説明

エンジン

【課題】1サイクル内に吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程とからなる4行程とは別に燃焼を伴わないでピストンを往復動させる一対の休止行程を1つ以上追加して運転する増加行程サイクル運転を簡単且つ小型な構成により行うことができ、更に、当該増加サイクル運転において追加する一対の休止行程における効率低下を抑制し得るエンジンを提供する。
【解決手段】一対の休止行程が、吸気バルブ6を開状態とし排気バルブ8を閉状態とする吸気側開放状態でピストン2を下降させる前休止行程と、同吸気側開放状態でピストン2を下降させる後休止行程とからなり、一対の休止行程の内の少なくとも後休止行程において、吸気路7の流路断面積を、吸気行程よりも拡大させる吸気路断面拡大手段Xを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1サイクル内に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程とからなる4行程とは別に燃焼を伴わないでピストンを往復動させる一対の休止行程を1つ以上追加して運転する増加行程サイクル運転を行うエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンとして、吸気、圧縮、燃焼、排気との4行程を含む1サイクル内に、この4行程とは別に、燃焼を伴わないでピストンを往復動させる一対の休止行程を1つ以上追加して運転する増加行程サイクル運転を行うものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
そして、このような増加行程サイクル運転を行えば、通常の運転のように1サイクル内に休止行程を追加しないで運転する4行程サイクル運転を行う場合と比較して、1サイクル内に軸出力を発生しない一対の休止行程を1つ以上追加した分、軸出力を比較的大幅に低下させることができ、更に、軸出力を低下させるために吸気路に設けられたスロットルバルブの開度を大幅に絞る必要がないので、スロットルバルブの開度縮小によるポンプ損失の増加を抑制して高効率で運転することができる。
【0003】
また、上記特許文献1に記載のエンジンは、前記吸気行程において開状態とされる吸気バルブとは別に、空気だけを吸気するための空気専用の吸気弁を備え、上記一対の休止行程として、空気専用の吸気バルブを開状態とし排気バルブを閉状態としてピストンを下降させる空気吸気行程と、上記4行程に含まれている排気行程と同様に吸気バルブを閉状態とし排気バルブを開状態としてピストンを上昇させる空気排気行程とを、上記4行程に追加して、上記増加行程サイクル運転を行うように構成されている。即ち、上記空気吸気行程では、空気だけがピストンの下降に伴って吸気バルブを通じて燃焼室に吸気され、それに続く上記空気排気行程では、直前の空気の吸気行程で燃焼室に吸気された空気がピストンの上昇に伴って燃焼室から排気バルブを通じて排気路に排気される。
そして、このような構成を採用することにより、上記空気吸気行程において、空気だけが空気専用の吸気バルブを通じて燃焼室に吸気されるので、無駄な燃料の消費がなく、省資源につながるとされている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−317412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のエンジンでは、上記増加行程サイクル運転における空気吸気行程を行うために、吸気行程において開状態とされる吸気バルブとは別に上記空気専用の吸気弁を追加する必要があるので、それら複数の吸気弁の開閉動作を行うための動弁機構等が煩雑で且つ大型なものとなり、特に小型のエンジンでは、そのような空気専用の吸気バルブを追加することができない場合がある。また、空気専用の空気バルブを追加することで、燃焼室の流動が適切なものでなくなって、エンジン性能が低下するなどの弊害も懸念される。
【0006】
更に、一対の休止行程の後半側の行程として追加される排気行程において、燃焼室から排気バルブを通じて排気路に排気された空気を、無用にも、排ガスを無害化処理する触媒、排ガスの熱を回収する熱交換器、排ガスの運動エネルギにより駆動するターボ過給機等の排気路に設けられた各種機器に通過させるので、その空気を各種機器に通過させるためのポンプ損失が生じて効率が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、1サイクル内に吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程とからなる4行程とは別に燃焼を伴わないでピストンを往復動させる一対の休止行程を1つ以上追加して運転する増加行程サイクル運転を簡単且つ小型な構成により行うことができ、更に、当該増加サイクル運転において追加する一対の休止行程における効率低下を抑制し得るエンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係るエンジンは、1サイクル内に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程とからなる4行程とは別に燃焼を伴わないでピストンを往復動させる一対の休止行程を1つ以上追加して運転する増加行程サイクル運転を行うエンジンであって、その第1特徴構成は、前記一対の休止行程が、吸気バルブを開状態とし排気バルブを閉状態とする吸気側開放状態で前記ピストンを下降させる前休止行程と、同吸気側開放状態で前記ピストンを下降させる後休止行程とからなり、
前記一対の休止行程の内の少なくとも前記後休止行程において、前記吸気バルブに接続された吸気路の流路断面積を、前記吸気行程よりも拡大させる吸気路断面拡大手段を備えた点にある。
【0009】
上記第1特徴構成によれば、上記増加行程サイクル運転において上記4行程とは別に一つ以上追加される上記一対の休止行程が、吸気行程で開状態とされる吸気バルブを開状態とし吸気行程で閉状態とされる排気バルブを閉状態とする上記吸気側開放状態でピストンを往復動させる上記前休止行程及び上記後休止行程からなる。よって、上記前休止行程では、吸気路に存在するガスがピストンの下降に伴って吸気路から吸気バルブを通じて燃焼室に吸気され、それに続く上記後休止行程では、直前の前休止行程で燃焼室に吸気されたガスがピストンの上昇に伴って燃焼室から吸気バルブを通じて吸気路に戻されることになる。よって、吸気行程で開状態とされる吸気バルブを開状態とするだけで、増加行程サイクル運転に追加する一対の休止工程を実現することができる。更に、この一対の後休止行程では、吸気路に存在するガスが排気路側に排出されることがないので、例えば前休止行程で燃焼室に吸気されたガスに燃料が含まれている場合でも、無駄な燃料の消費を無くすことができる。
【0010】
更に、一対の休止行程においては、上記吸気バルブを開状態とすることで、負荷制御のために吸気路に設けられたスロットルバルブにおいてガスの往復流が発生してポンプ損失が生じることが懸念される。そこで、上記吸気路断面拡大手段により、一対の休止行程の内の少なくとも後休止行程における吸気路の流路断面積を、スロットルバルブを通じて新気を吸気する必要がある吸気行程における吸気路の流路断面積よりも拡大させることにより、少なくとも後休止行程におけるポンプ損失を極力小さくすることができ、当該ポンプ損失の増大による効率低下を抑制することができる。
従って、本発明により、増加行程サイクル運転を、通常の4行程に対して吸気側開放状態でピストンを往復動させる一対の休止行程を追加するというように、簡単且つ小型な構成により行うことができ、更に、当該増加サイクル運転において追加する一対の休止行程の内の少なくとも後休止行程におけるポンプ損失を極力小さくして効率低下を抑制することができるエンジンを実現することができる。
【0011】
本発明に係るエンジンの第2特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、前記吸気路に、当該吸気路に設けられたスロットルバルブをバイパスするバイパス路を備え、
前記吸気路断面拡大手段として、前記一対の休止行程の内の少なくとも前記後休止行程において前記バイパス路を開放すると共に、前記吸気行程において前記バイパス路を閉鎖するバイパス路開閉手段を備えた点にある。
【0012】
上記第2特徴構成によれば、吸気路において、負荷制御のためのスロットルバルブをバイパスするバイパス路と、当該バイパス路の開閉状態を所定の形態で制御する上記バイパス路開閉手段とを設けるというような簡単で小型化が可能な構成を採用することで、当該バイパス路開閉手段を、上述した吸気路断面拡大手段として機能させることができる。即ち、上記バイパス路開閉手段は、一対の休止行程の内の少なくとも後休止行程で上記バイパス路を開放させると共に、吸気行程において上記バイパス路を閉鎖させることで、少なくとも後休止行程において、吸気路の流路断面積を、吸気行程よりも上記バイパス路の流路断面積分拡大させることができ、結果、一対の休止行程においてポンプ損失を極力小さくして効率低下を抑制することができる。
【0013】
本発明に係るエンジンの第3特徴構成は、上記第2特徴構成に加えて、前記バイパス路開閉手段が、前記バイパス路に設けられ、前記吸気バルブ側からのガスの通流を許容すると共に、前記吸気バルブ側へのガスの通流を阻止する逆止弁で構成されている点にある。
【0014】
上記第3特徴構成によれば、上述したバイパス路開閉手段を上記逆止弁というように非常に簡単な構成で実現することができる。
即ち、後休止行程においては、吸気側開放状態でピストンを上昇させるのに伴って吸気路において吸気バルブ側から上流側に向かうガスの通流が発生する際に、当該吸気バルブ側からのガスの通流を許容するべく上記逆止弁が開状態となってバイパス路が開放されるので、吸気路の流路断面積は、上記バイパス路を含む比較的大きいものとなり、その後休止行程においてポンプ損失を極力小さくすることができる。
一方、前休止行程においては、吸気行程と同様に、吸気側開放状態でピストンを下降させるのに伴って吸気路において上流側から吸気バルブ側へ向かうガスの通流が発生する際に、当該吸気バルブ側へのガスの通流を阻止するべく上記逆止弁が閉状態となってバイパス路が閉鎖される。よって、吸気路の流路断面積は、上記バイパス路を除く比較的小さいものとなり、この前休止行程でのポンプ損失の低下を見込むことはできないが、簡単な構成で本願発明を実現する点で上記第3特徴構成を採用することは有効であるといえる。
【0015】
本発明に係るエンジンの第4特徴構成は、上記第2特徴構成に加えて、前記バイパス路開閉手段が、前記バイパス路に設けられ当該バイパス路を開閉可能な開閉弁と、前記一対の休止行程において前記開閉弁を開状態とすると共に、前記吸気行程において前記開閉弁を閉状態とする開閉制御手段とで構成されている点にある。
【0016】
上記第4特徴構成によれば、上述したバイパス路開閉手段を上記開閉弁及び上記開閉制御手段というように簡単な構成で実現することができる。
即ち、一対の休止行程即ち前休止行程及び後休止行程においては、吸気側開放状態でピストンを往復させるのに伴って吸気路にガスの往復流が発生する際に、上記開閉弁が上記開閉制御手段により開状態とされてバイパス路が開放されるので、吸気路の流路断面積は、上記バイパス路を含む比較的大きいものとなり、その一対の休止行程全体においてポンプ損失を大幅に小さくすることができる。
尚、上記開閉弁と上記開閉制御手段との両方を設けることで、構成が若干複雑なものとなる虞があるが、上述したように大幅なポンプ損失の低下を期待できることで当該第4特徴構成を採用することは有効であるといえる。
【0017】
本発明に係るエンジンの第5特徴構成は、上記第1特徴構成に加えて、前記吸気路断面拡大手段として、前記一対の休止行程において前記吸気路に設けられたスロットルバルブの開度を全開状態に設定すると共に、前記吸気行程において前記スロットルバルブの開度をエンジン負荷に応じた開度に設定するスロットル開度制御手段を備えた点にある。
【0018】
上記第5特徴構成によれば、吸気路に通常設けられているスロットルバルブの前記吸気行程における開度をエンジン負荷に応じた開度に設定することで負荷制御を行う上記スロットル開度制御手段を、上述した吸気路断面拡大手段として機能させることができる。
即ち、上記スロットル開度制御手段は、一対の休止行程においてスロットルバルブの開度を全開状態に設定することで、当該一対の休止行程全体において、吸気路の流路断面積を、スロットルバルブの開度がエンジン負荷に応じて設定される吸気行程よりも上記バイパス路の流路断面積分拡大させることができ、結果、一対の休止行程においてポンプ損失を極力小さくして効率低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係るエンジンの実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0020】
図2〜4に示すエンジンは、シリンダ3の内面とピストン2の頂面とで規定される燃焼室1と、燃焼室1に吸気バルブ6を介して接続された吸気路7と、燃焼室1に排気バルブ8を介して接続された排気路9とが設けられている。
ピストン2は連結棒4に揺動自在に連結されており、ピストン2の往復動は連結棒4によって1つのクランク軸5の回転運動として得られ、このような構成は通常のエンジンと変わるところがない。
【0021】
吸気路7には、上流側から順に、ミキサ10とスロットルバルブ11が設けられている。そして、ミキサ10では、天然ガス系都市ガスである燃料Gが燃料供給弁13を通じて供給され、吸気路7において、その燃料Gと吸気路7の上流側から供給された空気Aとが混合されて混合気が生成される。尚、この燃料供給弁13は、吸気行程のみで開状態とされてミキサ10へ燃料Gを供給するように開閉制御される。
一方、排気路9には、排ガスを無害化処理する触媒、排ガスの熱を回収する熱交換器、排ガスの運動エネルギにより駆動するターボ過給機等のように、排ガスを処理する排ガス処理部30が設けられている。
【0022】
吸気路7に生成された混合気は、図2(a),図3(a),図4(a)に示すように、クランク角がTDC(上死点)付近からBDC(下死点)付近まで吸気バルブ6が開状態となる吸気行程において新気Iとして燃焼室1に吸気される。
そして、燃焼室1に吸気された新気Iは、吸気バルブ6及び排気バルブ8の両方が閉状態となる圧縮行程において、ピストン2の上昇により圧縮され、その圧縮された新気Iが、点火プラグ(図示せず)による火花点火又は圧縮着火等の公知の着火方法により着火され、更に、膨張行程において、新気Iに含まれる燃料Gの燃焼によりピストン2が押し下げられて、軸出力が得られる。
【0023】
また、上記膨張行程の後に、クランク角がBDC付近からTDC付近まで排気バルブ8が開状態となる排気行程において、燃焼室1の排ガスは排気路9に排出され排ガス処理部30を通過して処理される。
以上のように、このエンジンは、1サイクル内に上述した吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程とからなる4行程を含みサイクルで運転を行うように構成されている。
【0024】
また、吸気バルブ6及び排気バルブ8は、公知の動弁機構(図示せず)により開閉動作が行われ、かかる動弁機構のカムの回転又はアクチュエータの周期的な作動の位相を変更するなどして、開閉時期を所望の時期に設定可能に構成されている。
尚、吸気バルブ6は、吸気行程において、ピストンのTDCからBDCへの下降動作に伴って吸気路7から新気Iを燃焼室1に吸気するべく開状態となり、上記4行程の内の吸気行程以外の圧縮行程、膨張行程、排気行程において閉状態となる。
一方、排気バルブ8は、排気行程において、ピストンのBDCからTDCへの上昇動作に伴って燃焼室1の排ガスを排気路9に排出するべく開状態となり、上記4行程の内の排気行程以外の吸気行程、圧縮行程、膨張行程において閉状態となる。
【0025】
このエンジンは、エンジン負荷に応じてスロットルバルブ11の開度をエンジン負荷に応じた開度に設定することで、エンジン負荷に応じた軸出力を発生するように構成されている。即ち、エンジン負荷が低下するほど、スロットルバルブ11の開度を縮小させて、吸気行程において燃焼室1に吸気される新気Iの量を減少させ、軸出力を低下させるように構成されている。
尚、エンジン負荷は、エンジンのクランク軸5に付加される仕事量を言い、これに対して軸出力は、エンジンのクランク軸5から出力される仕事量を言う。また、このエンジン負荷については、クランク軸5に係るトルクとクランク軸5の回転数とから導出することができるが、例えば、クランク軸5の軸出力により発電機や圧縮機等を駆動している場合には、その発電機に付加される発電負荷や圧縮機に付加される圧縮負荷を、上記エンジン負荷として取り扱っても構わない。
【0026】
更に、このエンジンは、1サイクル内に含まれる行程数である1サイクル行程数を6とした6行程サイクル運転を実行可能に構成されおり、その6行程サイクル運転を行うための詳細構成について以下に説明する。
エンジンは、図1に示すように、1サイクル内に、上記4行程とは別に燃焼を伴わないでピストン2を往復動させる一対の休止行程を一つ追加して運転する6行程サイクル運転を行うことができる。即ち、エンジンは、かかる6行程サイクル運転を行う場合には、1サイクル内に上記4行程とは別に、燃焼を伴わないでピストン2を往復動させる一対の休止行程としての前休止行程と後休止行程とを1つずつ追加し、この6行程からなる1サイクルを繰り返して作動する。
尚、1サイクルの内に、上記4行程とは別に上記一対の休止行程を2つ以上追加しても構わない。
【0027】
上記前休止行程及び上記後休止行程は、共に、図1に示すように、吸気行程において開状態とされる吸気バルブ6を吸気行程と同様に開状態とすると共に吸気行程において閉状態とされる排気バルブ8を吸気行程と同様に閉状態とする吸気側開放状態で、ピストン2を下降及び上昇させる行程である。
尚、図1において、吸気バルブ及び排気バルブの開閉状態としての「O」は開状態を示し、吸気バルブ及び排気バルブの開閉状態としての「C」は閉状態を示す。
【0028】
上記前休止行程では、図2(b),図3(b),図4(b)に示すように、吸気バルブ6を開状態とした上記吸気側開放状態で、ピストン2がTDCからBDCへ降下することで、燃焼室1の圧力が低下して、吸気路7に存在する空気Aが吸気路7から吸気バルブ6を通じて燃焼室1に吸気される。
一方、上記後休止行程では、図2(c),図3(c),図4(c)に示すように、吸気バルブ6を開状態とした上記吸気側開放状態で、ピストン2がBDCからTDCへ上昇することで、燃焼室1の圧力が上昇して、上記前休止行程で燃焼室1に吸気された空気Aが吸気バルブ6を通じて再び吸気路7に戻される。
そして、上記前休止行程と上記後休止行程とからなる一対の休止行程では、燃料供給弁13を閉状態として燃料Gの無駄な消費を無くすことができる。また、この一対の休止行程において、仮に上記燃料供給弁13が開状態となっており吸気路7に存在するガスに燃料Gが含まれている場合でも、前休止行程で燃料室1に吸気されたガスは後休止行程で吸気路7に戻されて排気路9側に排出されることがないので、そのガスに含まれる燃料Gを無駄に消費することは無い。
【0029】
上記のような一対の休止行程では、吸気路7において空気Aの往復流が発生することにより、ポンプ損失が生じることが懸念される。
そこで、このようなポンプ損失を極力小さくするために、一対の休止行程の内の少なくも後休止行程において、吸気路7の流路断面積を、スロットルバルブ11を通じて新気Iを吸気する必要がある吸気行程よりも拡大させる吸気路断面拡大手段Xを備えることで、少なくとも後休止行程におけるポンプ損失が極力小さくされ、当該ポンプ損失の増大による効率低下が抑制されている。
【0030】
以下、第1実施形態(図2)、第2実施形態(図3)、第3実施形態(図4)の夫々における吸気路断面拡大手段Xの詳細構成について説明する。
【0031】
〔第1実施形態〕
図2に示すエンジンは、吸気路7に、当該吸気路7に設けられたスロットルバルブ11をバイパスするバイパス路7Bを備えている。即ち、上記スロットルバルブ11は、吸気路7が、夫々の両端部が互いに接続された主吸気路7Aとバイパス路7Bとに分岐されており、一方の主吸気路7Aに上記スロットルバルブ11が設けられている。
【0032】
そして、上記吸気路断面拡大手段Xとして、一対の休止行程の内の少なくとも後休止行程においてバイパス路7Bを開放すると共に、吸気行程においてバイパス路7Bを閉鎖するバイパス路開閉手段20を備える。
よって、少なくとも後休止行程において、吸気路7の流路断面積は、吸気行程よりも上記バイパス路7bの流路断面積分拡大されることになり、結果、当該後休止行程においてポンプ損失が極力小さくされ、効率低下が抑制されている。
【0033】
上記バイパス路開閉手段20は、バイパス路7Bに設けられ、吸気バルブ6側からのガスの通流を許容すると共に、吸気バルブ6側へのガスの通流を阻止する逆止弁21で構成されている。
即ち、後休止行程においては、図2(c)に示すように、吸気バルブ6が開状態とされる吸気側開放状態でピストン2を上昇させるのに伴って吸気路7において吸気バルブ6側から上流側に向かう空気Aの通流が発生する。その際に、逆止弁21は、バイパス路7Bにおいて当該吸気バルブ6側からの空気Aの通流を許容するべく開状態となるので、バイパス路7Bが開放される。即ち、この後休止行程では、吸気路7の流路断面積は、主吸気路7Aにおけるスロットルバルブ11の開度に対応する流路断面積と上記バイパス路7Bの流路断面積との和となる。
【0034】
一方、吸気行程においては、図2(a)に示すように、吸気バルブ6が開状態とされる吸気側開放状態でピストン2を下降させるのに伴って吸気路7において上流側から吸気バルブ6側へ向かう新気Iの通流が発生する。その際に、逆止弁21は、バイパス路7Bにおいて当該吸気バルブ6側へのガスの通流を阻止するべく閉状態となってバイパス路7Bが閉鎖される。即ち、この吸気行程では、吸気路7の流路断面積は、主吸気路7Aにおけるスロットルバルブ11の開度に対応する流路断面積のみとなる。
以上のことから、上記逆止弁21は、一対の休止行程の内の後休止行程において、吸気路7の流路断面積を、吸気行程よりも拡大させる吸気路断面拡大手段Xとして機能すると言える。
【0035】
〔第2実施形態〕
図3に示すエンジンは、上記第1実施形態と同様に、吸気路7に、当該吸気路7に設けられたスロットルバルブ11をバイパスするバイパス路7Bを備え、更に、上記吸気路断面拡大手段Xとして、一対の休止行程の少なくとも後休止行程においてバイパス路7Bを開放すると共に、吸気行程においてバイパス路7Bを閉鎖するバイパス路開閉手段20を備えることで、当該後休止行程においてポンプ損失が極力小さくされ、効率低下が抑制されている。
【0036】
上記バイパス路開閉手段20は、上記第1実施形態とは異なり、バイパス路7Bに設けられ当該バイパス路7Bを開閉可能な開閉弁22と、一対の休止行程全体において開閉弁22を開状態とすると共に、吸気行程において開閉弁22を閉状態とする開閉制御手段23とで構成されている。
即ち、上記開閉制御手段23は、クランク軸5の回転角度をクランク角として検出するクランク角センサ26の検出結果により、上記一対の休止行程の開始時点と終了時点とを認識し、当該開始時点に上記開閉弁22を閉状態から開状態に切り替え、当該終了時点に上記開閉弁22を開状態から平常対に切り替える形態で、上記のように開閉弁22を開閉制御する。
【0037】
よって、前休止行程及び後休止行程においては、図3(b)及び(c)に示すように、吸気バルブ6が開状態とされる吸気側開放状態でピストン2を往復動させるのに伴って吸気路7において空気Aの往復流が発生する。その際に、開閉弁22は開閉制御手段23により開状態とされるので、バイパス路7Bが開放される。即ち、この前休止行程及び後休止行程では、吸気路7の流路断面積は、主吸気路7Aにおけるスロットルバルブ11の開度に対応する流路断面積と上記バイパス路7Bの流路断面積との和となる。
【0038】
一方、吸気行程においては、図3(a)に示すように、吸気バルブ6が開状態とされる吸気側開放状態でピストン2を下降させるのに伴って吸気路7において上流側から吸気バルブ6側へ向かう新気Iの通流が発生する。その際に、開閉弁22は開閉制御手段23により閉状態とされるので、バイパス路7Bが閉鎖される。即ち、この吸気行程では、吸気路7の流路断面積は、主吸気路7Aにおけるスロットルバルブ11の開度に対応する流路断面積のみとなる。
以上のことから、上記開閉弁22及び上記開閉制御手段23は、一対の休止行程全体において、吸気路7の流路断面積を、吸気行程よりも拡大させる吸気路断面拡大手段Xとして機能すると言える。
尚、上記開閉弁22は公知の電磁弁や油圧弁等を使用することができ、上記開閉制御手段23は当該開閉弁22を開閉制御するための駆動回路及び制御回路等で構成することができる。
【0039】
〔第3実施形態〕
図4に示すエンジンでは、上記第1及び第2実施形態とは異なり、吸気路断面拡大手段Xとして、一対の休止行程において吸気路7に設けられたスロットルバルブ11の開度を全開状態に設定すると共に、吸気行程においてスロットルバルブ11の開度をエンジン負荷に応じた開度に設定するスロットル開度制御手段14を備える。
即ち、上記スロットルバルブ開度制御手段14は、クランク軸5の回転角度をクランク角として検出するクランク角センサ26の検出結果により、上記一対の休止行程の開始時点と終了時点とを認識し、当該開始時点に上記スロットルバルブ11の開度をエンジン負荷に応じた開度から全開状態に拡大し、当該終了時点に上記スロットルバルブ11の開度を全開状態からエンジン負荷に応じた開度に縮小する形態で、上記スロットルバルブ11の開度を制御する。
【0040】
即ち、前休止行程及び後休止行程においては、図4(b)及び(c)に示すように、吸気バルブ6が開状態とされる吸気側開放状態でピストン2を往復動させるのに伴って吸気路7において空気Aの往復流が発生する。その際に、スロットルバルブ11の開度はスロットルバルブ開度制御手段14により全開状態とされる。即ち、この前休止行程及び後休止行程では、吸気路7の流路断面積は、スロットルバルブ11の全開状態での開度に対応するもの、即ち吸気路7の全断面積に近いものとなる。
【0041】
一方、吸気行程においては、図4(a)に示すように、吸気バルブ6が開状態とされる吸気側開放状態でピストン2を下降させるのに伴って吸気路7において上流側から吸気バルブ6側へ向かう新気Iの通流が発生する。その際に、スロットルバルブ11の開度はスロットルバルブ開度制御手段14によりエンジン負荷に応じたものに絞られる。即ち、この吸気行程では、吸気路7の流路断面積は、エンジン負荷に応じて絞られたスロットルバルブ11の開度に相当するものとなる。
以上のことから、上記スロットルバルブ開度制御手段14は、一対の休止行程全体において、吸気路7の流路断面積を、吸気行程よりも拡大させる吸気路断面拡大手段Xとして機能すると言える。
よって、このスロットルバルブ開度制御手段14により、一対の休止行程において、吸気路7の流路断面積が、吸気行程よりも上記バイパス路7bの流路断面積分拡大されることになり、結果、当該後休止行程においてポンプ損失が極力小さくされ、効率低下が抑制されている。
尚、上記スロットルバルブ開度制御手段14はスロットルバルブ11の開度を制御するための駆動回路及び制御回路等で構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るエンジンは、1サイクル内に吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程とからなる4行程とは別に燃焼を伴わないでピストンを往復動させる一対の休止行程を1つ以上追加して運転する増加行程サイクル運転を簡単且つ小型な構成により行うことができ、更に、当該増加サイクル運転において追加する一対の休止行程における効率低下を抑制し得るエンジンとして有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】増加行程サイクル運転の状態を模式的に表す説明図
【図2】第1実施形態のエンジンの(a)吸気行程、(b)前休止行程、及び、(c)後休止行程における状態を示す概略構成図
【図3】第2実施形態のエンジンの(a)吸気行程、(b)前休止行程、及び、(c)後休止行程における状態を示す概略構成図
【図4】第3実施形態のエンジンの(a)吸気行程、(b)前休止行程、及び、(c)後休止行程における状態を示す概略構成図
【符号の説明】
【0044】
1:燃焼室
2:ピストン
6:吸気バルブ
7:吸気路
7A:主吸気路
7B:バイパス路
11:スロットルバルブ
14:スロットル開度制御手段
20:バイパス路開閉手段
21:逆止弁
22:開閉弁
23:開閉制御手段
X:吸気路断面拡大手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1サイクル内に、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程とからなる4行程とは別に燃焼を伴わないでピストンを往復動させる一対の休止行程を1つ以上追加して運転する増加行程サイクル運転を行うエンジンであって、
前記一対の休止行程が、吸気バルブを開状態とし排気バルブを閉状態とする吸気側開放状態で前記ピストンを下降させる前休止行程と、同吸気側開放状態で前記ピストンを下降させる後休止行程とからなり、
前記一対の休止行程の内の少なくとも前記後休止行程において、前記吸気バルブに接続された吸気路の流路断面積を、前記吸気行程よりも拡大させる吸気路断面拡大手段を備えたエンジン。
【請求項2】
前記吸気路に、当該吸気路に設けられたスロットルバルブをバイパスするバイパス路を備え、
前記吸気路断面拡大手段として、前記一対の休止行程の内の少なくとも前記後休止行程において前記バイパス路を開放すると共に、前記吸気行程において前記バイパス路を閉鎖するバイパス路開閉手段を備えた請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記バイパス路開閉手段が、前記バイパス路に設けられ、前記吸気バルブ側からのガスの通流を許容すると共に、前記吸気バルブ側へのガスの通流を阻止する逆止弁で構成されている請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記バイパス路開閉手段が、前記バイパス路に設けられ当該バイパス路を開閉可能な開閉弁と、前記一対の休止行程において前記開閉弁を開状態とすると共に、前記吸気行程において前記開閉弁を閉状態とする開閉制御手段とで構成されている請求項2に記載のエンジン。
【請求項5】
前記吸気路断面拡大手段として、前記一対の休止行程において前記吸気路に設けられたスロットルバルブの開度を全開状態に設定すると共に、前記吸気行程において前記スロットルバルブの開度をエンジン負荷に応じた開度に設定するスロットル開度制御手段を備えた請求項1に記載のエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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