレート強度やプレート剛性をガイド長手方向に沿って部分的に変化させることができる。
【実施例1】
【0034】
以下に、本発明の第1実施例であるエンジン用固定ガイドについて、図面を基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の第1実施例であるエンジン用固定ガイドの使用態様図であり、図2は、図1に示すエンジン用固定ガイドの概要図と一部拡大図であり、図3は、図2のI−I線で示す断面図と一部拡大断面図であり、図4は、図2のII−II線で示す断面図と一部拡大図であり、図5は、図2のIII−III線で示す断面図と一部拡大図である。
【0035】
まず、本発明の第1実施例であるエンジン用固定ガイド100は、図1に示すように、自動車エンジン用タイミングシステムにおいて、エンジン内の駆動側スプロケットS1と、エンジン内の従動側スプロケットS2、S2と、駆動側スプロケットS1と従動側スプロケットS2、S2との間を周回走行するタイミングチェーンCからなる伝動チェーンと、タイミングチェーンCに対してテンショナTと協働しながら揺動自在に摺接して適正なチェーン張力に調整するテンショナレバーAと称する可動ガイドと共に用いられて、タイミングチェーンCに摺接させて所定のチェーン軌道に沿って走行案内するものである。
なお、図1における矢印は、タイミングチェーンCの走行方向を示している。
【0036】
また、エンジン用固定ガイド100は、図2に示すように、タイミングチェーンCをガイド長手方向に沿って摺接走行させる摺接曲面を形成してナイロン樹脂からなるシュー110と、このシュー110の裏面をガイド長手方向に沿って支持する鋼製のベースプレート120とを備えている。
なお、符号121は、エンジンにベースプレート120を固定するエンジン取付用ボルト(図示せず)を挿通する孔を備えて、図2中紙面右側のベースプレート120のチェーン進入側と図2中紙面左側のベースプレートのチェーン進出側とにそれぞれ設けられる取付座である。
また、本実施例では、ベースプレート120の素材として鋼材を採用したが、アルミ材を用いても何ら構わない。
【0037】
これにより、エンジン用固定ガイド100が、タイミングチェーンCを摺接させてチェーン軌道に沿って案内走行させることができる。
【0038】
そして、前述したベースプレート120のガイド長手方向に沿った補強用細溝部122は、ベースプレート120のプレート裏面に面押し加工具による圧縮応力を作用させて塑性変形させる面押し加工により形成されている。
【0039】
これにより、補強用細溝部122が、ベースプレート形態を安定させてプレート強度を大幅に向上させて、また、走行するタイミングチェーンCから過度の押圧荷重を受けてプレート裏面のガイド長手方向に圧縮応力が作用する場合であってもベースプレート120の屈曲変形を抑制している。
【0040】
そして、補強用細溝部122は、図2に示すように、エンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位、すなわち、図2紙面上の左右端それぞれに向けて延在している。
【0041】
これにより、ガイド長手方向の全域に亘ってエンジン取付用ボルトに支持されるベースプレート120のガイド長手方向の全域に亘って塑性変形により加工硬化した加工硬化領域が形成されている。
【0042】
また、補強用細溝部122は、ベースプレート120の裏面において、ガイド長手方向の中央部位からガイド長手方向のベース端部位に向けて徐々に深く形成されている、すなわち、補強用細溝部122の溝深さ寸法は、図3および図5に示すように、ベースプレート120のガイド長手方向それぞれのベース端部位における溝深さ寸法Deが最も深くなっており、図4に示すように、ベースプレート120のガイド長手方向の中央部位に向けて漸次浅くなりガイド長手方向の中央部位における溝深さ寸法Dcが最も浅くなっている。
【0043】
これにより、駆動側スプロケットS1およびエンジン用固定ガイド100と従動側スプロケットS2およびエンジン用固定ガイド100との間で形成されるフリースパン領域でタイミングチェーンCが振動する際に、補強用細溝部の溝底がガイド長手方向の全域に亘って均一に形成されている場合と比較して、プレート裏面のベース端部位に強固に加工硬化された加工硬化領域がタイミングチェーンCに接近して形成されている。
【0044】
このようにして得られた本実施例のエンジン用固定ガイド100は、ベースプレート120のガイド長手方向に沿った補強用細溝部122がベースプレート120のプレート裏面に面押し加工具による圧縮応力を作用させて塑性変形させる面押し加工により形成されているとともにベースプレート120に設けたエンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に向けて延在していることにより、ベースプレート120の板厚を増加させることなくガイド長手方向に沿ったタイミングチェーンCの安定した軌道形態を長期にわたって確保することができるとともに、タイミングチェーンCから過度の押圧荷重を受けてもベースプレート120の変形を防止して優れた耐久性を発揮することができ、また、ベースプレート120のガイド長手方向の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を防止することができる。
【0045】
そして、補強用細溝部122がベースプレート120のプレート裏面においてガイド長手方向のベース端部位よりガイド長手方向の中央部位で深く形成されていることにより、タイミングチェーンCのバタつきによる過度の衝突荷重を受けてもベースプレート120の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を回避することができる等、その効果は甚大である。
【実施例2】
【0046】
次に、本発明の第2実施例であるエンジン用固定ガイドについて、図面に基づいて説明する。
ここで、図6は、本発明の第2実施例であるエンジン用固定ガイドの概要図と一部拡大図であり、図7は、図6のIV−IV線で示す断面図と一部拡大図であり、図8は、図6のV−V線で示す断面図と一部拡大図であり、図9は、図6のVI−VI線で示す断面図と一部拡大図である。
本発明の第2実施例であるエンジン用固定ガイド200は、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と比較すると、補強用細溝部の構成のみが異なっており、その余の部品構成については基本的に何ら変わるところがないため、前述したエンジン用固定ガイド100と同一の部材について対応する200番台の符号を付すことにより、その重複する説明を省略する。
【0047】
本実施例のエンジン用固定ガイド200に係るベースプレート220のガイド長手方向に沿った補強用細溝部200は、ベースプレート220の裏面においてガイド長手方向のベース端部位からガイド長手方向の中央部位に向けて徐々に深く形成されている、すなわち、補強用細溝部222の溝深さ寸法は、図7および図9に示すように、ベースプレート220のガイド長手方向それぞれのベース端部位における溝深さ寸法Deが最も浅くなっており、図8に示すように、ベースプレート220のガイド長手方向の中央部位に向けて漸次深くなりガイド長手方向の中央部位における溝深さ寸法Dcが最も深くなっている。
【0048】
したがって、このようにして得られた本実施例のエンジン用固定ガイド200は、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と同様の効果を奏するばかりでなく、補強用細溝部の底面がガイド長手方向の全域に亘って均一に形成されている場合と比較して、ガイド長手方向の中央部位に強固に加工硬化された加工硬化領域がタイミングチェーンCに接近して形成されるため、タイミングチェーンCの張力によってシュー210の摺接曲面からベースプレート220に向けて作用する過度の押圧荷重を受けてもベースプレート220の屈曲変形やエンジン取付用ボルトの取り付け位置に生じがちな折損を回避することができる等、その効果は甚大である。
【実施例3】
【0049】
次に、本発明の第3実施例であるエンジン用固定ガイドについて、図面に基づいて説明する。
ここで、図10は、本発明の第3実施例であるエンジン用固定ガイドの概要図と一部拡大図であり、図11は、図10のVII−VII線で示す断面図と一部拡大図である。
本発明の第3実施例であるエンジン用固定ガイド300は、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と比較すると、補強用細溝部の構成のみが異なっており、その余の部品構成については基本的に何ら変わるところがないため、前述したエンジン用固定ガイド100と同一の部材について対応する300番台の符号を付すことにより、その重複する説明を省略する。
【0050】
本実施例のエンジン用固定ガイド300に係るベースプレート320のガイド長手方向に沿った補強用細溝部322の溝端323は、図10および図11に示すように、舳先状に形成されている。
【0051】
したがって、このようにして得られた本実施例のエンジン用固定ガイド300は、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と同様の効果を奏するばかりでなく、舳先状の溝端323が応力集中を回避するため、補強用細溝部322の溝端323を起点とするベースプレート320の破損を防止できる等、その効果は甚大である。
【実施例4】
【0052】
次に、本発明の第4実施例であるエンジン用固定ガイドについて、図面に基づいて説明する。
ここで、図12は、本発明の第4実施例であるエンジン用固定ガイドの断面図と一部拡大図である。
本発明の第4実施例であるエンジン用固定ガイド400は、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と比較すると、補強用細溝部の構成のみが異なっており、その余の部品構成については基本的に何ら変わるところがないため、前述したエンジン用固定ガイド100と同一の部材について対応する400番台の符号を付すことにより、その重複する説明を省略する。
【0053】
本実施例のエンジン用固定ガイド400に係るベースプレート420のガイド長手方向に沿った補強用細溝部422は、図12に示すように、タイミングチェーンCを構成するリンクプレートLの摺動走行位置に合致したベースプレート420の裏面の対向位置に設けられている。
【0054】
また、前述の補強用細溝部422は、ベースプレート420のガイド長手方向に沿って並列状態で図12紙面上左右にそれぞれ3列ずつ配置されている。
【0055】
したがって、このようにして得られた本実施例のエンジン用固定ガイド400は、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と同様の効果を奏するばかりでなく、タイミングチェーンCのリンクプレートLの摺動走行に起因する摩擦熱を確実に放熱して、かつ、ベースプレート420の塑性変形をガイド幅方向で分散させているため、走行するタイミングチェーンCのリンクプレートLから過度の押圧荷重を受けてガイド長手方向に圧縮応力が作用してもベースプレート420の摺動走行位置における変形を抑制することができ、また、ベースプレート420がねじれることなくベースプレート形態がより安定してプレート強度を大幅に向上させることができる等、その効果は甚大である。
【実施例5】
【0056】
次に、本発明の第5実施例であるエンジン用固定ガイドについて、図面に基づいて説明する。
ここで、図13は、本発明の第5実施例であるエンジン用固定ガイドの断面図と一部拡大図であり、図14は、図13のVIII−VIII線で示す断面図と一部拡大図である。
本発明の第7実施例であるエンジン用固定ガイドは、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と比較すると、補強用細溝部の構成のみが異なっており、その余の部品構成については基本的に何ら変わるところがないため、前述したエンジン用固定ガイド100と同一の部材について対応する500番台の符号を付すことにより、その重複する説明を省略する。
【0057】
本実施例のエンジン用固定ガイド500に係るベースプレート520のガイド長手方向に沿った補強用細溝部522は、図12および図13に示すように、シュー510に対するベースプレート520のプレート表面に設けられている。
【0058】
また、補強用細溝部522は、ベースプレート520の内部に向けて矩形状に凹んだ断面形状を有している。
【0059】
したがって、このようにして得られた本実施例のエンジン用固定ガイド500は、前述した第1実施例のエンジン用固定ガイド100と同様の効果を奏するばかりでなく、補強用細溝部522がエンジン用固定ガイド500に付着した潤滑油のガイド長手方向に沿った内部油通路として機能するとともに面押し加工の際に板厚の微妙な誤差による溝幅の狭小化を回避してエンジン用固定ガイド500に付着した潤滑油のガイド長手方向に沿った内部油通路が確実に形成されるため、エンジン内の高温環境下で使用しても内部油通路がシュー裏面とベースプレート520のプレート表面との間に蓄熱されがちなタイミングチェーンCとシュー510との摩擦熱をガイド外へ放熱することができ、また、面押し加工時における面押し加工工具の加工面の早期磨損を回避することができる等、その効果は甚大である。
【符号の説明】
【0060】
100、200、300、400、500・・・エンジン用固定ガイド
110、210、310、410、510・・・シュー
120、220、320、420、520・・・ベースプレート
121、221、321、521・・・取付座
122、222、322、422、522・・・補強用細溝部
323・・・溝端
C ・・・タイミングチェーン
L ・・・リンクプレート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動チェーンをガイド長手方向に沿って摺接走行させる摺接曲面を形成したシューと、該シューの裏面をガイド長手方向に沿って支持する金属製のベースプレートとを備えたエンジン用固定ガイドにおいて、
前記ベースプレートのガイド長手方向に沿った補強用細溝部が、前記ベースプレートのプレート表面またはプレート裏面に面押し加工具による圧縮応力を作用させて塑性変形させる面押し加工により形成されているとともに前記ベースプレートに設けたエンジン取付用ボルトの取り付け位置を超えてガイド長手方向のそれぞれのベース端部位に向けて延在していることを特徴とするエンジン用固定ガイド。
【請求項2】
前記補強用細溝部が、前記ベースプレートのプレート裏面においてガイド長手方向の中央部位からガイド長手方向のベース端部位に向けて徐々に深く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン用固定ガイド。
【請求項3】
前記補強用細溝部が、前記ベースプレートのプレート裏面においてガイド長手方向のベース端部位からガイド長手方向の中央部位に向けて徐々に深く形成されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン用固定ガイド。
【請求項4】
前記補強用細溝部の溝端が、舳先状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイド。
【請求項5】
前記補強用細溝部が、前記伝動チェーンを構成するリンクプレートの摺動走行位置に合致したベースプレートの対向位置に設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイド。
【請求項6】
前記補強用細溝部が、前記ベースプレートの内部に向けて矩形状に凹んだ断面形状を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイド。
【請求項7】
前記補強用細溝部が、前記ベースプレートのガイド長手方向に沿って並列状態で複数配置されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のエンジン用固定ガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−241739(P2012−241739A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109740(P2011−109740)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】