説明

エンボス原版、エンボス原版製造方法及びホログラム製造方法

【課題】成形不良が少なく、多面付けによる大型化が容易なエンボス原版及びその製造方法を提供すること
【解決手段】第一の樹脂基材からなる支持体層1と、支持体層1上に積層された、第一の樹脂基材よりもガラス転移温度が高い第二の樹脂基材からなるエンボス成形層とを備え、凹凸構造を有する原版を第二の樹脂基材に押し付けて第二の樹脂基材表面に凹凸構造を転写するエンボス原版製造方法であって、転写形成層102に転写する凹凸構造を有する原版の凹凸構造の最大深さDに対し、転写形成層102の膜厚がD以上15D未満であり、原版を第二の樹脂基材のガラス転移温度よりも高く、前記第一の樹脂基材のガラス転移温度を超えない温度に加熱し、転写形成層102に押し当て、凹凸構造を転写してエンボス原版を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂を用いて形成するエンボス原版及びこれを用いたエンボスホログラムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラム等のように樹脂基材に数μm〜nm単位の凹凸構造を有する構造体(レリーフパターン)を形成する場合、ホログラムを形成するスタンパを製造するため、原版である凹凸構造を形成するエンボス原版が必要となる。エンボス原版は、例えば電子線描画等で形成した母型原版から樹脂基材に凹凸構造を転写して形成する。しかしながら、母型原版のサイズが限られるため、このような方法で作成できる一面版のエンボス原版のサイズは対角6インチ程度であり、大型化には限界がある。そこで、凹凸パターンを多面付けして大型化する方法が提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、多面付けの際に、次のような問題が生じる。
一つは、母型から樹脂基材に加圧して転写する際に、端部が盛り上がり(クリープ)、多面付けされた凹凸パターンの継ぎ目で成形不良を生じる点である。特許文献1では、パターンの切れ目を多面付けされる凹凸パターンの継ぎ目にすることで、成形不良を目立たなくしているが、成形不良自体は改善されない。また、特許文献2に記載されているように接着剤を用いて一面版を多面付けすると、接着幅を生じ、継ぎ目に間ができ、成形性が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3608747号
【特許文献2】特許第4573339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のような問題点を鑑み、本願発明は、成形不良が少なく、多面付けによる大型化が容易なエンボス原版及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、第一の樹脂基材からなる支持体層と、支持体層上に積層された、第一の樹脂基材よりもガラス転移温度が低い第二の樹脂基材からなるエンボス成形層とを備え、凹凸構造を有する原版を第二の樹脂基材に押し付けて第二の樹脂基材表面に凹凸構造を転写するエンボス原版製造方法であって、転写形成層に転写する凹凸構造を有する母型の凹凸構造の最大深さDに対し、転写形成層の膜厚がD以上15D未満であり、母型を第二の樹脂基材のガラス転移温度よりも高く、前記第一の樹脂基材のガラス転移温度を超えない温度に加熱し、エンボス成形層に押し当て、凹凸構造を転写することを特徴とするエンボス原版製造方法である。
請求項2に係る発明は、無機基材からなる支持体と、支持体層上に積層された、樹脂基材からなるエンボス成形層とを備え、樹脂基材表面に凹凸構造を形成するエンボス原版製造方法であって、転写形成層に転写する凹凸構造を有する母型の凹凸構造の最大深さDに対し、転写形成層の膜厚がD以上15D未満であり、母型を樹脂基材のガラス転移温度よりも高い温度に加熱し、エンボス成形層に押し当て、凹凸構造を転写することを特徴とするエンボス原版製造方法である。
請求項3に係る発明は、前記転写形成層のエンボス形成前の膜厚が、0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンボス原版製造方法である。
請求項4に係る発明は、前記原版の加熱温度と前記転写形成層を構成する樹脂のガラス転移温度の差が、25度以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のエンボス原版製造方法である。
請求項5に係る発明は、第一の樹脂基材からなる支持体層と、支持体層上に積層された、第二の樹脂基材からなる転写形成層を備えたエンボス原版であって、下記(イ)〜(ハ)の条件を満たすことを特徴とするエンボス原版である。
(イ)第一の樹脂基材のガラス転移温度が第二の樹脂基材のガラス転移温度よりも高いこと。
(ロ)第二の樹脂基材のガラス転移温度は、40度以上90度以下であること。
(ハ)転写形成層の平坦部分の膜厚が、0.5〜10μmであること。
請求項6に係る発明は、無機基材からなる支持体層と、支持体層上に積層された、樹脂基材からなる転写形成層を備えたエンボス原版であって、下記(イ)及び(ロ)の条件を満たすことを特徴とするエンボス原版である。
(イ)樹脂基材のガラス転移温度は、40度以上90度以下であること。
(ロ)転写形成層の平坦部分の膜厚が、0.5〜10μmであること。
請求項7に係る発明は、請求項5又は6に記載のエンボス原版を母型としてスタンパを製造し、該スタンパを用いて被転写体に回折効果を奏する凹凸構造を形成することを特徴とするホログラム媒体製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エンボス原版が支持体層と、転写形成層とから構成されており、母型を転写形成層を構成する樹脂基材のガラス転移温度よりも高い温度で加圧して転写成形した場合でも支持体層は変形しないので、多面付けした場合でも継ぎ目がなく、成形性の良いエンボス原版とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るエンボス原版の一実施形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係るエンボス原版製造方法の一実施形態を説明するための模式図である。
【図3】本発明に掛かる被転写体へのスタンパを用いた転写方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明に係るエンボス原版の一実施形態を示す模式図である。ただし模式図の縦横比は実際の比率を表すものではない。本発明に係るエンボス原版は、支持体層101と、支持体層上に形成された転写形成層102を備えている。転写形成層の表面には、数百nm〜数μmの深さの凹凸構造が形成されている。
【0010】
転写形成層102は、熱可塑性の樹脂で構成されている。図2に示すように、支持体層101上に形成された平坦な転写形成層201に、転写する凹凸形状が形成された原版202を取り付けた転写装置203により、原版(母型)を転写形成層を構成する樹脂のガラス転移温度以上に加熱して転写形成層に接触、加圧し、凹凸構造を転写する。
【0011】
転写形成層102を構成する樹脂としては、一般の熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的には、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等を使用することができる。特に、アクリル樹脂は、ガラス転移温度が一般的な樹脂と比較して低く、加工性が良いため成形に適している。離型性、加工性、接着性等の調整のために適宜添加物を加えることができる。なお、ガラス転移温度はアクリル高分子の分子量や添加物によって調整することができる。
【0012】
本発明では、転写形成層102と支持体層101とを積層し、転写形成層のみに凹凸構造を形成することで。成形性の向上と転写時のクリープを抑制する。転写形成層の膜厚は、平坦面部分あるいは凹凸構造形成前の膜厚が、0.5〜10μm程度であることが好ましい。転写形成層の膜厚が小さいと深い凹凸構造が転写されず、大きいとクリープが生じやすくなるためである。これは母型の凹凸構造を基準にすると、凹凸構造の最大深さDに対して、転写形成層の膜厚をD以上15D未満、より好ましくは母型が転写形成層に対して傾いた場合のバッファを考慮し、5D以上10D未満とすることが好ましい。
【0013】
転写形成層102の形成方法としては、支持体層101上に樹脂材料を含む塗液をスピンコートやスリットコート、バーコート、スクリーン印刷等を用いて塗布し、乾燥させて形成しても良いし、フィルム状の樹脂基材を用意し、支持体層に加熱圧着あるいは接着層を介して積層し形成しても良い。
【0014】
支持体層101は、転写形成層102を転写成形する際に、変形しない基材であれば特に制限はない。支持体層に用いる無機基材の例としては、アルミニウム、銅、ステンレス合金等の金属や、ガラス等の材料を挙げることができる。無機材料の場合、原版を加熱して転写形成層側から加圧しても変形しないので、エンボス原版への転写成形率が良い。なお、支持体層と転写形成層との界面の接着性の向上のために、接着層を設けたり、表面処理を行ったりしても良い。樹脂基材の例としては、転写形成層と同様に、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等を使用することができる。離型性、加工性、接着性等の調整のために適宜添加物を加えることができる。また、支持体層と転写形成層との界面の接着性の向上のために、接着層を設けたり、表面処理を行ったりしても良い。また、エンボス成形層と同種の樹脂を用いれば、エンボス成形層と支持体層の相性が良いので、接着性の向上が期待できる。樹脂基材の場合、転写形成層を構成する樹脂基材よりも高いガラス転移温度を有するものを適用することで、母型を加熱して転写形成層に押し当てた際に、支持体層を極力変形させずに転写成形することができる。特に、支持体層の樹脂基材のガラス転移温度が転写形成層の樹脂基材のガラス転移温度よりも20度以上高いことが、エンボス成形時の支持体層の変形を抑制するために好ましい。
【0015】
エンボス原版の製造方法としては、前述したように支持体層101上に転写形成層201を形成した後、原版202を取り付けた転写装置203により転写形成層表面に凹凸パターンを転写する。転写時の原版の温度Tは、転写形成層のガラス転移温度TgとするとTgよりも大きくTg+25℃以下であることが好ましい。転写形成層のガラス転移温度Tgから原版の加熱温度が大きく離れていると、加圧時のクリープが大きくなってしまうためである。凹凸構造を転写した後、原版を転写形成層に押し当てたままエンボス原版を冷却する。
【0016】
次に、母型の凹凸パターンを多面付けするため、エンボス原版上の次の転写領域に移動し、転写工程を繰り返す。支持体層又は転写形成層に形成されたアライメントマークあるいは先に転写された凹凸構造のエッジを撮像素子で捉え、次の転写領域に位置合わせを行うことができる。
【0017】
次に本発明に掛かるエンボス原版の応用例として、エンボス原版をスタンパの原版として用いたエンボスホログラム媒体の製造方法の例を説明する。エンボスホログラムの場合、エンボス原版の凹凸形状は光の回折効果を生じる回折構造のパターンである。回折構造を被転写体に転写するためのスタンパは、上述のエンボス原版を母型として、ニッケル、銅等の金属の型を取る。方法としては、電鋳法が一般的である。電鋳は処理液の中でエンボス原版上に金属を析出・堆積させるため、転写形成層の耐熱温度は電鋳中の処理温度以上である必要がある。具体的には、処理温度がおおよそ40度であるので、40度以上の耐熱性を有する必要がある。電鋳完了後、エンボス原版を出来上がった金属型から剥離し、スタンパが完成する。
【0018】
図3に示すように、スタンパ301をプレスロール302に固定し、被転写体に押し当てて凹凸形状を転写する。被転写体は少なくとも表面に熱可塑性樹脂層を供えており、当該熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上にスタンパを加熱してプレスすることで転写することができる。このように被転写体に形成された回折構造に、例えば反射金属層、保護層、接着層等を積層し、転写箔、シール等のホログラム媒体とすることができる。
【実施例】
【0019】
<実施例1>
基材厚み3.0mmのアクリル板(ガラス転移温度Tg=約110℃、三菱レーヨン製)を支持体層とし、この支持体層上にトルエンを溶媒として溶解したアクリル樹脂(ガラス転移温度Tg=約75℃、三菱レーヨン社製レジンBR60)をトルエンに溶解し、バーコートで塗布、乾燥し、3〜5μmの転写形成層を形成した。
【0020】
油圧転写機にストライプ状の母型(凹凸構造の最大深さD=0.5μm)をセットし、加熱温度85℃、転写時間5分、90秒冷却し、エンボス原版を作成した。
【0021】
<実施例2>
転写時の加熱温度を105℃とした以外は実施例1と同様の工程で、エンボス原版を作成した。
【0022】
<比較例1>
基材厚み3.0mmのアクリル板(ガラス転移温度Tg=約110℃、三菱レーヨン製)の単版を支持体層及び凹凸構造を転写形成する層とし、油圧転写機にストライプ状の母型をセットし、加熱温度115℃、転写時間5分、90秒冷却し、エンボス原版を作成した。
【0023】
<比較例2>
転写時の加熱温度を135℃とした以外は比較例1と同様の工程で、エンボス原版を作成した。
【0024】
<評価方法>
転写率は、エンボス原版表面の凹凸構造をAFM(Atomic Force Microscope)で観察し、原版に対する転写率を算出した。ここでは転写率を従来法の平均転写率87%に対して3σ(σ:標準偏差)を超える94%以上であれば良とした。また、同時にAFMで母型端部での転写で生じる段差(クリープ高さ)を計測した。段差については、16μm未満の場合に良とした。これはストライプ状のエンボス原版で作成したストライプホログラムのストライプ形状が途切れる場合に、目視で確認できる段差の境界が16μm程度であるためである。さらに第二の基準として、クリープ高さが100μmのものを△とした。段差が100μm以上になると、ストライプ形状以外のホログラムでも使用が難しいためである。
結果を下記表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1では、第一条件及び第二条件のいずれも満たすものを○、第一条件は満たすが第二条件が△、いずれの条件も満たさないものを×とした。比較例1では、クリープ高さは基準を満たすものの、転写率が悪い。比較例2では、転写温度を上げたために転写率は向上しているがクリープ高さが大幅に悪化したため、エンボス原版として不良となった。
【0027】
実施例1及び2では、支持体層と別にエンボス層を形成しているため、転写率が高く、クリープ高さを抑制したエンボス原版が作成できた。
【符号の説明】
【0028】
101・・・支持体層
102・・・転写形成層
201・・・転写形成層(エンボス加工前)
202・・・原版(母型)
203・・・転写装置
301・・・スタンパ
302・・・被転写体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の樹脂基材からなる支持体層と、支持体層上に積層された、第一の樹脂基材よりもガラス転移温度が低い第二の樹脂基材からなるエンボス成形層とを備え、凹凸構造を有する原版を第二の樹脂基材に押し付けて第二の樹脂基材表面に凹凸構造を転写するエンボス原版製造方法であって、
転写形成層に転写する凹凸構造を有する母型の凹凸構造の最大深さDに対し、転写形成層の膜厚がD以上15D未満であり、母型を第二の樹脂基材のガラス転移温度よりも高く、前記第一の樹脂基材のガラス転移温度を超えない温度に加熱し、エンボス成形層に押し当て、凹凸構造を転写することを特徴とするエンボス原版製造方法。
【請求項2】
無機基材からなる支持体と、支持体層上に積層された、樹脂基材からなるエンボス成形層とを備え、樹脂基材表面に凹凸構造を形成するエンボス原版製造方法であって、
転写形成層に転写する凹凸構造を有する母型の凹凸構造の最大深さDに対し、転写形成層の膜厚がD以上15D未満であり、母型を樹脂基材のガラス転移温度よりも高い温度に加熱し、エンボス成形層に押し当て、凹凸構造を転写することを特徴とするエンボス原版製造方法。
【請求項3】
前記転写形成層のエンボス形成前の膜厚が、0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエンボス原版製造方法。
【請求項4】
前記原版の加熱温度と前記転写形成層を構成する樹脂のガラス転移温度の差が、25度以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のエンボス原版製造方法。
【請求項5】
第一の樹脂基材からなる支持体層と、支持体層上に積層された、第二の樹脂基材からなる転写形成層を備えたエンボス原版であって、
下記(イ)〜(ハ)の条件を満たすことを特徴とするエンボス原版。
(イ)第一の樹脂基材のガラス転移温度が第二の樹脂基材のガラス転移温度よりも高いこと。
(ロ)第二の樹脂基材のガラス転移温度は、40度以上90度以下であること。
(ハ)転写形成層の平坦部分の膜厚が、0.5〜10μmであること。
【請求項6】
無機基材からなる支持体層と、支持体層上に積層された、樹脂基材からなる転写形成層を備えたエンボス原版であって、
下記(イ)及び(ロ)の条件を満たすことを特徴とするエンボス原版。
(イ)樹脂基材のガラス転移温度は、40度以上90度以下であること。
(ロ)転写形成層の平坦部分の膜厚が、0.5〜10μmであること。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のエンボス原版を母型としてスタンパを製造し、該スタンパを用いて被転写体に回折効果を奏する凹凸構造を形成することを特徴とするホログラム媒体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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