説明

エンジン

【目的】 エンジンの吸入行程における充填効率を向上する。
【構成】 排気行程末期にシリンダ2内に水を噴霧気化させることにより、高温の排気をできるだけ排気口5から押し出すと共に、排気と水蒸気との混合ガスである残留ガスの温度を下げるようにし、あるいは排気行程末期にシリンダ2内に圧縮空気を吹き込むことによって、残留する高温排気を低温の空気で置換するようにした。
【効果】 水を噴霧気化させる方式によれば、水蒸気で高温排気をできるだけ置換すると共に、すきま容積に残留する排気と水蒸気との混合ガスの温度を下げることができるので、吸入される混合気の重量を増加させて、充填効率を向上し得るという利点があり、圧縮空気を吹き込む方式によれば、高温排気を低温の空気で置換することにより、上記と同様に充填効率を向上し得る上に、吹き込まれた空気も燃焼用空気として爆発に寄与させることができるという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ガソリン、軽油、重油、都市ガス等を燃料とする火花点火式あるいは圧縮着火式の4サイクルエンジンの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】エンジンの熱効率を改善する方法として、従来より排気ガスのエネルギーを利用して吸気の昇圧を行う過給機が広く使用されている。しかし過給機はエンジン出力を向上し得るという効果は大きいが、エンジン効率の改善は数%程度に過ぎず、特に定置型のエンジンにとっては、エンジン出力の向上よりもエンジン効率の改善の方が強く要請されている。
【0003】
【発明により解決すべき課題】一般に4サイクルエンジンの排気行程の最終段階において、シリンダ内には一定量の高温排ガスが残留し、これが次行程で吸入される混合気あるいは燃焼空気の温度を上昇させて、その吸気充填効率を低下させるために、エンジン効率改善の障害となっている。本発明はかかる点に鑑み、比較的簡単で安価な構成によりエンジンの吸気充填効率を改善し、エンジン効率を向上し得る手段を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】エンジンの排気行程においては、爆発行程で生じた高温排気が、ピストン1の上昇によって排気口5から排気マニホールド内へ押し出されるが、排気行程の最終段階においてもピストンの行程容量の例えば1/10(圧縮比=11の場合)程度のすきま容積に高温排気が残留する。そこで請求項1又は2の発明は、図1又は2に示すように、排気行程の末期にこの残留排気中に水を噴霧して気化させることにより、高温排気をできるだけ排気口5から押し出すと共に、排気と水蒸気との混合ガスである残留ガスの温度を下げ、それによって吸入される空気の重量を増加させるようにしたものであり、また請求項3及び4の発明は、図3又は4に示すように、排気行程の末期にシリンダ2内に圧縮空気を吹き込むことによって、高温排気を低温の空気で置換するようにしたものである。
【0005】
【作用】請求項1又は2の構成においては、排気行程の末期にシリンダ2内に噴霧された水滴は、シリンダ2内の高温排気から気化熱を奪って気化し、シリンダ2内に残留する水蒸気と排気との混合ガスの温度を低下させ、それにより次行程でシリンダ2内へ吸入される混合気あるいは燃焼用空気の温度上昇を低減して、その総重量を増加させることができる。また請求項3〜4の構成によれば、排気行程中のシリンダ2内の背圧よりも高い圧力で吹き込まれる圧縮空気が、すきま容積内の大部分の排気を追い出してシリンダ2内の温度を低下させるので、次行程の吸気の温度上昇を抑えてその重量を増加させることができる上に、こうして吹き込まれた空気自体も燃焼用空気として爆発に寄与し得るので、エンジン効率を一層高めることができる。
【0006】
【実施例】図1〜2は本発明を火花点火式又は圧縮着火式の4サイクルエンジンに適用した実施例を示したもので、ピストン1が摺嵌されたシリンダ2の上端面にシリンダヘッド3が被設され、このシリンダヘッド3に吸気口4、排気口5及び点火プラグ挿入口又は燃料噴射口8が設けられており、吸気口4及び排気口5にはそれぞれ吸気弁6及び排気弁7を備え、点火プラグ挿入口又は燃料噴射口8には点火プラグ又は燃料噴射ノズルが装着されている。シリンダヘッド3の点火プラグ挿入口8の近傍には水噴射ノズル9が貫設されており、この水噴射ノズル9には貯水タンク10から給水管を通して間欠的に水を供給するプランジャ型ポンプ11が接続され、このポンプ11にはクランク軸15より噴射タイミング調節器12を介して動力が伝達されて、エンジンの各排気行程の末期にシリンダ2内に水を噴霧するように調整しておく。なお水噴射ノズル9、ポンプ11及び噴射タイミング調節器13は、ディーゼルエンジンの燃料噴射用のものとほぼ同一の構造となっている。
【0007】図1(b)において、排気行程の末期にピストン1とシリンダヘッド3との間のすきま空間に残っていた高温(約700℃)の排気は、渦を巻きながら排気口5へ押し出されて行くが、この渦巻の上流側の領域αに注入された噴霧状の水滴は、周囲の排気から気化熱を奪いながら水蒸気に変化し、そのために最終的にすきま容積に残留するガスは、排気中に水蒸気を多く含んだ低温(約200℃)の混合ガスとなる。従っていま圧縮比=11すなわち行程容積をすきま容積の10倍とした場合、次行程で吸入される空気の残留ガスによる温度上昇は、(700℃−200℃)/11=46℃だけ減少し、それだけシリンダ内に押し込める混合気又は燃焼用空気の重量を増加させることになって、例えば従来34%であったエンジンの効率を35〜35.5%程度まで向上する(改善率3.0〜4.5%)ことができる。これは過給機による排熱回収効率4〜5%にも匹敵し得るものである。図2は他の実施例を示したもので、シリンダヘッド3に水噴射ノズル9を貫設する代わりに、排気口5に連設された排気マニホールド14内に、排気口5に向けて水噴射ノズル9を配設したものであり、シリンダヘッド3にスペースを取り難い場合に有効である。
【0008】図3の実施例は、冷却材として水の代わりに圧縮空気を使用したもので、シリンダヘッド3の点火プラグ挿入口8の近傍に空気噴射弁15を装着し、この空気噴射弁15に圧縮空気を供給する3乃至4kg/cm2 のコンプレッサ16を設けると共に、噴射タイミング調節器13によって空気噴射弁15をエンジンの各排気行程の末期に作動させるようにしたものである。17は空気噴射弁15が塵埃で詰まらないようにするためのフィルタである。また図4の実施例は、排気口5に連設された排気マニホールド12内に、排気口5に向けて空気噴射弁15を配設したものである。なおコンプレッサ16に供給する空気を過給機の下流側から取るようにすれば、コンプレッサ16を小型化することができる。
【0009】図3又は図4の構成によれば、排気行程中のシリンダ2内の背圧(例えば約2kg/cm2 )よりも高い圧力でシリンダ2の上部のすきま空間に吹き込まれた圧縮空気が、このすきま空間内の大部分の排気を追い出してシリンダ2内の温度を低下させるので、図1〜2の場合と同様に次行程の吸気の温度上昇による膨張を抑えてその重量を増加させることができる上に、すきま空間に吹き込まれた空気自体も燃焼に寄与し得るので、エンジン効率を一層高めることができる。
【0011】
【発明の効果】請求項1又は2の本発明によれば上述のように、排気行程の末期にシリンダ2内に水を噴霧気化させることにより、水蒸気で高温排気をできるだけ置換すると共に、すきま容積に残留する排気と水蒸気との混合ガスの温度を下げ、それによって吸入される混合気の重量を増加させて、吸気充填効率を向上し得るという利点があり、また請求項3又は4の発明によれば、排気行程末期にシリンダ2内に圧縮空気を吹き込むことによって、高温の排気を低温の空気で置換することができ、上記と同様に吸気充填効率を向上し得る上に、こうして吹き込まれた空気も燃焼用空気として爆発に寄与し得るので、エンジン効率を一層高めることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すもので,(a)は縦断面図、(b)は平面配置図。
【図2】同上の他の実施例を示すもので,(a)は縦断面図、(b)は平面配置図。
【図3】同上の更に他の実施例の要部縦断面図。
【図4】同上の更に他の実施例の要部縦断面図。
【符号の説明】
1 ピストン
2 シリンダ
3 シリンダヘッド
4 吸気口
5 排気口
6 吸気弁
7 排気弁
8 点火プラグ挿入口又は燃料噴射口
9 水噴射ノズル
10 貯水タンク
11 ポンプ
12 クランク軸
13 タイミング調節器
14 排気マニホールド
15 空気噴射弁
16 コンプレッサ
17 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ピストンが摺嵌されたシリンダの上端面にシリンダヘッドを被設し、シリンダヘッドには吸気口及び排気口と共に点火プラグ挿入口又は燃料注入口を備えた4サイクルエンジンにおいて、シリンダヘッドに水噴射ノズルを貫設すると共に、該水噴射ノズルへ間欠的に水を供給するポンプを設けて、エンジンの各排気行程の末期にシリンダ内へ水を噴射するようにして成るエンジン。
【請求項2】 ピストンが摺嵌されたシリンダの上端面にシリンダヘッドを被設し、シリンダヘッドには吸気口及び排気口と共に点火プラグ挿入口又は燃料注入口を備えた4サイクルエンジンにおいて、上記排気口に連設された排気マニホールド内に、排気口に向けて水噴射ノズルを配設すると共に、該水噴射ノズルへ間欠的に水を供給するポンプを設けて、エンジンの各排気行程の末期にシリンダ内へ水を噴射するようにして成るエンジン。
【請求項3】 ピストンが摺嵌されたシリンダの上端面にシリンダヘッドを被設し、シリンダヘッドには吸気口及び排気口と共に点火プラグ挿入口又は燃料注入口を備えた4サイクルエンジンにおいて、シリンダヘッドに空気噴射弁を貫設すると共に、該空気噴射弁に圧縮空気を供給するコンプレッサを設け、上記空気噴射弁をエンジンの各排気行程の末期に作動させるようにして成るエンジン。
【請求項4】 ピストンが摺嵌されたシリンダの上端面にシリンダヘッドを被設し、シリンダヘッドには吸気口及び排気口と共に点火プラグ挿入口又は燃料注入口を備えた4サイクルエンジンにおいて、上記排気口に連設された排気マニホールド内に、排気口に向けて空気噴射弁を配設すると共に、該空気噴射弁に圧縮空気を供給するコンプレッサを設けて、上記空気噴射弁をエンジンの各排気行程の末期に作動させるようにして成るエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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